説明

電動式粘性材料吸引吐出装置

【課題】シーリング材等の施工用の作業性に優れた電動式吸引吐出装置を提供する。
【解決手段】粘性材料の吸引および吐出を行なうための電動式吸引吐出装置であって、該装置は、本体部とシリンダとからなり、該本体部は、ロッドと、該ロッドに結合されたピストンと、該ロッドの移動を喚起する電動モータと、該電動モータに電源から電力を供給するための電気回路とを有し、該電気回路は、論理回路と、タイマ回路と、コンデンサおよび抵抗からなる放電回路とを有し、粘性材料の吐出動作を停止した時、該吐出動作が所定の時間を超えていた場合は、該ピストンが一定の時間τだけ吸引動作方向に移動し、該吐出動作が所定の時間以下であった場合は、該ピストンが吸引動作方向に移動することなく停止するように構成されていることを特徴とする、電動式吸引吐出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粘性材料の吸引および吐出を行なう電動式の吸引吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物や土木構造物などにおいて、外壁の目地などに防水目的でシーリング材を充填/施工する作業、あるいは、木質の根太などに合板を接着したり、コンクリート床に合成樹脂製のシートを貼り付けたりする目的で、下地に接着剤を塗布する作業などが一般的に行なわれている。このような作業に用いられるシーリング材や接着剤は、垂直目地に充填したとき垂れないように揺変性を付与したり、部材の粘接着保持性を付与したりするために、いずれも粘度が高められている。
【0003】
こうした粘度を高めた粘性材料を目地に充填したり、あるいは下地材に塗布して施工を行う場合には、通常、施工する粘性材料を吐出装置を用いて吐出する。
【0004】
たとえば、シーリング材を施工する場合、シーリング材の使用量が比較的少ない場合には、先端にノズルを有する紙製またはポリプロピレン製のカートリッジ状容器(320mlや500mlといった小容量のものがよく用いられる)に予めシーリング材を充填しておき、これを手動式の吐出装置にセットして、カートリッジ状容器に付設されたプランジャーを押すことにより、先端のノズルからシーリング材を吐出する。
【0005】
また、シーリング材の使用量が比較的多い場合には、ある程度大きな容積(たとえば500ml〜1,000ml程度)の空間を有するシリンダと、そのシリンダに沿って可動なピストンとを内部に備えた手動の吸引吐出装置が使用される。この場合には、シリンダの一端に設けられた開口を、広口のペール缶に入れたシーリング材の中に挿入し、ピストンに付設した棒状物を手で引っ張ることにより、シリンダ内にシーリング材を吸引して充填する。次いで、開口にノズルを装着した後、施工対象である建築外壁の目地などにノズルをあてがい、吸引吐出装置のレバーを引いてピストンを吐出方向に押すことにより、シーリング材をノズルから吐出させる。そして、これらの作業は全て手動で行われる。
【0006】
シリンダとピストンとを備えた吸引吐出装置を用いる場合、1回の吸引でシリンダ内に充填できるシーリング材の量は高々1000mlであるため、シーリング材の使用量が多くなれば吸引の回数の増加が避けられない。シーリング材は粘度が高く流体抵抗が大きいため、シーリング材の吸引および吐出の際にピストンを引いたり押したりするには大きな力が必要である。したがって、作業者がシーリング材の吸引や吐出を手動で多数回行なうとすれば、これは作業者にとって大きな負担となる。
【0007】
一方、作業者の負担を低減するために、粘性材料が入ったカートリッジ状容器のプランジャーを電動で押すようにした吐出装置が知られている。このタイプの粘性材料吐出装置としては、粘性材料を押し出す押圧棒にピニオンと噛合するラックを設け、多段変速装置を設けた電動モータでピニオンを駆動することにより押圧棒を動かすようにした粘稠剤押出装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。また、ピストンと結合しているロッドの表面に設けたネジ部に球体を係合させ、これを駆動することによりピストンを動かすようにした吐出装置も知られている(たとえば特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、これらはいずれも、予め粘性物質が収容された円筒状のカートリッジやチューブを押出機やシーリングガンなどにセットし、電動で粘性物質をカートリッジやチューブの外へ吐出させるようにしたものであり、粘性物質を押し出す点については開示されているが、粘性物質を吸引する点については全く開示されていない。
【0009】
ところで、電動式の吐出装置を用いてシーリング材のような高粘度の粘性材料を吐出させる場合、吐出を停止させようとして電動モータを停止した後も、カートリッジ状容器内に残る残圧により粘性材料がいつまでもノズルから吐出し続ける、いわゆる「後だれ」あるいは「残存吐出」とよばれる現象を生じ、施工対象物を汚してしまうという大きな作業上の問題がある。これを解決する方法として、スイッチをオフにした後でモータの回転方向を逆転させることによってシーリング材の後だれ現象を防止する吐出装置がある(たとえば特許文献3参照)。これは、スイッチのオン時間(シーリング材の吐出時間)中にコンデンサを充電し、その充電量によってモータの逆転時間を決定するものであるが、後だれ現象は必ずしも十分に防止できてはいない。
【0010】
これらを解決する方法として、本発明者らは以前に、螺旋状ネジを形成したロッドとナットとを組み合わせ、電動モータでナットを回転させることにより、ロッドに結合するピストンを往復運動させ、電動で粘性材料の吸引と吐出の両作業をすることができる粘性材料の電動式吸引吐出装置を提案し、さらにこの装置において、論理回路とタイマ回路を組み合わせ、吐出を停止した時に短時間モータを逆回転させることにより、残存吐出を防止することも提案した(特許文献4参照)。
【0011】
【特許文献1】特開昭59−222253号公報
【特許文献2】特表平10−502866号公報
【特許文献3】特開平8−257465号公報
【特許文献4】特開2007−7641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献4に記載された装置は、例えば幅10mm前後の通常の太さの目地にシーリング材を充填する場合には作業性が良好なのであるが、幅5mm以下の細目地や複雑な形状の目地などに充填する場合、作業者は様子を見ながら少量ずつシーリング材を吐出させるときがあり、このとき吐出を停止する度にモータが逆回転していたのでは作業に支障をきたし、また時には目地に充填したシーリング材中に気泡を巻き込む不具合を生じることがわかった。さらに、少量吐出の場合には、シリンダの残圧も小さく残存吐出はほとんど生じないため、むしろモータを逆回転しない方がよいこともわかった。また、前記装置をさらにコンパクトにすること、吐出速度を広範囲に変化できるようにすることなどの必要性もわかった。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑み、粘性材料の吸引および吐出作業の両方を電動で行う装置において、粘性材料を吐出した時間が一定時間を超えたときは、吐出作業を停止した瞬間に電動モータが逆回転して残存吐出を防止し、吐出時間が一定時間以下であったときは、吐出作業を停止しても電動モータが逆転することなく停止しかつ残存吐出のない、コンパクトで、吐出速度を広範囲に変化させることができ、加えて過負荷による破壊を防止した、作業性に優れた電動式粘性材料吸引吐出装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、粘性材料の吸引および吐出を行うための電動式吸引吐出装置において、本体部に設けた電気回路に、論理回路と、タイマ回路と、コンデンサおよび抵抗からなる放電回路とを組み合わせること、さらにロッドの回転拘束手段をキー溝とキーにより行うこと、複数の可変抵抗器を使用すること、そして過負荷保護回路を使用することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、第1に、粘性材料の吸引および吐出を行なうための電動式吸引吐出装置であって、該装置は、本体部とシリンダとからなり、該本体部は、ロッドと、該ロッドに結合されたピストンと、該ロッドの移動を喚起する電動モータと、該電動モータに電源から電力を供給するための電気回路とを有し、該電気回路は、論理回路と、タイマ回路と、コンデンサおよび抵抗からなる放電回路とを有し、粘性材料の吐出動作を停止した時、該吐出動作が所定の時間を超えていた場合は、該ピストンが一定の時間τだけ吸引動作方向に移動し、該吐出動作が所定の時間以下であった場合は、該ピストンが吸引動作方向に移動することなく停止するように構成されていることを特徴とする電動式吸引吐出装置を提供し、これにより上記課題を解決する。
