説明

電気化学デバイス用電極材料及びその製造方法、並びに、電気化学デバイス用電極及び電気化学デバイス

【課題】 チタン酸リチウムを活物質として用い、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することを目的とする。また、それに用いる電極材料、電極を提供することを目的とする。
【解決手段】 チタン酸リチウムと有機物を混合して熱処理を行うことで、チタン酸リチウムを90%以上含有し、嵩密度が1.5g/cm3以上であり、且つ、体積抵抗率が16Ω・cm以下である電気化学デバイス用電極材料が得られる。これを用いることで、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウムを主体とする電気化学デバイス用電極材料及びその製造方法、並びに、前記電極材料を用いた電気化学デバイス用電極及び電気化学デバイスに関し、特に、チタン酸リチウムの粒子に電子伝導性を付与する技術に関する。ここで、電気化学デバイスとは、リチウム一次電池,リチウム二次電池,リチウムイオン電池等の非水系電池、水系電池、燃料電池、電気二重層キャパシタ等の、一対の電極及び電解質を備えた電気化学セルをいう。
【0002】
リチウム二次電池等の非水電解質電池は高いエネルギー密度を示し、高電圧であることから小型携帯端末や移動体通信装置などへの電源として広く使用されている。リチウム二次電池は、充放電に伴いリチウムイオンを放出・吸蔵しうる正極活物質を主要構成成分とする正極と、充放電に伴いリチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極と、リチウム塩及び有機溶媒からなる電解質とを備えるものである。
【0003】
活物質粒子表面の電子伝導性を向上させる方法が提案されている。特許文献1にはVBO3やTiBO3等の遷移金属ホウ素錯体にピッチを添加し、焼成することにより、電気伝導度の高い電極活物質粒子とする技術が開示されている。特許文献2にはLiFePO4の前駆体と炭素質の前駆体を混合した後、乾燥して焼成することにより、表面が炭素質物質で被覆されたLiFePO4を得る方法が開示されている。
【0004】
リチウム二次電池用負極活物質としてチタン酸リチウムを用いうることが知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−157842号公報
【特許文献2】特開2003−292309号公報
【特許文献3】特開2004−095325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタン酸リチウムは、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う結晶構造変化が小さく体積歪みが小さいため、チタン酸リチウムを活物質として用いたリチウム二次電池は繰り返し充放電性能に極めて優れることから、高エネルギー密度特性よりもむしろ長期間保守・交換が不要な長寿命特性が重視される無停電電源用電池や電力貯蔵用電池等の据置用途に適しており、今後の産業上の利用可能性が極めて高い電池系である。しかしながら、チタン酸リチウムを活物質として用いた電池は、出力特性が十分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、チタン酸リチウムを活物質として用い、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することを目的とする。また、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することのできる、チタン酸リチウムを活物質として用いた電極を提供することを目的とする。
【0007】
チタン酸リチウムを活物質として用いた電池の出力特性が十分でない原因としては、次のことが考えられる。チタン酸リチウムを構成するTi4+はd電子を持たないため、絶縁体に属する。従って、これを電気化学デバイス用電極に用いるためには、多量の導電剤と混合する必要があるが、多量の導電剤と混合するのみではチタン酸リチウムを電極活物質に用いた電気化学デバイスの出力特性は充分なものとはならない。上記問題点を解決するには、チタン酸リチウムの粒子表面を導電性材料で高密度に覆うことが必要となる。本発明者らは上記特許文献1,2記載の導電性付与技術を試みたが、チタン酸リチウムに対してこれらの技術を適用しても、有効に導電性を付与することができなかった。ここに、導電性が効果的に付与されたチタン酸リチウムを提供することもまた本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成及び作用効果は次の通りである。但し、作用機構については推定を含んでおり、その作用機構の成否は、本発明を制限するものではない。
