電力変換回路の制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステム
【課題】回転座標変換を行ってから所定の制御を行い、生成された補正値信号に静止座標変換を行うのと等価で、かつ、線形時不変性を有する処理を行う制御回路を提供する。
【解決手段】制御回路7'において、三相の電流信号をα軸電流信号とβ軸電流信号に変換する三相二相変換部73と、α軸電流信号と目標値との偏差信号を第1の伝達関数で信号処理して第1の補正値信号を生成するα軸電流コントローラ74’と、β軸電流信号と目標値との偏差信号を第1の伝達関数で信号処理して第2の補正値信号を生成するβ軸電流コントローラ75’と、第1および第2の補正値信号を3つの補正値信号に変換する二相三相変換部76と、3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部77とを備えた。所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とした場合、第1の伝達関数は、G(s)=[F(s+jω0)+F(s−jω0)}/2である。
【解決手段】制御回路7'において、三相の電流信号をα軸電流信号とβ軸電流信号に変換する三相二相変換部73と、α軸電流信号と目標値との偏差信号を第1の伝達関数で信号処理して第1の補正値信号を生成するα軸電流コントローラ74’と、β軸電流信号と目標値との偏差信号を第1の伝達関数で信号処理して第2の補正値信号を生成するβ軸電流コントローラ75’と、第1および第2の補正値信号を3つの補正値信号に変換する二相三相変換部76と、3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部77とを備えた。所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とした場合、第1の伝達関数は、G(s)=[F(s+jω0)+F(s−jω0)}/2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路の出力または入力を制御するための制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池などによって生成される直流電力を交流電力に変換して、電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。
【0003】
図16は、従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0004】
系統連系インバータシステムA100は、直流電源1が生成した電力を変換して三相電力系統Bに供給するものである。なお、以下では3つの相をU相、V相およびW相とする。
【0005】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧をスイッチング素子(図示しない)のスイッチングにより交流電圧に変換する。フィルタ回路3は、インバータ回路2から出力される交流電圧に含まれるスイッチング周波数成分を除去する。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を三相電力系統Bの系統電圧に昇圧(または降圧)する。制御回路7は、電流センサ5および電圧センサ6などが検出した電流信号および電圧信号を入力され、これに基づいてPWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行う。
【0006】
図17は、制御回路7の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0007】
電流センサ5から入力された各相の電流信号は三相/二相変換部73に入力される。
【0008】
三相/二相変換部73は、入力された3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号Iu,Iv,Iwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを生成する。
【0009】
三相/二相変換部73で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
【数1】
【0010】
回転座標変換部78は、三相/二相変換部73から入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、三相電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部78は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。
【0011】
回転座標変換部78で行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
【数2】
【0012】
LPF74aおよびLPF75aは、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分に変換されている。PI制御部74bおよびPI制御部75bは、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分とその目標値との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)を行い、補正値信号Xd,Xqを出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、PI制御部74bおよびPI制御部75bは、精度のよい制御を行うことができる。
【0013】
静止座標変換部79は、PI制御部74bおよびPI制御部75bからそれぞれ入力される補正値信号Xd,Xqを、静止座標系の2つの補正値信号Xα,Xβに変換するものであり、回転座標変換部78とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部79は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の補正値信号Xd,Xqを、位相θに基づいて、静止座標系の補正値信号Xα,Xβに変換する。
【0014】
静止座標変換部79で行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
【数3】
【0015】
二相/三相変換部76は、静止座標変換部79から入力される補正値信号Xα,Xβを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部73とは逆の変換処理を行うものである。
【0016】
二相/三相変換部76で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0017】
PWM信号生成部77は、二相/三相変換部76が出力した補正値信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号を生成して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−44897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、制御回路7の制御系を設計することに大変な労力が必要であるという問題がある。最近の系統連系インバータシステムには、瞬低に対して所定の時間以内に出力を復帰させるなど、制御に高速な応答性が求められている。このような要求を満たすように制御系を設計するために、LPF74aおよびLPF75aのパラメータや、PI制御部74bおよびPI制御部75bの比例ゲインおよび積分ゲインを最適に設計する必要がある。しかし、回転座標変換部78および静止座標変換部79は非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができなかった。また、制御系が非線形時変処理を含むため、システム解析もできなかった。
【0020】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、回転座標変換を行ってから所定の制御を行って、生成された補正値信号に静止座標変換を行うのと同様の処理であり、かつ、線形性および時不変性を有する処理を行う制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0022】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号を第1の信号と第2の信号に変換する三相二相変換手段と、前記第1の信号および前記第2の信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号および第2の偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数5】
であることを特徴とする。
【0023】
本発明の第2の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である3つの偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、前記3つの偏差信号を第1の偏差信号および第2の偏差信号に変換する三相二相変換手段と、前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数6】
であることを特徴とする。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第2の伝達関数および前記第3の伝達関数は、それぞれ、
【数7】
である。
【0025】
本発明の第3の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数および第2の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数8】
であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第4の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、前記第1ないし第3の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数9】
であることを特徴とする。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KI/s(但し、KIは積分ゲイン)である。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s(但し、KPおよびKIは、それぞれ比例ゲインおよび積分ゲイン)である。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s+KD・s(但し、KP、KIおよびKDは、それぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)である。
【0030】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3つの信号は、各相の出力電流または入力電流を検出した信号である。
【0031】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3つの信号は、各相の出力電圧または入力電圧を検出した信号である。
【0032】
本発明の好ましい実施の形態においては、制御系の設計が、ロバスト制御設計を用いて行われている。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態においては、制御系の設計が、H∞ループ整形法を用いて行われている。
【0034】
本発明の第5の側面によって提供される系統連系インバータシステムは、インバータ回路と、本発明の第1ないし第4の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【0035】
本発明の第6の側面によって提供される三相PWMコンバータシステムは、コンバータ回路と、本発明の第1ないし第4の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、第1の偏差信号および第2の偏差信号をそれぞれ第1の伝達関数G1(s)によって信号処理することで、制御を行って第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成している。第1の伝達関数G1(s)による信号処理は、回転座標変換を行ってから所定の制御処理を行って生成された補正値信号を静止座標変換するのと同様の処理である。また、第1の伝達関数G1(s)による信号処理は、線形性および時不変性を有する。したがって、線形制御理論に基づいた設計法を用いることができ、制御系の設計を容易にすることができる。また、システム解析も行うことができる。
【0037】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明するためのブロック線図である。
【図2】回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明するためのブロック線図であり、行列で表したものである。
【図3】行列の計算を説明するためのブロック線図である。
【図4】回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理を示すブロック線図である。
【図5】回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理を示すブロック線図である。
【図6】第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図7】行列GIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。
【図8】正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図10】第2実施形態において行ったシミュレーション結果を説明するための図である。
【図11】第3実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図12】行列GPIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。
【図13】第4実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図14】第5実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図15】第6実施形態に係る三相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図16】従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図17】制御回路の内部構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0040】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0041】
図1(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。図1(a)に示す非線形時変の処理を、図1(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0042】
図1(a)に示す回転座標変換は下記(5)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(6)式の行列式で表される。
【数10】
【0043】
したがって、図1(a)に示す処理を、行列を用いて、図2(a)のように表すことができる。図2(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、図1(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0044】
回転座標変換の行列は、下記(7)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数11】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数12】
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0045】
【数13】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数14】
であることが、確認できる。
【0046】
また、静止座標変換の行列は、下記(8)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数15】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数16】
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0047】
