説明

電動アシスト台車

【課題】電動アシスト台車の信頼性を向上する。
【解決手段】荷物を載置可能な車体フレーム1と、車体フレーム1に設けられる駆動輪11と、作業者によって押圧操作され車体フレーム1に駆動力を入力可能な操作部5と、操作部5が押圧操作されることによって車体フレーム1に作用する駆動トルクを検出するトルクセンサ6と、トルクセンサ6によって検出された駆動トルクに応じて駆動輪11に付与するアシスト力を演算するコントローラ30と、コントローラ30によって演算されたアシスト力を駆動輪11に付与する電動モータ15とを備え、コントローラ30は、電動モータ15に、第一設定値以上の大きさの電流が第一設定時間だけ連続して流れたことを判定する電流判定部31と、電流判定部31の判定に基づいて電動モータ15に供給可能な電流の最大値を前記第一設定値と比較して小さくする電流制御部32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力が電動モータによってアシストされる電動アシスト台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場などで使用される台車に重量のある荷物が載せられると、作業者は運搬開始時に大きな力で台車を押す必要があるため、重労働となっていた。
【0003】
この対策として、特許文献1には、台車を押す作業者の力を検出し、電動モータによって人力に応じた補助動力が与えられる電動アシスト手押し台車が提案されている。この電動アシスト手押し台車では、作業者による手押し枠体の操作に応じて前進時及び後進時における作業者の押す力をアシストしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電動アシスト手押し台車では、作業者が手押し枠体を操作し続けた場合には、電動モータが補助動力を発生し続けることとなる。そのため、例えば大きな補助動力が連続して発生する運転状態では、電動モータやコントローラが過負荷状態となり、電動アシスト台車の信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電動アシスト台車の信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、作業者によって付与される駆動力にアシスト力が付与されて走行可能な電動アシスト台車であって、荷物を載置可能な車体フレームと、前記車体フレームに設けられる駆動輪と、作業者によって押圧操作され、前記車体フレームに駆動力を入力可能な操作部と、前記操作部が押圧操作されることによって前記車体フレームに作用する駆動トルクを検出するトルク検出部と、前記トルク検出部によって検出された駆動トルクに応じて、前記駆動輪に付与するアシスト力を演算するコントローラと、前記コントローラによって演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与する電動モータと、を備え、前記コントローラは、前記電動モータに、第一設定値以上の大きさの電流が第一設定時間だけ連続して流れたことを判定する電流判定部と、前記電流判定部の判定に基づいて、前記電動モータに供給可能な電流の最大値を前記第一設定値と比較して小さくする電流制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、第一設定値以上の大きさの電流が第一設定時間を超える時間だけ連続して流れたと電流判定部が判定すると、電流制御部は、電動モータに供給可能な電流の最大値を第一設定値と比較して小さくする。よって、大きなアシスト力が連続して付与されることが防止され、電動モータやコントローラが過負荷状態となることが防止される。したがって、電動アシスト台車の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動アシスト台車の斜視図である。
【図2】図1における側面図である。
【図3】図1における正面図である。
【図4】電動アシスト台車の制御ブロック図である。
【図5】電動アシスト台車におけるフェールセーフ動作を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
