説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 盗難防止用のロック手段に邪魔されることなく衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構を取付装着することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 操作部材Aの操作に応じて回転し、車輪を転舵する転舵機構に継手5及び伝動軸6を介して連動連結される操舵軸1と、操作部材Aの操作に応じて操舵軸1に操舵補助用の回転力を与える電動モータ3と、操舵軸1の回転をロックするロック手段30とを備え、該ロック手段30は電動モータ3が回転力を操舵軸1に伝動する伝動部より前記転舵機構側となる位置に設け、ハウジング2の電動モータ3より上方となる位置のスペース効率を高めることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は操舵補助力の発生源として電動モータを用いてなる電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、操作部材としてのステアリングホイールの操作に応じて回転する操舵軸と、該操舵軸を収容支持し、車体に取着される筒形のハウジングと、該ハウジングに取着され、前記ステアリングホイールの操作に応じて前記操舵軸に操舵補助用の回転力を与える電動モータと、前記ハウジングに取着され、前記操舵軸の回転をロックする盗難防止用のキーロック機構とを備えており、車室内に配置される。
【0003】
前記電動モータは前記ハウジングの下端部に取着されており、前記キーロック機構は前記ハウジングの上端部に取着され、車室内の運転者が手動で容易にキーロック操作を行うことができるように構成されている。
【0004】
また、二次衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収機構及び/又はステアリングホイールの運転席に対する上下位置及び前後位置を調節するチルト・テレスコピック機構を備える電動パワーステアリング装置(例えば、特許文献1)にあっては、前記ハウジングの前記電動モータより上方となる位置に、前記キーロック機構の他、前記衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構が取着されることになる。
【0005】
また、前記ハウジング以外の箇所にキーロック機構が取着された電動パワーステアリング装置は例えば特許文献2に記載されている。この特許文献2の電動パワーステアリング装置は、前記ハウジングの下端部に取着される前記電動モータの近傍となる車体又は前記電動モータの出力軸に連動連結される駆動歯車の近傍となる車体に前記キーロック機構が取着されている。
【特許文献1】特開2002−308122号公報
【特許文献2】特開2003−205824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ハウジングの電動モータより上方となる位置に、キーロック機構、衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構が取着される電動パワーステアリング装置にあっては、電動モータの回転力を操舵軸に伝動する減速歯車機構、ステアリングホイールの操作に応じて前記操舵軸に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ、キーロック機構、衝撃エネルギー吸収機構及びチルト・テレスコピック機構がハウジングの軸長方向に配置されることになるため、ハウジングの電動モータより上方側のスペースが不足することになり、衝撃エネルギー吸収機構及び/又はチルト・テレスコピック機構のためのスペースを確保することができ難くなり、改善策が要望されていた。
【0007】
また、特許文献2の電動パワーステアリング装置にあっては、電動モータの回転力を増加して操舵軸に伝動する減速歯車機構を介してロックされるため、車両盗難者がステアリングホイールを操作したとき、前記減速歯車機構に過大のトルクが加わることになり、この過大トルクにより減速歯車機構が破損する危険性が高いという問題がある。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、主たる目的は盗難防止用のロック手段に邪魔されることなく衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構を取着することができ、さらに、耐久性を簡易に確保することができる電動パワーステアリング装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る電動パワーステアリング装置は、操作部材の操作に応じて回転し、車輪を転舵する転舵機構に連動連結される操舵軸と、前記操作部材の操作に応じて前記操舵軸に操舵補助用の回転力を伝動する電動モータと、前記操舵軸の回転をロックするロック手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記ロック手段は前記電動モータが回転力を操舵軸に伝動する伝動部より前記転舵機構側となる位置に設けてあることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る電動パワーステアリング装置は、前記操舵軸を収容支持し、前記電動モータが取着されるハウジングを備えており、前記ロック手段は前記ハウジングに取着されていることを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る