【数17】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数18】
であることが、確認できる。
【0048】
上記(7)式および(8)式を用いて、図2(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(9)式のように計算される。
【数19】
【0049】
上記(9)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、図3に示すブロック線図になる。図3に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数20】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である。
【0050】
ここで、θ(t)=ω0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω0t−ω0τ=ω0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、図3に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω0)が得られる。また、図3に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω0)の入出力特性になる。
【0051】
したがって、上記(9)式からさらに計算を進めると、
【数21】
と計算される。
【0052】
これにより、図2(a)に示す処理を、図2(b)に示す処理に変換することができる。図2(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0053】
PI制御(比例積分制御)コントローラの伝達関数は、比例ゲインおよび積分ゲインをそれぞれKPおよびKIとすると、F(s)=KP+KI/sで表される。したがって、図4に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GPIは、上記(10)式を用いて、下記(11)式のように算出される。
【数22】
【0054】
また、I制御(積分制御)コントローラの伝達関数は、積分ゲインをKIとすると、F(s)=KI/sで表される。したがって、図5に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GIは、上記(10)式を用いて、下記(12)式のように算出される。
【数23】
【0055】
以下に、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う電流コントローラを系統連系インバータシステムの制御回路に適用した場合を、本発明の第1実施形態として説明する。
【0056】
図6は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0057】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、および制御回路7を備えている。
【0058】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されて、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0059】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0060】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0061】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0062】
電流センサ5は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの各相の系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0063】
制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路7は、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電流を制御している。これにより、制御回路7は、各種フィードバック制御を行っている。
【0064】
図6においては、出力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。実際には、制御回路7は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)や無効電力制御(出力無効電力が予め設定された無効電力目標値となるように行うフィードバック制御)なども行っている。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
【0065】
制御回路7は、系統対抗分生成部72、三相/二相変換部73、電流コントローラ74、二相/三相変換部76、およびPWM信号生成部77を備えている。
【0066】
系統対抗分生成部72は、電圧センサ6から電圧信号Vを入力されて、系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成して出力する。系統指令値信号Ku,Kv,Kwは系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものであり、系統指令値信号Ku,Kv,Kwが後述する補正値信号Xu,Xv,Xwで補正されることにより指令値信号が生成される。
【0067】
三相/二相変換部73は、図17に示す三相/二相変換部73と同じものであり、電流センサ5より入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73で行われる変換処理は、上記(1)式に示す行列式で表される。
【0068】
電流コントローラ74は、三相/二相変換部73より出力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電流制御のための補正値信号Xα,Xβを生成するものである。電流コントローラ74は、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う。つまり、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔIαおよびΔIβとすると、下記(13)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電流コントローラ74は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数24】
【0069】
本実施形態において、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換したものが用いられる。d軸電流目標値には図示しない直流電圧制御のための補正値が用いられ、q軸電流目標値には、図示しない無効電力制御のための補正値が用いられる。なお、三相の電流目標値が与えられる場合は、当該目標値を三相/二相変換して、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値とすればよい。また、3つの電流信号Iu,Iv,Iwと三相の電流目標値とのそれぞれの偏差を先に算出し、この3つの偏差信号を三相/二相変換して、電流コントローラ74に入力するようにしてもよい。また、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
【0070】
図7は、行列GIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列GIの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列GIの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列GIの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω0=120πの場合)のものであり、積分ゲインKIを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0071】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、積分ゲインKIが大きくなると、振幅特性が大きくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列GIの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列GIの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
【0072】
本実施形態において、電流コントローラ74は、周波数重みに伝達関数の行列GIを用いて、線形制御理論の1つであるH∞ループ整形法によって設計される。電流コントローラ74で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計を行うことができる。
【0073】
電流コントローラ74には、出力電流が正弦波目標値に追従すること、および、瞬低時に出力を所定の時間内に所定の割合まで戻すこと(速応性)が、設計仕様として求められている。システムの出力がある目標値に完全追従するには、閉ループ系が目標発生器と同じ極を持ち、かつ、閉ループ系が漸近安定でなければならない(内部モデル原理)。正弦波目標値の極は±jωoであり、行列GIの各要素の伝達関数に含まれる1/(s2+ω02)の項の極も±jωoである。したがって、閉ループ系と目標発生器の極は同じである。また、H∞ループ整形法を用いれば、閉ループ系が漸近安定になるコントローラを設計することができる。したがって、速応性の条件を満たすようにH∞ループ整形法を用いて設計を行うことで、設計仕様に適合し最も安定な制御系を容易に設計することができる。
【0074】
なお、制御系の設計に用いる設計方法はこれに限られず、その他の線形制御理論を用いることもできる。例えば、ループ整形法、最適制御、H∞制御、混合感度問題などを用いて設計するようにしてもよい。
【0075】
図6に戻って、二相/三相変換部76は、図17に示す二相/三相変換部76と同じものであり、電流コントローラ74から入力される補正値信号Xα,Xβを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76で行われる変換処理は、上記(4)式に示す行列式で表される。
【0076】
系統対抗分生成部72が出力する系統指令値信号Ku,Kv,Kwと、二相/三相変換部76が出力する補正値信号Xu,Xv,Xwとがそれぞれ加算されて、指令値信号X’u,X’v,X’wが算出され、PWM信号生成部77に入力される。
【0077】
PWM信号生成部77は、入力される指令値信号X’u,X’v,X’wと、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pu,Pv,Pwを生成する。三角波比較法では、指令値信号X’u,X’v,X’wとキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号X’uがキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Puとして生成される。生成されたPWM信号Pu,Pv,Pwは、インバータ回路2に出力される。
【0078】
本実施形態において、制御回路7は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。上述したように、伝達関数の行列GIは、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列GIで表される処理を行う電流コントローラ74は、図17に示す回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理(図17におけるPI制御部74bおよびPI制御部75bが行うPI制御処理に対応する。)と等価の処理を行っている。また、図7の各ボード線図が示すように、行列GIの各要素の伝達関数の振幅特性は、中心周波数でピークを形成している。つまり、電流コントローラ74は、中心周波数成分だけがハイゲインになっている。したがって、図17に示すLPF74aおよび75aを設ける必要がない。
【0079】
また、電流コントローラ74で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。また、制御回路7には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、電流制御システム全体が線形時不変システムになっている。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(12)式に示す伝達関数の行列GIを用いることで、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0080】
なお、上記実施形態においては、電流コントローラ74で上記(13)式に示す処理を行っているが、行列GIの各要素の積分ゲインKIに要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、各要素である伝達関数毎に異なる積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。また、(1,2)要素と(2,1)要素の積分ゲインKIを「0」に設計して、正相分、逆相分の両方を制御するという付加特性を与えることもできる。正相分、逆相分の両方を制御する場合については、後述する。なお、要素毎に異なる積分ゲインKIを設計した場合でも、各要素である伝達関数の位相特性は変化しない。したがって、(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させ、(1,2)要素の伝達関数は中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させ、(2,1)要素の伝達関数は中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させることができる。
【0081】
上記第1実施形態においては、電流信号Iu,Iv,Iwの基本波成分の制御を行う場合について説明したが、これに限られない。電流信号Iu,Iv,Iwには基本波成分(正相分)の信号の他に、逆相分の信号が重畳されている。この逆相分の制御のみを行うようにしてもよい。
【0082】
図8は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0083】
同図(a)において、電流信号Iu,Iv,Iwの正相分を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。電流信号Iu,Iv,Iwの正相分を三相/二相変換したα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの正相分は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
【0084】
つまり、三相/二相変換部73(図6参照)から出力されるα軸電流信号Iαの正相分は、β軸電流信号Iβの正相分より90度位相が進んでいる。したがって、目標値との偏差ΔIαの正相分も偏差ΔIβの正相分より90度位相が進んでいる。偏差ΔIαに行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相は変化しない(図7(a)参照)。また、偏差ΔIβに行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相が90度進む(図7(b)参照)。したがって、両者の位相が偏差ΔIαの正相分と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。一方、偏差ΔIαに行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相が90度遅れる(図7(c)参照)。また、偏差ΔIβに行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相は変化しない。したがって、両者の位相が偏差ΔIβの正相分と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。
【0085】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。図8(b)において、電流信号Iu,Iv,Iwの逆相分を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。電流信号Iu,Iv,Iwの逆相分を三相/二相変換したα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの逆相分は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
