説明

防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット

【課題】野菜、花卉などの栽培に用いられる防虫ネットハウスにおいて、手数をかけることなく出入口の防虫ネットを完全に密閉し、出入口の防虫ネットからの害虫の侵入を防止することができる防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットを提供する。
【解決手段】防虫ネットを用いた防虫ネットハウスの妻面に設置する出入口の防虫ネットであって、該防虫ネットの略中央において左右へ開閉可能に縦方向のスライドファスナが取り付けられ、該防虫ネットの下縁に鉛ロープが取り付けられてなることを特徴とする防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットに関する。さらに詳しくは、本発明は、野菜、花卉などの栽培に用いられる防虫ネットハウスにおいて、手数をかけることなく出入口の防虫ネットを完全に密閉し、出入口の防虫ネットからの害虫の侵入を防止することができる防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来は露地栽培されていた野菜、花卉などの作物のハウス栽培への転換が進んでいる。植物栽培用のハウスには、展張材としてプラスチック板、シート、フィルムなどを用い、必要に応じて暖房設備を付設するいわゆるビニルハウス、展張材として防虫ネットを用いる防虫ネットハウス、ビニルハウスの一部に防虫ネットを用いたハウスなどがある。防虫ネットハウスは、通気性が良好でハウス内の蒸れを防ぎ、透光率が高いので、キュウリ、トマト、ピーマン、ネギなどの野菜や花卉類の栽培に好適に用いられている。防虫ネットハウスで栽培することにより、殺虫剤の使用回数を大幅に減少して経費を節減するとともに、作業者の健康を維持し、露地栽培に比べて生育が促進されるために、化学肥料の使用量を低減して、秀品率を向上し、安全で安心な作物を消費者に供給する環境に優しい農業を営むことが可能となる。
しかし、防虫ネットハウスの中に害虫が侵入すると、大きな被害がもたらされる。例えば、キュウリを栽培している防虫ネットハウスにアブラムシが侵入すると、アブラムシ自体による虫害のほかに、アブラムシが媒介するウイルスによってキュウリの急性萎凋症が発生し、キュウリの品質が低下し、収穫量が激減して大打撃を受ける。また、防虫ネットハウスの中には、虫媒受粉を促進するために、ミツバチ、マルハナバチなどの花粉媒介昆虫が導入されるが、防虫ネットハウスの内外の遮断が完全でないと、花粉媒介昆虫が逃げ出すという問題も生ずる。防虫ネットハウスの固定部分の防虫ネットは、その下縁を土中に埋め込んだり、大頭釘を土中に打ち込んで下縁を密閉して固定することができるが、多くは妻面に設置される出入口は、密閉することが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、野菜、花卉などの栽培に用いられる防虫ネットハウスにおいて、手数をかけることなく出入口の防虫ネットを完全に密閉し、出入口の防虫ネットからの害虫の侵入を防止することができる防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、出入口の防虫ネットの略中央に縦方向のスライドファスナを設けて左右両開きとし、左右それぞれの部分の下縁に鉛ロープを取り付けることにより、出入口の防虫ネットが鉛ロープの重さにより下方に引き下げられ、鉛ロープは柔軟なので出入口の地面に多少の凹凸があってもその形状に追随して変形し、出入口を密閉して害虫の侵入を防止し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)防虫ネットを用いた防虫ネットハウスの妻面に設置する出入口の防虫ネットであって、該防虫ネットの略中央において左右へ開閉可能に縦方向のスライドファスナが取り付けられ、該防虫ネットの下縁に鉛ロープが取り付けられてなることを特徴とする防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット、
(2)鉛ロープの重さが、1m当たり60〜200gである(1)記載の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット、及び、
