説明

電力系統の演算システム

【課題】電力系統全体のアドミッタンスマトリックスを高速に且つ低コストで演算する。
【解決手段】インバータ3のインバータ主回路4であるスイッチング回路と制御回路の間、及び、インバータ3が接続される電力系統網2と制御回路5との計測信号受信点6において、インバータ3のスイッチング回路と直流回路からなる主回路分割回路7と、制御回路5からなる制御分割回路5nとにそれぞれ分割し、分割したこれらの各分割回路7、5nを別々の計算領域として構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、太陽光発電が急速に普及しており、配電線に太陽光発電機が数百台以上連系されることが予想され、電力系統に与える影響の把握が重要な課題となってきている。
【0003】
従来、大規模電力系統の解析は大きな慣性モーメントを持った回転機を対象としているために、60Hzや50Hz等の基本周波数より低い周波数領域を対象とした実行値ベースで行うことができる。しかし、太陽光発電に用いられるインバータは慣性モーメントがなく応答が速く、PWM制御などスイッチング制御を用いているため、基本周波数より高い周波数成分を含めた解析を必要としており、従来の実行値ベースの解析では対応できない。このことから、瞬時値ベースの計算が必要とされている。この瞬時値ベースの詳細な計算にはEMTP(Electro-magnetic Transient Program)という電気・電子回路解析プログラム等が用いられることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記EMTPは電力技術用として信頼性と汎用性が高いのであるが、大規模系統の解析では大容量のメモリを要すると共に、計算に長時間を要するために、太陽光発電システムの詳細なシミュレーションでは10台程度が限界である。このため、計算時間の短縮と少なくとも数十台以上の詳細なシミュレーションが可能な装置が求められている。
【0005】
因みに、このEMTPなどでは電力系統の過度解析に台形積分公式(トロペゾイダル則)が用いられている。この台形積分を用いることで、積分の各計算ステップ(計算刻み幅Δt)を、1ステップ前の電圧や電流の履歴から計算される仮想電流源と等価抵抗から構成される回路網で表して、微分方程式の数値解析を単純なマトリクス計算に置き換えて計算することを可能にした手法である。
【0006】
従って、大規模な系統を解析しようとすると、回路マトリクスの次元が大きくなることから、計算に長時間を要したり、計算機のメモリ容量や解析ソフトの処理能力の限界から、解析できる規模にも限界が生じる。
【0007】
これを回避するには回路を分割し、マトリクスを小さくすることが考えられる。
【0008】
しかし、回路を構成するブランチ両端のノード電圧の大きさは、回路網を通じて互いに影響しあっているため、分布定数回路で表された電力系統にシュナイダー・バージェロン法(Schunyder Bergeron Method)が適用できる場合を除いて回路を分割して計算することは出来ない等々の問題がある。
【0009】
本願は、インバータや制御回路の特性と瞬時値ベースの計算アルゴリズムの特徴を利用することで、並列計算と大規模系統のシミュレーション演算を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願の第1の電力系統の演算システムは、
複数のノードを結ぶ電力系統網と、該電力系統網に連系するインバータと、それぞれのインバータが前記電力系統網に連系する点の計測信号受信点に接続されてそれぞれの前記インバータのスイッチング回路を制御する制御回路とを有する電力系統の演算システムにおいて、
前記インバータのスイッチング回路と該スイッチング回路を制御する制御回路の間、および、前記インバータが接続される前記電力系統網と前記制御回路の計測信号受信点の間において回路を分割し、前記電力系統網と前記インバータのスイッチング回路と直流回路からなる主回路分割回路と、前記制御回路からなる制御分割回路を別々の計算領域として構成したことを特徴とする。
【0011】
本願の第2の電力系統の演算システムは、請求項1の電力系統の演算システムにおいて、前記各計算領域に対応した演算装置は、前記主回路分割回路のアドミッタンスマトリックス演算において、前記インバータの「入り」「切り」動作における状態変化が次の計算ステップに移るときしか生じないと見なすことができるように、当該計算領域における演算ステップの演算刻み幅Δtを前記インバータの状態変化の時間間隔に比べて十分短く設定するか、若しくは、前記演算ステップの切り替わりが前記状態変化に一致するように演算刻み幅Δtを設定するかの少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0012】
