説明

電動式粘性材料吸引吐出装置およびこれを用いた粘性材料の施工方法

【課題】シーリング材のような高粘度の粘性材料を吸引および吐出して施工する際の作業者にかかる労力負担を軽減し、また、残存吐出を防止して操作性の向上を図る。
【解決手段】粘性材料の吸引および吐出動作をいずれも電動で行なう、本体部(2)とシリンダ(3)とからなる電動式吸引吐出装置。本体部は、ロッド(8)と、該ロッドに結合されたピストン(9)と、該ロッドの移動を喚起する電動モータ(4)とを有する。ロッドは、シリンダ内へ粘性材料を吸引する方向およびシリンダ外へ粘性材料を吐出する方向にピストンを移動させる。そのようなピストンの移動方向の切替えは、本体部に設けられた電気回路がバッテリ(23)とモータとを含む閉回路を形成し、バッテリとモータの接続の向きを切替えスイッチ(S1)を介して切り替えることで、モータの回転方向を逆転させることにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粘性材料の吸引および吐出を行なう電動式の吸引吐出装置、ならびにこれを用いる粘性材料の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物や土木構造物などにおいて、外壁の目地などに防水目的でシーリング材を充填/施工する作業、あるいは、木質の根太などに合板を接着したり、コンクリート床に合成樹脂製のシートを貼り付けたりする目的で、下地に接着剤を塗布する作業などが一般的に行なわれている。このような作業に用いられるシーリング材や接着剤は、垂直目地に充填したとき垂れないように揺変性を付与したり、部材の粘接着保持性を付与したりするために、いずれも粘度が高められている。
【0003】
こうした粘度を高めた粘性材料を目地に充填したり、あるいは下地材に塗布して施工を行う場合には、通常、施工する粘性材料を吐出装置を用いて吐出する。
【0004】
たとえば、シーリング材を施工する場合、シーリング材の使用量が比較的少ない場合には、先端にノズルを有する紙製またはポリプロピレン製のカートリッジ状容器(320mlや500mlといった小容量のものがよく用いられる)に予めシーリング材を充填しておき、これを手動式の吐出装置にセットして、カートリッジ状容器に付設されたプランジャーを押すことにより、先端のノズルからシーリング材を吐出する。
【0005】
また、シーリング材の使用量が比較的多い場合には、ある程度大きな容積(たとえば500ml〜1,000ml程度)の空間を有するシリンダと、そのシリンダに沿って可動なピストンとを内部に備えた手動の吸引吐出装置が使用される。この場合には、シリンダの一端に設けられた開口を、広口のペール缶に入れたシーリング材の中に挿入し、ピストンについた棒状物を手で引っ張ることにより、シリンダ内にシーリング材を吸引して充填する。次いで、開口にノズルを装着した後、施工対象である建築外壁の目地などにノズルをあてがい、吸引吐出装置のレバーを引いてピストンを吐出方向に押すことにより、シーリング材をノズルから吐出させる。そして、これらの作業は全て手動で行われる。
【0006】
シリンダとピストンとを備えた吸引吐出装置を用いる場合、1回の吸引でシリンダ内に充填できるシーリング材の量は高々1000mlであるため、シーリング材の使用量が多くなれば吸引の回数の増加が避けられない。シーリング材は粘度が高く流体抵抗が大きいため、シーリング材の吸引および吐出の際にピストンを引いたり押したりするには大きな力が必要である。したがって、作業者がシーリング材の吸引や吐出を手動で多数回行なうとすれば、これは作業者にとって大きな負担となる。
【0007】
一方、作業者の負担を低減するために、粘性材料が入ったカートリッジ状容器のプランジャーを電動で押すようにした吐出装置が知られている。このタイプの粘性材料吐出装置としては、粘性材料を押し出す押圧棒にピニオンと噛合するラックを設け、多段変速装置を設けた電動モータでピニオンを駆動することにより押圧棒を動かすようにした粘稠剤押出装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。また、ピストンと結合しているロッドの表面に設けたネジ部に球体を係合させ、これを駆動することによりピストンを動かすようにした吐出装置も知られている(たとえば特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、これらはいずれも、予め粘性物質が収容された円筒状のカートリッジやチューブを押出機やシーリングガンなどにセットし、電動で粘性物質をカートリッジやチューブの外へ吐出させるようにしたものであり、粘性物質を押し出す点については開示されているが、粘性物質を吸引する点については全く開示されていない。
【0009】
ところで、電動式の吐出装置を用いてシーリング剤のような高粘度の粘性材料を吐出させる場合、吐出を停止させようとして電動モータを停止した後も、カートリッジ状容器内に残る残圧により粘性材料がいつまでもノズルから吐出し続ける、いわゆる「後だれ」あるいは「残存吐出」とよばれる現象を生じ、施工対象物を汚してしまうという大きな作業上の問題がある。これを解決する方法として、スイッチをオフにした後でモータの回転方向を逆転させることによってシーリング材の後だれ現象を防止する吐出装置がある(たとえば特許文献3参照)。これは、スイッチのオン時間(シーリング材の吐出時間)中にコンデンサを充電し、その充電量によってモータの逆転時間を決定するものであるが、後だれ現象は必ずしも十分に防止できてはいない。
【0010】
【特許文献1】特開昭59−222253号公報
【特許文献2】特表平10−502866号公報
