説明

除電装置

【課題】放電電極の汚れや腐食が少なく、長期に亘って良好な放電特性を維持可能なことを課題とする。
【解決手段】印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極21〜24と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極60と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段10とを備える除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除電装置に関し、除電対象物に正負のイオンを照射することにより電気的に中性にする除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造ラインや携帯電話等のセル生産工程等では、部品の帯電が原因の静電気障害や静電吸着を防ぐため、作業台やコンベア等の近傍に除電装置が配置されている。こうした製造現場で使用される除電装置には、正又は負の電荷が全体的或いは部分的に過剰となり、電荷が不均一な状態にある除電対象物(部品)に対して、正及び又は負のイオンを放出(照射)して電気的に中和するものがあるが、この種の除電装置では電極針の汚れや腐食によってイオンの発生能力が経時的に低下するという問題があった。
【0003】
この点、従来は、放電用電極に加える正のパルス信号と負のパルス信号との間に電圧を印加しない休止期間を設けることにより電極の汚れや摩耗の進行を低減させる除電装置が知られている(特許文献1)。また、この除電装置では、休止期間に入る前の電極に逆極性の短いパルス信号を印加することにより該電極に残る残留電圧を中和させることも行われる。
【特許文献1】特開2003−86393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、放電電極に加える正のパルス信号と負のパルス信号との間に電圧を印加しない休止期間を設ける方式であると、トータルのイオン発生量が減少してしまい、除電能力が低下する。
【0005】
また、休止期間に入る前の電極に逆極性の短いパルス信号を加えて残留電圧を急速に中和する方式であると、電界(イオン風)の急速な消滅により電極近辺の残留イオンを押し出す(及び、対向電極側に引きつける)力が急速に消滅し、放電部空間に荷電粒子やイオンが残留し易くなる。
【0006】
しかも、その後、十分な休止期間を置かないでこの電極に逆極性の電圧を印加してしまうと、電極の近辺に残留する逆極性の荷電粒子やイオンを吸着してしまう可能性もあり、電極が汚れたり腐食したりする原因となっていた。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、放電電極の汚れや腐食が少なく、長期に亘って良好な放電特性を維持可能な除電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の態様による除電装置は、印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させるものである。
【0009】
本第1の発明では、放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させることにより、この期間では、新たなイオンの発生は次第に減少すると共に、これらのイオンは気流と電界とによって対向電極の側に効率よく運ばれる結果、印加電圧が略0Vになる時点では電極近辺に残留するイオンは一掃されている。このため、その後この電極に速やかに逆極性の直流高電圧を印加しても前回の残留イオン等を該電極側に引き戻すことは無い。従って、本発明によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、この種の放電電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0010】
また本発明の第2の態様による除電装置は、上記前提となる除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加する正又は負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させるものである。
【0011】
本第2の発明では、放電電極に印加する正又は負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させることにより、該電極周囲における電界の反転を緩やかに進めると共に、この期間の前半部では前回のイオンを気流により一掃し、その後半部では次回のイオンの発生を徐々に増加させる。そして、次回(逆極性)の印加電圧がピークに達する時点では、もはや前回生成された残留イオン等を電極側に引き戻すことは無い。従って、本発明によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、この種の放電電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0012】
また本発明の第3の態様による除電装置は、上記前提となる除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させ、かつ前記放電電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させるものである。