本願の第3の電力系統の演算システムは、請求項1、2の何れかの電力系統の演算システムにおいて、各計算領域に対応した当該計算領域を演算する演算装置を設置するとともに、各計算領域の演算装置を通信回路を介して接続し、各計算領域の演算装置は、各々の計算領域に対応した計算領域を並列的に演算し、その演算結果を通信回路を通してデータ交換して同期をとった電力系統全体のシミュレーション演算を行うことを特徴とする。
【0013】
本願の第4の電力系統の演算システムは、請求項1乃至請求項3の何れかの電力系統の演算システムにおいて、前記主回路分割回路と前記制御分割回路からなる分割回路は、少なくとも1つのインバータ又は発電装置の制御回路の何れかを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1の電力系統の演算システムによれば、インバータのスイッチング回路と制御回路の間、及び、インバータが接続される電力系統網と制御回路の計測信号受信点の間において、前記電力系統網と前記インバータのスイッチング回路と直流回路からなる主回路分割回路と、制御回路からなる制御分割回路とにそれぞれ分割し、分割したこれらの各分割回路を別々の計算領域として構成することによって、各計算ステップにおいて電力系統網およびスイッチング回路と直流回路からなる主回路の各アドミッタンスを、制御回路の影響を受けないで演算できる。また、各計算ステップにおいて、制御分割回路の演算を主回路分割回路の影響を受けないで行うことができる。
【0015】
本願の第2の電力系統の演算システムによれば、各計算領域に対応した演算装置は、インバータのアドミッタンスマトリックス演算において、インバータの「入り」「切り」動作における状態変化が次の計算ステップに移るときしか生じないと見なすことができるように、当該計算領域における演算ステップの演算刻み幅Δtを前記インバータの状態変化の時間に比べて十分短く設定するか、若しくは、前記演算ステップの切り替わりが前記状態変化に一致するように演算刻み幅Δtを設定することによって、インバータ回路の「入り」「切り」動作の影響を受けないで各ノードのアドミッタンスを演算できる。
【0016】
本願の第3の電力系統の演算システムによれば、各計算領域に対応した当該計算領域を演算する演算装置を設置するとともに、各計算領域に対応した演算装置を通信回路を介して接続し、各計算領域の演算装置は、各々の計算領域に対応した計算領域を並列的に演算し、その演算結果を通信回路を通してデータ交換して同期をとった電力系統全体のシミュレーション演算を行うことによって、大規模な電力系統で多数のインバータが連系される電力系統であっても各ノード間を含む電力系統全体のシミュレーションを高速に且つ低コストで演算できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態にかかる電力系統の演算システムを図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、この電力系統の演算システムの構成を示す。1は電力系統網、3はインバータ、4はインバータ3のスイッチング回路を含む主回路と直流回路を含むインバータ主回路、5はインバータ3の制御回路である。
【0019】
複数のノードを結ぶ電力系統網1には、複数個のインバータ3が連系して接続されている。インバータ3は電力系統網1に接続されるインバータ主回路4とインバータ主回路4を制御する制御回路5を有する。インバータ主回路4は、インバータ3のスイッチング素子を有するスイッチング回路と直流回路とで構成され、制御回路5はインバータ3が連系する電力系統網1の計測信号受信点6に接続されてインバータ3のスイッチング回路を制御する。
【0020】
各インバータ3のインバータ主回路4と制御回路5の間およびインバータ3が連系する電力系統網1と制御回路5の計測信号受信点6の間は、アドミッタンス演算上分割され、複数のインバータ主回路4と電力系統網1とからなる主回路分割回路7と、制御回路5からなる複数の制御分割回路5n(nは1、2、3・・・の整数)が構成されている。図2に示すように、主回路分割回路7には、主回路分割回路7を演算する演算装置としてのコンピュータ8が設置されている。また、制御分割回路5nには制御分割回路5nのそれぞれを演算する演算装置としてのコンピュータ9n(nは1、2、3・・・の整数)が設置されている。
【0021】
図2に示すように、コンピュータ8およびコンピュータ91乃至コンピュータ9nは電気通信回線を介してデータベースサーバ10に接続されており、コンピュータ8および各コンピュータ91乃至9nの演算結果はデータベースサーバ10に記憶されるようになっている。データベースサーバ10は、コンピュータ8および各コンピュータ91乃至9nから送信された演算データをデータベースとして保存するプログラムを有する。
