説明

電子鍵盤楽器のハンマー装置

【課題】バランスピンがハンマーの前端付近の下方に立設されている場合でも、ハンマーがバランスピンに当たるのを確実に回避できるとともに、ハンマーの取り外しを確保することができる電子鍵盤楽器のハンマー装置を提供する。
【解決手段】前後方向に延び、前後方向の中央よりも後ろ側に立設されたバランスピン13を支点として揺動する鍵を備えた電子鍵盤楽器において、押鍵された鍵に連動して回動するハンマーを備えた電子鍵盤楽器のハンマー装置であって、ハンマー5は、前後方向に延び、後端部の支点を中心として上下方向に回動自在に構成され、バランスピン13よりも後方に配置されたハンマー本体22と、前端がバランスピン13よりも前方に位置した状態で、ハンマー本体22に取り付けられた錘板23と、を有し、錘板23は、ハンマー5の回動時にバランスピン13に干渉しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの電子鍵盤楽器に適用され、押鍵された鍵に連動して回動するハンマーを備えた電子鍵盤楽器のハンマー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハンマー装置を備えた電子ピアノの鍵盤装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤装置は、揺動自在の複数の鍵と、鍵ごとに設けられ、押鍵に伴って回動する複数のハンマーとを備えている。各鍵は、前後方向の中央付近に立設されたバランスピンに揺動自在に支持されている。各ハンマーは、前後方向に延びるアーム状のハンマー本体と、このハンマー本体の前端部に取り付けられた錘とを有している。また、ハンマーは、後端部の軸受けを介して、アクションシャーシに回動自在に支持されており、軸受よりも前方の所定位置に下方からねじ込まれたキャプスタンスクリューを介して、対応する鍵の上面後端部に載置されている。
【0003】
また、上記の鍵盤装置では、鍵の前端からバランスピンまでの長さ(以下「鍵前部長さ」という)と、バランスピンからハンマーが鍵に当接するキャプスタンスクリューまでの長さ(以下「鍵後部長さ」という)との比が、約3:2に設定されている。
【0004】
電子ピアノでは通常、奥行き寸法に対するコンパクト化の要請があるため、鍵全体の前後方向の長さは、アコースティックなグランドピアノ(以下、単に「グランドピアノ」という)のそれに比べて短く構成される。また、上記の鍵盤装置では、上述したように、鍵前部長さと鍵後部長さとの比が、約3:2に設定されているため、その鍵前部長さは、グランドピアノのそれに比べて非常に短い。このため、上記の鍵盤装置を備えた電子ピアノを演奏する際に、例えば鍵の前端付近の部分を押し下げる場合と、鍵の前端から奥側に離れた部分を押し下げる場合とでは、グランドピアノを演奏する場合と異なり、荷重差が大きくなり、グランドピアノに近似したタッチ感を十分に得ることができない。
【0005】
そこで、近年、電子ピアノにおいて、奥行き寸法をコンパクトに維持しながら、グランドピアノに近似したタッチ感を得られるよう、鍵前部長さをより長く、鍵後部長さをより短くすること、すなわち、バランスピンを従来よりも後ろ側に配置することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−262129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バランスピンの位置を従来よりも後ろ側に配置した鍵盤装置において、従来のハンマー装置をそのまま適用すると、次のような問題がある。すなわち、バランスピンがハンマーの前端付近に配置されている場合、押鍵に連動して上方に回動したハンマーが、離鍵に伴い、下方に回動して元の離鍵状態の位置に戻るときに、バランスピンに当たってしまうおそれがある。また、電子ピアノのハンマー装置では一般に、メンテナンス時などに、ハンマーが、それを支持するアクションシャーシから取り外せるように構成される。この場合、鍵に連動して回動する範囲では、アクションシャーシから取り外せないものの、キャプスタンスクリューを介してハンマーを載置する鍵が鍵盤装置から取り外された状態において、ハンマーを離鍵状態の位置よりも下方に回動させることで、アクションシャーシから取り外せるようになっている。しかし、上述したように、バランスピンがハンマーの前端付近に配置されている場合、ハンマーを離鍵状態の位置よりも下方に回動させようとすると、ハンマーがバランスピンに当たり、ハンマーを、取り外し可能な位置まで回動させることができないことがある。