説明

除染管理方法、及び、その除染管理方法に用いる除染管理装置

【課題】除染において過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じるか否かを正確に判定できるようにする。
【解決手段】気液平衡を表す次の(式1),(式2)
PT・y1=P01・x1・γ1 ………(式1)
PT・y2=P02・x2・γ2 ………(式2)
がともに成立する解有りの状態が存在したとき、過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素蒸気を除染対象室に供給して除染対象室の室内を除染するのに用いる除染管理方法、並びに、その除染管理方法に用いる除染管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素蒸気を用いた除染については、除染対象室に供給した過酸化水素蒸気を室内で凝縮させる湿式除染(ウエット法)と、除染対象室に供給した過酸化水素蒸気を凝縮させずに気相のままで室内に存在させる乾式除染(ドライ法)とがある。
【0003】
そして、湿式除染は乾式除染に比べ短い除染時間でも高い除染効果が得られる反面、過酸化水素蒸気の凝縮液により室内物質が化学的ないし物理的に変質するような悪影響を受ける場合には適用できず、逆に、乾式除染では湿式除染に比べ除染効果が低く、また、そのことで長い除染時間を要するものの、室内物質に対する悪影響が少ない利点がある。
【0004】
このような過酸化水素蒸気を用いた除染に関して、特許文献1(特に請求項1及び段落0066〜段落0067)には、過酸化水素蒸気の室内凝縮を凝縮センサにより監視し、その監視情報に基づき過酸化水素蒸気の室内凝縮が消失に至ったときの室内過酸化水素濃度を特定して、その特定濃度状態で室内を除染する乾式の除染方法が開示されている。…(従来例1)
【0005】
また、同特許文献1(特に段落0009)には、室内過酸化水素濃度を徐々に高める途中で、過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じない範囲内にある所望の室内過酸化水素濃度を特定し、その特定濃度状態で室内を除染する乾式の除染方法も開示されている。…(従来例2)
【0006】
これに対し、特許文献2(特に段落0067)には、凝縮センサにより過酸化水素蒸気の凝縮量を監視して、その監視情報に基づき室内に対する過酸化水素蒸気の供給量を調整する湿式の除染方法が開示されている。…(従来例3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−288527号公報
【特許文献2】特開2005−143725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した従来例1,2の乾式除染では、室内過酸化水素濃度を特定濃度に維持するにもかかわらず、室内の温湿度状態などによって過酸化水素蒸気の室内凝縮を不測に招いてしまうなど、条件変化に対する対応性が低い問題がある。
【0009】
また、従来例1の如く室内で生じる過酸化水素蒸気の凝縮を凝縮センサにより監視するのでは、室内の局部で生じた凝縮を見逃すなど室内の全体を精度よく監視することが難しくて監視誤差が生じ易く、それが原因で濃度特定に誤差が生じて不測の室内凝縮を招く問題もある。
【0010】
一方、従来例3の湿式除湿では、凝縮センサの監視情報に基づき過酸化水素蒸気の供給量を調整するものの、上記の如く凝縮センサによる凝縮状態の監視では室内の全体を精度良く監視することが難しくて監視誤差が生じ易い為、それが原因で過酸化水素蒸気の供給量調整に誤差が生じ、そのことで過酸化水素蒸気の凝縮が室内に存在しなくなる非凝縮状態を不測に招く問題がある。
【0011】
そして殊に、過酸化水素蒸気を用いた除染では、過酸化水素蒸気が自己分解し易いため、また、その自己分解で生じる水成分により室内湿度も変化してしまうため、上記の如き問題が生じ易い。
【0012】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じるか否かを合理的に判定することで、乾式除染及び湿式除染のいずれにしても所望の除染状態を的確かつ安定的に得られるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1特徴構成は除染管理方法に係り、その特徴は、
除染対象室における室内温湿度と室内過酸化水素濃度とに基づいて、
その室内温湿度状態での除染対象室における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、
その室内温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01)、及び、その室内温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02)を求める条件設定ステップと、
この条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01),(P02)を代入する次の(式1),(式2)において、
PT・y1=P01・x1・γ1 ………(式1)
PT・y2=P02・x2・γ2 ………(式2)
次の(式3)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1),(式2)を演算する演算ステップと、
この演算ステップにおいて、
(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定する判定ステップとを有する点にある。
【0014】
つまり、気液平衡状態を表す上記の式1,式2(参照:http://www.joryu.jp/index.htm 「気液平衡とは」)が共に成立することは、その成立時の条件である室内温湿度及び室内過酸化水素濃度において、成立した式1,式2で表される気液平衡状態(即ち、図3に示す如く気相と液相とが室内に存在する状態)が生じることを意味する。
【0015】
このことから、上記第1特徴構成の除染管理方法では、演算ステップで過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2の夫々を仮定的に順次に変化させて式1、式2を演算し、この演算ステップにおいて式1,式2が共に成立する解有りの状態が存在したとき、除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮(即ち、液相)が生じると判定し、また、式1,式2が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮(液相)が生じないと判定する。
【0016】
即ち、この管理方法であれば、条件としての室内温湿度と室内過酸化水素濃度とを特定するだけで、先述の如き監視誤差が生じ易い凝縮センサを用いた凝縮監視などに比べ、過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じるか否かを室内の全体についてより精度良くかつ安定的に判定することができる。
