説明

電子線照射システム

【課題】電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることができる電子線照射システムを提供する。
【解決手段】電子線照射システム100では、印刷物Pが搬送されるチャンバ30内に電子線照射装置1の筐体20が配置されている。チャンバ30内には、筐体20における搬入口31側の外壁20bに沿うように照射位置Qに向けて窒素ガスを流通させる第1の流路37と、筐体20における搬出口32側の外壁20cに沿うように照射位置Qに向けて窒素ガスを流通させる第2の流路38とが設けられている。第1の流路37及び第2の流路38では、コアンダ効果によって照射位置Qに向かう窒素ガスの流れが整えられる。したがって、電子線照射システム100では、流れムラの小さい窒素ガスを照射位置Qに供給でき、照射位置Qにおける雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置は、電子線を放出する電子銃を容器に収容し、薄膜で形成した出射窓を通して大気中に電子線を出射させる装置である。このような電子線照射装置は、例えば印刷物などの照射対象物に塗布されたインキの硬化といった用途を有している。電子線照射装置をかかる用途に用いる場合、電子線の照射によるインキの重合反応が阻害されないように、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を数百ppm以下程度に抑えておく必要がある。
【0003】
このように、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を抑える技術としては、例えば特許文献1に記載の電子線照射装置がある。この従来の電子線照射装置では、窒素ガスなどの不活性ガスを導入したチャンバ内に電子線照射装置における電子線の出射部を配置し、このチャンバ内で搬送される照射対象物に電子線を照射している。
【特許文献1】実公平6−2160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の電子線照射装置では、チャンバ内における電子線の照射位置において不活性ガスの導入ノズルを配置している。しかしながら、このような従来の構成では、チャンバ内での不活性ガスの流路について十分な考慮がなされておらず、照射対象物に向かう不活性ガスの流量にムラが生じ易い。そのため、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることができる電子線照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る電子線照射システムは、電子線を放出する電子放出部材を有する電子線照射装置と、電子線の照射対象となる照射対象物の搬入口及び搬出口を有するチャンバと、照射対象物を搬入口側から搬出口側に搬送する搬送手段とを備え、電子線照射装置は、チャンバ内に配置され、電子放出部材から放出された電子線をチャンバ内の所定の照射位置に向けて出射させる出射部を有し、チャンバは、出射部における搬入口側の壁部に沿うように、照射位置に向けて不活性ガスを流通させる第1の流路を有していることを特徴としている。
【0007】
この電子線照射システムでは、照射対象物が搬送されるチャンバ内に電子線照射装置の出射部が配置されており、チャンバ内には、搬入口側を向く出射部の壁部に沿うように、照射位置に向けて不活性ガスを流通させる第1の流路が設けられている。第1の流路においては、壁部に沿って気体が流れる効果(コアンダ効果)により、照射位置に向かう不活性ガスの流れが整えられる。したがって、この電子線照射システムでは、流れムラの小さい不活性ガスを照射位置に供給することが可能となり、かかる窒素ガスを雰囲気ガス中の外気成分と置換することで、照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることができる。
【0008】
また、チャンバは、出射部における搬出口側の壁部に沿うように、照射位置に向けて不活性ガスを流通させる第2の流路を更に有していることが好ましい。この場合、照射位置の両側で、照射対象物に対して流れムラの小さい不活性ガスを十分に供給することが可能となるので、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度をより確実に低下させることができる。