【0009】
本発明は、チタン酸リチウムを90%以上含有し、嵩密度が1.5g/cm3以上であり、且つ、体積抵抗率が16Ω・cm以下である電気化学デバイス用電極材料である。
【0010】
本明細書において、体積抵抗率及び嵩密度の測定条件は次の通りである。測定は室温20℃以上25℃以下の空気中にて行う。体積抵抗率の測定に用いた装置の概念図を図1に示す。一対の測定プローブ1A、1Bを準備する。測定プローブ1A、1Bは、直径6.0mm(±0.05mm)のステンレス鋼(SUS304)製の円柱の一端を平面加工して表面仕上げした測定面2A、2Bを有し、他端をステンレス鋼製の台座3A、3Bに前記円柱を垂直に固定したものである。また、前記台座3A、3Bには測定用のリード線を接続容易とするための測定用端子4A、4Bを設けている。ポリテトラフルオロエチレン製の円柱の中心部に、前記ステンレス鋼製円柱が重力によって空気中で自然にゆっくりと下降しうるように内径を調整し研磨加工された貫通孔5を設けた側体6を準備する。側体6の上面及び下面は平滑に研磨加工されている。
【0011】
測定に先立ち、前記測定面2A、2Bを研磨し、最終的に1500番のサンドペーパーで磨き、乾燥する。この操作は被測定試料が異なる毎に行う。一方の前記測定プローブ1Aを測定面2Aが上方を向くように水平な机上に設置し、上方から前記側体6を被せるようにして側体6の貫通孔5に前記測定プローブ1Aの円柱部を挿入する。もう一方の測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔5の上方から挿入し、前記測定面2A、2B間の距離をゼロの状態とする。このとき、測定プローブ1Bの台座3Bと側体6との間に生じる隙間を測定しておく。
【0012】
次に、測定プローブ1Bを引き抜き、貫通孔5の上部から薬さじで重量既知の被測定試料の粉体を投入し、再度、測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔5の上方から挿入する。被測定試料の投入量は、前記平面部が十分に隠れる量以上であり、且つ、測定プローブ1B挿入後の測定面2A、2B間の距離が約3mm未満となる量とする。測定プローブ1Bの台座3Bと側体6との間に2.5mm未満の隙間ゲージ7を挟み込み、圧力計の付いた手動式の油圧プレス機を用いて前記測定プローブ1Bの上方から加圧する。このとき、プレス機の圧力目盛りが指し示す値を見ながら100kgf/cm2を超えない範囲で100kgf/cm2に達するまで加圧し、100kgf/cm2の圧力目盛の値を保つようにする。ここで、加圧は、測定プローブ1Bの台座3Bと側体6との間に隙間ゲージ7を挟み込んだまま行うので、プレス機の圧力が全て測定試料に印加されるものではない。測定用端子4A、4B間に周波数1kHzによる交流インピーダンス測定が可能な接点抵抗計を接続し、抵抗値を測定する。このときの接点抵抗計が示す抵抗値、及び、測定面2A、2B間の距離を記録する。次に、より薄い隙間ゲージを順次用いて前記測定面2A、2B間の距離を前回の測定よりも0.2mmずつ順次減じながら、測定面2A、2B間の距離を0.4mmを限度として減じることが可能な範囲内で同様にして測定を繰り返す。
【0013】
次の(式1)に従って体積抵抗率ρ(Ω・cm)を算出する。また、次の(式2)に従って嵩密度(g/cm3)を算出する。ここで、Sは測定面の面積(cm2)であり、dは測定面2A、2B間の距離(cm)であり、Rは接点抵抗計が示す抵抗値(Ω)であり、wは投入した測定試料の重量(g)である。
体積抵抗率ρ(Ω・cm) = R・S/d (式1)
嵩密度(g/cm3) = w/(S・d) (式2)
【0014】
このような構成により、チタン酸リチウム含有電極材料は嵩密度が大きく、且つ、体積抵抗率が小さいものであるので、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することのできる電気化学デバイス用電極材料を提供することができる。なかでも、上記測定法によって嵩密度が1.6g/cm3以上、体積抵抗率が12Ω・cm以下に達しうるものが好ましく、嵩密度が1.7g/cm3以上、体積抵抗率が10Ω・cm以下に達しうるものがより好ましい。
【0015】
また、前記電気化学デバイス用電極材料は、チタン酸リチウムの粒子表面に炭素材料が存在してなることを特徴としている。即ち、チタン酸リチウムからなる粒子の表面上に、炭素材料が付着し、又は、炭素材料が被覆されてなるものである。
【0016】
チタン酸リチウムの粒子表面に炭素材料が存在してなることにより、チタン酸リチウムの粒子に導電性が効果的に付与される。また、チタン酸リチウムの粒子表面に炭素材料が存在してなることにより、表面積が大きく増加するので、電解質との接触を良好なものとすることができ、高率充放電性能を向上させることができる。