その場合には、ハンマーをアクションシャーシから簡単には取り外すことができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、バランスピンがハンマーの前端付近の下方に立設されている場合でも、ハンマーがバランスピンに当たるのを確実に回避できるとともに、ハンマーの取り外しを確保することができる電子鍵盤楽器のハンマー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に延び、前後方向の中央よりも後ろ側に立設されたバランスピンを支点として揺動する鍵を備えた電子鍵盤楽器において、鍵の後端部に載置されるとともに押鍵された鍵に連動して回動するハンマーを備えた電子鍵盤楽器のハンマー装置であって、ハンマーは、前後方向に延び、後端部の支点を中心として上下方向に回動自在に構成され、バランスピンよりも後方に配置されたハンマー本体と、前端がバランスピンよりも前方に位置した状態で、ハンマー本体に取り付けられた錘と、を有し、錘は、ハンマーの回動時にバランスピンに干渉しないように構成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ハンマーは、前後方向の中央よりも後ろ側に立設されたバランスピンを支点として揺動する鍵の後端部に載置されており、押鍵された鍵に連動して回動する。このハンマーは、前後方向に延び、後端部の支点を中心として上下方向に回動自在のハンマー本体と、これに取り付けられた錘と、を有している。ハンマー本体は、バランスピンよりも後方に配置されているので、ハンマーの回動時に、バランスピンに当たることはない。一方、錘は、その前端がバランスピンよりも前方に位置しており、つまり、バランスピンが錘の下方に位置している。この錘は、ハンマーの回動時にバランスピンに干渉しないように構成されているので、押鍵に連動して上方に回動したハンマーが、離鍵に伴い、下方に回動して元の離鍵状態の位置に戻る場合でも、錘がバランスピンに当たることはない。
【0011】
また、上記のハンマー装置において、前述した一般的なハンマー装置と同様、ハンマーを離鍵状態の位置よりも下方に回動させることによって、そのハンマーが取り外せるように構成されている場合、ハンマーを取り外す際には、ハンマーが載置されていた鍵を取り外した状態において、ハンマーを下方に回動させる。上述したように、ハンマーの錘は、ハンマーの回動時にバランスピンに干渉しないので、ハンマーの取り外しの際に、バランスピンが邪魔になることはない。以上のように、本発明によれば、バランスピンがハンマーの前端付近の下方に立設されている場合でも、ハンマーがバランスピンに当たるのを確実に回避できるとともに、ハンマーの取り外しを確保することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器のハンマー装置において、錘は、ハンマー本体の左右の側面に取り付けられた左右2つの錘で構成されており、左右2つの錘は、少なくともバランスピンの付近において、バランスピンの横断面の直径よりも大きい間隔を隔てた状態になるように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ハンマー本体の左右の側面に取り付けられた左右2つの錘は、少なくともバランスピンの付近において、そのバランスピンの横断面の直径よりも大きい間隔を隔てた状態になるように構成されているので、ハンマーの回動時に、両錘がバランスピンに当たることはない。したがって、上記構成により、請求項1の前述した作用、効果を有するハンマー装置を、容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるハンマー装置を適用した電子ピアノの鍵盤装置を、一部を切り欠いた状態で示す側面図である。
【図2】ハンマーサポートを示す斜視図であり、(a)は、1オクターブ分のハンマーサポートの全体を示し、(b)は、一部を切り欠いた状態を示す。
【図3】ハンマーサポートを示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】白鍵用のハンマーを示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】(a)は、押鍵時におけるハンマーの回動範囲を説明するための説明図、(b)は、ハンマーを取り外す際のハンマーの動作を説明するための説明図である。