【0086】
つまり、三相/二相変換部73から出力されるα軸電流信号Iαの逆相分は、β軸電流信号Iβの逆相分より90度位相が遅れている。偏差ΔIαに行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相は変化しない。また、偏差ΔIβに行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、偏差ΔIαに行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相が90度遅れる。また、偏差ΔIβに行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。したがって、電流コントローラ74は、正相分の制御を行ない、逆相分の制御は行なわない。
【0087】
伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分が打ち消しあって、逆相成分が強めあうことになる。したがって、第1実施形態において逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0088】
次に、正相分、逆相分の両方の制御を行なう場合について説明する。
【0089】
行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理は、正相分および逆相分の位相を変化させずに通過させる(図7(a)参照)。したがって、上記(12)式に示す行列GIの(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にした行列を用いると、正相分、逆相分の両方の制御を行なうことができる。以下に、正相分、逆相分の両方の制御を行なう場合を、第2実施形態として説明する。
【0090】
図9は、第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す制御回路7と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0091】
図9に示す制御回路7’は、電流コントローラ74に代えて、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’を設けている点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0092】
α軸電流コントローラ74’は、三相/二相変換部73より出力されるα軸電流信号Iαと目標値との偏差ΔIαを入力され、電流制御のための補正値信号Xαを生成するものである。α軸電流コントローラ74’は、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数KI・s/(s2+ω02)で表される処理を行う。また、α軸電流コントローラ74’は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【0093】
β軸電流コントローラ75’は、三相/二相変換部73より出力されるβ軸電流信号Iβと目標値との偏差ΔIβを入力され、電流制御のための補正値信号Xβを生成するものである。β軸電流コントローラ75’は、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数KI・s/(s2+ω02)で表される処理を行う。また、β軸電流コントローラ75’は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【0094】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’の伝達関数KI・s/(s2+ω02)において、積分ゲインKIにそれぞれ異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、α軸電流コントローラ74’とβ軸電流コントローラ75’とで、それぞれ個別に積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0095】
図10は、第2実施形態において行ったシミュレーション結果を説明するための図である。
【0096】
系統連系インバータシステムA(図6参照)の各相の電流に不平衡外乱を加えて、目標電流を20[A]とした場合のシミュレーションを行った。同図(a)は、α軸電流コントローラ74’(図9参照)に入力される偏差ΔIα、および、β軸電流コントローラ75’に入力される偏差ΔIβを示している。同図(b)は、各相の出力電流を電流センサ5によって検出した電流信号Iu,Iv,Iwを示している。同図(a)に示すように、偏差ΔIαおよび偏差ΔIβは徐々に小さくなり、0.14[s]でほぼ「0」になった。また、同図(b)に示すように、電流信号Iu,Iv,Iwは徐々に大きくなり、0.05[s]で目標の80%である16[A]に達した。また、電流信号Iu,Iv,Iwの各波形は、平衡状態を示している。不平衡外乱が除去され、正相分は目標値に追従していることから、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’は、正相分および逆相分を適切に制御できている。また、当該制御は、十分な速応性を有している。
【0097】
上記第1および第2実施形態においては、3つの電流信号Iu,Iv,Iwをα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換して制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、3つの電流信号Iu,Iv,Iwを用いて直接制御するようにしてもよい。以下に、この場合の実施形態を第3実施形態として説明する。
【0098】
図11は、第3実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す制御回路7と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0099】
図11に示す制御回路7”は、三相/二相変換部73および二相/三相変換部76を備えておらず、電流コントローラ74”が3つの電流信号Iu,Iv,Iwを用いて直接制御を行う点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0100】
三相/二相変換および二相/三相変換は、上記(1)式および(4)式で表されるので、三相/二相変換を行ってから伝達関数の行列Gで表される処理を行った後に二相/三相変換を行う処理は、下記(14)式に示す伝達関数の行列G’で表される。
【数25】
【0101】
したがって、電流コントローラ74”が行う処理を表す伝達関数の行列G’Iは、下記(15)式で表される。
【数26】
【0102】
電流コントローラ74”は、電流センサ5より出力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電流制御のための補正値信号Xu,Xv,Xwを生成するものである。電流コントローラ74”は、上記(15)式の伝達関数の行列G’Iで表される処理を行う。つまり、電流信号Iu,Iv,Iwとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔIu,ΔIv,ΔIwとすると、下記(16)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電流コントローラ74”は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数27】
【0103】
本実施形態において、電流信号Iu,Iv,Iwの目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換してさらに二相/三相変換したものが用いられる。なお、三相の電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。また、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値が与えられる場合は、二相/三相変換したものを用いればよい。
【0104】
本実施形態において、伝達関数の行列G’Iで表される処理を行う電流コントローラ74”は、図17に示す三相/二相変換部73、二相/三相変換部76、回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理(図17におけるPI制御部74bおよびPI制御部75bが行うPI制御処理に対応する。)と等価の処理を行っている。また、電流コントローラ74”で行われる処理は、伝達関数の行列G’Iで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、電流制御システム全体が線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0105】
第3実施形態において、逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列G’Iの要素の内、GI12(s)、GI23(s)およびGI31(s)と、GI13(s)、GI21(s)およびGI32(s)とを入れ換えた行列(すなわち、行列G’Iの転置行列)を用いればよい。
【0106】
次に、第3実施形態において、正相分、逆相分の両方の制御を行う場合について説明する。
【0107】
上記(14)式において、行列Gの(1,2)要素と(2,1)要素とを「0」にした場合を考えると、下記(17)式に示す伝達関数の行列G”が算出できる。
【数28】
【0108】
したがって、正相分、逆相分の両方の制御を行う場合に、電流コントローラ74”が行う処理を表す伝達関数の行列G”Iは、下記(18)式で表される。
【数29】
【0109】
上記第1ないし第3実施形態においては、電流コントローラ74(α軸電流コントローラ74’、β軸電流コントローラ75’、電流コントローラ74”)がI制御に代わる制御を行う場合について説明したがこれに限られない。例えば、PI制御に代わる制御を行うようにしてもよい。第1実施形態において、電流コントローラ74がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、上記(11)式に示される伝達関数の行列GPIを用いればよい。
【0110】
図12は、行列GPIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列GPIの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列GPIの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が60Hzの場合のものであり、積分ゲインKIを1に固定して、比例ゲインKPを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0111】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数にピークがあり、比例ゲインKPが大きくなると、中心周波数以外の振幅特性が大きくなっている。また、位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。
【0112】
同図(b)および(c)が示す振幅特性も、中心周波数にピークがある。また、振幅特性および位相特性は、比例ゲインKPに関係なく一定である。また、同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列GPIの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列GPIの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
【0113】
第2実施形態において、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、上記(11)式に示される伝達関数の行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数(KP・s2+KI・s+KP・ω02)/(s2+ω02)を用いればよい。
【0114】
第3実施形態において、電流コントローラ74”がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、下記(19)式に示される伝達関数の行列G’PIを用いればよい。
【数30】
【0115】
また、第3実施形態で正相分、逆相分の両方の制御を行う場合において、電流コントローラ74”がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、下記(20)式に示される伝達関数の行列G”PIを用いればよい。
【数31】
【0116】
PI制御に代わる制御を行う場合、比例ゲインKPを調整することにより、過渡時のダンピング効果を付加することができるというメリットがあるが、モデル化誤差の影響を受けやすくなるというデメリットがある。逆に、I制御に代わる制御を行う場合、過渡時のダンピング効果を付加することができないというデメリットがあるが、モデル化誤差の影響を受けにくくなるというメリットがある。
【0117】
なお、電流コントローラ74(α軸電流コントローラ74’、β軸電流コントローラ75’、電流コントローラ74”)がI制御およびPI制御以外の制御に代わる制御を行うようにしてもよい。上記(10)式において、伝達関数F(s)を各制御の伝達関数とすることで、回転座標変換を行ってから当該制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列を算出することができる。したがって、PID制御(伝達関数は、比例ゲインをKP、積分ゲインをKI、微分ゲインをKDとすると、F(s)=KP+KI/s+KD・sで表される。)に代わる制御を行うようにすることができるし、D制御(微分制御:伝達関数は、微分ゲインをKDとすると、F(s)=KD・sで表される。)、P制御(比例制御:伝達関数は、比例ゲインをKPとすると、F(s)=KPで表される。)、PD制御、ID制御などに代わる制御を行うようにすることができる。
【0118】
上記第1ないし第3実施形態においては、出力電流を制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、出力電圧を制御するようにしてもよい。以下に、出力電圧を制御する場合について、第4実施形態として説明する。
【0119】
図13は、第4実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0120】
図13に示すインバータシステムA’は、電力系統Bではなく負荷Lに電力を供給する点で、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA(図6参照)と異なる。負荷Lに供給される電圧を制御する必要があるので、制御回路8は、出力電流ではなく出力電圧を制御する。制御回路8は、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいてPWM信号を生成する点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。インバータシステムA’は、出力電圧をフィードバック制御によって目標値に制御しながら、負荷Lに電力を供給する。
【0121】
三相/二相変換部83は、電圧センサ6から入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部83で行われる変換処理は、下記(21)式に示す行列式で表される。
【数32】
なお、電圧信号Vu,Vv,Vwは各相の相電圧信号であるが、線間電圧信号を検出して用いるようにしてもよい。なお、この場合、線間電圧信号を相電圧信号に変換してから上記(21)式に示す行列式を用いるか、上記(21)式に示す行列に代えて、線間電圧信号をα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する行列にすればよい。
【0122】
電圧コントローラ84は、三相/二相変換部83より出力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電圧制御のための補正値信号Xα,Xβを生成するものである。電圧コントローラ84は、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う。つまり、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔVαおよびΔVβとすると、下記(22)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電圧コントローラ84は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数33】
【0123】
