説明

電動機

【課題】
樹脂製のフロントカバーを採用しながら導電性及び加工性を向上させて、電動機の重量を低減させる。
【解決手段】
筐体アース方式の電動機100は、カップ状に形成されたケース11と、このケースの開口部を覆うフロントカバー17と、ケース内に収容され巻線42を有する電機子43と、この電機子と対向しケースに収容される永久磁石16とを有している。さらに、端部にリア側転がり軸受34が、中間部にフロント側転がり軸受33が取り付けられ、電機子がこれら軸受間に固定して取りつけられた回転軸32も有している。フロントカバーを樹脂製とし、この樹脂製のフロントカバー内に巻線のアース側に電気的に接続されたアース板51と、巻線の正極側に電気的に接続された正極板71とを互いに電気的に絶縁して配置して、樹脂一体成形した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動機に係り、特に密閉型で筐体アース方式において好適なブラシ付き電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブラシ付き電動機の例が、特許文献1、2に記載されている。これらの公報に記載の電動機では、ロータ質量のアンバランスを修正できるように、またはロータシャフトを短くして軸線方向の寸法を縮小するために、ロータとステータとを有する電動機本体を、ほぼカップ状に形成された鋼製のケース内に収容し、このケースのフロント側開口部をフロントカバーが閉塞している。
【0003】
そして、フロントカバーの内側に、絶縁材料からなるブラシ保持プレートを固定し、このブラシ保持プレートに周方向に180度間隔を置いてブラシが保持されたブラシホルダ対を、このブラシホルダ対と周方向に90度間隔を置いて、ブラシが保持された他のブラシホルダ対を取り付けている。一方の対のブラシは、フロントカバーに電気的に接続され、他方の対のブラシはフロントカバーに保持された絶縁部材にインサートされた入力端子金具に電気的に接続されている。
【0004】
さらに、フロントカバーの中央部は、プレス等により折り曲げられた形状になっており、回転軸に取り付けた転がり軸受の外輪を保持している。一方、フロントカバーの外周部はケースの周壁部の開口側の端部内周に圧入された状態でケースに固定されている。
【0005】
従来のモータポンプ装置の例が、特許文献3に記載されている。この公報に記載のモータポンプは、車両のアンチロックシステムに用いるピストンポンプであり、モータ部は、筒状の外周壁とこの外周壁の両端部に設けた端壁とで構成されるポット状ケーシング内に、ロータと界磁石とを収容している。そして、一方の端壁は外周壁に対して、同心的に、ポンプの方向に突出する管状の軸受カラーを有している。この軸受カラー内には、軸受が半径方向及び軸方向で位置固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−119906号公報
【特許文献2】特開2007−236144号公報
【特許文献3】特開2000−130354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記いずれの特許文献においても、電動機が鋼製のポット状のケーシング内にロータと界磁石とを収容し、このケーシングの開口部を覆うように鉄または鋼製のフロントカバーを機械的に密着させている。そして、ロータを構成する巻線にブラシを介して電力を供給し、一方のブラシがフロントカバーに設けられフロントカバーから絶縁された取出し端子と電気的に接続されており、他方のブラシがフロントカバーに接続されることによりケーシングに電気的に接続されて、いわゆる筐体アースを形成している。
【0008】
これら特許文献に記載のものは、フロントカバーが導電性の鉄または鋼性である利点を利用しており、電気的接続の尤度が高い。しかしながら、一方では、鉄または鋼性であるため、重量が大きく、また回転軸または回転軸に取り付けた軸受との嵌合いの精度が要求され、加工工数が増大するという不具合が生じている。そのため、軽量化の観点から樹脂製のフロントカバーの採用が望まれているが、上述した嵌め合いの精度の確保や導電部の確保が困難であり、これまでフロントカバーを樹脂化することは採用されていなかった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は樹脂製のフロントカバーを採用しながら導電性及び加工性を向上させて、電動機の重量を低減させることにある。本発明の他の目的は、樹脂製のフロントカバーを採用しながら、電動機が高い組立精度を保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、カップ状に形成されたケースと、このケースの開口部を覆うフロントカバーと、前記ケース内に収容され巻線を有する電機子と、この電機子と対向し前記ケースに収容される永久磁石と、一端部に第1の軸受を、その中間部に第2の軸受が取り付けられ、前記電機子をこれら第1、第2の軸受間に固定して取りつけた回転軸とを有する筐体アース方式の電動機において、前記フロントカバーを樹脂製とし、この樹脂製のフロントカバー内に前記巻線のアース側に電気的に接続されたアース板と、前記巻線の正極側に電気的に接続された正極板とを互いに電気的に絶縁して配置して、樹脂一体成形したことを特徴とする。