【図6】黒鍵用のハンマーとバランスピンとの関係を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】黒鍵用のハンマーの変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるハンマー装置を適用した電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示している。
【0016】
同図に示すように、鍵盤装置1は、電子ピアノの左右方向(図1の表裏方向)に並んだ多数の鍵2(白鍵2aおよび黒鍵2bを各1つのみ図示)と、これらの鍵2を支持する鍵盤シャーシ3と、この鍵盤シャーシ3の後端部(図1の右端部)に連結されたハンマーサポート4と、鍵2ごとに設けられ、押鍵された鍵2に連動して回動する多数のハンマー5(1つのみ図示)と、ハンマー5ごとに設けられ、鍵2の押鍵時にレットオフ感を付与するための多数のレットオフ部品6(1つのみ図示)と、鍵2の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ7などで構成されている。
【0017】
鍵盤シャーシ3は、左右方向に延びる前レール9a、中レール9bおよび後レール9cから成る3本の支持レール9と、前後方向に延びる5本の補強用のリブ10とを、井桁状に組み立てたものであり、棚板(図示せず)上に固定されている。これらの支持レール9およびリブ10はいずれも、プレスによる打抜きおよび折曲げ加工によって所定の形状に形成された鉄板で構成されている。支持レール9の板厚は、その軽量化のためにより薄く(例えば1.0mm)、リブ10の板厚は、補強のためにより厚く(例えば1.6mm)設定されている。
【0018】
前レール9aの下面および中レール9bの上面にはそれぞれ、筬前11および筬中12が固定されている。筬前11および筬中12は、合成樹脂から成る肉厚の板状のものであり、前レール9aおよび中レール9bの全体にわたって左右方向に延びている。筬中12には、白鍵2aおよび黒鍵2bに対応する前後の位置に、多数のバランスピン13が、左右方向に並んだ状態で立設されている。また、筬前11には、白鍵2aおよび黒鍵2bに対応する前後の位置に、多数のフロントピン14が、左右方向に並んだ状態で立設されている。
【0019】
鍵2は、前後方向に延びるとともに矩形状の横断面を有する木製の鍵本体15と、その前部の上面および前面に接着された合成樹脂製の鍵カバー16で構成されている。鍵本体15の中央よりも後ろ側には、バランスピン孔17が形成されており、鍵2は、このバランスピン孔17を介して、バランスピン13に揺動自在に支持されている。また、鍵本体15の前端部には、フロントピン孔18が形成されており、このフロントピン孔18がフロントピン14に係合することによって、鍵2が回動する際の左右方向のぶれが防止される。
【0020】
ハンマーサポート4は、合成樹脂で構成され、例えば1オクターブ分の複数の成形品を互いに連結したものであり、すべてのハンマー5にわたるように左右方向に延びており、鍵盤シャーシ3の後レール9cにねじ止めされている。ハンマーサポート4は、この後レール9c付近から直立するハンマー支持部19と、その上端部から前方に斜め上がりに延びるスイッチ取付部20などで構成されている。ハンマー支持部19の上端部には、各ハンマー5を支持するための水平なピン状の支点軸部21が形成されている。
【0021】
ハンマー5は、前後方向に延びるアーム状のハンマー本体22と、その左右の側面の前端部に取り付けられた錘板23(1つのみ図示)を有する。ハンマー本体22は合成樹脂で構成され、錘板23は、比重が比較的大きな鉄などの金属材料で構成されている。ハンマー本体22の後端部には、円弧状の軸穴24が形成されており、ハンマー5は、この軸穴24が支点軸部21に係合することによって、ハンマーサポート4に回動自在に支持されている。
【0022】
また、ハンマー本体22の下面には、軸穴24のすぐ前側の位置に、キャプスタンスクリュー25が進退自在にねじ込まれている。ハンマー5は、このキャプスタンスクリュー25を介して、鍵2の後端部に載置されている。また、ハンマー本体22の上面の軸穴24とキャプスタンスクリュー25との間の部分は、押鍵時に鍵スイッチ7を作動させるためのアクチュエータ部26になっている。さらに、ハンマー本体22の上面の前後方向の中央には、押鍵時にレットオフ部品6に係合する板状の係合突起27が設けられている。