本実施形態において、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値には、d軸電圧目標値およびq軸電圧目標値を静止座標変換したものが用いられる。なお、三相の電圧目標値が与えられる場合は、当該目標値を三相/二相変換して、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値とすればよい。また、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
【0124】
本実施形態において、制御回路8は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。上述したように、伝達関数の行列GIは、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列GIで表される処理を行う電圧コントローラ84は、図17に示す回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理と等価の処理を行っている。また、図7の各ボード線図が示すように、行列GIの各要素の伝達関数の振幅特性は、中心周波数でピークを形成している。つまり、電圧コントローラ84は、中心周波数成分だけがハイゲインになっている。したがって、図17に示すLPF74aおよび75aを設ける必要がない。
【0125】
また、電圧コントローラ84で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。また、制御回路8には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、電圧制御システム全体が線形時不変システムになっている。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(12)式に示す伝達関数の行列GIを用いることで、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0126】
なお、本実施形態においては、電圧コントローラ84で上記(22)式に示す処理を行っているが、行列GIの各要素の積分ゲインKIに要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、各要素である伝達関数毎に異なる積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。また、(1,2)要素と(2,1)要素の積分ゲインKIを0に設計して、正相分、逆相分の両方を制御するという付加特性を与えることもできる。また、逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0127】
また、3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを直接用いて正相分を制御する場合には、上記(15)式に示す伝達関数の行列G’Iを用いればよいし、逆相分を制御する場合には、伝達関数の行列G’Iの要素の内、GI12(s)、GI23(s)およびGI31(s)と、GI13(s)、GI21(s)およびGI32(s)とを入れ換えた行列(すなわち、行列G’Iの転置行列)を用いればよい。正相分、逆相分の両方の制御を行う場合には、上記(18)式に示す伝達関数の行列G”Iを用いればよい。また、電圧コントローラ84が、I制御に代わる制御を行うのではなく、他の制御(例えば、PI制御、D制御、P制御、PD制御、ID制御、PID制御など)に代わる制御を行うようにしてもよい。
【0128】
次に、出力電圧の制御と出力電流の制御とを切り替える場合について、第5実施形態として説明する。
【0129】
系統連系インバータシステムは、通常、電力系統に連系して、出力電流を制御しながら電力系統に電力を供給する。そして、電力系統内で事故が発生した場合、電力系統との接続が切り離され、インバータ回路の運転も停止される。しかし、電力系統内で事故が発生した場合に、系統連系インバータシステムを自律運転させて、系統連系インバータシステムに接続されている負荷に電力を供給する非常用電源として機能させる要求が高まっている。系統連系インバータシステムを自律運転させて負荷に電力を供給する場合、出力電圧を制御する必要がある。第5実施形態に係る系統連系インバータシステムは、第1実施形態と第4実施形態とを組み合わせたものであり、出力電圧の制御と出力電流の制御とを切り替えることができる系統連系インバータシステムである。
【0130】
図14は、第5実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0131】
図14に示す系統連系インバータシステムA”は、負荷Lに電力を供給しつつ、電力系統Bに連系しているときは電力系統Bにも電力を供給する。なお、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムAも同様であるが、第1実施形態においては、電力系統Bに連系している状態のみを説明していたので、負荷Lの記載および説明を省略していた。系統連系インバータシステムA”は、電力系統Bに連系しているときは電流制御を行い、電力系統Bとの接続が切り離されているときは電圧制御を行う。
【0132】
図14に示す制御回路8’は、三相/二相変換部83、電圧コントローラ84、電圧制御のための二相/三相変換部76とPWM信号生成部77、および、制御切替部85を備えている点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0133】
三相/二相変換部83および電圧コントローラ84は、第4実施形態に係る三相/二相変換部83および電圧コントローラ84(図13参照)と同じものであり、電圧センサ6から入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwに基づいて補正値信号Xα,Xβを生成する。そして、後段の二相/三相変換部76およびPWM信号生成部77によって、電圧制御のためのPWM信号が生成される。一方、三相/二相変換部73および電流コントローラ74は、電流センサ5から入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwに基づいて補正値信号Xα,Xβを生成する。そして、後段の二相/三相変換部76、系統対抗分生成部72、およびPWM信号生成部77によって、電流制御のためのPWM信号が生成される。制御切替部85は、電力系統Bに連系していない場合、電圧コントローラ84が生成した補正値信号Xα,Xβに基づく電圧制御のためのPWM信号を出力し、電力系統Bに連系している場合、電流コントローラ74が生成した補正値信号Xα,Xβに基づく電流制御のためのPWM信号を出力する。
【0134】
本実施形態において、系統連系インバータシステムA”は、電力系統Bに連系しているときに電流制御を行って電力系統Bに電力を供給することができ、電力系統Bに連系していないときに電圧制御を行って負荷Lに電力を供給することができる。また、本実施形態において、制御回路8’は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。電流コントローラ74および電圧コントローラ84で行われる処理は、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であり、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、電流制御システム全体および電圧制御システム全体がそれぞれ線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0135】
上記第1ないし第5実施形態においては、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステム(インバータシステム)に用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、例えば、不平衡補償装置、静止型無効電力補償装置(SVC、SVG)、電力用アクティブフィルタ、無停電電源装置(UPS)などに用いられるインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、モータや発電機の回転を制御するインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、直流を三相交流に変換するインバータ回路を制御する場合に限られず、例えば、三相交流を直流に変換するコンバータ回路や、三相交流の周波数を変換するサイクロコンバータなどの制御回路にも適用することができる。以下に、本発明をコンバータ回路の制御回路に適用した場合を、第6実施形態として説明する。
【0136】
図15は、第6実施形態に係る三相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0137】
図15に示す三相PWMコンバータシステムCは、電力系統Bから供給される交流電力を直流電力に変換して負荷L’に供給するものである。負荷L’は、直流負荷である。三相PWMコンバータシステムCは、変圧回路4、フィルタ回路3、電流センサ5、電圧センサ6、コンバータ回路9、および制御回路7を備えている。
【0138】
変圧回路4は、電力系統Bから入力される交流電圧を所定のレベルに昇圧または降圧する。フィルタ回路3は、変圧回路4より入力される交流電圧から高周波成分を除去して、コンバータ回路9に出力する。電流センサ5は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電流を検出する。検出された電流信号Iは、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電圧を検出するものである。検出された電圧信号Vは、制御回路7に入力される。コンバータ回路9は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、負荷L’に出力する。コンバータ回路9は、三相PWMコンバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた電圧型コンバータ回路である。コンバータ回路9は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。なお、コンバータ回路9はこれに限定されず、電流型コンバータ回路であってもよい。
【0139】
制御回路7は、コンバータ回路9を制御するものである。制御回路7は、第1実施形態の制御回路7と同様に、PWM信号を生成してコンバータ回路9に出力する。図15においては、入力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。図示していないが、制御回路7は、直流電圧コントローラおよび無効電力コントローラも備えており、出力電圧および入力無効電力も制御している。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、コンバータ回路9が電流型コンバータ回路の場合、出力電圧制御に代えて、出力電流制御を行うようにすればよい。
【0140】
本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。三相PWMコンバータシステムCを小型化するためにフィルタ回路3を小さくした場合、電流制御の精度が落ちるために制御系の設計が難しくなるが、本実施形態においては、線形制御理論を用いて容易に制御系の設計を行うことができる。したがって、制御系設計の困難さによって小型化が妨げられることなく、三相PWMコンバータシステムCを小型化することができる。
【0141】
なお、三相PWMコンバータシステムCの構成は上記に限られない。例えば、制御回路7に代えて、制御回路7’,7”、8,8’を用いるようにしてもよい。また、コンバータ回路9の出力側にインバータ回路を設け、直流電力をさらに交流電力に変換して交流負荷に供給する、いわゆるサイクロコンバータとしてもよい。
【0142】
本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0143】
A,A” 系統連系インバータシステム
A’ インバータシステム
1 直流電源
2 インバータ回路(電力変換回路)
3 フィルタ回路
4 変圧回路
5 電流センサ
6 電圧センサ
7,7’,7”,8,8’ 制御回路
72 系統対抗分生成部
73,83 三相/二相変換部
74,74” 電流コントローラ(制御手段)
74’ α軸電流コントローラ(制御手段)
75’ β軸電流コントローラ(制御手段)
84 電圧コントローラ(制御手段)
85 制御切替部
76 二相/三相変換部
77 PWM信号生成部
9 コンバータ回路(電力変換回路)
B 電力系統
C 三相PWMコンバータシステム
L,L’ 負荷
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路の出力または入力を制御するための制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池などによって生成される直流電力を交流電力に変換して、電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。
【0003】
図16は、従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0004】
系統連系インバータシステムA100は、直流電源1が生成した電力を変換して三相電力系統Bに供給するものである。なお、以下では3つの相をU相、V相およびW相とする。
【0005】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧をスイッチング素子(図示しない)のスイッチングにより交流電圧に変換する。フィルタ回路3は、インバータ回路2から出力される交流電圧に含まれるスイッチング周波数成分を除去する。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を三相電力系統Bの系統電圧に昇圧(または降圧)する。制御回路7は、電流センサ5および電圧センサ6などが検出した電流信号および電圧信号を入力され、これに基づいてPWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行う。
【0006】
図17は、制御回路7の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0007】
電流センサ5から入力された各相の電流信号は三相/二相変換部73に入力される。
【0008】
三相/二相変換部73は、入力された3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号Iu,Iv,Iwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを生成する。
【0009】
三相/二相変換部73で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
【数1】
【0010】
回転座標変換部78は、三相/二相変換部73から入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、三相電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部78は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。
【0011】
回転座標変換部78で行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
【数2】
【0012】
LPF74aおよびLPF75aは、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分に変換されている。PI制御部74bおよびPI制御部75bは、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分とその目標値との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)を行い、補正値信号Xd,Xqを出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、PI制御部74bおよびPI制御部75bは、精度のよい制御を行うことができる。
【0013】
静止座標変換部79は、PI制御部74bおよびPI制御部75bからそれぞれ入力される補正値信号Xd,Xqを、静止座標系の2つの補正値信号Xα,Xβに変換するものであり、回転座標変換部78とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部79は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の補正値信号Xd,Xqを、位相θに基づいて、静止座標系の補正値信号Xα,Xβに変換する。
【0014】
静止座標変換部79で行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
【数3】
【0015】
二相/三相変換部76は、静止座標変換部79から入力される補正値信号Xα,Xβを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部73とは逆の変換処理を行うものである。
