説明

電子機器の冷却装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子機器の冷却装置に係り、特にヒートパイプを用いてプリント基板を冷却するようにした電子機器の冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器、例えばICテスタのテストヘッドのある種のものでは、コンパクト化のために多数のプリント基板が放射状に配列されている。このように放射状配列のプリント基板を冷却するものとして、液冷式のものが考えられている。
【0003】これはプリント基板に液路を備えた放熱板を取り付け、この放熱板の液路にカプラを介して外部液冷管を連結し、外部から放熱板に液体を流すことによりプリント基板を冷却しようとするものである。
【0004】しかしながら、上述した液冷式の冷却装置には次のような欠点があった。
【0005】(1) 基板に取り付けた放熱板の液路と外部液冷管とを連結するためにカプラを抜き差しするが、このとき管路から液体を排除しても完全には除去しきれず、前回使用した液体が管路内に若干残るため、多少の液漏れが避けられなかった。
【0006】(2) 多数の基板にそれぞれ取り付けられた放熱板の液路と外部液冷管とを連結するために、1個づつカプラを装着してゆく必要があるが、プリント基板の枚数の増加に伴ってカプラ個数も多くなり手数がかかる。特にプリント基板が両面実装型であると、カプラ個数が倍になるため、そのおそれはさらに高くなる。また、カプラを装着し忘れるおそれもあり、装着し忘れたまま液体を流すと致命的な事故に繋がる。
【0007】(3) 基板に取り付けた放熱板に液体が流れているために、液漏れがあった場合、その対応が困難であり、最悪の場合、致命的な事故に繋がる。
【0008】そこで、本発明者等は、先に、液冷方式に代わりヒートパイプ方式を採用することによって、プリント基板交換時の着脱が容易で液漏れのおそれのない安全な電子機器の冷却装置を提案した(特願平6−278760号明細書)。
【0009】これは図5に示すように、複数のプリント基板3に各プリント基板3を覆うように面状のヒートパイプ5を取り付け、冷却液の循環によって冷却される冷却板8を各ヒートパイプ5の放熱部7に近接して設ける。そして各冷却板8間にくさび形金具25を進退自在に設け、その進入方向に向かって漸次縮径して形成し、これを進入方向に移動することによりヒートパイプ5の放熱部7に冷却板8を押圧して密接させるようにしたものである。
【0010】これによればプリント基板3上は作動液がクローズしたヒートパイプ5で覆われているので、プリント基板3上での液漏れはない。また、プリント基板3の端部で冷却液が折り返し循環しているため、冷却液の液漏れ事故が仮に起きても、その事故はプリント基板3の端部外方にとどまり、しかもヒートパイプの放熱部を突出させて発熱部品から離しておけば致命的とはならない。
【0011】また、各くさび形金具25を進入方向に同時に移動すると、冷却板8のヒートパイプ5への取付が一括して行えるため、プリント基板交換時の着脱が容易となる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】ヒートパイプ方式を採用する場合に、いかにして冷却板をヒートパイプの放熱部に取り付けるかが、その成否を決定する重要な要素となるが、上述した従来技術では、次に掲げるように、まだ改善の余地がある。
【0013】(1) くさび形金具25を進入方向に移動して、ヒートパイプ5の放熱部7がくさび形金具25の進入方向に直交する方向に押されて冷却板8に密着するようにしたので、冷却板8の密着時にヒートパイプ5に直接大きな力が加わり、特に面状で厚さの薄いヒートパイプ5に変形を生じさせる場合がある。
【0014】(2) 各冷却板8をホルダ26に取り付け、ホルダ26を移動することにより全ての冷却板8を各ヒートパイプ5に一括して密着させる機構であるため、個々に密着度を調整することは難しく、したがって各ヒートパイプ5と各冷却板8とを均一に接触させることが困難となり、プリント基板3間で冷却が不均一になる。
【0015】(3) くさび形金具25を使って各冷却板8をヒートパイプ5に一括して密着させるようにしてあるために、大きな力が必要となり機構も複雑となる。
