説明

集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法

【課題】従来に比べ、耐アルカリ腐食性を向上させることができ、十分な強度を有する集電体用アルミニウム合金箔を提供する。
【解決手段】化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.4%以下、Fe:0.01%以上0.9%以下、Mg:0.1%以上1.5%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、厚みが20μm以下であり、引張強さが190MPa以上である集電体用アルミニウム合金箔とする。上記化学成分は、質量%で、Cu:0.01%以上0.30%以下、および、Mn:0.1%以上0.50%未満から選択される1種または2種以上をさらに含有してもよい。また、上記化学成分は、質量%で、Ti:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.40%以下、および、Zr:0.01%以上0.40%以下から選択される1種または2種以上をさらに含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム合金箔は様々な分野において使用されている。近年では、薄くて導電性があるなどの観点から、リチウムイオン電池等の二次電池や電気二重層コンデンサ等における電極の集電体としてアルミニウム合金箔が使用されている。例えば、特許文献1には、集電体としてのアルミニウム合金箔の表面に、正極活物質を含有するスラリーを塗布して乾燥させた後、密度向上、密着性向上のために圧延を行って作製したリチウムイオン電池の電極(正極)が記載されている。
【0003】
集電体に用いるアルミニウム合金箔としては、例えば、上述の特許文献1に知られるように、アルミニウムを99.0重量%以上、鉄、銅およびシリコンのそれぞれを0.5重量%以下含み、鉄、銅およびシリコンの合計の含有量が1.0重量%未満である集電体用アルミニウム合金箔が公知である。
【0004】
また、他の化学成分を有するアルミニウム合金箔としては、例えば、特許文献2には、0.1質量%以上6質量%以下のマンガンと、0.001質量%以上0.02質量%以下の鉄と、0.0005質量%以上0.02質量%以下のシリコンと、0.0001質量%以上0.03質量%以下の銅とを含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とを含むアルミニウム合金箔が開示されている。さらに、特許文献3には、93質量%以上のアルミニウムと、0.1質量%以上6質量%以下のマンガンと、0.00001質量%以上0.001質量%以下の鉄と、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅と、0.00001質量%以上0.001質量%以下の亜鉛とを含み、残部が不可避的不純物を含むアルミニウム合金箔が開示されている。
【0005】
また、集電体用アルミニウム合金箔に塗布するスラリーとしては、具体的には、コバルト酸リチウム等の正極活物質、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーなどを1−メチル−2−メチルピロリドン(NMP)等の溶剤系溶媒に分散、混合することにより調製したものが知られている。最近では、希少元素であり高価なコバルトの含有量を低減して低コスト化を図るため、コバルト酸リチウムに代えて、リチウム−ニッケル系複合酸化物等を正極活物質として用いる提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−162470号公報
【特許文献2】特開2007−016308号公報
【特許文献3】特開2009−57579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術は以下の点で問題を有している。
すなわち、集電体用アルミニウム合金箔に塗布するスラリーに含まれる溶剤系溶媒は、有害なものが多い。そのため、作業環境の保護や大気汚染防止などの観点から、大掛かりな排気システムが必要となる。そこで、近年では、溶剤系溶媒に代えて水系溶媒を用いることが検討されている。
【0008】
ところが、リチウム−ニッケル系複合酸化物等のように活物質中にニッケルが含まれている場合には、ニッケルの加水分解により溶媒がアルカリ性になる。活物質中に含まれるニッケル含有量が多くなると、pHが10を超えるような強アルカリ性の溶媒になる場合もある。
【0009】
このような強アルカリ性を示すスラリーをアルミニウム合金箔に塗布すると、アルミニウム合金は両性金属であるため、短時間でアルカリ腐食が進行する。特に、厚み20μm以下のアルミニウム合金箔の場合、腐食による貫通孔が生じることもある。さらに、アルカリ腐食時に生じたガスにより、上記スラリーの塗布面が起伏を呈し、集電特性の低下を招く。
【0010】
また、集電体用アルミニウム合金箔は、集電体として機能できる十分な強度を有している必要がある。さらに、ゲージダウンの要請に応えるためには、従来以上に高強度化を図る必要がある。
