説明

電極活物質及びその製造方法、並びに該電極活物質を用いてなる蓄電デバイス

【課題】優れた電池特性、例えば電気容量や高率充放電特性を示す電極活物質を提供する。
【解決手段】電極活物質は、一次元トンネル構造を有する特定のチタン化合物と、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の混合物からなる。電極活物質は、それぞれを単独で活物質として用いた場合の電池特性を超える電池特性、例えば初期容量、高率充放電容量を示し、優れた材料である。そのため、リチウム二次電池等の蓄電デバイス電極材料として実用性の高いものである。また、その製造方法も、特別な装置を必要とせず、また、使用する原料も低価格であることから、低コストで高付加価値の材料を製造可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン化合物からなる電極活物質及びその製造方法に関する。また、前記電極活物質を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、軽量、高エネルギー密度という特徴から、ポータブル機器を中心に近年急速に普及している。リチウム二次電池の電極活物質としては、放電電位が高く、安全性に優れたリチウムチタン複合酸化物やチタン酸化合物が注目されている。例えば、LiTi12で表されるスピネル型(特許文献1)、LiTiで表されるラムスデライト型(特許文献2)等のリチウムチタン複合酸化物や、HLiy−xTi(0<x≦y、0.8≦y≦2.7、1.3≦z≦2.2)(特許文献3)で表されるチタン酸水素リチウムを、電極活物質に用いる技術が知られている。あるいは、HTi1225で表されるチタン酸化合物(特許文献4)、HTi1.73(0.5≦x+y≦1.07、0≦y/(x+y)≦0.2、3.85≦z≦4.0、MはLi以外のアルカリ金属)(特許文献5)、ATi(AはNa、Li、Hから選ばれる少なくとも一種)(特許文献6)等で表される化合物等や、ブロンズ型に類似する結晶構造を有するチタン酸化合物とスピネル型のリチウムチタン複合酸化物の混合物(特許文献7)を用いる技術も知られている。また、負電極において集電体と接する側にスピネル型リチウムチタン複合酸化物層を、セパレーターと対向する側にラムスデライト型リチウムチタン複合酸化物又はアナターゼ型酸化チタンの層を、それぞれ負極活物質として用いた非水電解質電池(特許文献8)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−270175号公報
【特許文献2】特開平11−283624
【特許文献3】国際公開WO99/003784号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2008/111465号パンフレット
【特許文献5】特開2007−220406号公報
【特許文献6】特開2007−243233号公報
【特許文献7】国際公開WO2009/028530号パンフレット
【特許文献8】特開2009−81049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように電極活物質は各種存在するが、それぞれ電気容量や高率充放電特性、充放電サイクル特性などに優劣がある。例えば、LiTi12で表されるスピネル型リチウムチタン複合酸化物は充放電サイクル特性に優れるが、電池容量は高くない。また、LiTiで表されるラムスデライト型リチウムチタン複合酸化物は、理論容量は高いが実際の電池系で取り出せる電気容量は充分でなく、充放電サイクル特性も劣るとともに、別の課題として、合成には1000℃を超える高温加熱工程が必要とされる。HTi1225で表されるチタン酸化合物は、電気容量が高いが、特に近年検討が盛んになってきた高出力用途への適用のために高率充放電特性の改善が求められるようになってきた。従って、現在、蓄電デバイスは様々な用途に向け開発検討がなされているが、用途ごとに最も重視される性能に応じて、他の性能を犠牲にしながら電極活物質が選択されている状況にある。この問題の解決策として、例えば、特許文献8の技術が提案されている。
【0005】
ここで、特許文献8の技術は、個々の活物質の長所を生かすため、電池内部での各活物質の配置を工夫したものであり、容量とサイクル特性のトータルバランスを高めることができる優れた技術である。しかしながら、ラムスデライト型リチウムチタン複合酸化物単独使用時ほどの電気容量は得られず、また、スピネル型リチウムチタン複合酸化物単独使用時ほどのサイクル特性も得られず、両者の平均的な性能となってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、優れた電池特性、例えば電気容量や高率充放電特性を示す電極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、一次元トンネル構造を有する特定のチタン化合物相、とを少なくとも含む電極活物質を蓄電デバイスの活物質に用いると、スピネル型リチウムチタン化合物の容量や高率充放電容量と一次元トンネル構造チタン化合物の容量や高率充放電容量とから計算された理論的な電池容量や高率充放電容量に比べ高い値を示し、時には、それぞれの化合物を単独で活物質として用いた場合のそれぞれが長所としている電池特性と同等もしくはそれを超える電池特性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、一般式として(式1)で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物相、の少なくとも二相を有する電極活物質であり、
(式1)H2-XTi2n+1(Aはアルカリ金属であり、Xは0≦X≦2を満たす実数であり、nはn≧6を満たす整数である。)
(2)前記の一次元トンネル構造を有するチタン化合物相が、式1中のnが6,8,12,18,24のいずれか一種又は二種以上である上記(1)の電極活物質であり、
(3)上記(1)又は(2)に記載の電極活物質を正極又は負極に用いた蓄電デバイスであり、
(4)スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の含有物と、一般式として前記式1で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物の含有物、を混合する工程を有する電極活物質の製造方法であり、