【0016】本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、ヒートパイプに変形を生じさせず、各ヒートパイプと冷却板との間に密着度のばらつきの生じない構造が簡単な電子機器の冷却装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の電子機器の冷却装置は、ほぼ平行に隣接させて配列された複数のプリント基板に、各プリント基板を覆うように取り付けられ、各プリント基板上に実装された発熱部品に生じる熱を受熱部より放熱部に伝える面状のヒートパイプと、各ヒートパイプの放熱部に一体的に設けられた冷却板取付用のブロックと、各ブロックに着脱自在に取り付けられ、装着時にブロックを冷却してヒートパイプの放熱部からブロックに伝えられる熱を吸熱する冷却板と、各ブロックに各冷却板を着脱自在に取り付ける取付手段とを備えたものである。
【0018】本発明のように、プリント基板上に実装された発熱部品の冷却に、作動液が密閉されて液路がクローズしているヒートパイプを使用すると、作動液が漏洩することがないので、プリント基板を覆うように取り付けられた放熱板に外部から液体を循環させる液路がオープンしている液冷式のものに比して、発熱部品上での漏洩事故のおそれがなく、非常に安全で、信頼性に優れる。また、各ヒートパイプの放熱部に冷却板取付用ブロックを一体的に設けたので、ヒートパイプの放熱部からの熱を吸熱する冷却板を、ヒートパイプ側に容易に取り付けることができる。また、冷却板がブロックと密着するように取り付けられると、ヒートパイプの放熱部からの熱をブロックを介して効率よく冷却板に吸熱させることができる。さらに、冷却板をブロックに着脱自在に取り付けるようにしてあるので、ヒートプレートの保守・点検が容易である。
【0019】上記した本発明において、上記取付手段を、ブロックまたは冷却板のいずれか一方に設けられたバナナジャックと、ブロックまたは冷却板のいずれか他方に設けられ、バナナジャックが挿入される挿入孔とから構成したり、またはブロックと冷却板とを互いに締めつける締具から構成したり、さらには、ねじ止め手段で構成したりすることができる。
【0020】取付手段をバナナジャック型とした場合にはブロックに対する冷却板の着脱が少ない力で容易にでき、また締具とした場合にはワンタッチでブロックに対する冷却板の着脱ができ、さらにねじ止め手段とした場合にはブロックと冷却板の密着度をより確実にすることができる。
【0021】また、上記各冷却板に冷却用の液体を供給する液体通路を設け、この液体通路には主管に接続した分配支管を通じて冷却用の液体を供給し、各冷却板の液体通路を流れた冷却処理後の液体を上記主管に接続した集合支管を通じて戻すように構成するとともに、上記分配支管及び集合支管をフレキシブルチューブで構成することができる。
【0022】両支管をフレキシブルチューブで構成した場合には、冷却板の位置・姿勢を自由に変えることができるので、ブロックに対する冷却板の着脱が容易になる。
【0023】
【発明の実施の形態】以下に本発明の電子機器の冷却装置を、ICテスタのテストヘッドに適用した第1の実施の形態について説明する。
【0024】図2はテストヘッド部分の全体構成を示す。図示のように、テストヘッド1の中央には、上下に貫通する顕微鏡用の穴を形成する円筒体2が設けられる。円筒体2の外周には、放射状に多数のプリント基板3が立設して配列されている。プリント基板3の下端は図示省略のマザーボードのコネクタに差し込まれて接続される。各プリント基板3にはLSI等の発熱電子部品4が搭載されており、これら発熱電子部品4を覆うように面状のヒートパイプ5が各プリント基板3に取り付けられている。プリント基板3は両面実装のものであり、面状のヒートパイプ5がプリント基板3をサンドイッチするようにその両面に取り付けられる。
【0025】発熱電子部品4の熱を吸収するヒートパイプ5の受熱部6は、プリント基板3の外側上方から内側下方に円弧状に延びた板状体をしている。円弧状としたのは、プリント基板3上の発熱電子部品4が円弧状配列になっているからである。また、受熱部6で吸収した熱を放出するヒートパイプ5の放熱部7は、プリント基板3の端部上方に位置している。このプリント基板3の端部上方に位置したヒートパイプ5の放熱部7に、後述する冷却板8を取り付けるためのブロック9がろう付け等の手段により一体的に取り付けられ、受熱部6で吸収した発熱電子部品4の熱は放熱部7からブロック9を介して放熱されるようになっている。ヒートパイプ5内には受熱部6と放熱部7との間を作動液が環流する閉ループの液路が多数形成されている。
