説明

防霜性包装体

【目的】 包装体で食品を密封し、冷凍貯蔵した際の着霜を防止し、しかも消霜を早める。
【構成】 包装体表面に多価アルコール又は多価アルコール誘導体からなる被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、食品を包装した状態で冷凍庫等の低温貯蔵庫に保管した際に、包装体の食品側への霜発生速度が遅く、且つ店頭等の高温下に戻した時の消霜速度が早く、食品の内容物が容易に識別できる防霜性包装体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、魚介類及び食肉等の生鮮食品は、生産地からの鮮度を保持する流通方式として、最終販売に適した個別の包装形態をとるために、プラスチック製のラップフィルム、袋、トレイ及び透明容器等の包装体に詰めて−20〜−40℃での極低温輸送及び保管方式が一般に用いられている。
【0003】そしてこれら冷凍した魚介類及び食肉等は、冷凍状態を保ったまま小売店に搬入して貯蔵され、ショウケース等を使用して店頭に並べられて一般消費者に販売されることになる。
【0004】しかしながら、生産地にて魚介類及び食肉等を詰めたプラスチック包装体は、冷凍庫等の低温貯蔵庫に入れられることにより、食品内容物からの蒸発水分及び包装時の湿度に起因する内部気層部の水蒸気が、外部からの急冷により包装体の内部表面近傍では過飽和の状態となり、包装体表面に結露すると共に氷結し霜として包装体内部表面に付着する。
【0005】このため、包装体中の食品内容物は目視による判別が難しく、流通時の選別及び消費者の購入時の品定めに支障をきたしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来これを解決する手段としては、流通時の内容物の選別及び販売のための店頭陳列に際して、包装体を5〜10℃の温度下に5〜7時間曝して表面温度を上げることにより消霜させているが、作業に長時間を要すと共に内容物が解凍を伴う温度下に曝すことにより、食品自体も部分的に温度上昇し細菌による腐敗が進行して鮮度を保持する点からも好ましくない。
【0007】一方、包装体からの解決する手段としては、外部からの急冷により包装体の内部近傍では水蒸気が過飽和の状態となることを防ぐ方法として、包装体の透湿性を上げる手段が有効であり、高透湿性のセロハンフィルム及び多孔性フィルムがあるが、前者は水溶性も併せ持つため食品との接触部で溶解し、後者は透明性及び包装体の必要性能である酸素バリアー性が低下することで、食品用透明包装体としては適当でない。
【0008】本発明は上記の問題に鑑み、食品を包装した状態での極低温処理による霜の付着速度が遅く、且つ霜が付着した状態でも高温処理による消霜速度が早い食品包装体としての機能を低下させない包装体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、包装体の表面に多価アルコール又は多価アルコール誘導体からなる被膜を形成してなることを特徴とする防霜性包装体である。
【0010】本発明に用いられる包装体とは、プラスチック製のシート、フィルム及び成形された箱体やビン等の容器であって、食品を包装した後に内容物が目視で判別できる程度の透明性を有することの他は、特に限定するものではない。
【0011】そして包装体に使用する樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリアリレート、ナイロン樹脂、AS樹脂、ABS 樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン及びポリビニルアルコール等が上げられる。
【0012】また個別包装用として使用するラップフィルム又はシートとしては、ポリエチレン及びポリ塩化ビニルが、さらに蓋付き用容器としては、ポリスチレン及びポリエチレンテレフタレートが一般的である。
【0013】そして本発明でいうポリエチレンとは、ポリエチレン単体樹脂の他、エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂及びポリブテン−1も含むものである。
【0014】本発明の包装体の原料配合は、特に限定するものでなく、また構成についても単層又は多層のいずれであっても何等限定するものではない。
【0015】さらに本発明の包装体は、透明性を損なわないものであれば、可塑剤、滑剤、着色剤、安定剤、防曇剤及び充填剤の添加並びに帯電防止剤を添加又は塗布することもできる。
【0016】次に、本発明の包装体表面に被膜として形成する多価アルコール又は多価アルコール誘導体としては、例えばオーム社発行溶剤ポケットブック(昭和49年5月発行)にて分類される、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、及びエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテルアセテート系、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系、プロピオン酸ジエステル等のエステル系、その他ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの多価アルコール誘導体を一種又は二種以上混合して用いることができるが、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンは、消霜速度の向上効果が大きく好ましい。