まず、図1から図4を参照して、本発明の実施の形態に係る電動アシスト台車100について説明する。
【0012】
電動アシスト台車100は、例えば工場などにて、重量物を運搬するのに使用される。電動アシスト台車100は、作業者によって付与される駆動力に、後述する電動モータ15の回転によるアシスト力が付与されて走行するものである。
【0013】
電動アシスト台車100は、車体フレーム1と、車体フレーム1上に設けられ荷物を載置可能な荷台3と、車体フレーム1の左右二箇所から駆動力を入力可能な操作部としての操作ハンドル5と、車体フレーム1の左右に間隔をあけて設けられる一対の駆動輪11と、車体フレーム1に装着され駆動輪11の後方に設けられる一対の自在輪12とを備える。駆動輪11は、電動アシスト台車100の前輪であり、自在輪12は、電動アシスト台車100の後輪である。
【0014】
車体フレーム1は、角形のパイプ材が組み合わされたフレームである。車体フレーム1は、荷台3を介して荷物が載置される平面部1aと、平面部1aの下部に突設される下部突設部1bと、平面部1aの後端上部に立設される立設部1cとを有する。
【0015】
荷台3は、車体フレーム1における平面部1aの上方を覆うようにして設けられる縁付きの平板である。荷台3上には、荷物が直接載置される。荷台3は、縁なしの平板であってもよい。また、荷台3に代えて、車体フレーム1上にローラコンベアを設置し、ローラコンベアを介して荷物を載置してもよい。
【0016】
車体フレーム1と荷台3の間には、図2に示すように、昇降装置2が設けられる。この昇降装置2は、電動昇降シリンダ2a(図4参照)によって荷台3を車体フレーム1に対して昇降させる。例えば、荷台3に重量物が載置され、後述する懸架装置20によって駆動輪11及び自在輪12に対して車体フレーム1が沈み込んだ場合には、昇降装置2が荷台3を上昇させ、路面に対する荷台3の高さを一定に調節することが可能である。
【0017】
電動昇降シリンダ2aは、後述するコントローラ30と電気的に接続され、コントローラ30からの指令信号に基づいて伸縮する。電動昇降シリンダ2aは、モータによって駆動される油圧ポンプを備え、油圧ポンプから吐出される作動油の圧力によって伸縮する電動油圧式リニアアクチュエータである。
【0018】
操作ハンドル5は、図1に示すように、作業者によって押圧操作される逆U字型のハンドルである。操作ハンドル5は、その左右の両端が、車体フレーム1における立設部1cに連結される。これにより、作業者が操作ハンドル5を操作することによって入力される駆動力が、車体フレーム1に伝達される。
【0019】
駆動輪11は、車体フレーム1の前後方向に向かって転舵不能に設けられる小型の車輪である。駆動輪11は、車体フレーム1の前端部近傍に一対設けられる。駆動輪11は、車体フレーム1の下部突設部1bに対して上下運動可能に固定される。
【0020】
自在輪12は、走行時に常に進行方向を向く小型の車輪である。自在輪12は、路面との間の摩擦抵抗によって旋回し、進行方向を向くように操舵される。自在輪12は、車体フレーム1の下部突設部1bに対して上下運動可能に固定される。
【0021】
電動アシスト台車100は、車体フレーム1に対して上下運動可能な四個のサブフレーム4と、サブフレーム4を介して駆動輪11と自在輪12とを懸架する懸架装置20とを備える。
【0022】
サブフレーム4は、一対の駆動輪11と一対の自在輪12との各々の車輪に対応して四個設けられる。サブフレーム4は、車体フレーム1の左右に二個ずつ配設される。各々のサブフレーム4の下面には、駆動輪11又は自在輪12が回転可能に固定される。
【0023】
懸架装置20は、車体フレーム1に左右のサブフレーム4を上下運動可能に支持する四本のサスペンションアーム22と、車体フレーム1と左右のサブフレーム4の間に設けられるスプリングダンパ23とを備える。
【0024】
サスペンションアーム22は、一個のサブフレーム4に対して四本ずつ設けられる。サスペンションアーム22は、それぞれの両端部が車体フレーム1と左右のサブフレーム4とに水平軸まわりに回動可能に連結され、車体フレーム1に対してサブフレーム4を平行移動可能に支持する平行リンク機構を構成する。
【0025】
