説明

電力変換装置の電源識別方法

【課題】電圧の大きさが異なる電源を用いて、外部蓄電手段を充電する時に、どの電源が接続されているかを識別する必要がある。従来はそれぞれの電源コネクタに電源種別検知用の補助制御線を付加し、それを電力変換装置側で読み取る方法や、電力変換装置を停止する時に、直流中間回路の電荷を、交流電動機の巻線で消費する方法がとられていたが、前者はコストアップに繋がり、また、後者は交流電動機が回転しないように制御する必要があって、技術的な困難を伴い、運転効率の更なるアップに逆行する。
【解決手段】電力相変換装置の運転を停止するときに、直流中間回路に蓄えられた電荷を、昇降圧DC/DCコンバータ回路を経由して外部蓄電装置に放電させることで、次回の運転開始時に停止時の電源と異なった電圧が印加された場合でも確実に電源種別を識別し、無駄な電荷放電を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ異なる電圧を有する複数の電源によって、外部の蓄電装置を充電する機能を有する電力変換装置の電源識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置を充電しようとする場合に、高電圧大電力で急速充電する方法と、時間はかかっても例えば壁コンセントに給電されているような、単相AC100Vで手軽に充電する方法とが考えられる。このようにそれぞれ異なる電圧の複数の電源によって外部の蓄電装置を充電する場合には、何らかの手段でどの電源が接続されているかを電力変換装置に指示する必要があった。例えばそれぞれの電源コネクタに電源種別検知用の補助制御線を付加し、それを電力変換装置側で読み取る方法がある。しかし、この手段では余計な補助制御線を設ける必要があって、電力変換装置のコストアップに繋がる。
【0003】
補助制御線を設けない場合でも、電力変換装置の直流中間回路の直流電圧を計測することで、どの電源が接続されているか判断することは可能であるが、例えば電源のうち、三相AC200Vが接続されていて、それを切断した直後に単相AC100Vが再接続された場合には、三相AC200Vの整流電圧、直流約280Vが残留しており、単相AC100Vの整流電圧、DC約140Vの約2倍であるので、そのままでは単相AC100Vが接続されているとは識別不可能である。
【0004】
これらの問題を解決するには、電力変換装置がどの電源が接続されているか判断する前にその直流中間回路の直流電圧が、接続される電源のうち、その整流電圧が最も低い直流電圧の大きさより低ければ良い。すなわち電力変換装置の動作を停止させる際に、その直流中間回路の直流電圧を放電させることで解決できる。これらの解決手段として、停止時に放電抵抗を接続する方法があるが、電力変換装置の構成品の小型化・低コスト化に適していない。また別の手段として特許文献1と特許文献2が提案されている。
【0005】
特許文献1と特許文献2に係る技術では、電力変換装置の停止時に、その直流中間回路に蓄えられていた電荷を、交流電動機の巻線に流してその巻線抵抗に消費させて熱に変換し、放電させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3289567号公報
【特許文献2】実開昭63−29391号公報
【特許文献3】特開2000−295715号公報(第6頁図4および第7頁図7)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「パワースイッチング工学」、電気学会大学講座、社団法人電気学会、2003年8月5日、P90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような技術では電力変換装置の直流中間回路に蓄えられていた電荷を、熱として消費するために、電力変換装置の総合効率が低下し、外部の蓄電装置だけで運転する場合には、1充電あたりの運転継続時間が短くなってしまうなどの弊害がある。また、交流電動機の巻線に電流を流す時に、その交流電動機がトルクを発生することが無いようにしない場合、その交流電動機が一時的に回転する危険性があって、その電流制御方法は技術的に困難を伴う。
