説明

電子デバイス用基板の製造方法

【課題】透光性基板、散乱層、被覆層、透光性電極層が積層された電子デバイス用基板であり、散乱層界面での全反射を抑制することによって、光取り出し効率を高めることを目的とする
【解決手段】透光性基板、散乱層、被覆層、透光性電極層が積層された電子デバイス用基板の製造方法であって、
(a)透光性基板上に、散乱層の原料と、前記散乱層の原料の焼成温度で消失する球状樹脂との混合物を配置、焼成して散乱層を形成する工程、
(b)前記(a)工程で形成した前記散乱層上に被覆層の原料を配置、焼成して被覆層を形成する工程、
を有しており、前記透光性基板の屈折率が最も低く、散乱層、被覆層、透光性電極層の順に屈折率が高くなるように各層が構成されていることを特徴とする電子デバイス用基板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子などの電子デバイス用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、有機LED素子、無機EL素子など、新規発光デバイスの研究、開発が進められている。中でも、有機LED素子(Organic Light Emitting Diode)は次世代の発光素子の一つとして着目されている。これは、有機層を電極間に挟んだ構造を有しており、発光のメカニズムとしては、まず、電極間に電圧を印加することによって、それぞれの電極から正孔、電子を注入し、次いでこれらが有機層内で結合し、有機層内の発光材料を励起状態にする。その後、発光材料が励起状態から基底状態に至る過程で発生する光を取り出すものである。具体的な用途としては、ディスプレイやバックライト、照明などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、有機LED素子においては、素子自体の発光効率は向上しているものの、素子から外部に光を取り出す際に、光路上にある各部材の界面、例えば、素子と透光性電極、透明基板と空気等の界面で光が全反射されてしまい、外部取り出し効率が低下するため、その改善が求められていた。
【0004】
特許文献1においては、透光性基板上に、散乱層、被覆層を積層し、これらの層に散乱物質を所定の条件を満たすように配置することによって外部取り出し効率を最大で80%まで向上させる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/116531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、被覆層、散乱層の材料として透光性電極層4と同じかそれよりも大きな屈折率を有する材料を用いている。このため、散乱層よりも、散乱層上に設けられた透光性基板の屈折率のほうが小さくなる。従って、材料の組み合わせ、光の入射角によっては、両者の界面で全反射が生じてしまう。その結果デバイス内で多重反射が生じ、蛍光体の材料によってはその光を吸収してしまうため、外部取り出し効率が十分に大きくできない場合があった。
【0007】
本発明は上記従来技術が有する問題に鑑み、発光素子などの電子デバイス用基板において、光取り出し効率を高めることができる電子デバイス用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、透光性基板、散乱層、被覆層、透光性電極層が積層された電子デバイス用基板の製造方法であって、
(a)透光性基板上に、散乱層の原料と、前記散乱層の原料の焼成温度で消失する球状樹脂との混合物を配置、焼成して散乱層を形成する工程、
(b)前記(a)工程で形成した前記散乱層上に被覆層の原料を配置、焼成して被覆層を形成する工程、
を有しており、前記透光性基板の屈折率が最も低く、散乱層、被覆層、透光性電極層の順に屈折率が高くなるように各層が構成されていることを特徴とする電子デバイス用基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によって得られた電子デバイス用基板においては、被覆層の下面に凸レンズ形状の突起物を有しているため、被覆層から散乱層に光が透過しやすくなり、発光層からの光取り出し効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る電子用デバイス基板の説明図