電動パワーステアリング装置は、操作部材の操作に応じて回転する操舵軸と、該操舵軸に継手により連動連結され、車輪を転舵する転舵機構に繋がる伝動軸と、前記操作部材の操作に応じて前記操舵軸に操舵補助用の回転力を与える電動モータと、前記操舵軸の回転をロックするロック手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記ロック手段は前記継手又は前記伝動軸に臨む位置に設けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明にあっては、電動モータが回転力を操舵軸に伝動する伝動部より前記転舵機構側となる位置にロック手段を設けてあるため、ハウジングの電動モータより上方となる位置のスペース効率を高めることができ、ロック手段に邪魔されることなく衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構を取着することができ、しかも、電動モータ側回転部材がロックされる場合に比べて耐久性を向上できる。
【0013】
第2発明にあっては、操舵軸を収容支持するハウジングにロック手段を取付装着した状態で電動パワーステアリング装置を車体に取着することができるため、ハウジングの電動モータより上方となる位置のスペース効率を高めることができ耐久性を向上できる割にロック手段を簡易に組み込むことができ、しかも、電動モータ側回転部材がロックされる場合に比べて耐久性を向上できる。
【0014】
第3発明にあっては、操舵軸に連動連結される伝動軸又は継手に臨む位置にロック手段を設けてあるため、ハウジングの電動モータより上方となる位置のスペース効率を高めることができ、ロック手段に邪魔されることなく衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構を取着することができ、しかも、電動モータ側回転部材がロックされる場合に比べて耐久性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る電動パワーステアリング装置のレイアウト構成を示す模式図、図2は電動パワーステアリング装置の構成を示す断面図である。
【0016】
電動パワーステアリング装置は、操作部材としてのステアリングホイールAに連なる操舵軸1と、該操舵軸1を回転自在に収容支持する筒形のハウジング2と、該ハウジング2の下端部に取着される操舵補助用の電動モータ3と、ステアリングホイールAの操作に応じて操舵軸1に加わるトルクを検出するトルクセンサ4と、操舵軸1の下端部に第1の継手5により連動連結される伝動軸6とを備え、トルクセンサ4の検出結果に基づいて電動モータ3が駆動され、該電動モータ3の回転力が減速歯車機構7を介して操舵軸1に伝動されるように構成されている。
【0017】
操舵軸1は、その上端部がステアリングホイールAに繋がる第1軸体11と、該第1軸体11の下端部に相対移動可能に嵌合された第2軸体12と、該第2軸体12の下端部に連結されたトーションバー13と、該トーションバー13の下端部に連結され、第1の継手5に繋がる第3軸体14とを有しており、ステアリングホイールAの操作に応じてトーションバー13が捩じれ、第1軸体11及び第2軸体12に操舵トルクが加わるように構成されている。
【0018】
ハウジング2は軸受8を介して第1軸体11を支持する第1筒体21と、該第1筒体21の下端部に相対移動可能に嵌合された第2筒体22と、該第2筒体22に連結され、軸受9を介して第3軸体14を支持する第3筒体23とを有しており、該第3筒体23に電動モータ3が取着され、第3筒体23内にトルクセンサ4及び減速歯車機構7が収容されている。また、第1筒体21及び第2筒体22の間と、第1軸体11及び第2軸体12の間には運転者からステアリングホイールAに加わる二次衝撃エネルギを吸収するための衝撃エネルギ吸収機構10,10がそれぞれ設けられている。また、第1筒体21及び第3筒体23には車体に取着されるブラケット20(第3筒体側のブラケットは省略)が設けられている。
【0019】
伝動軸6は、その上端部が第1の継手5に連結される中間軸体61と、該中間軸体61の下端部に第2の継手62により連結され、転舵機構Bのピニオンを有するピニオン軸63とを備えている。
【0020】
第1の継手5は、十字軸51により連動連結された第1継軸52及び第2継軸53を有しており、第1継軸52が第3軸体14の下端部に相対回転を不可能に嵌合され、第2継軸53が中間軸体61の上端部に結合されている。
【0021】
第2の継手62は、十字軸62aにより連動連結された第3継軸62b及び第4継軸62cを有しており、第3継軸62bがピニオン軸63の上端部に相対回転を不可能に嵌合され、第4継軸62cが中間軸体61の下端部に結合されている。
【0022】
以上のように構成された電動パワーステアリング装置の減速歯車機構7より転舵機構B側の位置、換言すれば電動モータ3が回転力を操舵軸1(第3軸体14)に伝動する伝動部より転舵機構B側となる次の第1〜第5の位置のいずれか一つの位置(図1参照)に、操舵軸1の回転をロックする盗難防止用のロック手段30を設けてある。
【0023】
第1の位置は、第1の継手5の第1継軸52の周面に臨み、且つ、車体に取着されたときに上部となる位置に臨む位置であり、第1継軸52の周面にはロック手段のロック体30aに係合する凹状の係合部31が設けられている(図2参照)。また、ハウジング2の第3筒体23には該第3筒体23から第1継軸52の周面と向き合うように突設されたブラケット32が設けられており、該ブラケット32にロック手段30が取着される。
【0024】