【0026】プリント基板3の外側には、各プリント基板3の両面に取り付けられたヒートパイプ5のブロック9に着脱自在に取付けられる冷却板8が設けられる。冷却板8の内部には液体通路が設けられ、この液体通路に冷却用の液体が供給されることによりブロック9を冷却し、ヒートパイプ5の放熱部7からブロック9に伝えられる熱を吸熱する。各冷却板8は、プリント基板3の下方にプリント基板3の外周を囲むようにして配設され、各冷却板8に冷却水を供給する主管10に取り付けられる。主管10内には、冷却水分配用の管路11と冷却処理後の冷却水集合用の管路12とが形成されている。分配用の管路11は、主管10を約一周した後、Uターンして集合用の管路12に接続され、管路12は管路11に沿って再び戻るように配設されている。冷却水は、分配部の管路11に接続された各支管13より各冷却板8に供給され、冷却処理後の水が各冷却板8の支管14より集合部の管路12に戻されて排出されるようになっている。支管13、14はフレキシブルチューブで構成され、冷却板8の位置・姿勢を自由に変えることができるようになっている。
【0027】各冷却板8は、各ヒートパイプ5のブロック9に取付手段によって着脱自在に取り付けられ、装着時にはブロック9に密着するようになっている。図1に示すように、取付手段15は、冷却板8に設けられた複数本のバナナジャック16と、ブロック9に設けられバナナジャック16が挿入される複数の挿入孔17とから構成される。バナナジャック16は拡大図示されているように、ジャック16aの周面からやや浮いてバナナの皮状に取り付けられた複数の板バネ16bを軸回りに有する。これらの板バネ16bは、バナナジャック16がブロック9の挿入孔17に挿入されるとき、挿入圧により径方向内方に縮径して挿入を容易にし、挿入を停止すると径方向外方に拡径して挿入孔17より抜け難しくして冷却板8をブロック9に固定する。
【0028】上述したブロック9及び冷却板8はアルミニウムまたは銅で形成され、またフレキシブルチューブとしての支管13、14は合成樹脂で形成される。
【0029】さて、上記のような構成において、各冷却板8を各ヒートパイプ5に取付けられたブロック9にそれぞれ装着する時には、冷却板8をつまんで複数のバナナジャック16をブロック9の複数の挿入孔17に挿入し、ブロック9と冷却板8との接触面が密着するまで押し込む。このとき冷却板8がブロック9に対して取り付け難い位置や姿勢にあっても、冷却板8を主管10に接続している支管13、14がフレキシブルチューブであるため、容易にブロック9に取り付けることができる。これを各冷却板8について行っていく。なお、ブロック9と冷却板8との間の密着性をさらに良くして熱伝導性を良好とするためにシリコングリースや、弾力性があり熱伝導性の良好なフィルム状の伝熱シートなどを介在させるとよい。
【0030】逆にブロック9から冷却板8を取り外す時は、挿入孔17からバナナジャック16を単に抜き取るだけでよく、大きな抜取り力は要しない。ブロック9から冷却板8を外しても、ヒートパイプ5の作動液は閉ループ内にあるから液漏れは生じない。また、複数本のバナナジャック16と挿入孔17との着脱は同時にできるため、従来の液冷方式のように、多数のカプラを1個づつ着脱する作業が不要となる。
【0031】以上述べたように本実施の形態によれば、ヒートパイプ5の放熱部7に冷却板取付用のブロック9を設けたので、直接ヒートパイプに冷却板を取付ける場合に比して、冷却板8をヒートパイプ5に容易に取り付けることができる。また、着脱は冷却板8とブロック9間で行われることになり、着脱時にヒートパイプ5に力が加わらないため、面状で厚さの薄いヒートパイプ5の変形を有効に防止することができる。また、各ブロック9に各冷却板8を個々に取り付けるため、全ての冷却板8を一括して取り付ける場合に比して、ブロック9と冷却板8との密着度を個々に容易に調整できるので、各プリント基板3間にばらつきのない均一な冷却を実現できる。