【図2】本発明に係る電子用デバイス基板の被覆層、散乱層部分の説明図
【図3】本発明に係る第1の実施形態の説明図
【図4】本発明に係る第2の実施形態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0012】
まず、本発明に係る電子デバイス用基板の製造方法によって得られる電子デバイス用基板の構成について図1を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の製造方法によって得られる電子デバイス用基板の断面図を示しており、図中、最下部から順に、透光性基板1、散乱層2、被覆層3、透光性電極層4が積層された構造を有している。そして、透光性基板1の屈折率が最も低く、散乱層2、被覆層3、透光性電極層4の順に屈折率が高くなるように各層の材料が選択されている。なお、例えば有機LED素子に使用する場合には、図中の透光性電極層4上にさらに、有機LED素子層、陰極が積層されることとなる。
【0014】
そして、図1に示すように、被覆層3は、その下面に半球形状の突起物を有している。すなわち、被覆層3の下面に、散乱層2に向かって、マイクロレンズアレイのように凸レンズ形状(半球形状)の突起物が配置された形状となっている。また、散乱層2は前記被覆層3と嵌合(受容)するように、その表面に凹形状を有している。このため、本発明の電子デバイス用基板は、散乱層2と被覆層3の界面に連続した曲面による凹凸形状が形成されている。なお、半球形状の突起物は図1に示すように規則的に配置している場合に限定されるものではなく、ランダムに配置することもできる。また、大きさについても一律なものとする必要はなく、設置する数も限定されるものではない。
【0015】
係る構成とすることによる効果を、図2を用いて説明する。図2(A)、(B)は共に、散乱層2と被覆層3及びその界面の部分を拡大して示したものである。図2(A)は参考例として示したものであり、散乱層2と被覆層3が接している界面部分が平面形状の場合を示している。
【0016】
上記のように散乱層2のほうが、被覆層3よりも屈折率が低くなっている。そして、本発明の電子デバイス用基板においては、透光性電極層4上に発光素子が設けられ、透光性基板1側に光を取り出す構成となっている。このため、光は、被覆層3から、散乱層2に進むこととなる。すなわち、屈折率が大きい物質から、屈折率の小さい物質へ進むこととなる。この場合、被覆層3と散乱層2の界面で、光の入射角が臨界角よりも大きいと、入射光が被覆層3と散乱層2の界面を透過せず、全て反射されてしまう全反射が起こる。ここで、臨界角はスネルの法則により導くことができ、具体的には以下の式で表される。
【0017】
θ=sin−1(n/n
式中、θが臨界角、n、nが屈折率(n>n)を表わしている。この式によれば、界面を形成する隣接する2層の屈折率によって臨界角が決まっており、図2(A)のように、臨界角よりも大きな入射角c1で入射した光a1はその界面を透過せずにb1に示すように全反射することになる。これに対して、本発明の場合、被覆層3の下に凸状の半球を複数個設けているため、界面部分に凹凸形状を有しており、図2(B)に示すように、界面が入射光に対して様々な角度で存在している。このため、例えば、水平面に対して図2(A)の場合と同じ角度を有する入射光a2であったとしても、界面との関係でその入射角c2は臨界角を超えておらず、b2に示すように透過できることとなる。
【0018】
さらに、本発明の電子デバイス用基板は、上記のように、発光素子側である透光性電極層4から、光取り出し面側の透光性基板1に向かって屈折率が層毎に漸次低減するように構成されている。この場合、隣接する層間の屈折率の差が小さくなり、各層の境界面での全反射を抑制し、光取り出し効率の向上を図ることができる。なお、散乱層2、被覆層3はそれぞれ複数の層からなることも可能である。ただし、例えば散乱層が複数の層から構成される場合でも、透光性電極側から透光性基板側にいくに従い、散乱層毎に順番に屈折率が漸次低減するようにするように構成されていることが好ましく、同様のことが被覆層についてもいえる。
【0019】
以上のように、本発明で得られる電子デバイス用基板を用いた場合、各層の界面での全反射を低減できるため、光取り出し効率を向上させることができる。
【0020】