【0017】
従って、この判定結果に基づき室内温湿度や室内過酸化水素濃度を調整すれば、乾式除染では過酸化水素蒸気の室内凝縮が不測に生じることを確実に回避して良好な乾式除染を的確かつ安定的に実施することができ、また、湿式除染では過酸化水素蒸気の凝縮が室内に存在しなくなる非凝縮状態が不測に生じることを確実に回避して良好な湿式除染を的確かつ安定的に実施することができる。
【0018】
なお、第1特徴構成の除染管理方法は、条件である室内温湿度や室内過酸化水素濃度を仮定や演算などにより種々変化させた場合の夫々についての判定結果に基づいて、実際の除染運転で採用する最適な室内温湿度や最適な室内過酸化水素濃度を選定するシミュレート的な使用形態、あるいは、実際の除染運転において室内温湿度の測定値や室内過酸化水素濃度の測定値を条件とした判定結果に基づき、室内温湿度や室内過酸化水素濃度をリアルタイムで逐次調整する運転オペレート的な使用形態など、上記効果を期待できる使用形態であれば、どのような使用形態で使用してもよい。
【0019】
また、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係については、各種文献に示されている既存のデータ(図5参照)を利用すればよい。
【0020】
そしてまた、第1特徴構成の実施にあたり、演算ステップにおいて過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1),(式2)を演算するには、それと実質的に同じ演算として(式3)の条件の下で水成分の液相モル分率x2を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ水成分の活量係数γ2、過酸化水素水成分の液相モル分率x1、過酸化水素成分の活量係数γ1を順次変化させて(式1),(式2)を演算するようにしてもよい。これについては、後記の第6特徴構成、及び、第7特徴構成における演算ステップについても同様である。
【0021】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
除染ガス発生手段で過酸化水素水から発生させた過酸化水素蒸気を所定温湿度のキャリア空気に合流させて除染ガス供給路を通じ除染対象室に供給することに対して、
前記室内湿度は、前記除染ガス発生手段で過酸化水素水から過酸化水素蒸気を発生させるのに伴い発生する過酸化水素水中の水成分からなる水蒸気の発生量、及び、前記除染ガス発生手段での過酸化水素蒸気の発生直後の自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて演算する点にある。
【0022】
つまり、過酸化水素水から過酸化水素蒸気を発生させる際には、原剤である過酸化水素水中の水成分からなる水蒸気も発生し、その発生水蒸気は、発生過酸化酸素蒸気とともにキャリア空気に合流されて除染対象室に供給されることで除染対象室における室内湿度の変化要因になる。
【0023】
また、過酸化水素蒸気の水と酸素とへの自己分解は過酸化水素蒸気の発生直後から生じ、この自己分解で生じる水蒸気も発生過酸化酸素蒸気とともにキャリア空気に合流されて除染対象室に供給されることで除染対象室における室内湿度の変化要因になる。
【0024】
従って、上記演算モデルを用いて室内湿度を演算する第2特徴構成によれば、原剤である過酸化水素水中の水成分からなる水蒸気の影響、及び、過酸化水素蒸気の発生直後の自己分解で生じる水蒸気の影響も加味した状態で、室内湿度を正確に演算することができ、その分、前記の条件設定ステップと演算ステップと判定ステップとからなる室内凝縮判定の判定精度を一層高いものにすることができる。
【0025】
なお、第2特徴構成の実施において、室内温度及び室内過酸化水素濃度については仮定値、演算値、測定値のいずれを用いてもよい。
【0026】
本発明の第3特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
除染対象室に過酸化水素蒸気を供給するのに併行して、前記条件設定ステップと前記演算ステップと前記判定ステップとからなる室内凝縮判定を設定微小時間ごとに繰り返す点にある。
【0027】
つまり、この構成によれば、除染対象室に過酸化水素蒸気を供給する工程において、除染対象室の室内温湿度や室内過酸化水素濃度が逐次変化することに対しても、各時点について過酸化水素蒸気の室内凝縮が生じるか否かを正確に判定することができ、これにより、乾式除染において不測に過酸化水素蒸気の室内凝縮を招くことや、湿式除染において不測に過酸化水素蒸気の非凝縮状態を招くことを一層確実に回避することができる。
【0028】
本発明の第4特徴構成は、第3特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
各回の前記室内凝縮判定ごとに前記室内湿度を演算するのに、除染対象室での過酸化水素蒸気の経時的自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて前記室内湿度を演算する点にある。
【0029】
つまり、除染対象室に供給された過酸化水素蒸気は時間経過に伴い水と酸素とに自己分解し、この経時的な自己分解で発生する水蒸気は除染対象室における室内湿度の変化要因になる。
【0030】
従って、設定微小時間間隔での各回の室内凝縮判定ごとに上記演算モデルを用いて室内湿度を演算する第4特徴構成によれば、室内における過酸化水素上記の経時的な自己分解で発生する水蒸気の影響も加味した状態で室内湿度を正確に演算することができ、その分、各回の室内凝縮判定の判定精度を一層高いものにすることができる。
【0031】
なお、第4特徴構成の実施において、各回の室内凝縮判定ごとの室内温度及び室内過酸化水素濃度については仮定値、演算値、測定値のいずれを用いてもよい。
【0032】
本発明の第5特徴構成は、第1〜第4特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記判定ステップで過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定したとき、前記演算ステップにおいて前記(式1),(式2)がともに成立したときの代入値を用いて、凝縮後における除染対象室の室内過酸化水素濃度又は室内凝縮液の過酸化水素濃度又は室内凝縮液量又は室内凝縮液の液膜厚さのうちの少なくとも1つを算出する点にある。
【0033】
つまり、この第5特徴構成によれば、特に湿式除染において除染対象室の室内除染状態をより綿密に判定することができ、その綿密な判定結果に基づいて室内温湿度や室内過酸化水素濃度を調整することで、所望の除染状態を一層的確かつ安定的に得ることができる。
【0034】