【0016】
これにより、作業者は、吸引吐出装置を用いて行う粘性材料の吸引および吐出の両動作を、いずれも手動ではなく電動で行うことができるため、作業者の労力の負担を著しく低減することができる。そして、例えば幅10mm前後の通常の太さの目地にシーリング材を充填する場合など、所定の時間を超えた時間、吐出作業をして目地にシーリング材を充填した後、吐出動作を停止したときは、電動モータが極めて短時間逆回転し、シリンダ内の残圧を除去するため、残存吐出を防止することができる。一方、例えば幅5mm以下の細目地や複雑な形状の目地などにシーリング材を充填する場合など、作業者が様子を見ながら少量ずつ所定の時間以下の短時間の吐出をした後、吐出動作を停止したときは、電動モータが逆転することなく停止するので、少量吐出のたびに吸引動作をすることがない。このため、充填したシーリング材中に気泡を巻き込む不具合を生じることがなく、かつ吐出が短時間のときには残圧もなく残存吐出の不具合も生じないので、作業性に優れ安心して使用できる装置となる。これにより、作業者が熟練していなくても、簡単に作業ができて不具合の発生がなく、かつ労力の負担を軽減した施工作業を実施することができる。
【0017】
第2に、該本体部が、さらに該ロッドの中心軸まわりに回転可能に螺嵌したナットと、該ロッドが貫通するフレームを有し、該電動モータが該ナットを回転させることにより該ロッドの移動を喚起し、該ロッドに設けたキー溝と、該フレームに設けたキーからなる回転拘束手段により、該ロッドが、自ら回転することなく、該ナットの回転方向に応じ、該ロッドの中心軸に沿って往復運動するように構成されていることが好ましい。
【0018】
これにより、電動モータの回転力がロッドに直線方向の推進力として伝達し、かつコンパクトな装置となる。
【0019】
第3に、該本体部が、さらに吸引側および吐出側のリミットスイッチを備え、吸引または吐出動作の間に該ピストンが所定の位置に到達した時、該吸引側または吐出側のリミットスイッチが作動し該電動モータの両極を直結する閉回路を形成することにより、該ピストンの移動が短時間で停止するように構成されていることが好ましい。
【0020】
第4に、該ロッドが吸引または吐出の動作を終了するための所定の位置を検出する該リミットスイッチについては、該吸引側のリミットスイッチが、該本体部に設けたキーとともに移動する該キーを固定する板と接触することにより作動し、該吐出側のリミットスイッチが、該ロッドに設けた作動板と接触することにより作動することがさらに好ましい。
【0021】
これにより、ピストンが吸引および吐出動作の限界点に達したときに、速やかに動作を停止するため、装置に無理な力がかからない構造となる。
【0022】
第5に、該ピストンの移動速度が該本体部に設けた複数の可変抵抗器により調整されることが好ましい。第6に、該複数の可変抵抗器が2個であり、一方の可変抵抗器の抵抗値が、該本体部に設けたトリガの移動距離(lx)に応じて変化し、他方の可変抵抗器の抵抗値が該本体部のフレームに設けた調節ツマミの変位に応じて変化することにより、該電動モータへの供給電力を変化させるように構成されていると、より好ましい。
【0023】
これにより、吸引および吐出の速度を、低速から高速まで広範囲に調節することができ、粘性材料の吸引ならびに吐出の作業性が優れたものとなる。
【0024】
第7に、該電気回路が、さらにポリスイッチと過負荷表示部からなる過負荷防止回路を有することが好ましい。
【0025】
これにより、粘性材料の粘度が非常に高い場合など、吸引または吐出の際、過電流が流れ過負荷状態になりそうな危険を事前に知ることができ、また万一過負荷状態になったとき電流を遮断することができ、本体部そのものの破壊を防止する。
【0026】
第8に、該電気回路が、さらに電源として、該本体部に備えたニッケル水素電池を有することが好ましい。
【0027】
これにより、別途に大きなバッテリ等を用意する必要がなく、コンパクトでポータビリティに優れ、かつ、長時間強力な電力を得られることから、作業性に優れた装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
図1、図2および図3を参照して、本発明の電動式吸引吐出装置の構成を説明する。図1は、本体部2とそれに連結されたシリンダ3とからなる、本発明の電動式吸引吐出装置1の全体を示した図である。図1は、シリンダ3にノズル40を取り付けた状態を示しており、シリンダ3とノズル40ならびに本体部2の筐体(フレーム10a、10bおよび外装板10cからなる)はその断面のみを示している。図2は、図1の吸引吐出装置1をノズル40の方向から見た図である。図3は、本体部2のナット7、回転歯車8および従動歯車9と、それらの近傍のロッド4を拡大して示す断面図である。図において、電動モータ6は簡略化して示している。なお、図1においてモータ6、リミットスイッチLS1とLS2、切替えスイッチS1、第2の可変抵抗器27および過負荷表示ランプ29のそれぞれから電気回路に接続する配線は、省略している。
【0030】
本発明の吸引吐出装置1は,本体部2にシリンダ3を取り付けた状態で使用する。本体部2は、その筐体に固定された駆動手段たる電動モータ6と、電動モータ6に取り付けられ電動モータの回転に合わせて回転する回転歯車8と、回転歯車8と噛合する従動歯車9と、従動歯車9に固定されて一緒に回転するナット7とを有している。さらに、本体部2は、ナット7に螺嵌しフレーム10aと10bを貫通して、筐体内部から外部に突き出して延在するロッド4を有し、ロッド4の先端にはシリンダ3内へ粘性材料を吸引し、吸引した粘性材料をシリンダ外へ吐出するピストン5が結合している。このように、本体部2は、電動モータ6でナット7が駆動され、これによりロッド4とこれに結合したピストン5の移動が喚起される構成を有している。なお、本体部2は、作業者が本体部2を保持するためのグリップ11を有する。
【0031】
シリンダ3は、その一端に粘性材料の吸引口となる開口部3aを有し、他端の開口部3bは本体部2との連結部を構成する。ピストン5を内挿した状態で、連結治具39を介して本体部2に着脱可能に支持される。たとえば、図3に示すように、連結部としてシリンダ3の開口部3b側の外周面にネジ部3cを設ける一方、本体部筐体を構成するフレーム10aの外側(図の左側)に、このネジ部3cが螺合可能な連結治具39を、固定具34と固定具37の間にスペーサ38を介して挟み、回転可能に固定しておき、シリンダ3は、この連結治具39に使用の度に螺合するようにすればよい。連結治具39が回転可能であるため、シリンダ3も回転可能となり、したがって、シリンダ3に取り付けた後述するノズル40を、外壁目地などの施工対象物の向きに合うように自由に回転させることができる。
【0032】
シリンダ3の先端側である開口部3aは、ノズル40を脱着可能に取り付けられるようになっている。すなわち、粘性材料の吸引時には開口面積を大きくして流体抵抗を減らすためにノズルを外しておき、一方、粘性材料の吐出時には正確に細く吐出するためにノズル40を取り付けて開口面積を小さく絞るようにすれば便利である。
【0033】
なお、シリンダ3の開口部3aの側の端部を粘性材料に挿入した状態でピストン5を本体部2の側に移動させたときに、減圧状態にして粘性材料を吸い込めるように、ピストン5の外周部はシリンダ3の内壁面に密接しながら動けるような、すなわち内壁面に摺接する構造である必要がある。このため、図1に示すように、ピストン5の外周面に、たとえば、ゴム製や合成樹脂製のリング状パッキン5aを取り付けてもよいし、ピストン5の外周面自体をシリンダ3の内壁面に密接しながら動けるような大きさおよび材質で形成してもよい。
【0034】
次に、図3および図4を参照して、ロッド4、ナット7、回転歯車8および従動歯車9の関係を詳しく説明する。図4は、本体部2におけるロッド4、ナット7、回転歯車8および従動歯車9を拡大して示す斜視図である。
【0035】
