説明

電動工具

【課題】電動工具の外径を小さくしてスリム化を実現できるとともに、組み付け性を向上させた電動工具を提供する。
【解決手段】モータ15と、前記モータ15を収容するハウジング11と、前記モータ15に一端を接続され、前記モータ15の駆動力を伝達するインナーギア22を内蔵したインナーギアケース20と、前記インナーギアケース20の他端側に配置され、前記インナーギア22を介して前記モータ15の駆動力を伝達される打撃機構を有するハンマケース30と、を備え、前記インナーギアケース21及び前記ハンマケース30は、互いの端面20a、30aを対向させた状態で前記ハウジング11の内部に嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インパクトドライバ等の電動工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にインパクトドライバは、モータ等を収納したハウジングと、モータの回転を減速するインナーギアを内蔵したインナーギアケースと、インナーギアの回転を打撃力に変換するハンマを収納したハンマケースと、を備えている。
【0003】
従来のインパクトドライバは、ハンマケースにおいて発生する荷重に耐えうるように、ハンマケースをハウジングにねじ固定していた。しかし、こうしたインパクトドライバでは、ハンマケースにネジ座面等を設けなければならないため、外郭部からネジ座面が突出してしまい、工具の使い勝手が悪くなるという問題があった。
【0004】
こうした問題を回避する方法としては、ハンマケースをねじによって固定するのではなく、ハウジングで挟み込んで固定する構造が考えられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4432401号公報
【特許文献2】特許第3793099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した特許文献1記載の電動工具では、ハンマケースとインナーギアケースとの中心を合わせて芯出し精度を確保するために、ハンマケースの内側にインナーギアケースを嵌合させた構造となっている。このため、ハンマケースとインナーギアケースとを嵌合させた部分は、2つの部材が重なり合って厚みが出てしまい、外径が大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
また、ハンマケースとインナーギアケースとの芯出し精度を確保する目的から、ハンマケースとインナーギアケースとの嵌合はきつく設定してあり、挿入に大きな力が必要であった。しかも、内部にグリスを封入するためのシール性を有しているため、モータの回転軸を挿入する際に内部の空気が圧縮されてしまい、挿入に大きな力が必要となるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、電動工具の外径を小さくしてスリム化を実現できるとともに、組み付け性を向上させた電動工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、以下を特徴とする。
【0010】
(請求項1)
請求項1に記載の発明は、以下の点を特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の電動工具は、モータと、前記モータを収容するハウジングと、前記モータに一端を接続され、前記モータの駆動力を伝達するインナーギアを内蔵したインナーギアケースと、前記インナーギアケースの他端側に配置され、前記インナーギアを介して前記モータの駆動力を伝達される打撃機構を収納するハンマケースと、を備え、前記インナーギアケース及び前記ハンマケースは、互いの端面を対向させた状態で前記ハウジングの内部に嵌合することを特徴とする。
【0012】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、上記した請求項1記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0013】
すなわち、前記インナーギアケース及び前記ハンマケースの間に弾性体を設けたことを特徴とする。
【0014】
(請求項3)
請求項3に記載の発明は、上記した請求項1又は2記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0015】
すなわち、前記ハウジングには、前記インナーギアケースが前記ハンマケースから離反する方向へ移動することを規制する後方移動規制部と、前記ハンマケースが前記インナーギアケースから離反する方向へ移動することを規制する前方移動規制部と、が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明は上記の通りであり、インナーギアケース及びハンマケースは、互いの端面を対向させた状態でハウジングの内部に嵌合する。このように、ハンマケースの内側にインナーギアケースを嵌合させた構造ではないため、電動工具の外径を小さくしてスリム化を実現することができる。
