説明

電極用バインダー

【課題】サイクル特性とレート特性の良好な蓄電素子を得ることができる電極用バインダー、この電極用バインダーを使用した電極、及びこの電極を使用した電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】ポリウレタンウレア樹脂を含んでなる電極用バインダーであって、該ポリウレタンウレア樹脂がウレタン結合を有するソフトセグメントとウレア結合を有するハードセグメントとを含み、該ソフトセグメントがポリアルキレンエーテルジオールと有機ジイソシアネートとが付加した構造を有し、該ハードセグメントが有機ジイソシアネートと有機ジアミンとが付加した構造を有することを特徴とする上記電極用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスの電極に使用される電極用バインダー、電極及びその製造方法、並びに電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスは、化学エネルギーを電気エネルギーに変換可能なデバイスであり、一次電池と蓄電素子とに大別される。一次電池とは、化学エネルギーを電気エネルギーとして放電可能ではあるが充電はできない電気化学デバイスである。蓄電素子とは、化学エネルギーを電気エネルギーとして放電可能であるとともに、電気エネルギーを化学エネルギーとして充電可能な電気化学デバイスである。代表的な一次電池としては、マンガン電池、アルカリ電池等の乾電池や、リチウム電池、酸化銀電池等のコイン電池・ボタン電池が広く使用されている。代表的な蓄電素子としては、充放電に伴い電極でファラデー反応が起きる二次電池、充放電に伴い電極で吸着等の非ファラデー反応が起きる電気二重層キャパシタ、充放電に伴い正極で非ファラデー反応、負極でファラデー反応が起きるリチウムイオンキャパシタが実用化されている。
【0003】
二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池とニッケル水素二次電池は、軽量、高エネルギー、及び長寿命であることが大きな特徴であり、ノートブックコンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。また、低環境負荷社会への移行に伴い、ハイブリッド型電気自動車(hybrid Electric Vehicle、以下「HEV」と略記する。)及びプラグインHEV(Plug−in hybrid Electric Vehicle、以下「PHEV」と略記する。)の電源、さらには住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
【0004】
電気化学デバイスは、通常は電極と電解液とが金属缶またはラミネートフィルムパッケージからなる外装体内に封入された基本構造を有しており、上述の蓄電素子においては、電極面積を大きくして充放電効率を向上させるために、電極として活物質を含む活物質層が金属からなる集電体に積層された電極が広く用いられている。活物質層には、電気化学反応に直接係る活物質以外に、活物質を集電体に固着させるためのバインダーが含まれており、必要に応じてその他の成分、たとえば導電性に向上させるための導電助剤も含まれている。
【0005】
蓄電素子においては、容量、サイクル特性、高温低温での充放電特性、及びレート特性等の向上を図るという観点から、活物質層を構成する材料の改良は最も重要である。しかしながら、電池の容量、サイクル特性及びレート特性等の向上には、活物質の種類や量に加えて、前記バインダーも重要な決定要因となる。もし、少量のバインダーで十分な量の活物質粒子を集電体、及び/又は他の活物質粒子と結着することができないと、容量の大きな電池を得ることができない。また、充放電を繰り返すことによって活物質が膨張/収縮を繰り返すことによるバインダーの結着力の低下は、容量の低下及びレート特性の低下を引き起こすことになる。そのため、バインダーとして好ましい材料に関しては、これまで種々の樹脂、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、ポリウレタンが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−001676号公報
【特許文献2】特開平06−093025号公報
【特許文献3】特開平05−21068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの樹脂をバインダーとして使用した時に、活物質同士及び活物質と集電体との結着性の劣化で電池容量が減少し、十分なサイクル特性及びレート特性が必ずしも得られないという問題があった。
【0008】
また、結着力を向上させるために活物質重量に対するバインダー量の比を多くすると、活物質粒子の表面をバインダーで被覆してしまい、電池反応が妨げられ、電池の容量、およびレート特性が低下してしまうという別の問題が生じる。
【0009】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたもので、サイクル特性とレート特性の良好な蓄電素子を得ることができる電極用バインダー、この電極用バインダーを使用した電極、及びこの電極を使用した電気化学デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するポリウレタンウレア樹脂を電極用バインダーに用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の電極用バインダー、電極及びその製造方法、並びに電気化学デバイスである。