【0009】
また、第1の流路を流通する不活性ガスの流量は、第2の流路を流通する不活性ガスの流量よりも大きいことが好ましい。第1の流路は、第2の流路よりも搬入口側に位置しているため、第1の流路を流通する不活性ガスは、第2の流路を流通する不活性ガスに比べて電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度への影響が大きい。そこで、第1の流路を流通する不活性ガスの流量を、第2の流路を流通する不活性ガスの流量よりも大きくすることで、第1の流路を流通する不活性ガスが第2の流路を流通する不活性ガスに干渉することを抑制でき、照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を一層確実に低下させることができる。
【0010】
また、搬入口を遮るように、照射対象物の搬送方向の上流側に向けて不活性ガスを吹き出すエア吹出手段を更に備えたことが好ましい。この場合、エア吹出手段から吹き出す不活性ガスにより、搬入口からのチャンバ内への外気の流入が押さえられる。また、照射対象物の搬送方向の上流側に向けて不活性ガスを吹き出すことにより、照射対象物がチャンバの搬入口を通過する時点で、照射対象物の周りの大気を搬入口と反対の方向に吹き飛ばすことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電子線照射システムでは、電子線の照射位置における雰囲気ガス中の酸素濃度を十分に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電子線照射システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子線照射システムの構成を示す斜視図である。また、図2は、図1におけるII−II線断面図である。図1及び図2に示すように、電子線照射システム100は、電子線EBの発生源となる電子線照射装置1と、窒素等の不活性ガスが充填されるチャンバ30と、電子線EBの照射対象となる印刷物(照射対象物)Pをチャンバ30内に搬送する一対の搬送ローラ(搬送手段)40とを備えて構成されている。電子線照射システム100に至る前段階において、印刷物Pの表面には、例えば電子線EBの照射によって硬化するEB硬化インキが未乾燥の状態で塗布されている。電子線照射システム100は、印刷物Pの表面に電子線EBを照射することにより、印刷物Pに塗布されたEB硬化インキの硬化処理を行うシステムとして構成されている。
【0014】
始めに、電子線照射装置1の構成について説明する。電子線照射装置1は、図3及び図4に示すように、電子銃2と、容器3と、窓ユニット(出射部)4とを備えている。この電子線照射装置1は、電子銃2から放出した電子線EBを所定の方向に高速で偏向させることにより、窓ユニット4から線状に電子線EBを出射する装置である。
【0015】
電子銃2は、直方体形状のケース6と、電気絶縁性を有する材料によって形成された絶縁ブロック7と、高耐圧型のコネクタ8と、電子線EBを放出させるフィラメント9とを有している。ケース6は、例えば金属によって形成され、容器3の基端側に固定されている。ケース6における容器3側の壁には、ケース6の内部と容器3内の収容空間とを連通させる開口部6aが設けられている。また、ケース6の側壁には、コネクタ8を取り付けるための開口部6bが設けられている。
【0016】
絶縁ブロック7は、例えばエポキシ樹脂などの電気絶縁性の材料によって形成されており、コネクタ8からフィラメント9への電力供給経路を外部から絶縁している。絶縁ブロック7は、ケース6内に収容された基部7aと、基部7aから開口部6aを通って容器3内の収容空間側に突出する切頭円錐状の突出部7bとを有している。基部7aは、ケース6の内部の大部分を占めており、ケース6における開口部6a側及び開口部6b側の内壁に接触している。また、基部7aにおいてケース6の内壁と接触しない部分には、導電性を有するフィルム10が貼り付けられている。このフィルム10が接地電位であるケース6と電気的に接続されることで、ケース6の内面に面する絶縁ブロック7の表面電位を接地電位とすることができ、動作時の安定性の向上が図られる。
【0017】