本発明の第6特徴構成は、第1〜第5特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
除染ガス発生手段で過酸化水素水から発生させた過酸化水素蒸気を所定温湿度のキャリア空気に合流させて除染ガス供給路を通じ除染対象室に供給することに対して、
その除染ガス供給路における路内温湿度と路内過酸化水素濃度とに基づいて、
その路内温湿度状態での除染ガス供給路における過酸化水素蒸気圧(PT′・y1′)及び水蒸気圧(PT′・y2′)を求めるとともに、
その路内温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01′)、及び、その路内温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02′)を求めるガス路用の条件設定ステップと、
このガス路用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT′・y1′),(PT′・y2′)及び各飽和蒸気圧(P01′),(P02′)を代入する次の(式1′),(式2′)において、
PT′・y1′=P01′・x1・γ1 ………(式1′)
PT′・y2′=P02′・x2・γ2 ………(式2′)
次の(式3′)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3′)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで逐次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を逐次変化させて(式1′),(式2′)を演算するガス路用の演算ステップと、
このガス路用の演算ステップにおいて、
(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染ガス供給路の路内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染ガス供給路の路内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定するガス路用の判定ステップとを有する点にある。
【0035】
つまり、条件によっては、除染ガス発生手段で発生させた過酸化水素蒸気をキャリア空気に乗せて除染対象室に供給する除染ガス供給路の路内で過酸化水素蒸気の凝縮が生じる場合もあるが、このような路内凝縮は乾式除染及び湿式除染のいずれにしても一般的には不要であり、また、このような路内凝縮は除染対象室における室内湿度や室内過酸化水素濃度の変化要因にもなる。
【0036】
これに対し、上記第6特徴構成であれば、除染対象室の室内で過酸化水素蒸気の凝縮が生じるか否かを前記第1特徴構成の室内凝縮判定により判定するのと同様にして、除染ガス供給路の路内で過酸化水素蒸気の凝縮が生じるか否かについても正確に判定することができる。
【0037】
従って、この判定結果に基づいて除染ガス供給路における路内温湿度や路内過酸化水素濃度を調整すれば、除染ガス供給路の路内での過酸化水素蒸気の凝縮を確実に回避することができて、そのような路内凝縮の発生に原因する除染対象室での室内湿度の変化や室内過酸化水素濃度の変化を防止することができ、その分、乾式除染及び湿式除除染のいずれにしても所望の室内除染状態を一層的確かつ安定的に得ることができる。
【0038】
本発明の第7特徴構成は、第1〜第6特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
除染対象室における室内温湿度と室内過酸化水素濃度とに基づいて、
その室内温湿度状態での除染対象室における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、
除染対象室における室内物体の表面温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01″)、及び、その表面温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02″)を求める物体表面用の条件設定ステップと、
この物体表面用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01″),(P02″)を代入する次の(式1″),(式2″)において、
PT・y1=P01″・x1・γ1 ………(式1″)
PT・y2=P02″・x2・γ2 ………(式2″)
次の(式3″)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3″)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1″),(式2″)を演算する物体表面用の演算ステップと、
この物体表面用の演算ステップにおいて、
(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染対象室における室内物体の表面において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染対象室における室内物体の表面において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定する物体表面用の判定ステップとを有する点にある。
【0039】
つまり、除染対象室の室内にある物体(室壁や天井あるいは床なども含む)の表面温度によっては、その物体の表面で局部的に過酸化水素蒸気の凝縮が生じたり、また逆に、その物体の表面だけが局部的に過酸化水素蒸気の凝縮のない非凝縮状態になることもある。
【0040】
これに対し、上記第7特徴構成によれば、除染対象室の室内で過酸化水素蒸気の凝縮が生じるか否かを前記第1特徴構成の室内凝縮判定により判定するのと同様にして、判定対象とする室内物体の表面で過酸化水素蒸気の凝縮が生じるか否かについても正確に判定することができる。
【0041】
従って、この判定結果に基づいて室内温湿度や室内過酸化水素濃度を調整すれば、また可能な場合は室内物体の表面温度を調整すれば、乾式除染では、いずれかの室内物体の表面において過酸化水素蒸気の凝縮が局部的に生じることを確実に回避することができ、また、湿式除染では、いずれかの室内物体の表面だけが局部的に過酸化水素蒸気の凝縮のない非凝縮状態になることを確実に回避することができ、これにより、乾式除染及び湿式除除染のいずれにしても所望の室内除染状態を一層的確かつ安定的に得ることができる。
【0042】
なお、第1特徴構成による室内凝縮判定の実施において必要に応じ第2〜第5特徴構成のいずれかを併用するのと同様、第6特徴構成によるガス路用の凝縮判定や第7特徴構成による物体表面用の凝縮判定を実施する場合、必要に応じ第2〜第5特徴構成のいずれかと相当の構成を併用するのが望ましい。
【0043】
即ち、第6特徴構成によるガス路用の凝縮判定や第7特徴構成による物体表面用の凝縮判定において、
