説明

電気式床暖房パネルおよび電気式床暖房パネル用の木質基材

【課題】電気式床暖房パネルAにおいて、配線溝53に配線したときに、コード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aに、浮き上がりや戻りが生じるのを防止する。
【解決手段】長尺状の木質基材50Aの裏面に配線溝53が形成され、そこにコード状ヒータ54が配線されている電気式床暖房パネルAにおいて、配線溝53のUターン部53bにおける外側壁面58の平面視での形状を、コード状ヒータ54を配線溝53の隣接する2本の直線部53a、53aに連続して配線しようとするときに生じるコード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aの形状に一致あるいはほぼ一致する形状とする。そして、外側壁面58に沿うようにしてコード状ヒータ54を配線する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コード状ヒータを備える電気式床暖房パネルとその電気式床暖房パネルを構成する木質基材に関する。
【背景技術】
【0002】
木質基材の裏面にコード状ヒータを配線した電気式床暖房パネルは知られている(特許文献1等参照)。電気式床暖房パネルの製造に際し、木質基材の裏面にコード状ヒータを配線するための配線溝が形成され、該配線溝の中にコード状ヒータが埋め込まれる。埋め込み作業を容易化するために、実際の電気式床暖房パネルで使用される木質基材では、配線溝の横幅は埋め込もうとするコード状ヒータの直径と同じとされ、上から溝内にコード状ヒータを押し込むだけで、摩擦力によりコード状ヒータが溝内に固定されるようにされている。
【0003】
上記の形態の電気式床暖房パネルにおいて、床暖房構造として施工した後に電気式床暖パネルの上面から荷重がかかったときに、僅かではあるが木質基材の長辺方向に下に凸の反りが生じる。遮音機能を向上させる目的で木質基材に短辺に平行な多数の遮音溝が形成されている場合、あるいは歩行感を向上させる等の目的で木質基材の裏面に緩衝材を貼り付けた場合にはこの反り量は大きくなる。
【0004】
配線溝内に配線されたコード状ヒータもこの木質基材の挙動に追従して長辺方向に下向きに湾曲する。従来、コード状ヒータはUターン部も含めて配線溝内にぴったりと納まるように配線されているために、配線溝の直線部に配線されているコード状ヒータが長辺方向に下向に湾曲すると、Uターン部では、その内側壁面が抵抗点となってコード状ヒータに引っ張り方向の応力が発生する。
【0005】
木質基材の反りに起因してコード状ヒータに引っ張り応力が生じるのを回避できるようにした木質基材および電気式床暖房パネルが特許文献1に記載されており、そこでは、図6(a)に示すように、木質基材50Aの裏面に形成する配線溝53のUターン部53bの溝幅Wbを直線部53aの溝幅Waよりも広くすると共に、Uターン部53bの内側壁面57は円弧状に、Uターン部53bの外側壁面58は曲線部R1と直線部Lと曲線部R2とで形成される形状としている。そして、直径dであるコード状ヒータ54は、前記Uターン部ではその外側壁面58に沿うようにして配線されるようになっている。
【0006】
この形態の電気式床暖房パネルでは、図6(a)に示すように、Uターン部53bの内側壁面57とコード状ヒータ54との間には所要の広さの隙間Sが存在する。そのために、木質基材の反りに起因してコード状ヒータ54に変形が生じる場合でも、図6(b)に示すように、その変形は前記隙間Sによって吸収され、Uターン部53bにおいてコード状ヒータ54に引っ張り方向の応力が作用するのを回避できる利点がある。
【0007】
【特許文献1】特開2008−57280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記した形態の配線溝53を裏面に持つ木質基材50Aにコード状ヒータ54を配線して電気式床暖房パネルとする作業を行ってきているが、その過程において、コード状ヒータ54をUターン部53bの外側壁面58に沿うようにして配線したときに、コード状ヒータの浮き上がりや戻りが生じる場合があることを知見した。浮き上がりや戻りが生じるとそれを修正する作業が必要となり、配線作業が繁雑となる場合があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、配線溝にコード状ヒータを配線したときに、コード状ヒータの浮き上がりや戻りが生じるのを防止することのできる電気式床暖房パネル用の木質基材を提供することを第1の課題とする。また、その木質基材にコード状ヒータを配線した電気式床暖房パネルを提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者らは多くの実験を行うことにより、図6に示すように、前記した所要の広さの隙間Sが存在するUターン部53bにおける外側壁面58の形状が、曲線部R1と直線部Lと曲線部R2とで形成される形状の場合、外側壁面58に沿うようにしてコード状ヒータ54を配線すると、そこに形成されるコード状ヒータ54の曲がり形状は、直線状のコード状ヒータ54を自然の状態で180度に折曲したときに形成される曲がり部の形状と異なっており、そのためにコード状ヒータ54の曲がり部に大きな弾力(内部応力)が形成され、それを開放しようとして前記したコード状ヒータの浮き上がりや戻りが生じることを知った。