1.ポリウレタンウレア樹脂を含んでなる電極用バインダーであって、該ポリウレタンウレア樹脂がウレタン結合を有するソフトセグメントとウレア結合を有するハードセグメントとを含み、該ソフトセグメントがポリアルキレンエーテルジオールと有機ジイソシアネートとが付加した構造を有し、該ハードセグメントが有機ジイソシアネートと有機ジアミンとが付加した構造を有する上記電極用バインダー。
2.前記ハードセグメントが前記ポリウレタンウレア樹脂に占める含有量であるハードセグメント分率が、1%〜50%である上記1記載の電極用バインダー。
(ここで、ハードセグメント分率(%)=(ウレア部分の数平均分子量)/((ウレタン部分の数平均分子量)+(ウレア部分の数平均分子量))×100 )
3.前記ポリアルキレンエーテルジオールがネオペンチルグリコールから導かれる構成単位とテトラメチレングリコールから導かれる構成単位とを有する共重合体であり、数平均分子量換算でネオペンチルオキシ基とテトラメチレンオキシ基との和に対するネオペンチルオキシ基のモル分率が0.05〜0.15である上記1または2に記載の電極用バインダー。
4.上記1から3のいずれかに記載の電極用バインダー、及び電極活物質を含んでなる活物質層を集電体に積層してなる電極。
5.上記4に記載の電極の製造方法であって、前記電極用バインダー、前記電極活物質、及びN−アルキル−2−ピロリドンを含んでなるスラリーを前記集電体に塗布する工程を有する電極の製造方法。
6.上記4に記載の電極、及び電解質を含んでなる電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極用バインダーを使用した電極を有する電気化学デバイスは、良好なサイクル特性とレート特性を示すという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の電気化学デバイスの構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態で用いられるポリウレタンウレア樹脂のNMRスペクトルである。
【図3】本発明の一実施形態で用いられるポリウレタンウレア樹脂の構造式の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
<電極用バインダー>
ポリウレタンウレア樹脂は、弾性機能に優れた伸縮柔軟性繊維として、スポーツ衣料や、インナー衣料、医療系のサポーター、コルセット等の用途に使用されている。本発明は、このポリウレタンウレア樹脂が電極用バインダーとして優れた特性を示すことを見出したことによるものである。
【0014】
本発明の電極用バインダーはポリウレタンウレア樹脂を含んでなり、該ポリウレタンウレア樹脂は、ウレタン結合を有するソフトセグメントとウレア結合を有するハードセグメントとを含み、前記ソフトセグメントがポリアルキレンエーテルジオールと有機ジイソシアネートとが付加した構造を有し、前記ハードセグメントが有機ジイソシアネートと有機ジアミンとが付加した構造を有する。前記ポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量は、30,000〜200,000の範囲であることが好ましい。
【0015】
前記ハードセグメントが前記ポリウレタンウレア樹脂に占める含有量(以下「ハードセグメント分率」ともいう。)は、数平均分子量換算で1%〜50%であることが好ましい。より好ましくは5%〜35%であり、さらに好ましくは9%〜20%である。ここで、ハードセグメント分率(%)=(ウレア部分の数平均分子量)/((ウレタン部分の数平均分子量)+(ウレア部分の数平均分子量))×100 で表される。ハードセグメント分率が数平均分子量換算で1%以上であれば電極強度及び伸長回復性が良好であり、50%以下であれば電極の柔軟性が保たれ電極割れが発生しにくい。
【0016】
前記ポリアルキレンエーテルジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、ネオペンチルグリコール、3−メチル−THF、又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールの単独重合体及び共重合体が例示される。これらのポリアルキレンエーテルジオールの中でも、テトラメチレングリコールから導かれる構成単位とネオペンチルグリコールから導かれる構成単位とを有する共重合体がより好ましく、数平均分子量換算でネオペンチルオキシ基とテトラメチレンオキシ基との和に対するネオペンチルオキシ基のモル分率が0.05〜0.15である共重合体がさらに好ましい。前記の比が0.05以上であれば伸長時に伸度を保つことができ、0.15以下であれば剥離強度及び伸長回復性に優れる。
なお、ここで「テトラメチレングリコールから導かれる構成単位」とは、テトラメチレングリコールの縮合反応で生ずる構造(テトラメチレンオキシ基)を有する構成単位を意味し、現実にテトラメチレングリコールを用いて得られた構成単位には限定されない。従って、「テトラメチレングリコールから導かれる構成単位」を有する共重合体は、テトラメチレングリコールを用いて合成することもできるし、例えばテトラヒドロフラン(THF)を用いて合成することもできる。同様に、「ネオペンチルグリコールから導かれる構成単位」とは、ネオペンチルグリコールの縮合反応で生ずる構造(ネオペンチルオキシ基)を有する構成単位を意味し、現実にネオペンチルグリコールを用いて得られた構成単位には限定されない。
【0017】
前記有機ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−またはp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4または2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソフォロンジイソシアネートが例示される。これらの有機ジイソシアネートの中でも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)がより好ましい。
