説明

電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置

【課題】電動モータ、及びウォーム減速機の配置を工夫して、修理、保守、車両搭載時の作業効率の向上、及び、レイアウト性の向上を図り、更に、振動、騒音、パッドの偏磨耗の発生の防止できる構造を実現する。
【解決手段】電動モータ9aと前記ウォーム減速機10bを構成するウォーム12aとの間の回転伝達を、この電動モータ9aの出力軸26に固定した駆動側歯車27と、このウォーム12aの一部に固定した被駆動側歯車29とを介して行なわせる。更に、前記電動モータ9aの出力軸の中心軸L9と、前記ウォーム12aの中心軸L12とを平行にし、且つ、これら両中心軸L9、L12を、前記推力発生機構23を構成する駆動軸スピンドルの中心軸に直交する方向に存在する仮想平面上に存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータを駆動源として制動力を発生させ、しかも、この電動モータへの通電を停止した後も制動力を維持したままの状態にできる電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式ディスクブレーキとして、電動モータの出力を増力機構に入力し、この増力機構により、この電動モータの回転運動を増力しつつ直線運動に変換し、一対のパッドをロータの両側面に強く押し付ける構造のものが、従来から各種提案されている。
又、油圧式、又は電動式のサービスブレーキに対して、電動モータへの通電を停止した後も制動力を維持したままの状態にできる電動式パーキング機構が組み込まれたディスクブレーキ装置も従来から各種知られている。
【0003】
図6、7は、特許文献1に記載されている、電動式パーキング機構を備えたディスクブレーキ装置の構造を示している。この従来構造に就いて、簡単に説明する。
この電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1は、車輪と共に回転するロータ2に隣接する状態で車体(ナックル等、懸架装置の構成部材)に固定したサポート3に対してインナ、アウタ両パッド4a、4b(本明細書及び特許請求の範囲で、インナ側とは車体の幅方向中央側を、アウタ側とは同じく外側を言う)及びキャリパ5を軸方向の変位を可能に支持している。この為に図示の例では、前記キャリパ5にそれぞれの基端部を支持固定した一対のガイドピン6a、6b(図6参照)を、前記サポート3のうちで前記ロータ2の回転方向両側部分に設けた一対のガイド筒部7a、7bのガイド孔との係合により支持している。更に、電動式パーキング機構を構成する電動式押圧装置8を備えている。
【0004】
この電動式押圧装置8は、電動モータ9と、ウォーム減速機10と、送りねじ機構11とを備える。このうちのウォーム減速機10は、この電動モータ9の出力軸(図示省略)に、同心、且つ、共に回転する状態で支持固定されたウォーム12と、ウォームホイール13とを互いに噛合させている。
又、前記送りねじ機構11は、駆動スピンドル14と、ナット15とから構成されている。
このうちの駆動スピンドル14は、外周面の中間部から一端部(図7の左側)に掛けて雄ねじ部16が形成されており、他端部(図7の右端部)を、前記ウォームホイール13の中央に形成した支持孔17に、このウォームホイール13の中心軸と同心、且つ、共に回転する状態で支持固定している。
又、前記ナット15は、内周面に雌ねじ部18が形成されており、先端縁(図7の左側端縁)を前記キャリパ5のピストン19の内側面に対向させている。
【0005】
この様な電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1のうちの車両を停止状態に維持する為の電動式パーキングブレーキ装置を作動させる場合、運転手によるスイッチ等の操作に基づき、前記電動モータ9に制御電流を供給してこの電動モータ9の出力軸を回転させる。この回転運動は、前記ウォーム減速機10を構成する前記ウォーム12、及び前記ウォームホイール13を介して、所定の減速比で減速された状態で、前記駆動スピンドル14へと伝わる。そして、この駆動スピンドル14に伝わった回転運動は、この駆動スピンドル14の雄ねじ部16と、前記ナット15の雌ねじ部18との螺合により、このナット15を前記ロータ2側へ変位させる直線運動に変換される。更に、このナット15の直線運動が、前記キャリパ5のピストン19を前記ロータ2側(図7の左側)へと変位させて、前記一対のブレーキパッド4a、4bのうちのインナ側のパッド4aを前記ロータ2のインナ側面に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として前記キャリパ5のキャリパ爪20が、前記アウタ側のパッド4bを、前記ロータ2のアウタ側面に押し付ける。