図3と図4に示すように、ロッド4は、その表面(外周面)に形成された雄ネジと、ナット7の内面に形成された雌ネジにより、ナット7に螺嵌している。電動モータ6は本体部2のフレーム10bに固定され、その回転シャフト6aにピン31により回転歯車8が固定されていて、電動モータ6の回転は回転歯車8に伝達される。従動歯車9は、回転歯車8と噛合され、固定具33aによりボールベアリング32aを介して、フレーム10bに回転可能に取り付けられている。これにより、回転歯車8の回転は従動歯車9に逆方向の回転として伝達される。ナット7の一方の側の面は、従動歯車9の面に、同心状に、ボルト35a、35b、35cおよび35dで固定されている。ナット7の反対側の面は、固定具33bによりボールベアリング32bを介して、フレーム10aに固定された固定具34に回転可能に取り付けられている。なお、固定具34は、ボルト36aおよび36bでフレーム10aに固定されている。これにより、従動歯車9とナット7は、ボールベアリング32aとボールベアリング32bを介して、本体部筐体のフレーム10aおよび10bに両端から回転可能に支持される。
【0036】
したがって、電動モータ6の回転運動はナット7に伝達され、ナット7が回転することにより、ナット7に螺嵌しているロッド4の移動を喚起する。なお、回転歯車8と従動歯車9の歯数比を変えることにより、ナット7の回転速度を適宜、変更することができる。また、図3においては、2個の歯車の組合せが採用されているが、回転歯車8と従動歯車9の間に、別の歯車を介することによりナット7の回転速度や回転方向を変えることもできる。そして、後述するように、キー溝とキーの噛み合わせによるロッド4の回転を拘束する手段により、ナット7の回転運動は、ナット7に螺嵌しているロッド4の軸方向直線運動として伝達される。
【0037】
次に、図3、図5および図6を参照して、本発明の第2、第3および第4の態様にかかわる、ロッド4の軸方向直線運動の仕組みとリミットスイッチ(LS1、LS2)の作動の仕組みを説明する。図5は本体部2においてフレーム10bをロッド4が貫通する部分を拡大して示す断面図であり、図6は本体部2をモータ6側から見た正面図である。なお、図5において、押さえボルト18aはロッド4の手前に図示する必要があるが、図が複雑になるのを避けるため便宜上ロッド4の下に示しており、また押さえボルト18a付近の断面は、ロッド4の断面とは異なる位置にあるが一つの断面図で示している。また図6においては、リミットスイッチ作動板20は他の部分を見やすく図示できるように便宜的に破線で示している。なお、図3においてはリミットスイッチを省略している。
【0038】
すなわち、図5と図6に示すようにロッド4にはその表面付近の軸方向にキー溝15が形成され、フレーム10bの外側(モータ6側)のロッド4が貫通する部分に、ロッド4の貫通穴を開けたキー固定板17が取り付けられ、そのキー固定板17の穴の上側にL字形のキー16がフレーム10bの外側から内側に入りこむように固定されている。そしてロッド4のキー溝15と、キー16が噛み合うように配置しているため、ロッド4の回転が拘束されることにより、ナット7の回転運動は、ロッド4の軸方向の直線運動に変換され、ロッド4に連結しているピストン5は、モータ6の回転に従い、シリンダ3の内壁面に沿って、開口部3aと開口部3bの間を往復摺動する。キー溝15とキー16を一組にして回転拘束手段と称すが、この回転拘束手段はコンパクトにまとめられているため、本体部そのものを小型、軽量化できる。
【0039】
なお、本明細書では、便宜上、ロッド4とピストン5とがシリンダ3の先端側の開口部3aに向かって移動する動きを「前進」とよび、逆にシリンダ3の連結部側の開口部3bに向かって移動する動きを「後退」とよぶ。
【0040】
また、吸引および吐出動作のそれぞれの終了時点でモータ6を停止させるために、フレーム10bの外面(モータ取付側)に吸引側リミットスイッチLS1と吐出側リミットスイッチLS2を並べて配置する。そして、リミットスイッチLS1を作動させるため、キー固定板17の下方向に端部17aを設け、リミットスイッチLS2を作動させるため、ロッド4の後端部にリミットスイッチ作動板20を設け、リミットスイッチLS1は下端部17aと接触する向きに、リミットスイッチLS2は作動板20と接触する向きに配置する。キー固定板17はボルト18aと18bによりフレーム10bにルーズに固定されている。すなわち、ボルト18aと18bのそれぞれの頭部とキー固定板17の間にはスプリング19aと19bがそれぞれ挟みこまれているため、キー固定板17は下には落ちないが、キー固定板17がフレーム10bから離れる方向に力が加わったとき、フレーム10bとは少し離れる向きに移動できるようになっている。吸引動作において、ロッド4が後退を続け、ピストン5が所定の位置まで後退した時、ロッド4の所定の場所に設けたキー溝15の端部15aがキー16の端部16aを押すような場所に端部15aを設けておく。押されたキー16とともにキー固定板17も動き、キー固定板17の端部17aがリミットスイッチLS1と接触し、スイッチLS1が作動し、モータ6が停止し、ピストン5が吸引動作を停止する。また吐出動作において、ロッド4が前進を続け、ピストン5がシリンダ3の開口部先端3a付近の所定の位置に到達した時、リミットスイッチ作動板20がリミットスイッチLS2に接触することにより、リミットスイッチLS2が作動し、モータ6が停止し、ピストン5が吐出動作を停止する。なお、端部15aはキー溝の端部に限らず、キー溝の途中に設けたボルト等の突起物であってもよく、また、キー16とキー固定板17とは一体的に形成されていてもよい。
【0041】
また、ロッドを軸方向に前進または後退させる他の仕組みとしては、表面をラック状に形成したロッドにピニオンを噛合させた装置があり、ピニオンを左右に回転させることによりロッドの直線運動を行う方法も使用できるが、粘性材料の力に負けないようにロッドを力強く前進および後退させることができる点で、前述したような表面に螺旋状ネジを形成したロッドと、ナットの組合せが好ましい。
【0042】
次に、図1および図7を参照しながら、本発明の第5および第6の態様にかかわる、電動式吸引吐出装置1における粘性材料の吸引と吐出の速度調節の構成について説明する。図7は、吸引吐出装置1のトリガ12の支点軸13付近を拡大した斜視図である。
【0043】
図1および図7に示すように、本体部2には、グリップ11が固定されており、それにトリガ12が支点軸13により取り付けられている。作業者はこのグリップ11を手で持ち、トリガ12を指で引くことにより吸引および吐出の操作を行う。トリガ12とグリップ11の間にはスプリング14が取り付けられている。本明細書では、便宜上、グリップ11およびトリガ12の支点軸13に対してスプリング14とは反対側の端部を「根元部分」とよぶ。
【0044】
本体部2には、第1の可変抵抗器21が配置されている。可変抵抗器21はトリガ12に連動して抵抗値が変化すればどのように配置されていてもよいが、例えば、図7に示すように、可変抵抗器21の回転軸21aには、止めネジ22で回転腕23が取り付けられ、その取付位置は止めネジ22を緩めて調整することができ、回転軸21aの回転により可変抵抗器21の抵抗値(後述するR1)が変化する。回転腕23は板状に形成され、ほぼ長方形の穴が開いており、この穴には通し棒24が通してある。この通し棒24の回転腕23に対して可変抵抗器21と反対側の端部は、トリガ12の根元部分に取り付けられた取付板25の端部26に固定されている。これにより、トリガ12の動きが、滑らかに回転腕23に伝わる。
【0045】
こうすることで、作業者が指でトリガ12を引くと、その移動距離lxに応じて通し棒24が移動し、それに応じて回転腕23が移動距離lxに応じた(ほぼ比例した)角度θだけ回転する。すると回転軸21aも角度θだけ回転し、可変抵抗器21の抵抗値が変化する。したがって、可変抵抗器21の抵抗値は、作業者がトリガ12を引く移動距離lx(ないし角度変化θ)に応じて変化する。この場合、作業者がトリガ12をグリップ11に向かって浅く(移動距離lxを小さく)引いたときは、粘性材料の吸引または吐出速度が遅く、トリガ12を深く(移動距離lxを大きく)引いたときは、粘性材料の吸引または吐出速度が速くなるように可変抵抗器の抵抗値が変化し、これにより、後に述べるように、電動モータ6に供給される電力が変化する。
【0046】
さらに、本発明においては、図1に示すように、第2の可変抵抗器27を本体部2の内部に設け、その抵抗値(後述するR2)を変化させるための調節ツマミ28を本体部2のフレーム10aの外側(シリンダ取付側)に配置する。電動モータ6の回転数は、第1の可変抵抗器21と第2の可変抵抗器27の2個の抵抗器の抵抗値の調節により調節することができる。作業者は、調節ツマミ28を指で回転するなど変位させ、第一段階の電動モータ6の回転数を調節し、次いでトリガ12を引く量(距離lx)を変化させることにより、第二段階のモータ6の回転数を調節することができ、抵抗値を極めて小さな値から大きな値に変化させることができる。これにより、作業者は、施工対象物の形状に応じて、吸引あるいは吐出の速度、特に吐出の速度を非常に遅い状態から速い状態まで広範囲に、かつ滑らかに変化させることができるため、精度の高い施工と速い作業を自由に調節することができる。なお、可変抵抗器27と調節ツマミ28を配置する場所は作業者が手で操作しやすい場所ならどこでもよく、またトリガ12と調節ツマミ28の操作時期は同時であってもよいし、前後逆であってもよく、また、調節ツマミの形式はダイヤル式であってもよいし、スライド式であってもよいが、操作し易い点でダイヤル式が好ましい。