【0011】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、従来に比べ、耐アルカリ腐食性を向上させることができ、十分な強度を有する集電体用アルミニウム合金箔を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.4%以下、Fe:0.01%以上0.9%以下、Mg:0.1%以上1.5%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、厚みが20μm以下であり、引張強さが190MPa以上であることを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔にある(請求項1)。
【0013】
本発明の他の態様は、化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.4%以下、Fe:0.01%以上0.9%以下、Mg:0.1%以上1.5%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる鋳塊を均質化処理、熱間圧延した後、最終冷間圧延率が90%以上の範囲で冷間圧延を行い、厚み20μm以下とすることを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
上記集電体用アルミニウム合金箔は、化学成分に含まれる各元素の含有量を上記特定の範囲内としている。そのため、強いアルカリ性を示すスラリーが箔表面に塗布された場合であっても、アルカリ腐食が進行し難い。また、厚みが20μm以下であってもアルカリ腐食による貫通孔が生じ難い。このように上記集電体用アルミニウム合金箔によれば、耐アルカリ腐食性を向上させることができる。
【0015】
また、上記集電体用アルミニウム合金箔は、化学成分に含まれる各元素の含有量を上記特定の範囲内としている。そのため、引張強さを190MPa以上とすることが可能であるとともに鋳造時に粗大な化合物が生じ難く、箔圧延の際にもピンホール欠陥が生じ難い。それ故、厚み20μm以下というゲージダウンを安定して実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記集電体用アルミニウム合金箔について説明する。上記集電体用アルミニウム合金箔における化学成分(単位は質量%、以下、単に「%」と略記)の意義およびその限定理由は以下の通りである。
【0017】
Si:0.01%以上0.4%以下
Siは、不純物元素として合金中に含まれる。耐アルカリ腐食性を向上させるためには、Si含有量は少ない方が好ましい。Si含有量が0.01%未満になると、耐アルカリ腐食性を有するものの、原料として高純度のアルミ地金を使用する必要があり、製造コストが上昇する。したがって、Si含有量は0.01%以上とし、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上がよい。一方、Si含有量が0.4%を超えると、Mgと化合物(MgSi等)を形成しやすくなり、合金中におけるMg固溶量が減少して耐アルカリ腐食性が低下する。したがって、Si含有量は0.4%以下とし、好ましくは0.35%以下、より好ましくは0.3%以下がよい。
【0018】
Fe:0.01%以上0.9%以下
Feは、Siと同様に不純物元素として合金中に含まれる。耐アルカリ腐食性を向上させるためには、Fe含有量は少ない方が好ましい。Fe含有量が0.01%未満になると、耐アルカリ腐食性を有するものの、原料として高純度のアルミ地金を使用する必要があり、製造コストが上昇する。したがって、Fe含有量は0.01%以上とし、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上がよい。一方、Fe含有量が0.9%を超えると、Al−Fe系化合物を形成しやすくなり、アルカリ環境下ではこれらの化合物がカソード、マトリックスのアルミニウムがアノードとなって局所的なアルカリ腐食が進行しやすくなる。そのため、厚みが20μm以下であると短時間で貫通孔が生じることがある。したがって、Fe含有量は0.9%以下とし、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.7%以下がよい。
【0019】
Mg:0.1%以上1.5%未満
Mgは、強アルカリ環境下においてアルカリ腐食を抑制するために重要な添加元素である。合金中において、固溶しているMgがHOと反応して酸化マグネシウム(MgO)が形成される。この酸化マグネシウムは、アルカリ環境下では反応せず、この化合物が腐食界面の皮膜中に形成されることにより、マトリックスであるアルミニウムのアルカリ腐食が軽減される。Mg含有量が0.1%未満になると、耐アルカリ腐食性を付与することが困難となってアルカリ腐食しやすくなり、また、引張強さを190MPa以上に向上させることも困難となる。したがって、Mg含有量は0.1%以上とし、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上がよい。一方、Mg含有量が1.5%以上になると、加工硬化が大きくなりすぎて、量産規模で厚み20μm以下の箔圧延が困難となる。したがって、Mg含有量は1.5%未満とし、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下がよい。