【0017】
また、前記チタン酸リチウムは、スピネル構造を有し、Li4Ti512組成式で表されるものであることを特徴としている。
【0018】
このような構成により、充放電サイクル性能に優れたLi4Ti512の特徴を生かし、長寿命の電気化学デバイスとすることのできる電気化学デバイス用電極材料を提供できる。
【0019】
なお、組成式Li4Ti512で表される各元素の係数は、チタン酸リチウムを合成する際に用いる原料の仕込量誤差によって変動しうるが、エックス線回折測定を行った場合に最大ピークをフルスケールとするエックス線回折図上で、TiOに由来するピークが分相として観察されない限りにおいて、そのようなものについても本発明の範囲内である。
【0020】
また、本発明は、前記電気化学デバイス用電極材料を含有している電気化学デバイス用電極である。
【0021】
このような構成により、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することができる。
【0022】
また、本発明は、前記電気化学デバイス用電極を用いた電気化学デバイスである。
【0023】
このような構成により、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することのできる電気化学デバイス用を提供することができる。
【0024】
また、本発明は、チタン酸リチウムと有機物とを混合し、熱処理によって前記電気化学デバイス用電極材料を得ることを特徴とする電気化学デバイス用電極材料の製造方法である。
【0025】
このような構成により、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することのできる電気化学デバイス用電極材料の簡便な製造方法を提供することができる。
【0026】
また、本発明の製造方法は、前記熱処理は、溶剤の存在下で熱処理工程に供することを特徴としている。
【0027】
熱処理に供するチタン酸リチウムと有機物との混合物は、乾式混合によって得てもよく、有機物を溶剤中に溶解または分散してチタン酸リチウムと湿式混合後乾燥して得てもよいが、湿式混合後、溶剤が存在した状態のまま熱処理工程に供することにより、チタン酸リチウム粒子表面への炭素材料の付与を特に良好に行うことができる。これは、溶剤が存在した状態のまま熱処理工程に供することにより、熱処理時にチタン酸リチウム粒子の周辺において有機材料が偏在する虞が低減できるため、チタン酸リチウムの粒子表面への炭素材料の付与の均一性を高められたことによるものと推察される。この効果は、特許文献1、2等の従来技術において焼成前に溶剤を注意深く除去する必要がある留意点とは対照的であり、チタン酸リチウム粒子の表面状態が、リチウム電池用活物質に用いられる他の一般的な活物質と大きく異なることと関連しているものと推察される。ここで、前記溶剤は、前記有機物を溶解または分散しうるものであればよいが、なかでも前記有機物を溶解しうるものから選択することにより、前記有機物を溶剤と共にチタン酸リチウム粒子の表面により均一に、被覆するように配置することが可能となるため、好ましい。溶剤としては限定されるものではないが、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、トルエン等を例示できる。
【0028】
また、本発明の製造方法は、前記溶剤は非水溶剤であることを特徴としている。
【0029】
前記溶剤は、水でもよいが、なかでも非水溶剤を選択することにより、チタン酸リチウムを構成するリチウム元素がプロトンとのイオン交換反応により水溶液中に溶出する虞を大幅に低減できるので、前記イオン交換反応によりチタン酸リチウム表面に抵抗成分となる層が形成される虞を低減できる。この観点から、熱処理時にチタン酸リチウムと混合する有機物は非水溶剤に可溶なものから選択することが好ましい。
【0030】
また、本発明の製造方法は、前記有機物はフェノール構造を有することを特徴としている。
【0031】