【0011】
そしてこの特徴において、前記回転軸に整流子を取り付け、前記巻線と前記正極板とを電気的に接続する第1のブラシと、前記巻線と前記アース板とを電気的に接続する第2のブラシとを備えるのが好ましく、前記アース板の外周面は、前記フロントカバーから露出しているのが望ましい。また、前記フロントカバーの内周面に複数の突起を形成し、前記フロントカバーを前記第2の軸受の外輪と嵌合させる際に、前記突起を塑性変形させることが好ましく、前記フロントカバーの内周面と前記第2の軸受とは、この第2の軸受の軸方向に部分的に嵌合していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂製のフロントカバーにケーシングと接触可能なアース板をインサートさせたのでフロントカバーの導電性及び加工性が向上し、電動機の重量を低減させることができる。また、樹脂製のフロントカバーの回転軸または回転軸に保持した軸受との接触部塑性変形可能な形状としたので、電動機が高い組立精度を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るブラシ付き電動機の一実施例の縦断面図及び右側面図である。
【図2】図1に示した電動機が有するフロントカバーの斜視図である。
【図3】図2に示したフロントカバーにインサートしたアース板及び正極板の正面図である。
【図4】図1のA部の断面図及び拡大正面図である。
【図5】フロントカバーを作成する様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を、図面を用いて説明する。図1は本発明に係るブラシ付き電動機の一実施例の図であり、同図(a)はその縦断面図、同図(b)はその側面図である。この図1に示した電動機は、車両が備えるブレーキ装置のアンチロックシステム(ABS)に用いられるものであるが、本発明はABSに使用するものに限らない。
【0015】
ブラシ付き電動機100は、プレス加工等により鉄板をほぼカップ状に形成したケース(ヨーク)11の周壁部12には、この電動機100の界磁を構成する環状の永久磁石16が固定されている。そして、ケース11と永久磁石16とが、この電動機100の固定子を構成する。この永久磁石16と対向して、電機子43が配置されている。電機子43は、型抜きした珪素鋼板等を積層して形成された積層鋼板(コア)41と、この積層鋼板41に形成された凸極に巻回された巻線42とを有している。なお、積層鋼板41の外表面側はモールド樹脂によりモールドされ、絶縁性を確保している。
【0016】
巻線42が巻回された積層鋼板41は、回転軸32に取り付けられ、回転軸32の回転に伴い電動機100の一端側に取り付けられたポンプ95を回転駆動する。回転軸32の端部は、ケース11の底部(図1(a)では左端部)中央部にプレス加工等で形成したリア軸受保持部13に保持したリア側転がり軸受34に支持されている。ここで、リア軸受保持部13は、ケース11の内側に凸の形状に形成されている。
【0017】
巻線42に電力を供給するために、回転軸32には整流子22が取り付けられており、整流子22には2個のブラシ21が図示しないばね等により押圧されている。一方のブラシ21は、後述するフロントカバー17に取り付けた電源ライン25に電気的に接続されている。電源ライン25は、フロントカバー17の接続部82に取り付けた絶縁管83により、絶縁状態を保護される。他方のブラシ21は、ケース11に電気的に接続されている。
【0018】
ケース11の開口部は、フロントカバー17で覆われており、フロントカバー17はケース11に形成されたカシメ部19で周方向の複数個所がカシメ加工され、ケース11に保持される。フロントカバー17の中央部には、フロント側転がり軸受33を保持するための開口部が形成されており、回転軸32に固定されたフロント側転がり軸受33の一部を保持する。
【0019】
次に、本発明の特徴であるフロントカバー17の詳細を、図2ないし図5を用いて説明する。図2は、フロントカバー17の斜視図である。本発明では、フロントカバー17を従来の鉄板製から樹脂製に変更している。鉄板製のフロントカバーの場合、フロントカバーの重量が重く、また、成形加工にプレスを使用する限り、プレス加工の処理工数が多くなり、費用の増大の一因になっている。