(5)前記(4)で作製した混合物を焼成する工程を有する電極活物質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、一次元トンネル構造を有する特定のチタン化合物相、を少なくとも含む電極活物質を用いると、それぞれを単独で活物質として用いた場合の特性と同等又はそれを超える特性を有する蓄電デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験1で得られたHTi1225のX線粉末回折図である。
【図2】実験1で得られたHTi1225の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実験1で得られたLiTi12のX線粉末回折図である。
【図4】実験1の試料DのX線粉末回折図である。
【図5】実験1の電流負荷特性評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、一般式として前記式1で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物相(以降、「トンネル構造チタン化合物」と記載することもある)、の少なくとも二相を有する電極活物質である。スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物は特に限定されるものではないが、その一例に、一般式として、LiTi12(式2)で表されるリチウムチタン複合酸化物が挙げられる。式2の化合物を例に説明すると、式2のような一般式で代表される化合物相であれば、リチウムやチタン,酸素の一部が他の元素に置換されていてもよいし、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損又は過剰となる非化学量論組成のものでもよい。式2のリチウムチタン複合酸化合物は、粉末X線回折測定(CuKα線使用)において、X線回折パターンのピークが、2θが18.5°および35.7°,43.3°,47.4°,57.3°,62.9°,66.1°の位置(いずれも誤差±0.5°程度)に少なくとも存在する。なお、異種元素で置換すると、前記のピーク位置には若干のシフトが認められる。
【0012】
一般式として式1で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物とは、TiO6八面体が稜共有と頂点共有を介して連結することによりトンネル構造が形成された構造を有し、水素又はアルカリ金属元素がそのトンネル構造内に一次元的に配列することで多量に挿入されることができる化合物である。このようなチタン酸化合物としては例えば一般式としてHTi1225(式3)やH1.5Li0.5Ti13、LiTi1837で表されるチタン酸化合物が挙げられる。本発明において式1のnの値としては、n=6,8,12,18,24が好ましく、n=12,18であるとより好ましい。一次元トンネル構造には特に制限はないが、TiO6八面体が稜共有で2つ連結した2辺と頂点共有で1つ連結した2辺とで取り囲まれたトンネル構造(いわゆる2×1のトンネル構造)以外のサイズのトンネル構造が少なくとも存在することが好ましい。例えばn=12の場合、いわゆる2×1と3×1で表される2種類のトンネル構造が存在し、n=8の場合、4×1のトンネル構造が、n=6の場合、3×1のトンネル構造が存在する。アルカリ金属Aとしてはリチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、特にリチウムが好ましい。式1のような一般式で代表されるものであれば、水素やチタン,酸素の一部が他の元素に置換されていてもよいし、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損又は過剰となる非化学量論組成のものでもよい。式3のチタン酸化合物は、空間群P2/mで表され、粉末X線回折測定(CuKα線使用)において、X線回折パターンのピークが、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,30.3°,31.1°,43.5°,44.5°,48.6°,57.6°,59.0°の位置に存在する(いずれも誤差±0.5°程度)。なお、異種元素で置換すると、前記のピーク位置には若干のシフトが認められる。また、ブロンズ型に類似する構造を有するチタン酸化合物(特許文献7)のX線回折パターンには、2θ=23.9°,33.4°の位置にピークが存在するが、これら2つのピークは、式3のチタン酸化合物のX線回折パターンには認められない。このため、両者は明確に区別される。
【0013】
本発明の電極活物質は、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、トンネル構造チタン化合物相の少なくとも二相がそれぞれ別相として存在している電極活物質をさし、粉末X線回折測定により確認することができる。電極活物質の形状は後述の通り粒子状であることが好ましいが、両相の存在状態としては、一次粒子内に両相が共存してもよく、各単相からなる一次粒子が両相共存二次粒子や凝集体を形成していてもよく、各単相からなる一次粒子,二次粒子,凝集体などが独立に存在していてもよく、一方の相が一次粒子として存在し、他方の相が二次粒子として存在するなど、その存在形態は問わず、リチウムチタン化合物とトンネル構造チタン化合物との間になんらの結合状態の無い混合物であってもよい。なお、一次粒子は各単相からなることが好ましい。もちろん、前記二相以外の別相の存在を排除するものではない。なお、本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、通常の混合,粉砕,濾過,水洗,搬送,秤量,袋詰め,堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。
【0014】
前記電極活物質は粒子状であることが好ましく、その平均粒子径(電子顕微鏡法による平均一次粒子径で表し、異方性形状の場合は長軸長とする。)は、特に制限を受けないが、通常は、0.05〜100μmの範囲が好ましく、0.1〜20μmの範囲であれば更に好ましい。また粒子形状は、球状、多面体状等の等方性形状、針状、棒状、板状等の異方性形状、不定形状等特に制限は無いが一次粒子を集合させて二次粒子とすると、流動性、付着性、充填性等の粉体特性が向上し、電極活物質に用いる場合には、サイクル特性等の電池特性も改良されるので好ましい。二次粒子を含む電極活物質粒子の平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、0.1〜20μmの範囲にあるのが好ましい。比表面積(BET法)は特に制限は無いが、0.1〜100m/gの範囲が好ましく、1〜100m/gの範囲が更に好ましく、2〜30m/gの範囲がより一層好ましい。粒子形状も、一次粒子と同様に制限は無く、様々な形状のものを用いることができる。