【特許文献3】特開平8−257465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記問題に鑑み、粘性材料の吸引および吐出作業の両方を一つの装置で行うことができ、これらをいずれも電動で行うことにより作業者の負担を軽減することができる、吸引時および吐出時のいずれにおいても操作性に優れた、電動式の粘性材料吸引吐出装置を提供することである。本発明の別の課題は、粘性材料の吐出/施工作業において、スイッチを切って電動モータを止めた瞬間にノズルからの吐出が止まり、残存吐出を生じない電動式の粘性材料吸引吐出装置を提供することである。本発明のさらに別の課題は、前記電動式粘性材料吸引吐出装置を用いることにより、作業者の労力負担が軽減され、かつ、残存吐出を生じない、施工対象物を汚すことなく綺麗に施工することができる粘性材料の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は,粘性材料の吸引および吐出を行なうための電動式吸引吐出装置であって、該吸引吐出装置は本体部とシリンダとからなり、該本体部はロッドと該ロッドに結合されたピストンと該ロッドの移動を喚起する電動モータとを有し、該ロッドが該シリンダ内へ粘性材料を吸引する方向に該ピストンを移動させる吸引動作と該シリンダ外へ粘性材料を吐出する方向に該ピストンを移動させる吐出動作とを実行するように構成されたことを特徴とする吸引吐出装置を提供することにより、上記課題を解決する。
【0013】
また本発明は、粘性材料の吸引および吐出を行う粘性材料の施工方法であって、上記電動式吸引吐出装置を用い、粘性材料を該吸引吐出装置のシリンダ内に吸引する工程と、施工対象物に対して該シリンダ内に吸引された該粘性材料を吐出する工程とを実行することを特徴とする施工方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸引吐出装置における粘性材料の吸引および吐出の両動作を、いずれも手動ではなく電動で行うので、作業者の労力の負担を著しく軽減することができる。また、本発明の好ましい実施形態によれば、ピストンの移動速度すなわち吸引および吐出の速度を無段階に調節することができるので、操作性が向上し作業能率を上げることができる。さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、作業者が粘性材料の吐出を停止しようと意図して操作した場合に、ピストンがその操作に即応して瞬時に吐出を停止し、粘性材料の残存吐出が有効に防止されるので、この点でも作業者の労力の負担が軽減される。これらのことにより、本発明によれば、安全に能率よく施工を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
図1、図2および図3を参照して、本発明の電動式吸引吐出装置の構成を説明する。図1は、本体部2とそれに連結されたシリンダ3とからなる、本発明の電動式吸引吐出装置1の全体を示した図である。図1は、シリンダ3にノズル41を取り付けた状態を示しており、シリンダ3とノズル41はその断面のみが示されている。また、電動モータ4、電源(バッテリ)23および電源ライン24は、簡略化して示されている。図2は、図1の吸引吐出装置1をノズル41の方向から見た図である。図3は、本体部2の回転歯車5、従動歯車6およびナット7と、それらの近傍のロッド8を拡大して示す断面図である。
【0017】
本発明の吸引吐出装置1は,本体部2にシリンダ3を取り付けた状態で使用する。本体部2は、その筐体(外装板12a、12bおよび12cからなる)に固定された駆動手段たる電動モータ4と、電動モータ4に取り付けられ電動モータの回転に合わせて回転する回転歯車5と、回転歯車5と噛合する従動歯車6と、従動歯車6に固定されて一緒に回転するナット7とを有している。さらに、本体部2は、ナット7に螺嵌し筐体内部から外部に突き出して延在するロッド8を有し、ロッド8の先端にはシリンダ3内へ粘性材料を吸引し、吸引した粘性材料をシリンダ外へ吐出するピストン9が結合している。このように、本体部2は、電動モータ4で回転歯車5が駆動され、これによりロッド8とこれに結合したピストン9の移動が喚起される構成を有している。なお、本体部2は、作業者が本体部2を保持するためのグリップ14を有する。
【0018】
シリンダ3は、その一端に粘性材料の吸引口となる開口部3aを有し、他端の開口部3bは本体部2との連結部を構成する。シリンダ3の内壁面が、ピストン9とともに、吸引された粘性材料を受容する空間を画定し、シリンダ3は、ピストン9を内挿した状態で、連結部(開口部3b)を介して本体部2に着脱可能に支持される。なお、シリンダ3は、連結部で本体部2に固定されている必要はなく、後に述べるピストン9の移動による荷重で外れないように支持されていればよい。たとえば、図3に示すように、連結部としてシリンダ3の開口部3b側の外周面にネジ部3cを設ける一方、本体部筐体のピストン3を取り付ける側を構成する外装板12bの外側に、このネジ部3cが螺合可能な連結治具13を、固定治具34と固定治具38の間にスペーサ39を介して挟み、回転可能に固定しておき、シリンダ3は、この連結治具13に使用の度に螺合するようにすればよい。連結治具13が回転可能であるため、シリンダ3も回転可能となり、したがって、シリンダ3に取り付けた後述するノズル41を、外壁目地などの施工対象物の向きに合うように自由に回転させることができる。
【0019】
シリンダ3の先端側である開口部3aは、ノズル41を脱着可能に取り付けられるようになっている。すなわち、粘性材料の吸引時には開口面積を大きくして流体抵抗を減らすためにノズルを外しておき、一方、粘性材料の吐出時には正確に細く吐出するためにノズル41を取り付けて開口面積を小さく絞るようにすれば便利である。
【0020】
なお、シリンダ3の開口部3aの側の端部を粘性材料に挿入した状態でピストン9を本体部2の側に移動させたときに粘性材料を吸い込めるように、ピストン9の外周部はシリンダ3の内壁面に密接しながら動けるような、すなわち内壁面に摺接する構造である必要がある。このため、図1に示すように、ピストン9の外周面に、たとえば、ゴム製や合成樹脂製のリング状パッキン9aを取り付けてもよいし、ピストン9の外周面自体をシリンダ3の内壁面に密接しながら動けるような大きさおよび材質で形成してもよい。
【0021】