このような構成により、チタン酸リチウム粒子表面への炭素材料の付与を確実に、且つ、高密度に行うことができる。前記有機物としてフェノール構造を有する有機物を用いた場合に特に良好な結果を示す理由については必ずしも明らかではないが、フェノール構造を有する有機物分子の炭素原子密度と、あるいは、フェノール構造を有する有機物の分子構造は炭化したときに電子伝導経路を形成しやすいものとなっていることと関連があるのではないかと推察している。前記有機物の分子中に占めるフェノール構造の比率(分子量比)は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。フェノール構造を有する有機物としては樹脂であるものが好ましく、なかでもビスフェノール型樹脂が好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、チタン酸リチウムを活物質として用い、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することができる。また、十分な出力特性を有する電気化学デバイスを提供することのできる、チタン酸リチウムを活物質として用いた電極を提供することができる。また、十分な出力特性を有する電気化学デバイスに用いることのできるチタン酸リチウムからなる電気化学デバイス用電極材料及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
熱処理に供するチタン酸リチウムと有機物との混合物における両者の混合比は、両者の混合物中に占める有機物の割合が5重量%以上70重量%以下とすることが好ましい。有機物の割合を5%以上とすることにより、チタン酸リチウム粒子表面への炭素材料の付与量が少なくなりすぎることがないので、チタン酸リチウム粒子への導電性の付与を十分とすることができる。より好ましくは10%以上である。また、有機物の割合を70%以下とすることにより、炭素材料の付与量が多くなりすぎることで電極の体積エネルギー密度が小さくなる虞を低減でき、より好ましくは60%以下である。
【0034】
熱処理に供するチタン酸リチウムと有機物との混合物に溶剤を存在させる場合において、好ましい溶剤の量は有機物の種類によって大きく異なるが、チタン酸リチウムと有機物との混合物が見かけ上均一なスラリー状となるように適宜調整することが好ましい。
【0035】
熱処理時にチタン酸リチウムと混合する有機物は、気化温度500℃以上の有機物であることが好ましく、熱処理時に有機材料が気化してチタン酸リチウム表面への炭素材料の付与が阻害される虞を大幅に低減できる。また、前記有機物は炭化温度550℃以下であることが好ましく、熱処理時に有機材料の炭化が不充分となりチタン酸リチウム表面への炭素材料の付与が阻害される虞を大幅に低減できる。
【0036】
熱処理時にチタン酸リチウムと混合する有機物としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコールやフェノール構造を有する樹脂は好適に用いることができる。なかでも、水溶性であるポリビニルアルコールに比べ、有機溶媒に可溶であるフェノール構造を有する樹脂は好ましい。
【0037】
熱処理は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理雰囲気が酸素を多く含んでいると、有機物の酸化分解反応が進行しすぎる(理論的には二酸化炭素にまで分解されうる)結果、チタン酸リチウム粒子の表面を炭素質材料で被覆させることができなくなる。活物質にチタン酸リチウムを用いる本発明においては、チタン元素はd軌道に電子を持たないことから、熱処理を不活性雰囲気で行ってもチタン酸リチウムが還元されることがない。この観点から熱処理雰囲気中の酸素濃度は10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0038】
熱処理温度は、低すぎると有機物の炭化が十分に進行せず、導電性の付与が不充分となり、嵩密度も充分に高めることができない虞がある。また、熱処理温度が高すぎると、有機物の分解反応が進行しすぎる結果、チタン酸リチウム粒子の表面を炭素質材料で被覆させることができなくなる。この観点から、熱処理温度は350℃以上600℃以下が好ましい。
【0039】
熱処理時間については、特に制限はなく、チタン酸リチウムを用いる本発明においては、熱処理時間が長すぎることによって電気化学的性能に悪影響を及ぼす虞は少ない。熱処理時の昇温時間については、特に限定されるものではないが、溶剤の存在下で熱処理工程に供する場合には、10℃/min以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下の実施例及び比較例に用いたチタン酸リチウムは、LiOH・H2OとTiO2(アナターゼ型)をLi:Ti=4:5(モル比)で混合し、空気雰囲気中800℃で焼成したものであり、スピネル構造を有し、Li4Ti512組成で表されるものである。なお、平均粒子径は0.92μmであり、BET比表面積値は3.46m2/gであり、白色を呈している。
【0041】
(比較例1)
前記チタン酸リチウムを比較電極材料1とする。
【0042】
(実施例1)