【0015】
スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、トンネル構造チタン化合物相の存在比は特に制限は無く、二相共存による本発明の相乗効果が得られるのであれば、任意の割合としてよいが、その比は質量比で0.1:9.9〜9.9:0.1が好適であり、3:7〜7:3がより好適である。
【0016】
本願発明の電極活物質が優れた電池特性を示す理由は明確ではないが、スピネル型結晶構造のリチウムチタン化合物はリチウムイオンの挿入・脱離速度に優れた材料であり、トンネル構造チタン化合物は多量のリチウムイオンをそのトンネル内に吸蔵することができる容量特性に優れた材料であるため、それらが共存することによる相乗効果に起因するものと本発明者らは考えている。
【0017】
前記電極活物質の一次粒子あるいは二次粒子の粒子表面には、炭素や、シリカ、アルミナ等の無機化合物、界面活性剤、カップリング剤等の有機化合物から選ばれる少なくとも1種が被覆されていても良い。なお、ここでいう被覆とは表面を完全に覆った層だけでなく、当該物質が表面に島状に点在する状態も含む。これらの被覆種は、1種を被覆することも、2種以上を積層したり、混合物や複合化物として被覆することもでき、特に、炭素で被覆すると電気伝導性が良くなるので、電極活物質として用いる場合には好ましい。炭素の被覆量は、TiO換算の各化合物に対し、C換算で0.05〜10重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ないと所望の電気伝導性が得られず、多いと却って特性が低下する。より好ましい含有量は、0.1〜5重量%の範囲である。尚、炭素の含有量は、CHN分析法、高周波燃焼法等により分析できる。あるいは、チタン、リチウム、水素、酸素以外の異種元素を、前記の結晶形を阻害しない範囲で、その結晶格子中にドープさせるなどして含有させることもできる。
【0018】
次に、本発明は、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の含有物と、一般式として前記式1で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物の含有物、とを混合する工程を有する電極活物質の製造方法である。
【0019】
式1で表されるトンネル構造チタン化合物は、公知の方法で得ることができる。例えば、MTi2y+1(Mはアルカリ金属元素を表し、yは2より大きい整数である)(式4)の化学組成をとる化合物と酸性化合物とを反応させ、その後加熱脱水することにより得られる。式4中のMで表されるアルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは工業的に有利に実施できるので好ましい。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸を用いると反応が進み易く、塩酸、硫酸であれば工業的に有利に実施できるので好ましい。
【0020】
式4の化合物は、チタン化合物とアルカリ金属化合物とを、乾式または湿式で所望の比率で混合した後、焼成することで得られる。チタン化合物としては、チタン酸化物やチタン塩化物等の無機チタン塩、及び、チタンアルコキシド等の有機チタン化合物を用いることができ、アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。中でも、チタン酸化物とアルカリ金属炭酸塩を用いるのが好ましい。尚、本発明では、チタン酸化物とは、チタンと酸素の化合物及びその含水素化合物、含水物または水和物を包含する化合物を意味し、例えば、二酸化チタン(TiO)等の酸化チタンのほか、メタチタン酸(TiO・HO)、オルトチタン酸(TiO・2HO)、ペルオキソチタン酸等が挙げられ、これらから選ばれる1種あるいは2種以上を用いることができる。また、結晶性の化合物であっても、非晶質であってもよく、結晶性の場合は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型等のいずれであってもよく、結晶形にも特に制限を受けない。焼成温度は600〜1000℃の範囲が好ましく、この範囲より低いと反応が進み難く、この範囲より高いと生成物同士の焼結が生じ易い。更に好ましい範囲は、700〜900℃である。反応を促進し、且つ生成物の焼結を抑制するために、焼成を2回以上繰り返して行うこともできる。焼成には、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等の公知の焼成炉を用いることができる。焼成雰囲気としては、大気中及び非酸化性雰囲気を適宜選択できる。焼成機器は、焼成温度等に応じて適宜選択する。焼成後、必要に応じて、粉砕を行っても良い。粉砕は、ハンマーミル、ピンミル、遠心粉砕機等の衝撃粉砕機、ローラーミル等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いて乾式で行なっても良く、サンドミル、ボールミル、ポットミル等を用いて湿式で行っても良い。
【0021】
以下では、式1におけるn=12の場合(式3)を例に製造方法を述べる。前記式3のチタン酸化合物は、式4の化学組成をとる化合物と酸性化合物とを反応させた後、適宜洗浄、固液分離、乾燥を行い、150〜400℃の範囲の温度で加熱脱水することで得られる。式4中のyの値は2より大きければ特に制限は無いが、3〜5の範囲の整数であるのが好ましい。具体的には、NaTi、KTi、CsTi11等が挙げられる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸を用いることができる。酸性化合物の量や濃度には特に制限は無いが、式4の化合物に含まれるアルカリ金属イオンの反応当量以上で、遊離酸の濃度を2規定以下にするのが好ましい。酸性化合物と式4の化合物との反応温度に特に制限は無いが、式4の化合物の構造が変化し難い100℃未満の範囲の温度で行なうのが好ましい。加熱脱水には、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等の公知の焼成炉を用いることができ、加熱雰囲気は、大気中、不活性ガス中のいずれであっても良い。好適な加熱脱水温度は、用いた式4の化合物種にも依存するが、例えばNaTiと硫酸水溶液を用いた場合は230〜270℃の範囲であると式3の化合物の結晶性が高くなり易く、且つ、単相が得られ易い。230〜270℃の範囲を外れると、HTi1225相に加え、他の相が存在し易くなる。