【0022】
コンピュータ8は、当該計算ステップの計算結果を、データベースサーバ10に保存すると共に、各コンピュータ91乃至9nの当該計算ステップが終了し、コンピュータ91乃至9nの計算結果がデータベースサーバ10に保存され、計算データが更新されたことを確認すると、各コンピュータ91乃至9nに次の計算ステップi+1を進めさせるための信号データをデータベースサーバ10に書き込むプログラムと、データベースサーバ10に保存された各コンピュータ91乃至9nの演算データ結果を読み込むと共に、読み込み終了の信号をデータベースサーバ10に保存し、次の計算ステップi+1の演算を行い、コンピュータ91乃至9nが次の計算ステップi+1のためのデータを読み込み終了したことを確認の上、コンピュータ8の計算結果をデータベースサーバ10に保存するプログラムを有する。
【0023】
各コンピュータ91乃至9nは、次の計算ステップi+1を進めるための信号をデータベースサーバ10上に確認すると、データベースサーバ10上に保存されたコンピュータ8の計算結果を読み込むと共に、読み込み終了の信号をデータベースサーバ10に保存し、次の計算ステップi+1の演算を行い、コンピュータ8が次の計算ステップのためのデータ読み込みを終了したことを確認の上、計算結果と次の計算ステップi+1が終了した信号をデータベースサーバ10上に保存するプログラムを有する。
【0024】
主回路分割回路7および制御分割回路5nの各計算領域に対応した演算装置となるコンピュータ8および9nは、各分割回路の演算において、インバータ3のインバータ主回路4が「入り」「切り」動作する際の状態変化が次の計算ステップに移るときしか生じないと見なすことができるように、各計算領域における演算ステップの演算刻み幅Δtをインバータ3の状態変化の時間に比べて十分短く設定され、又は、演算ステップの切り替わりがインバータの状態変化に一致するように設定されている。
【0025】
なお、制御回路を直列接続された制御ブロックで表したとき、制御ブロックの中に、制御ブロックの伝達関数の分子のラプラス演算子の次数が、分母の演算子次数より小さい伝達関数で表された制御ブロックがあると、その制御ブロックの出力信号が同じ計算ステップでは他の制御ブロックや制御ブロックが接続されている主回路の計算に影響を与えないために、そのような制御ブロックが制御回路に直列に接続されていると、スイッチング回路と同様にその制御回路の前又は後で分割することが可能になる。これを利用すれば、同期発電機の界磁回路や駆動装置の制御回路もインバータ回路と同様に制御分割回路と電力系統網と同期発電機からなる主回路分割回路に分割して計算することが可能となる。
【0026】
例として、前掲のEMTP(Electro-magnetic Transient Program)という電気・電子回路解析プログラムに適用する方法を示す。
【0027】
このプログラムの処理概要は、次の通りである。即ち、例えば、コンピュータ8のEMTPプログラムは、各計算ステップにおいて、先ず、主回路分割回路7の演算を行う。この演算が終わると、データベースサーバ10に、インバータ連系点における電圧・電流情報および計算ステップ開始識別信号をファイルに書き込む。
【0028】
コンピュータ9nのEMTPプログラムは、コンピュータ8の演算プログラムが書き込む上記計算ステップ開始識別信号を監視し、計算ステップの開始を判断すると、分割回路5nのインバータ連系点の電圧・電流情報をこのファイルから読み込む。このデータを基に、コンピュータ9nのEMTPプログラムは、分割回路5nにおける演算を行う。演算が終了したら、コンピュータ9nのEMTPプログラムは、インバータ3のスイッチング素子の「入り」「切り」情報と、計算ステップ終了識別信号を書き込む。
【0029】
コンピュータ8のEMTPプログラムは、コンピュータ9nのEMTPプログラムが書き込んだ計算ステップ終了識別信号を監視し、計算ステップ終了を判断すると、インバータ3のスイッチング素子の「入り」「切り」情報を読み込む。このデータを基にして、EMTPプログラムは上記の計算を行い、計算終了ステップまで繰り返す。
【0030】
このような操作を行うことにより、電力系統網1と分割回路5nが同期を取って、データを受け渡しながら演算を継続することができる。
【0031】
この実施の形態の電力系統のアドミッタンス演算システムによれば、インバータ3のインバータ主回路4であるスイッチング回路と制御回路の間、及び、インバータ3が接続される電力系統網1と制御回路5との計測信号受信点6において、電力系統網1およびインバータ3のスイッチング回路と直流回路からなる主回路分割回路7と、制御回路5からなる制御分割回路5nとにそれぞれ分割し、分割したこれらの各分割回路7、5nを別々の計算領域として構成することによって、各計算ステップ内では主回路分割回路7の各アドミッタンスを、制御分割回路5nの影響を受けないで演算できる。また、各計算ステップ内で制御分割回路5nの演算を主回路分割回路7の影響を受けないで演算できる。