コネクタ8は、電子線照射装置1の外部からフィラメント9に電源電圧を供給するためのコネクタである。コネクタ8は、ケース6の側面の開口部6bに差し込まれ、先端部分が絶縁ブロック7の中心付近に位置した状態で絶縁ブロック7中に埋没されて固定されている。コネクタ8の基端には、図示しない電源装置から延びる外部配線の先端を保持した電源用プラグの挿入口8aが設けられている。また、コネクタ8の先端には、一対の内部配線11,11が接続されている。内部配線11,11は、コネクタ8の先端から絶縁ブロック7の基部7aの中心及び突出部7bの中心を通って突出部7bの先端まで延在している。
【0018】
フィラメント9は、電子線EBとなる電子を放出する部材である。フィラメント9は、絶縁ブロック7の突出部7bの先端部分に取り付けられ、内部配線11,11に接続されている。フィラメント9の周囲には、グリッド部12が設けられている。グリッド部12は、内部配線11,11のいずれか一方と電気的に接続されており、フィラメント9に高電圧が印加された場合に、グリッド部12にも高電圧が印加されることで、フィラメント9から電子を引き出すための電界が形成される。フィラメント9から引き出された電子は、グリッド部12の中心に形成された孔から電子線EBとして出射する。なお、フィラメント9からの電子の放出をより精密に制御したい場合には、例えば内部配線11,11と同様にして、別途グリッド部12用の配線を追加し、フィラメント9の電位とは独立してグリッド部12の電位を制御することが好ましい。
【0019】
容器3は、フィラメント9から出射する電子線EBの出射軸に沿って延びる円筒状に形成され、電子銃2のケース6に気密に固定されている。容器3の基端側の内部には、電子銃2のフィラメント9、グリッド部12、及び絶縁ブロック7の突出部7bを収容する円筒状の収容部13が形成されている。収容部13の径は、ケース6の開口部6aよりも大径となっており、容器3の基端から中央付近まで延在している。また、容器3の先端側の内部には、収容部13と連通する電子線通過孔14が形成されている。電子線通過孔14は、収容部13よりも小径の円筒状をなし、電子線EBの出射軸に沿って容器3の中央付近から容器3の先端まで延在している。
【0020】
電子線通過孔14の周囲には、電子線EBの出射軸に沿って電磁コイル15及び電磁コイル16が配置されている。電磁コイル15及び電磁コイル16の配置中心は、電子線通過孔14の中心軸に一致している。これらの電磁コイル15及び電磁コイル16の協働により、電子線通過孔14を通過する電子線EBは、後述する電子線出射窓23に向けて集束するようになっている。
【0021】
より具体的には、電磁コイル15は、電子銃2や電子線EBの通過経路を構成する各部材の機械的な中心のズレや、各構成部材の残留磁気および設置場所周辺の磁界等の影響によって生じる所望の通過経路(電子通過孔14の中心軸)に対する電子線EBのズレを補正するためのアライメントコイルである。本実施形態では、対向する2つの電磁コイル15が対となって機能するように、4つの電磁コイル15が電子線通過孔14を挟んで90度の位相角をもって配置され、必要に応じて使用される。一方、電磁コイル16は、電子銃2から出射された電子線EBを電子線出射窓23に集めるための集束コイルで、エナメル線などから成る円筒状のコイル部及び軟鉄などから成る磁気回路から構成される。これらの電磁コイル15,16により、フィラメント9から出射された電子線EBは、電子通過孔14の中心軸を正確に通過し、電子通過孔14の内壁に衝突することなく電子線出射窓23の中心へと正確に導かれる。
【0022】
また、容器3の側部には排気管17が設けられている。排気管17の先端は、収容部13及び電子線通過孔14を排気する真空ポンプ18に接続されている。排気管17及び真空ポンプ18は、電子線照射装置1を電子線EBの出射軸方向から見たときに、コネクタ8と重ならない位置に設けられている。
【0023】
一方、窓ユニット4は、電子線照射装置1の一端側の構造体であり、電子線通過孔14を通過した電子線EBを容器3の外部に出射させるためのユニットである。窓ユニット4は、筐体20と、窓基板22と、電子線出射窓23とを備えている。筐体20は、基端側から先端側に向かうに従って電子線EBの偏向方向(図3におけるX方向)の幅が拡大する形状となっている。筐体20の基端側には、電子線通過孔14と同径の開口部20aが形成されており、筐体20の先端側は、矩形に開口している。また、筐体20の基端側の縁には、円形のフランジ部20bが形成されている。筐体20は、開口部20aと電子線通過孔14とが同心になるように位置決めされ、容器3の先端に気密に固定されている。