除染ガス発生手段で過酸化水素水から発生させた過酸化水素蒸気を所定温湿度のキャリア空気に合流させて除染ガス供給路を通じ除染対象室に供給することに対し、
除染ガス供給路の路内湿度や除染対象室の室内湿度は、前記除染ガス発生手段で過酸化水素水から過酸化水素蒸気を発生させるのに伴い発生する過酸化水素水中の水成分からなる水蒸気の発生量、及び、前記除染ガス発生手段での過酸化水素蒸気の発生直後の自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて演算するようにしてもよい。
【0044】
また、除染対象室に過酸化水素蒸気を供給するのに併行して、ガス路用や物体表面用の各ステップとからなるガス路用や物体表面用の凝縮判定を設定微小時間ごとに繰り返すようにしてもよい。
【0045】
また、その場合、物体表面用の凝縮判定については、各回の物体表面用の凝縮判定ごとに除染対象室の室内湿度を演算するのに、除染対象室での過酸化水素蒸気の経時的自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて前記室内湿度を演算するようにしてもよい。
【0046】
さらに、ガス路用や物体表面用の判定ステップで過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定したとき、ガス路用や物体表面用の演算ステップにおいて式1′,式2′あるいは式1″、式2″がともに成立したとき代入値を用いて、凝縮後のガス路や物体表面における過酸化水素濃度又はガス路や物体表面における凝縮液の過酸化水素濃度又はガス路や物体表面における凝縮液量又はガス路や物体表面における凝縮液の液膜厚さのうちの少なくとも1つを算出するようにしてもよい。
【0047】
上記の各式において、PTは除染対象室の気相全圧、y1は除染対象室における過酸化水素成分の気相モル分率、y2は除染対象室における水成分の気相モル分率、PT′は除染ガス供給路の気相全圧、y1′は除染ガス路における過酸化水素成分の気相モル分率、y2′は除染ガス供給路における水成分の気相モル分率である。
【0048】
本発明の第8特徴構成は、第1〜第7特徴構成のいずれかによる除染管理方法の実施に用いる除染管理装置に係り、その特徴は、
前記条件設定ステップと前記演算ステップと前記判定ステップとを自動的に実行して、その判定ステップでの判定結果を出力する自動判定手段を備えている点にある。
【0049】
つまり、この第8特徴構成の除染管理装置であれば、上記自動判定手段による各ステップの自動的な実行及び出力により、第1特徴構成の除染管理方法による室内凝縮判定を容易かつ迅速に行うことができる。
【0050】
なお、第8特徴構成の除染管理装置を実施において、必要であれば第2〜第7特徴構成なども管理制御手段により自動的に実行するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】除染システムのシステム構成図
【図2】除染運転における各工程の流れを示す工程図
【図3】除染対象室の室内状態を示す模式図
【図4】凝縮判定の流れを示すフローチャート
【図5】液相モル濃度と活量係数との相関を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は除染システムを示し、1は外気導入路2を通じて導入する外気OAを温湿度調整して設定温湿度(温度tcs,湿度xcs)のキャリア空気CAを生成するキャリア空気生成用の空調機である。
【0053】
3は液タンク4から給液路5を通じて供給される過酸化水素水Hwを蒸発させて過酸化水素蒸気Hvを発生させる除染ガス発生手段としての過酸化水素蒸気発生器である。
【0054】
即ち、この除染システムでは、過酸化水素蒸気発生器3で発生させた過酸化水素蒸気Hvを設定温湿度tcs,xcsのキャリア空気CAに合流させて除染ガス路6を通じ除染対象室7に供給することで、除染対象室7の室内を除染する。
【0055】
8は除染ガス路6からのキャリア空気CAの供給に伴い、外気導入路2からの外気導入量に等しい量の室内空気RAを除染対象室Lから外部に排出する排気路、また、9は除染対象室7の室内空気RAを循環させる循環路であり、この循環路9には循環室内空気RAを加熱するヒータ10を装備してある。
【0056】
そして、過酸化水素蒸気Hvを除染対象室7の室内で凝縮させない乾式除染を主に除染運転を説明すると次の通りである。
【0057】
図2に示すように、過酸化水素蒸気Hvの供給により除染対象室7の室内を除染する除染運転は準備工程と立上工程と除染工程と終了工程とからなり、準備工程では除染対象室7に対する通常空調運転を終了した後、過酸化水素蒸気Hvを未だ発生させない状態で設定温湿度tcs,xcsのキャリア空気CAを除染ガス路6を通じて除染対象室7に供給する。
【0058】
即ち、このキャリア空気CAのみの供給により、除染対象室7の室内温湿度(温度tr,湿度xr)を除染に適した設定室内温湿度trs,xrsに調整するとともに、除染ガス路6をその路内において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じない温度に調整する。
【0059】
なお、この準備工程において必要であれば、キャリア空気CAの供給に伴いヒータ10の運転下で除染対象室7における室内空気RAの一部を循環路9を通じて循環させる。
【0060】
準備工程に続く立上工程では、過酸化水素蒸気発生器3において大量の過酸化水素蒸気Hvを発生させて、その発生過酸化水素蒸気Hvをキャリア空気CAに合流させ、これにより、過酸化水素濃度を高くしたキャリア空気CAを除染対象室7に供給して、除染対象室7の室内過酸化水素濃度drを上記の設定室内温湿度状態trs,xrsの下で除染用の設定室内過酸化水素濃度drsまで早期に高める。
【0061】
立上工程に続く除染工程では、立上工程時よりも過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生量Gvを減少側に調整し、除染対象室7の室内過酸化水素濃度drを立上工程で高めた除染用の設定室内過酸化水素濃度drsに所定除染時間Tにわたって保持するように、濃度センサ11による検出室内過酸化水素濃度drに基づき過酸化水素蒸気発生器3に対する過酸化水素水Hwの供給量を調整して過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生量Gvを調整する。
【0062】
所定除染時間Tとしては、除染用の設定室内過酸化水素濃度drsの下で菌が完全に死滅するのに要する必要時間を実験等により求め、その必要時間にある程度の安全率を見込んだ時間を予め設定してある。
【0063】