上記構成を有する電子デバイス用基板の具体的な製造方法について、以下の2つの実施形態で詳述する。
【0021】
[第1の実施形態]
まず、図3(A)にあるように透光性基板1を用意する。透光性基板1としては、可視光に対する透過率が高い材料が用いられる。透過率の高い材料として具体的には、ガラス基板やプラスチック基板が挙げられる。ガラス基板の材料としては、アルカリガラス、無アルカリガラス又は石英ガラスなどの無機ガラスがある。
【0022】
またプラスチック基板の材料としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ならびにポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有ポリマーが挙げられる。
【0023】
透光性基板1の厚さは、デバイスを保護するため、十分な強度をもつように選択されていれば足りる。具体的には例えばガラスを用いた場合、0.1mm〜2.0mmが好ましい。ただし薄すぎると強度が落ちること、厚すぎるとデバイスの大きさが大きくなり使用場所が限定されること、重量が大きくなり使いにくくなることから、0.5〜1.0mmであることが特に好ましい。また、透光性基板は後述するように、その表面にバリア層を有することもできる。
【0024】
なお、散乱層2はガラスフリットを用いて作製するため、歪みの問題等が生じる場合がある。このため、透光性基板1の熱膨張係数は50×10−7/℃以上が好ましい。更に好ましくは70×10−7/℃以上であり、より好ましくは80×10−7/℃以上である。また、これに合わせて、散乱層としては、100〜400℃における平均熱膨張係数が70〜95×10−7/℃であり、かつガラス転移温度が450〜550℃であることが好ましい。
【0025】
次いで、図3(B)にあるように、透光性基板1上に、散乱層2の原料と、前記散乱層2の原料の焼成温度で消失する球状樹脂5との混合物を配置、焼成して散乱層2を形成する。
【0026】
ここで、散乱層2としては、光透過率が高い材料が使われる。さらに屈折率についても、透光性基板1よりも高く、被覆層3よりも低い材料(ベース材)が用いられる。具体的な屈折率については限定されるものではないが、例えば、一般的に用いられる透光性電極のITOの屈折率が1.8〜2.0程度であり、透光性基板としてガラス基板を用いた場合、その屈折率は1.5程度であるから、係る組み合わせの場合、散乱層2の屈折率は1.5〜2.0の範囲であることが好ましい。さらには、ガラス基板の屈折率に近い1.5〜1.7の材料を用いることが好ましい。
【0027】
具体的なベース材としては、ガラス、結晶化ガラスが挙げられる。ガラスの材料としては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどの無機ガラスがある。ガラス組成については所望の屈折率を有していれば特に限定されるものではない。具体的には例えば、Si−B系ガラス、Bi系ガラス、Pb系ガラス、La−Ti系ガラスが挙げられる。例示すると、酸化物基準のモル%表示で、SiOを62%、Bを10%、ZnOを11%、LiOを4%、NaOを3%、KOを6%、BaOを1%、Alを3%含有するガラスである。このガラスは、100〜400℃における平均熱膨張係数は75×10−7/℃であり、かつガラス転移温度が505℃、屈折率n=1.53である。基板材がソーダライムガラスの場合屈折率n=1.52であり、基板材との間で、屈折率差が非常に小さいガラスである。更に例示すると、酸化物基準のモル%表示で、SiOを21%、Bを31%、ZnOを2%、LiOを16%、MgOを9%、CaOを5%、BaOを2%、Alを14%含有するガラスである。100〜400℃における平均熱膨張係数は75×10−7/℃であり、かつガラス転移温度が495℃、屈折率n=1.58である。更に例示すると、酸化物基準のモル%表示で、SiOを15%、Bを31%、ZnOを34%、BaOを11%、Biを9%含有するガラスである。100〜400℃における平均熱膨張係数は76×10−7/℃であり、かつガラス転移温度が490℃、屈折率n=1.80である。
【0028】