【0024】
筐体20の基端側のフランジ部20bの近傍には、偏向コイル21が設けられている。偏向コイル21は、電子線通過孔14を通過した電子線EBを筐体20内において偏向させるコイルである。偏向コイル21の両端には、L字状の支持部材21aがそれぞれ取り付けられており、偏向コイル21は、支持部材21a,21aで筐体20の基端側の側壁を挟み込むことにより、筐体20において偏向方向と直交する側壁の一方に近接するように配置されている。そして、偏向コイル21は、外部電源(図示しない)から供給される電流値に基づいて、電子線通過孔14を通過した電子線EBの進行方向をX方向に沿って線状に偏向させる。
【0025】
窓基板22は、例えばステンレスによって長方形状に形成され、筐体20の先端に固定されている。窓基板22の中央には、X方向に沿って所定の間隔で一列に矩形の貫通孔22aが形成されている。また、電子線出射窓23は、例えばベリリウムによって厚さ数μm〜10μm程度の矩形状に形成されている。電子線出射窓23は、貫通孔22aごとに設けられ、各貫通孔22aの先端を塞ぐようにして窓基板22にロウ付けされている。偏向コイル21によってX方向に偏向した電子線EBは、各電子線出射窓23を通って装置外部に出射する。なお、筐体20の先端には、Oリングが設置された溝が形成されている(図示せず)。これにより、窓基板22と筐体20との気密封止が保たれている。
【0026】
次に、チャンバ30及び搬送ローラ40の構成について説明する。
【0027】
チャンバ30は、図1及び図2に示すように、例えばステンレスによって形成され、印刷物Pの搬送方向に沿って延びる直方体状をなしている。チャンバ30の一端側の側面には、チャンバ30内に印刷物Pを導入するための搬入口31が設けられている。また、搬入口31に対向するチャンバ30の他端側の側面には、チャンバ30内から印刷物Pを排出するための搬出口32が設けられている。
【0028】
チャンバ30の上面の中央部分には、電子線照射装置1の筐体20を固定するためのガイド部33が設けられている。ガイド部33は、チャンバ30の上方に突出するように直方体状に形成されている。ガイド部33の上面側には、印刷物Pの搬送方向と直交する方向に延びる矩形の開口部33aが形成されている。この開口部33aには、電子線出射窓23がチャンバ30内を向くようにして、電子線照射装置1の筐体20が挿通されている。
【0029】
そして、電子線照射装置1は、筐体20の先端部分、すなわち、窓基板22に取り付けられた電子線出射窓23と、チャンバ30の上面の内壁とがほぼ面一となった状態で、ガイド部33に固定されている。このような構成より、チャンバ30内の中央部分は、電子線出射窓23から出射した電子線EBが印刷物Pに照射される位置(以下、「照射位置Q」と称す)となっている。照射位置Qにおいて、印刷物Pの表面には、印刷物Pの搬送方向と交差する方向に線状に偏向する電子線EBが照射される。
【0030】
搬送ローラ40は、印刷物Pを搬入口31側から搬出口32側に搬送するローラである。搬送ローラ40は、EB硬化インキが未乾燥の状態で塗布されている印刷物Pをチャンバ30内に搬入するためにチャンバ30の搬入口側に配置された搬入ローラ40aと、EB硬化インキが乾燥した後の印刷物Pをチャンバ30外に搬出するためにチャンバ30の搬出口32側に配置された搬出ローラ40bとによって構成されている。搬入ローラ40a及び搬出ローラ40bは、図示しない駆動手段によって所定の回転速度で駆動する。
【0031】
これにより、印刷物Pは、図1及び図2におけるY方向(搬送方向)に搬送される。そして、印刷物Pは、搬入口31を通ってチャンバ30の内部に導入され、照射位置Qを通過した後、搬出口32からチャンバ30の外部に排出される。チャンバ30の外部に排出された印刷物Pは、搬出ローラ40bを経由して次工程に進んでいく。なお、搬入ローラ40a及び搬出ローラ40bにより、チャンバ30内を通過中の印刷物Pには所定のテンションがかけられている。これにより、印刷物Pがチャンバ30内で弛むことが防止され、電子線EBを印刷物Pの全面に照射することができる。
【0032】