次に、図3および図4を参照して、回転歯車5,従動歯車6,ナット7およびロッド8の関係を詳しく説明する。図4は、本体部2を構成する要素の中で、特に回転歯車5,従動歯車6,ナット7およびロッド8を拡大して示す斜視図である。ロッド8の表面(外周面)には雄ネジが形成され、一方、ナット7の内面には雌ネジが形成されている。この雄ネジと雌ネジとにより、ロッド8はナット7に螺嵌している。電動モータ4は本体部2に固定され、その回転シャフト4aにピン31により回転歯車5が固定されていて、電動モータ4の回転は回転歯車5に伝達される。従動歯車6は、回転歯車5と噛合され、ボールベアリング32aを介して固定具33aにより、本体部筐体のシリンダを取り付ける側とは反対側を構成する外装板12aに回転可能に取り付けられている。これにより、回転歯車5の回転は従動歯車6に逆方向の回転として伝達される。ナット7の一方の側の面は、従動歯車6の面に、同心状に、ボルト35a、35b、36aおよび36bで固定されている。ナット7の反対側の面は、ボールベアリング32bを介して、固定具33bと固定治具34により、本体部筐体のシリンダ3を取り付ける側を構成する外装板12bに回転可能に取り付けられている。なお、固定治具34は、ボルト37aおよび37bで外装板12bに固定されている。これにより、従動歯車6とナット7は、ボールベアリング32aとボールベアリング32bを介して、本体部筐体の外装板に両端から回転可能に支持される。
【0022】
したがって、電動モータ4の回転運動は、回転歯車5から従動歯車6に伝達されるとともにナット7にも伝達され、ナット7が回転することにより、ナット7に螺嵌しているロッド8の移動を喚起する。なお、回転歯車5と従動歯車6の歯数比を変えることにより、ナット7の回転速度を適宜、変更することができる。また、図3においては、2個の歯車の組合せが採用されているが、回転歯車5と従動歯車6の間に、別の歯車を介することによりナット7の回転速度や回転方向を変えることもできる。
【0023】
ナット7の回転運動は、ナット7に螺嵌しているロッド8の軸方向直線運動として伝達される。すなわち、ナット7は、グリップ14により作業者により保持される本体部2に対して回転可能に取り付けられており、一方、図1および図2に示すように、ロッド8には回転拘束手段たるガイド棒10が連結板11を介して連結されていて、このガイド棒10は、シリンダ3の外側に、ロッド8と平行に、本体部筐体の外装板12aと12bに設けた穴を貫通して軸方向に移動可能に配置されているため、ロッド8が回転しようとする動きは拘束され、ロッド8は回転することなく、ナット7の回転にしたがって、ロッド8の軸方向に沿って直線運動を行なうのである。
【0024】
すなわち、ロッド8は、電動モータの回転方向によって、ナット7の一方の面から突き出したり、引っ込んだりすることになる。したがって、ロッド8に連結しているピストン9も、ロッド8の移動とともに、シリンダ3の内壁面に沿って、開口部3aと開口部3bの間を摺動する。なお、本明細書では、便宜上、ロッド8とピストン9とがシリンダ3の先端側の開口部3aに向かって移動する動きを「前進」とよび、逆にシリンダ3の連結部側の開口部3bに向かって移動する動きを「後退」と呼ぶ。また、ロッド8が前進する方向の側のガイド棒10の端部をガイド棒10の「先端部」とよび、ロッド8が後退する方向の側の端部をガイド棒10の「後端部」とよぶ。
【0025】
ガイド棒10は、ロッド8の前進および後退にしたがって同様に前進と後退を行なうことになるが、ロッド8とほぼ同じ長さを有するため、ロッド8がどの位置にあってもロッド8の回転を拘束する。また、ガイド棒10は、ロッド8の回転を拘束する作用に加え、ロッド8の移動と連動して移動することにより、ロッド8がぶれずに移動するのを助ける機能をも有する。
【0026】
また、吸引および吐出動作のそれぞれの終了時点で電動モータ4を停止させるために、本体部2の外装板12bの外面に吸引側リミットスイッチLS1を配置し、対向する外装板12aの外面に吐出側リミットスイッチLS2をそれぞれ配置する。そして、リミットスイッチLS1を作動させるためにガイド棒10の先端部には突起10aを設け、リミットスイッチLS2を作動させるためにガイド棒10の後端部には連結板11を延長させた部材として作動板11aを設ける。
【0027】
なお、ロッド8の回転運動を拘束する手段としては、前記のガイド棒10による方法のほか、たとえば図5に示すように、ロッド8の外周面にロッド8の中心軸と平行に形成した溝による方法を用いることもできる。この方法は、本体部2の構造がシンプルになり、本体部を軽量化できる点で好ましい。図5は、シリンダ3を取り付けた側とは反対側の外装板12aにあけた穴を貫通しているロッド8の近傍を示す断面図であるが、外装板12aの穴に歯状部分12dを設け、この歯状部分12dがロッド8に形成した溝に嵌入するようにすれば、ロッド8の回転が拘束され、ロッドは軸方向に直線運動することになる。この歯状部分12dは、外装板12aでなく、反対側(シリンダ側)の外装板12bに設けてもよい。また、ロッド8の外周面に形成されているネジは、一条ネジであってもよいが、ナット7の1回転の間にロッド8の移動距離を最適に設定できる点で、二条以上の多条ネジが好ましい。
【0028】
次に、図1および図6を参照しながら、本発明の電動式吸引吐出装置1を用いて、粘性材料をシリンダ3の内部に吸引し、次いで、シリンダ3の外部へ吐出するための構成について説明する。図6は、吸引吐出装置1のトリガ15の支点軸16付近を拡大した斜視図である。
【0029】
図1および図6に示すように、本体部2には、グリップ14が固定されており、それにトリガ15が支点軸16により取り付けられている。作業者はこのグリップ14を手で持つことにより本発明の電動式吸引吐出装置1を保持し、トリガ15を指で引くことにより吸引および吐出の操作を行う。本明細書では、便宜上、グリップ14およびトリガ15のナット7に近い側の端部を「根元部分」とよぶ。
【0030】
具体的には、トリガ15の根元部分が、グリップ14の根元部分に、支点軸16の周りに回動可能な状態で取り付けられる。グリップ14とトリガ15の間には、支点軸16に対して根元部分と反対側の位置に、スプリング17が取り付けられている。このスプリング17により、トリガ15は常に所定の位置に戻るように付勢されているため、グリップ14を手に持ってトリガ15を指で引いた後、指の力を緩めるとトリガ15は元の所定の位置に戻る。
【0031】