【0022】
なお、式3で表される化合物のHの一部をアルカリ金属で置換した、H2−xTi1225(Aはアルカリ金属)(式5)の化合物は、式3の化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程を含む製造方法によって得られる。アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。式3の化合物とアルカリ金属化合物を反応させるには、両者を液相中で混合するなどして接触させる方法を用いても良く、固相中で混合するなどして接触させ加熱しても良い。液相中で反応を行なう場合、反応はスラリー中で行うのが好ましく、水性媒体を用いてスラリー化するのが更に好ましい。水性媒体を用いる場合は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩等の水溶性アルカリ金属化合物を用いるのが好ましい。固相中で反応を行なう場合は、加熱によって、アルカリ金属化合物が溶融塩となって、式3の化合物と反応すると考えられ、アルカリ金属化合物としては、比較的融点が低いアルカリ金属の硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩を用いるのが好ましい。加熱温度は、用いるアルカリ金属化合物によって適宜設定されるが、通常は、150〜400℃の範囲が好ましい。式5中のxの値の範囲は、アルカリ金属化合物による水素イオンの置換量を制御することで定まる。例えば、式3の化合物に含まれる水素イオンの一部をリチウムイオンと置換し、式5中のxの範囲を0<x≦2に調整すれば、一般式としてH2−xLiTi1225(0<x≦2)の化学組成をとる化合物が得られる。
【0023】
得られた式5の化合物は、必要に応じて洗浄、固液分離した後、乾燥する。あるいは、粒子同士の凝集の程度に応じて、公知の機器を用いて本発明の効果を損ねない範囲で粉砕してもよい。
【0024】
式3のチタン酸化合物の二次粒子を製造するには、式4の化合物と酸性化合物とを反応させる工程において、更に(1)式4の化合物を造粒してから酸性化合物と反応させるか、又は(2)式4の化合物を酸性化合物と反応させてから造粒する工程が含まれていれば良い。また、式5のチタン酸の二次粒子を製造するには、式3のチタン酸化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程において、更に(1)式3のチタン酸化合物とアルカリ金属化合物とを共に造粒後に反応させるか、(2)式3のチタン酸化合物を造粒してからアルカリ金属化合物と反応させるか、又は(3)式3のチタン酸化合物をアルカリ金属化合物と反応させてから造粒する工程が含まれていれば良い。造粒には、乾燥造粒、撹拌造粒、圧密造粒等が挙げられ、二次粒子の粒子径や形状を調整し易いので、乾燥造粒が好ましい。乾燥造粒には、原料化合物あるいは反応生成物を含むスラリーを脱水後、乾燥して粉砕する;前記スラリーを脱水後、成型して乾燥する;前記スラリーを噴霧乾燥する等の方法が挙げられ、中でも噴霧乾燥が工業的に好ましい。
【0025】
Ti17の化合物やHTi13の化合物も、式4の化合物、例えばKTiやNaTiを原料に調製することができる。また、HTi1837の化合物は、式3のチタン酸化合物を更に300〜600℃の温度で焼成することにより得られる。これらの化合物についても、式3のチタン酸化合物と同様に、水素の一部をアルカリ金属で置換したり、造粒したりして用いることができる。
【0026】
式2のスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物は、チタン化合物とリチウム化合物とを、乾式または湿式で所望の比率で混合した後、焼成することで得られる。チタン化合物としては、段落(0020)で述べた、式4の化合物の調製に用いることができるものと同様のチタン化合物を用いることができる。焼成温度は600〜1000℃の範囲が好ましく、この範囲より低いと反応が進み難く、この範囲より高いと生成物同士の焼結が生じ易い。更に好ましい範囲は、650〜900℃である。反応を促進し、且つ生成物の焼結を抑制するために、焼成を2回以上繰り返して行うこともできる。焼成には、前述の公知の焼成炉を用いることができる。焼成雰囲気としては、大気中及び非酸化性雰囲気を適宜選択できる。焼成機器は、焼成温度等に応じて適宜選択する。焼成後、焼結の程度に応じて、粉砕を行っても良い。粉砕には、前述の粉砕機、粉砕方式を採用することができる。
【0027】
式2のスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の二次粒子を製造するには、リチウム化合物とチタン化合物とを反応させる工程において、更に(1)リチウム化合物とチタン化合物とを共に造粒後に反応させるか、(2)チタン化合物を造粒してリチウム化合物と反応させるか、又は(3)リチウム化合物をチタン化合物と反応させてから造粒する工程が含まれていれば良い。造粒には、前述の造粒方法を適宜用いることができるが、噴霧乾燥が工業的に好ましい。
【0028】
スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物含有物と、トンネル構造チタン化合物含有物の混合は、任意の方法で行うことができ、例えば、各化合物粒子を乾式や湿式で混合する方法が挙げられる。乾式混合は、例えば、流体エネルギー粉砕機、衝撃粉砕機等の乾式粉砕機や、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速攪拌機等を用い、両者を攪拌、混合することで行うことができる。湿式混合は、例えば、両化合物をスラリーに分散させ、サンドミル、ボールミル、ポットミル、ダイノミルなどの湿式粉砕機を通して混合しても良い。場合によっては、混合後のスラリーをスプレードライなどの噴霧乾燥機で噴霧乾燥しても良い。また、各化合物個別に、バインダー、導電材などと混合した電極合剤スラリーを調製し、両電極合剤スラリーを混合することで上記工程を行ってもよい。
【0029】