【0020】
上記集電体用アルミニウム合金箔における化学成分は、Cu:0.01%以上0.30%以下、および、Mn:0.1%以上0.50%未満から選択される1種または2種以上をさらに含有することができる(請求項2)。各成分の意義およびその限定理由は以下の通りである。
【0021】
Cu:0.01%以上0.30%以下
Cuは、箔の強度向上に寄与する元素である。その効果を得るためには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.02%以上がよい。一方、Cu含有量が過大になると電気抵抗が増大する。したがって、Cu含有量を0.30%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下がよい。
【0022】
Mn:0.1%以上0.50%未満
Mnは、箔の強度向上に寄与する元素である。その効果を得るためには、Mn含有量を0.1%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2%以上がよい。一方、Mn含有量が0.5%以上になると、Al−Mn系化合物を形成しやすくなり、アルカリ環境下ではこれらの化合物がカソード、マトリックスのアルミニウムがアノードとなって局所的なアルカリ腐食が進行しやすくなる。そのため、厚みが20μm以下であると短時間で貫通孔が生じることがある。したがって、Mn含有量は0.50%未満とすることが好ましい。
【0023】
また、上記集電体用アルミニウム合金箔における化学成分は、Ti:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.40%以下、および、Zr:0.01%以上0.40%以下から選択される1種または2種以上をさらに含有することができる(請求項3)。各成分の意義およびその限定理由は以下の通りである。
【0024】
Ti:0.01%以上0.10%以下
Tiは、箔製造時における鋳塊の組織や再結晶粒の微細化に寄与し、箔成形性の向上に有効な元素である。Ti含有量が0.01%未満になると、このような組織微細化の効果が十分に得られなくなる。その効果を得るためには、Ti含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.10%を超えると、鋳塊の製造時に粗大なTi系化合物を形成しやすくなり、箔圧延時にピンホール欠陥が生じやすくなる。したがって、Ti含有量は0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.05%以下がよい。
【0025】
Cr:0.01%以上0.40%以下
Crは、AlCr相が微細に析出することにより加工硬化性を向上させ、箔の強度向上に有効な元素である。Cr含有量が0.01%未満になると、箔の強度向上効果が十分に得られなくなる。その効果を得るためには、Cr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が0.40%を超えると、粗大なAlCr化合物を形成しやすくなり、箔圧延時にピンホール欠陥が生じやすくなる。したがって、Cr含有量は0.40%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.20%以下がよい。
【0026】
Zr:0.01%以上0.40%以下
Zrは、AlZr相が微細に析出することにより加工硬化性を向上させ、箔の強度向上に有効な元素である。Zr含有量が0.01%未満になると、箔の強度向上効果が十分に得られなくなる。その効果を得るためには、Zr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Zr含有量が0.40%を超えると、粗大なAlZr化合物を形成しやすくなり、箔圧延時にピンホール欠陥が生じやすくなる。したがって、Zr含有量は0.40%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.20%以下がよい。
【0027】
上記集電体用アルミニウム合金箔の化学成分における不可避的不純物としては、比較的電気抵抗の増大に寄与し難いZn、Ni、Ga、Vなどの元素を例示することができる。但し、これら各元素の含有量は、それぞれ0.05%以下とすることが好ましい。また、これら各元素は、合計で0.15%以下であれば、上記集電体用アルミニウム合金箔の特性に実質的な影響を及ぼすことがないので許容することができる。
【0028】
上記集電体用アルミニウム合金箔は、厚みが20μm以下である。上記集電体用アルミニウム合金箔の厚みは、ゲージダウン、電池等の小型化・薄型化などの観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下がよい。一方、上記集電体用アルミニウム合金箔の厚みは、電池電極等の集電体使用部材の製造時における取扱容易性、箔強度などの観点から、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上がよい。