尚、前記ウォーム減速機10の構造を、前記ウォームホイール13から、ウォーム12に回転が伝わらない構造(セルフロック機能)とする事で、前記電動モータ9への通電停止後の状態でも、前記両パッド4a、4bを、前記ロータ2に押圧した状態に維持する事ができる。
又、制動解除時には、前記電動モータ9を逆回転させる事によって前記ピストン19を、前記ロータ2から離れる方向に変位させて、前記両ブレーキパッド4a、4bを前記ロータ2から離す。
【0006】
この様な電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1の場合、前記電動モータ9と前記ウォーム減速機10を構成するウォーム12とを、同心に配置している。即ち、前記電動モータ9と前記ウォーム減速機10を構成するウォーム12とを、軸方向に関して互いに直列に配置している。この為、前記キャリパ5に対する、前記電動モータ9、及びウォーム12の軸方向寸法が嵩んでしまい、この電動モータ9の位置が、前記一対のガイドピン6a、6bのうちの一方(図6の上方)のガイドピン6aの軸方向位置と重畳してしまう。このガイドピン6aと前記電動モータ9とが、この様な重畳した位置関係にあると、前記電動モータ9を取り外さなければ、前記ガイドピン6aを取り外す事ができず、前記両パッド4a、4bの着脱作業を行えない。この為、修理、保守、又は車両搭載時の作業効率が低下してしまう。又、前記ガイドピン6aと前記電動モータ9との位置関係に関するレイアウト性が低下してしまう。
又、前記電動モータ9は、前記駆動スピンドル14の中心軸L14に対して一方(図6の上方)に偏った位置に配置されている。この為、前記電動モータ9には、運転時の振動、自重等に基づいて、前記中心軸L14周りの回転モーメントが加わる。この回転モーメントは、前記キャリパ5の挙動を不安定にして、振動、騒音や、前記両パッド4a、4bの偏磨耗の発生の原因となる可能性がある。尚、特許文献2〜3に記載された電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置も、電動モータとウォームとが直列の関係に配置された構造である為、前記特許文献1と同様の問題が考えられる。
【0007】
又、特許文献1には、図8〜9に示すような構造の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1aも記載されている。この電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1aは、前記図6〜7に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1と同様に、電動モータ9とウォーム減速機10aを構成するウォーム12(図9参照)とを、軸方向に関して互いに直列に配置している。但し、この電動モータ9とウォーム減速機10aとを、駆動スピンドル14の中心軸L14に関して反対の位置に配置する事で、この電動モータ9とウォーム減速機10aとの重心位置を、前記中心軸L14上、又は近傍に配置する様にしている。
この構造によれば、前述した、電動モータの重心の偏りに基づいてキャリパ5aに加わる、回転モーメントの発生を防止、又は小さくする事ができる。但し、図8に示す様に、電動モータ9、及びウォーム減速機10aの位置が、一対のガイドピン6a、6bの軸方向位置と重畳した関係に配置されている。この為、前述した作業効率の低下、及びレイアウト性の低下に関する問題は解決できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、電動モータ、及びウォーム減速機の配置を工夫する事で、修理、保守、車両搭載時の作業効率の向上、及び、レイアウト性の向上を図り、更に、前記電動モータの重心位置の偏りに基づく回転モーメントの発生を防止して、振動、騒音、又はパッド、及びロータの偏磨耗の発生の防止を図る事ができる電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置は、ロータと、支持部材と、一対のパッドと、電動式押圧装置とを備える。
このうちのロータは、車輪と共に回転する。
又、前記支持部材は、前記ロータに隣接した状態で、回転しない部分に支持されるもので、フローティングキャリパ型ディスクブレーキ装置を構成するサポートが相当する。