これにより、車体フレーム1に対してサブフレーム4が昇降しても、サブフレーム4の姿勢が変化せず、駆動輪11と自在輪12との位置関係(アライメント)が一定に保たれる。よって、サブフレーム4が昇降しても、駆動輪11と自在輪12との一方が路面から浮くことが抑制される。
【0026】
スプリングダンパ23は、路面不整などによる駆動輪11及び自在輪12の上下振動を吸収して緩和し、路面からの振動が車体フレーム1に伝達されることを抑制するものである。スプリングダンパ23は、コイルスプリング23aとダンパ23bとを備え、サブフレーム4が昇降するのに伴って伸縮する。
【0027】
コイルスプリング23aは、そのバネ力によってサブフレーム4が受ける荷重を支持し、サブフレーム4が昇降するのに伴って伸縮する。
【0028】
ダンパ23bは、伸縮作動するのに伴ってこれに充填された作動油が減衰弁(図示省略)を通過し、サブフレーム4の振動を抑制する減衰力を発生する。
【0029】
なお、懸架装置20は、上述の構成に限らず、車体フレーム1に対するサブフレーム4の姿勢が保たれるならば、他の構成であってもよい。
【0030】
電動アシスト台車100は、操作ハンドル5が押圧操作されることによって車体フレーム1の左右二箇所の各々に作用する駆動トルクを検出する一対のトルク検出部としてのトルクセンサ6と、トルクセンサ6によって検出された駆動トルクに応じて各々の駆動輪11に付与するアシスト力を演算するコントローラ30と、コントローラ30によって演算されたアシスト力を各々の駆動輪11に付与する一対の電動モータ15と、各々の駆動輪11の回転を制動する一対のブレーキ16と、作業者によって操作可能な各種スイッチが設けられる操作盤29とを備える。
【0031】
トルクセンサ6は、コントローラ30に電気的に接続され、検出した駆動トルクに応じた電気信号をコントローラ30に出力する。トルクセンサ6は、操作ハンドル5と車体フレーム1とを連結して操作部から入力される駆動力によって捩れるとともに駆動力を車体フレーム1に伝達するトーションバー(図示省略)と、トーションバーの捩れに応じた電気信号を出力するポテンショメータ(図示省略)とを備え、トーションバーの捩れに基づいて駆動トルクを検出する。トルクセンサ6に設けられるトーションバーを変更することで、その他の部材を変更することなく、台車の積載荷重などに応じて作業者による操作感覚を変更することも可能である。
【0032】
電動モータ15は、コントローラ30に電気的に接続され、コントローラ30から入力される電気信号に応じて回転する。電動モータ15は、図3に示すように、駆動輪11の内側に配設され、駆動輪11にアシスト力を付与する。左右の電動モータ15は、互いに同軸に設けられ、一対の駆動輪11の間に直列に配設される。電動モータ15は、回転を減速して駆動輪11に伝達する変速機(図示省略)を備える。
【0033】
ブレーキ16は、電動モータ15の出力軸と駆動輪11との間に配設される。ブレーキ16は、制動状態と非制動状態とを切り換え可能なブレーキソレノイド16a(図4参照)を有する。ブレーキ16は、制動状態に切り換えられたときに駆動輪11を回転不能に固定する。
【0034】
ブレーキソレノイド16aは、コントローラ30に電気的に接続され、コントローラ30から供給される電流に応じて切り換えられる。ブレーキソレノイド16aに電流が流れていない状態では、ブレーキ16は駆動輪11を制動状態に維持する。一方、ブレーキソレノイド16aに電流が流れた場合には、ブレーキ16は駆動輪11を非制動状態に切り換える。
【0035】
コントローラ30は、電源装置(図示省略)や他の電子機器(図示省略)とともに車体フレーム1に搭載される。コントローラ30は、電動アシスト台車100の制御を行うものであり、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。CPUやRAMなどをROMに格納されたプログラムに従って動作させることによって電動アシスト台車100の制御が実現される。
【0036】
コントローラ30は、電源装置から供給される電源によって動作する。コントローラ30は、電源装置の電圧が急激に低下した場合には、全ての制御を停止してCPUをスリープ状態とする。電源装置が24Vのバッテリである場合には、例えば、電圧が18V程度まで低下したときにCPUをスリープ状態とする。これにより、電源装置の電圧の急激な低下から、コントローラ30を保護することができる。