【0029】
上記集電体用アルミニウム合金箔は、引張強さが190MPa以上である。上記アルミニウム合金箔の引張強さは、十分な箔強度を得る観点から、好ましくは200MPa以上、より好ましくは220MPa以上がよい。一方、上記集電体用アルミニウム合金箔の引張強さは、強度に優れるほど好ましいためその上限が特に限定されるものではないが、箔圧延可能性の観点から、好ましくは340MPa以下とすることができる。なお、上記引張強さは、引張方向が箔圧延方向と平行になるように試験片(JIS5号試験片)を採取し、JIS Z2241に準拠して測定した引張強さである。
【0030】
上記集電体用アルミニウム合金箔は、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等の二次電池の電極集電体、電気二重層コンデンサの電極集電体などとして用いることができる。また、上記集電体用アルミニウム合金箔は、上記二次電池等の電極形成時に、リチウムまたはナトリウムとニッケル等の加水分解を生じさせる元素とを含有する活物質と、溶媒としての水とを少なくとも含み、かつ、強アルカリ性を示す水系ペーストを箔表面に塗布して使用することができる。水系ペーストは、さらにバインダーを含むことができ、上記バインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)やカルボキシメチルセルロース(CMC)などを例示することができる。ここで、水系ペーストのpHは、pH=10以上、pH=11以上とすることができる。なお、上記活物質としては、例えば、リチウム−ニッケル系複合酸化物(コバルトを含んでいてもよい)、ナトリウム−ニッケル系複合酸化物(コバルトを含んでいてもよい)などを例示することができる。
【0031】
上記集電体用アルミニウム合金箔は、その腐食減量が、好ましくは41g/m以下、より好ましくは40g/m以下であるとよい。この場合には、アルカリ腐食により箔に貫通孔ができ難い。なお、上記腐食減量(g/m)は、腐食液としてpH=13のNaOH水溶液(温度30℃)を用い、当該腐食液への浸漬前における箔重量と、上記腐食液に20分間浸漬させた後に腐食生成物を除去・乾燥後の箔重量との差を重量減とし、当該重量減を1m当たりに換算することにより算出することができる。
【0032】
次に、上記集電体用アルミニウム合金箔の製造方法について説明する。上記集電体用アルミニウム合金箔の製造方法は、上記特定の化学成分を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化処理、熱間圧延した後、最終冷間圧延率が90%以上の範囲で冷間圧延を行い、厚み20μm以下とする。上記鋳塊の化学成分は、質量%で、Cu:0.01%以上0.30%以下、および、Mn:0.1%以上0.50%未満から選択される1種または2種以上をさらに含有することができる(請求項5)。また、上記鋳塊の化学成分は、質量%で、Ti:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.40%以下、および、Zr:0.01%以上0.40%以下から選択される1種または2種以上をさらに含有することができる(請求項6)。
【0033】
なお、用いる鋳塊の化学成分における各成分の意義およびその限定理由は、集電体用アルミニウム合金箔の説明において上述した通りであるので説明は省略する。
【0034】
上記均質化処理は、例えば、鋳塊を、温度450℃〜600℃の範囲で、1時間〜10時間保持することにより行うことができる。また、上記熱間圧延時の温度は、例えば、300℃〜500℃とすることができる。
【0035】
上記集電体用アルミニウム合金箔の製造方法では、熱間圧延した後は、冷間圧延を行う。この際、熱間圧延と冷間圧延との間、あるいは、冷間圧延の途中において、焼鈍等の再結晶化を伴う中間熱処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。このような中間熱処理は、結晶粒微細化の観点から、連続焼鈍炉(CAL)などで行うことが好ましく、例えば、温度400℃〜500℃の範囲で、2秒〜10秒間保持することにより行うことができる。
【0036】
上記冷間圧延における最終冷間圧延率(%)は、冷間圧延の途中に中間熱処理を行う場合には、100×(中間熱処理後の圧延板の厚み−最終冷間圧延後のアルミニウム合金箔の厚み)/(中間熱処理後の圧延板の厚み)から算出される値である。また、冷間圧延の途中に中間熱処理を行わない場合には、100×(熱間圧延後冷間圧延前の圧延板の厚み−最終冷間圧延後のアルミニウム合金箔の厚み)/(熱間圧延後冷間圧延前の圧延板の厚み)から算出される値である。上記最終冷間圧延率は、上記のように90%以上とする。これにより、上記特定の化学成分の選択と相まって、190MPa以上の引張強さの実現を図りやすくなる。なお、最終冷間圧延率は、引張強さを高くするなどの観点から、好ましくは95%以下とするのがよい。
【実施例】
【0037】