【0018】
前記有機ジアミンとしては、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,4−ブチルジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,3−シクロヘキシルジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンが例示される。これらジアミンの中でも、良好な物性を与えるものとして、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、またはこれらの混合物が好ましい。
【0019】
前記ポリウレタンウレア樹脂を合成するにあたっては、従来の公知の方法を採用することができる。
【0020】
ポリアルキレンエーテルジオール、例えばテトラメチレングリコールとネオペンチルグリコールの共重合体であれば、THFとネオペンチルグリコールをヘテロポリ酸触媒存在下で反応させることによって製造される。更に、ポリアルキレンエーテルジオールと有機ジイソシアネートを、有機ジイソシアネート過剰の条件下で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このウレタンプレポリマーを有機ジアミンで鎖伸張反応を行い、ポリウレタンウレア重合体を得ることができる。本発明において好ましいポリマー基質としては、数平均分子量500〜5,000のポリテトラメチレンエーテルジオールおよび/または炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールに、過剰等量のジイソシアナートを反応させて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成し、次いでプレポリマーに2官能性アミンと1官能性アミンとを反応させて得られるポリウレタンウレア重合体が挙げられる。
【0021】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、ウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーと活性水素含有化合物との反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等のアミド系極性溶媒や、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。好ましくはジメチルアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンである。
【0022】
ポリウレタンウレア樹脂が電極用バインダーとして優れた特性を示す理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0023】
水素結合力は弾性性能などの物性に大きく影響し、ハードセグメントのウレア結合の方がソフトセグメントのウレタン結合よりも水素結合力が強い。したがって、ハードセグメントを有するポリウレタンウレア樹脂を電極用バインダーに用いることで、充放電による電極活物質の膨張収縮に伴う応力発生を緩和でき、サイクル特性の向上につながっているものと考えられる。
【0024】
また、本発明で用いられるポリウレタンウレア樹脂は、リチウム塩等を含有した電解液との親和性があり、リチウム塩等を含有した電解液を含侵したポリウレタンウレア樹脂はイオン伝導性を発現する作用を有する。充放電の際に、電極内では活物質と電解質塩との間で電子の交換反応が行われているため、ポリウレタンウレア樹脂を電極用バインダーとして用いることで、電極内でのイオン伝導が加速されることで電池の内部抵抗が減少し、レート特性の向上につながっているものと考えられる。
【0025】
<電極>
本発明の電極用バインダーは、正極及び負極のいずれにも使用できる。特に正極を構成する活物質層のバインダーとした場合に上述した効果が顕著に発現する。
本発明の電極用バインダーを用いた正極をリチウムイオン二次電池に使用する際、正極活物質は特に限定されず、公知のものであってもよい。正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有することが好ましい。そのような材料としては、具体的にはLiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO、LiMn、LiMnに代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物;LiMO(MはNi、Mn、Co、Al及びMgからなる群より選ばれる2種以上の元素を示し、Zは0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物;LiFePOで表されるリン酸鉄オリビンが挙げられる。また、正極活物質として、例えば、S、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物も例示される。さらには、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリピロールに代表される導電性高分子も正極活物質として例示される。
【0026】
正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