又、前記一対のパッドは、前記ロータの軸方向両側に配置されると共に、前記支持部材によりこのロータに対する遠近動を可能に支持されている。
又、前記電動式押圧装置は、駆動源である電動モータと、減速機と、この減速機を介して伝わる回転運動を直線運動に変換する推力発生機構とを備えたものである。
このうちの減速機は、ウォームとウォームホイールとを互いに噛合させて成るウォーム減速機である。
【0010】
特に、本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置に於いては、前記ウォームホイールは、前記推力発生機構を構成する回転部材の一部に、この回転部材と同心に、且つ、共に回転する状態で支持されている。
又、前記ウォームは、軸方向の一部にウォーム歯を設けており、このウォーム歯を上記ウォームホイールと噛合させた状態で、前記減速機のケーシングの内側に回転自在に支持されている。
又、駆動側歯車を、この電動モータの出力軸に、この出力軸と同心に、且つ、共に回転する状態で設けている。
又、被駆動側歯車を、前記ウォームの一部に、このウォームと同心に、且つ、共に回転する状態で設けている。
更に、前記電動モータの出力軸の回転力を、前記ウォームに伝達する事を可能にすべく、前記駆動側歯車と、被駆動側歯車とを、直接、又は他の歯車を介して噛合している。
【0011】
前述の様な本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置を実施する場合に、好ましくは請求項2に記載した発明の様に、前記電動モータと前記ウォームとを、この電動モータの出力軸の中心軸と、前記ウォームの中心軸とが平行であり、且つ、これら両中心軸が、(それぞれが)前記推力発生機構を構成する回転部材の中心軸に直交する方向に存在する(互いに異なる)仮想平面上に存在する様に配置する。
【0012】
又、前述の様な請求項1〜2に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記ウォーム減速機をグリス潤滑とする。又、前記ウォームホイール、及び前記ウォームを、鉄系合金、銅系合金等の金属製、又は、ポリアミド樹脂、ポリアセタール等の合成樹脂製とする。更に、前記ウォームのウォーム歯の進み角を、1.5〜3度とする。尚、この1.5〜3度なる角度は、前記ウォームホイール、及び、前記ウォームの材料に応じて適宜調節する。比較的摩擦係数が大きい鉄系合金の場合には大きくても(3度に近くても)良いが、比較的摩擦係数の小さな銅系合金や合成樹脂の場合には小さく(1.5度に近く)する。
【発明の効果】
【0013】
上述の様な本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置の場合、前記電動モータの出力軸の中心軸とウォームの中心軸とを平行な状態、且つ、これら両中心軸が前記推力発生機構を構成する回転部材の中心軸に直行する方向に存在する、互いに異なる仮想平面上に存在し、しかも、前記出力軸の中心軸の軸方向位置と前記ウォームの中心軸の軸方向位置とが、前記回転部材の中心軸の軸方向に見た場合に互いに重なり合う状態に配置する事で、前記ブレーキ装置のキャリパに対する、電動モータ、及びウォームの軸方向に関する寸法を小さくする事ができる。この為、この電動モータ、及びウォーム減速機が、前記ディスク式電動駐車ブレーキ装置のガイドピン等の軸方向位置と重畳する事がなく、修理、保守、車両搭載時の作業性の向上、及び、レイアウト性の向上を図る事ができる。
又、前記電動モータと前記ウォームとを平行に配置できるので、前記ウォームの径方向に関して、前記電動モータの配置の自由度を高くする事ができる。この為、ホイール等の周辺部品との干渉を避ける為のレイアウト性が高い。又、異なるサイズのシリンダに対して、前記電動モータのケーシングの共通化を図る事ができる。
又、前記電動モータを、前記推力発生機構を構成する回転部材の中心軸を跨ぐ状態で配置する事により、この電動モータの重心位置を、この回転部材の中心軸上、又は近傍に配置する(この重心位置で電動モータの中心軸に直交する仮想平面とこの回転部材の中心軸とを一致させるか、これらのずれを僅少に抑える)事ができる。この為、前記電動モータ、及びこの電動モータの支持部に、運転時の振動、自重等に基づく、前記中心軸周りの回転モーメントが作用する事を防止、又は、低減する事ができる。
更に、後述する実施の形態の第2例の構造の様に、前記電動モータを前記キャリパのシリンダ部上に配置して、ブレーキ装置全体の重心位置を、ロータ側に配置するができる。この為、このブレーキ装置の支持部に作用する回転モーメントを低減する事ができ、延いては、ラトル音やガイドピンの摺動性低下による引き摺り、及びブレーキパッドの偏摩耗等の発生を防止する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図3のイ−イ断面図。