所定除染時間Tが経過すると除染工程から終了工程に移り、この終了工程では、過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生を終了した状態で、復帰用設定温湿度tsc′,xcs′のキャリア空気CAを供給して、過酸化水素蒸気Hvを含む除染対象室7の室内空気RAを排気路8を通じ外部に排出し、これにより、除染対象室7における過酸化水素濃度drを人間に害のない限界濃度(例えば1ppm)まで低下させるとともに、除染対象室7の室内温湿度tr,xrを通常の室内温湿度trs′,xrs′に戻す。
【0064】
12は上記の工程からなる除染運転を自動的に実行する除染運転制御装置であり、この除染運転制御装置14は、キャリア空気CAの温湿度tc,xcを検出するキャリア空気用の温湿度センサ13、除染対象室7の室内温湿度tr,xrを検出する除染対象室用の温湿度センサ14、及び、上記濃度センサ11夫々の検出情報に基づき除染運転プログラムに従ってキャリア空気生成用の空調機1、過酸化水素蒸気発生器3、ヒータ10、並びに、各風路に装備のファンFを自動制御する。
【0065】
また、この除染運転制御装置12には、上記の除染運転をシミュレートして、そのシミュレート上で除染対象室7の除染状態などを自動的に判定する自動判定手段としての機能を備えさせてあり、この判定結果に基づいて除染運転プログラムにおけるキャリア空気CAの設定温湿度tcs,xcsや除染対象室7の設定室内温湿度trs,xrsなどを決定する。
【0066】
具体的には、この自動判定機能として除染運転制御装置12は下記(イ)〜(ニ)の処理を自動的に行なうものにしてある。
【0067】
(イ)過酸化水素蒸気Hvを除染対象室7に供給する立上工程及び除染工程の夫々について、設定微小時間ΔTごとの各時点における除染対象室7の室内温湿度tr,xrと室内過酸化水素濃度dr、及び、設定微小時間ΔTごとの各時点における除染ガス供給路6の路内温湿度tk,rkと路内過酸化水素濃度dkを演算モデルMを用いて仮想的に演算する。
【0068】
この演算に用いる演算モデルMは、キャリア空気CAの設定温湿度tcs,xcs、キャリア空気CAの風量Q、過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生量Gv、過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生に伴い発生する過酸化水素水Hw中の水成分からなら水蒸気Saの発生量Gsa、過酸化水素蒸気発生器3での過酸化水素蒸気Hvの発生直後の自己分解により生じる水蒸気Sbの発生量Gsb、除染対象室7での過酸化水素蒸気Hvの経時的自己分解で生じる水蒸気Scの発生量Gsc、除染対象室7の初期温湿度tra,xra、除染対象室7の室内容積Vなどをパラメータとして、室内温湿度tr,xr、室内過酸化水素濃度dr、路内温湿度tk,rk、路内過酸化水素濃度dkを演算するものである。
【0069】
即ち、この演算モデルMは、過酸化水素蒸気Hvの発生に伴い発生する過酸化水素水Hw中の水成分からなる水蒸気Sa、過酸化水素蒸気Hvの発生直後の自己分解により生じる水蒸気Sb、並びに、除染対象室7での過酸化水素蒸気Hvの経時的自己分解で生じる水蒸気Scを加味して湿度演算を行なうものにしてある。
【0070】
なお、この演算は、立上工程及び除染工程の夫々において過酸化水素蒸気Hv及び水水蒸気Sa,Sbを含むキャリア空気CAが除染対象室7に供給されることに対する設定微小時間ΔTごとの室内温湿度tr,xrの変化及び室内過酸化水素濃度drの変化を過酸化水素蒸気Hvの凝縮がないものとして仮想的に計算するものである。
【0071】
(ロ)立上工程及び除染工程の夫々について上記の設定微小時間ΔTごとに、除染対象室7の室内で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じるか否かを判定する室内凝縮判定を繰り返す。(図3,図4参照)
【0072】
各回の室内凝縮判定では、先ず、演算モデルMにより演算した各時点における除染対象室7の室内温湿度tr,xrと室内過酸化水素濃度drとに基づいて、その室内温湿度状態tr,xrでの除染対象室7における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、その室内温度trで過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01)、及び、その室内温度trで水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02)を求める条件設定ステップを実行する。
【0073】
次いで、この条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01),(P02)を代入する次の(式1),(式2)において、
PT・y1=P01・x1・γ1 ………(式1)
PT・y2=P02・x2・γ2 ………(式2)
次の(式3)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3)
かつ、図5に示す如き過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係Lh、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係Lwに従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1),(式2)を演算する演算ステップを実行する。
【0074】
そして、判定ステップとして、上記の演算ステップにおいて、(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、除染対象室7の室内において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定し、一方、(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、除染対象室7の室内において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じないと判定する。
【0075】
また、この判定ステップにおいて除染対象室7の室内で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定した場合には、演算ステップにおいて(式1),(式2)がともに成立したときの(式1),(式2)に対する代入値を用いて、凝縮後における除染対象室7の室内過酸化水素濃度dr、室内凝縮液の過酸化水素濃度、室内凝縮液量、室内凝縮液の液膜厚さなどを演算して記録する。
【0076】
(ハ)立上工程及び除染工程の夫々について上記の設定微小時間ΔTごとに、除染ガス供給路6の路内で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じるか否かを判定するガス路用の凝縮判定を繰り返す。
【0077】