正極活物質の平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは0.5μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。正極活物質の平均粒子径は湿式の粒子径測定装置(例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布計、動的光散乱式粒度分布計)により測定することができる。
正極活物質の平均粒子径が0.5μm以上であると、電極合剤スラリーを調整する際、分散性が向上するため好ましく、100μm以下であると、電極成膜時に電極層に凹凸などの不均一な部分が生じにくくなるので好ましい。
【0028】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、又はステンレス箔などの金属箔により構成される。
【0029】
正極は、例えば、次のようにして得られる。まず、上記正極活物質、及び本発明の電極用バインダーに対して、必要に応じて導電助剤を加えて混合した正極合剤を溶剤に分散させて正極合剤含有スラリーを調製する。次いで、この正極合剤含有スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、それを必要に応じて加圧し厚みを調整することによって正極が作製される。
【0030】
負極活物質についても同様に限定されず、公知のものであってもよい。負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料及び金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有することが好ましい。そのような材料としては金属リチウムの他、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、カーボンブラックに代表される炭素材料が挙げられる。これらのうち、コークスとしては、例えば、ピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークスが挙げられる。また、有機高分子化合物の焼成体は、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものである。炭素材料には炭素以外にO、B、P、N、S、SiC等の異種化合物を含んで良い。異種化合物の含有量としては、0〜10質量部が好ましい。なお、本実施形態においては、負極活物質に金属リチウムを採用した電池も非水系二次電池に含めるものとする。
【0031】
更に、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料としては、リチウムと合金を形成可能な元素を含む材料も挙げられる。この材料は金属又は半金属の単体であっても合金であっても化合物であってもよく、また、これらの1種又は2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものであってもよい。
【0032】
負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0033】
負極活物質の平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜30μmである。負極活物質の平均粒子径は、正極活物質の平均粒子径と同様にして測定される。
負極活物質の平均粒子径が0.1μm以上であると電極合剤スラリーを調整する際、分散性が向上するため好ましく、100μm以下であると、電極成膜時に電極層に凹凸などの不均一な部分が生じにくくなるので好ましい。
【0034】
負極は、例えば、下記のようにして得られる。すなわち、まず、上記負極活物質、及び本発明の電極用バインダーに対して、必要に応じて、導電助剤を加えて混合した負極合剤を溶剤に分散させて負極合剤含有スラリーを調製する。次いで、この負極合剤含有スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、それを必要に応じて加圧し厚みを調整することによって、負極が作製される。
【0035】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔により構成される。
【0036】
正極及び負極の作製にあたって、必要に応じて用いられる導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは0.01μm〜10μm、より好ましくは0.02μm〜0.1μmであり、正極活物質の平均粒子径と同様にして測定される。
導電助剤の平均粒子径が0.01μm以上であると、活物質間の隙間に導電助剤が入り込むことでインピーダンスが下がり集電性を高めることできるので好ましく、10μm以下であると、活物質間の結着性及び集電体間との結着性を向上できるので好ましい。
【0037】
電極活物質と上記バインダー量の割合は、電極活物質100質量部に対しバインダーが、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.5〜8質量部、最も好ましくは0.5〜4質量部である。バインダー量が多すぎると集電体に対する接着力は大きくなるが、充電可能な電気容量が少なくなり、電気抵抗も増加する。逆に、バインダー量が少なすぎると、接着力が低すぎて、電極強度が不十分となる。また、必要に応じて、カーボンブラック・ケッチェンブラック等の導電助剤を入れることも好ましい。特にリチウムイオン二次電池に使用する正極活物質は導電性が低いので、その正極活物質層には導電助剤を入れることが好ましい。導電助剤を入れる場合は、電極活物質100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲であることが好ましい。0.1質量部以上であれば、結着性を上げ出力特性が増大するので好ましく、20質量部以下であれば、活物質間の隙間を導電助剤が広げることなく電池容量を維持できるので好ましい。