ところで、電子線EBを印刷物Pに照射するにあたっては、インキの重合反応が酸素によって阻害されないように、照射位置Qにおける雰囲気ガスを大気から窒素ガスに置換して酸素濃度を低下させる必要がある。このように、照射位置Qにおける酸素濃度を低下させるための構成として、図2に示すように、チャンバ30は、エアカーテン34を形成する一対のエア吹出部(エア吹出手段)35,35と、チャンバ30内に設けられた複数の仕切板36と、照射位置Qに向けて窒素ガスを流通させる第1の流路37及び第2の流路38とを備えている。
【0033】
エア吹出部35は、チャンバ30の搬入口31及び搬出口32にそれぞれ設けられている。各エア吹出部35は、窒素配管39によって図示しない窒素供給装置に接続されている。また、搬入口31側のエア吹出部35は、印刷物Pの搬送方向に直交する面に対して搬送方向の上流側に例えば45°傾斜しており、搬出口32側のエア吹出部35は、印刷物Pの搬送方向に直交する面に対して搬送方向の下流側に例えば45°傾斜している。各エア吹出部35には、窒素供給装置から例えば20リットル/分の流量で窒素ガスが供給される。これにより、搬入口31及び搬出口32を塞ぐように帯状のエアカーテン34が形成される。
【0034】
仕切板36は、例えばステンレスによって形成され、チャンバ30の上面側の内壁と下面側の内壁とにそれぞれ設けられている。より具体的には、チャンバ30の上面側の内壁には、一対の仕切板36a,36aが設けられている。この一対の仕切板36a,36aは、照射位置Qを挟むようにして電子線EBの偏向方向と略平行に配置され、チャンバ30内の空間上部をほぼ3等分している。
【0035】
一方、チャンバ30の下面側の内壁には、6枚の仕切板36bが設けられている。これらの仕切板36bは、仕切板36aと同様に、照射位置Qを挟むようにして電子線EBの偏向方向と略平行に配置され、チャンバ30内の空間下部をほぼ7等分している。仕切板36bは、電子線EBが電子線照射装置1から出射される際、或いは出射された電子線EBが周辺構造物等に照射された際に僅かに生じるX線のチャンバ30外部への漏洩を防止する遮蔽部材として機能する。また、6枚の仕切板36bのうち、搬入口31側から見て2番目及び5番目に当たる仕切板36b,36bは、チャンバ30の上面側の内壁の仕切板36a,36aと対向している。このような構成により、仕切板36a,36a及び仕切板36b,36bは、照射位置Qの周りの空間を挟み込んだ状態となっており、結果として照射位置Q近傍の窒素ガスの密閉効果を高める部材としても機能する。このことは、電子線照射システム1における窒素消費量の削減に寄与する。
【0036】
第1の流路37は、ガイド部33における搬入口31側の内壁33bと、ガイド部33内に配置された筐体20における搬入口31側の外壁20bとによって形成されている。第2の流路38は、ガイド部33における搬出口32側の内壁33cと、ガイド部33内に配置された筐体20における搬出口32側の外壁20cとによって形成されている。第1の流路37及び第2の流路38の形成にあたって、ガイド部33における搬入口31側の壁部の中央部分、及びこの中央部分を挟んだ両端部には、窒素配管39を差し込むための開口部33dが、電子線EBの偏向方向と略平行な方向に沿って配列されている(図1参照)。また、搬出口32側の壁部についても、同様の構成で開口部33dが配列されている。
【0037】
各開口部33dは、第1の流路37及び第2の流路38の十分な流路長を確保するために、ガイド部33の中央部分よりも電子銃2側に形成されている。なお、外壁20b、外壁20c、内壁33b及び内壁33cはそれぞれ平滑な面によって形成されている。したがって、第1の流路37及び第2の流路38は、開口部33dが形成されている部分を除いて、凹凸のない平滑な面によって構成されている。
【0038】
各開口部33dには、窒素配管39の先端がそれぞれ固定されている。窒素配管39の基端は、図示しない窒素供給装置に接続されている。第1の流路37には、窒素供給装置から例えば10〜30リットル/分の流量で窒素ガスが供給される。第1の流路37に供給された窒素ガスは、壁部に沿って気体が流れる効果(コアンダ効果)により、筐体20における搬入口31側の外壁20bに沿いながら、照射位置Qに向かって流通する。同様に、第2の流路38には、窒素供給装置から例えば0〜30リットル/分の流量で窒素ガスが供給される。第2の流路38に供給された窒素ガスも、上述したコアンダ効果により、筐体20における搬出口32側の外壁20cに沿いながら、照射位置Qに向かって流通する。