【図2】同じく、左半部は、図1の上方から見た斜視図、右半部は図1のロ−ロ断面図。
【図3】同じく、図1の右側から見た正投影図。
【図4】同じく、図1と同方向から見た一部断面図。
【図5】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図6】従来構造の第1例を示す、電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置の一部を切断して径方向外方から見た正投影図。
【図7】図6のハ−ハ断面図。
【図8】従来構造の第2例を、ウォームを省略した状態で示す、図6と同様の図。
【図9】図8のニ−ニ断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、本発明を、走行している車両を減速乃至停止させる為のサービスブレーキを油圧式に、車両を停車状態に維持する為のパーキングブレーキを電気式に、それぞれ作動させる、フローティングキャリパ型ディスクブレーキ装置に本発明を適用した構造に就いて示している。この様な、油圧式のサービスブレーキ装置の構造及び駐車ブレーキ装置の基本構造に就いては、前記特許文献1に記載され、従来から広く知られている構造とほぼ同様であるので説明は簡略にし、以下に、本例の特徴部分の構造及び作用を中心に説明する。
【0016】
本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1bは、車輪と共に回転するロータ2に隣接する状態で車体に固定するサポート3に対して一対のパッド4a、4b及びキャリパ5bを、軸方向の変位を可能に支持している。この為に図示の例では、前記図6〜9に記載した従来構造と同様に、前記キャリパ5bにそれぞれの基端部を支持固定した一対のガイドピン6a、6bを、前記サポート3のうちで前記ロータ2の回転方向両側部分に設けた一対のガイド筒部7a、7bのガイド孔との係合により支持している。更に、パーキングブレーキ機構を構成する電動式押圧装置8aを備える。
【0017】
このうちのインナ、アウタ両パッド4a、4bは、前記ロータ2を軸方向両側から挟む状態で設けている。
又、前記キャリパ5bは、アウタ側端部にキャリパ爪20を、インナ側半部にシリンダ部21を、それぞれ設けている。そして、このシリンダ部21の内部に、前記ロータ2に向けて開口する状態で設けたシリンダ空間22内にピストン19aを、軸方向の変位を可能に、且つ、液密に嵌装している。
【0018】
又、前記電動式押圧装置8aは、駆動源である電動モータ9aと、ウォーム減速機10bと、回転運動を直線運動に変換する推力発生機構23とを備えている。
このうちの電動モータ9aは、この電動モータ9aの中心軸L9が、前記推力発生機構23を構成する回転部材である駆動スピンドル41の中心軸L41に直交する方向に存在する仮想平面上に存在する様に、キャリパ5bのインナ側端部に固定したケーシング24のモータ用空間25(図2参照)内に配置されている。又、前記電動モータ9aの出力軸26の先端部には、この出力軸26と同心に、且つ、共に回転可能な状態で固定された平歯車状の駆動側歯車27(図2参照)を外嵌固定(スプライン係合)している。
【0019】
又、前記ウォーム減速機10bは、潤滑方法がグリス潤滑であり、鉄系合金製であるウォーム12aと、同じく鉄系合金製であるウォームホイール13aとを互いに噛合させて成る。尚、これらウォーム12a、及び、ウォームホイール13aは、鉄系合金製以外にも銅系合金等の金属製、又は、ポリアミド樹脂、ポリアセタール等の合成樹脂製とする事ができる。
このうちの、ウォーム12aは、外周面の軸方向中間部にウォーム歯28を設けている。このウォーム歯28は、進み角(このウォーム歯28と、前記ウォーム12aの中心軸L12に直交する方向に存在する仮想平面とが成す角度)が、1.5〜3度の範囲に設定されている。尚、この1.5〜3度なる角度は、前記ウォームホイール13a、及び、前記ウォーム12aの材料に応じて適宜調節する。比較的摩擦係数が大きい鉄系合金の場合には大きくても(3度に近くても)良いが、比較的摩擦係数の小さな銅系合金や合成樹脂の場合には小さく(1.5度に近く)する。
又、前記ウォーム12aの外周面の軸方向一端部には、このウォーム12aと同心に、且つ、共に回転可能な状態で固定され、前記駆動側歯車27と噛合する被駆動側歯車29(図2参照)を外嵌固定(スプライン係合)している。この被駆動側歯車29は、円筒部30と、この円筒部30の外周面一端部(図2の下側端部)に一体に設けた歯車部31とから成る。