【0037】
コントローラ30は、左右のトルクセンサ6によって検出された駆動トルクに応じたアシスト力を左右の電動モータ15にそれぞれ発生させる制御を行い、電動アシスト台車100を前進または後退させるとともに、直進、旋回、曲折させるアシスト力を付与する。
【0038】
コントローラ30は、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御によって電動モータ15を駆動する。コントローラ30は、左右の電動モータ15に実際に流れた電流値を検出する一対の電流検出部15aを有する。これにより、電動モータ15のフィードバック制御が可能となる。
【0039】
コントローラ30は、図4に示すように、電動モータ15に流れた電流の大きさとその電流が連続して流れた時間(連続時間)とを判定する電流判定部31と、電流判定部31の判定に基づいて電動モータ15への電流の供給を停止及び制限可能な電流制御部32とを備える。
【0040】
操作盤29は、図1に示すように、車体フレーム1における立設部1cの背面に配設され、コントローラ30に電気的に接続される。操作盤29は、作業者によって操作可能かつ視認可能な位置に設けられればよいため、この位置に限られるものではない。操作盤29は、ブレーキソレノイド16aを切り換えるためのブレーキ解除スイッチ24と、電動昇降シリンダ2aを操作するための荷台昇降スイッチ25と、各種フェールモードを表示可能なインジケータ27とを備える。
【0041】
ブレーキ解除スイッチ24は、作業者の操作によってブレーキソレノイド16aを切り換え可能なスイッチである。作業者がブレーキ解除スイッチ24を操作すると、ブレーキソレノイド16aに電流が流れ、駆動輪11が非制動状態に切り換えられる。これにより、電動アシスト台車100は走行可能となる。
【0042】
荷台昇降スイッチ25は、作業者の操作によって電動昇降シリンダ2aを動作させるスイッチである。作業者が荷台昇降スイッチ25を操作すると、電動昇降シリンダ2aが伸縮する。これにより、荷台3が車体フレーム1に対して昇降する。
【0043】
インジケータ27は、電動アシスト台車100においてフェールセーフのために一部機能が停止した状態を、作業者が視認可能なように示すものである。インジケータ27は、第一インジケータ27aと、第二インジケータ27bと、第三インジケータ27cとを備える。
【0044】
第一インジケータ27aは、最も軽いフェールモードを示すものである。第一インジケータ27aは、電動モータ15に供給される電流の最大値が制限された場合に点灯する。この第一インジケータ27aが点灯した状態が、第一フェールモードである。
【0045】
第二インジケータ27bは、第一インジケータ27aの次に軽いフェールモードを示すものである。第二インジケータ27bは、電動モータ15への電流の供給が停止された場合、又は電動昇降シリンダ2aへの電流の供給が停止された場合に点灯する。この第二インジケータ27bが点灯した状態が、第二フェールモードである。
【0046】
第三インジケータ27cは、最も重いフェールモードを示すものである。第三インジケータ27cは、電動アシスト台車100における全ての機能が停止した場合に点灯する。即ち、第三インジケータ27cが点灯している状態では、電動アシスト台車100では、電動モータ15及び電動昇降シリンダ2aへの電流の供給が停止しているとともに、ブレーキソレノイド16aへの電流の供給が停止されることでブレーキ16が制動状態に切り換えられている。この第三インジケータ27cが点灯した状態が、第三フェールモードである。
【0047】
第一から第三の各フェールモードは、いずれかのフェールモードに入っておらず、かつ、電源装置の容量が電動アシスト台車100における全ての機能を制御可能な程度残っている場合にのみ設定される。また、各フェールモードは、電動アシスト台車100の電源を一度切り、再起動することで解除される。
【0048】
次に、電動アシスト台車100における運転動作について説明する。
【0049】
作業者が操作ハンドル5を両手で平行に押した場合には、電動アシスト台車100は、真っ直ぐ前進することとなる。この場合、操作ハンドル5が押されることによって車体フレーム1に入力される駆動力は操作ハンドル5の左右両端で略同一である。よって、左右のトルクセンサ6によって検出される駆動トルクは、略同一となる。