各回のガス路用の凝縮判定では、先ず、演算モデルMにより演算した各時点における除染ガス供給路6の路内温湿度tk,xkと路内過酸化水素濃度dkとに基づいて、その路内温湿度状態tk,xkでの除染ガス供給路6における過酸化水素蒸気圧(PT′・y1′)及び水蒸気圧(PT′・y2′)を求めるとともに、その路内温度tkで過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01′)、及び、その路内温度tkで水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02′)を求めるガス路用の条件設定ステップを実行する。
【0078】
次いで、このガス路用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT′・y1′),(PT′・y2′)及び各飽和蒸気圧(P01′),(P02′)を代入する次の(式1′),(式2′)において、
PT′・y1′=P01′・x1・γ1 ………(式1′)
PT′・y2′=P02′・x2・γ2 ………(式2′)
次の(式3′)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3′)
かつ、図5に示す如き過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係Lh、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係Lwに従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで逐次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を逐次変化させて(式1′),(式2′)を演算するガス路用の演算ステップを実行する。
【0079】
そして、ガス路用の判定ステップとして、上記のガス路用の逐次演算ステップにおいて、(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、除染ガス供給路6の路内において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定し、一方、(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、除染ガス供給路6の路内において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じないと判定する。
【0080】
また、このガス路用の判定ステップにおいて除染ガス供給路6の路内で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定した場合には、ガス路用の演算ステップにおいて(式1′),(式2′)がともに成立したときの(式1′),(式2′)に対する代入値を用いて、凝縮後における除染ガス供給路6の路内過酸化水素濃度dk、路内凝縮液の過酸化水素濃度、路内凝縮液量、路内凝縮液の液膜厚さなどを演算して記録する。
【0081】
(ニ)立上工程及び除染工程の夫々について上記の設定微小時間ΔTごとに、除染対象室7における室内物質の表面で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じるか否かを判定する物体表面用の凝縮判定を繰り返す。
【0082】
各回の物体表面用の凝縮判定では、先ず、演算モデルMにより演算した各時点における除染対象室7の室内温湿度tr,xrと室内過酸化水素濃度drとに基づいて、その室内温湿度状態tr、xrでの除染対象室7における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、除染対象室7における判定対象室内物体の表面温度tmで過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01″)、及び、その表面温度tmで水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02″)を求める物体表面用の条件設定ステップを実行する。
【0083】
次いで、この物体表面用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01″),(P02″)を代入する次の(式1″),(式2″)において、
PT・y1=P01″・x1・γ1 ………(式1″)
PT・y2=P02″・x2・γ2 ………(式2″)
次の(式3″)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3″)
かつ、図5に示す如き過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係Lh、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係Lwに従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1″),(式2″)を演算する物体表面用の演算ステップを実行する。
【0084】
そして、物体表面用の判定ステップとして、上記の物体表面用の演算ステップにおいて、(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、除染対象室7における判定対象室内物体の表面において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定し、一方、(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、除染対象室7における判定対象室内物体の表面において過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じないと判定する。
【0085】
この物体表面用の判定ステップにおいて除染対象室7における判定対象室内物体の表面で過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定した場合には、物体表面用の演算ステップにおいて(式1″),(式2″)がともに成立したときの(式1″),(式2″)に対する代入値を用いて、凝縮後の室内物体表面における過酸化水素濃度dr、室内物体表面における凝縮液の過酸化水素濃度、室内物体表面における凝縮液量、室内物体表面における凝縮液の液膜厚さなどを演算して記録する。
【0086】
以上の(イ)〜(ニ)の処理からなる除染状態判定をキャリア空気CAの温湿度tc,xcや過酸化水素蒸気Hvの発生量Gvなどの運転条件を変化させて繰り返すことにより、除染対象室7の室内で過酸化水素蒸気Hvを凝縮させない乾式除染の場合には、(ロ)の室内凝縮判定、(ハ)のガス路用の凝縮判定、(ニ)の物体表面用の凝縮判定のいずれにおいても過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じないと判定され、かつ、所望の室内過酸化水素濃度trが得られる最適な乾式除染状態を特定する。
