説明

陽イオン性重合体粒子の水系分散液及びその製造方法

【課題】大きいpH領域においてもゼータ電位が低下することなく、かつ保存安定性のよい陽イオン性重合体粒子の水系分散液を提供することを課題とする。
【解決手段】非イオン性ビニル系モノマーを水性媒体中、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下で乳化重合させて重合体粒子の水系分散液を得る工程を含み、非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して、陽イオン界面活性剤を2〜20重量部使用し、非イオン界面活性剤を3〜20重量部使用し、水系分散液中の重合体粒子が、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)、及び+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有し、かつpH12におけるゼータ電位が+20〜+70mVであること特徴とする陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン(カチオン)性重合体粒子の水系分散液及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、陽イオン界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下での乳化重合法によって得られ、水系分散液のpHが変化しても重合体粒子のゼータ電位が安定であり、かつpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12のそれぞれの重合体粒子の平均粒子径の平均値が0.01〜0.2μmであり、それぞれのゼータ電位の平均値が+20〜+70mVの範囲内である陽イオン性重合体粒子の水系分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体粒子は、塗料添加剤、粘着剤、化粧品添加剤、トナー添加剤、光拡散剤、液晶スペーサ、バインダー、レオロジー調節剤、増量剤、塗膜性能改良剤等として広く用いられている。このような重合体粒子の多くは、表面に陽性、あるいは陰性の電荷をもっている。このような電荷は、通常、表面に存在する陽イオン性基や陰イオン性基により粒子にもたらされる。例えば表面に陽性の電荷をもつ重合体粒子(陽イオン性重合体粒子)は、表面の陽イオン性基を反応性基として利用する反応性粒子として使用できる。
【0003】
具体的には、陽イオン性重合体粒子は、その表面にアミノ酸やタンパク質等を補足させるための陰イオン(アニオン)性化合物捕捉剤、樹脂等のフィルム中に添加して陰イオン性基と反応させることで該フィルム中に均一で強固な架橋構造を形成させるための架橋剤、樹脂等のフィルムあるいはセルロース等の繊維の表面に付着させて滑り性やマット性等を付与するための表面改質剤、各種金属等によるメッキ用の基材粒子(導電性粒子の基材粒子)として使用できる。
【0004】
更には、陽イオン性重合体粒子は、塗料、土木材料のトップコート、シーラー、インクジェット記録材料、電着塗料等の原料として幅広い用途を有しており、その利用価値は高い。
このような陽イオン性重合体粒子は、陽イオン界面活性剤存在下での乳化重合により、水系分散液の形態で容易に製造される。また、陽イオン性モノマーとそれ以外のモノマーとを乳化重合条件下で共重合させることにより、水系分散液の形態で陽イオン性重合体粒子を得る方法も知られている(特許第3436351号公報:特許文献1、特開2004−10645号公報:特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特許第3436351号公報
【特許文献2】特開2004−10645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、陽イオン界面活性剤や陽イオン性モノマーを使用して得られた陽イオン性重合体粒子は、水系分散液のpHが大きくなるほど、陽イオン性重合体粒子の陽性の電荷が弱まり、すなわちゼータ電位の値が小さくなってしまうことから、その機能が低下する。更に、機能が低下した陽イオン性重合体粒子の水系分散液は、時間と共に重合体粒子同士の凝集が起こるようになり、保存安定性が著しく低下するという課題がある。
上記陽イオン性重合体粒子は、特定の水系分散液のpH下で、ゼータ電位が低下すること、保存安定性がないことにより、例えば陽イオン性重合体粒子の水系分散液を陰イオン性化合物捕捉剤として用いた場合、水系分散液のpH幅が制限されるという課題、長期使用できないといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下で非イオン性モノマーを乳化重合させることで、所定の平均粒子径で、幅広いpHでゼータ電位が安定であり、かつ保存安定性のよい陽イオン性重合体粒子の水分散液が得られることを見出し、本発明にいたった。
【0008】
かくして本発明によれば、非イオン性ビニル系モノマーを水性媒体中、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下で乳化重合させて陽イオン性重合体粒子の水系分散液を得る工程を含み、
前記陽イオン界面活性剤が、前記非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して2〜20重量部使用され、
前記非イオン界面活性剤が、前記非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して3〜20重量部使用され、
前記水系分散液中の陽イオン性重合体粒子が、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)、及び+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有し、かつpH12におけるゼータ電位が+20〜+70mVであること特徴とする陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法が提供される。
【0009】