【0016】
二相/三相変換部76で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0017】
PWM信号生成部77は、二相/三相変換部76が出力した補正値信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号を生成して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−44897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、制御回路7の制御系を設計することに大変な労力が必要であるという問題がある。最近の系統連系インバータシステムには、瞬低に対して所定の時間以内に出力を復帰させるなど、制御に高速な応答性が求められている。このような要求を満たすように制御系を設計するために、LPF74aおよびLPF75aのパラメータや、PI制御部74bおよびPI制御部75bの比例ゲインおよび積分ゲインを最適に設計する必要がある。しかし、回転座標変換部78および静止座標変換部79は非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができなかった。また、制御系が非線形時変処理を含むため、システム解析もできなかった。
【0020】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、回転座標変換を行ってから所定の制御を行って、生成された補正値信号に静止座標変換を行うのと同様の処理であり、かつ、線形性および時不変性を有する処理を行う制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0022】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号を第1の信号と第2の信号に変換する三相二相変換手段と、前記第1の信号および前記第2の信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号および第2の偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数5】
であることを特徴とする。
【0023】
本発明の第2の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である3つの偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、前記3つの偏差信号を第1の偏差信号および第2の偏差信号に変換する三相二相変換手段と、前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数6】
であることを特徴とする。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第2の伝達関数および前記第3の伝達関数は、それぞれ、
【数7】
である。
【0025】
本発明の第3の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、前記第1の伝達関数および第2の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数8】
であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第4の側面によって提供される制御回路は、三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、前記第1ないし第3の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数9】
であることを特徴とする。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KI/s(但し、KIは積分ゲイン)である。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s(但し、KPおよびKIは、それぞれ比例ゲインおよび積分ゲイン)である。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s+KD・s(但し、KP、KIおよびKDは、それぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)である。
【0030】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3つの信号は、各相の出力電流または入力電流を検出した信号である。
【0031】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3つの信号は、各相の出力電圧または入力電圧を検出した信号である。
【0032】
本発明の好ましい実施の形態においては、制御系の設計が、ロバスト制御設計を用いて行われている。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態においては、制御系の設計が、H∞ループ整形法を用いて行われている。
【0034】
本発明の第5の側面によって提供される系統連系インバータシステムは、インバータ回路と、本発明の第1ないし第4の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【0035】
本発明の第6の側面によって提供される三相PWMコンバータシステムは、コンバータ回路と、本発明の第1ないし第4の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、第1の偏差信号および第2の偏差信号をそれぞれ第1の伝達関数G1(s)によって信号処理することで、制御を行って第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成している。第1の伝達関数G1(s)による信号処理は、回転座標変換を行ってから所定の制御処理を行って生成された補正値信号を静止座標変換するのと同様の処理である。また、第1の伝達関数G1(s)による信号処理は、線形性および時不変性を有する。したがって、線形制御理論に基づいた設計法を用いることができ、制御系の設計を容易にすることができる。また、システム解析も行うことができる。
【0037】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明するためのブロック線図である。
【図2】回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明するためのブロック線図であり、行列で表したものである。
【図3】行列の計算を説明するためのブロック線図である。
【図4】回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理を示すブロック線図である。
【図5】回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理を示すブロック線図である。
【図6】第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図7】行列GIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。
【図8】正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図10】第2実施形態において行ったシミュレーション結果を説明するための図である。
【図11】第3実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図12】行列GPIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。
【図13】第4実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図14】第5実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。
【図15】第6実施形態に係る三相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図16】従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【図17】制御回路の内部構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0040】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0041】
図1(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。図1(a)に示す非線形時変の処理を、図1(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0042】
図1(a)に示す回転座標変換は下記(5)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(6)式の行列式で表される。
【数10】
【0043】
したがって、図1(a)に示す処理を、行列を用いて、図2(a)のように表すことができる。図2(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、図1(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0044】
回転座標変換の行列は、下記(7)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数11】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数12】
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0045】
【数13】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数14】
であることが、確認できる。
【0046】
また、静止座標変換の行列は、下記(8)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数15】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数16】
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0047】
【数17】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数18】
であることが、確認できる。
【0048】
上記(7)式および(8)式を用いて、図2(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(9)式のように計算される。
【数19】
【0049】
上記(9)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、図3に示すブロック線図になる。図3に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数20】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である。
【0050】
ここで、θ(t)=ω0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω0t−ω0τ=ω0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、図3に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω0)が得られる。また、図3に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω0)の入出力特性になる。
【0051】
したがって、上記(9)式からさらに計算を進めると、
【数21】
と計算される。
【0052】
これにより、図2(a)に示す処理を、図2(b)に示す処理に変換することができる。図2(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0053】
PI制御(比例積分制御)コントローラの伝達関数は、比例ゲインおよび積分ゲインをそれぞれKPおよびKIとすると、F(s)=KP+KI/sで表される。したがって、図4に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GPIは、上記(10)式を用いて、下記(11)式のように算出される。
【数22】
【0054】
また、I制御(積分制御)コントローラの伝達関数は、積分ゲインをKIとすると、F(s)=KI/sで表される。したがって、図5に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GIは、上記(10)式を用いて、下記(12)式のように算出される。
【数23】
【0055】
以下に、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う電流コントローラを系統連系インバータシステムの制御回路に適用した場合を、本発明の第1実施形態として説明する。
【0056】
図6は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0057】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、および制御回路7を備えている。
【0058】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されて、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0059】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0060】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0061】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0062】
電流センサ5は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの各相の系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0063】
制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路7は、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電流を制御している。これにより、制御回路7は、各種フィードバック制御を行っている。
【0064】
図6においては、出力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。実際には、制御回路7は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)や無効電力制御(出力無効電力が予め設定された無効電力目標値となるように行うフィードバック制御)なども行っている。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
【0065】
制御回路7は、系統対抗分生成部72、三相/二相変換部73、電流コントローラ74、二相/三相変換部76、およびPWM信号生成部77を備えている。
【0066】
系統対抗分生成部72は、電圧センサ6から電圧信号Vを入力されて、系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成して出力する。系統指令値信号Ku,Kv,Kwは系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものであり、系統指令値信号Ku,Kv,Kwが後述する補正値信号Xu,Xv,Xwで補正されることにより指令値信号が生成される。
【0067】
三相/二相変換部73は、図17に示す三相/二相変換部73と同じものであり、電流センサ5より入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73で行われる変換処理は、上記(1)式に示す行列式で表される。
【0068】
電流コントローラ74は、三相/二相変換部73より出力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電流制御のための補正値信号Xα,Xβを生成するものである。電流コントローラ74は、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う。つまり、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔIαおよびΔIβとすると、下記(13)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電流コントローラ74は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数24】