【0050】
左右のトルクセンサ6が同一の駆動トルクを検出すると、コントローラ30は、左右の電動モータ15から左右の駆動輪11に同一のアシスト力を付与するように指令する。これにより、左右の駆動輪11には、同一のアシスト力が付与される。
【0051】
したがって、電動アシスト台車100は、作業者によって付与される駆動力に、電動モータ15のアシスト力が付与されて真っ直ぐ前進することとなる。
【0052】
なお、電動アシスト台車100を真っ直ぐ後退させる場合には、操作ハンドル5が押される方向が逆になり、電動モータ15の回転方向が逆になるだけで、その他の作用は真っ直ぐ前進する場合と同様である。
【0053】
一方、作業者が操作ハンドル5を押す左右の力を相違させた場合には、電動アシスト台車100は、左又は右に旋回走行することとなる。このとき、左右の駆動輪11に付与されるアシスト力は、左右の電動モータ15で相違する。
【0054】
具体的には、例えば電動アシスト台車100を左方向に旋回させる場合、作業者が右手で操作ハンドル5を押す力は、左手で操作ハンドル5を押す力と比較して大きくなる。よって、右側のトルクセンサ6が検出する駆動トルクは、左側のトルクセンサ6が検出する駆動トルクと比較して大きくなる。
【0055】
これにより、コントローラ30は、右側の電動モータ15から駆動輪11に付与するアシスト力が、左側の電動モータ15から駆動輪11に付与するアシスト力と比較して大きくなるように指令する。これにより、右側の駆動輪11に付与されるアシスト力は、左側の駆動輪11に付与されるアシスト力と比較して大きくなる。
【0056】
なお、左右のトルクセンサ6は、駆動トルクを無段階に検出可能であるため、作業者が操作ハンドル5を押圧操作する力に応じてアシスト力の大きさをコントロールすることができる。
【0057】
次に、図5を参照して、電動アシスト台車100におけるフェールセーフ動作について説明する。
【0058】
ステップS101では、電流検出部15aによって検出した左右の電動モータ15の各々の電流値と、各々の電動モータ15におけるPWM制御のデューティ比とをコントローラ30に読み込む。
【0059】
ステップS102及びステップS103は、電動モータ15に大きな電流が連続して流れることを防止し、電動モータ15やコントローラ30を過負荷による発熱から保護して、電動アシスト台車100のトラブルを未然に防止するものである。
【0060】
ステップS102では、電流判定部31は、電動モータ15に第一設定値以上の大きさの電流が流れたか否かを判定する。このときの第一設定値は、通常使用におけるアシスト時に電動モータ15に供給可能な電流の範囲の最大値に設定される。例えば、第一設定値は、通常使用時に電動モータ15に供給される電流が0〜20[A]である場合、20[A]に設定される。
【0061】
ステップS102にて、電動モータ15に流れた電流値が第一設定値以上であると判定された場合には、ステップS103に移行する。一方、ステップS102にて、電動モータ15に流れた電流値が第一設定値より小さいと判定された場合には、ステップS105に移行する。
【0062】
ステップS103では、ステップS102にて判定した第一設定値以上の電流が第一設定時間だけ連続して流れたか否かを判定する。このときの第一設定時間は、動作による発熱からコントローラ30を保護可能な時間に設定される。例えば、第一設定時間は、5[s]に設定される。
【0063】
ステップS103にて、第一設定値以上の電流が連続して流れた連続時間が第一設定時間以上であると判定された場合には、ステップS104に移行し、第一フェールモードとなる。
【0064】
ステップS104では、電流制御部32は、電流判定部31の判定に基づいて電動モータ15に供給可能な電流の最大値を第一設定値と比較して小さくする。
【0065】
例えば、荷台3に載置された荷物の重量が重く、電動アシスト台車100が坂道を登り続ける際には、電動モータ15からのアシスト力が最大の状態が連続する場合がある。第一フェールモードでは、このような場合に、電動モータ15に供給可能な電流を、例えば10[A]まで小さくする。これにより、大きなアシスト力が連続して付与されることが防止され、電動モータ15やコントローラ30が過負荷状態となることが防止される。したがって、電動アシスト台車100の信頼性を向上することができる。