また、散乱層2の原料の焼成温度で消失する球状樹脂5としては、その気化、消失する温度、例えば、沸点、昇華点や分解温度が室温より高く、散乱層の焼成温度以下の樹脂であればあらゆるものが使用できる。例えば、散乱層を600℃で焼成して形成する場合、室温〜600℃で気化、消失するものであればよく、500〜600℃で気化、消失するものがより好ましい。例えば、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂などが使用できる。そして、球状樹脂5の大きさとしては限定されるものではないが、透光性基板1上にペーストを塗布する都合上、その直径が散乱層2の厚さよりも小さいことが好ましい。散乱層は10〜100μmの厚さとすることが好ましいため、球状樹脂の大きさについても係る範囲内であることが好ましい。なお、球状樹脂5の形状としては、真球もしくはそれに近い形状であることが好ましいが、少なくとも球面を有するものであれば足りる。
【0029】
そして、散乱層2はフリットペースト法により作製する。具体的には、まず、ベース材である粒径が1〜10μmのガラス粉末を樹脂、界面活性剤、溶剤、フィラー等と混合し、均一に分散させることによってフリットペースト化する。本実施形態ではこれに更に球状樹脂5を加えよく混合する。その後、塗布、印刷などによって、作製したフリットペーストを透光性基板1上に配置し、所望の温度(例えば、530℃〜600℃)で焼成することで散乱層2を形成する。
【0030】
この工程によって、散乱層2が形成される。そして、予め散乱層に添加しておいた球状樹脂5は、焼成工程で消失しているため、図3(C)のように、散乱層表面には略半球形状の凹凸が生じる。
【0031】
なお、散乱層2には散乱物質を添加することができる。散乱物質を散乱層に添加することによって、散乱物質表面でも光を散乱し、その角度が変わるため、外部取り出し効率を高めることができる。散乱層3から基板4に向かう光の多くが、散乱層3と基板4との界面で全反射される角度をもつが、散乱物質表面で散乱され、一部は、界面で全反射されずに通過できる角度に変えられるため、外部取り出し効率を高めることが期待できる。さらに、基板4から外部空気層に向かう光が、基板4と外部空気層との界面で全反射される光も散乱物質表面で散乱され、一部は、基板4と外部空気層界面で全反射されずに通過できる角度に変えられるため、外部取り出し効率を高めることが期待できる。この散乱による光の進行方向を変える効果は、光が減衰するまで、多重反射と多重散乱が繰り返されるため結果的に、外部出射できる進行角度を持つ光を増やすことができる。この点について以下に説明する。
【0032】
散乱物質としては、気泡、析出結晶、ベース材とは異なる材料粒子、分相ガラスを挙げることができる。ここで、気泡とは、空気もしくはガスがベース材中に分散して存在しているものをいう。また、粒子とは固体の小さな物質をいい、例えばフィラーやセラミックスがある。また、分相ガラスとは、2種類以上のガラス層により構成されるガラスをいう。
【0033】
散乱物質の具体的な添加方法について以下に説明する。
【0034】
まず、散乱物質として気泡を用いた場合を説明する。本実施形態では、散乱層を形成する際にフリットペースト法を使用しているため、焼成条件を調整することによって、散乱層内に気泡からなる散乱物質を含有させることができる。具体的には、基板上に配置したガラス粒子を加熱していくと、まず、ガラスの粒子同士が融着し始める。ガラス粒子同士が融着すると、ガラス粒子間に存在した隙間はガラスが軟化することで変形し、ガラス中に閉空間を形成する。更に温度を上げていくとガラスの軟化、流動が進み、前記閉空間は球形の気泡となる。また、隙間によるものだけではなく、加熱中に発生したガスも気泡となってガラス中に存在することがある。なお、ガラス最表面では、ガラスが軟化しているため、ガラス粒子の隙間に起因する凹みは平滑化されていく。ガラスの粘度は、軟化温度で107.6ポアズ程度と高いため、気泡の大きさが数μm以下であれば浮上せず層内に留まる。従って、小さな気泡を発生させるように材料組成を調整するとともに、焼成条件を選択することによって、層表面の平滑性、層内の散乱物質の分布の程度を調整することができる。
【0035】