【0069】
本実施形態において、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換したものが用いられる。d軸電流目標値には図示しない直流電圧制御のための補正値が用いられ、q軸電流目標値には、図示しない無効電力制御のための補正値が用いられる。なお、三相の電流目標値が与えられる場合は、当該目標値を三相/二相変換して、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値とすればよい。また、3つの電流信号Iu,Iv,Iwと三相の電流目標値とのそれぞれの偏差を先に算出し、この3つの偏差信号を三相/二相変換して、電流コントローラ74に入力するようにしてもよい。また、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
【0070】
図7は、行列GIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列GIの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列GIの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列GIの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω0=120πの場合)のものであり、積分ゲインKIを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0071】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、積分ゲインKIが大きくなると、振幅特性が大きくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列GIの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列GIの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
【0072】
本実施形態において、電流コントローラ74は、周波数重みに伝達関数の行列GIを用いて、線形制御理論の1つであるH∞ループ整形法によって設計される。電流コントローラ74で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計を行うことができる。
【0073】
電流コントローラ74には、出力電流が正弦波目標値に追従すること、および、瞬低時に出力を所定の時間内に所定の割合まで戻すこと(速応性)が、設計仕様として求められている。システムの出力がある目標値に完全追従するには、閉ループ系が目標発生器と同じ極を持ち、かつ、閉ループ系が漸近安定でなければならない(内部モデル原理)。正弦波目標値の極は±jωoであり、行列GIの各要素の伝達関数に含まれる1/(s2+ω02)の項の極も±jωoである。したがって、閉ループ系と目標発生器の極は同じである。また、H∞ループ整形法を用いれば、閉ループ系が漸近安定になるコントローラを設計することができる。したがって、速応性の条件を満たすようにH∞ループ整形法を用いて設計を行うことで、設計仕様に適合し最も安定な制御系を容易に設計することができる。
【0074】
なお、制御系の設計に用いる設計方法はこれに限られず、その他の線形制御理論を用いることもできる。例えば、ループ整形法、最適制御、H∞制御、混合感度問題などを用いて設計するようにしてもよい。
【0075】
図6に戻って、二相/三相変換部76は、図17に示す二相/三相変換部76と同じものであり、電流コントローラ74から入力される補正値信号Xα,Xβを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76で行われる変換処理は、上記(4)式に示す行列式で表される。
【0076】
系統対抗分生成部72が出力する系統指令値信号Ku,Kv,Kwと、二相/三相変換部76が出力する補正値信号Xu,Xv,Xwとがそれぞれ加算されて、指令値信号X’u,X’v,X’wが算出され、PWM信号生成部77に入力される。
【0077】
PWM信号生成部77は、入力される指令値信号X’u,X’v,X’wと、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pu,Pv,Pwを生成する。三角波比較法では、指令値信号X’u,X’v,X’wとキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号X’uがキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Puとして生成される。生成されたPWM信号Pu,Pv,Pwは、インバータ回路2に出力される。
【0078】
本実施形態において、制御回路7は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。上述したように、伝達関数の行列GIは、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列GIで表される処理を行う電流コントローラ74は、図17に示す回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理(図17におけるPI制御部74bおよびPI制御部75bが行うPI制御処理に対応する。)と等価の処理を行っている。また、図7の各ボード線図が示すように、行列GIの各要素の伝達関数の振幅特性は、中心周波数でピークを形成している。つまり、電流コントローラ74は、中心周波数成分だけがハイゲインになっている。したがって、図17に示すLPF74aおよび75aを設ける必要がない。
【0079】
また、電流コントローラ74で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。また、制御回路7には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、電流制御システム全体が線形時不変システムになっている。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(12)式に示す伝達関数の行列GIを用いることで、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0080】
なお、上記実施形態においては、電流コントローラ74で上記(13)式に示す処理を行っているが、行列GIの各要素の積分ゲインKIに要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、各要素である伝達関数毎に異なる積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。また、(1,2)要素と(2,1)要素の積分ゲインKIを「0」に設計して、正相分、逆相分の両方を制御するという付加特性を与えることもできる。正相分、逆相分の両方を制御する場合については、後述する。なお、要素毎に異なる積分ゲインKIを設計した場合でも、各要素である伝達関数の位相特性は変化しない。したがって、(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させ、(1,2)要素の伝達関数は中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させ、(2,1)要素の伝達関数は中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させることができる。
【0081】
上記第1実施形態においては、電流信号Iu,Iv,Iwの基本波成分の制御を行う場合について説明したが、これに限られない。電流信号Iu,Iv,Iwには基本波成分(正相分)の信号の他に、逆相分の信号が重畳されている。この逆相分の制御のみを行うようにしてもよい。
【0082】
図8は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0083】
同図(a)において、電流信号Iu,Iv,Iwの正相分を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。電流信号Iu,Iv,Iwの正相分を三相/二相変換したα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの正相分は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
【0084】
つまり、三相/二相変換部73(図6参照)から出力されるα軸電流信号Iαの正相分は、β軸電流信号Iβの正相分より90度位相が進んでいる。したがって、目標値との偏差ΔIαの正相分も偏差ΔIβの正相分より90度位相が進んでいる。偏差ΔIαに行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相は変化しない(図7(a)参照)。また、偏差ΔIβに行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相が90度進む(図7(b)参照)。したがって、両者の位相が偏差ΔIαの正相分と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。一方、偏差ΔIαに行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相が90度遅れる(図7(c)参照)。また、偏差ΔIβに行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、正相分の位相は変化しない。したがって、両者の位相が偏差ΔIβの正相分と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。
【0085】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。図8(b)において、電流信号Iu,Iv,Iwの逆相分を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。電流信号Iu,Iv,Iwの逆相分を三相/二相変換したα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの逆相分は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
【0086】
つまり、三相/二相変換部73から出力されるα軸電流信号Iαの逆相分は、β軸電流信号Iβの逆相分より90度位相が遅れている。偏差ΔIαに行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相は変化しない。また、偏差ΔIβに行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、偏差ΔIαに行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相が90度遅れる。また、偏差ΔIβに行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、逆相分の位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。したがって、電流コントローラ74は、正相分の制御を行ない、逆相分の制御は行なわない。
【0087】
伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分が打ち消しあって、逆相成分が強めあうことになる。したがって、第1実施形態において逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0088】
次に、正相分、逆相分の両方の制御を行なう場合について説明する。
【0089】
行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理は、正相分および逆相分の位相を変化させずに通過させる(図7(a)参照)。したがって、上記(12)式に示す行列GIの(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にした行列を用いると、正相分、逆相分の両方の制御を行なうことができる。以下に、正相分、逆相分の両方の制御を行なう場合を、第2実施形態として説明する。
【0090】
図9は、第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す制御回路7と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0091】
図9に示す制御回路7’は、電流コントローラ74に代えて、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’を設けている点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0092】
α軸電流コントローラ74’は、三相/二相変換部73より出力されるα軸電流信号Iαと目標値との偏差ΔIαを入力され、電流制御のための補正値信号Xαを生成するものである。α軸電流コントローラ74’は、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数KI・s/(s2+ω02)で表される処理を行う。また、α軸電流コントローラ74’は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【0093】
β軸電流コントローラ75’は、三相/二相変換部73より出力されるβ軸電流信号Iβと目標値との偏差ΔIβを入力され、電流制御のための補正値信号Xβを生成するものである。β軸電流コントローラ75’は、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数KI・s/(s2+ω02)で表される処理を行う。また、β軸電流コントローラ75’は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【0094】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’の伝達関数KI・s/(s2+ω02)において、積分ゲインKIにそれぞれ異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、α軸電流コントローラ74’とβ軸電流コントローラ75’とで、それぞれ個別に積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0095】
図10は、第2実施形態において行ったシミュレーション結果を説明するための図である。
【0096】
系統連系インバータシステムA(図6参照)の各相の電流に不平衡外乱を加えて、目標電流を20[A]とした場合のシミュレーションを行った。同図(a)は、α軸電流コントローラ74’(図9参照)に入力される偏差ΔIα、および、β軸電流コントローラ75’に入力される偏差ΔIβを示している。同図(b)は、各相の出力電流を電流センサ5によって検出した電流信号Iu,Iv,Iwを示している。同図(a)に示すように、偏差ΔIαおよび偏差ΔIβは徐々に小さくなり、0.14[s]でほぼ「0」になった。また、同図(b)に示すように、電流信号Iu,Iv,Iwは徐々に大きくなり、0.05[s]で目標の80%である16[A]に達した。また、電流信号Iu,Iv,Iwの各波形は、平衡状態を示している。不平衡外乱が除去され、正相分は目標値に追従していることから、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’は、正相分および逆相分を適切に制御できている。また、当該制御は、十分な速応性を有している。
【0097】
上記第1および第2実施形態においては、3つの電流信号Iu,Iv,Iwをα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換して制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、3つの電流信号Iu,Iv,Iwを用いて直接制御するようにしてもよい。以下に、この場合の実施形態を第3実施形態として説明する。
【0098】
図11は、第3実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す制御回路7と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0099】
図11に示す制御回路7”は、三相/二相変換部73および二相/三相変換部76を備えておらず、電流コントローラ74”が3つの電流信号Iu,Iv,Iwを用いて直接制御を行う点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0100】