【0066】
また、第一インジケータ27aを点灯することによって、第一フェールモードに入っていることを、作業者に知らせることができる。
【0067】
なお、このとき電流制御部32は、いわゆるスロープ制御によって、電動モータ15に供給可能な電流の最大値を徐々に小さくする。これにより、アシスト力が急激に小さくなることによって電動アシスト台車100に大きな減速ショックが発生することが防止される。
【0068】
一方、ステップS103にて、第一設定値以上の電流が連続して流れた連続時間が第一設定時間より短いと判定された場合には、ステップS105に移行する。
【0069】
ステップS105及びステップS106は、電動モータ15に通常使用時に流れる範囲よりも大きな過電流が流れた場合に、電動アシスト台車100の一部機能を停止するものである。
【0070】
ステップS105では、電流判定部31は、電動モータ15に第二設定値以上の大きさの電流が流れたか否かを判定する。このときの第二設定値は、第一設定値と比較して大きく設定される。つまり、第一設定値が通常使用される電流の範囲の最大値に設定されるのに対して、第二設定値は、通常使用時には流れない大きさの電流値に設定される。例えば、第二設定値は、通常使用時に電動モータ15に供給される電流が0〜20[A]である場合、25[A]に設定される。
【0071】
ステップS105にて、電動モータ15に流れた電流値が第二設定値以上であると判定された場合には、ステップS106に移行する。一方、ステップS105にて、電動モータ15に流れた電流値が第二設定値より小さいと判定された場合には、ステップS107に移行する。
【0072】
ステップS106では、ステップS105にて判定した第二設定値以上の電流が第二設定時間だけ連続して流れたか否かを判定する。このときの第二設定時間は、通常使用時に流れない大きさの過電流が流れる時間であるため、電動モータ15やコントローラ30を保護するために第一設定時間と比較して短い時間に設定される。例えば、第二設定時間は、50[ms]に設定される。
【0073】
ステップS106にて、第二設定値以上の電流が連続して流れた連続時間が第二設定時間以上であると判定された場合には、ステップS111に移行し、第二フェールモードとなる。
【0074】
ステップS111では、電流制御部32は、左右の電動モータ15への電流の出力を停止する。このとき、電流制御部32は、いずれか一方のみの電動モータ15において第二設定値以上の電流が第二設定時間だけ連続して流れた場合であっても、左右両方の電動モータ15への電流の出力を停止する。これにより、電動アシスト台車100における電動モータ15による駆動力のアシストが停止される。
【0075】
このように、第二フェールモードでは、左右の電動モータ15への電流の供給が停止される。これにより、通常使用時に流れない大きさの過電流が流れた場合に、電動モータ15やコントローラ30を保護することができる。また、第二インジケータ27bを点灯することによって、第二フェールモードに入っていることを、作業者に知らせることができる。したがって、電動アシスト台車100の安全性を向上することができる。
【0076】
一方、ステップS106にて、第二設定値以上の電流が連続して流れた連続時間が第二設定時間より短いと判定された場合には、ステップS107に移行する。
【0077】
ステップS107及びステップS108は、コントローラ30からの指令のとおりに電動モータ15からアシスト力が付与されていない場合に、電動アシスト台車100の一部機能を停止するものである。
【0078】
ステップS107では、電流制御部32は、電動モータ15におけるPWM制御のデューティ比が最大の状態か否かを判定する。例えば、PWM制御では、コントローラ30からの指令によって、ある大きさのアシスト力を駆動輪11に付与しようとする場合、電動モータ15におけるデューティ比は、指令されたアシスト力の大きさに応じて大きくなる。しかしながら、実際のアシスト力が指令された大きさのアシスト力まで到達しない場合には、コントローラ30は、更にデューティ比を上げるように指令する。よって、コントローラ30から指令された大きさまでアシスト力が上昇しない場合には、PWM制御のデューティ比は最大の状態まで上昇することとなる。そこで、ステップS107では、PWM制御のデューティ比が最大の状態か否かを判定している。