【0009】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、特別なハードウェアを追加することなく簡単な制御で、電力変換装置の停止時に、その直流中間回路に蓄えられていた電荷を、外部の蓄電装置に放電させる手段を有する電力変換装置の電源識別方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明によれば、複数の交流電源を接続できるように構成された、交流を直流に変換する整流器と、前記整流器の直流側に接続された、直流中間回路と、前記直流中間回路に接続され、交流電動機を駆動するためのインバータ回路と、外部の蓄電装置と、前記直流中間回路の間に接続され、該蓄電装置と該直流中間回路との間で双方向に電力をやり取りできるように構成された双方向DC/DCコンバータからなる電力変換装置において、該電力変換装置の運転を停止させるときに、前記直流中間回路に蓄えられた電荷を、前記双方向DC/DCコンバータによって、前記外部の蓄電装置にその電荷を移動させて、前記直流中間回路の電荷を放電し、次回の運転開始時の、前記直流中間回路の直流電圧の大きさによって、接続された複数の交流電源を識別するようしたことを特徴とした電力変換装置の電源識別方法である。
【0011】
本発明の電力変換装置の電源識別方法は、外部交流電源を整流する整流器と、電解コンデンサ等からなる直流中間回路と、外部の電動機を駆動するためのインバータ回路と、外部の蓄電装置を充放電するための昇降圧DC/DCコンバータ回路で構成され、電力変換装置の運転を停止するときに、直流中間回路に蓄えられた電荷を、昇降圧DC/DCコンバータ回路を経由して外部蓄電装置に放電させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、特別なハードウェアを追加することなく簡単な制御で、電力変換装置の停止時に、その直流中間回路に蓄えられた電荷を、外部の蓄電装置に放電させることによって、次回の運転開始時に、どの電源が接続されているかを確実に検知できる効果を有する。
【0013】
電力変換装置の停止時に、その直流中間回路に蓄えられた電荷を放電することによって、高電圧に充電された部分が極小化されて、メンテナンス時の感電防止にも役立つ効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態における望ましい、電力変換装置の運転開始時における充電動作を示すタイムチャートである。
【図3】本発明の実施形態における望ましい、電力変換装置の停止時における放電動作を示すタイムチャートである。
【図4】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置のうち、昇降圧DC/DCコンバータ回路の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置のうち、整流器の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置のうち、インバータ回路の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置のうち、昇降圧DC/DCコンバータ回路の、放電時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の実施形態における望ましくない、電力変換装置の停止時における、従来の放電動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態における直流中間電圧検出手段の例である。
【図10】本発明の実施形態における望ましい電力変換装置に示す直流中間回路の、他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1に示す本発明の実施形態における望ましい電力変換装置1は、外部交流電源10乃至12を整流する整流器3と、例えば電解コンデンサからなる直流中間回路5と、外部の交流電動機9を駆動するためのインバータ回路4と、外部の蓄電装置8を充放電するための昇降圧DC/DCコンバータ回路2で構成される。
【0017】
図4は、図1に示す昇降圧DC/DCコンバータ回路2の具体的構成例である。同図中41〜44はそれぞれスイッチング素子、45〜48はそれぞれ還流ダイオード、49はDCリアクトル、401はコンデンサである。
【0018】
図5は、図1に示す整流器3の具体的構成例である。同図中51〜56はそれぞれ整流ダイオードである。
【0019】
図6は、図1に示すインバータ回路4の具体的構成例である。同図中61〜66はそれぞれスイッチング素子、67〜69と601〜603はそれぞれ還流ダイオードである。
【0020】
図1に示す本発明の実施形態における望ましい電力変換装置1の、通常の運転形態は以下に示す通りである。
【0021】
図1に示す交流電動機9を運転する場合、同図外部蓄電装置8→二極電磁開閉器7→双方向DC/DCコンバータ回路2→インバータ回路4→交流電動機9の経由で電力を供給する。別の手段では、同図外部交流電源10(例えば三相AC200V)→外部電源用コネクタ13→三極電磁開閉器6→整流器3→直流中間回路5→インバータ回路4→交流電動機9の経由で電力を供給する。