三相/二相変換および二相/三相変換は、上記(1)式および(4)式で表されるので、三相/二相変換を行ってから伝達関数の行列Gで表される処理を行った後に二相/三相変換を行う処理は、下記(14)式に示す伝達関数の行列G’で表される。
【数25】
【0101】
したがって、電流コントローラ74”が行う処理を表す伝達関数の行列G’Iは、下記(15)式で表される。
【数26】
【0102】
電流コントローラ74”は、電流センサ5より出力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電流制御のための補正値信号Xu,Xv,Xwを生成するものである。電流コントローラ74”は、上記(15)式の伝達関数の行列G’Iで表される処理を行う。つまり、電流信号Iu,Iv,Iwとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔIu,ΔIv,ΔIwとすると、下記(16)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電流コントローラ74”は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数27】
【0103】
本実施形態において、電流信号Iu,Iv,Iwの目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換してさらに二相/三相変換したものが用いられる。なお、三相の電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。また、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値が与えられる場合は、二相/三相変換したものを用いればよい。
【0104】
本実施形態において、伝達関数の行列G’Iで表される処理を行う電流コントローラ74”は、図17に示す三相/二相変換部73、二相/三相変換部76、回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理(図17におけるPI制御部74bおよびPI制御部75bが行うPI制御処理に対応する。)と等価の処理を行っている。また、電流コントローラ74”で行われる処理は、伝達関数の行列G’Iで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、電流制御システム全体が線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0105】
第3実施形態において、逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列G’Iの要素の内、GI12(s)、GI23(s)およびGI31(s)と、GI13(s)、GI21(s)およびGI32(s)とを入れ換えた行列(すなわち、行列G’Iの転置行列)を用いればよい。
【0106】
次に、第3実施形態において、正相分、逆相分の両方の制御を行う場合について説明する。
【0107】
上記(14)式において、行列Gの(1,2)要素と(2,1)要素とを「0」にした場合を考えると、下記(17)式に示す伝達関数の行列G”が算出できる。
【数28】
【0108】
したがって、正相分、逆相分の両方の制御を行う場合に、電流コントローラ74”が行う処理を表す伝達関数の行列G”Iは、下記(18)式で表される。
【数29】
【0109】
上記第1ないし第3実施形態においては、電流コントローラ74(α軸電流コントローラ74’、β軸電流コントローラ75’、電流コントローラ74”)がI制御に代わる制御を行う場合について説明したがこれに限られない。例えば、PI制御に代わる制御を行うようにしてもよい。第1実施形態において、電流コントローラ74がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、上記(11)式に示される伝達関数の行列GPIを用いればよい。
【0110】
図12は、行列GPIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列GPIの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列GPIの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が60Hzの場合のものであり、積分ゲインKIを1に固定して、比例ゲインKPを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0111】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数にピークがあり、比例ゲインKPが大きくなると、中心周波数以外の振幅特性が大きくなっている。また、位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。
【0112】
同図(b)および(c)が示す振幅特性も、中心周波数にピークがある。また、振幅特性および位相特性は、比例ゲインKPに関係なく一定である。また、同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列GPIの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列GPIの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
【0113】
第2実施形態において、α軸電流コントローラ74’およびβ軸電流コントローラ75’がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、上記(11)式に示される伝達関数の行列GPIの(1,1)要素および(2,2)要素である伝達関数(KP・s2+KI・s+KP・ω02)/(s2+ω02)を用いればよい。
【0114】
第3実施形態において、電流コントローラ74”がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、下記(19)式に示される伝達関数の行列G’PIを用いればよい。
【数30】
【0115】
また、第3実施形態で正相分、逆相分の両方の制御を行う場合において、電流コントローラ74”がPI制御に代わる制御を行うようにする場合は、下記(20)式に示される伝達関数の行列G”PIを用いればよい。
【数31】
【0116】
PI制御に代わる制御を行う場合、比例ゲインKPを調整することにより、過渡時のダンピング効果を付加することができるというメリットがあるが、モデル化誤差の影響を受けやすくなるというデメリットがある。逆に、I制御に代わる制御を行う場合、過渡時のダンピング効果を付加することができないというデメリットがあるが、モデル化誤差の影響を受けにくくなるというメリットがある。
【0117】
なお、電流コントローラ74(α軸電流コントローラ74’、β軸電流コントローラ75’、電流コントローラ74”)がI制御およびPI制御以外の制御に代わる制御を行うようにしてもよい。上記(10)式において、伝達関数F(s)を各制御の伝達関数とすることで、回転座標変換を行ってから当該制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列を算出することができる。したがって、PID制御(伝達関数は、比例ゲインをKP、積分ゲインをKI、微分ゲインをKDとすると、F(s)=KP+KI/s+KD・sで表される。)に代わる制御を行うようにすることができるし、D制御(微分制御:伝達関数は、微分ゲインをKDとすると、F(s)=KD・sで表される。)、P制御(比例制御:伝達関数は、比例ゲインをKPとすると、F(s)=KPで表される。)、PD制御、ID制御などに代わる制御を行うようにすることができる。
【0118】
上記第1ないし第3実施形態においては、出力電流を制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、出力電圧を制御するようにしてもよい。以下に、出力電圧を制御する場合について、第4実施形態として説明する。
【0119】
図13は、第4実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0120】
図13に示すインバータシステムA’は、電力系統Bではなく負荷Lに電力を供給する点で、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA(図6参照)と異なる。負荷Lに供給される電圧を制御する必要があるので、制御回路8は、出力電流ではなく出力電圧を制御する。制御回路8は、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいてPWM信号を生成する点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。インバータシステムA’は、出力電圧をフィードバック制御によって目標値に制御しながら、負荷Lに電力を供給する。
【0121】
三相/二相変換部83は、電圧センサ6から入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部83で行われる変換処理は、下記(21)式に示す行列式で表される。
【数32】
なお、電圧信号Vu,Vv,Vwは各相の相電圧信号であるが、線間電圧信号を検出して用いるようにしてもよい。なお、この場合、線間電圧信号を相電圧信号に変換してから上記(21)式に示す行列式を用いるか、上記(21)式に示す行列に代えて、線間電圧信号をα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する行列にすればよい。
【0122】
電圧コントローラ84は、三相/二相変換部83より出力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβとそれぞれの目標値との偏差を入力され、電圧制御のための補正値信号Xα,Xβを生成するものである。電圧コントローラ84は、上記(12)式の伝達関数の行列GIで表される処理を行う。つまり、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβとそれぞれの目標値との偏差をそれぞれΔVαおよびΔVβとすると、下記(22)式に示す処理を行っている。角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、積分ゲインKIはあらかじめ設計されている。また、電圧コントローラ84は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分の補正も行われている。
【数33】
【0123】
本実施形態において、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値には、d軸電圧目標値およびq軸電圧目標値を静止座標変換したものが用いられる。なお、三相の電圧目標値が与えられる場合は、当該目標値を三相/二相変換して、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値とすればよい。また、α軸電圧目標値およびβ軸電圧目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
【0124】
本実施形態において、制御回路8は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。上述したように、伝達関数の行列GIは、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列GIで表される処理を行う電圧コントローラ84は、図17に示す回転座標変換部78、静止座標変換部79、およびI制御処理と等価の処理を行っている。また、図7の各ボード線図が示すように、行列GIの各要素の伝達関数の振幅特性は、中心周波数でピークを形成している。つまり、電圧コントローラ84は、中心周波数成分だけがハイゲインになっている。したがって、図17に示すLPF74aおよび75aを設ける必要がない。
【0125】
また、電圧コントローラ84で行われる処理は、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。また、制御回路8には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、電圧制御システム全体が線形時不変システムになっている。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(12)式に示す伝達関数の行列GIを用いることで、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0126】
なお、本実施形態においては、電圧コントローラ84で上記(22)式に示す処理を行っているが、行列GIの各要素の積分ゲインKIに要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、各要素である伝達関数毎に異なる積分ゲインKIを設計して用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。また、(1,2)要素と(2,1)要素の積分ゲインKIを0に設計して、正相分、逆相分の両方を制御するという付加特性を与えることもできる。また、逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0127】
また、3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを直接用いて正相分を制御する場合には、上記(15)式に示す伝達関数の行列G’Iを用いればよいし、逆相分を制御する場合には、伝達関数の行列G’Iの要素の内、GI12(s)、GI23(s)およびGI31(s)と、GI13(s)、GI21(s)およびGI32(s)とを入れ換えた行列(すなわち、行列G’Iの転置行列)を用いればよい。正相分、逆相分の両方の制御を行う場合には、上記(18)式に示す伝達関数の行列G”Iを用いればよい。また、電圧コントローラ84が、I制御に代わる制御を行うのではなく、他の制御(例えば、PI制御、D制御、P制御、PD制御、ID制御、PID制御など)に代わる制御を行うようにしてもよい。
【0128】
次に、出力電圧の制御と出力電流の制御とを切り替える場合について、第5実施形態として説明する。
【0129】
系統連系インバータシステムは、通常、電力系統に連系して、出力電流を制御しながら電力系統に電力を供給する。そして、電力系統内で事故が発生した場合、電力系統との接続が切り離され、インバータ回路の運転も停止される。しかし、電力系統内で事故が発生した場合に、系統連系インバータシステムを自律運転させて、系統連系インバータシステムに接続されている負荷に電力を供給する非常用電源として機能させる要求が高まっている。系統連系インバータシステムを自律運転させて負荷に電力を供給する場合、出力電圧を制御する必要がある。第5実施形態に係る系統連系インバータシステムは、第1実施形態と第4実施形態とを組み合わせたものであり、出力電圧の制御と出力電流の制御とを切り替えることができる系統連系インバータシステムである。
【0130】
図14は、第5実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0131】
図14に示す系統連系インバータシステムA”は、負荷Lに電力を供給しつつ、電力系統Bに連系しているときは電力系統Bにも電力を供給する。なお、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムAも同様であるが、第1実施形態においては、電力系統Bに連系している状態のみを説明していたので、負荷Lの記載および説明を省略していた。系統連系インバータシステムA”は、電力系統Bに連系しているときは電流制御を行い、電力系統Bとの接続が切り離されているときは電圧制御を行う。
【0132】
図14に示す制御回路8’は、三相/二相変換部83、電圧コントローラ84、電圧制御のための二相/三相変換部76とPWM信号生成部77、および、制御切替部85を備えている点で、第1実施形態に係る制御回路7(図6参照)と異なる。
【0133】
三相/二相変換部83および電圧コントローラ84は、第4実施形態に係る三相/二相変換部83および電圧コントローラ84(図13参照)と同じものであり、電圧センサ6から入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwに基づいて補正値信号Xα,Xβを生成する。そして、後段の二相/三相変換部76およびPWM信号生成部77によって、電圧制御のためのPWM信号が生成される。一方、三相/二相変換部73および電流コントローラ74は、電流センサ5から入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwに基づいて補正値信号Xα,Xβを生成する。そして、後段の二相/三相変換部76、系統対抗分生成部72、およびPWM信号生成部77によって、電流制御のためのPWM信号が生成される。制御切替部85は、電力系統Bに連系していない場合、電圧コントローラ84が生成した補正値信号Xα,Xβに基づく電圧制御のためのPWM信号を出力し、電力系統Bに連系している場合、電流コントローラ74が生成した補正値信号Xα,Xβに基づく電流制御のためのPWM信号を出力する。