また、本発明の電極活物質の製造においては、前記混合を行った後、該混合物を焼成するのが、蓄電デバイスに用いた際の高率充放電特性が向上するため、好適である。焼成温度は150〜400℃の範囲が好ましい。焼成温度が高いとトンネル構造チタン化合物の相転移が起きてしまい、蓄電デバイスに用いた際の電池特性の向上が小さくなる。好適な焼成温度は式1中のxの値(アルカリ金属置換量)にも依存するが、式3のチタン酸化合物であれば、更に好ましい範囲は230〜270℃である。焼成時間は特に制限は無いが、5時間程度が工業的に好ましい。反応を促進するために、焼成を2回以上繰り返して行うこともできる。焼成には、前述の公知の焼成炉を用いることができる。焼成雰囲気としては、大気中及び非酸化性雰囲気を適宜選択できる。焼成機器は、焼成温度等に応じて適宜選択する。焼成後、焼結の程度に応じて、粉砕を行っても良い。粉砕には、前述の粉砕機、粉砕方式を採用することができる。
【0030】
スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物と、トンネル構造チタン化合物を少なくとも含む電極活物質について、二次粒子を製造するには、両化合物を混合する工程において、(1)トンネル構造チタン化合物とスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物とを共に造粒後に混合させるか、(2)トンネル構造チタン化合物又はスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の一方を造粒してから他方の化合物と混合させるか、(3)トンネル構造チタン化合物とスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物と混合させてから造粒するか、又は(4)トンネル構造チタン化合物前駆体(式4の化合物を酸性化合物と反応させた後、加熱脱水する前のもの)とスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物とを混合後造粒してから加熱脱水する工程、が含まれていれば良い。造粒には、乾燥造粒、撹拌造粒、圧密造粒等が挙げられ、二次粒子の粒子径や形状を調整し易いので、乾燥造粒が好ましい。乾燥造粒には、トンネル構造チタン化合物、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物を含むスラリーを脱水後、乾燥して粉砕する;前記スラリーを脱水後、成型して乾燥する;前記スラリーを噴霧乾燥する等の方法が挙げられ、中でも噴霧乾燥が工業的に好ましい。
【0031】
噴霧乾燥するのであれば、用いる噴霧乾燥機としては、ディスク式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式などの乾燥機をスラリーの性状や処理能力に応じて適宜選択することができる。二次粒子径の制御は、例えば、スラリー中の固形分濃度を調整したり、あるいは、上記のディスク式ならディスクの回転数を、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式等なら噴霧圧やノズル径を調整する等して、噴霧される液滴の大きさを制御することにより行える。乾燥温度としては入り口温度を150〜250℃の範囲、出口温度を70〜120℃の範囲とするのが好ましい。スラリーの粘度が低く、造粒し難い場合や、粒子径の制御を更に容易にするために、有機系バインダーを適量、加えても良い。用いる有機系バインダーとしては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、加熱処理により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0032】
また、本発明の電極活物質を含有する電極を構成部材として用いた蓄電デバイスは、電池特性、特に高容量で、高率充放電特性に優れ、かつ可逆的なリチウム挿入・脱離反応が可能であり、高い信頼性が期待できる蓄電デバイスである。
【0033】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、キャパシタ等が挙げられ、これらは電極、対極及びセパレーターと電解液とを含み、電極は、前記電極活物質にカーボンブラックなどの導電材とフッ素樹脂などのバインダーを加え、適宜成形または電極基板に塗布して得られる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、または黒鉛などの炭素系材料などを用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極には公知の材料、例えば、リチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等を用いることができる。キャパシタの場合は、前記電極活物質と、黒鉛とを用いた非対称型キャパシタとすることができる。セパレーターには、例えば、多孔性ポリエチレンフィルムなどを用いることができ、電解質としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタンなどの溶媒にLiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiBF4などのリチウム塩を溶解させた電解液、固体電解質、溶融塩など、常用の材料を用いることができる。蓄電デバイスの構造としては電極活物質を除き、上記の他、周知のものが使用でき、特に限定されない。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
実験1
(原料であるHTi1225の製造)
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)1000gと、炭酸ナトリウム451.1gに、純水を1284gを加え、攪拌してスラリー化した。このスラリーを噴霧乾燥機(MDL−050C型:藤崎電機社製)を用いて、入口温度200℃、出口温度70〜90℃の条件で噴霧乾燥した。得られた噴霧乾燥品を、電気炉を用い、大気中で800℃の温度で10時間加熱焼成し、メジアン径が5.5μmの試料を得た。
【0036】
得られた試料のICP発光分析法(ICPS−7500:島津製作所社製)による化学組成分析を行ったところ、Na:Ti=1.99:3.00であった。また、X線粉末回折装置(RINT2550V:リガク社製)により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2/mの結晶構造のNaTiの単一相であることが明らかになった。