【0022】
図1に示す外部蓄電装置8を充電する場合、同図外部交流電源10(例えば三相AC200V)→外部電源用コネクタ13→三極電磁開閉器6→整流器3→直流中間回路5→双方向電力変換器2→二極電磁開閉器7→外部蓄電装置8の経由で充電用電力を供給する。別の手段では、上記の同図外部交流電源10(例えば三相AC200V)→外部電源用コネクタ13の替わりに、外部交流電源11(例えば単相AC100V)→外部電源用コネクタ14、または外部交流電源12(例えば単相AC60V)→外部電源用コネクタ15を使用することも可能である。同図中外部電源用コネクタ13乃至15は、図示しない手段によってそのいずれか1つのみ接続が可能となる様に構成される。
【0023】
図4に示す昇降圧DC/DCコンバータ回路2の具体的構成例と、図6に示すインバータ回路の具体的構成例の一般的な動作については、それぞれ特許文献3と非特許文献1に記載のとおり、当業者に広く周知されている。また、図5に示す整流器の動作についても同様に広く周知されているので、ここでは詳述しない。
【0024】
図2は、電源投入時の、図1に示す直流中間回路5に印加される電圧の時間的変化を表わす代表的な例である。同図中Tは電源を投入した時刻、Tは、どの電源が投入されたかを検知しようとする時刻であって、通常は電源投入に伴う過渡現象が終了した頃になされる。図中の破線は、例えば電源が三相AC200Vの時、実線は単相AC100Vの場合を示し、電源が投入され、図1に示すインバータ回路4と双方向DC/DCコンバータが起動していない時には電源の電圧の波高値近くまで上昇する。時刻Tにおいて検知された電圧の大きさで、電源が三相AC200Vか、または単相AC100Vかを判断するものであって、その検知された電圧が約DC280Vであれば電源が三相AC200V、約DC140Vであれば単相AC100Vとみなすものである。
【0025】
図9は、直流中間電圧を検知して、どの外部電源が接続されているかを識別する手段の例である。同図中で91乃至96は分圧抵抗、97乃至99は比較器、901は基準電源である。それぞれの分圧抵抗の比率と基準電源の電圧は、例えば、図1に示す直流中間電圧が、250V、125V、75Vに対応するように定められ、図9に示す比較器99の出力109は、図1に示す直流中間電圧が75V以上で“L”から“H”に変化し、同様に125V以上で108、250V以上で107がそれぞれ“L”から“H”に変化する。表1はこれらの関係を一覧表にしたもので、例えば図9の107、108、109がそれぞれ“L”、“H”、“H”であれば、図1に示す外部電源電圧がAC100Vと識別される。
【表1】

【0026】
図8は、従来技術の、電源断時に図1に示す直流中間回路5に蓄えられた電荷を強制的に放電しない場合の波形例であって、電源断後も長時間その電荷を保つ。例えば図8の時刻Tの電源断時直前に三相AC200Vが接続されていて、そのすぐ後の時刻Tに単相AC100Vを接続した場合には、同図の破線で示すように前記直流中間回路5の電圧は、約DC270Vを保っているので、接続された電源が単相100Vとは識別出来ず、三相AC200Vと誤識別する。
【0027】
図3は、電源断時に図1に示す直流中間回路5に蓄えられた電荷を強制的に放電する場合の波形例であって、時刻Tに電源断後直ちにその電圧は零近辺に引き下げられる。従って、次に時刻Tに電源再投入された場合を考えると、図2に示すように、前記直流中間回路5の電圧がゼロの状態から電圧が上昇するので、同図中時刻Tでその電圧を検知する場合でも誤検知しない。
【0028】
本発明の要点は、電源断時に図1に示す直流中間回路5に蓄えられた電荷を強制的に放電する手段として、同図に示す双方向DC/DCコンバータ2の制御によって、同図中の蓄電装置8にその電気エネルギーを移動させるものである。
【0029】
図7は、図1に示す直流中間回路5に蓄えられた電荷を強制的に放電するための望ましい制御方法と、その直流中間回路5の電圧波形、および図4に示すDCリアクトル49に流れる電流波形と直流中間回路5を構成するコンデンサに流れる電流波形の例を示すものである。
【0030】
図7において、(1)〜(4)は、それぞれ図4に示すスイッチング素子41〜44のゲート電圧波形に対応する。同図中、各ゲート波形が“H”レベル時に対応するスイッチング素子が導通し、“L”レベル時に非導通となる。すなわち、図1に示す直流中間回路5に蓄えられた電荷を強制的に同図に示す蓄電装置8に移動させるには、図4に示すスイッチング素子41と44を同時にオンオフすることでその目的を達成する。その最も簡単なオンオフの方法は、そのオン期間とオフ期間をそれぞれ一定の値にすることである。