【0017】
また、インナーギアケースとハンマケースとが嵌合していないので、ハンマケースの内側にインナーギアケースを挿入するために大きな力が必要であるという従来の電動工具における問題が発生しない。
【0018】
しかも、内部にグリスを封入するためのシール性を有しているとしても、シール性が発揮されるのはハウジングの内部に嵌合させた後であるので、インナーギアをモータの回転軸に接続させた後でハウジングの内部に嵌合させれば空気の圧縮も発生せず、モータの回転軸を挿入する際に大きな力が必要となることもない。
【0019】
以上のように、本発明によれば、きつい嵌合や空気の圧縮がないため、インナーギアケース及びハンマケースを軽い力でハウジングに取り付けることができ、組み付け性が向上する。
【0020】
また、請求項2に記載の発明は上記の通りであり、前記インナーギアケース及び前記ハンマケースの間に弾性体を設けたため、グリスのシールを確実に行うことができる。
【0021】
しかも、弾性体の弾性力を利用してインナーギアケース及びハンマケースをハウジングに押し付けて固定することができ、インナーギアケース及びハンマケースをがたつきなくハウジングに固定することができる。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は上記の通りであり、前記ハウジングには、前記インナーギアケースが前記ハンマケースから離反する方向へ移動することを規制する後方移動規制部と、前記ハンマケースが前記インナーギアケースから離反する方向へ移動することを規制する前方移動規制部と、が設けられている。これにより、後方移動規制部と前方移動規制部とによって、面合わせしたインナーギアケース及びハンマケースを一体的に挟み込んで固定することができるので、組み付け性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電動工具の側面図である。
【図2】電動工具の内部構造を示す図である。
【図3】インナーギアケースとハンマケースとの接合箇所の一部拡大断面図である。
【図4】電動工具からインナーギアケース及びハンマケースを取り外した状態を示す側面図である。
【図5】電動工具からインナーギアケース及びハンマケースを取り外した状態を示す斜視図である。
【図6】電動工具の分解側面図である。
【図7】電動工具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0025】
本実施形態に係る電動工具10は、モータ15を搭載したインパクトドライバであり、図2に示すように、ハウジング11の内部にモータ15などを内蔵したものとなっている。
【0026】
ハウジング11は、図1に示すように、筒状の出力部12と、この出力部12の下部に出力部12と略直交する方向に延びるグリップ部13と、グリップ部13の下部に設けられた電池パック取付部14と、を備えている。
【0027】
出力部12には、図2に示すように、モータ15が内蔵されている。
【0028】
また、このモータ15の後方には、モータ15の回転軸15aと同軸上に、冷却ファン17が直列に設けられている。この冷却ファン17は、出力部12の最後部に配置されており、モータ15が回転したときに同時に回転する。これにより、ハウジング11の側部に開口する吸気孔から外部の空気を吸い込み、吸い込んだ空気をハウジング11の側部に開口する排気孔から外部へと排出する。
【0029】
モータ15の前方(冷却ファン17が設けられた側とは逆側)にはインナーギアケース20が接続され、更にその前方にはハンマケース30が配置されている。
【0030】
インナーギアケース20は、後端がモータ15に接続されており、モータ15の駆動力で回転するアイドルギア21を内蔵している。詳しくは、後端側からモータ15の回転軸15aが挿入されて接続され、これにより、モータ15の回転軸15aがアイドルギア21と係合し、モータ15が回転したときにアイドルギア21が作動するように形成されている。このアイドルギア21はインナーギア22と噛み合うことで遊星歯車機構を構成しており、これにより、モータ15の回転を減速して、後述するスピンドル33に伝達できるように形成されている。
【0031】
ハンマケース30は、上記したインナーギアケース20の前端に配置され、インナーギア22を介してモータ15の駆動力を伝達されるものである。このハンマケース30は、モータ15の回転軸15aと同軸上に直列に設けられたスピンドル33、打撃機構31、アンビル34を内蔵している。
【0032】
打撃機構31は、ハンマ31aやバネ31b等から構成され、スピンドル33の回転を回転打撃力に変換し、この回転打撃力をハンマケース30に回転自在に支持されたアンビル34に伝達する。