本体部2には、可変抵抗器21が配置されている。可変抵抗器21の回転軸21aには、止めネジ28により回転腕22が取り付けられており、その取付角度は止めネジ28を緩めて調整することができる。回転軸21aの回転により可変抵抗器21の抵抗値が変化する。回転腕22は板状に形成され、ほぼ長方形の穴が開いており、この穴には通し棒25が通してある。これにより、トリガ15の動きが、滑らかに回転腕22に伝わる。この通し棒25の回転腕22に対して可変抵抗器21と反対側の端部は、トリガ15の根元部分に取り付けられた取付板26の端部27に固定されている。
【0032】
こうすることで、作業者が指でトリガ15をグリップ14に近づける方向に引くと、その移動距離lxに応じて通し棒25が移動し、それに応じて回転腕22が移動距離lxに応じた(ほぼ比例した)角度θだけ回転する。すると回転軸21aも角度θだけ回転し、可変抵抗器21の抵抗値が変化する。トリガ15を引く力を緩めると、トリガ15はスプリング17により元の位置に戻る方向に移動し、それにつれて回転軸21aも元の位置に戻る方向に逆の回転をする。したがって、可変抵抗器21の抵抗値は、作業者がトリガ15を引く移動距離lx(ないし角度変化θ)に応じて変化する。この場合、作業者がトリガ15をグリップ14に向かって浅く(移動距離lxを小さく)引いたときは、粘性材料の吸引または吐出速度が小さく、トリガ15をグリップ14に向かって深く(移動距離lxを大きく)引いたときは、粘性材料の吸引または吐出速度が大きくなるように可変抵抗値の抵抗値が変化し、これにより、後に述べるように、電動モータ4に供給される電力が変化する。
【0033】
次に、図7および図8を参照して、本発明の電動式吸引吐出装置1の回路構成について説明する。図7は、吸引吐出装置1の回路基板20に設けられた電気回路の概略の構成を示した回路図である。図7の回路は、論理回路60および61ならびにタイマー回路62を用いて吸引および吐出の起動と停止ならびに後ダレ(残存吐出)現象の防止を行うものであり、大きく分けて起動・停止回路部Xと電動モータ4の回転数制御回路部Yとからなる。
【0034】
まず、起動・停止回路部Xについて説明する。図1に示すように、吸引吐出装置1の電動モータ4は、回路基板20上の電気回路および電源供給ライン24を介して、電源であるバッテリ23に電気的に接続されている。図7に示すように、バッテリ23の一方の極(通常は+側の正極)50は、吸引と吐出を切り替える切替えスイッチS1のリレースイッチS1aまたはS1bを介して電動(直流)モータ4の一方の極に接続されており、電動モータ4の他方の極は、スイッチングトランジスタTr1を介して接地され、それによりバッテリ23の他方の極(接地側、通常は−側の負極)に接続されている。すなわち、電流は分岐点51、電動モータ4、分岐点54およびスイッチングトランジスタTr1を順次経由して流れ、これによりロッド8を駆動する電動モータ4に電力の供給が可能となる。電動モータ4を流れる電流の向きは、リレースイッチS1aおよびS1bの接点が吸引側にあれば極52から極53への向きとなり、吐出側にあれば極53から極52への向きとなる。なお、ここにおいて電源の正極と負極は逆であってもよく、その場合には電動モータを流れる電流の向きが上記とは逆になる。
【0035】
また、起動・停止回路部Xは、論理回路であるOR回路60およびAND回路61を有しており、これらはOR回路60の出力cがAND回路61の一方の入力となり、AND回路61の出力eがスイッチングトランジスタTr1の入力となるように接続されている。また、マイクロスイッチで構成される起動・停止スイッチS2の停止側とOR回路との間にはタイマー回路62を有し、その出力がOR回路60の入力aとスイッチングトランジスタTr2の入力の両方となるように接続されている。さらに、モータの回転数制御回路部Yの出力信号(電圧)Vsが、AND回路61の他方の入力dとなるように接続されている。なお、起動・停止スイッチS2は、トリガ15を引かないときは停止(OFF)状態にあり、トリガ15をグリップ14に近づく方向(作動方向)に少し引いたとき起動(ON)状態となるように設定されている。
【0036】
上記電気回路の動作状態を順を追って説明する。バッテリ23からのコードを吸引吐出装置1の回路基板20に設けられた電気回路に接続し、切替えスイッチS1を吸引側にすると、リレーRL1が通電状態となり、リレースイッチS1aおよびS1bの接点が吸引側に接続する。このとき、トリガ15を引かず、起動・停止スイッチS2が停止状態(ストップ状態)にあるときは、分岐点58、タイマー回路62および分岐点59を介してOR回路60に入力する電圧信号aと、分岐点57を介してOR回路60に入力する電圧信号bは両方ともLow Levelの信号(以下“L”信号と称す)であり、したがってAND回路61の入力cも“L”信号のため、AND回路61の出力eも“L”信号のままであり、スイッチングトランジスタTr1はOFF(切断)状態であるから、電動モータ4に電流が流れず、電動モータ4は停止したままである。
【0037】
ここで、トリガ15を引くと、起動・停止スイッチS2の接点が停止状態から起動状態(スタート状態)に切り替わり、OR回路60の入力bの電圧は“L”信号からHigh Levelの信号(以下“H”信号と称す)に変わる。このため、停止側からの入力aが“L”信号のままであっても、OR回路60からAND回路61への入力cは“L”信号から“H”信号に変わる。したがって、パルス幅変調(PWM)回路63のパルス出力Vsが、スイッチングトランジスタTr1の入力信号eとなり、電動モータ4にはパルス出力Vsに同期したパルス幅で電流が極52から極53の向きに流れ、電動モータ4はロッド8およびそれと連結されたピストン9が後退するように回転(これを仮に「正回転」と称す)する。これにより吸引吐出装置1のシリンダ3内に粘性材料を吸引することができる。以上の一連の動作における論理回路部の信号電圧a〜eのレベルおよび電動モータ4を流れる電流iの状態を、図8のチャート(の「停止」より左側)に示す。
【0038】