【0087】
そして、このような最適な乾式除染状態が上記(イ)〜(ニ)の処理からなる除染状態判定で得られたときのキャリア空気CAの温湿度tc,xcや除染対象室7の室内温湿度tr,xr及び室内過酸化水素濃度drを除染運転プログラムにおけるキャリア空気CAの設定温湿度tcs,xcsや除染対象室7の設定室内温湿度trs,xrs及び設定室内過酸化水素濃度drsとして採用する。
【0088】
一方、除染対象室7の室内で過酸化水素蒸気Hvの凝縮を生じさせる湿式除染の場合について説明すると次の通りである。
【0089】
つまり、(ハ)のガス路用の凝縮判定では過酸化水素蒸気Hvの路内凝縮が生じないと判定されて、(イ)の室内凝縮判定及び(ニ)の物体表面用の凝縮判定では過酸化水素蒸気Hvの凝縮が生じると判定され、かつ、その凝縮後の室内過酸化水素濃度dr及び室内物体表面における凝縮液の過酸化水素濃度や液膜厚さが所望のものとなる最適な湿式除染状態を特定する。
【0090】
そして、乾式除染の場合と同様、このような最適な湿式除染状態が上記(イ)〜(ニ)の処理からなる除染状態判定で得られたときのキャリア空気CAの温湿度tc,xcや除染対象室7の室内温湿度tr,xr及び室内過酸化水素濃度dr(凝縮後)を除染運転プログラムにおけるキャリア空気CAの設定温湿度tcs,xcsや除染対象室7の設定室内温湿度trs,xrs及び設定室内過酸化水素濃度drsとして採用する。
【0091】
即ち、このように除染運転のシミュレート結果に基づき各設定値を決定することで、除染運転制御装置12による前述の如き自動除染運転において、乾式除染では過酸化水素蒸気Hvの室内凝縮が不測に生じることを確実に回避して良好な乾式除染が的確かつ安定的に実施されるようにし、また、湿式除染では過酸化水素蒸気Hvの凝縮が室内に存在しなくなる非凝縮状態が不測に生じることを確実に回避して良好な湿式除染が的確かつ安定的に実施されるようにする。
【0092】
〔別実施形態〕
次に本発明の別の実施形態を列記する。
【0093】
前述の実施形態では、除染運転を自動的に実行する除染運転制御装置12に、除染運転のシミュレートにより除染対象室7の除染状態などを自動的に判定する自動判定手段としての機能を備えさせる例を示したが、これに代え、この自動判定機能を除染運転制御装置12とは別の専用管理装置に備えさせるようにしてもよい。
【0094】
また、前述の実施形態では、除染運転のシミュレートにおいて(イ)〜(ニ)の処理からなる除染状態判定を行い、その判定結果に基づいて実際の除染運転で採用するキャリア空気CAの設定温湿度tcs,xcsや除染対象室7の設定室内温湿度trs、xrs及び設定室内過酸化水素濃度drsなどを選定する例を示したが、これに代え、あるいは、これに加え、実際の除染運転に併行して室内温湿度tr、xr、室内過酸化水素濃度dr、路内温湿度tk,xk、路内過酸化水素濃度dk、室内物体の表面温度tmなどを測定し、そして、その測定値に対して(ロ)の室内凝縮判定や(ハ)のガス路用の凝縮判定、並びに、(ニ)の物体表面用の凝縮判定などを実行して、それらの判定結果に基づきリアルタイムにキャリア空気CAの温湿度tc,xcや除染対象室7の室内温湿度tr、xr、あるいは、除染対象室7の室内過酸化水素濃度drなどを逐次調整するようにしてもよい。
【0095】
前述の実施形態では、演算ステップ、ガス路用の演算ステップ、物体表面用の演算ステップにおいて、過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1)、(式2)、(式1′)、(式2′)、(式1″)、(式2″)を演算するようにしたが、これと実質的に同じ演算として(式3)の条件の下で水成分の液相モル分率x2を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ水成分の活量係数γ2、過酸化水素水成分の液相モル分率x1、過酸化水素成分の活量係数γ1を順次変化させて(式1),(式2)(式1′)、(式2′)、(式1″)、(式2″)を演算するようにしてもよい。
【0096】
また、この際の過酸化水素成分の液相モル分率x1や水成分の液相モル分率x2の一回あたりの変化量は小さい方が高い判定精度を得ることができるが、演算の負担等も考慮して適当な量を選定すればよい。
【0097】
除染対象室7は医薬品の製造室などを初め、室内除染を要する部屋であれば、どのような使用目的の部屋であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は各種分野における種々の使用目的の室内空間に対して実施する除染に適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
7 除染対象室
tr 室内温度
xr 室内湿度
dr 室内過酸化水素濃度
PT・y1 室内過酸化水素蒸気圧
PT・y2 室内水蒸気圧
P01 室内温度での飽和過酸化水素蒸気圧
P02 室内温度での飽和水蒸気圧
x1 過酸化水素成分の液相モル分率
γ1 過酸化水素成分の活量係数
x2 水成分液相モル分率
γ2 水成分の活量係数
Lh 相関関係
Lw 相関関係
3 除染ガス発生手段
Hw 過酸化水素水
Hv 過酸化水素蒸気
CA キャリア空気
tcs キャリア空気の温度
xcs キャリア空気の湿度
6 除染ガス供給路
Sa 水蒸気
Gsa 発生量
Sb 水蒸気
Gsb 発生量
Sc 水蒸気
Gsc 発生量
M 演算モデル
ΔT 設定微小時間
tk 路内温湿
tx 路内湿度
dk 路内過酸化水素濃度
PT′・y1′ 路内過酸化水素蒸気圧
PT′・y2 路内水蒸気圧
P01′ 路内温度での飽和過酸化水素蒸気圧
P02′ 路内温度での飽和水蒸気圧
tm 表面温度
P01″ 表面温度での飽和過酸化水素蒸気圧
P02″ 表面温度での飽和水蒸気圧
12 自動判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染対象室における室内温湿度と室内過酸化水素濃度とに基づいて、
その室内温湿度状態での除染対象室における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、
その室内温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01)、及び、その室内温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02)を求める条件設定ステップと、
この条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01),(P02)を代入する次の(式1),(式2)において、
PT・y1=P01・x1・γ1 ………(式1)
PT・y2=P02・x2・γ2 ………(式2)
次の(式3)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1),(式2)を演算する演算ステップと、