【0013】
本第3の発明では、前回の印加電圧を緩やかに減少させ、かつ次回の印加電圧を緩やかに増大させることにより、このつなぎの期間を利用することで、前回生成した残留イオン等の一掃と、次回に生成するイオンの緩やかな増加とを比較的短い時間内で効率良く行える。従って、放電電極に前回の残留イオン等が付着することは無い。従って、本発明によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、この種の放電電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0014】
また本発明の第4の態様による除電装置は、上記前提となる除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させるものである。
【0015】
本第4の発明では、放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させることにより、この期間では、新たなイオンの発生は段階的に減少すると共に、これらのイオンは気流と電界とによって対向電極の側に効率よく運ばれる結果、印加電圧が0Vになる時点では電極近辺に残留するイオン等は一掃されている。このため、その後この電極に速やかに逆極性の直流高電圧を印加しても前回の残留イオン等を該電極側に引き戻すことは無い。従って、本発明によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、この種の放電電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0016】
また本発明の第5の態様による除電装置は、上記前提となる除電装置において、前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した負の直流高電圧のみの少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させるものである。
【0017】
本発明者は、正の高電圧が印加されている電極(特に針先)の近辺に−イオンが存在(残留)していると針先の腐食が加速されることに気付き、これを回避可能な構成を見い出した。即ち、本第5の発明では、放電電極に印加した負の直流高電圧のみの少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させるため、その後該電極に正の直流高電圧を印加する時点ではもはや電極の周囲には−イオンは残留していない。従って、本発明によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、この種の放電電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0018】
本発明の第6の態様では、空気の流れ方向と直交する面に複数の放電電極が並列に設けられたことを更に特徴とする。従って、除電対象物により多くのイオンを照射できる。
【0019】
本発明の第7の態様では、前記高電圧発生手段は、相隣接する放電電極同士を2組のグループに分け、各グループの放電電極に対して互いに逆極性の直流高電圧を引加することを更に特徴とする。従って、除電対象物におけるイオンバランスを良好な状態に保てる。なお、イオンバランスとは、イオン照射後の除電対象物における残留電位が0Vからどの程度離れているかを表す指標である。
【0020】
本発明の第8の態様では、複数の通風孔を有する対向電極が前記放電電極より所定間隔離れた空気の流れ方向と直交する面に設けられたことを更に特徴とする。この種の対向電極は、放電電極におけるイオンの発生を安定化させる機能と、この放電電極に人の手が触れないようにガードする機能とを兼ね備える。
【発明の効果】
【0021】
以上述べた如く本発明によれば、トータルのイオンの発生量を減少させることもなく、放電電極の汚れや腐食が少なくなり、経時変化の少ない寿命の長い除電装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明に好適なる実施の形態を詳細に説明する。図1は実施の形態による除電装置1の概略構成図であり、図1(A)は除電装置1の側面図、図1(B)は放電部20の正面図である。この除電装置1は、送風用のファン30と、正と負の直流高電圧を生成可能な高電圧発生部10と、印加された直流高電圧の極性に応じて正と負の除電イオンを生成する放電部20と、該放電部の放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極60とを備える。70は外部の除電対象物である。
【0023】
高電圧発生部10は、所定時間毎に極性が正と負に反転する直流高電圧Aと、その逆極性の直流高電圧Bとを同時に発生し、これらを放電部20の針電極21、23の組と22、24の組とにそれぞれ加える。このような高電圧発生部10は、図示しないが、昇圧用のトランスと、その2次巻線回路に接続した正極性と負極性の整流回路であって、それぞれのコンデンサに蓄える電荷の充/放電速度を変更可能に構成することで得られる。
【0024】
より具体的には、例えば、昇圧用のトランスと、該トランスの1次電流をON/OFF制御する充電スイッチと、該トランス出力の2次電流を整流するダイオードと、該トランス出力の2次電圧を繰り返し充電することにより充電電圧を段階的(実質緩やかに)に増加可能なコンデンサと、該コンデンサの出力電圧を抵抗を介して段階的(実質緩やかに)に放電可能な放電スイッチとにより構成できる。このような高電圧発生部10を用いた直流高電圧の印加制御については後述する。