チタン酸リチウムと混合する有機物として、ビスフェノールA型樹脂(ナガセケムテックス社製、品番:CY230、フェノール構造の分子量比:推定約54%)を用い、前記チタン酸リチウム、前記有機物及び溶剤を15:15:3の重量比で含有するスラリー状の混合物を得た。ここで、溶剤はトルエンとジブチルフタレートの混合物である。このうちジブチルフタレートは前記ビスフェノールA型樹脂に元々含有していたものである。スラリー状の前記混合物20gをステンレス鋼製の焼成用ボートに流し込み、内径70mmの管状炉内に設置し、窒素ガス気流(流速500ml/min)雰囲気とし、昇温速度10℃/minにて600℃まで昇温し、同温度で12時間保持した後、窒素ガス気流雰囲気のまま自然冷却し、焼成用ボートの内容物をめのう乳鉢で粉砕した。このようにして、本発明に係る電気化学デバイス用電極材料を得た。これを本発明電極材料1とする。
【0043】
該電極材料は黒色を呈しており、空気中での熱重量−示差熱測定(TG−DTA)の結果、400℃付近以降に発熱反応ピーク及び重量減少の開始が観察された。TG測定結果及びTG測定時の流出ガス分析結果から、本発明電極材料1はチタン酸リチウムの表面に炭素材料が8.3wt%付与されたものであることがわかった。また、BET一点検量線法による比表面積測定の結果、本発明電極材料1の比表面積は68.5m2/gであったことから、原料に用いたチタン酸リチウムに対して比表面積が約20倍増加していることがわかった。また、エックス線回折測定の結果、スピネル構造を有するLi4Ti512に対応するピークのみが観察された。なお、チタン酸リチウムと混合する有機物として上記ビスフェノールA型樹脂樹脂を用いる場合には、混合物中の溶剤の量は2重量%以上10重量%以下が好ましい。
【0044】
(実施例2)
チタン酸リチウム、有機物及び溶剤の重量比を19:12:3としたスラリー状の混合物を用いたことを除いては、実施例1と同一の処方により、本発明に係る電気化学デバイス用電極材料を得た。これを本発明電極材料2とする。
【0045】
該電極材料は黒色を呈しており、熱重量−示差熱測定(TG−DTA)の結果、400℃付近以降に発熱反応ピーク及び重量減少の開始が観察された。TG測定結果及びTG測定時の流出ガス分析結果から、本発明電極材料1はチタン酸リチウムの表面に炭素材料が5.3wt%被覆されたものであることがわかった。また、BET一点検量線法による比表面積測定の結果、本発明電極材料1の比表面積は57.4m2/gであったことから、原料に用いたチタン酸リチウムに対して比表面積が約17倍増加していることがわかった。また、エックス線回折測定の結果、スピネル構造を有するLi4Ti512に対応するピークのみが観察された。
【0046】
(体積抵抗率の測定)
前記本発明電極材料1、2及び比較電極材料1について、前記した測定装置を用いて温度23℃の空気中で体積抵抗率の測定を行った。測定プローブの測定面の面積は0.272cm2である。測定に供した電極材料の粉体試料の質量は0.35〜0.40gである。
【0047】
本発明電極材料1、2及び比較電極材料1について測定された体積抵抗率を嵩密度との関係で表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
これらの結果から明らかなように、チタン酸リチウム粒子表面に炭素材料が付与されている本発明電極材料1,2は、高い導電性が付与されていることがわかる。なお、比較電極材料1の体積抵抗率の値は測定限界(100Ω・cm)を超えたため求められなかった。そこで、参考として次の2種の測定試料を別途準備した。
【0050】
(比較例2)
前記チタン酸リチウムとアセチレンブラックとを9:1の重量比で乾式混合した。これを比較電極材料2とする。
【0051】
(比較例3)
前記チタン酸リチウムとアセチレンブラックとを8:1の重量比で乾式混合した。これを比較電極材料3とする。
【0052】
比較電極材料2、3について、同様にして体積抵抗率の測定を行った。結果を表1に併せて示す。この結果より、アセチレンブラックを多く添加することによって体積抵抗率をある程度低減させることはできるものの、同時に嵩密度が低いものとなってしまうことがわかる。アセチレンブラックを少なく添加することで嵩密度の低下は抑えられるものの、体積抵抗率を低下させる効果には限度がある。なお、比較電極材料2、3の測定において、嵩密度の値をさらに大きいものとした条件で測定したところ、抵抗値は逆に上昇し、測定限界(100Ω・cm)を超えたため体積抵抗率の値が求められなかった。この原因については必ずしも明らかではないが、測定試料が過度に圧縮されたことで、アセチレンブラックの電子伝導を担っている鎖が切断されたことによるものと推察している。このことから、チタン酸リチウムとアセチレンブラックとの混合物によっては、嵩密度が1.5g/cm3以上であり、且つ、体積抵抗率が16Ω・cm以下であるものとはならないことがわかった。
【0053】
(本発明電極1)