【0037】
得られたNaTi 1077gに、純水4210gを加え、スラリー化し、64%硫酸657gを加え、攪拌しながら60℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗した。ろ過ケーキに純水を加え3326gにしてから再分散させ、64%硫酸34gを加え、攪拌しながら70℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗乾燥して試料を得た。
【0038】
得られた試料について、ICP発光分析法により、化学組成を分析したところ、ナトリウムは検出されず、ほぼ完全にプロトン交換されたHTiの化学式で妥当であった。さらに、X線粉末回折装置により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造のHTiの単一相であることが明らかとなった。
【0039】
このようにして得られたHTiの粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM−5400:日本電子社製)により調べたところ、サブミクロン〜ミクロンオーダーの等方的又は棒状の形状を有していた。
【0040】
得られたHTi300gを、電気炉を用い、大気中で260℃で10時間加熱脱水し、試料Aを得た。
【0041】
得られた試料Aについて、250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、HTi1225の化学組成が妥当であることが確認された。また、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2/mの結晶構造のHTi1225の単一相であることが明らかとなった。そのX線回折図形を図1に示す。
【0042】
このようにして得られたHTi1225粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。前駆体であるHTiの形状がほぼ保持されたサブミクロン〜ミクロンオーダーの等方的又は棒状の形状を有していた。
【0043】
(LiTi12の製造)
4.5モル/リットルの水酸化リチウム水溶液340ミリリットルに、ルチル型とアナターゼ型の混晶の二酸化チタン(PT−401M:石原産業製)125gを添加し分散させた。このスラリーを攪拌しながら液温を80℃に保ち、オルトチタン酸を、TiO2換算で25g分散させた水性スラリー250ミリリットルを添加して、チタン化合物及びリチウム化合物を含むスラリーを得た。このスラリーを噴霧乾燥機(GB210‐B型:ヤマト科学社製)を用いて、入口温度190℃、出口温度80℃の条件で噴霧乾燥を行い、乾燥造粒物を得た後、乾燥造粒物を大気中700℃の温度で3時間焼成を行い、試料Bを得た。
【0044】
得られた試料Bについて、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、スピネル型結晶構造のLiTi12の単一相であることを確認した。そのX線回折図形を図3に示す。
【0045】
このようにして得られたLiTi12の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、0.01〜1μm程度の一次粒子が、球状や多面体状に集合して二次粒子を形成しており、メジアン径は5.7μm、BET法で測定した比表面積は11m/gであった。
【0046】
(混合物の作製)
このようにして得られたHTi1225 7gと、LiTi12 3gに、純水50gを加え、超音波分散を5分間行い、スラリーを作製した。このスラリーを、100℃の乾燥機に投入し、純水を蒸発させ、蒸発乾固物を得た。引き続き、この蒸発乾固物を電気炉にて260℃で5時間、大気中で焼成し、試料Cを得た。また、HTi1225を5g、LiTi12を5g、純水を50gとした以外は同様の手順で試料Dを、HTi1225を3g、LiTi12を7g、純水を50gとした以外は同様の手順で試料Eを得た。試料DのX線回折図形を図4に示す。図4から、試料DはHTi1225相とLiTi12相がそれぞれ別相として存在していることがわかる。本実験の試料C〜Eが本発明の活物質であり、それぞれ実施例1〜3とし、本発明の原料である試料A,Bを比較例1,2とする。
【0047】
(蓄電デバイスの作製)
電極活物質として上記手順で得られた、試料A〜Eを、導電剤としてのアセチレンブラック粉末(デンカブラック(登録商標)(粉状):電気化学工業社製)、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂(KFポリマーL‐#1120:クレハ社製 溶媒N‐メチル‐2‐ピロリドン)と重量比で100:10:10(PVdFは樹脂分)で混合し、固形分濃度が30%になるようN-メチル‐2‐ピロリドンを加え、自転・公転ミキサー(泡とり練太郎ARE−310:シンキー社製)で2000rpmで15分混合を行って、ペーストを調製した。このペーストをアルミ箔(IN30‐H18(20μm):富士加工紙株式会社製)上に塗布し、120℃の温度で10分乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、17MPaでプレスして電極とした。この直径12mmに切り出した電極の活物質重量が2.5mgになるよう塗布量(塗布厚)を調整した。
【0048】
この電極を120℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型セルに正極として組み込んだ。コイン型セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウム(リチウムフォイル:本城金属社製)を直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比1:2)を用いた。
【0049】
電極はコイン型セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びウエーブワッシャ(いずれもSUS316製)をのせ、その上から非水電解液を溢れるほど滴下し、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、本発明の蓄電デバイス(デバイスc〜e)及び比較の蓄電デバイス(デバイスa,b)を得た。なお、上記の0.5mm厚スペーサー及びウエーブワッシャ等の電池部材にはCR2032用パーツセット(宝泉社)を用いた。
【0050】