この演算ステップにおいて、
(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1),(式2)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染対象室の室内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定する判定ステップとを有する除染管理方法。
【請求項2】
除染ガス発生手段で過酸化水素水から発生させた過酸化水素蒸気を所定温湿度のキャリア空気に合流させて除染ガス供給路を通じ除染対象室に供給することに対して、
前記室内湿度は、前記除染ガス発生手段で過酸化水素水から過酸化水素蒸気を発生させるのに伴い発生する過酸化水素水中の水成分からなる水蒸気の発生量、及び、前記除染ガス発生手段での過酸化水素蒸気の発生直後の自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて演算する請求項1記載の除染管理方法。
【請求項3】
除染対象室に過酸化水素蒸気を供給するのに併行して、前記条件設定ステップと前記演算ステップと前記判定ステップとからなる室内凝縮判定を設定微小時間ごとに繰り返す請求項1又は2記載の除染管理方法。
【請求項4】
各回の前記室内凝縮判定ごとに前記室内湿度を演算するのに、除染対象室での過酸化水素蒸気の経時的自己分解で生じる水蒸気の発生量をパラメータとして含む演算モデルを用いて前記室内湿度を演算する請求項3記載の除染管理方法。
【請求項5】
前記判定ステップで過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定したとき、前記演算ステップにおいて前記(式1),(式2)がともに成立したときの代入値を用いて、凝縮後における除染対象室の室内過酸化水素濃度又は室内凝縮液の過酸化水素濃度又は室内凝縮液量又は室内凝縮液の液膜厚さのうちの少なくとも1つを算出する請求項1〜4のいずれか1項に記載の除染管理方法。
【請求項6】
除染ガス発生手段で過酸化水素水から発生させた過酸化水素蒸気を所定温湿度のキャリア空気に合流させて除染ガス供給路を通じ除染対象室に供給することに対して、
その除染ガス供給路における路内温湿度と路内過酸化水素濃度とに基づいて、
その路内温湿度状態での除染ガス供給路における過酸化水素蒸気圧(PT′・y1′)及び水蒸気圧(PT′・y2′)を求めるとともに、
その路内温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01′)、及び、その路内温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02′)を求めるガス路用の条件設定ステップと、
このガス路用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT′・y1′),(PT′・y2′)及び各飽和蒸気圧(P01′),(P02′)を代入する次の(式1′),(式2′)において、
PT′・y1′=P01′・x1・γ1 ………(式1′)
PT′・y2′=P02′・x2・γ2 ………(式2′)
次の(式3′)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3′)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで逐次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を逐次変化させて(式1′),(式2′)を演算するガス路用の演算ステップと、
このガス路用の演算ステップにおいて、
(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染ガス供給路の路内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1′),(式2′)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染ガス供給路の路内において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定するガス路用の判定ステップとを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の除染管理方法。
【請求項7】
除染対象室における室内温湿度と室内過酸化水素濃度とに基づいて、
その室内温湿度状態での除染対象室における過酸化水素蒸気圧(PT・y1)及び水蒸気圧(PT・y2)を求めるとともに、
除染対象室における室内物体の表面温度で過酸化水素成分のみが存在するときの飽和過酸化水素蒸気圧(P01″)、及び、その表面温度で水成分のみが存在するときの飽和水蒸気圧(P02″)を求める物体表面用の条件設定ステップと、
この物体表面用の条件設定ステップで求めた各蒸気圧(PT・y1),(PT・y2)及び各飽和蒸気圧(P01″),(P02″)を代入する次の(式1″),(式2″)において、
PT・y1=P01″・x1・γ1 ………(式1″)
PT・y2=P02″・x2・γ2 ………(式2″)
次の(式3″)の条件の下で、
x1+x2=1 ………(式3″)
かつ、過酸化水素成分についての液相モル分率x1と活量係数γ1との相関関係、及び、水成分についての液相モル分率x2と活量係数γ2との相関関係に従い、
過酸化水素成分の液相モル分率x1を0〜1まで順次変化させるとともに、その変化に応じ過酸化水素成分の活量係数γ1、水成分の液相モル分率x2、水成分の活量係数γ2を順次変化させて(式1″),(式2″)を演算する物体表面用の演算ステップと、
この物体表面用の演算ステップにおいて、
(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在したとき、その除染対象室における室内物体の表面において過酸化水素蒸気の凝縮が生じると判定し、
(式1″),(式2″)が共に成立する解有りの状態が存在しなかったとき、その除染対象室における室内物体の表面において過酸化水素蒸気の凝縮が生じないと判定する物体表面用の判定ステップとを有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の除染管理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の除染管理方法に用いる除染管理装置であって、
前記条件設定ステップと前記演算ステップと前記判定ステップとを自動的に実行して、その判定ステップでの判定結果を出力する自動判定手段を備えている除染管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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