【0025】
一例の針電極21〜24は、図1(B)に示す如く、それぞれの先端部が矩形枠の中心方向に向くよう4つの対角上に配置されている。このうち、先端部が相対向する針電極の組に同一極性の直流高電圧を印加する。これにより、針電極21、23の組が正イオンを生成する間、針電極22、24の組では負イオンを生成し、また針電極21、23の組が負イオンを生成する間、針電極22、24の組では正イオンを生成することになる。
【0026】
対向電極60は、空気の流れ方向と垂直な面に多数の通風孔を有するような導電性部材により構成される。例えば、ハニカム構造のハニカム電極、金網構造のメッシュ電極、リング状の金属電極を同心円上に配置したリング状電極等が用いられる。この対向電極60は、保護抵抗Rbを介して接地されており、針電極21〜24におけるイオンの発生を安定化させる機能と、この針電極に人の手が触れないようにガードする機能とを兼ね備える。
【0027】
また、針電極21〜24と対向電極60との間の距離をM、相隣接する針電極21と22、22と23等の針先間の距離をK(例えばK=40mm〜120mm程度)とする場合に、好ましくは、M<Kとなるように選ぶことにより各針電極で発生した正と負のイオンを距離の短い対向電極60の側に向かって飛ばすことができる。また、針電極21〜24から除電対象物70までの距離をLとすると、相隣接する針電極間の距離Kは、放電部20で発生した正と負のイオンが除電対象物70において略均一に混ざり合うことを考慮して、例えば、K=L/5〜L/4程度に選ばれる。
【0028】
次に、上記の高電圧発生部10を使用することで、針電極21〜24に幾パターンかの高電圧印加制御を行う場合を具体的に説明する。図2は第1の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させる場合を示している。
【0029】
図において、S1は高電圧発生部10で生成する正極性と負極性の高電圧出力を切り替える極性切替信号、S2は充電スイッチに加える充電制御信号、S3は放電スイッチに加える放電制御信号である。高電圧発生部10においては、充電制御信号S2のパルス幅を制御することにより、トランスの1次巻線に蓄えられる電磁エネルギーを所望の大きさに制御できるため、これに伴い1回の2次巻線出力でコンデンサに蓄えられる電荷Q(即ち、電圧ΔV=Q/Cの大きさ)も所望に制御できる。従って、充電制御信号S2のパルス幅と発生間隔とを制御することによりコンデンサの充電電圧を急峻に上昇させることも、或いは緩やかに上昇させることも可能となる。放電制御信号S3についても同様である。
【0030】
図2の最初の半サイクルでは、極性切替信号S1=0(ローレベル)により針電極21、23には正の直流高電圧が印加され、針電極22,24には負の直流高電圧が印加される。更に、この半サイクルの先端部では大きな1次電流に基づく高電圧を密に発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を速やかに立ち上(立ち下)げる。そして、所定時間この状態を維持した後、この半サイクルの後半部では狭いパルス幅の放電制御信号S3を所定時間置きに発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を緩やかに立ち下(立ち上)げる。次の半サイクルでは極性切替信号S1=1(ハイレベル)により針電極21、23と22、24に印加する電圧の極性を反転する。
【0031】
次に針電極21、23におけるイオンの生成動作を説明する。最初の半サイクルでは、当初より針電極21、23に正の直流高電圧+V2(例えば+5kV)を印加することにより該針電極21、23からより多くの+イオンを発生する。所定時間この状態を維持した後、次にこの印加電圧を+V1(例えば+3kV)になるまで緩やかに下げると、この区間では新たな+イオンの発生は次第に少なくなると共に、これらの+イオンは気流と電界とによって対向電極60の側に運ばれる。しかも、この区間では前に発生した+イオンが後から発生する+イオンによって後ろ側から押される作用も加わるため、電極近辺に残留する+の荷電粒子や+イオン(以下、これらをまとめて+イオン等と称す)は速やかに対向電極60の側に移動する。
【0032】
更に、この電極電圧が+V1を下回った時点では新たな+イオンの生成は停止しており、その後は針電極21、23の近辺に残留する+イオン等が気流と電界によって対向電極60の側に速やかに運ばれる。その結果、印加電圧が略0Vになった時点では針電極21、23の周囲空間からは+イオン等が一掃されており、電気的に中性となっている。
【0033】
次の半サイクルでは、針電極21、23に当初より負の直流高電圧−V2(例えば−5kV)を印加することにより該針電極21、23からより多くの−イオンを発生する。この時点では針電極21、23の近辺には+イオン等は残留していないため、当初より−V2を印加しても針先に+イオン等を付着しないばかりか、当初より−V2を印加することによってより多くの−イオンを発生できる。所定時間この状態を維持した後、次にこの電圧を−V1(例えば−3kV)になるまで緩やかに上げると、この区間では新たな−イオンの発生は次第に少なくなると共に、これらの−イオンは気流と電界とによって対向電極60の側に運ばれる。しかも、この区間では前に発生した−イオンが後から発生する−イオンによって後ろ側から押される作用も加わるため、電極近辺に残留する−の荷電粒子や−イオン(以下、これらをまとめて−イオン等と称す)は速やかに対向電極60の側に移動する。