蓄電デバイス(デバイスa〜e)について、セル作製後3時間熟成した後、0.25Cで2サイクル充放電するコンディショニングを行った。コンディショニング2サイクル目の放電容量を初期容量とした。その後、種々の電流量で放電容量(mAh/g)を測定した。測定は、電圧範囲を1〜2.5Vに、充電電流は0.25Cに、放電電流は0.25C〜50Cの範囲に設定して行った。環境温度は25℃とした。尚、ここで1Cとは満充電後に1時間で完全放電できる電流値を言うが、本評価では、デバイスbでは0.4mAが、その他のデバイスでは0.5mAが1C電流値に相当するものとして測定を行った。
【0051】
【表1】

【0052】
表1は比較例の測定結果である。試料Aは容量特性に優れ、試料Bは高率放電容量に優れることがわかる。
【0053】
【表2】

【0054】
表2は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比70:30から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.7)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.3))して求められる試料Cの容量計算値(mAh/g)と、及びデバイスcの容量実測値(mAh/g)である。また、表2における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比70:30を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.7)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.3))したものである。デバイスcはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示し、更に、0.25〜2Cの電流値においては、試料A,Bをそれぞれ単独で用いたデバイスa,bを超える放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0055】
【表3】

【0056】
表3は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比50:50から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.5)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.5))して求められる試料Dの容量計算値(mAh/g)と、デバイスdの容量実測値(mAh/g)である。また、表3における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比50:50を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.5)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.5))したものである。デバイスdはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示し、更に、0.5〜3Cの電流値においては、デバイスa,bを超える放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0057】
【表4】

【0058】
表4は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比30:70から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.3)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.7))して求められる試料Eの容量計算値(mAh/g)と、デバイスeの容量実測値(mAh/g)である。また、表4における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比30:70を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.3)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.7))したものである。デバイスeはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0059】
以上の結果について実電流値をx軸にとりグラフ化したものを図5に示す。図5から明らかなように、100mA以上の電流値でも、実施例1〜3の本発明の電極活物質を用いたデバイスc〜eは、高率放電容量に優れるデバイスbと同等の放電容量を示し、高率放電容量に優れることがわかる。更に、低率放電時の容量において特にデバイスcやデバイスdは、容量の低いスピネル型結晶構造リチウムチタン化合物である試料Bを配合しているにもかかわらず、高容量に特徴のあるトンネル構造チタン化合物を用いたデバイスaを超える放電容量を示すことがわかる。
【0060】
実験2
試料Dの作製において、蒸発乾固物の電気炉での焼成を行わなかった以外は試料Dと同様の手順で試料Fを得た。本実験の試料Fが本発明の活物質であり、実施例4とする。また、試料Fと実験1で作製した試料Dを用いて、実験1と同様の手順で蓄電デバイスd’及び蓄電デバイスfを作製した。
【0061】
蓄電デバイスd’,fを用いて、放電電流を0.25C〜5Cの範囲に設定した以外は実験1と同様の手順で高率放電容量を測定した。0.25Cでの放電容量を100としたときの、各放電電流値における放電容量の比率(容量維持率)を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
表5中、試料A,Bを混合後、焼成を行った試料Dを用いたデバイスd’及びfの高率放電容量測定は、1C電流値を0.5mAとして行っている。一方、表5における1C電流値の計算値では1C電流値は0.45mAである(表1における試料Aの1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.5)+表1における試料Bの1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.5))。従って、デバイスd’及びfでは、計算値のそれと比較して、各測定電流値において10%以上の高負荷がかかっている(+10%以上の大電流を流している)ことになる。それにもかかわらず、デバイスfでも充分な高率放電特性が得られることがわかる。また、デバイスd’の測定結果から明らかなように、混合後焼成を行うことで更に高率放電特性が向上していることがわかる。