【0032】また、上記実施例ではプリント基板が互いにほぼ平行な放射状配列の場合について説明したが、本発明はプリント基板を平行配列にする場合にも適用できる。また、本発明の電子機器の冷却装置は、ICテスタのテストヘッドに限定されることはなく、面状のヒートパイプでプリント基板を冷却する装置であれば、いずれにも適用できる。
【0033】上記取付け手段は第1の実施の形態で述べたバナナジャック方式の他に、締具から構成したり、あるいはねじ止め手段で構成したりすることができる。
【0034】図3は締具から構成する第2の実施の形態を示す。冷却板8の下端にフック18を、上端に締め輪19をそれぞれ設ける一方、ブロック9の下端にフック18を係合するフック孔20を、上端に締め輪19が引っ掛かる引掛片21をそれぞれ設ける。まずフック18をフック孔20に係合してブロック9に対して冷却板8を枢支した後、締め輪19を引掛片21に引っ掛け、締め輪19を手前に引張って固定することにより、ブロック9に冷却板8を締め付けて密着させる。これによれば、ワンタッチでブロック9に冷却板8を取り付けることができる。
【0035】また、図5はねじ止め手段から構成する第3の実施の形態を示す。ブロック9に複数のスタッドボルト23を予め植え込んでおき、固定する冷却板8に複数のバカ孔24をあけて、これにスタッドボルト23を嵌め、ナット22で冷却板8をブロック9に締めつける。ナット22を堅締することによりブロック9と冷却板8との密着度を格段に向上することができる。
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、ヒートパイプの放熱部にブロックを設け、このブロックに冷却板を着脱自在に取り付けるという簡単な構造で、冷却板の着脱時にヒートパイプに力が加わらず、面状のヒートパイプの変形を有効に防止することができ、ヒートパイプを使用した冷却装置の信頼性を向上することができる。また、各ブロックに各冷却板を個々に取り付けるため、各ブロックに各冷却板を一括して取り付ける場合に比して、ブロックと冷却板との密着度を個々に容易に調整できるので、各プリント基板間にばらつきのない均一な冷却を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子機器の冷却装置をICのテストヘッドに適用した第1の実施の形態の要部を示す概略斜視図である。
【図2】図1の実施の形態のテストヘッド部分の全体的な概略構成図である。
【図3】第2の実施の形態の要部を示す概略斜視図である。
【図4】第3の実施の形態の要部を示す概略斜視図である。
【図5】従来例のICテストヘッドの要部を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
5 ヒートパイプ
8 冷却板
9 ブロック
15 取付手段
16 バナナジャック
17 挿入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】ほぼ平行に隣接させて配列された複数のプリント基板に、各プリント基板を覆うように取り付けられ、各プリント基板上に実装された発熱部品に生じる熱を受熱部より放熱部に伝える面状のヒートパイプと、各ヒートパイプの放熱部に一体的に設けられた冷却板取付用のブロックと、各ブロックに着脱自在に取り付けられ、装着時に内部に設けた折返し液体通路に循環供給される冷却用の液体によってブロックを冷却してヒートパイプの放熱部から冷却板取付用ブロックに伝えられる熱を吸熱する冷却板と、各冷却板取付用ブロックに各冷却板を着脱自在に取り付ける取付手段と、前記冷却用の液体を供給する主管と、前記主管と前記冷却板の折返し液体通路とを接続するフレキシブルチューブとを備えた電子機器の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2791307号
【登録日】平成10年(1998)6月12日
【発行日】平成10年(1998)8月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−102505
【出願日】平成8年(1996)4月24日
【公開番号】特開平9−293984
【公開日】平成9年(1997)11月11日
【審査請求日】平成8年(1996)4月24日
【出願人】(000101248)アジアエレクトロニクス株式会社 (13)
【参考文献】
【文献】特開 平8−56088(JP,A)
【文献】実開 昭62−80093(JP,U)