【0034】
更に、この電極電圧が−V1を上回った時点では新たな−イオンの生成は停止しており、その後は針電極21、23の近辺に残留する−イオン等が気流と電界によって対向電極60の側に速やかに運ばれる。その結果、印加電圧が略0Vになった時点では針電極21、23の周囲空間からは−イオン等が一掃されており、電気的に中性となっている。以下、このような状態を繰り返す。
【0035】
一方、針電極22、24に対しては上記とは逆極性の直流高電圧が印加され、上記と同様にして上記とは逆極性のイオンを発生する。なお、これらの場合に、針電極21,23と22,24の組に緩やかに変化するような電圧を印加する時間については、針電極近辺の残留イオン等が一掃される時間を多数の実験によりに数多く求め、例えばこれらを平均化することで容易に得られる。
【0036】
好ましくは、上記のような1サイクル分の高電圧印加制御を10Hz〜100Hzの範囲内で繰り返し実行することにより除電対象物70においては良好なイオンバランスが得られる。この点については、以下の他の各実施の形態についても同様である。
【0037】
本第1の実施の形態では、針電極21〜24に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させることにより、この期間を利用して針電極の近辺に残留する荷電粒子やイオンを効率よく一掃できると共に、その後速やかに逆極性の直流高電圧を印加しても前回の残留イオン等を針電極側に引き戻すことは無く、よって、本第1の実施の形態によれば、トータルのイオンの発生量を減少させることもなく、針電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0038】
なお、上記第1の実施の形態では、針電極21〜24に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させる場合を述べたが、これに限らない。針電極21〜24に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させるように構成しても、電極の汚れを防止する効果が得られる。
【0039】
また、上記第1の実施の形態では電極電圧を直線的に減少させたが、曲線的に減少させても良い。
【0040】
図3は第2の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させる場合を示している。最初の半サイクルでは、当初より比較的狭いパルス幅の充電制御信号S2を所定時間置きに発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を緩やかに立ち上(立ち下)げる。また、この半サイクルの後端部では広いパルス幅の放電制御信号S3を発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を速やかに立ち下(立ち上)げる。次の半サイクルでは極性切替信号S1=1により針電極21、23と針電極22、24とに印加する直流高電圧の極性を反転する。
【0041】
次に針電極21、23におけるイオンの生成動作を説明する。最初の半サイクルでは針電極21、23の印加電圧が正の直流高電圧+V2(例えば+5kV)に向けて緩やかに増加することにより、該針電極21、23では印加電圧が+V1(例えば+3kV)を上回るまでの区間では+イオンを発生しないと共に、この区間では不図示の前の半サイクルで生成された−イオン等が気流に乗って対向電極の側に運ばれる。更に、印加電圧が+V1を上回った後は+イオンの発生が次第に多くなると共に、この時点では前の半サイクルで生成された−イオン等は針電極21、23の近辺からは一掃されているため、針電極21、23に付着することは無い。これにより、針電極21、23が汚れたり腐食したりすることを有効に防止できる。そして、この印加電圧が+V2に達した時点では+イオンを最大限に発生すると共に、この状態を所定時間維持した後、印加電圧を速やかに略0Vにまで下げる。このように、本第2の実施の形態では、半サイクルの後端部まで+V2を印加することによってより多くの+イオンを発生できる。
【0042】
次の半サイクルでは、針電極21、23の印加電圧が負の直流高電圧−V2(例えば−5kV)に向けて緩やかに低下することにより、この区間では前の半サイクルで発生された+イオン等の一掃と、これに続いて発生する−イオンの増加とについて上記と同様のことが行われる。
【0043】
一方、針電極22、24に対しては上記とは逆極性の直流高電圧が同時に印加され、上記と同様にして上記とは逆極性のイオンを発生する。なお、これらの場合に、針電極21,23や22,24の組に緩やかに変化する電圧を印加する時間については、針電極近辺に残留するイオン等が一掃される時間を多数の実験によりに数多く求め、例えばこれらを平均化することで容易に得られる。
【0044】