【0033】
アンビル34の先端部には出力軸16が形成されており、図示しないドライバビット(先端工具)が装着可能となっている。これにより、出力軸16にドライバビットを取り付けた状態でモータ15を回転させると、モータ15の駆動力によりドライバビットが回転するとともに打撃されるように形成されている。
【0034】
上記した出力部12の下部に設けられたグリップ部13は、電動工具10を把持するための部位である。このグリップ部13の出力部12との境目付近には、図1に示すように、前方にトリガスイッチ19が配置されている。このトリガスイッチ19を引き操作することで、モータ15が回転を始め、電動工具10が作動を開始するようになっている。このトリガスイッチ19のトリガ部23は、グリップ部13を握ったときにちょうど人差し指がかかる位置に配設されている。
【0035】
上記したグリップ部13の更に下部に設けられた電池パック取付部14は、図示しない電池パックを下面に着脱させる部位である。また、この電池パック取付部14の上面側には、操作パネル18が設けられており、回転モードを変更するためのモード設定ボタンなどが設けられている。
【0036】
ところで、上記したインナーギアケース20及びハンマケース30は、互いの端面20a、30aを対向させた状態でハウジング11の内部に嵌合している。
【0037】
このとき、インナーギアケース20とハンマケース30とは、弾性体40(本実施形態においてはゴム製のOリング)を挟むことで互いに接触していない状態となっている。すなわち、図3に示すように、インナーギアケース20とハンマケース30との間には、弾性体40が設けられているため、インナーギアケース20の端面20aと、ハンマケース30の端面30aとは、この弾性体40を挟んで間隔を空けて対向している。
【0038】
インナーギアケース20とハンマケース30とによって挟まれた弾性体40は、図3に示すように、両側から押し付けられて弾性変形しているため、言い換えると、インナーギアケース20とハンマケース30とは、弾性体40の反力によって互いに離反する方向に付勢されている。
【0039】
また、インナーギアケース20には、外周方向に突出するフランジ部20bが設けられており、このフランジ部20bがハウジング11のインナーギアケース嵌合部11cに嵌合している。
【0040】
フランジ部20bは、インナーギアケース嵌合部11cの幅よりもやや狭く形成されているため、外部から力が加わらない状態においては緩嵌状態となっているが、上記したように、インナーギアケース20は上記した弾性体40によってハンマケース30から離反する方向へと付勢されているため、フランジ部20bの後面20cがインナーギアケース嵌合部11cの前面(後方移動規制部11d)に当接する位置までインナーギアケース20が付勢される。このように、弾性体40によって付勢されるとともに、後方移動規制部11dがインナーギアケース20の移動を規制することで、インナーギアケース20のハウジング11内での位置決めが行われる。
【0041】
同様に、ハンマケース30には、外周方向に突出するフランジ部30bが設けられており、このフランジ部30bがハウジング11のハンマケース嵌合部11aに嵌合している。
【0042】
フランジ部30bは、ハンマケース嵌合部11aの幅よりもやや狭く形成されているため、外部から力が加わらない状態においては緩嵌状態となっているが、上記したように、ハンマケース30は上記した弾性体40によってインナーギアケース20から離反する方向へと付勢されているため、フランジ部30bの前面30cがハンマケース嵌合部11aの後面(前方移動規制部11b)に当接する位置までハンマケース30が付勢される。このように、弾性体40によって付勢されるとともに、前方移動規制部11bがハンマケース30の移動を規制することで、ハンマケース30のハウジング11内での位置決めが行われる。
【0043】
図4及び図5は、電動工具10からインナーギアケース20及びハンマケース30を取り外した状態を示す図である。これらの図が示すように、ハウジング11は、左右2つの分割片11e、11fでインナーギアケース20及びハンマケース30を挟み込んで固定している。インナーギアケース20及びハンマケース30は、間に弾性体40を挟んだ状態で一体的にハウジング11の分割片11e、11fで挟み込まれて固定される。
【0044】
しかしながら、本実施形態におけるインナーギアケース20及びハンマケース30は、ハウジング11の内部に嵌合する前の状態においては、図6及び図7に示すように互いに分離可能な状態となっており、結合されていない。
【0045】