次に、散乱物質として析出結晶を用いた場合を説明する。これは、散乱層を作製する際に結晶化しやすいガラスを原料として用いることによって、ガラス層内部に結晶を析出させる方法である。このときの結晶のサイズが0.1μm以上であれば、散乱物質として機能することができる。このため、焼成条件を適切に選択することによって、層表面での結晶の析出を抑制しつつも、層内に結晶を析出させることが可能となる。具体的にはガラス転移温度よりも60℃〜100℃程度高い温度で焼成することが考えられる。温度が高すぎる場合には、ガラス層最表面でも結晶が析出してしまい、最表面の平滑性が損なわれてしまうため、好ましくない。従って、焼成温度はガラス転移温度よりも60〜80℃高くすることがより好ましく、60〜70℃とすることが更に好ましい。このような手法により、ガラス相中に、気泡や析出結晶を散乱物質として存在させつつも、ガラス最表面ではそれらの発生を抑制することができる。
【0036】
また、ベース材とは異なる材料粒子等を散乱物質として用いる場合には、散乱層の原料中にこれらの材料を予め添加し散乱層を形成することによって、散乱物質を有する散乱層を形成することができる。具体的には、酸化物、酸窒化物、窒化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物などの無機蛍光体粉末等を散乱物質として使用することができる
ここで、散乱物質は、ベース材の屈折率との差(Δn)が、少なくとも発光層の発光スペクトル範囲における一部分において0.2以上になるように選択することが好ましい。特に、十分な散乱特性を得るために、屈折率の差(Δn)は、発光スペクトル範囲全域(430nm〜650nm)若しくは可視光の波長範囲全域(360nm〜830nm)に亘って0.2以上であることがより好ましい。
【0037】
散乱層内に散乱物質を具備する場合、散乱層内におけるその分布は、散乱層内部から最表面に向かって小さくなっていることが好ましい。これは、散乱層の最表面側に散乱物質が存在すると、散乱層の表面に凹凸が生じやすくなるためである。
【0038】
また、散乱層2は上記のように透光性基板1に直接形成されることが好ましい。しかしながら、透光性基板1として、アルカリ成分を含有するガラス基板を用いた場合、ガラス基板中のアルカリ成分が拡散し、散乱層内の散乱物質等の特性に影響を与える場合がある。そのため、透光性基板1と散乱層2との間に1層以上からなるバリア層を形成してもいい。バリア層としては、酸化珪素膜や窒化珪素膜、酸化インジウム膜等のように酸素、珪素の少なくともどちらか一方を含む薄膜が好ましい。この場合、バリア層はその屈折率が散乱層2と透光性基板1の間の値になるように選択することが好ましい。バリア層は、特にアルカリ成分を含有するガラスフリットのペーストを用いて、焼成膜を作製する時に、ガラス基板のアルカリ成分が焼成膜層との間で、相互拡散する事を抑制することに効果が期待できる。
【0039】
ここで、図3(D)にあるように、前工程で形成した前記散乱層2上に被覆層原料を配置、焼成して被覆層3を形成する。被覆層3も散乱層2と同様にフリットペースト法で形成することが好ましい。その際のベース材としては散乱層2と同様にガラス、結晶化ガラスが使用できるが、屈折率が散乱層2よりも高く、透光性電極層4よりも低い材料を選択する必要がある。なお、被覆層3についても、具体的な屈折率については限定されるものではないが、例えば、一般的に用いられる透光性電極のITOの屈折率が1.8〜2.0程度であり、透光性基板としてガラス基板を用いた場合、その屈折率が1.5程度であるから、係る組み合わせの場合、被覆層3の屈折率は1.5〜2.0の範囲であることが好ましい。さらには、透光性電極層の屈折率に近い1.8〜2.0の材料を用いることが好ましい。例示すると、ガラスビーズの場合、酸化物基準のモル%表示で、TiOを50%、BaOを26%、ZnOを12%、CaOを5%、Alを2%含有するガラスビーズである。このガラスは屈折率n=1.93である。更に例示すると、ジルコン(ZrSiO)セラミックビースが挙げられる。このセラミックスビーズは屈折率n=2.0である。
被覆層3を形成する際に、前記散乱層2表面に形成した略半球状の凹凸内に、被覆層の原料が充填されるため、その下面に半球状の突起物を有する被覆層3が得られる。なお、被覆層3の厚みとしては、10〜30μmとすることが好ましい。
【0040】