本第2の実施の形態では、針電極21〜24に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させることにより、この緩やかな増加区間を利用することで針電極21〜24の近辺に残留するような前回の荷電粒子やイオンを一掃できると共に、その後、この印加電圧がピークに達した時点では、もはや前の半サイクルで発生されたような残留イオン等を針電極の側に引き戻すことは無い。よって、本第2の実施の形態によれば、トータルのイオンの発生量を減少させることもなく、針電極を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0045】
なお、上記第2の実施の形態では、針電極21〜24に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させる場合を述べたが、これに限らない。針電極21〜24に印加する正又は負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させるように構成しても、汚れを防止する効果が得られる。
【0046】
図4は第3の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部をやや速やかに増加させ、かつ該針電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部をやや速やかに減少させる場合を示している。
【0047】
最初の半サイクルでは当初より比較的狭いパルス幅の充電制御信号S2を比較的密に発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧をやや速やかに立ち上(立ち下)げる。またこの半サイクルの後半部では比較的狭いパルス幅の放電制御信号S3を比較的密に発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧をやや速やかに立ち下(立ち上)げる。次の半サイクルでは極性切替信号S1=1により針電極21、23の組と22、24の組とに印加する直流高電圧の極性を反転する。
【0048】
次に針電極21、23におけるイオンの生成動作を説明する。但し、ここでは最初の半サイクルの後半部と次の半サイクルの前半部の動作について説明する。最初の半サイクルの後半部ではすでに針電極21、23に+V2が印加されていることで+イオンを最大限に発生すると共に、この状態が所定時間続いた後、印加電圧が略0Vに向けてやや速やかに下がる。
【0049】
これにより、印加電圧が+V1を下回るまでの区間では針電極21、23からの新たな+イオンの発生は比較的速やかに少なくなると共に、これらの+イオンは気流と電界とによって対向電極60の側に運ばれる。しかも、この区間では前に発生した+イオンが後から発生する+イオンによって後ろ側から押される作用も加わることで電極近辺の+イオン等は速やかに対向電極60の側に移動する。
【0050】
更に、この印加電圧が+V1を下回った時点では新たな+イオンの生成は停止しており、その後は針電極21、23の近辺に残留する+イオン等が気流と電界とによって対向電極60の側に運ばれる。その結果、印加電圧が略0Vになった時点では針電極21、23の周囲空間からは+イオン等の殆どが一掃されており、電気的に略中性となっている。
【0051】
次の半サイクルでは針電極21、23の印加電圧が負の直流高電圧−V2に向けてやや速やかに低下することにより、印加電圧が−V1になるまでは針電極21、23は−イオンを発生しないと共に、この区間では前の半サイクルで生成された+イオン等が気流に乗って対向電極の側に運ばれることで針電極21、23の周囲からは一掃されることになる。更に、印加電圧が−V1を下回った後は−イオンの発生が比較的速やかに多くなると共に、この時点では前の半サイクルで生成された+イオン等は針電極21、23の周囲からは一掃されているため、針電極21、23に付着することはない。これにより、針電極21、23が汚れたり腐食したりすることを有効に防止できる。以上のことは、針電極22、24についても同様である。
【0052】
本第3の実施の形態では、前回の印加電圧をやや速やかに減少させ、かつ次回の印加電圧をやや速やかに増大させることにより、このつなぎの期間を利用することで、前回生成した残留イオン等の一掃と、次回に生成する逆極性イオンの緩やかな増加とを比較的短い時間内で効率良く行える。従って、放電電極に前回の残留イオン等が付着することは無い。従って、本実施の形態によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、針電極21〜24を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0053】
図5は第4の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させる場合を示している。図において、±V2は正負のイオンを発生可能な電圧(例えば±5kV)、±V1は正負のイオンを発生しない電圧(例えば±3kV)である。
【0054】
最初の半サイクルでは当初より大きな1次電流に基づく高電圧を密に発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を速やかに立ち上(立ち下)げる。そして、所定時間この状態を維持した後、この半サイクルの後半部では比較的広いパルス幅の放電制御信号S3を例えば2回に分けて発生することにより針電極21、23(22、24)の印加電圧を2段階に分けて立ち下(立ち上)げる。次の半サイクルでは極性切替信号S1を反転することで針電極21、23の組と22、24の組に印加する電圧の極性を反転する。
【0055】