【0047】
次に、図8、図9および図10を参照して、本発明の第1の態様にかかわる、吐出動作を停止した時に、吐出動作時間の長短の違いにより、ピストンの吸引動作方向への移動を実行させる、あるいは実行させないようにする電気回路の構成について説明する。図8は、吸引吐出装置1の回路基板30に設けられた電気回路の概略の構成を示した回路図である。図8の回路は、論理回路51および52ならびにタイマ回路53を用いて吸引および吐出の起動と停止ならびに吐出を停止した時の後ダレ(残存吐出)現象の防止を行うものであり、さらにこれにコンデンサC1と抵抗R3とからなる放電回路を組み合わせることにより、吐出動作が所定時間以下の短時間のときは、電動モータ6が逆回転することなく停止するものである。回路は大きく分けて起動・停止回路部Xと電動モータ6の回転数制御回路部Yとから構成される。
【0048】
まず、起動・停止回路部Xについて説明する。図1および図8に示すように、吸引吐出装置1の電動モータ6は、回路基板30上に配置した電気回路を介して、本体部2に備えた電源であるバッテリ41に電気的に接続されている。図8に示すように、起動・停止回路部Xはトリガ12で作動するスイッチS2の接点状態によってモータ6の起動と停止を決定する回路部分と、吸引と吐出を切り替えるための切替えスイッチS1によりモータ6の回転方向を決定する回路部分と、後述するポリスイッチPS1を有する過負荷を防止するための回路部分とから構成されている。
【0049】
前記起動と停止を決定する回路部分は、マイクロスイッチで構成される起動・停止スイッチS2、論理回路であるOR回路51およびAND回路52、ならびにタイマ回路53を有しており、これらは起動・停止スイッチS2の起動側の信号aが分岐点58を経てOR回路51の一方の入力となり、OR回路51の出力信号dがAND回路52の一方の入力となり、AND回路52の出力信号fがスイッチングトランジスタTr1の入力となるように接続されている。また、起動・停止スイッチS2の停止側の信号bがタイマ回路53の入力となり、タイマ回路53の出力が分岐点57で二方向に分かれ、一方の出力信号cがOR回路51の他方の入力となり、他方の出力信号gがスイッチングトランジスタTr2の入力となるように接続されている。さらに、起動・停止スイッチS2の停止側とタイマ回路53の間に、分岐点55と56を介して抵抗R3とコンデンサC1が並列に配置されている。また、後述するパルス幅変調回路(PWM回路)54からの出力信号Vsが、AND回路52の他方の入力信号eとなるように接続されている。なお、起動・停止スイッチS2は、トリガ12と連動するように接続されており、トリガ12を引かないときは停止(OFF)状態にあり、トリガ12をグリップ11に近づく方向(作動方向)に少し引いたとき起動(ON)状態となるように設定されている。また、起動・停止スイッチS2の共通端子(コモン端子)には、Highレベルの電圧信号(以下“H”信号と称す)が接続され、起動・停止スイッチS2が接続しない側はLowレベルの電圧信号(以下“L”信号と称す)となるよう抵抗R3を介して接地されている。なお、トリガ12を引かず、スイッチS2が停止状態にあるときも、PWM回路54には抵抗値R1とR2に制御されたコントロール電圧Vcが入力するように接続されている。
【0050】
また、前記モータ6の回転方向を決定する回路部分は、モータ6(M)、リレーRL1と連動するリレースイッチS1aおよびS1bを備えた吸引と吐出を切替えるための切替スイッチS1、吸引側リミットスイッチLS1と吐出側リミットスイッチLS2、AND回路52の出力先となるスイッチングトランジスタTr1、ならびにタイマ回路の他方の出力先となるスイッチングトランジスタTr2を有している。バッテリ41の一方の極(一般的には、図8に示すように正極側)は、電流が分岐点45とリレースイッチS1aの吸引側を経て電動(直流)モータ6の一方の極46に流れるように接続され、また分岐点45、48およびリレースイッチS1bの吐出側を経て電動モータ6の他方の極47に流れるように接続されている。モータ6を出た電流は、分岐点49を経てスイッチングトランジスタTr1に通じるように接続されている。また、バッテリ41の正極側はリレーRL1と吸引・吐出切替えスイッチS1の吸引側を経てバッテリ41の他方の極(図8においては負極側)に、そしてスイッチングトランジスタTr2が吸引・吐出切替えスイッチS1と並列に接続されている。これにより、バッテリ41からの電流は分岐点45とモータ6と分岐点49とスイッチングトランジスタTr1を順次経由して流れ、ロッド4を駆動する電動モータ6に電力を供給することが可能となる。モータ6(M)に流れる電流の向きは、リレースイッチS1aとS1bの接点が吸引側であれば極46から極47への向きとなり、吐出側であれば極47から極46への向きとなる。なお、ここにおいて電源の正極と負極は逆であってもよく、その場合にはモータ6を流れる電流の向きは上記と逆になる。本明細書においては、極47から極46への電流の向きをi方向とする。
【0051】
また、前記過負荷を防止するための回路部分は、ポリスイッチPS1と、緑色LED59と赤色LED60の2色LEDからなる過負荷表示部(図1における過負荷表示ランプ29)とから構成されている。ポリスイッチPS1は、バッテリ41の正極側と分岐点45の間に直列に接続され、過負荷表示部はポリスイッチPS1と並列に接続されている。
【0052】
次に、吐出時間が所定の時間を超えた長時間(T1+T2)であった場合には、吐出動作を停止した時(停止した瞬間)に、極めて短時間である一定の時間τだけ電動モータ6が逆回転して残存吐出を防止し、吐出時間が所定の時間(T1)以下の短時間であった場合には、吐出を停止した時に、電動モータ6が逆回転することなく停止するようにするための、電気回路の構成について説明する。まず、吸引動作について説明する。充電したバッテリ41を本体部2にセットし、回路基板30に設けられた電気回路に接続する。切替えスイッチS1を吸引側にすると、リレーRL1が通電状態となり、リレースイッチS1aとS1bの接点が吸引側に接続する。このとき、トリガ12を引かず、起動・停止スイッチS2が停止状態にあるとき(停止側に接続しているとき)は、停止接点から分岐点56を経てタイマ回路53に入力する電圧信号bは“H”信号であるが、タイマ回路53から出力してOR回路51に入力する電圧信号cは“L”信号となるように設定されている。そして、分岐点58を介してOR回路51に入力する電圧信号aも“L”信号のままであるため、AND回路52からの出力信号fも“L”信号となる。このときスイッチングトランジスタTr1はOFF(切断)状態になるように設定されているため、電動モータ6に電流が流れず、電動モータ6は停止したままである。また、このときコンデンサC1には“H”に相当する電荷が蓄えられる。このときの電気回路に流れる電圧信号a〜fのそれぞれおよび電動モータ6に流れる電流iの状態を図9および図10のタイミングチャートの「起動」より左側に示す。なお、図9および図10は吐出の場合のタイミングチャートであるが、吸引の場合は、電流iの「停止」から左側の部分について、吐出方向側の電流変化を吸引方向側の電流変化に置き換えて参照することができる。それ以外は同様の挙動を示す。なお、本発明においては電流の向きを、電動モータの極47から極46に流れる向きを吐出方向(+i方向)とし、逆の向きを吸引方向(−i方向)としている。
【0053】