【0079】
ステップS107にて、PWM制御のデューティ比が最大の状態であると判定された場合には、ステップS108に移行する。一方、ステップS107にて、PWM制御のデューティ比が最大の状態でないと判定された場合には、ステップS109に移行する。
【0080】
ステップS108では、PWM制御のデューティ比が最大の状態が第三設定時間だけ連続したか否かを判定する。このときの第三設定時間は、第二設定時間と比較して長く、かつ第一設定時間と比較して短く設定される。例えば、第三設定時間は、1[s]に設定される。
【0081】
ステップS108にて、PWM制御のデューティ比が最大の状態が第三設定時間だけ連続したと判定された場合には、ステップS111に移行し、第二フェールモードとなる。
【0082】
このように、コントローラ30からの指令のとおりに電動モータ15からアシスト力が付与されていない場合には、左右の電動モータ15への電流の供給が停止されるとともに、第二インジケータ27bが点灯される。したがって、PWM制御のデューティ比が最大の状態が継続されることが防止されるとともに、第二フェールモードに入っていることを作業者に知らせることができる。したがって、電動アシスト台車100の安全性を向上することができる。
【0083】
一方、ステップS108にて、PWM制御のデューティ比が最大の状態が第三設定時間だけ連続していないと判定された場合には、ステップS109に移行する。
【0084】
ステップS109及びステップS110は、作業者による操作ハンドル5の操作量と電動モータ15からのアシスト力の大きさとにずれが生じた場合に、電動アシスト台車100の一部機能を停止するものである。
【0085】
ステップS109では、電流判定部31は、電流制御部32が電動モータ15に供給した電流値と、電流検出部15aにフィードバックされた実際の電流値との偏差が設定範囲外となったか否かを判定する。このときの設定範囲は、実際の使用時に使用者が違和感なく使用可能な範囲、即ち、許容可能な誤差の範囲に設定される。例えば、設定範囲は、通常使用時に電動モータ15に供給される電流が0〜20[A]である場合、±5[A]の範囲に設定される。
【0086】
ステップS109にて、電流値の偏差が設定範囲外となったと判定された場合には、ステップS110に移行する。一方、ステップS109にて、電流値の偏差が設定範囲内であると判定された場合には、リターンする。
【0087】
ステップS110では、電流値の偏差が設定範囲外となった状態が第四設定時間だけ連続したか否かを判定する。例えば、第四設定時間は、5[s]に設定される。ステップS110にて、電流値の偏差が設定範囲外となった状態が第四設定時間だけ連続したと判定された場合には、ステップS111に移行し、第二フェールモードとなる。
【0088】
このように、作業者による操作ハンドル5の操作量と電動モータ15からのアシスト力の大きさとにずれが生じた場合には、左右の電動モータ15への電流の供給が停止されるとともに、第二インジケータ27bが点灯される。よって、作業者による操作ハンドル5の操作量と電動モータ15からのアシスト力の大きさとがずれている状態の継続が防止されるとともに、第二フェールモードに入っていることを作業者に知らせることができる。したがって、電動アシスト台車100の安全性を向上することができる。
【0089】
一方、ステップS110にて、電流値の偏差が設定範囲外となった状態が第四設定時間だけ連続していないと判定された場合には、リターンする。
【0090】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0091】
電流判定部31が、第一設定値以上の大きさの電流が第一設定時間を超える時間だけ連続して流れたと判定すると、電流制御部32は、電動モータ15に供給可能な電流の最大値を第一設定値と比較して小さくする。よって、大きなアシスト力が連続して付与されることが防止され、電動モータ15やコントローラ30が過負荷状態となることが防止される。したがって、電動アシスト台車100の信頼性を向上することができる。