この様なウォーム12aは、一端部を、前記ケーシング24のウォーム用空間32の内周面に形成された支持孔33にスリーブ34(滑り軸受)を介して、回転自在に支持している。又、軸方向中間部の他端寄り部分を、前記ウォーム用空間32の開口部を塞ぐ蓋体35に形成された支持孔36に対して、前記被駆動側歯車の円筒部30、及びスリーブ37(滑り軸受)を介して、回転自在に支持している。この様にして、前記ウォーム12aは、前記ウォーム用空間内32に、このウォーム12aの中心軸L12が、前記電動モータ9aの中心軸L9と平行な状態で、且つ、前記ケーシング24に対して回転自在に支持されている。
【0020】
又、前記ウォームホイール13aは、このウォームホイール13aの中央部に設けた支持孔17aを、前記推力発生機構23を構成する駆動スピンドル41の基端部(図1、2の右側端部)に外嵌固定する事で、この駆動スピンドル41と同心に、且つ、共に回転する状態で、前記ケーシング24のウォームホイール用空間内38に支持されている。
【0021】
又、前記推力発生機構23は、送りねじ機構39とボールランプ機構40との組み合わせにより構成されている。
このうちの、送りねじ機構39は、前記駆動スピンドル41と、この駆動スピンドル41のアウタ側半部(図2の左半部)に設けた雄ねじ部42に、前記ボールランプ機構40を構成する駆動側ロータ43の中心部に設けたねじ孔44を螺合させる事により構成している。
又、この様な送りねじ機構39を構成する前記駆動スピンドル41の軸方向中間部に外向フランジ状の鍔部45を形成し、この鍔部45のインナ側面をスラスト転がり軸受46により支承している。この構成により前記駆動スピンドル41を、前記キャリパ5bのシリンダ空間22の奥端部(インナ側端部)に、インナ側に向いたスラスト荷重を支承しつつ、回転駆動自在に組み付けている。
【0022】
又、前記ボールランプ機構40は、前記駆動側ロータ43と、被駆動側ロータ47と、複数個のボール48とを備える。これら両ロータ43、47の互いに対向する面の円周方向複数箇所には、それぞれ複数箇所(例えば3〜4箇所)に、それぞれが軸方向に見た形状が円弧形である、駆動側ランプ部49と被駆動側ランプ部50とを設けている。
これら各ランプ部49、50の、軸方向に関する深さは、円周方向に関して漸次変化しているが、変化の方向は前記各駆動側ランプ部49と前記各被駆動側ランプ部50とで、互いに逆方向としている。従って、前記両ロータ40、43を相対回転させ、前記各ボール48を前記各ランプ部49、50に沿って転動させると、前記両ロータ40、43同士の間隔が大きな力で拡張できる(拡げられる)。
【0023】
この様な、ボールランプ機構40は、前記ピストン19aの内径側に緩く内嵌したケース51の内側に配置している。この状態で、このケース51の一端部(図1の左端部)を径方向内方に折り曲げた折り曲げ部52を、前記被駆動側ロータ47の外周縁のアウタ側端部に形成した係止段部53に係合させている。又、前記駆動側ロータ43の先端部(図1の左側端部)のインナ側面と、前記ケース51の内周面のインナ側寄りに固定した円輪部材54との間に、付勢ばね55を設けている。この付勢ばね55は、前記駆動側ロータ43に対して、この駆動側ロータ43の作動時(制動力発生時)の回転方向と反対方向の弾性力、及び、アウタ側への弾性力を付与している。
【0024】
又、前記ケース51の中間部の円周方向の一部(例えば120〜180度の範囲)に、このケース51の外周面から内周面に掛けて貫通する切り欠き56を形成している。そして、前記駆動側ロータ43の先端部外周面の一部に設けた係止部(図示省略)を、この切り欠き56に係合させている。この様な構造により、この駆動側ロータ43が過度(120〜180度以上)に回転する事を防止している。
【0025】
又、前記被駆動側ロータ47の先端部の外周面のうち、前記ケース51からアウタ側に突出しており、アウタ側に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜したロータ側傾斜面57を、前記ピストン19aの内周面の軸方向中間部に形成し、このロータ側傾斜面57と同方向に同角度で傾斜した、部分円すい凹面状の受面58に対向させている。そして、これら両面57、58同士の当接に基づく、くさび効果により、前記被駆動側ロータ47の回転を阻止している。