ここで、吸引を実行するためトリガ12を引くと、起動・停止スイッチS2の接点が停止状態から起動状態に切り替わり、OR回路51の入力電圧信号aは“H”レベルに変わる。このとき、停止側からタイマ回路53への入力bは、最初コンデンサC1に蓄積していた“H”信号であるが、抵抗R3を通して徐々に放電して“L”信号となるため、タイマ回路53から出力してOR回路51に入力する信号cは“L”信号のままで変化していない。しかしながら、OR回路51の入力aが“H”信号であるため、AND回路52への入力dは“L”信号から“H”信号に変わるため、AND回路52から出力する電圧信号fは、PWM回路54から出力するパルス出力Vsが電圧信号eとしてAND回路52に入力する信号に同期した信号となり、この信号がスイッチングトランジスタTr1に入力する。そうすると電動モータ6にはパルス出力Vsに同期したパルス幅で電流が極46から極47の向き(−i方向)に流れ、電動モータ6はロッド4とそれに連結したピストン5が後退するように回転(これを本明細書では「逆回転」と呼ぶ)する。これにより吸引吐出装置1のシリンダ3内に粘性材料を吸引することができる。そしてピストン5が所定の位置まで後退した時、吸引側リミットスイッチLS1が作動しOFFに接続すると、モータ6はバッテリを含まない閉回路を形成することによる逆向きの起電力を生じ、瞬時に停止する。以上の一連の動作における論理回路部およびタイマ回路部の信号電圧a〜fのレベルおよび電動モータ6を流れる電流iの状態を、図9のチャートの「起動〜停止」の間に示す。
【0054】
また、吸引動作の途中、吸引側リミットスイッチLS1が作動する前に、トリガ12を元の停止位置に戻した場合は、後述する吐出動作の場合と同様に、タイマ回路53は入力bの“L”信号から“H”信号への立ち上がりを検知し、所定の時間幅τだけ“H”信号が出力し、一方の信号cが“H”信号でOR回路51に入力する。このとき他方の信号gも“H”信号でスイッチングトランジスタTr2に入力するが、切替えスイッチS1は吸引状態のままであるため、τ時間だけそのまま吸引が続いた後、モータ6が停止し、吸引動作が停止する。このときの信号a〜fの状態および電流iの状態は、図9のタイミングチャートにおいて起動から停止までの電流iの状態を吐出方向から吸引方向に置き換えることにより参照できる。
【0055】
次いで吐出動作に移るが、まず、吐出が所定の時間(T1)を超えた長時間(T1+T2)であったときについて、図8および図9を用いて説明する。切替えスイッチS1を吐出側に切り替えると、リレーRL1は非導通となり、リレースイッチS1aとS1bの接点は吐出側に切り替わる。この状態でトリガ12を長時間引くと、前記と同様、信号bは最初コンデンサC1に蓄積されていた電圧に等しい“H”信号であるが、抵抗R3を通して放電するため電圧が徐々に減少して“L”となり、信号cは“L”のままである。しかしながら、信号aが“L”から“H”に切り替わるため、OR回路51の出力dは“L”から“H”に切り替わり、これがAND回路52の一方の入力となり、抵抗値R1およびR2により制御されたコントロール電圧Vcに応じたパルス幅の出力VsがPWM回路54から信号eとして出力し、この信号eがAND回路52の他方の入力となっているため、信号eに同期した信号fがAND回路52から出力する。この出力fがスイッチングトランジスタTr1に入力するため、電動モータ6には、PWM回路54の出力Vsに同期したパルス幅で、吸引時とは逆の方向に分岐点45と48を経由して、電動モータ6の極47から極46への向き(i方向)に電流が流れ、電動モータ6はロッド4とピストン5を前進させる方向に回転(前記逆回転に対し「正回転」と呼ぶ)する。これにより、吸引吐出装置1のシリンダ3の外に、あるいはシリンダ3にノズル40を取付けたときはノズル40から、粘性材料を吐出させることができる。
【0056】
この状態で、吐出をストップさせるためにトリガ12を引くのを止め元に戻すと、起動スイッチS2が起動から停止の状態に切り替わり、OR回路51の入力aは“H”信号から“L”信号に変わる。そして、このとき同時に、タイマ回路53への入力bが“L”信号であったものが“H”信号に変化する。タイマ回路53は、入力信号が“L”信号から“H”信号に変わると、その立ち上がりを検知して、所定の時間幅τだけ“H”信号を出力するように設定されているため、この時間幅τの“H”信号が、分岐点57を経由して、OR回路51への入力信号cと、スイッチングトランジスタTr2への入力信号gとなる。
【0057】
その結果、Tr2に入力された“H”信号により、時間幅τだけリレーRL1が通電状態となり、切替えリレースイッチS1aおよびS1bが吐出側から吸引側に切り替わる。他方、同じく時間幅τだけ、OR回路51の入力cが“H”に変わる。これにより、AND回路52の入力dが時間幅τだけ“H”のまま続くことにより、信号fも時間幅τだけ出力Vsに同期したパルス信号が続き、スイッチングトランジスタTr1に入力が続くため、Tr1も時間幅τだけON状態(通電状態)が続くこととなる。すなわち、電動モータ6に流れる電流は、それまで極47から極46の向きであったのが、時間幅τだけ逆の向きである極46から極47の向きに切り替わって流れ、ピストン5が粘性材料を吸引する方向に移動するように回転(逆回転)する。したがって、時間幅τだけ粘性材料を吸い戻す動作が行われるため、シリンダ3内の粘性材料にかかる残圧が除去され、問題となる残存吐出が防止できるのである。時間幅τの経過後、入力cは“H”信号から“L”信号に変わり、スイッチングトランジスタTr1への入力fも“L”信号に変わるため、Tr1はOFF(切断状態)になり、電動モータ6は電流が流れなくなって回転を停止する。すなわち、吐出動作が所定の時間を越えた長時間の場合、吐出を停止したとき時間幅τだけ吸引動作をし、残存吐出を防止する。以上の一連の動作における信号電圧a〜fのレベルおよび電動モータ6を流れる電流iの状態を、図9のチャートの「停止」より右側に示す。なお、前記時間幅τは、残存吐出を防止しつつ吸い戻し過ぎによるノズル40内への気泡混入を避けるため、2秒以下に、さらに1秒以下に設定するのが好ましい。
【0058】
次に、吐出動作が所定の時間幅(T1)以下の短時間であった場合について、図8と図10を用いて説明する。トリガ12をT1時間以下の短時間引いた後、すぐ引くのをやめ元に戻したときの動作は次のようになる。起動・停止スイッチS2が起動状態になり、信号aは“H”信号となる。他方、信号bは最初コンデンサC1に蓄積されていた電圧に等しい“H”信号であるが、抵抗R3を通して放電するため、電圧が徐々に減少して行くとともに、前述したように、信号fはAND回路52の入力dが“H”であるので、PWM回路54の出力電圧Vsに同期したパルス信号fとなってスイッチングトランジスタTr1に入力し、PWM回路54の出力Vsと同期したパルスで、スイッチングトランジスタTr1に入力し、ピストンが前進し粘性材料を吐出する。しかし、図10に示すように、スイッチS2がT1時間以内に停止に切り替わると、コンデンサC1の電圧が“L”になる前に、すなわち信号bが“L”まで低下する前に“H”になってしまう。そうすると、タイマ回路53が“L”から“H”への信号の立ち上がりを検出しないため、タイマ回路53は所定の信号を出力しない。そのため出力cは“L”のままであり、信号dも“L”になるため、信号fも“L”となる。したがって、スイッチングトランジスタTr1はON状態からOFF状態に切り替わるため、電動モータ6に電流が流れず、逆回転の動作をすることなく、したがって吸引動作をすることなく吐出動作を停止する。このT1という時間は極めて短時間に設定しているため、シリンダ3内の残圧はほとんど生じておらず、残存吐出の不具合は生じない。以上の一連の動作における論理回路部およびタイマ回路部の信号電圧a〜fのレベルおよび電動モータ6に流れる電流iの状態を、図10のチャートに示す。なお、T1の設定時間は、吐出を停止したときに残存吐出が生じない時間という点で、3秒以内が好ましく、さらに1秒以下が好ましい。この時間になるようにコンデンサC1の容量および抵抗R3の抵抗値を決定すればよい。
【0059】
次に、本発明の吸引吐出装置1におけるリミットスイッチLS1およびLS2の動作状態を図1、図5および図8を参照しながら説明する。図8の起動・停止回路Xに示したように、電動モータ6の極47と切替えスイッチS1bの間には、吸引側リミットスイッチLS1を、そして電動モータ6の極46と切替えスイッチS1aの間には、吐出側リミットスイッチLS2をそれぞれ配置し電気的に接続させている。このとき、リミットスイッチLS1とLS2が作動していないときは、それぞれのリミットスイッチのON側接点を介して電動モータ6が回転するように接続しておく。また、OFF側接点は一緒にしてバッテリの正極側に接続しておき、それぞれのリミットスイッチが作動したときは、OFF側に接続するようにしておく。
【0060】