次いで、切替えスイッチS1を吐出側に切り替えると、リレーRL1は非導通となり、リレースイッチS1aとS1bの接点は吐出側に切り替わる。この状態でトリガ15をグリップ14の方に引くと、前記と同様にスイッチングトランジスタTr1がON状態となり、電動モータ4には、モータの回転数制御回路Yの出力電圧Vsと同期したパルスで、前記とは逆方向である極53から極52への向き(i方向)に電流が流れ、電動モータ4はロッド8とピストン9を前進させる方向に回転(前記正回転に対し「逆回転」と称す)する。これにより吸引吐出装置1のシリンダ3の外に、あるいはシリンダ3にノズル41を取り付けたときはノズル41から、粘性材料を吐出させることができる。
【0039】
次に、本発明のもうひとつの課題である、粘性材料の吐出を停止するときに発生するノズルからの「後ダレ」現象すなわち残存吐出の防止を実現するための電気回路の動作について説明する。図7において、上に述べたように、切替えスイッチS1を吐出側にし、トリガ15を引いて起動・停止スイッチS2を起動の状態にし、電動モータ4を回転させてノズル41から粘性材料を吐出させている状態(この状態にある時間をTとする)において、吐出を止めるためにトリガ15を引く力を緩め、トリガ15を元の位置(停止位置)まで戻したとする。すると、起動スイッチS2が起動から停止の状態に切り替わり、OR回路60の入力bは“H”信号から“L”信号に変わる。ところが、このとき同時に、タイマー回路62への入力が“L”信号から“H”信号に変わる。タイマー回路62は、入力信号が“L”信号から“H”信号に変わると、その立ち上がりを検知して、所定の時間幅τだけ“H”信号を出力するように設定されているため、この時間幅τの“H”信号が、分岐点59を通じて、一方ではOR回路60への入力aとなり、他方ではスイッチングトランジスタTr2への入力となる。
【0040】
その結果、Tr2に入力された信号により、時間幅τだけリレーRL1が通電状態となり、切替えリレースイッチS1aとS1bが吐出側から吸引側に切り替わる。他方、同じく時間幅τだけ、OR回路の入力aが“H”信号となり、よって、AND回路の入力cが“H”信号となることにより、AND回路61の出力eはモータの回転数制御回路部Yからのパルス出力Vsとなり、これがスイッチングトランジスタTr1への入力となってTr1がVsと同期したパルスでON状態(通電状態)となる。すなわち、電動モータ4に流れる電流は、それまで極53から極52の向きであったのが、時間幅τだけ逆の向きである極52から極53の向きに切り替わって流れ、ピストン9が粘性材料を吸引する方向に移動するように回転(正回転)する。したがって、時間幅τだけ粘性材料を吸い戻す動作が行われるため、シリンダ3内の粘性材料にかかる残圧が除去され、問題となる残存吐出が防止できるのである。時間幅τの経過後、入力aは“H”信号から“L”信号に変わり、スイッチングトランジスタTr1への入力eも“L”信号に変わるため、Tr1はOFF(切断状態)になり、電動モータ4は電流が流れなくなって回転を停止する。以上の一連の動作における論理回路部の信号電圧a〜eのレベルおよび電動モータ4を流れる電流iの状態を、図8のチャート(の「停止」より右側)に示す。
【0041】
次に、本発明におけるロッド8およびピストン9の移動速度の制御について、図6および図7を用いて説明する。図6は、トリガ15とそれに連動して抵抗値が変化するようにして設けた可変抵抗器21を示す斜視図である。すなわち、吸引吐出装置1のトリガ15をグリップ14のほうに浅く引いたときは、可変抵抗器21の抵抗値rを小さくして吸引および吐出の速度が緩やかであり、深く引くにつれて可変抵抗器21の抵抗値rが大きくなって吸引および吐出の速度が大きくなるように構成されている。これにより、トリガ15を引く量(距離lx)に応じてピストン9の移動速度を滑らかに変えることができるため、吸引や吐出の作業における操作性が向上し、特に吐出の作業において粘性材料の吐出速度を良好にコントロールできることから、きわめて使いやすい吸引吐出装置1となっているのである。
【0042】
このような吸引吐出速度の制御は、ピストン9の駆動源である電動(直流)モータ4をパルス幅変調(PWM)により速度制御することで実現している。図7に示すモータの回転数制御回路部Yがそれであり、その出力VsがAND回路61の入力dとなるように構成されている。なお、PWMとしては、例えばタイマーIC555などが挙げられる。このPWM回路63に、入力としてたとえばfHzのパルスを加え、コントロール信号として可変抵抗器21により調整された直流電圧Vcを加えると、Vcの大きさに比例したパルス幅の変調出力信号Vsが得られる。この変調出力信号VsがAND回路61を介してスイッチングトランジスタTr1に入力され、電動モータ4への供給電力を制御するようになっている。すなわち、バッテリ23からの直流電圧を、トリガ15を引く量に応じて抵抗値を変えるように配置した可変抵抗器21により調整し、こうして調整された直流電圧をコントロール信号VcとしてPWM回路63に供給することで、電動モータ4の速度を制御し、ピストン9の移動速度を調整するのである。
【0043】
次に、本発明の吸引吐出装置1におけるリミットスイッチLS1およびLS2の動作状態を図1および図7を参照しながら説明する。図7の起動・停止回路Xに示したように、電動モータ4の極53と切替えスイッチS1bの間には、吸引側リミットスイッチLS1を、そして電動モータ4の極52と切替えスイッチS1aの間には、吐出側リミットスイッチLS2をそれぞれ配置し電気的に接続させている。このとき、例えばリミットスイッチLS1およびLS2が作動していないときは、それぞれのリミットスイッチのON側接点を介して電動モータ4が回転するように接続しておく。また、OFF側接点は一緒にしてバッテリ23の+極側50に接続しておき、それぞれのリミットスイッチが作動したときは、OFF側に接続するようにしておく。
【0044】