尚、この様な推力発生機構23の構造及び作用は、基本的には、従来から広く知られている構造と同様である。但し、本発明を実施する場合、推力発生機構は、図示の様な送りねじ機構とボール・ランプ機構とを組み合わせた構造に限らず、カム・ローラ機構等、回転方向の力を、増力しつつ軸力に変換する、各種機械的な増力機構を採用できる。
【0026】
上述の様に構成する、本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1bのうちの、走行中の車両を減速乃至停止させるサービスブレーキ装置を作動させる場合には、運転手のブレーキ操作(ブレーキペダルの踏み込み)に基づいて、前記キャリパ5bのシリンダ部21内に圧油を送り込み、前記ピストン19aにより前記インナ側パッド4a(のライニング)を、前記ロータ2のインナ側面に、図1の右から左に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として前記キャリパ5bが、両ガイドピン6a、6bと前記両ガイド筒部7a、7bのガイド孔との摺動に基づいて、図1の右方に変位し、前記キャリパ5bのキャリパ爪20がアウタ側パッド4b(のライニング)を、前記ロータ2の外側面に押し付ける。この結果、このロータ2が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行われる。
尚、本例の構造の場合、前記両パッド4a、4b(のライニング)の磨耗に拘らず、非制動時に於ける両パッド4a、4b(のライニング)と前記ロータ2との間の隙間を適正値に保つ為のアジャスト機能は、従来から周知の(ディスクブレーキ用アジャスト機構として最も古典的な)アジャスト機能と同様に、前記キャリパ5bのシリンダ部21の内周面に設けた係止溝59に装着した液密保持用のオイルリング60の弾性変形と、このオイルリング60の内周面と前記ピストン19aの外周面との摺動とに基づく作用により実現している。
【0027】
又、前記電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1bのうちの、車両を停止状態に維持する為の電動式パーキングブレーキ装置を作動させる場合には、前記電動モータ9aに通電する事により、この電導モータ9aの出力軸26を回転させる。この出力軸26の回転運動は、前記駆動側歯車27、及び被駆動側歯車29を介して前記ウォーム減速機10bのウォーム12aに伝わる。更に、このウォーム12aの回転運動が、前記ウォームホイール13aを介して、前記推力発生機構23を構成する送りねじ機構39の駆動スピンドル41へと伝達されて、この駆動スピンドル41を回転駆動させる。
【0028】
この回転駆動の初期段階では前記駆動側ロータ43が、前記両面57、58同士の摩擦抵抗と、前記付勢ばね55等の抵抗とにより回転しない。そして、前記駆動側ロータ43が、前記駆動スピンドル41の雄ねじ部42と、前記駆動側ロータ43のねじ孔44との螺合に基づいて、前記被駆動側ロータ40と共に、前記駆動スピンドル41の先端側に平行移動(前記ロータ2に向けて、回転せずに移動)する。この平行移動により、前記ピストン19aがアウタ側に押し出され、前記ロータ2の軸方向両側面と、前記インナパッド4a及びアウタパッド4bとの間の隙間が詰められる。この様な平行移動の間、前記各ボール48は、前記各ランプ部49、50のうちで最も深くなった側の端部に位置している。
【0029】
前記平行移動の結果、前記各部の隙間が喪失し、前記駆動側、被駆動側両ロータ43、40がそれ以上前記ロータ2に向けて移動する事に対する抵抗が大きくなると、このうちの駆動側ロータ43が前記駆動スピンドル41と共に回転し、この駆動側ロータ43と前記被駆動側ロータ47とが相対回転する。すると、前記各ボール48が、転動しながら、前記各ランプ部49、50のうちで浅い側に移動し、前記両ロータ43、47同士の間隔が拡がる。これら各ランプ部49、50の傾斜角度は緩いので、これら両ロータ43、47同士の間隔を拡げる力は大きくなり、前記インナ、アウタ両パッド4a、4bを前記ロータ2の両側面に、前記ピストン19a及びキャリパ爪20により、大きな力で押し付けて、制動を行える。
制動力の大きさは、前記電動モータ9aへの通電量を規制して、前記出力軸26から前記ウォーム減速機10bを介して前記推力発生機構23に入力するトルクを調節する事により調節する。
又、この様にして制動を行うべく、前記インナ、アウタ両パッド4a、4bを前記ロータ2の両側面に押し付ける力の大きさの調節は、前記電動モータ9aへの通電量を調節するフィードフォワード制御により行える他、軸力センサ等を設けて、この軸力センサの測定信号に基づくフィードバック制御によっても行える。
【0030】