作業者が、粘性材料を吸引吐出装置1のシリンダ3内に吸引するため、ピストン5がシリンダ3の開口部3a側の先端にある状態で、切替えスイッチS1を吸引側に切り替え、トリガ12を少し引くと、起動・停止スイッチS2が起動状態(ON状態)になり、前述したように図8のモータ6(M)の極46から極47の向きに電流が流れ、モータ6が回転(逆回転)してロッド4とピストン5が後退を始め、粘性材料の吸引を始める。そのままトリガ12を引き続けるとピストン5も後退を続け、ピストン5がシリンダ3の反対側の開口部3bの端部に近い所定の位置に到達した時、キー溝15の端部15aがキー端部16aを押すことにより、このキーを固定しているキー固定板17が移動し、キー固定板の下端部17aが吸引側リミットスイッチLS1を押すことにより、吸引側リミットスイッチLS1が作動し、その接点がON側からOFF側に切り替わる。すると、モータ6の極46と極47が直結してバッテリを含まない閉回路を形成し、負荷回路がショートするため、モータ6の逆起電力によりモータ6が慣性で回転を続けることなく一瞬のうちに停止し、吸引動作を停止する。停止したら、トリガ12を引く力を緩めて元の位置に戻し、起動・停止スイッチS2を停止側にすればよい。
【0061】
次いで、粘性材料を吸引吐出装置1のシリンダ3外へ吐出するために、切替えスイッチS1を吐出側に切り替え、再びトリガ12を指で少し引くと、起動・停止スイッチS2が起動状態(ON状態)になり、図8のモータ6の極47から極46の向き(i方向)に電流が流れ、電動モータ6が正回転しロッド4とピストン5が前進をはじめ、粘性材料の吐出を始める。そのままトリガ12を引き続けるとピストン5も前進を続け、ピストン5がシリンダ3の開口部3a側の端部に近い所定の位置に到達した時、ロッド4の後端に設けた作動板20が吐出側リミットスイッチLS2を押し作動させる。そうすると、電気回路において吐出側リミットスイッチLS2の接点はON側からOFF側に切り替わり、モータ6の極46と極47が直結してバッテリを含まない閉回路を形成し、負荷回路がショートするため、モータ6の逆起電力により、慣性で回転することなく、一瞬のうちに回転を停止して吐出動作を停止する。このときトリガ12を引く力を緩めて元の位置に戻し、起動・停止スイッチS2を停止側にすれば、前述したように、時間幅τだけタイマ回路53から“H”信号が出力され、リレーRL1が通電状態となって、切替えスイッチS1aおよびS1bが吸引側に切り替わるため、モータ6の極46から極47の向き(i方向とは逆の向き)に電流が流れてモータ6が逆回転し、時間幅τだけピストン5が後退して、吐出圧が除去される。時間τが経過するとタイマ回路53からは“L”信号が出力されるため、モータ6への電力の供給が停止し、モータ6の回転が完全に停止することにより、残存吐出を発生することなく、吐出動作を終了することができる。
【0062】
なお、吸引側と吐出側のリミットスイッチを配置し作動させる方法としては、図5に示した方法に限定されず、例えば、ロッド4の両端に近い位置にそれぞれ凹部を設け、別に本体部の適当な位置にロッド4の凹部がきた時、この窪んだ部分に入り込むことによりスイッチが作動するように2個のリミットスイッチを配置し、電気回路と接続しておく方法なども採用できる。
【0063】
次に、図8を参照して電気回路の面から、複数の、好ましくは2個の可変抵抗器を用いることによる、吸引速度の制御方法について説明する。この速度制御は、ピストン5の駆動源である電動(直流)モータ6をパルス幅変調回路(PWM回路)54により速度制御することで実現している。図8に示すモータの回転数制御回路部Yがそれであり、その出力VsがAND回路52の入力eとなるように構成されている。なお、PWMとしては、例えばタイマIC555などが挙げられる。このPWM回路54に、入力として一定周波数のノコギリ波状や三角波状のパルス電圧を加え、コントロール信号として第一の可変抵抗器21の可変抵抗R1および第二の可変抵抗器27の可変抵抗R2により調整された直流電圧Vcを加えると、Vcの大きさに比例したパルス幅の変調出力信号Vsが得られる。この変調出力電圧信号VsがAND回路52の入力信号eとなり、これに同期した信号fがAND回路52から出力し、スイッチングトランジスタTr1に入力してTr1を作動させることにより、変調出力信号Vsに同期したパルス幅で電動モータ6へ電力が供給されることにより、電動モータ6の回転数を制御するようになっている。すなわち、バッテリ41からの直流電圧を、トリガ12を引く量(lx)に応じて抵抗値R1を変えるように配置した第一の可変抵抗器21および調節ツマミ28を指で変位させて抵抗値R2を変えるように配置した第二の可変抵抗器27によりダブルで調整し、こうして調整された直流電圧をコントロール信号VcとしてPWM回路54に供給することで、電動モータ6の速度を制御し、ピストン5の移動速度を調整するのである。
【0064】
次に、電動式吸引吐出装置1に負荷がかかり過ぎて破壊することを防止する方法について、図1、図6および図8を参照して説明する。図8に示すように、起動・停止回路Xは、バッテリ41の正極側と分岐点44の間に、ポリスイッチPS1と、PS1の両側に並列に配置した緑と赤の2色LEDと抵抗R4からなる過負荷表示部分(図1における過負荷表示ランプ29)から構成されている過負荷防止回路を有している。抵抗R4は分岐点42と赤色LED60の間に配置される。この過負荷保護回路はバッテリの負極側に近いところに配置されていてもよく、また過負荷表示ランプ29は見やすい所であればどこでもよいが、例えば図6に示すようにフレーム10bの外側のモータ6のそばに配置される。吸引・吐出の操作中、付加が大きくなく、また電気回路に異常なく規定内の電気が流れているときは、ポリスイッチPS1は導電性があり抵抗値が小さく、分岐点43の電位は高いため、緑色LED59に導通し強く発光し、これに比べ赤色LED60は流れる電流が小さく発光が弱いため、過負荷表示ランプ29は緑色を表示する。粘性材料の粘度が高すぎるなどにより、電動モータ6に負荷がかかり過ぎたとき、発熱によりポリスイッチPS1の抵抗が増大し、PS1に電気が流れなくなり、電動モータ6が回転を停止するため、吸引吐出装置1が破壊するのを防止することができる。このとき、分岐点43の電位が下がり、分岐点42から赤色LED60に流れる電流の電位差の方が大きくなるため、赤色LED60の方が強く発光し危険を表示できる。危険を察知しトリガ12を引くのを止めて元に戻し、吸引・吐出動作を停止すると、ポリスイッチPS1の温度が低下し始め、導電性が回復するため、起動・停止回路Xに電流が流れるようになり、吸引吐出装置1を再び使用することが可能となる。
【0065】
次に、電動式吸引吐出装置1の電源である、バッテリ41について、図1、図2および図6を参照して説明する。図1には、図が不明確になるためバッテリ41は表示していないが、本体部2の外装板10cの内側で、ナット7に対して回路基板30とは反対側、すなわち図2においてノズル40方向から見て左側、また図6において、モータ6側からみて右側に、バッテリ41が配置され、電気回路に接続している。バッテリ41は、放電後に充電できるように、本体部2から取り外し可能に配置される。なお、バッテリ41は、筐体の外側に配置してもよいし、またグリップ11を箱状に形成し、その内部に配置してもよい。バッテリ41としては、繰り返し充電することができる二次電池である、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ニッケル・カドミウム電池などが挙げられるが、大容量で放電出力が大きく、且つ軽量で、また破裂などの危険性が小さく、さらにはカドミウムなどの環境に悪影響を与える物質を使用していない点でニッケル水素電池が好ましい。
【0066】
以上のように、作業者にとっては、本発明の電動式吸引吐出装置1を使用する限り、粘性材料の吸引および吐出工程のいずれにおいても、吸引および吐出の作業が手動ではなく電動で行なわれるので、従前の作業よりも負担が大幅に軽減される。
【0067】
そして、粘性材料の吐出時間が所定の時間(T1)を超えた場合は、吐出作業を停止した瞬間に電動モータが逆回転して残存吐出を防止し、吐出時間が所定の時間(T1)以下の短時間であった場合は、吐出作業を停止しても電動モータが逆転することなく停止するが、この場合は吐出時間が短時間のため、残存吐出を生じない。これにより、吐出時間の長短にかかわらず残存吐出のない、精度が高くかつ高速の吐出作業が可能な、コンパクトで、加えて過負荷による吸引吐出装置の破壊を防止することができる、作業性に優れた電動式吸引吐出装置が得られた。
【0068】
なお、本発明の電動式の吸引吐出装置1で吐出させる粘性材料としては、建築物、土木構築物、自動車などの分野において使用されるシーリング材、塗膜防水材、塗料、接着剤などが挙げられる。これらのうち、シーリング材料は揺変性が付与されていて粘度が極めて高いため、本発明の電動吸引吐出装置1の特徴を最大限に発揮できる点で好適である。
【0069】