作業者が、粘性材料を吸引吐出装置1のシリンダ3内に吸引するために、ピストン9がシリンダ3の開口部3a側の先端にある状態で、切替えスイッチS1を吸引側に切り替え、トリガ15を指で少しグリップ14に近づける方向に少し引くと、起動・停止スイッチS2が起動状態(ON状態)になり、前述したように図7の電動モータ4の極52から極53の向きに電流が流れ、電動モータ4が回転(正回転)してロッド8とピストン9が後退を始め、粘性材料の吸引を始める。そのままトリガ15を引き続けるとピストン9も後退を続け(このときガイド棒10もロッド8とともに後退する)、ピストン9がシリンダ3の反対側の開口部3bの端部に近い所定の位置に到達したとき、ガイド棒10のピストン9側先端に設けた突起10aがリミットスイッチLS1を押し作動させる。そうすると、電気回路において吸引側リミットスイッチLS1の接点は、ON側からOFF側に切り替わり、電動モータ4の極52と極53が直結してバッテリ23を含まない閉回路を形成し、負荷回路がショートするため、電動モータ4の逆起電力によりモータ4が慣性で回転を続けることなく一瞬のうちに停止し、吸引動作を停止する。停止したら、トリガ15を引く力を緩めて元の位置に戻し、起動・停止スイッチS2を停止側にすればよい。
【0045】
次いで、粘性材料を吸引吐出装置1のシリンダ3外へ吐出するために、切替えスイッチS1を吐出側に切り替え、再びトリガ15を指でグリップ14に近づける方向に少し引くと、起動・停止スイッチS2が起動状態(ON状態)になり、図7の電動モータ4の極53から極52の向き(i方向)に電流が流れ、電動モータ4が逆回転しロッド8とピストン9が前進をはじめ、粘性材料の吐出を始める。そのままトリガ15を引き続けるとピストン9も(ロッド8およびガイド棒10とともに)前進を続け、ピストン9がシリンダ3の開口部3a側の端部に近い所定の位置に到達したとき、ガイド棒10の突起10aとは反対側の先端に設けた作動板11aが吐出側リミットスイッチLS2を押し作動させる。そうすると、電気回路において吐出側リミットスイッチLS2の接点はON側からOFF側に切り替わり、電動モータ4の極52と極53が直結してバッテリ23を含まない閉回路を形成し、負荷回路がショートするため、電動モータ4の逆起電力により、慣性で回転することなく、一瞬のうちに回転を停止して吐出動作を停止する。このときトリガ15を引く力を緩めて元の位置に戻し、起動・停止スイッチS2を停止側にすれば、前述したように、時間幅τだけタイマー回路62から“H”信号が出力され、リレーRL1が通電状態となって、切替えスイッチS1aおよびS1bが吸引側に切り替わるため、電動モータ4の極52から極53の向き(i方向とは逆の向き)に電流が流れて電動モータ4が正回転し、時間幅τだけピストン9が後退して、吐出圧が除去される。時間τが経過するとタイマー回路62からは“L”信号が出力されるため、電動モータ4への電力の供給が停止し、電動モータ4の回転が完全に停止することにより、残存吐出を発生することなく、吐出動作を終了することができる。
【0046】
なお、吸引側と吐出側のリミットスイッチを配置し作動させる方法としては、図1に示した方法に限定されず、例えば、ロッド8の両端に近い位置にそれぞれ凹部を設け、別に本体部の適当な位置にロッド8の凹部がきたとき、この窪んだ部分に入り込むことによりスイッチが作動するように2個のリミットスイッチを配置し、電気回路と接続しておく方法なども採用できる。
【0047】
続いて、図7、図9および図10を参照して、本発明の別の局面である、吸引吐出装置1を用いて、粘性材料を施工する方法を説明する。図9は、吸引吐出装置1に粘性材料を吸引している状態を簡略化させて示した部分断面図であり、粘性材料であるシーリング材43と、これを収容する容器であるペール缶42と、シリンダ3は断面を示し、それ以外の部材は簡略化した側面を示している。また、図10はシリンダ3とノズル41の側面を示す。
【0048】
作業者は、まず、シーリング材を施工する対象である建築物の外壁の目地を刷毛により清掃する。そして、目地に沿ったその両脇の部分にマスキングテープを貼って、シーリング材が塗布されないように覆う。そして、目地の被接着部分となる両側面にプライマーを塗布して20分から30分ほど放置する。
【0049】
次に、作業者は、ノズル41を外した状態で、シリンダ3にピストンロッド8とピストン9とを挿入し、シリンダ3の取付側の開口部3bを本体部2の連結治具13に螺嵌する(図1参照)。そして、吸引吐出装置1にバッテリ23を電源ライン24を介して接続した後、吸引吐出装置1のシリンダ3を、ペール缶42に入れたシーリング材43にシリンダ3の先端側の開口部3aが浅く浸かるように、図9に示すような状態で挿入する。この段階では、ピストン9はシリンダ3の先端側にある。切替えスイッチS1を吸引吐出装置1の吸引側に切替えると、リレースイッチS1aおよびS1bが吸引側(ロッド8が後退する方向)に接続する。
【0050】
ここで作業者がトリガ15を浅く引くと、起動・停止スイッチS2が起動(ON)状態となり、上に述べたように“H”信号がAND回路61の入力cに加わり、PWM回路63の出力Vsに同期したパルス電流がスイッチングトランジスタTr1を流れ、バッテリ23の+極側50から、分岐点51、電動モータ4の極52から極53の向き、および分岐点54を経て、接地側(バッテリ23の−極側56)に電流が流れ、電動モータ4が正回転してロッド8とピストン9が後退する方向に移動し始め、シリンダ3内の先端部が減圧となるため、シーリング材43がシリンダ3内に吸引され始める。トリガ15をさらに深く引くと、前述したようにトリガ15を引いた距離に応じて、可変抵抗器21の回転軸21aが回転し、その際の回転角θにほぼ比例して可変抵抗器21のコントロール電圧Vcが大きくなり、それとともにPWM回路63の出力Vsのパルス幅も大きくなるため、電動モータ4の回転速度が増大し、したがってシーリング材の吸引速度がトリガ15を引いた距離に応じて増大する。ピストン9がシリンダ3の後端部の所定の位置に到達すると、リミットスイッチLS1が作動し、バッテリ23を含まない閉回路が形成されるため、電動モータ4は停止して吸引動作が停止する。この際、吸引の途中でトリガ15を引く力を緩めて元の位置に戻せば、吸引動作を途中で停止することもできる。
【0051】