更に、本発明によれば、上記方法によって得られた重合体粒子の水系分散液であって、前記水系分散液中の重合体粒子が、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)、及び+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有し、かつpH12におけるゼータ電位が+20〜+70mVであること特徴とする陽イオン性重合体粒子の水系分散液が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系分散液中の重合体粒子は、その表面電荷が陽イオン性であり、かつpH3〜12という幅広いpH領域において、ゼータ電位がほとんど低下しない。更に、水系分散液の保存安定性が、製造後1ヶ月以上経過しても良好である。また、pH3〜12の平均粒子径の平均値が0.01〜0.2μmである。
そのため、本発明の水系分散液は、陰イオン性化合物捕捉剤、診断検査薬、水質浄化剤、樹脂等の架橋剤、表面改質剤、研磨剤等として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、非イオン性ビニル系モノマーを、水性媒体中、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下、乳化重合させることで陽イオン性重合体粒子の水系分散液を得る方法に関する。
非イオン性ビニル系モノマーとは、水系媒体中で、陰性、陽性の電荷を持たないモノマー、あるいは本発明の効果を疎外しない程度に小さい電荷を有するモノマーを意味する。
非イオン性ビニル系モノマーは、特に限定されず、スチレン系モノマー、(メタ)アクリルエステル系モノマー等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0012】
スチレン系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらスチレン系モノマーを単独で、又は併用してもよい。
(メタ)アクリルエステル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これら(メタ)アクリルエステル系モノマーを単独で、又は併用してもよい。
【0013】
また、上記スチレン系モノマーと(メタ)アクリルエステル系モノマーを併用してもよい。
非イオン性ビニル系モノマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーや添加剤が添加されていてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、二官能性ビニル系モノマーが挙げられる。具体的には、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート(アルキレンは炭素数2〜4の範囲が好ましい)等が挙げられる。二官能性ビニル系モノマーの混合割合は、非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して50重量部以下であることが好ましく、0.1〜30重量部であることがより好ましい。
【0014】
他の添加剤としては、光安定化剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、熱安定剤、レベリング剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
なお、陽イオン性や陰イオン性モノマーを使用しないことが望ましい。
上記非イオン性ビニル系モノマーは、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下、乳化重合に付される。
【0015】
本発明で使用できる陽イオン界面活性剤としては、特に限定されず、公知の剤をいずれも使用できる。例えば、長鎖アルキル四級アンモニウム塩、ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩等が挙げられる。この内、長鎖アルキル四級アンモニウム塩は、それを使用して得られる陽イオン性重合体粒子の水系分散液のpHが大きくなると、陽イオン性重合体粒子のゼータ電位が低下することがある。そのため、ゼータ電位の低下を嫌う用途では、陽イオン界面活性剤として、ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩を使用することが好ましい。ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩を使用することで、pH3〜12という幅広いpH領域においてゼータ電位がより低下しない陽イオン性重合体粒子の水系分散液を得ることができる。更に好ましい陽イオン界面活性剤は、N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩である。
【0016】
N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩の3つのアルキル基は、互いに同一又は異なっていてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、オクチル基、ステアリル基等が挙げられ、また、アルキル基は、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチルオキシ基、フェニル基等の置換基を有していてもよい。また、オキシアルキレン基としては、オキシエチレン、オキシプロピレン等に由来する基が挙げられる。このアンモニウム塩中、オキシアルキレン基の繰り返し数は、2〜50であることが好ましい。
【0017】
陽イオン界面活性剤の具体例としては、N−ポリオキシエチレンN,N,N−トリメチルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−トリエチルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−ジメチルエチルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−ジメチルオクチルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−ジエチルオクチルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−ジメチルステアリルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレンN,N,N−ジエチルステアリルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0018】