粘性材料を構成する樹脂成分としては、ウレタン系、エポキシ系、ポリサルファイド系、ポリエステル系、アクリル系、シリコ−ン系、変成シリコーン系などの樹脂が挙げられ、これらのうちウレタン系、ポリサルファイド系、または変成シリコーン系の樹脂がシーリング材の構成樹脂成分として適しており好ましい。
【0070】
また、粘性材料の硬化方式としては、湿気などの水分や空気中の酸素を利用して硬化させる1液硬化型、あるいは主剤と硬化剤を混合して硬化させる2液硬化型があるが、比較的粘度が高い1液硬化型、特に1液湿気硬化型に本発明の電動式吸引吐出装置1を適用すると、効果的である。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、粘性材料として一液湿気硬化型ウレタン系シーリング材を使用した。
【0072】
(作製例1) 電動式シーリング材吸引吐出装置Aの作製
前記図1〜図8に示す形に形成し、図8におけるコンデンサC1として三洋電子部品社製の電解コンデンサ(規格:耐圧10V、容量10μF)を使用し、図9および図10におけるT1が1秒となるように、抵抗R3の抵抗値を100kΩに設定した。そして第1の可変抵抗器21(R1)として東京コスモス社製の可変抵抗器(規格:径16mm、B型10kΩ、型番:RV16YN 15SB103)、第2の可変抵抗器27(R2)として5kΩの可変抵抗器(規格:径16mm、B型5kΩ)、ポリスイッチPS1としてポリスイッチ(規格:ホールド電流IH 2.5A、トリップ電流IT 5.0A、PO 2.5W)を使用し、図1における過負荷表示ランプ29として、2色LEDランプ(規格:赤と緑の5φ2色、カソードコモン)を使用して、電動式シーリング材吸引吐出装置Aを作製した。なお、第2の可変抵抗器27の調節ツマミ28はダイヤル状に、そして図1におけるシリンダ3の内容量が約550mLとなるように形成し、吸い戻しの時間幅τが0.5秒となるようにタイマ回路を設定した。
【0073】
(作製例2) 電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)の作製
作製例1において、コンデンサC1、第2の可変抵抗器27(R2)、ポリスイッチPS1および過負荷表示ランプ29を使用せず、第2の可変抵抗器27(R2)の代わりに、作業者が自由に抵抗値を変えることのできない半固定抵抗を使用して、電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)を作製した。
【0074】
(作製例3) 目地の作製
サイディング(ニチハ社製、モエンサイディング−M、厚さ12mm)を長さ1.5mに切り出したものを合板の表面に幅8mmの間隔を開けて並べ、ビスで固定して目地を作製した。次いでこの目地に厚さ2mm×幅8mm×長さ1.5mのバックアップ材を挿入した後、目地の両側にマスキングテープを貼付し、幅8mm×長さ1.5m×深さ10mmの目地を必要数作製し、目地の長さ方向が垂直縦方向になるように屋外に設置した。
【0075】
(実施例1)
作製例1で得た電動式シーリング材吸引吐出装置Aを使用し、内容量6Lのプラスチック製ペール缶に詰めた一液湿気硬化型ウレタン系シーリング材(オート化学工業社製、オートンサイディングシーラント)を、内容量約550mLのシリンダ内にトリガを引いて電動で吸引しシーリング材を満たした。次いで内口の幅8mmのノズルを取り付け、作製例3で作製した幅8mmの目地の最上部にノズルを当て、トリガを約0.5秒間引いては元に戻す動作、すなわちシーリング材を約0.5秒吐出した後停止する動作を繰り返しながら、ノズルを下方向に移動させ、長さ1.5mの目地内にシーリング材を充填し、余分のシーリング材をヘラでかきとり表面を平らにしてシーリング目地を形成し、これを試験体1とした。この際、シーリング材の吐出を停止した時、瞬間吸引する動作はなく、かつ残存吐出も発生しないため、きれいなシーリング目地を形成することができた。
【0076】
次いでこの試験体1を7日間屋外に放置し硬化させた後、表面を観察し、硬化物表面がきれいで異状のないことを確認し、次に硬化したシーリング材部分をカッターで切り取り、内部に気泡や亀裂のないことを確認した。
【0077】
(実施例2)
実施例1において、シーリング材を目地内に充填する際、トリガを1回引き、一度に1.5mの目地にシーリング材を充填した後、トリガを元に戻し吐出を停止した以外は同様にして、試験体2を作製した。この際、シーリング材の吐出を停止した時、瞬間吸引動作をするため残存吐出は発生せず、きれいなシーリング目地を形成することができた。吐出時間は約6秒であった。
【0078】
次いでこの試験体2を7日間屋外に放置し硬化させた後、表面を観察し。硬化物表面がきれいで異状のないことを確認し、次に硬化したシーリング材部分をカッターで切り取り、内部に気泡や亀裂のないことを確認した。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、作製例1で得た電動式シーリング材吸引吐出装置Aの代わりに、作製例2で得た電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)を使用した以外は同様にして、試験体比較1を作製した。この際、残存吐出は生じなかったが、約0.5秒吐出の後、瞬間吸引し、再度約0.5秒吐出する動作を繰り返すため、気泡を巻き込み、シーリング材の表面に凹凸が認められた。
【0080】
次いでこの試験体比較1を7日間屋外に放置し硬化させた後、表面を観察し、硬化物表面に凹凸があるのを認め、次に硬化したシーリング材部分をカッターで切り取り観察したところ、内部に気泡および亀裂があることを確認した。
【0081】
(比較例2)
実施例2において、作製例1で得た電動式シーリング材吸引吐出装置Aの代わりに、作製例2で得た電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)を使用した以外は同様にして、試験体比較2を作製した。この際、残存吐出は生じないため、シーリング材の表面はきれいであった。
【0082】
次いでこの試験体比較2を7日間屋外に放置し硬化させた後、硬化したシーリング材部分をカッターで切り取り、内部に気泡および亀裂がないことを確認した。
【0083】
(実施例3)
作製例1で得た電動式シーリング材吸引吐出装置Aを使用し、23℃の室内において、内容量6Lのプラスチック製ペール缶に詰めた一液湿気硬化型ウレタン系シーリング材(オート化学工業社製、オートンサイディングシーラント)を、内容量約550mLのシリンダ内にトリガを引いて電動で吸引しシーリング材を満たし、内口の幅8mmのノズルを取り付けた。
【0084】
この状態で、ツマミ28を回転させ第2の可変抵抗器の抵抗値を最小にし、トリガを最大限に引いてシーリング材を吐出させたとき、トリガを引き始めた時から550mLを吐出し終わるまでの時間は42秒であった。
【0085】
前記同様にして、第2の可変抵抗器の抵抗値を最小にし、トリガを少し引いたときの吐出時間は98秒であった(これを最大吐出時間Aと称す)。
【0086】
前記同様にして、第2の可変抵抗器の抵抗値を最大にし、トリガを最大限に引いてシーリング材を吐出させたとき、トリガを引き始めた時から吐出し終わるまでの時間は14秒であった(これを最小吐出時間Aと称す)。
【0087】
前記同様にして、第2の可変抵抗器の抵抗値を最大にし、トリガを少し引いたときの吐出時間は67秒であった。
【0088】
したがって、このときの最大吐出時間幅A=最大吐出時間A−最小吐出時間A=84秒であり、後記の比較例3の最大吐出時間幅B=44秒に比べ、1.9倍の吐出時間幅を有し、良好であった。
【0089】
(比較例3)
作製例2で得た電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)を使用し、23℃の室内において、内容量6Lのプラスチック製ペール缶に詰めた一液湿気硬化型ウレタン系シーリング材(オート化学工業社製、オートンサイディングシーラント)を、内容量約550mLのシリンダ内にトリガを引いて電動で吸引しシーリング材を満たし、内口の幅8mmのノズルを取り付けた。
【0090】
この状態で、トリガを少し引いてシーリング材を吐出させたとき、トリガを引き始めた時から吐出し終わるまでの時間(最大吐出時間B)は60秒であった。
【0091】
同様にして、トリガを最大限に引いてシーリング材を吐出させたとき、トリガを引き始めた時から吐出し終わるまでの時間(最小吐出時間B)は16秒であった。
【0092】
したがって、このときの最大吐出時間幅B=最大吐出時間B−最小吐出時間B=44秒であった。