【0017】包装体表面に多価アルコール又は多価アルコール誘導体の被膜を形成する方法としては、スプレー式、遠心噴霧式、グラビアコート式及びバーコート式等があるが、その他の方法であっても何等差支えない。
【0018】包装体被膜の厚みは、食品内容物の種類、水分量及び包装時の温度や湿度等に影響を受けるので調節する必要はあるが、塗布厚は1μm〜10μmの範囲が望ましく、1μm未満では防霜及び消霜効果が乏しく、10μmを超えると塗布面の外観状態が低下するので使用が限定される。
【0019】また、本発明の包装体は、食品と接触する内面側のみに被膜を形成することで十分な防霜性の効果をあげることができるが、例えばフィルムの片面に多価アルコール又はその誘導体を塗布し、該フィルムを巻くことにより裏側への転写による両面への被膜となっても問題はない。
【0020】さらに、本発明の包装体は、多価アルコール又は多価アルコール誘導体との被膜密着性を向上させる目的で、予め包装体の被膜を形成する側にプラズマ及びコロナ放電処理を施したり、或いはエッチング等で表面に凹凸をつけることも可能である。
【0021】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0022】実施例1市販のポリ塩化ビニル製ラップフィルム(電気化学工業製、商品名「デンカラップ新鮮」フィルム厚15μm)の片面に、バーコーダーを使用して表1に示す厚さにエチレングリコールを塗工して被膜形成フィルムを得た。このフィルムの外観検査及び性能試験を行ない、その結果を表1に示す。
【0023】実施例2市販のポリエチレンフィルム(宇部興産製、フィルム厚13μm)、ポリエチレンテレフタレートシート(電気化学工業製、商品名「デンカAPET」フィルム厚250 μm)、ポリスチレンシート(電気化学工業製、商品名「デンカOPS 」フィルム厚130 μm)の片面にグリセリンをスプレーガン(岩田塗装機製)にて5μm塗布を行なった。これらフィルム及びシートを実施例1と同様に外観検査及び性能試験を行ない、その結果を表2に示す。
【0024】比較例1実施例1に使用した市販のポリ塩化ビニル製ラップフィルム(電気化学工業製、商品名「デンカラップ新鮮」フィルム厚15μm)のエチレングリコール未塗布処理フィルムの外観検査及び性能試験を行ない、その結果を表1に示す。
【0025】比較例2実施例2の市販のポリエチレンフィルム(宇部興産製、フィルム厚13μm)、ポリエチレンテレフタレートシート(電気化学工業製、商品名「デンカAPET」フィルム厚25μm)、ポリスチレンシート(電気化学工業製、商品名「デンカOPS」フィルム厚130 μm)のグリセリン未塗布処理フィルム及びシートの外観検査及び性能試験を行ない、その結果を表2に示す。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】尚、外観検査及び防霜・消霜の性能試験は次の如く行なった。
1.外観検査:包装体表面に多価アルコール又はその誘導体を塗布し、乾燥器を通過後の外観を指触で判定を行った。


【0029】2.防霜試験:100 mlのビーカーに水80mlを入れ、上部開口に塗布面を下にしてフィルム或いはシートをのせて密封する。これを予め−20℃に温度設定したタバイ環境試験機に入れ、指定時間におけるフィルム及びシートの霜による曇り度合いを肉眼で次の如く評価した。


【0030】3.消霜試験:100 mlのビーカーに水80mlを入れ、上部開口に塗布面を下にしてフィルム或いはシートをのせて密封する。これを予め−20℃に温度設定したタバイ環境試験機に24時間放置して着霜させる。この後、タバイ環境試験機の温度設定を5℃にすることで昇温させ、防霜試験判定の○となる時間を求めた。
【0031】
【発明の効果】本発明によるフィルム、シート及び容器等の包装体は、防霜・消霜機能を有しており、冷凍庫等の低温貯蔵における食品用包装体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 包装体表面に多価アルコール又は多価アルコール誘導体からなる被膜を形成してなる防霜性包装体。
【請求項2】 多価アルコール又は多価アルコール誘導体がエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンの群から選ばれたものである請求項1記載の防霜性包装体。

【公開番号】特開平5−42963
【公開日】平成5年(1993)2月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−216516
【出願日】平成3年(1991)8月2日
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)