又、本発明の場合、前記ウォーム減速機10bのウォーム12aのウォーム歯28の進み角を、1.5〜3度の範囲に設定している。この範囲に設定する事で、前記ウォームホイール13aの歯面と、前記ウォーム12aのウォーム歯28との摩擦抵抗により、このウォームホイール13aからこのウォーム12aに回転が伝わらない構造にしている。即ち、前記ウォーム減速機10bは、不可逆性(セルフロック機能)を有するものである。この為、前記電動モータ9aへの通電を停止した場合でも、何れの部分にも通電する事なく、前記インナ、アウタ両パッド4a、4bを前記ロータ2の軸方向両側面に押し付けたままの状態に維持する事ができ、バッテリー等の電源を消耗する事なく、制動力を確保できる。
尚、前記ウォーム減速機を、可逆性のものにする事もできる。但し、この場合には、前記電動モータ9aへの通電を停止した後も前記制動力を確保する為のロック構造を、別途設ける。
【0031】
又、前記電動式パーキングブレーキ装置の作動を解除する為には、前記電動モータ9aに通電する事により、この電動モータ9aの出力軸26を作動時(制動力発生時)とは逆方向に、所定量(制動力を解除する為に十分な回転量)だけ回転させる。この出力軸26の回転運動は、作動時と同様の経路で、前記駆動側歯車27、及び被駆動側歯車29を介して、前記ウォーム減速機10bのウォーム12aに伝わる。更に、このウォーム12aの回転運動が、前記ウォームホイール13aを介して、前記推力発生機構23を構成する送りねじ機構39の駆動スピンドル41を回転駆動させる。この様にして、前記ピストン19aを、前記ロータ2から離れる方向へ変位させて、前記両ブレーキパッド4a、4bを前記ロータ2から離す。
【0032】
上述した様な、本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1bの場合、前記電動モータ9aと、前記ウォーム12aとは、この電動モータ9aの出力軸26の中心軸L9と、このウォーム12aの中心軸L12とが平行な状態、且つ、これら両中心軸L9、L12が、前記駆動スピンドル41の中心軸L41に直行する方向に存在する、互いに異なる仮想平面上に存在し、しかも、前記電動モータ9aの出力軸26の中心軸L9の軸方向位置と前記ウォーム12aの中心軸L12の軸方向位置とが、前記駆動スピンドル41の中心軸L41の軸方向に見た場合に互いに重なり合う状態に配置している。この為、前記キャリパ5bに対する、前記電動モータ9a、及びウォーム12aの軸方向に関する寸法を小さくする事ができ、この電動モータ9a、及びウォーム減速機12aが、前記一対のガイドピン6a、6bの軸方向位置と重畳する事がなく、修理、保守、車両搭載時の作業性の向上、及び、レイアウト性の向上を図る事ができる。
又、前記ウォーム12aの径方向に関して、前記電動モータ9aの配置の自由度を高くできる。この為、ホイール等の周辺部品との干渉を避ける為のレイアウト性が高い。又、異なるサイズのシリンダに対して、前記電動モータのケーシングの共通化を図れる。
更に、前記電動モータ9aの重心位置を、この駆動スピンドル41の中心軸L41上、又は近傍に配置する事ができる。即ち、この重心位置で前記電動モータ9aの中心軸に直交する仮想平面αと、前記駆動スピンドル41の中心軸L41とを一致させる(仮想平面α上に中心軸L41を配置する)か、これら両者α、L41のずれを僅少に抑えられる。この為、前記電動モータ、及びこの電動モータの支持部に、運転時の振動、自重等に基づく、前記中心軸L41回りの回転モーメントが作用する事を防止、又は、低減する事ができる。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図5も、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。
本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1cは、電動モータ9bを、キャリパ5bのシリンダ部21aの上方(図4の上方)に配置している。
この様な、本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置1cの場合、このディスクブレーキ装置1c全体の重心位置を、ロータ2側に配置できる。この為、このディスクブレーキ装置1cの支持部等に作用する回転モーメントを低減する事ができ、延いては、ラトル音やガイドピン6a、6b(図2〜3参照)の摺動性低下による引き摺り、及びブレーキパッド4a、4bの偏摩耗等の発生を防止する事ができる。
電動モータ9bの配置が相違する以外は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