作業者はここで、ペール缶からシリンダ3を抜き取って、シリンダ3の先端側開口部3aの外周に付着したシーリング材をふき取る。そして、図10に示すように、シリンダ3の先端部にノズル41を取り付ける。次いで、切替えスイッチS1を吐出側に切り替え、ノズル41を目地にあてがい、トリガ15を浅く引くと、起動・停止スイッチS2が起動(ON)状態になり、“H”信号がOR回路とAND回路を通じて流れ、PWM回路63の出力Vsに同期した電圧パルスが、スイッチングトランジスタTr1を通電状態にし、バッテリ23の+極側50から、分岐点51、電動モータ4の極53から極52、および分岐点54を経て、接地側(バッテリ23の−極側56)に電流が流れ、電動モータ4が吸引時とは逆に回転するため、ロッド8とピストン9が前進する方向へ移動し始め、吐出動作を開始し、目地内へのシーリング材43の充填が開始する。作業者は、吐出するシーリング材43が目地から溢れて目地の周辺を汚さないように、目地の形状に合わせ、トリガ15を引く距離を指の力加減で調節し、吐出速度を調節する。このとき、トリガ15を引く距離に応じて、可変抵抗器21の回転軸21aが回転し、その際の回転角θにほぼ比例して可変抵抗器21のコントロール電圧Vcが変化し、それとともにPWM回路63の出力Vsも変化するため、電動モータ4の回転速度が変化し、したがってシーリング材43の吐出速度がトリガ15を引く距離に応じて変化する。すなわち、トリガ15を比較的浅く引くと吐出速度は小さく、徐々に深く引くにつれて吐出速度が増大し、最も深く引いたとき吐出速度は最大となる。この変化は滑らかであるため、吐出速度の調節は容易である。
【0052】
目地にシーリング材43を充填し終わり、あるいは充填の途中で吐出を止めようとするとき、作業者はトリガ15を引く力を緩め、トリガ15を元に戻すと、スイッチS2が停止(OFF)状態になる。このとき時間幅τだけタイマー回路62から“H”信号が流れ、分岐点59から分かれた一方の電圧信号“H”がスイッチングトランジスタTr2に通じ、リレーRL1を通電状態にするため、リレースイッチS1aおよびS1bが吸引側に切り替わる。同時に時間幅τだけ、分岐点59から分かれた他方の電圧信号“H”がOR回路60とAND回路61に流れるため、PWM回路63の出力Vsと同期した電圧パルスがスイッチングトランジスタTr1に通じ、バッテリ23の+極側50から、分岐点51、電動モータ4の極52から極53、および分岐点54を通じて電気が流れ、電動モータ4が吸引方向に回転(正回転)し、ピストン9を時間幅τだけ後退方向に移動させるため、吐出の残圧が除去されて、残存吐出を防止することができる。時間幅τを経過した後、“H”信号は“L”信号になり、スイッチングトランジスタTr1が切断状態になるため、電動モータ4には電流が流れないため回転が停止し、ピストン9の動きが完全に停止する。このようにして、ノズル41からの残存吐出を生ずることなく、シーリング材43の吐出を停止することができ、結果として、目地に対するシーリング材43の充填施工作業を、綺麗かつ正確に、かつ疲労が少ない状態で行うことができるのである。
【0053】
以上のように、作業者にとっては、本発明の電動式の吸引吐出装置1を使用する限り、粘性材料の吸引および吐出工程のいずれにおいても、吸引および吐出の作業が手動ではなく電動で行なわれるので、従前の作業よりも疲労が大幅に低減化される。
【0054】
また、吐出時にトリガを元に戻して起動・停止スイッチを停止にしたときに一瞬電動モータ4が逆回転する方法により、ノズルからの残存吐出を防止する効果を有する。
【0055】
なお、本願の電動式の吸引吐出装置1で吐出させる材料としての粘性材料は、特に限定されない。たとえば、建築物、土木構築物、自動車などの分野において使用されるシーリング材、塗膜防水剤、塗料、接着剤などがある。これらのうち、粘性材料に揺変性が付与されていて粘度が極めて高いため、本発明の電動吸引吐出装置1の特徴を最大限に発揮できる点でシーリング材が好ましい。
【0056】
粘性材料の組成別種類としては、ウレタン系、エポキシ系、ポリサルファイド系、ポリエステル系、アクリル系、シリコ−ン系、変成シリコーン系などが挙げられる。特に、シーリング材に使用される点で、ウレタン系、ポリサルファイド系、変成シリコーン系の粘性材料が好ましい。
【0057】
また、粘性材料の硬化方法としては、湿気などの水分や空気中の酸素を利用して硬化させる1液硬化型、あるいは主剤と硬化剤を混合して硬化させる2液硬化型があるが、比較的粘度が高い1液型硬化型、特に1液湿気硬化型に本発明の電動式の吸引吐出装置1を適用すると、効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の電動式吸引吐出装置1の一例を示す全体図である。
【図2】図1の電動式吸引吐出装置1をノズル41側から見た側面図である。
【図3】図1の電動式吸引吐出装置1の本体部2の回転歯車5,従動歯車6,ナット7およびその近傍のロッド8を拡大して示す断面図である。
【図4】図1の電動式吸引吐出装置1の回転歯車5、従動歯車6、ナット7およびその近傍のロッド8を拡大して示す斜視図である。
【図5】外装板12aの歯状部分12dがロッド8の溝に挿入されている状態を示す断面図である。
【図6】グリップ14の根元付近の、グリップ14とトリガ15と可変抵抗器21の動作関係を示す簡略化した斜視図である。
【図7】吸引吐出装置1の回路基板20上に設けられる電気回路の一例を示す。
【図8】図7の電気回路における電圧信号の種類と流れのタイミングを示すタイミングチャートである。
【図9】吸引吐出装置の使用状態を模式的に示す。
【図10】シリンダ3の先端にノズル41を取り付ける状態を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 吸引吐出装置
2 本体部
3 シリンダ
3a 先端側開口部
3b 取付側開口部
3c ねじ部
4 電動モータ
4a 回転シャフト
5 回転歯車
6 従動歯車
7 ナット
8 ロッド
9 ピストン
9a リング状パッキン
10 ガイド棒
10a 突起
11 連結板
11a 作動板
12a 外装板
12b 外装板
12c 外装板
13 連結治具
14 グリップ
15 トリガ
16 支点軸
17 スプリング
20 回路基板
21 可変抵抗器
21a 回転軸
22 回転腕
23 電源(バッテリ)
24 電源ライン
25 通し棒
26 取付板
27 端部
28 止めねじ
31 ピン
32a、32b ボールベアリング
33a、33b 固定具
34 固定治具