前記本発明電極材料1、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比80:10:10の割合で混合し、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、前記PVdFは固形分が溶解分散された液を用い、固形重量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、ロールプレスして集電体を含む厚さが79(±1)μmの負極板を作製した。これを本発明電極1とする。
【0054】
(比較電極1)
チタン酸リチウム、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比80:10:10の割合で混合したことを除いては、上記本発明電極1の場合と同様の処方により、比較電極1を作製した。
【0055】
(電気化学デバイスの作製)
正極板を次のようにして作製した。LiCoO2、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比90:5:5の割合で混合し、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、前記PVdFは固形分が溶解分散された液を用い、固形重量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、プレスして正極板を作製した。
【0056】
非水電解質は次のようにして調整した。エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比6:7:7の割合で混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの濃度で溶解し、非水電解質(電解液)とした。
【0057】
負極板をセパレータを介して上記正極板と対向させ、電気化学デバイスを作製した。ここで、負極板の作用面積が9cm2となるように負極板及び正極板を切り出した。セパレータにはポリアクリレートで表面改質して電解質の保持性を向上させたポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。正極板に取り付けた正極端子及び負極板に取り付けた負極端子の開放端部が外部露出するように電極対を収納し、非水電解質を注液後、気密封止した。なお、負極板の単極挙動をモニターするため、金属リチウムからなる参照極を設けた。このようにして、電気化学デバイスであるリチウムイオン電池を作製した。ここで、前記本発明電極1及び比較電極1をそれぞれ負極板として用いた電気化学デバイスをそれぞれ本発明電気化学デバイス1及び比較電気化学デバイス1とした。
【0058】
(初期充放電試験)
本発明電気化学デバイス1及び比較電気化学デバイス1に対し、5サイクルの初期充放電試験を行った。1サイクル目の充電は、負極に対して0.1ItAの電流値で参照極に対する負極電位が2.5Vに上昇するまで行った。引き続く放電は、前記充電と同一の電流値で正・負極間の電圧が2.5Vに下降するまで行った。2〜5サイクル目の充放電は、電流値を負極に対して0.2ItAに変更したことを除いては1サイクル目と同一の条件により行った。また、全てのサイクルにおいて充電から放電への切換時、及び、放電から充電への切換時には各々30分間の休止時間を設定した。5サイクル目の放電結果より、本発明電池1及び比較電池1のいずれにおいても、チタン酸リチウムの理論容量(150mAh/g)通りの負極容量が得られていることを確認した。なお、5サイクル目の放電容量を「初期容量」とする。
【0059】
(出力特性試験)
続いて、本発明電気化学デバイス1及び比較電気化学デバイス1に対して出力特性試験を行った。放電は、負極に対して0.2Itから50Itまでの種々の放電率にて行った。放電中、参照極に対する負極電位をモニターし、負極の単極性能を評価した。各放電の終了後、休止時間を30分設け、負極に対して0.2ItAの電流値で参照極に対する負極電位が2.5Vに上昇するまで行った。各放電条件における放電容量を前記初期容量に対する百分率で求め、各放電率に対する「放電容量率(%)」とした。
【0060】
図2に出力特性試験の結果を示す。図2の結果より、本発明電気化学デバイス1は比較電気化学デバイス1に比べて出力特性が大きく向上していることがわかる。
【0061】
(実施例3)
チタン酸リチウムと混合する有機物として、ポリビニルアルコール樹脂(重量平均分子量1,500)粉末を用い、前記チタン酸リチウムとポリビニルアルコールの17%水溶液を混合することにより、前記有機物及び水を1:1:5の重量比で含有するスラリー状の混合物を得た。この混合物を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、本発明に係る電気化学デバイス用電極材料を得た。これを本発明電極材料3とする。なお、チタン酸リチウムと混合する有機物として上記ポリビニルアルコール樹脂を用いる場合には、樹脂溶液の濃度は10重量%以上飽和濃度以下が好ましい。