また、上記陽イオン界面活性剤のアンモニウム塩としては、アンモニウム塩酸塩、アンモニウム硫酸塩、アンモニウムスルフォン酸塩、アンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩、アンモニウム酢酸塩等が挙げられる。この内、アンモニウム硫酸塩、アンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩がより好ましい。
より具体的な陽イオン界面活性剤としては、長鎖アルキル四級アンモニウム塩としての第一工業製薬社製カチオーゲンTML(N−ラウリル−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩酸塩)、N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩としての第一工業製薬社製カチオーゲンD2が挙げられる。
【0019】
上記陽イオン界面活性剤は、非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して、2〜20重量部使用される。2重量部未満の場合、重合中の粒子の安定性が低下し、重合後の重合体粒子の凝集物が生じることがある。一方、20重量部より多い場合、重合系の粘度が大きくなることを防ぐために水等の媒体を大量に使用する必要があり、工業的に適さないので好ましくない。好ましい陽イオン界面活性剤の使用量は、3〜15重量部である。
【0020】
本発明で使用できる非イオン界面活性剤としては、非イオン性ビニル系モノマーとの反応性を示す反応性非イオン界面活性剤、又は非イオン性ビニル系モノマーとの反応性を示さない非反応性非イオン界面活性剤を用いることができる。この内、重合後に界面活性剤が水系分散液中にほとんど残存しない反応性非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0021】
非イオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン等の反応性非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非反応性非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0022】
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルとしては、例えば、第一工業製薬社製アクアロンRN−10、RN−50が挙げられ、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレンとしては、例えば、旭電化工業社製アデカリアソープNE−20、NE−40が挙げられる。
【0023】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、第一工業製薬社製ノイゲンTDS−200Dが挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、第一工業製薬社製ノイゲンXL−160が挙げられ、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルとしては、例えば、第一工業製薬社製ノイゲンEA−197Dが挙げられ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルしては、例えば、第一工業製薬社製ソルゲンTW−20が挙げられる。
【0024】
上記非イオン界面活性剤は、非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して、3重量部以上、20重量部以下で使用される。3重量部未満の場合、得られる陽イオン性重合体粒子の水系分散液の保存安定性が悪くなり、製造後、数日経過すると陽イオン性重合体粒子のゲル化が生じてしまい、各種用途での使用が困難となる。一方、20重量部より多い場合、重合体粒子のゼータ電位の低下を招く上、重合系の粘度が大きくなることを防ぐために水等の媒体を大量に使用する必要があり、工業的に適さないので好ましくない。好ましい非イオン界面活性剤の使用量は3〜10重量部であり、より好ましくは3〜8重量部である。
【0025】
本発明では重合開始剤として水溶性アゾ系重合開始剤が使用される。乳化重合で一般的に使用される過硫酸塩等の無機過酸化物やレドックス系重合開始剤では、陰イオン性が強いため、得られた重合体粒子が陽イオン性を示さない。しかし、陽イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤と水溶性アゾ系重合開始剤とを併用することで、電荷安定性がよく、保存安定性のよい陽イオン性重合体粒子を得ることができる。
【0026】
水溶性アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等が挙げられる。
【0027】
水溶性アゾ系重合開始剤は、その種類により相違するが、非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましくは、0.3〜3重量部である。
乳化重合は、水性媒体中で行われる。水性媒体としては、特に限定されないが、水、水と水溶性有機溶媒(例えば、低級アルコール)との混合物等が挙げられる。この内、廃水処理の問題が少ない水が好ましい。
【0028】
非イオン性ビニル系モノマーと水性媒体との使用割合は、1:30〜1:2の範囲であることが好ましい。1:30より非イオン性ビニル系モノマーの割合が少なくなると、生産性が悪くなる場合がある。1:2より非イオン性ビニル系モノマーの割合が多くなると、非イオン性ビニル系モノマーの粒子の分散安定性が悪くなり、重合後に重合体粒子の凝集物が生じる場合がある。より好ましい使用割合は1:25〜1:5である。
【0029】
乳化重合は、特に限定されず、公知の手順で行うことができる。例えば、水性媒体中に、非イオン性ビニル系モノマー、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤を一度に添加した後、攪拌することで乳化液を形成し、次いで、攪拌しつつ加熱することで重合体粒子を得る方法が挙げられる。また、水溶性アゾ系重合開始剤は、乳化液を形成した後、重合系に加えてもよい。
重合系の攪拌速度は、例えば、1リットル容量のフラスコを使用した場合、100〜500rpmであることが好ましい。また、重合温度は、使用するモノマーや重合開始剤の種類により相違するが、30〜100℃であることが好ましく、重合時間は、2〜12時間であることが好ましい。
【0030】