なお、前述した散乱物質は被覆層3中にも配置することができる。ただし、被覆層3は透光性電極層4と接しているため、その表面からは散乱物質が突出していることは好ましくない。つまり、散乱物質は、被覆層3内部に存在し、かつ前記透光性電極層4と接する被覆層の表面には存在しないことが好ましい。これは、被覆層3表面から散乱物質が突出していると、その上面に透光性電極層4を形成した時に電極間の短絡を生じる恐れがあるためである。また、被覆層表面が平滑でないと、平坦な透光性電極層4を作製することができないためでもある。このため、被覆層3に散乱物質を配置する場合には、散乱物質として、気泡を用いることが好ましく、散乱物質は被覆層3の主表面から0.2μm以内に存在していないことが好ましい。さらに、透光性電極層4と接している被覆層3の表面のJIS B0601−1994に規定される算術平均粗さ(Ra)は30nm以下が好ましく、10nm以下であることがより好ましく、1nm以下が特に望ましい。なお、散乱物質は散乱層2に添加したのと同様の方法によって、被覆層3内に添加することができる。
【0041】
その後、図3(E)にあるように、さらに透光性電極層4を形成することによって、電子デバイス用基板が得られる。
【0042】
透光性電極層4は、これに隣接する有機LED層等の発光層で発生した光を外部に取り出す必要があるため、80%以上の透光性が要求される。また、多くの正孔を注入するため、仕事関数が高いものが要求される。具体的にはITO(Indium Tin Oxide)、SnO、ZnO、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al:アルミニウムをドープした亜鉛酸化物)、GZO(ZnO−Ga:ガリウムがドープされた亜鉛酸化物)NbドープTiO、TaドープTiOなどの材料が用いられる。透光性電極層4の厚さは、100nm以上であることが好ましい。
【0043】
透光性電極層4の形成方法としては、まず、基板上にITOを成膜して、そのITO膜にエッチングを施すことによって形成する。ITOはスパッタや蒸着等によって、被覆層を形成した後の透光性基板全体に均一性良く成膜することができる。成膜したITO膜について、フォトリソグラフィー及びエッチングによりITOパターンを形成する。このITOパターンが透光性電極層4となる。なお、フォトリソグラフィーの際に、レジストとして、例えばフェノールノボラック樹脂を使用することができる。また、エッチングはウェットエッチング、ドライエッチングいずれでも良いが、例えば、塩酸と硝酸の混合水溶液を用いて行うことができる。さらに、レジスト剥離剤としては、例えばモノエタノールアミンを使用することができる。
【0044】
以上のように、本発明の電子デバイス用基板の製造方法によれば、散乱層と被覆層との間の界面に半球状の凹凸を容易に作成することが可能であり、それにより得られた電子デバイス用基板は散乱層間の全反射を抑制し、光の外部取り出し効率を高めることができる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態を、図4を用いて説明する。
【0045】
まず、図4(A)にあるように透光性基板1を用意する。透光性基板1としては、第1の実施形態と同様の条件のものを使用することができる。
【0046】
次いで、図4(B)にあるように、透光性基板1上に、散乱層2の原料と、被覆層3と略同一の屈折率を有する透光性球状体6との混合物を配置、焼成して透光性球状体6を含む散乱層2を形成する。
【0047】
ここで、散乱層2は、第1の実施の態様と同様の材料を用い、同様にフリットペースト法によって作製できる。
【0048】
被覆層3と略同一の屈折率を有する透光性球状体6は所定の屈折率を有し、可視光に対する透過率が高い材料が用いられる。具体的には、球状のガラス、結晶化ガラスや透光性セラミックスが挙げられる。ガラスの材料としては、散乱層2のベース材と同様の各種材料が使用できる。被覆層3のベース材と同じ材料でできているものを使用することが好ましい。
また、透光性球状体6の粒径は、散乱層2の厚さよりも小さいものであることが好ましい。散乱層2の厚さとしては、10〜100μmであることが好ましいから、これに合わせて、透光性球状体6の粒径を選択することができる。透光性球状体6の形状としては、真球もしくはそれに近い形状であることが好ましいが、少なくとも一部に球面を有するものであれば足りる。
【0049】