【0031】
図7に示す(5)は図4に示すDCリアクトル49に流れる電流波形、(6)は図1に示す直流中間回路5を構成するコンデンサに流れる電流波形、(7)は図1に示す直流中間回路5の電圧波形の具体例である。この例では図4に示すスイッチング素子41と44のオン期間とオフ期間は、それぞれ10μsと90μsとした。図7の時刻T10で図4に示すスイッチング素子41と44が導通すると、図1に示す直流中間回路5を構成するコンデンサの正極→母線101→図4に示すスイッチング素子41→同図DCリアクトル49→スイッチング素子44→直流母線102→図1に示す直流中間回路5を構成するコンデンサの負極に至る閉回路で電流が増加し、この間前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーが前記DCリアクトル49に移動する。図7の時刻T11で図4に示すスイッチング素子41と44をオフすると、同図DCリアクトル49に流れていた電流は、同図還流ダイオード47→母線103→コンデンサ401の正極と図1に示す蓄電装置8の正極に分流→それらの負極→母線104→還流ダイオード46→DCリアクトル49に至る閉回路で、コンデンサ401等の電圧に逆らう方向なので電流は次第に減少し、それらの電流がゼロになるまで継続し、DCリアクトル49に一時的に蓄えられた電気エネルギーは前記コンデンサ401と蓄電装置8に移される。以下、同様に時刻T12→T13→T14→T15・・・に示すように推移し、前記直流中間回路の電荷がほぼゼロになるまで続き、図3に示すように短時間で放電を終了し、その目的を達するものである。
【0032】
以上説明した本実施形態では、特別なハードウェアを追加することなく簡単な制御で、運転開始時に、どの電源が接続されているかを確実に検知できる効果を有する電力変換装置の電源識別方法を提供できるものである。
【0033】
図1に示す外部交流電源11と12は、交流電源に限定されることなく、例えば外部バッテリ電源のような外部直流電源でも同様な効果を有する。
【0034】
図1に示す直流中間回路は、コンデンサのみで構成されているが、図10に示すようにDCリアクトルとコンデンサで構成されたものでも同様な効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
電力相変換装置の運転を停止するときに、直流中間回路に蓄えられた電荷を、昇降圧DC/DCコンバータ回路を経由して外部蓄電装置に放電させることで、次回の運転開始時に停止時の電源と異なった電圧が印加された場合でも確実に電源種別を識別し、無駄な電荷放電を防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 電力変換装置
2 双方向DC/DCコンバータ回路
3 整流器
4 インバータ回路
5 直流中間回路
6 三極電磁開閉器
7 二極電磁開閉器
8 蓄電装置
9 交流電動機
10〜12 外部交流電源
13〜15 外部電源用コネクタ
41〜44 スイッチング素子
45〜48 還流ダイオード
49 DCリアクトル
401 コンデンサ
51〜56 整流ダイオード
61〜66 スイッチング素子
67〜69 還流ダイオード
601〜603 還流ダイオード
91〜96 分圧抵抗
97〜99 比較器
901 基準電源
1001 DCリアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の交流電源を接続できるように構成された、交流を直流に変換する整流器と、
前記整流器の直流側に接続された、直流中間回路と、
前記直流中間回路に接続され、交流電動機を駆動するためのインバータ回路と、
外部の蓄電装置と、前記直流中間回路の間に接続され、該蓄電装置と該直流中間回路との間で双方向に電力をやり取りできるように構成された双方向DC/DCコンバータからなる電力変換装置において、該電力変換装置の運転を停止させるときに、前記直流中間回路に蓄えられた電荷を、前記双方向DC/DCコンバータによって、前記外部の蓄電装置にその電荷を移動させて、前記直流中間回路の電荷を放電し、次回の運転開始時の、前記直流中間回路の直流電圧の大きさによって、接続された複数の交流電源を識別するようしたことを特徴とする電力変換装置の電源識別方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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