実施例に係る集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法について、以下に説明する。
【0038】
なお、本例の集電体用アルミニウム合金箔は、リチウムイオン電池の電極(正極)集電体として用いられるものである。そして、リチウムおよびニッケルを含有する正極活物質と、バインダーと、溶媒としての水を含み、かつ、pH10以上の強アルカリ性を示す水系ペーストが、電極形成時に箔表面に塗布されて使用されることを想定したものである。
【0039】
また、本例の集電体用アルミニウム合金箔の製造方法では、特定の化学成分を有するアルミニウム合金よりなる鋳塊を均質化処理、熱間圧延した後、再結晶化が生じる温度での中間熱処理を途中で行う冷間圧延を行うことにより、厚み20μm以下とした。なお、上記冷間圧延時における最終冷間圧延率は90%以上である。
【0040】
(実施例1)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、鋳塊を準備した。
【0041】
【表1】

【0042】
次いで、上記鋳塊を、550℃の温度にて6時間保持するという条件で均質化処理した後、厚さ2mmまで熱間圧延を行った。次いで、厚さ2mmの熱間圧延板を冷間圧延し、0.5mmの厚さとした。次いで、厚さ0.5mmの冷間圧延板を連続焼鈍炉により、450℃の温度にて10秒間保持するという条件で中間熱処理を行った後、この冷間圧延板を厚み15μmになるまで冷間圧延した。
【0043】
なお、上記製造工程では中間熱処理を行っているので、最終冷間圧延率は、100×(中間熱処理後の圧延板の厚み0.5mm−最終冷間圧延後のアルミニウム合金箔の厚み15μm)/(中間熱処理後の圧延板の厚み0.5mm)=97%である。
【0044】
次に、得られた試料1〜14のアルミニウム合金箔について、耐アルカリ腐食性、引張強さ、ピンホール発生の有無を調査した。
【0045】
<耐アルカリ腐食性>
アルミニウム合金箔から縦100mm×横100mmの大きさの試験片を採取した。次いで、蒸留水にNaOHを添加してpH=13、温度を30℃に制御した腐食液中に、試験片を20分間浸漬させた。次いで、試験片を腐食液から取り出し、蒸留水により洗浄した。次いで、10重量%のHNO溶液(20℃)にて、試験片の表面に生成した腐食生成物を除去して乾燥させた。次いで、上記腐食液への浸漬前における試験片の重量と上記腐食生成物の除去・乾燥後の試験片の重量との差を求め、アルカリ腐食による試験片の重量減を測定した。そして、測定した重量減を1m当たりに換算することにより算出した腐食減量(n=3)の平均値を、試料の腐食減量(g/m)とした。また、試験片におけるアルカリ腐食による貫通孔の発生状況を目視にて確認した。
【0046】
<引張強さ>
各アルミニウム合金箔から引張方向が箔圧延方向と平行になるように試験片(JIS5号試験片)を採取し、JIS Z2241に準拠して測定した引張強さを、各試料の引張強さとした。
【0047】
<ピンホールの有無>
アルミニウム合金箔から縦100mm×横100mmの大きさの試験片を10枚採取した。次いで、暗室内にて、試験片の裏面から蛍光灯の光を照射し、試験片の表面に漏れ出る光の有無を目視にて確認した。10枚全ての試験片において光のもれが無かった場合を、ピンホール無しと判定した。また、10枚の試験片のうち、1枚でも光のもれが有った場合を、ピンホール有りと判定した。
【0048】
得られた結果をまとめて表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、試料13は、従来材である1N30合金箔であり、化学成分中にMgは添加されていない。そのため、腐食減量が多く、かつ、アルカリ腐食による貫通孔も認められ、耐アルカリ腐食性に劣っていた。
【0051】
試料14は、従来材である3003合金箔である。試料13の1N30合金箔よりも腐食減量が多く、かつ、アルカリ腐食による貫通孔も認められ、耐アルカリ腐食性に劣っていた。
【0052】
試料8は、Mgの含有量が0.1%未満である。そのため、試料13の1N30合金箔と腐食減量が同程度であり、かつ、アルカリ腐食による貫通孔も認められ、耐アルカリ腐食性に劣っていた。また、引張強さも190MPa未満であり、十分な強度を有していなかった。
【0053】
試料9は、Siの含有量が0.4%超である。そのため、試料13の1N30合金箔と腐食減量が同程度であり、かつ、アルカリ腐食による貫通孔も認められ、耐アルカリ腐食性に劣っていた。これは、MgSi相の形成が誘発されてMg固溶量が減少したためであると考えられる。
【0054】
試料10は、Mgの含有量が0.1%未満である。そのため、試料13の1N30合金箔ほどではないが腐食減量が多く、かつ、アルカリ腐食による貫通孔も認められ、耐アルカリ腐食性に劣っていた。
【0055】
試料11は、Tiの含有量が0.10%超である。そのため、鋳造時に粗大なTi系化合物が生成し、箔圧延時にピンホール欠陥が発生した。
【0056】
試料12は、Crの含有量が0.40%超である。そのため、鋳造時に粗大なAlCr化合物が生成し、箔圧延時にピンホール欠陥が発生した。
【0057】