【0093】
(実施例4)
作製例1で得た電動式シーリング材吸引吐出装置Aを使用し、内容量6Lのプラスチック容器に詰めた一液湿気硬化型ウレタン系シーリング材(オート化学工業社製、オートンサイディングシーラント)を50℃の恒温槽中に20日間置いて増粘させ、これを5℃の室内に3日間放置後、5℃の室内において内容量約550mLのシリンダ内にトリガを引いて電動で吸引しシーリング材を満たした。この際電動で吸引することは可能であった。
【0094】
次いで内口の幅8mmのノズルを取り付けトリガを引いて吐出を開始した。電動モータの回転速度は通常より遅く、吐出の途中、過負荷表示ランプが緑色から赤色に変化したのが確認できた。そのまま吐出を続けたところ、ポリスイッチが作動し電動モータが停止したため、トリガを元に戻し吐出作業を中止した。吐出作業を中止してから10分間放置後、再度トリガを引くことによりシーリング材を吐出することができ、吐出作業を再開できた。
【0095】
(比較例4)
実施例4において、作製例2で得た電動式シーリング材吸引吐出装置(比較B)を使用した以外は同様にして、内容量約550mLのシリンダ内にトリガを引いて電動で吸引しシーリング材を満たした。この際電動で吸引することは可能であった。
【0096】
次いで内口の幅8mmのノズルを取り付けトリガを引いて吐出を開始した。電動モータの回転速度は通常より遅く熱を帯び始めたが、かまわず吐出を続けたところ、ついに電動モータが発煙し始めたため、この時点でトリガを元に戻し吐出作業を停止した。したがって最後まで吐出することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の電動式吸引吐出装置の一例を示す全体図である。
【図2】図1の電動式吸引吐出装置1をノズル40側から見た側面図である。
【図3】図1の電動式吸引吐出装置1の本体部2の回転歯車8,従動歯車9,ナット7およびその近傍のロッド4を拡大して示す断面図である。
【図4】図1の電動式吸引吐出装置1の回転歯車8、従動歯車9、ナット7およびその近傍のロッド4の関係を拡大して示す斜視図である。
【図5】図1の電動式吸引吐出装置1の、ロッド4がフレーム10bを貫通する近傍の、キー溝15とキー16とリミットスイッチLS1、LS2およびリミットスイッチ作動板20の関係を拡大して示す断面図である。
【図6】図1の電動式吸引吐出装置1をモータ6の側から見た側面図である。
【図7】図1の電動式吸引吐出装置1のグリップ11の根元付近の、グリップ11とトリガ12と可変抵抗器21の動作関係を示す簡略化した斜視図である。
【図8】図1の電動式吸引吐出装置1の回路基板30上に設けられる電気回路の一例を示す回路図である。
【図9】吐出時間が長いときの図8の電気回路における電圧信号の時間軸上の状態変化を示すタイミングチャートである。
【図10】吐出時間が短いときの図8の電気回路における電圧信号の時間軸上の状態変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0098】
1 吸引吐出装置
2 本体部
3 シリンダ
3a 先端側開口部
3b 取付側開口部
3c ねじ部
4 ロッド
5 ピストン
5a リング状パッキン
6 電動モータ
6a 回転シャフト
7 ナット
8 回転歯車
9 従動歯車
10a フレーム
10b フレーム
10c 外装板
11 グリップ
12 トリガ
13 支点軸
14 スプリング
15 キー溝
15a キー溝端面
16 キー
16a キー端部
17 キー固定板
17a キー固定板下端部
18a、18b 固定ボルト
19a、19b スプリング
20 吐出側リミットスイッチ作動板
21 第1の可変抵抗器
21a 回転軸
22 止めネジ
23 回転腕
24 通し棒
25 取付板
26 止め具
27 第2の可変抵抗器
28 調節ツマミ
29 過負荷表示ランプ
30 回路基板
31 ピン
32a、32b ボールベアリング
33a、33b 固定具
34 固定具
35a、35b、35c、35d ボルト
36a、36b ボルト
37 固定具
38 スペーサ
39 連結治具
40 ノズル
41 バッテリ
42、43、44、45 分岐点
46、47 モータの極
48、49、50 分岐点
51 OR回路
52 AND回路
53 タイマ回路
54 PWM回路
55、56、57,58 分岐点
59 緑色LED
60 赤色LED
61 分岐点
S1 切替えスイッチ
S1a、S1b リレースイッチ
S2 起動・停止スイッチ
RL1 リレー
PS1 ポリスイッチ
Tr1 スイッチングトランジスタ
Tr2 スイッチングトランジスタ
LS1 吸引側リミットスイッチ
LS2 吐出側リミットスイッチ
C1 コンデンサ
M 電動モータ
R1 第1の可変抵抗
R2 第2の可変抵抗
R3 抵抗
R4 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性材料の吸引および吐出を行なうための電動式吸引吐出装置であって、
該装置は、本体部とシリンダとからなり、
該本体部は、ロッドと、該ロッドに結合されたピストンと、該ロッドの移動を喚起する電動モータと、該電動モータに電源から電力を供給するための電気回路とを有し、
該電気回路は、論理回路と、タイマ回路と、コンデンサおよび抵抗からなる放電回路とを有し、
粘性材料の吐出動作を停止した時、該吐出動作が所定の時間を超えていた場合は、該ピストンが一定の時間τだけ吸引動作方向に移動し、該吐出動作が所定の時間以下であった場合は、該ピストンが吸引動作方向に移動することなく停止するように構成されていることを特徴とする、電動式吸引吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該本体部が、さらに該ロッドの中心軸まわりに回転可能に螺嵌したナットと、該ロッドが貫通するフレームを有し、
該電動モータが該ナットを回転させることにより該ロッドの移動を喚起し、該ロッドに設けたキー溝と、該フレームに設けたキーからなる回転拘束手段により、該ロッドが、自ら回転することなく、該ナットの回転方向に応じ、該ロッドの中心軸に沿って往復運動するように構成されている電動式吸引吐出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該本体部が、さらに吸引側および吐出側のリミットスイッチを備え、
吸引または吐出動作の間に該ピストンが所定の位置に到達した時、該吸引側または吐出側のリミットスイッチが作動して該電動モータの両極を直結する閉回路を形成することにより、該ピストンの移動が停止するように構成されている電動式吸引吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該吸引側のリミットスイッチが、該本体部に設けたキーとともに移動する該キーを固定する板と接触することにより作動し、該吐出側のリミットスイッチが、該ロッドに設けた作動板と接触することにより作動する電動式吸引吐出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該ピストンの移動速度が該本体部に設けた複数の可変抵抗器により調整される電動式吸引吐出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該複数の可変抵抗器が2個であり、一方の可変抵抗器の抵抗値が該本体部に設けたトリガの移動距離に応じて変化し、他方の可変抵抗器の抵抗値が該本体部のフレームに設けた調節ツマミの変位に応じて変化し、これにより該電動モータへの供給電力を変化させるように構成されている電動式吸引吐出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらにポリスイッチと過負荷表示部からなる過負荷防止回路を有する電動式吸引吐出装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動式吸引吐出装置であって、
該電気回路が、さらに電源として、該本体部に備えたニッケル水素電池を有する電動式吸引吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−12004(P2009−12004A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136334(P2008−136334)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(505199809)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】