【0092】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0093】
例えば、図5のフローチャート図では、四つの異なるフェール状態を検出して、対応するフェールモードと判定する制御を単一のフローで実行している。これに代えて、一つ一つのフェール状態を検出する制御を独立したフローで実行し、それぞれの検出結果の中にひとつでもフェール状態であるとの検出結果があった場合にフェールモードであると判定するフローを更に設けてもよい。
【符号の説明】
【0094】
100 電動アシスト台車
1 車体フレーム
3 荷台
5 操作ハンドル
6 トルクセンサ
11 駆動輪
12 自在輪
15 電動モータ
15a 電流検出部
16 ブレーキ
16a ブレーキソレノイド
24 ブレーキ解除スイッチ
25 荷台昇降スイッチ
27 インジケータ
30 コントローラ
31 電流判定部
32 電流制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者によって付与される駆動力にアシスト力が付与されて走行可能な電動アシスト台車であって、
荷物を載置可能な車体フレームと、
前記車体フレームに設けられる駆動輪と、
作業者によって押圧操作され、前記車体フレームに駆動力を入力可能な操作部と、
前記操作部が押圧操作されることによって前記車体フレームに作用する駆動トルクを検出するトルク検出部と、
前記トルク検出部によって検出された駆動トルクに応じて、前記駆動輪に付与するアシスト力を演算するコントローラと、
前記コントローラによって演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与する電動モータと、を備え、
前記コントローラは、
前記電動モータに、第一設定値以上の大きさの電流が第一設定時間だけ連続して流れたことを判定する電流判定部と、
前記電流判定部の判定に基づいて、前記電動モータに供給可能な電流の最大値を前記第一設定値と比較して小さくする電流制御部と、を備えることを特徴とする電動アシスト台車。
【請求項2】
前記第一設定値は、アシスト時に前記電動モータに供給される電流の最大値に設定され、
前記第一設定時間は、動作による発熱から前記コントローラを保護可能な時間に設定されることを特徴とする請求項1に記載の電動アシスト台車。
【請求項3】
前記電流制御部は、前記電動モータに供給可能な電流の最大値を徐々に小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動アシスト台車。
【請求項4】
前記電流制御部は、前記電動モータに、前記第一設定値と比較して大きく設定される第二設定値以上の大きさの電流が第二設定時間だけ連続して流れた場合に、前記電動モータへの電流の出力を停止することを特徴とする請求項2又は3に記載の電動アシスト台車。
【請求項5】
前記コントローラは、PWM制御によって前記電動モータを駆動し、
前記電流制御部は、前記PWM制御におけるデューティ比が最大の状態が第三設定時間だけ連続した場合に、前記電動モータへの電流の出力を停止することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の電動アシスト台車。
【請求項6】
前記コントローラは、前記電動モータの電流値がフィードバックされる電流検出部を有し、
前記電流制御部は、前記電動モータに供給した電流値と前記電流検出部にフィードバックされた電流値との偏差が設定範囲外となった状態が第四設定時間だけ連続した場合に、前記電動モータへの電流の出力を停止することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の電動アシスト台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86544(P2013−86544A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225971(P2011−225971)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】