(3)スライドファスナが、防虫ネットハウスの外面及び内面の両面にスライダーの取手を有する(1)記載の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットを用いることにより、野菜、花卉などの栽培に用いられる防虫ネットハウスにおいて、手数をかけることなく出入口の防虫ネットを完全に密閉し、出入口の防虫ネットからの害虫の侵入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットは、防虫ネットハウスの妻面に設置する出入口の防虫ネットであって、該防虫ネットの略中央において左右へ開閉可能に縦方向のスライドファスナが取り付けられ、該防虫ネットの下縁に鉛ロープが取り付けられてなる防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットである。
図1は、本発明の出入口の防虫ネットを取り付けた防虫ネットハウスの一態様の斜視図である。本態様の防虫ネットハウスは、メッキ鋼管にコーティングを施したいわゆる農ビ管を組み立てた骨格構造の屋根面1、側面2及び妻面3に防虫ネットが展張され、妻面に出入口4が設けられている。
本発明の出入口の防虫ネットを適用する防虫ネットハウスに特に制限はなく、骨格構造としては、例えば、農ビ管を組み立てた構造、鉄骨を組み立てた構造などを挙げることができる。展張材料としては、例えば、屋根面、側面及び妻面のすべてを防虫ネットとすることができ、あるいは、防虫ネットとプラスチックフィルム又はプラスチックシートを併用して、部分的に防虫ネットが展張された防虫ネットハウスとすることもできる。本発明に用いる防虫ネットの目合は、防ぐべき害虫の種類に応じて選択することができる。防虫ネットの目合は、通常は0.3〜4.0mmの範囲であることが好ましい。
【0007】
図2は、本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットの一態様の正面図である。本態様の防虫ネットハウスの出入口4の防虫ネットは、略中央において、左右へ開閉可能に縦方向のスライドファスナ5が取り付けられ、防虫ネットの下縁6の全幅にわたって鉛ロープが取り付けられている。防虫ネットハウスの側面及び妻面の固定部分の防虫ネットは、その下縁を土中に埋め込んだり、あるいは、大頭釘を土中に打ち込んで下縁を密閉して固定することができる。本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットは、下縁に鉛ロープが取り付けられているので、鉛ロープの重さにより防虫ネットが下方に引き下げられ、風にあおられて隙間ができるおそれがない。鉛ロープは柔軟で屈曲性があるので、地面に多少の凹凸があってもその形状に追随し、害虫が侵入する隙間が生じない。金属チェーンも柔軟で屈曲性があるが、地面の凹凸形状に追随させるためには、完全に展張せず少しゆとりを持って取り付ける必要があり、その場合、斜めの位置にすると金属チェーンは下方へ片寄り、水平位置に戻しても金属チェーンは元の状態には戻らない。鉛ロープは斜めの位置にしても下方に片寄ることがないので、安定して使用することができる。
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットの大きさに特に制限はないが、通常は高さが2.0〜2.5m、幅1.8〜3.2mで、略中央のスライドファスナで左右それぞれに0.9〜1.6mに分割されて開閉可能となることが好ましい。略中央のスライドファスナの長さにも特に制限はなく、作業者の身長や作業内容に応じて適宜選択することができるが、通常は1.8〜2.2mであることが好ましく、1.9〜2.1mであることがより好ましい。
【0008】
本発明の出入口の防虫ネットを備えた防虫ネットハウスに作業者が出入りする場合は、略中央に取り付けられたスライドファスナのスライダーを引き上げ、防虫ネットを左右に開いて出入りすることができる。出入りした後は、スライダーを引き下げてスライドファスナを閉じることが好ましい。しかし、スライドファスナを開いた状態であっても、鉛ロープの重さでスライドファスナ部分は垂直に引き下げられ、スライダーを引き上げていてもスライドファスナ部分に大きな間隙はできないので、頻繁に出入りする必要のある場合は、スライダーを引き上げたままにしておくこともできる。
本発明の出入口の防虫ネットを備えた防虫ネットハウスは、害虫の侵入が少ないので殺虫剤の使用回数を大幅に減少し、経費を節減し、作業者の健康を維持し、安全で安心な作物を収穫することができる。
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットの下縁に取り付ける鉛ロープの重さは、1m当たり60〜200gであることが好ましく、1m当たり80〜120gであることがより好ましい。鉛ロープの重さが1m当たり60g未満であると、強風の際に出入口の防虫ネットが風にあおられてめくれるおそれがある。鉛ロープの重さが1m当たり200gを超えると、出入りの作業性が悪くなるおそれがある。