【0062】
(実施例4)
チタン酸リチウムと混合する有機物として、ポリビニルアルコール樹脂粉末を用い、溶剤を用いず、前記チタン酸リチウムとポリビニルアルコール粉末を1:1の重量比で乾式混合した混合物を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、本発明に係る電気化学デバイス用電極材料を得た。これを本発明電極材料4とする。
【0063】
本発明電極材料3及び本発明電極材料4をそれぞれ用い、前記本発明電気化学デバイス1と同様の処方により電気化学デバイスを作製した。これをそれぞれ本発明電気化学デバイス3、4とする。本発明電気化学デバイス3、4を用いて、上記と同一の条件で初期充放電試験を行ったところ、本発明電気化学デバイス3及び本発明電気化学デバイス4のいずれにおいても、チタン酸リチウムの理論容量(150mAh/g)通りの負極容量が得られていることを確認した。しかしながら、5サイクル目の負極充電挙動を比較したところ、本発明電気化学デバイス3においては、充電容量の約90%に至るまで充電電位が約1.5Vで極めて平坦に推移しているのに対し、本発明電気化学デバイス4においては、充電容量の約60%付近から平坦な放電電位推移が崩れ、卑な電位への落ち込みが観察された。この原因については必ずしも明らかではないが、チタン酸リチウムと樹脂とを乾式で混合し、熱処理に供して得た本発明電極材料4に比べ、チタン酸リチウムと樹脂の溶液とを混合して溶剤の存在下で熱処理に供して得た本発明電極3においては、チタン酸リチウム粒子表面に炭素材料がより均一に配置されたことによるものと推察している。このことから、チタン酸リチウムと有機物とを混合し、熱処理によって本発明の電気化学デバイス用電極材料を得るに際し、溶剤の存在下で熱処理工程に供することが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】体積抵抗率の測定に用いた装置の概念図である。
【図2】本発明電気化学デバイス及び比較電気化学デバイスの出力特性を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1A,1B 測定プローブ
2A,2B 測定面
3A,3B 台座
4A,4B 測定用端子
5 貫通孔
6 側体
7 隙間ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸リチウムを90%以上含有し、嵩密度が1.5g/cm3以上であり、且つ、体積抵抗率が16Ω・cm以下である電気化学デバイス用電極材料。
【請求項2】
前記電気化学デバイス用電極材料は、チタン酸リチウムの粒子表面に炭素材料が存在してなる請求項1記載の電気化学デバイス用電極材料。
【請求項3】
前記チタン酸リチウムは、スピネル構造を有し、Li4Ti512組成式で表されるものである請求項1又は2記載の電気化学デバイス用電極材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学デバイス用電極材料を含有している電気化学デバイス用電極。
【請求項5】
請求項4記載の電気化学デバイス用電極を用いた電気化学デバイス。
【請求項6】
チタン酸リチウムと有機物とを混合し、熱処理によって、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学デバイス用電極材料を得ることを特徴とする電気化学デバイス用電極材料の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は、溶剤の存在下で熱処理工程に供することを特徴とする請求項6記載の電気化学デバイス用電極材料の製造方法。
【請求項8】
前記溶剤は非水溶剤であることを特徴とする請求項6又は7記載の電気化学デバイス用電極材料の製造方法。
【請求項9】
前記有機物はフェノール構造を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の電気化学デバイス用電極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−40738(P2006−40738A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219499(P2004−219499)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【Fターム(参考)】