本発明の水系分散液中の重合体粒子は、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)を有する。0.01μm未満の場合、重合体粒子を得るために非イオン界面活性剤や水性媒体を多量に使う必要があり、工業的に適さないので好ましくない。0.2μmを超える場合、重合体粒子の1g当たりの表面積が小さくなるために、陰イオン性化合物捕捉剤等に利用したときの利用効率が悪くなることもある。より好ましい平均粒子径は0.03〜0.1μmである。なお、平均粒子径の測定方法は、実施例の欄に記載する。
更に、水系分散液中の重合体粒子は、pHが3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12のそれぞれにおいて、0.01〜0.2μmの平均粒子径を有していることが好ましい。それぞれのより好ましい平均粒子径は0.03〜0.15μmである。
【0031】
本発明の水系分散液中の重合体粒子は、+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有する。ゼータ電位が+20mVより小さいと、陰イオン性化合物の捕捉効率が悪くなるために好ましくない。ゼータ電位が+70mVより大きい粒子を得るには、多量の陽イオン界面活性剤、ならびに水溶性アゾ系重合開始剤が必要となる。多量の界面活性剤及び重合開始剤を使用した場合、重合体粒子中の重合体成分の分子量が低下してしまうので、得られた粒子の耐熱性や強度が低下してしまうことがある。より好ましいゼータ電位は+25〜+65mVである。
【0032】
更に、水系分散液中の重合体粒子は、pH12において、+20〜+70mVのゼータ電位を有していることが好ましい。より好ましいゼータ電位は+21〜+65mVである。従来では、このようなアルカリ性が高い条件下で、+20〜+70mVのゼータ電位を有する重合体粒子を得ることは極めて困難であったが、本発明はそのようなゼータ電位を有する重合体粒子が得られることを特徴の1つとしている。
【0033】
本発明の製造方法では、重合体粒子が水性媒体中に分散した水系分散液が得られる。重合体粒子の水系分散液は、そのままで所望の用途に用いることができる。そのような用途として、水系分散液としての、陰イオン性化合物捕捉剤、診断検査薬、水質浄化剤、樹脂等の架橋剤、表面改質剤、研磨剤等が挙げられる。
例えば、陰イオン性化合物捕捉剤、診断検査薬、水質浄化剤では、被検対象の水中に何らかの陰イオン性化合物が溶解している場合、本発明の水系分散液を水中に添加することで、化合物を剤に吸着(捕捉)できる。更に、従来の水系分散液は、被検対象の水溶液のpHが大きいと粒子の電荷が弱まるために使用できなかったが、本発明の水系分散液では、粒子の電荷が低下しないため、pHの大きい領域でも使用できる。なお、捕捉対象の陰イオン性化合物は、陰イオン性を有している限り特に限定されないが、例えば、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
なお、水系分散液には、陽イオン性重合体粒子の凝集を抑制するために、界面活性剤が含まれていてもよい。この界面活性剤は、水系分散液製造用の界面活性剤をそのまま使用してもよく、新たに水系分散液に添加してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の平均粒子径及びゼータ電位の測定方法、保存安定性の評価方法を下記する。
【0035】
(平均粒子径)
ここでいう平均粒子径は、動的光散乱法あるいは光子相関法と呼ばれる方法を利用して測定した粒子径を意味する。つまり、十分に希薄な濃度に調製した重合体粒子の水系分散液にレーザー光を照射し、重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。検出された重合体粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめて、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により求めた平均粒子径である。この種の平均粒子径は、市販の測定装置で簡便に測定可能であり、本実施例ではマルバーン社から市販されている「ゼータサイザーナノZS」を測定に使用している。
上述の市販の測定装置にはデータ解析ソフトが搭載されており、測定データを自動的に解析できる。
具体的には、水系分散液に0.1mol/Lの塩酸を加えて、水系分散液のpHを3に調整する。その後、水系分散液に0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを4、5、6、・・・、12まで滴定していき、各pHでの平均粒子径の平均値を算出する。pHの調節は、マルバーン社から市販されている自動滴定装置「MPT−2」をゼータサイザーナノZSに備え付けることで行う。
【0036】
(ゼータ電位)
ゼータ電位は、レーザードップラー速度測定法により測定している。重合体粒子が帯電している場合、水系分散液に電場をかけると、重合体粒子は電極に向かって移動する。重合体粒子の移動速度は、重合体粒子の荷電量に比例する。そのため、重合体粒子の移動速度を測定することによって、ゼータ電位を求めることができる。
具体的には、水系分散液に0.1mol/Lの塩酸を加えて水系分散液のpHを3に調整する。その後、水系分散液に0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを4、5、6、・・・、12まで滴定していき、各pHでのゼータ電位を算出する。pHの調節は、マルバーン社から市販されている自動滴定装置「MPT−2」をゼータサイザーナノZSに備え付けることでおこなう。この種の測定は、市販の測定装置で簡便に測定可能であり、本実施例ではマルバーン社から市販されている「ゼータサイザーナノZS」を測定に使用している。
【0037】
(保存安定性)
重合体粒子の水系分散液を密閉容器に入れ、20℃で1ヶ月間放置した。判定は、放置後の状態を目視及び平均粒子径の測定にて確認し、次のような基準で評価した。
○・・・外観及び平均粒子径において全く変化がない。
×・・・ゲル化した状態である。