【0020】
これらの不具合を解消するために、本発明ではフロントカバーを樹脂製としているが、そのため、通電経路の確保が必要になっている。これまで、フロントカバー17は巻線42のアース側の極に導通するブラシとの接続端子として利用されてきた。すなわち、フロントカバー17のケース10内側面の任意箇所に巻線42に導通するブラシの端子を接続し、巻線42のアース側に導通するブラシの端子は、フロントカバー17からフロントカバー17が直接接するケース11へと、通電経路を確保していた。本発明では、この経路を以下に示す方法で確保している。
【0021】
非導電性の樹脂製のフロントカバー17の軸方向中間部にアース極を形成するアース板51と正極板71とをインサートした。図3にアース板51と正極板71の詳細を示す。アース板51は導電性材料、具体的には銅板であり、円環の一部を取り去った円弧部52とこの円弧部の両端部及びほぼ中央部に形成した半径部54とを有している。
【0022】
アース板51の厚さtはt=2mm程度であり、半径部の幅wは通電量及びケース11との接触抵抗等を考慮して設定される。アース板51の半径部54の端面は、ケース11の内周面56との接触端面55となるので、ケース11のカシメ加工時に両面が接触するよう、アース板51の端部である接触端面55は樹脂製のフロントカバー17から露出している。なお、アース板51の円弧部52及び半径部54には、詳細を後述するインサート加工のための支持穴53が形成されている。
【0023】
フロントカバー17において、アース板51の円弧部が配置されていない周方向の部分には、正極板71が配置されている。正極板71はL字型の導電性材料、本実施例では銅板である。L字型の折れ曲がった立上部72は、矩形の底板部74の幅より狭い幅となっており、電源ライン25の電源線が接続可能になっている。この正極板71の底板部74にも、インサート加工のための支持穴73が形成されている。正極板71の厚さtは、アース板51の厚さとほぼ同じ厚さである。正極板71の立上部72が延びる方向と反対面には、電機子43の巻線42に導通するブラシ21と接続する図示しない線が接続される。
【0024】
ところで、フロントカバー17は電機子43の巻線42への通電経路のほかに、この電動機100の駆動対象であるポンプ本体95に位置決め・保持するのにも利用されている。つまり回転軸32は、図1に示すようにポンプ本体95側に延在しており、この回転軸32に取り付けたフロント側転がり軸受33の外輪がポンプ本体95の取り付け部に嵌合して、ポンプ本体95と電動機100が位置決めされる。それとともに、上述したように、フロントカバー17の中央部の内周面84もフロント側転がり軸受33の外輪に嵌合するようにしている。つまり、フロントカバー17は、フロント側転がり軸受33の軸方向の一部分でしか、嵌め合い状態にない。
【0025】
従来は、特許文献2に示すようにフロントカバー17の中心開口部を断面U字型に2重に折り曲げて、内側の開口部にフロント側転がり軸受33を、外側にポンプ本体95を嵌合させるようにしていた。または、特許文献1や特許文献3に示すように、フロントカバー17の中心部の開口部を一方側に突出させ、形成された凸部の内周側に転がり軸受33を、外周側にポンプ本体95を嵌合させるようにしていた。
【0026】
前者の場合には、開口部の内側も外側も最大でも数十μm程度の厳しい公差での加工となり、プレス加工でフロントカバーを加工するためには、精緻なプレス加工が必要となり工数が増大している。また、後者の場合には、フロントカバーの板厚が一定であれば、理論的には内径側の寸法公差を満足するようにプレス加工すれば外周側の寸法公差が満足されるはずであるが、元々一定の板厚の板をプレス加工したとしてもチャッキングや加圧力、ダイスの嵌まり具合等で板厚が数十μmオーダで変化することは十分に考えうることであり、これも加工に多大な時間や工数を必要としている。
【0027】
そこで本発明では、図4に示すように、フロントカバー17が樹脂性であることの特徴を利用して、樹脂で型成形して加工精度の均一化を図るとともに、それでも生じるおそれのある必要精度からの誤差は、フロントカバーの開口部の内周側84に複数の突起81を設け、この突起81を組立時に塑性変形させて回転軸32に取り付けたフロント側転がり軸受33の外輪に嵌合させている。
【0028】
これにより、回転軸32に過大な外力を加えることなく、電動機100とポンプ本体95との同心度を保って組み立てることが可能になる。この突起81の大きさは、内周面84からの高さhがh=0.4から1.0mm程度である。なお、本実施例では、ポンプ本体95がフロント側転がり軸受33に嵌合してこのフロント側転がり軸受33部で電動機100を片持ち支持する構造としたので、フロント側転がり軸受33及びリア側転がり軸受34部での組立誤差により発生する偏心力やポンプで発生する偏心力は、ポンプ本体95側で吸収でき、電動機100にこれらの偏心力で異常が発生するのを防止できる。