次に針電極21、23におけるイオンの生成動作を説明する。最初の半サイクルでは当初より+V2を印加することでより多くの+イオンを発生する。所定時間この状態を維持した後、次にこの印加電圧を+V1にまで速やか(段階的)に下げると、この時点から新たな+イオンの発生は停止すると共に、針電極21、23の近辺に残留する荷電粒子や+イオンは気流とバイアス電圧+V1に基づく一様な電界とによって対向電極60の側に速やかに移動する。更に、所定時間この状態を維持した後、次にこの印加電圧を略0Vにまで下げると、この時点では針電極21、23の近辺からは+イオン等は一掃されており、電気的に中性となっている。
【0056】
次の半サイクルでは、針電極21、23に当初より−V2を印加することでより多くの−イオンを発生すると共に、この時点では針電極21、23の近辺には、もはや+イオン等は残留していないため、当初より−V2を印加しても針電極21、23には+イオン等を付着することはない。更に、所定時間この状態を維持した後、次にこの印加電圧を−V1と略0Vにまで段階的に上げると、この時点では針電極21、23の近辺からは−イオン等は一掃されており、電気的に中性となっている。
【0057】
一方、針電極22、24については、上記とは逆極性の直流高電圧が印加されることにより上記とは逆極性のイオン生成動作が行われる。
【0058】
本第4の実施の形態では、正と負の直流高電圧の後半部にコロナ発生未満の直流高電圧±V1を安定に印加することで、針電極近辺に残留する荷電粒子や残留イオンを効率よく一掃できると共に、引き続き逆極性の直流高電圧を当初より印加しても、該電極が前回の残留イオン等を引き戻すことは無い。従って、本実施の形態によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、針電極21〜24を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0059】
なお、図示しないが、針電極21〜24に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を段階的に増加させ、かつ該針電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させるように構成しても良い。
【0060】
また、上記第4の実施の形態では、針電極21〜24に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させる場合を述べたが、これに限らない。針電極21〜24に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させるように構成しても、汚れや腐食を防止する効果が得られる。
【0061】
また、上記第4の実施の形態では電極電圧を2段階で減少させたが、3段階以上で減少させても良い。
【0062】
図6は第5の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極に正弦波状に変化する高電圧を印加する場合を示している。ここでは、CPU11が充電スイッチ16や放電スイッチ17,19に加える制御信号S2、S3のパルス幅やパルス間隔を様々に制御することで所望波形の直流高電圧を生成可能となる一例を正弦波の場合で示す。
【0063】
最初の半サイクルでは当初より充電制御信号S2のパルス間隔を次第に広げることで正弦波高電圧の前半部(位相0〜π/2)を生成する。またこの半サイクルの後半部では放電制御信号S3のパルス間隔を次第に狭めることで正弦波高電圧の後半部(位相π/2〜π)を生成する。次の半サイクルでは極性切替信号S1を反転させた状態で上記と同様にして逆極性の正弦波高電圧(位相π〜2π)を生成する。
【0064】
本第5の実施の形態では、針電極に正弦波状に変化する高電圧を印加することにより所謂交流方式に相当する除電イオンを生成できる。また、その周波数を自由に調整できると共に、各半サイクルの間に電圧を印可しない休止期間を設けることも容易に可能となる。
【0065】
ところで、本発明者は、正の高電圧が印加されている針先の近辺に−イオンが存在すると針先の腐食が加速されることに気付き、これを回避可能な構成を見い出した。次にこれを説明する。
【0066】
図7は第6の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートで、針電極21,23の組に印加した負の直流高電圧のみの少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させる場合を示している。針先の汚れは、正の直流高電圧を印加した針先の近辺に−イオンが存在すると発生し易いことから、ここでは針電極21,23に負の直流高電圧を加えたときのみ、その後半部を緩やかに減少させている。なお、本第6の実施の形態ではトランスとその制御信号を2系統設けることで正と負で異なる波形の直流高電圧を独立に生成可能となっている。図において、S4は負極性高電圧出力のための充電制御信号、S5は同じく放電制御信号である。
【0067】
最初の半サイクルでは、極性切替信号S1=0とすると共に、充電制御信号S2により速やかに立ち上げた印加電圧+V2を所定時間維持して後、放電制御信号S3により速やかに0Vまで低下させる。次の半サイクルでは、極性切替信号S1=1とすると共に、充電制御信号S4により速やかに立ち下げた印加電圧−V2を所定時間維持して後、放電制御信号S5により緩やかに略0Vまで上昇させる。
【0068】