【0134】
本実施形態において、系統連系インバータシステムA”は、電力系統Bに連系しているときに電流制御を行って電力系統Bに電力を供給することができ、電力系統Bに連系していないときに電圧制御を行って負荷Lに電力を供給することができる。また、本実施形態において、制御回路8’は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系で制御を行っている。電流コントローラ74および電圧コントローラ84で行われる処理は、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であり、伝達関数の行列GIで示されるので、線形時不変の処理である。したがって、電流制御システム全体および電圧制御システム全体がそれぞれ線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0135】
上記第1ないし第5実施形態においては、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステム(インバータシステム)に用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、例えば、不平衡補償装置、静止型無効電力補償装置(SVC、SVG)、電力用アクティブフィルタ、無停電電源装置(UPS)などに用いられるインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、モータや発電機の回転を制御するインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、直流を三相交流に変換するインバータ回路を制御する場合に限られず、例えば、三相交流を直流に変換するコンバータ回路や、三相交流の周波数を変換するサイクロコンバータなどの制御回路にも適用することができる。以下に、本発明をコンバータ回路の制御回路に適用した場合を、第6実施形態として説明する。
【0136】
図15は、第6実施形態に係る三相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。同図において、図6に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0137】
図15に示す三相PWMコンバータシステムCは、電力系統Bから供給される交流電力を直流電力に変換して負荷L’に供給するものである。負荷L’は、直流負荷である。三相PWMコンバータシステムCは、変圧回路4、フィルタ回路3、電流センサ5、電圧センサ6、コンバータ回路9、および制御回路7を備えている。
【0138】
変圧回路4は、電力系統Bから入力される交流電圧を所定のレベルに昇圧または降圧する。フィルタ回路3は、変圧回路4より入力される交流電圧から高周波成分を除去して、コンバータ回路9に出力する。電流センサ5は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電流を検出する。検出された電流信号Iは、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電圧を検出するものである。検出された電圧信号Vは、制御回路7に入力される。コンバータ回路9は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、負荷L’に出力する。コンバータ回路9は、三相PWMコンバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた電圧型コンバータ回路である。コンバータ回路9は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。なお、コンバータ回路9はこれに限定されず、電流型コンバータ回路であってもよい。
【0139】
制御回路7は、コンバータ回路9を制御するものである。制御回路7は、第1実施形態の制御回路7と同様に、PWM信号を生成してコンバータ回路9に出力する。図15においては、入力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。図示していないが、制御回路7は、直流電圧コントローラおよび無効電力コントローラも備えており、出力電圧および入力無効電力も制御している。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、コンバータ回路9が電流型コンバータ回路の場合、出力電圧制御に代えて、出力電流制御を行うようにすればよい。
【0140】
本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。三相PWMコンバータシステムCを小型化するためにフィルタ回路3を小さくした場合、電流制御の精度が落ちるために制御系の設計が難しくなるが、本実施形態においては、線形制御理論を用いて容易に制御系の設計を行うことができる。したがって、制御系設計の困難さによって小型化が妨げられることなく、三相PWMコンバータシステムCを小型化することができる。
【0141】
なお、三相PWMコンバータシステムCの構成は上記に限られない。例えば、制御回路7に代えて、制御回路7’,7”、8,8’を用いるようにしてもよい。また、コンバータ回路9の出力側にインバータ回路を設け、直流電力をさらに交流電力に変換して交流負荷に供給する、いわゆるサイクロコンバータとしてもよい。
【0142】
本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0143】
A,A” 系統連系インバータシステム
A’ インバータシステム
1 直流電源
2 インバータ回路(電力変換回路)
3 フィルタ回路
4 変圧回路
5 電流センサ
6 電圧センサ
7,7’,7”,8,8’ 制御回路
72 系統対抗分生成部
73,83 三相/二相変換部
74,74” 電流コントローラ(制御手段)
74’ α軸電流コントローラ(制御手段)
75’ β軸電流コントローラ(制御手段)
84 電圧コントローラ(制御手段)
85 制御切替部
76 二相/三相変換部
77 PWM信号生成部
9 コンバータ回路(電力変換回路)
B 電力系統
C 三相PWMコンバータシステム
L,L’ 負荷
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号を第1の信号と第2の信号に変換する三相二相変換手段と、
前記第1の信号および前記第2の信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号および第2の偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、
前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、
前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数1】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項2】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である3つの偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、
前記3つの偏差信号を第1の偏差信号および第2の偏差信号に変換する三相二相変換手段と、
前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、
前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数2】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第2の伝達関数および前記第3の伝達関数は、それぞれ、
【数3】
である、
請求項1または2に記載の制御回路。
【請求項4】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数および第2の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数4】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項5】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、
前記第1ないし第3の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数5】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項6】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KI/s(但し、KIは積分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項7】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s(但し、KPおよびKIは、それぞれ比例ゲインおよび積分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項8】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s+KD・s(但し、KP、KIおよびKDは、それぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項9】
前記3つの信号は、各相の出力電流または入力電流を検出した信号である、請求項1ないし8のいずれかに記載の制御回路。
【請求項10】
前記3つの信号は、各相の出力電圧または入力電圧を検出した信号である、請求項1ないし8のいずれかに記載の制御回路。
【請求項11】
制御系の設計が、ロバスト制御設計を用いて行われている、前記請求項1ないし10のいずれかに記載の制御回路。
【請求項12】
制御系の設計が、H∞ループ整形法を用いて行われている、前記請求項11に記載の制御回路。
【請求項13】
インバータ回路と、前記請求項1ないし12のいずれかに記載の制御回路とを備えた系統連系インバータシステム。
【請求項14】
コンバータ回路と、前記請求項1ないし12のいずれかに記載の制御回路とを備えた三相PWMコンバータシステム。
【請求項1】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号を第1の信号と第2の信号に変換する三相二相変換手段と、
前記第1の信号および前記第2の信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号および第2の偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、
前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、
前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数1】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項2】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である3つの偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、
前記3つの偏差信号を第1の偏差信号および第2の偏差信号に変換する三相二相変換手段と、
前記第1の偏差信号および前記第2の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号および第2の補正値信号を生成する制御手段と、
前記第1の補正値信号と前記第2の補正値信号とを3つの補正値信号に変換する二相三相変換手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、
【数2】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第2の伝達関数および前記第3の伝達関数は、それぞれ、
【数3】
である、
請求項1または2に記載の制御回路。
【請求項4】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、
前記第1の伝達関数および第2の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数4】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項5】
三相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記電力変換回路の三相の出力または入力に基づく3つの信号とそれぞれの目標値との偏差である第1の偏差信号、第2の偏差信号、および第3の偏差信号をそれぞれゼロに制御するための第1の補正値信号、第2の補正値信号、および第3の補正値信号を生成する制御手段と、
前記3つの補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えており、
前記制御手段は、
前記第1の偏差信号を第1の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を第2の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を第3の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第1の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第2の補正値信号を生成し、
前記第1の偏差信号を前記第2の伝達関数によって信号処理し、前記第2の偏差信号を前記第3の伝達関数によって信号処理し、前記第3の偏差信号を前記第1の伝達関数によって信号処理し、これらを加算することで前記第3の補正値信号を生成し、
前記第1ないし第3の伝達関数は、所定の制御処理を表す伝達関数をF(s)とし、前記三相交流の基本波の角周波数をω0、虚数単位をjとした場合、それぞれ、
【数5】
である、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項6】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KI/s(但し、KIは積分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項7】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s(但し、KPおよびKIは、それぞれ比例ゲインおよび積分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項8】
前記所定の制御処理を表す伝達関数が、F(s)=KP+KI/s+KD・s(但し、KP、KIおよびKDは、それぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)である、請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項9】
前記3つの信号は、各相の出力電流または入力電流を検出した信号である、請求項1ないし8のいずれかに記載の制御回路。
【請求項10】
前記3つの信号は、各相の出力電圧または入力電圧を検出した信号である、請求項1ないし8のいずれかに記載の制御回路。
【請求項11】
制御系の設計が、ロバスト制御設計を用いて行われている、前記請求項1ないし10のいずれかに記載の制御回路。
【請求項12】
制御系の設計が、H∞ループ整形法を用いて行われている、前記請求項11に記載の制御回路。
【請求項13】
インバータ回路と、前記請求項1ないし12のいずれかに記載の制御回路とを備えた系統連系インバータシステム。
【請求項14】
コンバータ回路と、前記請求項1ないし12のいずれかに記載の制御回路とを備えた三相PWMコンバータシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図7】
【図10】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図7】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2013−85434(P2013−85434A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280814(P2011−280814)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
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