第2の位置は、操舵軸1を構成する第3軸体14の下端部の周面に臨み、且つ、車体に取着されたときに上部となる位置に臨む位置であり、第3軸体14の下端部の周面にはロック手段30の前記ロック体に係合する凹状の係合部が設けられている。また、ハウジング2には第3筒体23から第3軸体14の周面と向き合うように突設された前記ブラケットが設けられており、該ブラケットにロック手段30が取着される。
【0025】
第3の位置は、操舵軸1を構成する第3軸体14の下端部の周面に臨み、且つ、車体に取着されたときに下部となる位置に臨む位置であり、第3軸体14の下端部の周面にはロック手段30の前記ロック体に係合する凹状の係合部が設けられている。また、ハウジング2には第3筒体23から第3軸体14の周面と向き合うように突設されたブラケットが設けられており、該ブラケットにロック手段30が取着される。
【0026】
第4の位置は、伝動軸6を構成する中間軸体61の周面に臨み、且つ、車体に取着されたときに上部となる位置に臨む位置であり、中間軸体61の周面にはロック手段30のロック体に係合する凹状の係合部が設けられている。また、ロック手段30は車体に取着される。
【0027】
第5の位置は、伝動軸6を構成するピニオン軸63の周面に臨み、且つ、車体に取着されたときに上部となる位置に臨む位置であり、ピニオン軸63の周面にはロック手段30のロック体に係合する凹状の係合部が設けられている。また、軸受を介してピニオン軸63を収容支持する転舵機構BのハウジングCにはピニオン軸63の周面と向き合うように突設されたブラケットが設けられており、該ブラケットにロック手段30が取着される。
【0028】
ロック手段30は可動鉄心を有するソレノイドを用いてなり、可動鉄心が係合部31と係合するロック体30aを構成している。ソレノイドはリモートコントローラの操作によりオン、オフ制御される制御部33に電気的に接続されており、制御部33が出力するオン信号により通電され、ロック体30aを係合部31と離隔する方向へ後退移動させ、また、制御部33が出力するオフ信号により通電が停止され、ロック体30aを係合部31に係合する方向へ進出移動させ、係合部31に係合することにより操舵軸1の回転をロックするように構成されている。尚、制御部33はロック手段30用のリモートコントローラの操作で制御するが、その他、例えば車両のエンジンキーのキー孔への挿脱、車両のドアオートロック用のワイヤレスのオートロック器の釦操作により自動的に制御する構成としてもよい。
【0029】
以上のように電動パワーステアリング装置には、電動モータ3が回転力を操舵軸1に伝動する伝動部より転舵機構B側となる位置にロック手段30が設けられているため、ハウジング2の電動モータ3より上方となる位置、即ち、第1筒体21及び第2筒体22部分のスペース効率を高めることができ、ロック手段30に邪魔されることなく衝撃エネルギー吸収機構、チルト・テレスコピック機構を取着することができる。
【0030】
尚、以上説明した実施の形態では、ロック手段30としてソレノイドを用いたが、その他、ロック手段30の構成は特に制限されない。また、ロック手段30は実施の形態のようにリモートコントローラ等の操作で自動的に動作するように構成されたものである他、車室内の運転者が手動で操作を行うことができるように構成されたものであってもよい。 また、本発明に係る電動パワーステアリング装置は、操舵軸1、ハウジング2、電動モータ3、第1の継手5及び伝動軸6を備える構成である他、操作舵軸1、ハウジング2、電動モータ3を備える構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置のレイアウト構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 操舵軸
2 ハウジング
3 電動モータ
5 継手
6 伝動軸
30 ロック手段
A ステアリングホイール(操作部材)
B 転舵機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材の操作に応じて回転し、車輪を転舵する転舵機構に連動連結される操舵軸と、前記操作部材の操作に応じて前記操舵軸に操舵補助用の回転力を与える電動モータと、前記操舵軸の回転をロックするロック手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記ロック手段は前記電動モータが回転力を操舵軸に伝動する伝動部より前記転舵機構側となる位置に設けてあることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記操舵軸を収容支持し、前記電動モータが取着されるハウジングを備えており、前記ロック手段は前記ハウジングに取着されている請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
操作部材の操作に応じて回転する操舵軸と、該操舵軸に継手により連動連結され、車輪を転舵する転舵機構に繋がる伝動軸と、前記操作部材の操作に応じて前記操舵軸に操舵補助用の回転力を与える電動モータと、前記操舵軸の回転をロックするロック手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記ロック手段は前記継手又は前記伝動軸に臨む位置に設けてあることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−151264(P2006−151264A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346696(P2004−346696)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】