【0064】
実験3
実験1とは異なる製法で得られたスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物を用いて、本発明の効果を検証した。
【0065】
(LiTi12の製造)
炭酸リチウム粉末187gと、ルチル型の二酸化チタン(CR−EL:石原産業製)500gをヘンシェルミキサーにて1800rpmで10分間混合した。この混合物を電気炉にて、大気中940℃の温度で3時間焼成を行い、試料Gを得た。
【0066】
得られた試料Gについて、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、スピネル型結晶構造のLiTi12の単一相であることを確認した。粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、サブミクロン〜ミクロンオーダーの大きさの不定形粒子であった。
【0067】
(混合物の作製)
実験1と同様の方法で得られたHTi1225(試料A)5gと、上記実験3で得られたLiTi12(試料G)5gに、純水50gを加え、超音波分散を5分間行い、スラリーを作製した。このスラリーを、100℃の乾燥機に投入し、純水を蒸発させ、蒸発乾固物を得た。引き続き、この蒸発乾固物を電気炉にて260℃で5時間、大気中で焼成し、試料Hを得た。本実験の試料Hが本発明の活物質であり、実施例5とし、試料Gを比較例3とする。
【0068】
試料A,G,Hを電極活物質として用いてリチウム二次電池を調製し、その充放電サイクル特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0069】
上記各試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリ四フッ化エチレン樹脂を重量比で5:4:1で混合し、乳鉢で練り合わせ、直径10mmの円形に成型してペレット状とした。ペレットの重量は10mgであった。このペレットに直径10mmに切り出したアルミニウム製のメッシュを重ね合わせ、9MPaでプレスして電極とした。
【0070】
この電極を100℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに正極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0071】
電極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。作製したデバイスはそれぞれデバイスa,g,hとした。
【0072】
充放電容量の測定は、電圧範囲を1.0〜2.5Vに、充放電電流を0.2mAに設定して、室温下、定電流で行った。2サイクル目と10,20、30サイクル目の充放容量を測定し、(各サイクル時の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)をサイクル特性とした。この値が大きい程、サイクル特性が優れている。結果を表6に示す。実施例5の本発明の活物質Hを用いたデバイスhは比較例のデバイスa,gと同等以上のサイクル特性を示すことがわかる。
【0073】
【表6】

【0074】
実験4
実験3の充放電を60℃で行った以外は実験3と同様にして高温サイクル特性を評価した。結果を表7に示す。実施例5の本発明の活物質Hを用いたデバイスhは比較例のデバイスa,gと同等以上のサイクル特性を示すことがわかる。
【0075】
【表7】

【0076】
また、試料A,G,Hを用いて実験1と同様にデバイスを作製し、50C放電容量の0.25C放電容量比を測定した結果、試料Aでは18%、試料Gでは23%であったのに対し、両者を混合した試料Hでは38%を示し、予想し得ない効果が認められた。

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の電極活物質は、一次元トンネル構造を有する特定のチタン化合物と、スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の混合物からなるが、それぞれを単独で活物質として用いた場合の電池特性を超える電池特性、例えば初期容量、高率充放電容量を示し、優れた材料である。そのため、リチウム二次電池等の蓄電デバイス電極材料として実用性の高いものである。
【0078】
また、その製造方法も、特別な装置を必要とせず、また、使用する原料も低価格であることから、低コストで高付加価値の材料を製造可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物相と、
一般式として(式1)で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物相、
の少なくとも二相を有する電極活物質。
(式1)H2-XTi2n+1(Aはアルカリ金属であり、Xは0≦X≦2を満たす実数であり、nはn≧6を満たす整数である。)
【請求項2】
前記の一次元トンネル構造を有するチタン化合物相が、式1中のnが6,8,12,18,24のいずれか一種又は二種以上である請求項1記載の電極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極活物質を正極又は負極に用いた蓄電デバイス。
【請求項4】
スピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物の含有物と、
一般式として(式1)で表される一次元トンネル構造を有するチタン化合物の含有物、を混合する工程を有する電極活物質の製造方法。
(式1)H2-XTi2n+1(Aはアルカリ金属であり、Xは0≦X≦2を満たす実数であり、nはn≧6を満たす整数である。)
【請求項5】
前記請求項4で作製した混合物を焼成する工程を有する電極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−248333(P2012−248333A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117307(P2011−117307)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】