【0038】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器及び温度計を備えた1Lの3つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水2000重量部、メタクリル酸メチル(MMA)100重量部、陽イオン性のN−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩(第一工業製薬社製カチオーゲンD2)5重量部、非イオン性のオキシエチレンセグメント長が50のポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬社製アクアロンRN−50)5重量部を供給し、室温(約25℃)、250rpmの速度で攪拌することにより乳化液を調製した。乳化液を60℃に加熱した後、この乳化液中に2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物(和光純薬工業社製、VA−046B、10時間の半減期を得るための分解温度:47℃)2.5重量部を添加し、60℃にて6時間に亘って攪拌を続けながら乳化重合を行なった。乳化液を室温まで冷却することで重合体粒子の水系分散液を得た。使用した原料の種類及び使用量を表1に示す。
【0039】
得られた水系分散液のpHは4.5であり、重合体粒子の平均粒子径は0.092μm、ゼータ電位は+30mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0040】
(実施例2)
陽イオン界面活性剤を10重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.060μm、ゼータ電位は+44mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0041】
(実施例3)
陽イオン界面活性剤を15重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.3であり、重合体粒子の平均粒子径は0.055μm、ゼータ電位は+47mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0042】
(実施例4)
重合前の乳化液に架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(EGDM)を5重量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.070μm、ゼータ電位は+30mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0043】
(実施例5)
MMAの代わりにスチレン(St)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.055μm、ゼータ電位は+35mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0044】
(実施例6)
重合開始剤として、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素(和光純薬工業社製、V−50、10時間の半減期を得るための分解温度:56℃)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.6であり、重合体粒子の平均粒子径は0.051μm、ゼータ電位は+44mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0045】
(実施例7)
非イオン界面活性剤を10重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.5であり、重合体粒子の平均粒子径は0.071μm、ゼータ電位は+29mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位がほとんど低下せず、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0046】
(実施例8)
陽イオン界面活性剤としてN−ラウリル−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩酸塩(第一工業製薬社製カチオーゲンTML)を10重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.056μm、ゼータ電位は+32mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてゼータ電位が若干低下するものの、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0047】
(実施例9)
非イオン界面活性剤として非イオン性のオキシエチレンセグメント長が10のポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬社製アクアロンRN−10)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.5であり、重合体粒子の平均粒子径は0.101μm、ゼータ電位は+37mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてゼータ電位がじゃ間低下するものの、保存安定性に優れた陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0048】
(比較例1)
陽イオン界面活性剤を1重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液中の重合体粒子は凝集が著しかった。
(比較例2)
非イオン界面活性剤を1重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.133μm、ゼータ電位は+21mVであった。
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位が著しく低下し、保存安定性の悪い陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0049】
(比較例3)
2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物2.5重量部の代わりに過硫酸カリウム(KPS)を2.5重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液中の重合体粒子は凝集が著しかった。
(比較例4)
重合前の乳化液に陽イオン性ビニル系モノマーであるDMAPAA−Q(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチル塩酸塩)を20重量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして乳化液を得た。