【0009】
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットは、略中央に取り付けられるスライドファスナが、防虫ネットハウスの外面及び内面の両面にスライダーの取手を有することが好ましい。防虫ネットハウスの外面及び内面の両面にスライダーの取手を設けることにより、防虫ネットハウスに入ったのちに内面のスライダーの取手を利用して出入口の防虫ネットを容易に閉じ、防虫ネットハウスから出るときに、同様に内面のスライダーの取手を利用して出入口の防虫ネットを容易に開くことができる。
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットは、略中央に取り付けられるスライドファスナに務歯かくしを設けることができる。スライドファスナに務歯かくしを設けることにより、務歯(エレメント)への土砂の付着を防ぎ、土砂が付着した状態でのスライダーの移動による務歯の摩耗ないしは破損を防ぐことができる。
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットに用いる鉛ロープの構造に特に制限はないが、1本の糸に鉛のチップを数珠状に取り付け、プラスチックフィルムで被覆し、さらに丸打組物で被覆した構造であることが好ましい。図3は、本発明に用いる鉛ロープの一態様の説明図である。1本の糸7に、鉛のチップ8が数珠状に取り付けられている。鉛のチップを僅かな間隔をおいて1本の糸に取り付けることにより、糸が露出している部分は自由に曲がるので、柔軟な鉛ロープを得ることができる。鉛は軟らかく、小さい力で塑性変形するので、鉛のチップをかしめることにより、数珠状に糸に取り付けることができる。鉛は密度が大きいので、小さい鉛のチップを用いて細い鉛ロープを作製し、出入口の防虫ネットの下縁に取り付けることができる。鉛のチップ1個の重量は0.5〜1.0gであることが好ましく、0.7〜0.8gであることがより好ましい。
【0010】
1本の糸に数珠状に取り付けられた鉛のチップは、プラスチックフィルムで被覆することが好ましい。鉛のチップをプラスチックフィルムで被覆することにより、鉛のチップが外部から遮断され、鉛成分の外部への流出を防止することができる。1本の糸に数珠状に取り付けられ、プラスチックフィルムで被覆された鉛のチップは、さらに丸打組物で被覆して鉛ロープとすることが好ましい。図4は、本発明に用いる鉛ロープの一態様の部分側面図である。本態様においては、1本の糸に数珠状に取り付けられ、プラスチックフィルムで被覆された鉛のチップが、さらに丸打組物9で被覆されて鉛ロープとなっている。丸打組物は、2組の糸を斜めに交錯させて円筒状に組み合わせた布であり、伸びやすく、しなやかで丈夫で、柔軟性に富むので、地面の凹凸に追随して、出入口の防虫ネットと地面の間に害虫が入り込む隙間を作らない鉛ロープを得ることができる。鉛ロープは、軟質塩化ビニル樹脂などのシートで包み込み、軟質塩化ビニル樹脂などのシートを防虫ネットの下縁に取り付けることが好ましい。鉛のチップは、プラスチックフィルム、丸打組物、軟質塩化ビニル樹脂などのシートで三重に覆われるので、鉛成分の外部への流出を完全に防止することができる。
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットは、外部からハウス内への害虫の侵入を防止するのみならず、ハウスから外部への益虫の脱出をも防止することができる。防虫ネットハウスの中には、虫媒受粉を促進するために、ミツバチ、マルハナバチなどの花粉媒介昆虫が導入される場合があるが、本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットを用いることにより、ハウス内からこれらの益虫が逃げ出すことを防止することができる。
【実施例】
【0011】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
千葉県銚子市において、3週間の防虫試験を行った。
農ビ管を用いて、底面が1辺3.0mの正方形で、高さが2.4mの枠構造体を組み立てた。高さ2.4m、幅3.0mの防虫ネット[ダイオ化成(株)、ダイオサンシャイン(登録商標)ソフトN3330、目合0.6mm]を用い、中央に長さ2.0mのスライドファスナを縦方向に取り付け、下縁の全幅に1m当たりの重さが60gの鉛ロープを取り付けて、図2に示す形状の出入口の防虫ネットを作製した。
この出入口の防虫ネットを、上記のアルミニウムパイプ枠構造体の南面に取り付け、他の3側面と天面に防虫ネット[ダイオ化成(株)、ダイオサンシャイン(登録商標)ソフトN3330、目合0.6mm]を取り付け、3側面の防虫ネットの下縁を土中に埋め込んで、防虫試験ハウスを完成した。