【0039】
続いて、上述した電子線照射システム100では、図示しない駆動手段によって搬入ローラ40a及び搬出ローラ40bが駆動すると、未乾燥のEB硬化インキが塗布された印刷物Pがチャンバ30の搬入口31側から搬出口32側に向かって搬送される。印刷物Pがチャンバ30の搬入口31を通過する際、エア吹出部35によって形成されるエアカーテン34により、印刷物Pの周りの大気が窒素ガスによって搬送方向と反対側に吹き飛ばされる。一方、搬出口32側に設けられたエア吹出部35によって形成されるエアカーテン34は、搬出口32からチャンバ30内に大気が侵入することを防止する。これらのエアカーテン34、34により、チャンバ内での窒素置換度の向上が図られている。
【0040】
次に、印刷物Pは、チャンバ30内の照射位置Qに搬送される。照射位置Qでは、筐体20における搬入口31側の外壁20bに沿って第1の流路37を流通する窒素ガス、及び筐体20における搬出口32側の外壁20cに沿って第2の流路38を流通する窒素ガスが印刷物Pに向かって吹き付けられる。この状態で、印刷物Pには、電子線照射装置1から出射する電子線EBが照射される。電子線EBは、印刷物Pの搬送方向と交差する方向に高速で偏向されながら印刷物Pの表面に照射され、これにより、印刷物P上のEB硬化インクが化学重合して順次硬化する。電子線EBが電子線照射装置1から出射される際、或いは出射された電子線EBが周辺構造物等に照射された際に僅かに生じるX線は、仕切板36によってブロックされる。
【0041】
電子線EBの照射によるEB硬化インクの硬化が完了した後、印刷物Pは、搬出口32からチャンバ30の外部に排出される。その後、印刷物Pは、搬出ローラ40bを経由して次工程に搬送される。
【0042】
以上説明したように、電子線照射システム100では、印刷物Pが搬送されるチャンバ30内に電子線照射装置1における窓ユニット4の筐体20が配置されている。そして、チャンバ30内には、筐体20における搬入口31側の外壁20bに沿うように照射位置Qに向けて窒素ガスを流通させる第1の流路37と、筐体20における搬出口32側の外壁20cに沿うように照射位置Qに向けて窒素ガスを流通させる第2の流路38とが設けられている。
【0043】
第1の流路37及び第2の流路38においては、壁部に沿って気体が流れるコアンダ効果により、照射位置Qに向かう窒素ガスの流れが整えられる。したがって、電子線照射システム100では、流れムラの極めて小さい窒素ガスを照射位置Qに供給することが可能となり、かかる窒素ガスによって雰囲気ガス中の酸素を置換することで、照射位置Qにおける雰囲気ガス中の酸素濃度を数百ppm以下程度まで安定して低下させることができる。これにより、電子線EBの照射によるインキの重合反応が酸素によって阻害されることが防止され、印刷物Pに塗布されたEB硬化インクの硬化処理を確実に行うことができる。また、窒素ガスは、電子線出射窓23と印刷物Pとの間において、電子線出射窓23から遠ざかる方向に流通しているので、電子線EBの照射時に印刷物Pの表面から飛散物が生じても、飛散物が電子線出射窓23に付着してしまうことも殆どない。
【0044】
また、第1の流路37を流通する窒素ガスの流量は、第2の流路38を流通する窒素ガスの流量よりも大きくなっている。ここで、第1の流路37は、第2の流路38よりも搬入口31側に位置しているため、第1の流路37を流通する不活性ガスは、第2の流路38を流通する不活性ガスに比べて照射位置Qにおける雰囲気ガス中の酸素濃度への影響が大きい。したがって、第1の流路37を流通する不活性ガスの流量を、第2の流路38を流通する不活性ガスの流量よりも大きくすることで、第1の流路37を流通する不活性ガスが第2の流路38を流通する不活性ガスに干渉することを抑制でき、照射位置Qにおける雰囲気ガス中の酸素濃度をより確実に低下させることができる。また、窒素ガスの流れムラもより小さく抑えられるため、電子線出射窓23から出射する電子線EBが気流によって位置ずれを起こすことも抑制され、硬化処理の確実性の向上が図られる。
【0045】