【0029】
次に、樹脂製のフロントカバー17への導電性アース板51及び正極板71のインサート加工方法を、図5を用いて説明する。図5は、樹脂加工装置の縦断面図である。樹脂加工装置は、フロントカバー17の上面(図1(a)の右側面)形状が形成された上型92と、フロントカバー17の下面(図1(a)では右側面の裏面)形状が形成された下型93とを、気密に組み合わせたものである。
【0030】
アース板51と正極板71とをこの上型92と下型93が形成する空間90の中間に保持するために、正極板71には、図3に示すように支持穴73が複数個所形成されている。同様に、アース板51にも支持穴53が複数個所形成されている。これらの支持穴53、73に対応する位置であって下型93に固定して、段付きの支持ピン94が配置されている。支持ピン94の端部から段付き部までを、正極板71及びアース板51の支持穴73、53に挿入することにより、アース板51及び正極板71は互いに接触することなく、上型92と下型93の形成する空間90内にほぼ水平に保持される。このときアース板51の端面55は、上型92または下型93に接触するようにしておく。次いで、成形する樹脂材料を、上型92に形成した注入口91から注入することにより、樹脂中へのインサート成形が実行される。これにより、フロントカバーと電極とが一体成形される。
【0031】
以上述べたように本実施例よれば、フロントカバーを樹脂成形し、この樹脂成形したフロントカバー内にアース板及び正極板をインサートするようにしたので、フロントカバーの加工工数が低減するとともに、フロントカバーの重量を低減でき、車両搭載時に要求される軽量化を実現できる。また、フロントカバーの中央部に突起を形成しこの突起を塑性変形させてフロントカバーの心出しをするようにしたので、電動機の回転軸や軸受等に偏心加重が付加されるのを低減できる。さらに、本実施例によれば、フロントカバーの加工においてプレス加工を省くことができ、電動機の取り付け部の加工精度を向上できる。
【符号の説明】
【0032】
11…ケース(ヨーク)、12…周壁部、13…リア軸受保持部、14…フランジ、15…ポンプ取り付け穴、16…永久磁石、17…フロントカバー、19…カシメ部21…ブラシ、22…整流子、25…電源ライン、32…回転軸、33…フロント側転がり軸受、34…リア側転がり軸受、41…積層鋼板、42…巻線、43…電機子、51…アース板、52…円弧部、53…支持穴、54…半径部、55…接触端面、56…内周面、57…内面部、71…正極板、72…立上部、73…支持穴、74…底板部、81…突起、82…接続部、83…絶縁管、84…内周面、91…注ぎ口、92…上型、93…下型、94…支持ピン、95…ポンプ本体、100…電動機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状に形成されたケースと、このケースの開口部を覆うフロントカバーと、前記ケース内に収容され巻線を有する電機子と、この電機子と対向し前記ケースに収容される永久磁石と、一端部に第1の軸受を、その中間部に第2の軸受が取り付けられ、前記電機子をこれら第1、第2の軸受間に固定して取りつけた回転軸とを有する筐体アース方式の電動機において、
前記フロントカバーを樹脂製とし、この樹脂製のフロントカバー内に前記巻線のアース側に電気的に接続されたアース板と、前記巻線の正極側に電気的に接続された正極板とを互いに電気的に絶縁して配置して、樹脂一体成形したことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記回転軸に整流子を取り付け、前記巻線と前記正極板とを電気的に接続する第1のブラシと、前記巻線と前記アース板とを電気的に接続する第2のブラシとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記アース板の外周面は、前記フロントカバーから露出していることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記フロントカバーの内周面に複数の突起を形成し、前記フロントカバーを前記第2の軸受の外輪と嵌合させる際に、前記突起を塑性変形させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
前記フロントカバーの内周面と前記第2の軸受とは、この第2の軸受の軸方向に部分的に嵌合していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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