【0032】
また、各計算領域である制御分割回路5nに対応した演算装置であるコンピュータ9n、および、電力系統網1とインバータ3のインバータ主回路4からなる主回路分割回路7のアドミッタンスマトリックス演算に対応したコンピュータ8は、インバータの「入り」「切り」動作における状態変化が次の計算ステップに移るときしか生じないと見なすことができるように、当該計算領域における演算ステップの演算刻み幅Δtを前記インバータの状態変化の時間に比べて十分短く設定するか、若しくは、演算ステップの切り替わりが前記インバータの状態変化に一致するように設定することによって、各演算ステップではインバータ回路の「入り」「切り」動作の影響を受けないで各ノードのアドミッタンスを演算できる。
【0033】
主回路分割回路7に対応したコンピュータ8および各分割回路5nに対応したコンピュータ9nを通信回路を介して接続する一方、コンピュータ8および各コンピュータ9nは、主回路分割回路7および制御分割回路5nを並列的に演算し、その演算結果を通信回路を通してデータ交換して同期をとった電力系統網1およびインバータ主回路4からなる主回路分割回路7のアドミッタンスマトリックス演算および制御分割回路5nの演算を行うことによって、大規模な電力系統で多数のインバータが連系される電力系統であっても各ノード間を含む電力系統全体の演算を高速に且つ低コストで演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態にかかる電力系統網のアドミッタンス演算システムのシステム概念図。
【図2】電力系統網全体の演算を行うためのシステム概念図。
【符号の説明】
【0035】
1 電力系統網
3 インバータ
4 インバータ主回路
5 制御回路
5n 制御分割回路
6 計測信号受信点
7 主回路分割回路
8 コンピュータ(演算装置)
9n コンピュータ(演算装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノードを結ぶ電力系統網と、該電力系統網に連系する複数のインバータと、それぞれのインバータが前記電力系統網に連系する点の計測信号受信点に接続されてそれぞれの前記インバータのスイッチング回路を制御する制御回路とを有する電力系統の演算システムにおいて、
前記インバータのスイッチング回路と該スイッチング回路を制御する制御回路の間、および、前記インバータが接続される前記電力系統網と前記制御回路の計測信号受信点の間において回路を分割し、前記電力系統網と前記インバータのスイッチング回路と直流回路からなる主回路分割回路と、前記制御回路からなる制御分割回路を別々の計算領域として構成したことを特徴とする電力系統の演算システム。
【請求項2】
請求項1の電力系統の演算システムにおいて、
前記各計算領域に対応した演算装置は、前記主回路分割回路のアドミッタンスマトリックス演算において、前記インバータの「入り」「切り」動作における状態変化が次の計算ステップに移るときしか生じないと見なすことができるように、当該計算領域における演算ステップの演算刻み幅Δtを前記インバータの状態変化の時間間隔に比べて十分短く設定するか、若しくは、前記演算ステップの切り替わりが前記状態変化に一致するように前記演算刻み幅Δtを設定するかの少なくとも何れかであることを特徴とする電力系統の演算システム。
【請求項3】
請求項1、2の何れかの電力系統の演算システムにおいて、
前記各計算領域に対応した当該計算領域を演算する演算装置を設置するとともに、各計算領域の演算装置を通信回路を介して接続し、
各計算領域の演算装置は、各々の計算領域に対応した計算領域を並列的に演算し、その演算結果を通信回路を通してデータ交換して同期をとった電力系統全体のシミュレーション演算を行うことを特徴とする電力系統の演算システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかの電力系統の演算システムにおいて、前記主回路分割回路と前記制御分割回路からなる分割回路は、少なくとも1つのインバータ又は発電装置の制御回路の何れかを有することを特徴とする電力系統の演算システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−271141(P2006−271141A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87583(P2005−87583)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】