【0023】
レットオフ部品6は、所定の弾性材料(例えば、スチレン系の熱可塑性エラストマーなど)の成形品で構成されており、ハンマーサポート4のスイッチ取付部20に取り付けられている。レットオフ部品6は、スイッチ取付部20から後ろ下がりに斜めに延びており、その先端部には、くびれ部を介して頭部28が形成されている。この頭部28は、離鍵状態において、ハンマー5の係合突起27に対向している。
【0024】
また、鍵スイッチ7は、プリント基板から成るスイッチ基板29と、このスイッチ基板29の下面に、鍵2ごとに設けられたゴムスイッチから成るスイッチ本体30で構成されている。スイッチ基板29は、その後端部がスイッチ取付部20に差し込まれるとともに、前端部および中央部がスイッチ取付部20にねじ止めされている。また、スイッチ本体30は、離鍵状態において、ハンマー5のアクチュエータ部26に若干の間隔をもって対向している。さらに、スイッチ取付部20の下面の前端部には、ハンマー5の上方への回動を規制する、発泡ウレタンなどで構成されたハンマーストッパ31が設けられている。
【0025】
次に、上記構成の鍵盤装置1の動作について説明する。図1に示す離鍵状態から鍵2が押鍵されると、鍵2は、バランスピン13を中心として、同図の反時計方向に回動し、それに伴い、ハンマー5は、キャプスタンスクリュー25を介して押し上げられ、支点軸部21を中心として、上方(同図の時計方向)に回動する。
【0026】
このハンマー5の回動の途中で、その係合突起27が、レットオフ部品6の頭部28に係合し、頭部28を介してレットオフ部品6を圧縮させながら押圧することにより、レットオフ部品6からハンマー5に作用する反力が増大する。ハンマー5の回動が進むと、係合突起27が頭部28から外れることで、レットオフ部品6からの反力が急激に消失する。このようなレットオフ部品6の反力の増大と消失によって、アコースティックピアノに近似したレットオフ感が得られる。
【0027】
その後、ハンマー5がハンマーストッパ31に当接することによって、ハンマー5の上方への回動が終了する。また、ハンマー5の上方への回動の間、そのアクチュエータ部26が鍵スイッチ7のスイッチ本体30を押圧し、鍵スイッチ7をONすることによって、ハンマー5の回動量に応じた鍵2の押鍵情報が検出され、発音制御装置(図示せず)に出力される。そして、この発音制御装置により、検出された押鍵情報に基づいて、電子ピアノの発音が制御される。
【0028】
その後、鍵2が離鍵されると、鍵2は押鍵時と反対方向に回動し、図1に示す離鍵状態に復帰し、それに伴い、ハンマー5も、下方に回動し、離鍵状態に復帰する。
【0029】
次に、本発明に係るハンマー装置について、詳細に説明する。図2および図3は、1オクターブ分のハンマーサポート4を示している。前述したように、このハンマーサポート4は、合成樹脂の成形品で構成されており、互いに左右方向に所定間隔を隔てた状態で、隣り合うハンマー5を仕切る複数の仕切壁51を有している。各仕切壁51は、前記ハンマー支持部19に対応し、側面形状が縦長のほぼ長方形状に形成された方形壁52と、前記スイッチ取付部20に対応し、方形壁52の上部前端に連なりかつ側面形状がほぼ三角形状に形成された三角壁53とで構成されている。そして、このハンマーサポート4において、すべての方形壁52は、その下部の前端部および下端部が左右方向に連なるとともに、上部の後端部が、背壁部54を介して、左右方向に連なっている。一方、すべての三角壁53は、その上部の前半部が、上壁部55を介して、左右方向に連なっている。
【0030】
背壁部54の前面上端部には、方形壁52の上端付近に適宜、斜め上前方に突出する複数の基板係止部54aが突設されている。これらの基板係止部54aと各方形壁52との間に、鍵スイッチ7のスイッチ基板29の後端部が差し込まれた状態で係止される。
【0031】
上壁部55には、その上面前端部に、ねじ孔56aを有しかつ上方に所定長さ突出する複数(本実施形態では2つ)のねじ止め部56が設けられる一方、上面後端部に、上方に所定長さ突出する複数(本実施形態では3つ)の基板支持部57が設けられている。各基板支持部57は、左右方向に若干間隔を隔てた一対の突起で構成され、両突起の間にねじ孔57aが形成されている。また、上壁部55には、隣り合う仕切壁51、51(三角壁53、53)の間にそれぞれ、前記レットオフ部品6を取り付けるための複数の取付孔58が形成されている。なお、上壁部55の各取付孔58の後方に形成された開口59は、ハンマー5が上方に回動したときに、レットオフ部品6に係合するハンマー5の係合突起27が、上壁部55に当たるのを回避するためのものである。