すなわち、本実施形態におけるインナーギアケース20及びハンマケース30を取り付ける際には、インナーギアケース20の端面20aに形成された溝部20dに弾性体40を取り付け、このインナーギアケース20にモータ15の回転軸15aを挿入する。その後、インナーギアケース20の端面20aにハンマケース30の端面30aが対向するように面合わせし、ハウジング11(分割片11e、11fのいずれか)に嵌合させる(インナーギアケース20のフランジ部20bをハウジング11のインナーギアケース嵌合部11cに嵌合させ、ハンマケース30のフランジ部30bをハウジング11のハンマケース嵌合部11aに嵌合させる)。その後、分割片11e、11fをネジなどで結合し、インナーギアケース20及びハンマケース30を挟み込んで固定する。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、インナーギアケース20及びハンマケース30は、互いの端面20a、30aを対向させた状態でハウジング11の内部に嵌合するので、ハンマケース30の内側にインナーギアケース20を嵌合させた構造ではないため、電動工具10の外径を小さくしてスリム化を実現することができる。
【0047】
また、インナーギアケース20とハンマケース30とが嵌合していないので、ハンマケース30の内側にインナーギアケース20を挿入するために大きな力が必要であるという従来の電動工具における問題が発生しない。よって、インナーギアケース20及びハンマケース30を軽い力でハウジング11に取り付けることができ、組み付け性が向上する。
【0048】
しかも、弾性体40によってインナーギアケース20とハンマケース30とで形成される内部にグリスを封入することができ、このグリスを封入するためのシール性が発揮されるのはインナーギアケース20及びハンマケース30をハウジング11の内部に嵌合させた後であるので、モータ15の回転軸15aを挿入する際に空気が圧縮されて抵抗が大きくなることがなく、スムーズに組み付けを行うことができる。
【0049】
また、インナーギアケース20及びハンマケース30の間に弾性体40を設けたため、弾性体40の弾性力を利用してインナーギアケース20及びハンマケース30をハウジング11に押し付けて固定することができ、インナーギアケース20及びハンマケース30をがたつきなくハウジング11に固定することができる。
【0050】
また、ハウジング11には、インナーギアケース20がハンマケース30から離反する方向へ移動することを規制する後方移動規制部11dと、ハンマケース30がインナーギアケース20から離反する方向へ移動することを規制する前方移動規制部11bと、が設けられている。これにより、後方移動規制部11dと前方移動規制部11bとによって、面合わせしたインナーギアケース20及びハンマケース30を一体的に挟み込んで固定することができるので、組み付け性が向上する。
【符号の説明】
【0051】
10 電動工具
11 ハウジング
11a ハンマケース嵌合部
11b 前方移動規制部
11c インナーギアケース嵌合部
11d 後方移動規制部
11e、f 分割片
12 出力部
13 グリップ部
14 電池パック取付部
15 モータ
15a 回転軸
16 出力軸
17 冷却ファン
18 操作パネル
19 トリガスイッチ
20 インナーギアケース
20a 端面
20b フランジ部
20c 後面
20d 溝部
21 アイドルギア
22 インナーギア
30 ハンマケース
30a 端面
30b フランジ部
30c 前面
31 打撃機構
31a ハンマ
31b バネ
33 スピンドル
34 アンビル
40 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータを収容するハウジングと、
前記モータに一端を接続され、前記モータの駆動力を伝達するインナーギアを内蔵したインナーギアケースと、
前記インナーギアケースの他端側に配置され、前記インナーギアを介して前記モータの駆動力を伝達される打撃機構を収納するハンマケースと、
を備え、
前記インナーギアケース及び前記ハンマケースは、互いの端面を対向させた状態で前記ハウジングの内部に嵌合することを特徴とする、電動工具。
【請求項2】
前記インナーギアケース及び前記ハンマケースの間に弾性体を設けたことを特徴とする、請求項1記載の電動工具。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記インナーギアケースが前記ハンマケースから離反する方向へ移動することを規制する後方移動規制部と、前記ハンマケースが前記インナーギアケースから離反する方向へ移動することを規制する前方移動規制部と、が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107152(P2013−107152A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252451(P2011−252451)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)