得られた水系分散液のpHは4.4であり、重合体粒子の平均粒子径は0.066μm、ゼータ電位は+48mVであった。
【0050】
得られた水系分散液中の重合体粒子の3〜12の各pHにおける平均粒子径とゼータ電位を表2と表3に、各pHの平均粒子径の平均値、ゼータ電位の平均値、pH12におけるゼータ電位、及び保存安定性の評価結果を表4に示す。pH12においてもゼータ電位が著しく低下し、保存安定性の悪い陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液であった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
実施例1〜9、比較例1から、陽イオン界面活性剤の使用量を2重量部以上、20重量部以下とすることで、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
実施例1〜9、比較例2から、非イオン界面活性剤の使用量を3重量部以上、30重量部以下とすることで、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
実施例1〜9、比較例3から、水溶性アゾ系重合開始剤を使用することで、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
実施例1〜9、比較例4から、非イオン性ビニル系モノマーを主として使用することで、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
【0056】
実施例1〜7及び9、実施例8から、陽イオン界面活性剤種を変更しても、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
実施例1〜8、実施例9から、非イオン界面活性剤種を変更しても、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
実施例1〜4及び6〜9、実施例5から、重合開始剤種を変更しても、保存安定性の良好な陽イオン性重合体粒子を含む水系分散液が得られることが示される。
【0057】
(実施例10)
以下の手順で実施例1〜9、比較例2及び4の水系分散液の陰イオン性化合物の捕捉性能を確認した。
すなわち、陰イオン性化合物としてのアニオン変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製:ゴーセランL−3266)0.05gを水10gに溶解した。得られた水溶液を、pH12の実施例1〜9、比較例2及び4の各水系分散液10gに添加した。添加1分後、得られた混合液中の粒子の平均径(Dm)を測定し、表5に示した。測定法は水系分散液中の粒子の径の測定法と同じである。表5には、陰イオン性化合物の水溶液添加前のpH12の水系分散液中の粒子の平均径(D12)、pH12での水系分散液のゼータ電位も示した。また、陰イオン性化合物の水溶液の添加前後での平均粒子径の変動程度を確認することで、捕捉性能を評価するために、Dm/D12を算出し、その結果を表5に示す。更に、表5中、「○」は、捕捉性能が良好であるDm/D12が1.2以上の場合を、「×」は、不良である1.2未満の場合を意味する。なお、水、水溶液、水系分散液及び混合液の温度は20℃とした。
【0058】
【表5】

【0059】
表5から、pH12でのゼータ電位が高い陽イオン性重合体粒子を含む実施例の水系分散液は、Dm/D12で表される陰イオン性化合物の水溶液の添加後の水溶液中の粒子の平均径が大きくなっている。これは、実施例の陽イオン性重合体粒子が高いゼータ電位を有していることにより、陰イオン性化合物が多く吸着されていること、加えて吸着した陽イオン性重合体粒子に周囲の陽イオン性重合体粒子が陰イオン性化合物を介して凝集すること、により粒子径が大きくなったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性ビニル系モノマーを水性媒体中、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び水溶性アゾ系重合開始剤の存在下で乳化重合させて陽イオン性重合体粒子の水系分散液を得る工程を含み、
前記陽イオン界面活性剤が、前記非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して2〜20重量部使用され、
前記非イオン界面活性剤が、前記非イオン性ビニル系モノマー100重量部に対して3〜20重量部使用され、
前記水系分散液中の陽イオン性重合体粒子が、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)、及び+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有し、かつpH12におけるゼータ電位が+20〜+70mVであること特徴とする陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項2】
前記陽イオン界面活性剤が、ポリアルキレンオキサイド部位を有する四級アンモニウム塩である請求項1に記載の陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンセグメント含有フェニルエーテル系非イオン界面活性剤である請求項1又は2に記載の陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項4】
前記非イオン性ビニル系モノマーが、スチレン系又は(メタ)アクリルエステル系モノマーから選択される請求項1〜3のいずれか1つに記載の陽イオン性重合体粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法によって得られた非イオン性ビニル系モノマー由来の重合体粒子の水系分散液であって、前記水系分散液中の重合体粒子が、0.01〜0.2μmの平均粒子径(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれの平均粒子径の平均値)、及び+20〜+70mVのゼータ電位(水系分散液のpHが3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12のそれぞれのゼータ電位の平均値)を有し、かつpH12におけるゼータ電位が+20〜+70mVであること特徴とする陽イオン性重合体粒子の水系分散液。
【請求項6】
陰イオン性化合物の捕捉に用いられる請求項5に記載の陽イオン性重合体粒子の水系分散液。