透光性球状体6の屈折率としては、被覆層3の屈折率と略同一である。係る屈折率は、散乱層2の屈折率以上、被覆層3の屈折率以下であれば許容される。特に、被覆層3の屈折率との差が0.1の範囲であることが好ましく、被覆層3の屈折率と同一であることがより好ましい。
【0050】
この工程の後に、透光性球状体6を含む散乱層2の表面を研磨する工程を行うことができる。係る工程を行うことによって、散乱層2表面に突出した透光性球状体6を研削し、その表面を平坦にできるため、被覆層3を形成しやすくなる。また、研削の程度を調整することによって、散乱層2表面に出ている透光性球状体6の数等を調整できるので、被覆層3と透光性球状体6とが接着しやすくなり好ましい。
【0051】
次いで、図4(C)にあるように、透光性球状体6を含む散乱層2上に被覆層原料を配置、焼成して被覆層を形成する。この工程によって、散乱層2の表面又はその近傍に存在する透光性球状体6が、被覆層3と接着、接合する。このため、被覆層3の下面に半球状の突起物を形成できる。被覆層3は第1の実施態様の場合と同じくフリットペースト法によって、同様のベース材を用いて作製することができる。なお、その厚さについても、第1の実施形態の場合と同様に10〜30μmとすることが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、散乱層2、被覆層3内に散乱物質を添加することができる。
【0053】
その後、図4(D)にあるように、さらに透光性電極層4を形成することによって、電子デバイス用基板が得られる。
【0054】
透光性電極層4についても、第1の実施形態と同様の材料を用い、同様の方法で作製することができる。
【0055】
以上のように、本発明の電子デバイス用基板の製造方法によれば、散乱層間の界面に半球状の凹凸を容易に作成することが可能であり、それにより得られた電子デバイス用基板は散乱層2と被覆層3との界面での全反射を抑制し、光の外部取り出し効率を高めることができる。
【0056】
以上、実施の形態を挙げながら説明を行ったが、本発明の製造方法によって得られる電子デバイス用基板は、透光性電極層4上にさらに有機LED素子、無機LED素子等を配置し使用するものであり、これらの用途で有用に使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 透光性基板
2 散乱層
3 被覆層
4 透光性電極層
5 球状樹脂
6 透光性球状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板、散乱層、被覆層、透光性電極層が積層された電子デバイス用基板の製造方法であって、
(a)透光性基板上に、散乱層の原料と、前記散乱層の原料の焼成温度で消失する球状樹脂との混合物を配置、焼成して散乱層を形成する工程、
(b)前記(a)工程で形成した前記散乱層上に被覆層の原料を配置、焼成して被覆層を形成する工程、
を有しており、前記透光性基板の屈折率が最も低く、散乱層、被覆層、透光性電極層の順に屈折率が高くなるように各層が構成されていることを特徴とする電子デバイス用基板の製造方法。
【請求項2】
透光性基板、散乱層、被覆層、透光性電極層が積層された電子デバイス用基板の製造方法であって、
(a)透光性基板上に、散乱層の原料と、被覆層と略同一の屈折率を有する透光性球状体との混合物を配置、焼成する工程、
(b)前記(a)工程で形成した透光性球状体を含む散乱層上に被覆層原料を配置、焼成して被覆層を形成する工程、
を有しており、前記透光性基板の屈折率が最も低く、散乱層、被覆層、透光性電極層の順に屈折率が高くなるように各層が構成されていることを特徴とする電子デバイス用基板の製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程の後、(b)工程の前に、透光性球状体を含む散乱層の表面を研磨する工程を有することを特徴とする、請求項2記載の電子デバイス用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−109923(P2013−109923A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253087(P2011−253087)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】