これらに対して、化学成分が上述した特定の範囲内にある試料1〜試料7は、いずれも、試料13の1N30合金箔に比べ、腐食減量が少ない上、貫通孔の発生も認められず、耐アルカリ腐食性に優れていることがわかる。また、試料1〜試料7は、引張強さが190MPa以上と、試料13の1N30合金箔に比べて十分な強度を有していることが分かる。また、試料1〜7は、箔圧延時にピンホール欠陥も生じ難いことがわかる。
【0058】
(実施例2)
表1に示す合金Eと合金Mの鋳塊を用いて、実施例1と同様にして熱間圧延板を作製した。次いで、得られた熱間圧延板を、実施例1における中間熱処理を行う前までの冷間圧延を調整することにより、所定の厚さの冷間圧延板とした。次いで、この冷間圧延板を、実施例1と同条件で中間熱処理を行った後、表3に示す最終冷間圧延率にて冷間圧延することにより、厚み15μmとした。得られた試料15〜19のアルミニウム合金箔について、実施例1と同様にして、耐アルカリ腐食性、引張強さ、ピンホール発生の有無を調査した。得られた結果をまとめて表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すように、試料19は、従来材である1N30合金を用いたものである。そのため、十分な強度が得られない上、耐アルカリ腐食性にも劣っていた。
【0061】
また、試料17、試料18は、いずれも最終冷間圧延率が90%未満で冷間圧延を行い、厚み20μm以下のアルミニウム合金箔としたものである。そのため、いずれも引張強さが190MPa未満となり、十分な強度を得ることができなかった。
【0062】
これらに対し、試料15、試料16は、上述した特定の化学成分を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化処理、熱間圧延した後、最終冷間圧延率が90%以上の範囲で冷間圧延を行い、厚み20μm以下としている。そのため、引張強さが190MPa以上と、十分な強度を有するアルミニウム合金箔が得られた。また、箔圧延時にピンホール欠陥も生じ難かった。そして、得られたアルミニウム合金箔は、腐食減量が少ない上、貫通孔の発生も認められず、耐アルカリ腐食性に優れていた。
【0063】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.4%以下、Fe:0.01%以上0.9%以下、Mg:0.1%以上1.5%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
厚みが20μm以下であり、引張強さが190MPa以上であることを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔。
【請求項2】
請求項1に記載の集電体用アルミニウム合金箔であって、
上記化学成分が、質量%で、Cu:0.01%以上0.30%以下、および、Mn:0.1%以上0.50%未満から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔。
【請求項3】
請求項1または2に記載の集電体用アルミニウム合金箔であって、
上記化学成分が、質量%で、Ti:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.40%以下、および、Zr:0.01%以上0.40%以下から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔。
【請求項4】
化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.4%以下、Fe:0.01%以上0.9%以下、Mg:0.1%以上1.5%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる鋳塊を均質化処理、熱間圧延した後、最終冷間圧延率が90%以上の範囲で冷間圧延を行い、厚み20μm以下とすることを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の集電体用アルミニウム合金箔の製造方法であって、
上記化学成分が、質量%で、Cu:0.01%以上0.30%以下、および、Mn:0.1%以上0.50%未満から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の集電体用アルミニウム合金箔の製造方法であって、
上記化学成分が、質量%で、Ti:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.40%以下、および、Zr:0.01%以上0.40%以下から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする集電体用アルミニウム合金箔の製造方法。

【公開番号】特開2013−108146(P2013−108146A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255630(P2011−255630)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】