【0011】
本発明は上記の知見に基づくものであり、本発明による木質基材は、長辺側は直線状であり短辺側は直線状または雁木状とされた長尺状の木質基材の裏面にコード状ヒータを収容するための配線溝が形成されている電気式床暖房パネル用の木質基材であって、前記配線溝は、長辺方向に沿う直線部とそこに続く木質基材の長辺方向の端部近傍におけるUターン部とを少なくとも有しており、前記Uターン部の少なくとも外側壁面はコード状ヒータを隣接する前記直線部に連続して配線しようとするときに自然に形成されるコード状ヒータのUターン状の曲がり部の形状に一致あるいはほぼ一致する形状とされており、前記コード状ヒータは前記Uターン部の外側壁面に接するようにして配線されることを特徴とする。
【0012】
本発明による木質基材では、配線溝のUターン部における外側壁面の形状は、コード状ヒータを隣接する前記直線部に連続して配線しようとするときに自然に形成されるコード状ヒータのUターン状の曲がり部の形状に一致あるいはほぼ一致する形状とされているので、Uターン部の外側壁面に沿うようにしてコード状ヒータを配線しても、その曲がり部に大きな内部応力が形成されることはない。そのために、配線後に浮き上がりや戻りが生じるのを確実に回避することができる。
【0013】
木質床材の裏面に形成される複数本の長辺方向に沿う直線部での隣接する直線部間の距離、あるいは使用するコード状ヒータの物性に応じて、隣接する直線部に連続して配線しようとするときに自然に形成されるコード状ヒータのUターン状の曲がり部の形状が異なる場合がある。その場合に、それぞれの曲がり部の形状に一致あるいはほぼ一致した外側壁面を持つUターン部を形成した多くの種類の木質基材を製造することは、コスト的に負担となる場合がある。
【0014】
そのために、本発明による木質基材の一態様では、前記Uターン部の少なくとも外側壁面は半円加工面とされる。多くの場合、弾性を有する直線状部材を180度折曲したときに形成される曲がり部の形状はほぼ半円状であることを考慮すると、この態様であっても、充分に所期の目的を達成することができる。また、この態様では、木質基材にNC加工機を用いて配線溝のUターン部を形成するときに、半円加工面以外の加工面(例えば、図6に示したようなUターン部53bにおける外側壁面58の形状が、曲線部R1と直線部Lと曲線部R2とで形成される形状である加工面等)を加工する場合と比較して、その加工プログラム容量を削減することが可能となる。
【0015】
本発明による木質基材の一態様では、前記Uターン部は前記直線部よりも溝幅が広くされている。この態様では、電気式床暖房パネルとしたときに、前記特許文献1に記載した電気式床暖房パネルのように、木質基材の反りに起因してコード状ヒータに引っ張り応力が生じるのを効果的に回避することができる。
【0016】
本発明は、上記した電気式床暖房パネル用の木質基材とその配線溝に配線されたコード状ヒータとを少なくとも備える電気式床暖房パネルであって、前記コード状ヒータは前記Uターン部の外側壁面に沿うようにして配線されていることを特徴とする電気式床暖房パネルをも開示する。
【0017】
上記した理由により、この電気式床暖房パネルを製造するときに、コード状ヒータの浮き上がりや戻りが生じるのを抑制できるので、製造を容易かつ迅速化することができる。また、木質基材として、配線溝のUターン部が直線部よりも溝幅が広くされている木質基材を用いる態様では、木質基材の反りに起因してコード状ヒータに引っ張り応力が生じるのを効果的に回避することができる。
【0018】
なお、本発明において、コード状ヒータには、特開2008−157603号公報に記載されるような抵抗器付き温度ヒューズと検知線を備えたヒータ、あるいは特開平10−335046号公報に記載されるような検知線(信号線)を備えた3線式のヒータと抵抗器付き温度ヒューズとを組み合わせたヒータ等も用いることができる。抵抗器付き温度ヒューズを備えた3線式ヒータの使用態様の一例は、本出願と同じ出願人にかかる特願2008−054784号に記載されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、木質基材の裏面に形成した配線溝にコード状ヒータを配線するときに、配線溝のUターン部でコード状ヒータの浮き上がりや戻りが生じるのを防止できることから、電気式床暖房パネルを製造するときの、配線溝内にコード状ヒータを配線する作業を容易かつ迅速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は本発明による電気式床暖房パネルの一例を示す平面図、図2は図1のI−I線による断面図、図3は図1のII−II線による断面図である。図4は図1に示す電気式床暖房パネルの底面図であり、緩衝材層は外してある。図5は電気式床暖房パネルにおける配線溝のUターン部とコード状ヒータとの関係を説明するための図である。