前記各実施の形態の構造は、サービスブレーキを油圧式に、パーキングブレーキを電気式に、それぞれ作動させる構造としているが、本発明を実施する場合に、サービスブレーキの構造は、油圧式に限らず、電気式にする事もできる。
【符号の説明】
【0035】
1、1a、1b、1c 電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置
2 ロータ
3 サポート
4a、4b パッド
5、5a、5b キャリパ
6a、6b ガイドピン
7a、7b ガイド筒部
8、8a 電動式押圧装置
9、9a、9b 電動モータ
10、10a、10b ウォーム減速機
11 送りねじ機構
12、12a ウォーム
13、13a ウォームホイール
14 駆動スピンドル
15 ナット
16 雄ねじ部
17、17a 支持孔
18 雌ねじ部
19、19a ピストン
20 キャリパ爪
21、21a シリンダ部
22 シリンダ空間
23 推力発生機構
24 ケーシング
25 モータ用空間
26 出力軸
27 駆動側歯車
28 ウォーム歯
29 被駆動側歯車
30 円筒部
31 歯車部
32 ウォーム用空間
33 支持孔
34 スリーブ
35 蓋体
36 支持孔
37 スリーブ
38 ウォームホイール用空間
39 送りねじ機構
40 ボールランプ機構
41 駆動スピンドル
42 雄ねじ部
43 駆動側ロータ
44 ねじ孔
45 鍔部
46 スラスト転がり軸受
47 被駆動側ロータ
48 ボール
49 駆動側ランプ部
50 被駆動側ランプ部
51 ケース
52 折り曲げ部
53 係止段部
54 円輪部材
55 付勢ばね
56 切り欠き
57 ロータ側傾斜面
58 受面
59 係止孔
60 シール部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開2002−89598号公報
【特許文献2】特開2006−283811号公報
【特許文献3】特開2006−283887号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータと、このロータに隣接した状態で、回転しない部分に支持された支持部材と、このロータの軸方向両側に配置されると共に、この支持部材によりこのロータに対する遠近動を可能に支持された一対のパッドと、これら両パッドを前記ロータに近づく方向に移動させる電動式押圧装置とを備え、
この電動式押圧装置は、駆動源である電動モータと、減速機と、この減速機を介して伝わる回転運動を直線運動に変換する推力発生機構とを備えたものであり、
前記減速機が、ウォームとウォームホイールとを互いに噛合させて成るウォーム減速機である電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置に於いて、
前記ウォームホイールは、前記推力発生機構を構成する回転部材の一部に、この回転部材と同心に支持されて、この回転部材と共に回転するものであり、
前記ウォームは、軸方向の一部にウォーム歯を設けており、このウォーム歯を上記ウォームホイールと噛合させた状態で、前記減速機のケーシングの内側に回転自在に支持されており、
前記電動モータの出力軸の回転力を、前記ウォームに伝達する事を可能にすべく、この電動モータの出力軸に、この出力軸と同心に、且つ、共に回転する状態で設けた、駆動側歯車と、前記ウォームの一部に、このウォームと同心に、且つ、共に回転する状態で設けた被駆動側歯車とを、直接、又は他の歯車を介して噛合させている事を特徴とする電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記電動モータの出力軸の中心軸と、前記ウォームの中心軸とが平行であり、これら両中心軸が、前記推力発生機構を構成する回転部材の中心軸に直交する方向に存在する仮想平面上に存在する様に、前記電動モータとウォームとを配置している、請求項1に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記ウォーム減速機がグリス潤滑であり、前記ウォームのウォーム歯の進み角が、1.5〜3度である、請求項1〜2のうちの何れか一項に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−158058(P2011−158058A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21875(P2010−21875)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】