【0032】
また、隣り合う仕切壁51、51間にはそれぞれ、方形壁52と三角壁53が連なる部分に、左右方向に延びる前記支点軸部21が設けられている。この支点軸部21の断面形状は、図2(b)に示すように、縦長の長円状に形成されており、具体的には、上端部および下端部が円弧状に形成されるとともに、それらの間が互いに平行な直線状に形成されている。そして、前述したように、この支点軸部21にハンマー5が回動自在に支持されており、また、このハンマー5は、支点軸部21に係合する軸穴24を介して、ハンマーサポート4に対し、着脱自在になっている。
【0033】
図4は、ハンマー5を示しており、このハンマー5aは、白鍵2a用のものである。同図に示すように、ハンマー本体22は、基本的に左右対称に構成されるとともに、図4(b)に示すような所定の側面形状を有している。ハンマー本体22の前端部は、比較的薄い所定の厚さを有する板状の錘取付部41になっており、この錘取付部41の左右の側面に、板状の錘板23、23がリベット42によって取り付けられている。また、ハンマー本体22の錘取付部41よりも後ろ側の部分には、ハンマー本体22の長さ方向に沿って、前凹部43a、中凹部43bおよび後凹部43cから成る3つの凹部43が並設されている。これらの前凹部43a、中凹部43bおよび後凹部43cは、ハンマー本体22の左右の両側面に形成されており、それぞれの周縁部を残して、側面のほぼ全体に設けられている。
【0034】
ハンマー本体22の後端部に設けられた軸穴24は、側面形状が上方に開放するC字状に形成されており、その開放部分には、外方に広がるように形成されたガイド部44が設けられている。つまり、ハンマー5は、ハンマー本体22の軸穴24の開放部分を介して、支点軸部21に対して着脱可能になっている。
【0035】
図5(a)は、押鍵時におけるハンマー5の回動範囲を示している。すなわち、押鍵時には、ハンマー5は、実線で示す離鍵状態の位置と、2点鎖線で示す位置との間で回動する。この場合、ハンマーサポート4の支点軸部21に係合するハンマー5の軸穴24は、その開放部分が真上よりも後ろ側に向いた状態で回動する。このため、断面形状が長円状の支点軸部21に係合する軸穴24は、支点軸部21に対して抜け止め状態に維持されるので、ハンマー5が支点軸部21から外れることはない。
【0036】
一方、図5(b)は、ハンマー5をハンマーサポート4から取り外す際のハンマー5の動作を示している。なお、このハンマー5の取り外しは、メンテナンス時などにおいて行われ、対応する鍵2、すなわち、ハンマー5がキャプスタンスクリュー25を介して載置されている鍵2を、あらかじめ鍵盤装置1から取り外した状態で実行される。同図(b)に示すように、ハンマー5を、2点鎖線で示す離鍵状態の位置から、実線で示す取り外し位置まで、下方に所定角度、回動させる。この場合、支点軸部21に係合しているハンマー5の軸穴24は、その開放部分が真上に向き、それにより、支点軸部21からの取り外しが可能となる。
【0037】
前述した図1に示すように、鍵盤装置1では、アコースティックなグランドピアノに近似したタッチ感を得られるよう、従来の電子ピアノの鍵盤装置に比べて、鍵前部長さが長く、鍵後部長さが短く構成されており、したがって、バランスピン13は、ハンマー5に近い位置に立設されている。同図に示すように、白鍵2aに対応する前側のバランスピン13は、ハンマー5よりも前方に立設されているものの、黒鍵2bに対応する後ろ側のバランスピン13は、ハンマー5の前端付近に立設されている。この場合、白鍵2a用のハンマー5aは、回動時にバランスピン13に干渉することはないものの、そのハンマー5aと同じものを、黒鍵2b用のハンマー5として使用すると、そのハンマー5が、バランスピン13に干渉するおそれがある。このため、黒鍵2b用のハンマー5は、回動時にバランスピン13に干渉するのを回避できるよう、図6に示すように構成されている。
【0038】