さらに、電子線照射システム100では、チャンバ30の搬入口31及び搬出口32を遮るように窒素ガスによるエアカーテン34,34がそれぞれ形成されている。搬入口31側のエアカーテン34は、印刷物Pの搬送方向に直交する面に対して搬送方向の上流側に約45°傾斜しており、搬出口32側のエアカーテン34は、印刷物Pの搬送方向に直交する面に対して搬送方向の下流側に約45°傾斜している。これらのエアカーテン34により、チャンバ30内への大気の進入を防止できる。また、印刷物Pがチャンバ30の搬入口31を通過する際、印刷物Pの周りの大気がエアカーテン34によって搬送方向と反対側に吹き飛ばされる。これにより、印刷物Pに纏わり付いている大気中の酸素が除去され、照射位置Qにおける酸素濃度をより確実に低下させることが可能となる。
【0046】
また、エア吹出口35からの窒素ガスの流量は、第1の流路37を流通する窒素ガスの流量よりも小さくなっていることが好ましい。この場合、搬入口31及び搬出口32の近傍での気流の乱れが抑えられるため、チャンバ30内への大気の進入を一層確実に防止し、照射位置Qにおける酸素濃度の更なる低下を実現できる。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、上述した実施形態では、チャンバ30内に第1の流路37及び第2の流路38を設けているが、照射位置Qにおける酸素濃度を低下させる観点からは、第1の流路37のみを設けるようにしてもよい。また、搬入口31側のエアカーテン34の角度は、印刷物Pの搬送方向の上流側に傾斜しているものであればよく、印刷物Pの搬送速度などに応じて適宜変更してもよい。このことは、搬出口32側のエアカーテン34の角度についても同様である。
【0048】
また、照射対象物は、印刷物Pのような長尺のものに限らず、所定の大きさで単体となっているものでもよい。この場合、搬送手段として例えばベルトコンベア等を用いることができる。さらに、インキの乾燥に限らず、電子線EBによる殺菌や表面改質等をインラインで行うような場合にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子線照射システムを示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】電子線照射装置の構成を示す側断面図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…電子線照射装置、4…窓ユニット(出射部)、9…フィラメント(電子放出部材)、20…筐体(出射部)、20b…外壁(搬入口側の壁部)、20c…外壁(搬出口側の壁部)、30…チャンバ、31…搬入口、32…搬出口、35…エア吹出部(エア吹出手段)、37…第1の流路、38…第2の流路、40a…搬入ローラ(搬送手段)、40b…搬出ローラ(搬送手段)、100…電子線照射システム、EB…電子線、P…印刷物(照射対象物)、Q…照射位置、Y…搬送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子放出部材を有する電子線照射装置と、
前記電子線の照射対象となる照射対象物の搬入口及び搬出口を有するチャンバと、
前記照射対象物を前記搬入口側から前記搬出口側に搬送する搬送手段とを備え、
前記電子線照射装置は、前記チャンバ内に配置され、前記電子放出部材から放出された前記電子線を前記チャンバ内の所定の照射位置に向けて出射させる出射部を有し、
前記チャンバは、前記出射部における前記搬入口側の壁部に沿うように、前記照射位置に向けて不活性ガスを流通させる第1の流路を有していることを特徴とする電子線照射システム。
【請求項2】
前記チャンバは、前記出射部における前記搬出口側の壁部に沿うように、前記照射位置に向けて不活性ガスを流通させる第2の流路を更に有していることを特徴とする請求項1記載の電子線照射システム。
【請求項3】
前記第1の流路を流通する前記不活性ガスの流量は、前記第2の流路を流通する前記不活性ガスの流量よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の電子線照射システム。
【請求項4】
前記搬入口を遮るように、前記照射対象物の搬送方向の上流側に向けて不活性ガスを吹き出すエア吹出手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128969(P2008−128969A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317495(P2006−317495)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】