35a、35b ボルト
36a、36b ボルト
37a、37b ボルト
38 固定治具
39 スペーサー
41 ノズル
42 ペール缶
43 シーリング材
50 バッテリの+極側
56 バッテリの−極側
51、54、57、58、59 電気回路の分岐点
52、53 電動モータの極
60 OR回路
61 AND回路
62 タイマー回路
63 PWM回路
64、65、66、67、68 電気回路の分岐点
S1 切替えスイッチ
S1a、S1b リレースイッチ
S2 起動・停止スイッチ
RL1 リレー
Tr1 スイッチングトランジスタ
Tr2 スイッチングトランジスタ
LS1 吸引側リミットスイッチ
LS2 吐出側リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性材料の吸引および吐出を行なうための電動式吸引吐出装置(1)であって、
該装置は、本体部(2)とシリンダ(3)とからなり、
該本体部は、ロッド(8)と、該ロッドに結合されたピストン(9)と、該ロッドの移動を喚起する電動モータ(4)とを有し、
該ロッドが、該シリンダ内へ粘性材料を吸引する方向へ該ピストンを移動させる吸引動作と、該シリンダ外へ粘性材料を吐出する方向へ該ピストンを移動させる吐出動作とを実行することを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該シリンダが、該ロッドの中心軸まわりに回転できるように、該本体部に着脱可能に連結されていることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該本体部が、さらに該ロッドの中心軸まわりに回転可能に支持されたナット(7)を有し、
該ロッドが、外周面にネジを形成して該ナットに螺嵌し、
該電動モータが、該ナットを回転させることにより、該ロッドの中心軸方向の移動を喚起するように構成されたことを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該ロッドが、該ナットの回転方向に応じ、自らは回転することなく該中心軸に沿って往復運動するように、回転拘束手段(10)を備えていることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該ネジが、多条ネジであることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該本体部が、該電動モータに電源(23)から電力を供給するための電気回路を備え、
該電気回路が、起動・停止スイッチ(S2)を備え、
該本体部は、さらに該起動・停止スイッチの起動状態と停止状態とを切り替えるトリガ(15)を備えていることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらに可変抵抗器(21)を備え、
該可変抵抗器の抵抗値が該トリガの移動距離(lx)に応じて変化し、これにより該電動モータへの供給電力が変化するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらにパルス幅変調器(63)を備え、
該パルス幅変調器が、該可変抵抗器の抵抗値の変化により、該電動モータへの供給電力を変化させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該本体部が、さらに切替えスイッチ(S1)を備え、
該切替えスイッチが、該電動モータに供給される電流の向きを変更して該電動モータの回転方向を変えることにより、吸引動作と吐出動作とを切替えるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらに論理回路(60、61)とタイマー回路(62)とを備え、
該論理回路は、該起動・停止スイッチが停止状態から起動状態に切り替わり再び停止状態になるまでの起動状態にある時間(T)に、該起動・停止スイッチが起動状態から停止状態に切り替わったときに該タイマー回路が信号を出力する所定の時間(τ)を加算した時間、該電動モータに電力を供給するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該切替えスイッチが吐出動作の状態にある場合において、該起動・停止スイッチが起動状態から停止状態に切り替わったときに、該所定の時間(τ)だけリレーが作動して該切替えスイッチが吸引動作の状態に切り替わり、該電動モータが該所定の時間(τ)だけ吸引方向に回転することを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらにリミットスイッチ(LS1、LS2)を備え、該ピストンが所定の位置に到達したときに該リミットスイッチが作動して電動モータの一方の極と他方の極が直結し、それにより該電源を含まない閉回路を形成するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電源が該本体部から離れた場所に配置されたバッテリであることを特徴とする装置。
【請求項14】
粘性材料の吸引および吐出を行う粘性材料の施工方法であって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置を用い、粘性材料を該吸引吐出装置のシリンダ内に吸引する工程と、施工対象物に対して該シリンダ内に吸引された該粘性材料を吐出する工程とを実行することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の粘性材料の施工方法であって、
該粘性材料がシーリング材であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−7641(P2007−7641A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148036(P2006−148036)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(505199809)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】