7月13日に、この防虫試験ハウス内に、誘引捕殺粘着板[東海物産(株)、バグスキャン(商品名)イエロー、25cm×40cm]3枚を吊り下げて防虫試験を開始した。3週間後の8月3日に、誘引捕殺粘着板に捕殺された虫の中で、アブラムシを数えた。捕殺されたアブラムシは、3匹であった。
実施例2
出入口の防虫ネットの下縁の全幅に、1m当たりの重さが100gの鉛ロープを取り付けた以外は、実施例1と同様にして、実施例1の防虫試験ハウスに隣接して防虫試験ハウスを作製し、7月13日から8月3日まで防虫試験を行った。この間に、アブラムシは捕殺されなかった。
比較例1
出入口の防虫ネットの下縁に、鉛ロープを取り付けなかった以外は、実施例1と同様にして、実施例1の防虫試験ハウスに隣接して防虫試験ハウスを作製し、7月13日から8月3日まで防虫試験を行った。この間に捕殺されたアブラムシは、47匹であった。
実施例1〜2及び比較例1の結果を、第1表に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
第1表に見られるように、出入口の防虫ネットに鉛ロープの錘をつけない比較例1の防虫試験ハウスでは、3週間で47匹のアブラムシが侵入し、誘引捕殺粘着板で捕殺されているのに対して、出入口の防虫ネットに重さが1m当たり60gの鉛ロープを取り付けた実施例1の防虫試験ハウスでは、3週間で捕殺されたアブラムシの数は3匹であり、出入口の防虫ネットに重さが1m当たり100gの鉛ロープを取り付けた実施例2の防虫試験ハウスでは、3週間でアブラムシは1匹も捕殺されていない。
この結果から、防虫試験ハウスの中に誘引捕殺粘着板を入れておくと、出入口の防虫ネットに鉛ロープを取り付けない比較例1では、多くのアブラムシが隙間を通って侵入するのに対して、出入口の防虫ネットに鉛ロープを取り付けた実施例1と実施例2では、アブラムシが侵入する隙間が小さくなり、特に鉛ロープが軽い実施例1よりも、鉛ロープが重い実施例2の方が、防虫効果が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットを用いることにより、野菜、花卉などの栽培に用いられる防虫ネットハウスにおいて、手数をかけることなく出入口の防虫ネットを完全に密閉し、出入口の防虫ネットからの害虫の侵入を防止することができる。その結果、殺虫剤の使用回数を大幅に減少し、薬剤費を節減し、作業者の健康を維持し、安全で安心な作物を収穫することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の出入口の防虫ネットを取り付けた防虫ネットハウスの一態様の斜視図である。
【図2】本発明の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネットの一態様の正面図である。
【図3】本発明に用いる鉛ロープの一態様の説明図である。
【図4】本発明に用いる鉛ロープの一態様の部分側面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 屋根面
2 側面
3 妻面
4 出入口
5 スライドファスナ
6 防虫ネットの下縁
7 糸
8 鉛のチップ
9 丸打組物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防虫ネットを用いた防虫ネットハウスの妻面に設置する出入口の防虫ネットであって、該防虫ネットの略中央において左右へ開閉可能に縦方向のスライドファスナが取り付けられ、該防虫ネットの下縁に鉛ロープが取り付けられてなることを特徴とする防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット。
【請求項2】
鉛ロープの重さが、1m当たり60〜200gである請求項1記載の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット。
【請求項3】
スライドファスナが、防虫ネットハウスの外面及び内面の両面にスライダーの取手を有する請求項1記載の防虫ネットハウスの出入口の防虫ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−244326(P2007−244326A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74803(P2006−74803)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(390028451)ダイオ化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】