同図に示すように、黒鍵2b用のハンマー5bは、前述した白鍵2aのハンマー5aに対し、錘板23が取り付けられた錘取付部45のみが異なっている。この錘取付部45は、白鍵用ハンマー5aの錘取付部41に比べて、前後方向の長さが短くかつ厚く形成されており、より具体的には、前端45aがバランスピン13よりも後方に位置しかつバランスピン13の横断面の直径よりも大きい厚さ寸法を有している。したがって、黒鍵用ハンマー5bでは、錘取付部45の左右の側面に取り付けられた左右2つの錘板23、23(左右2つの錘)は、バランスピン13の横断面の直径よりも大きい間隔を隔てた状態に配置されている。これにより、黒鍵用ハンマー5bは、バランスピン13に干渉するのを確実に回避することができ、例えば、図6(b)に示すように、実線で示す離鍵状態の位置よりも下方に回動しても、ハンマー本体22および両錘板23、23がバランスピン13に当たることはない。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態によれば、黒鍵用ハンマー5bにおいて、ハンマー本体22の前端、すなわち錘取付部45の前端45aが、バランスピン13よりも後方に位置し、かつ、左右の錘板23、23が、バランスピン13の直径よりも大きい間隔を隔てた状態に配置されているので、黒鍵用ハンマー5bの回動時に、これがバランスピン13当たることはない。すなわち、押鍵に連動して上方に回動した黒鍵用ハンマー5bが、離鍵に伴い、下方に回動して元の離鍵状態の位置に戻る場合でも、バランスピン13に当たることはない。加えて、ハンマーサポート4からの黒鍵用ハンマー5bの取り外しの際に、バランスピン13が邪魔になることはない。以上のように、本実施形態の黒鍵用ハンマー5bによれば、黒鍵用ハンマー5bがバランスピン13に当たるのを確実に回避できるとともに、ハンマーサポート4からの黒鍵用ハンマー5bの取り外しを確保することができる。
【0040】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。図7は、黒鍵用ハンマーの変形例5cを示している。同図に示すように、この黒鍵用ハンマー5cでは、ハンマー本体22における錘取付部46が、上述した黒鍵用ハンマー5bの錘取付部45に比べて薄く形成され、白鍵用ハンマー5aの錘取付部41と同じ厚さに形成されている。また、黒鍵用ハンマー5cの左右の錘板47、47は、バランスピン13の付近で、互いに間隔が大きくなるように形成されている。この黒鍵用ハンマー5cも、上述した黒鍵用ハンマー5bと同様の作用、効果を得ることができる。
【0041】
また、実施形態で示した黒鍵用ハンマー5bの細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 鍵盤装置
2 鍵
2a 白鍵
2b 黒鍵
4 ハンマーサポート
5 ハンマー
5a 白鍵用ハンマー
5b 黒鍵用ハンマー
5c 黒鍵用ハンマーの変形例
13 バランスピン
22 ハンマー本体
23 錘板
41 錘取付部
45 黒鍵用ハンマーの錘取付部
46 黒鍵用ハンマーの変形例の錘取付部
47 黒鍵用ハンマーの変形例の錘板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、前後方向の中央よりも後ろ側に立設されたバランスピンを支点として揺動する鍵を備えた電子鍵盤楽器において、鍵の後端部に載置されるとともに押鍵された鍵に連動して回動するハンマーを備えた電子鍵盤楽器のハンマー装置であって、
前記ハンマーは、
前後方向に延び、後端部の支点を中心として上下方向に回動自在に構成され、前記バランスピンよりも後方に配置されたハンマー本体と、
前端が前記バランスピンよりも前方に位置した状態で、前記ハンマー本体に取り付けられた錘と、
を有し、
前記錘は、前記ハンマーの回動時に前記バランスピンに干渉しないように構成されていることを特徴とする電子鍵盤楽器のハンマー装置。
【請求項2】
前記錘は、前記ハンマー本体の左右の側面に取り付けられた左右2つの錘で構成されており、
前記左右2つの錘は、少なくとも前記バランスピンの付近において、当該バランスピンの横断面の直径よりも大きい間隔を隔てた状態になるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器のハンマー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−76896(P2013−76896A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217444(P2011−217444)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】