【0038】
ポリウレタンウレア樹脂を含んでなる本発明の電極用バインダーは、高い結合強度を有するため、結合強度を落とすことなくバインダー量を少なくすることができるため、活物質粒子を面で被覆せずに線や点で被覆して活物質粒子の表面を露出させることができる。従って、本発明の電極を用いれば高容量の電池の作製が可能となる。
【0039】
電極を作製する方法としては、上記バインダー樹脂と電極活物質(と必要に応じて導電助剤)とを含む電極用組成物を、好ましくは有機溶媒に混合・分散してなる電極製造用スラリーを、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥する方法が例示される。
【0040】
この際用いる有機溶媒としては、バインダー樹脂を溶解または分散可能な溶媒が好適に使用でき、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒が例示される。これらの中でN−アルキル−2−ピロリドンの場合は、電極製造用スラリーを塗布乾燥する間にバインダー分布が不均化する現象の発生が少ないために好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0041】
<セパレータ>
セパレータは、公知のリチウムイオン二次電池に備えられるものと同様であってもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータとしては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、あるいは、これらのポリオレフィンを共に含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製など、耐熱樹脂製の多孔膜が用いられる。セパレータは、1種の微多孔膜を単層又は複数積層したものであってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例および比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における樹脂組成等の評価方法は以下のとおりである。
(1)ウレタン部分およびウレア部分の数平均分子量とハードセグメント分率の測定方法
ポリウレタンウレア樹脂を石油エーテルで洗浄して油剤を除去し、その後、クロロホルムを溶媒としてソックスレー抽出を行い、有機系添加剤を除去する。クロロホルムを乾燥除去し、以下の装置と測定条件にて測定する。
測定装置: BRUKER社製AVANCEII
測定核: 1H
共鳴周波数: 400MHz
積算回数: 128回
測定温度: 25℃
溶媒: 重水素化ジメチルホルムアミド
測定濃度: 1.5重量%
化学シフト基準: テトラメチルシラン(0ppm)
この測定条件にて測定したNMRスペクトルの例を図2に示す。図2中の線PがNMRスペクトルであり、Iがその積分曲線である。両端がウレタン結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基のピーク(f1)が3.872ppmに、一方がウレタン結合でもう一方がウレア結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基のピーク(f2)が3.839ppmに、両端がウレア結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基のピーク(f3)が3.805ppmに出ている。ピークf1の積分曲線の高さをF1とし、同様にf2、f3に対応する積分曲線の高さをF2、F3とする。
本発明で用いられるポリウレタンウレア樹脂のウレタン部分およびウレア部分の構造式の一例を図3に示す。図3中のRは共重合ポリアルキレンジオールの残基、Rは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの残基、Rはジアミンの残基を表し、f1は両端がウレタン結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基の位置、f2は一方がウレタン結合でもう一方がウレア結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基の位置、f3は両端がウレア結合である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチレン基の位置を示し、これらは図2に示したピークf1、f2、f3にそれぞれ対応する。図3の構造式中のウレタン部分の平均繰り返し数n、ウレア部分の平均繰り返し数mは下記式(1)および(2)で求めることができる。

n=2×(F1/F2) …(1)
m=2×(F3/F2) …(2)

従って、ウレタン部分の数平均分子量Msおよびウレア部分の数平均分子量Mhは下記式(3)および(4)で求めることができる。

Ms=(Mo+Mi)×n+Mo …(3)
Mh=(Ma+Mi)×m+Ma+2Mi …(4)

ただし、
Mo;共重合ポリアルキレンジオールの数平均分子量
Mi:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの分子量
Ma:ジアミンの分子量(2種類以上を混合して使用する場合はその数平均分子量)

[実施例1]