本第6の実施の形態では、針電極21,23に印加した負の直流高電圧の後半部のみを緩やかに減少させることにより、この期間を利用して、針電極21,23の近辺に残留する−の荷電粒子や−イオンを効率よく一掃できると共に、その後速やかに正の直流高電圧を印加しても−の残留イオン等を針電極側に引き戻すことは無い。従って、本実施の形態によればトータルのイオンの発生量を減少させることもなく、針電極21、23を長期間に亘って汚れや腐食から有効に保護できる。
【0069】
なお、負の直流高電圧の後半部のみを段階的に減少させてもよい。或いは、負の直流高電圧と正の直流高電圧との間にのみ略0Vを印加するような休止期間を設けても良い。
【0070】
また、上記各実施の形態では直流高電圧±V1や±V2の大きさが同一となる例を述べたが、これに限らない。一般には負イオンの方が正イオンよりも低電圧で発生する傾向にあるため、イオンバランスを取る場合は、正負の直流電圧V1、V2をそれぞれ所用に設定可能とする。
【0071】
また、上記各実施の形態では放電電極に針電極21〜24を使用したが、本発明は線電極にも適用可能である。
【0072】
また、上記各実施の形態では具体的な数値例を伴って説明したが、本発明はこれらの数値例には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は実施の形態による除電装置の概略構成図である。
【図2】第1の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【図3】第2の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【図4】第3の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【図5】第4の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【図6】第5の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【図7】第6の実施の形態による高電圧印加制御のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1 除電装置
10 高電圧発生部
20 放電部
30 ファン
60 対向電極
70 除電対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、
前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させることを特徴とする除電装置。
【請求項2】
印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、
前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加する正又は負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させることを特徴とする除電装置。
【請求項3】
印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、
前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加する正及び負の直流高電圧の少なくとも前半側高電圧部を緩やかに増加させ、かつ前記放電電極に印加した正及び負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させることを特徴とする除電装置。
【請求項4】
印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、
前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した正又は負の直流高電圧の少なくとも後半側高電圧部を段階的に減少させることを特徴とする除電装置。
【請求項5】
印加される直流高電圧の極性に応じて正又は負のイオンを生成する放電電極と、該放電電極より所定間隔離れて設けられた対向電極と、前記放電電極に対して正と負の直流高電圧を交互に印加する高電圧発生手段とを備える除電装置において、
前記高電圧発生手段は、前記放電電極に印加した負の直流高電圧のみの少なくとも後半側高電圧部を緩やかに減少させることを特徴とする除電装置。
【請求項6】
空気の流れ方向と直交する面に複数の放電電極が並列に設けられたことを更に特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の除電装置。
【請求項7】
前記高電圧発生手段は、相隣接する放電電極同士を2組のグループに分け、各グループの放電電極に対して互いに逆極性の直流高電圧を引加することを更に特徴とする請求項6記載の除電装置。
【請求項8】
複数の通風孔を有する対向電極が前記放電電極より所定間隔離れた空気の流れ方向と直交する面に設けられたことを更に特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−146844(P2010−146844A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322581(P2008−322581)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】