出発原料として用いた数平均分子量1,800の共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、テトラメチレングリコールに対する、ネオペンチルグリコールのモル分率が0.1であった。上記共重合ポリアルキレンエーテルジオールを、2500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート653gを、窒素ガス気流下60℃において90分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、N−メチル−2−ピロリドン3900gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
エチレンジアミン71gおよびジエチルアミン6gを乾燥N−メチル−2−ピロリドン330gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタンウレア溶液を得た。溶剤を乾固し得た、ポリウレタンウレア樹脂のNMR測定により求めたハードセグメント分率は、17%であった。
正極活物質として平均粒子径2μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)を100質量部と、導電助剤としてアセチレンブラックを9質量部と、バインダーとして上記ポリウレタンウレア溶液を溶液中の固形分の量が1質量部となるように添加して、均一に混合し、電極製造用スラリー(正極合剤スラリー)を得た。次いで、得られた正極合剤スラリーを、厚み20μmのアルミニウム箔より成る正極集電体の片面に均一に塗布し、乾燥し、ロールプレス機で圧縮成形することで、正極活物質層(片面面密度:13mg/cm)を形成し、16φmmとなるように切り出して正極を作製した。
Liメタル箔(厚み500μm)を16.2φmmとなるように切り出して負極を作製した。
【0043】
上記で作製した正極と負極とを、正極活物質層とLiメタル箔とがセパレータ(厚さ20μm、旭化成イーマテリアルズ株式会社製:ハイポア(登録商標))を挟んで対向するように積層してアルミニウム製容器に収納した。電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:2)に1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解した溶液を使用して、図1の断面模式図で示される、実施例1の二次電池を作製した。
【0044】
[実施例2]
正極用バインダーとして上記ポリウレタンウレア溶液を溶液中の固形分の量で2質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の電極及び二次電池を作製した。
【0045】
[実施例3]
正極用バインダーとして上記ポリウレタンウレア溶液を溶液中の固形分の量で4質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の電極及び二次電池を作製した。
【0046】
[実施例4]
出発原料として用いた数平均分子量1,800の共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、テトラメチレングリコールに対する、ネオペンチルグリコールのモル分率が0.1であった。共重合ポリアルキレンエーテルジオールを、2500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート483gを、窒素ガス気流下60℃において90分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、N−メチル−2−ピロリドン3600gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
エチレンジアミン30gおよびジエチルアミン6gを乾燥N−メチル−2−ピロリドン310gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタンウレア溶液を得た。溶剤を乾固し得た、ポリウレタンウレア樹脂のNMR測定により求めたハードセグメント分率は、9%であった。
正極用バインダーとして上記ポリウレタンウレア溶液を溶液中の固形分の量が1質量部となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の電極及び二次電池を作製した。
【0047】
[実施例5]
出発原料として用いた数平均分子量1,800の共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、テトラメチレングリコールに対する、ネオペンチルグリコールのモル分率が0.1であった。共重合ポリアルキレンエーテルジオールを、2500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート730gを、窒素ガス気流下60℃において90分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、N−メチル−2−ピロリドン3900gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
エチレンジアミン90gおよびジエチルアミン6gを乾燥N−メチル−2−ピロリドン350gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタンウレア溶液を得た。溶剤を乾固し得た、ポリウレタンウレア樹脂のNMR測定により求めたハードセグメント分率は、20%であった。
正極用バインダーとして上記ポリウレタンウレア溶液を溶液中の固形分の量が1質量部となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の電極及び二次電池を作製した。
【0048】
[比較例1]
出発原料として用いた数平均分子量1,800の共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、テトラメチレングリコールに対する、ネオペンチルグリコールのモル分率が0.1であった。共重合ポリアルキレンエーテルジオールを、2500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート653gを、窒素ガス気流下60℃において90分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、N−メチル−2−ピロリドン3900gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
このプレポリマー溶液にメチルアルコールを過剰に加え末端を封鎖した。粘度200ポイズ(30℃)のポリウレタン溶液を得た。溶剤を乾固し得た、ポリウレタン樹脂のNMR測定により求めたハードセグメント分率は、0%であった。
正極用バインダーとして上記ポリウレタン樹脂(ハードセグメント分率0%)を溶液中の固形分の量が1質量部となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の電極及び二次電池を作製した。
【0049】
[比較例2]
正極用バインダーとしてPVDF6質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の電極及び二次電池を作製した。
【0050】
<サイクル特性評価>
上記各実施例及び比較例の方法で作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、定電流定電圧方式0.5mA/cm(CCCV、電流:0.3C相当)で4.2Vまで充電し、10分間休止させた後、定電流0.5mA/cm(CC、電流:0.3C相当)で3.0Vまで放電し、放電後10分間休止させた。この充放電過程を1サイクルとし、15サイクルの充放電試験を行い、放電容量維持率を調べた。結果を下記の表1に示す。
【表1】

【0051】
なお、表1において「放電容量維持率」は、1サイクル目の放電容量に対する15サイクル目の放電容量の割合を表す(百分率表示)。
【0052】
<レート特性評価>
上記の方法で作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、定電流定電圧方式0.5mA/cm(CCCV、電流:0.3C相当)で4.2Vまで充電し、10分間休止させた後、定電流放電を0.5、1.0、3.0、5.0、7.0、11.0mA/cmの順で3.0Vまで放電し、放電後10分間休止させた。結果を下記の表2に示す。なお、表2において「放電容量比」は、電流密度0.5mA/cmにおいての放電容量に対する電流密度11.0mA/cmにおいての放電容量の割合を表す(百分率表示)。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池、非水系電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタやその他の電気化学デバイスに利用でき、優れたサイクル特性やレート特性等を実現できるので、高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0054】
1.正極
2.負極(Liメタル箔)
3.セパレータ
4.電極押さえ
5.ばね
6.ガイド材(フッ素樹脂ガイド)
7.アルミニウム製容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンウレア樹脂を含んでなる電極用バインダーであって、該ポリウレタンウレア樹脂がウレタン結合を有するソフトセグメントとウレア結合を有するハードセグメントとを含み、該ソフトセグメントがポリアルキレンエーテルジオールと有機ジイソシアネートとが付加した構造を有し、該ハードセグメントが有機ジイソシアネートと有機ジアミンとが付加した構造を有する上記電極用バインダー。
【請求項2】
前記ハードセグメントが前記ポリウレタンウレア樹脂に占める含有量であるハードセグメント分率が、1%〜50%である請求項1記載の電極用バインダー。
(ここで、ハードセグメント分率(%)=(ウレア部分の数平均分子量)/((ウレタン部分の数平均分子量)+(ウレア部分の数平均分子量))×100 )
【請求項3】
前記ポリアルキレンエーテルジオールがネオペンチルグリコールから導かれる構成単位とテトラメチレングリコールから導かれる構成単位とを有する共重合体であり、数平均分子量換算でネオペンチルオキシ基とテトラメチレンオキシ基との和に対するネオペンチルオキシ基のモル分率が0.05〜0.15である請求項1または2に記載の電極用バインダー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極用バインダー及び電極活物質を含んでなる活物質層を集電体に積層してなる電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極の製造方法であって、前記電極用バインダー、前記電極活物質、及びN−アルキル−2−ピロリドンを含んでなるスラリーを前記集電体に塗布する工程を有する上記電極の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の電極、及び電解質を含んでなる電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−97906(P2013−97906A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237345(P2011−237345)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】