【0021】
図示される本発明による電気式床暖房パネルAにおいて、木質基材50Aは、図2に示すように、周囲に雄実51と雌実52が形成された長尺状の単位ピース50が長辺方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けられて、1つの木質基材50Aとされている。すなわち、図1に示すように、木質基材50Aは、長辺側は直線状であり、短辺側は雁木状とされた長尺状である。図示しないが、短辺側も直線状である全体が長方形であってもよい。各単位ピース50には合板もしくは表層に極薄のMDFが練り合わされた合板からなる複合基材が用いられ、各単位ピース50の表面には突板または化粧シート等の表面化粧材(不図示)が好ましくは積層される。各単位ピース50の裏面には配線溝53が形成される。配線溝53は、図4に示すように、主に、木質基材50Aの長辺方向に沿う直線部53aと、そこに続く木質基材50Aの長辺方向の端部近傍におけるUターン部53b(その一部が図4で○で囲んで示される)とで構成される。場所によっては蛇行部となっている箇所もある。図示のものにおいて、配線溝53は、各単位ピース当たり3本となるように連続して形成されている。また、隣接する単位ピース50、50の接合部でも配線溝53同士は連続している。連続する配線溝53の中には、コード状ヒータ54が埋め込まれており、コード状ヒータ54の端部はコネクターに55、56に電気的に接続している。
【0022】
上記配線溝53のUターン部53b近傍の拡大図の一例が図5に示される。図示のように、Uターン部53b、すなわち曲線部の溝幅Wbは、その全域にわたって、配線溝53の直線部53aの溝幅Waよりも広い。この例において、配線溝53の直線部53aの溝幅Waは、配線するコード状ヒータ54の直径dにほぼ等しく、従って、Uターン部(曲線部)53bの溝幅Wbは全域にわたってコード状ヒータ54の直径dよりも大きい。配線溝53の直線部53aの溝幅Waを、配線するコード状ヒータ54の直径dの1.1〜1.3程度に広くすることにより、コード状ヒータ54の摩耗等による損耗を回避できるが、その場合でも、Uターン部53bの溝幅Wbは全域にわたって直線部53aの溝幅Waよりも広く設定される。図示されないが、配線溝53の深さは、直線部53aおよびUターン部53bにおいてすべて等しく、コード状ヒータ54の直径dとほぼ同じである。
【0023】
そして、図5に示す例において、前記Uターン部53bの内側壁面57の平面視での形状は半円加工面であり、外側壁面58の平面視での形状は、コード状ヒータ54を配線溝53の隣接する2本の直線部53a、53aに連続して配線しようとするときに生じる、すなわち自然に形成されるコード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aの形状に一致あるいはほぼ一致する形状とされている。図示の例では、外側壁面58の平面視での形状は、ほぼ半円状の加工面とされているが、半円状の加工面は1つの例であって、外側壁面58の平面視での形状は、配線しようとするコード状ヒータ54の種類や配線溝53の隣接する2本の直線部53a、53a間の距離等によって、相違してくる。
【0024】
電気式床暖房パネルAを製造するに際して、木質基材50Aの裏面に形成した配線溝53内にコード状ヒータ54が埋め込まれる。配線溝53の直線部53aにおいては、上から単に押し込むようにする。Uターン部53bではその外側壁面58に接するようにしてコード状ヒータ54を配線する。前記のように、Uターン部(曲線部)53bの外側壁面58の平面視での形状は、コード状ヒータ54を配線溝53の隣接する2本の直線部53a、53aに連続して配線しようとするときに、コード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aの形状に一致あるいはほぼ一致する形状とされており、かつコード状ヒータ54はUターン部(曲線部)53bの外側壁面58に沿うようにして配線されるので、配線された状態において、コード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aには、埋め込みに伴う大きな内部応力が形成されることはない。そのために、配線後に、コード状ヒータ54のUターン状の曲がり部54aが浮き上がることや戻りが生じることを確実に回避することができる。結果として、コード状ヒータ54の配線作業を迅速かつ適正に行うことが可能となる。
【0025】
また、前記のように、Uターン部53bの溝幅wbは、直線部53aの溝幅waよりも広く、すなわちコード状ヒータ54の直径dよりも広くされており、上記のようにしてコード状ヒータ54をUターン部53bに配線することにより、Uターン部53bの内側壁面57とコード状ヒータ54の間には、大きな隙間Sが形成される。それにより、木質基材50Aの反りに起因してコード状ヒータ54に引っ張り応力が生じるのを効果的に回避することができる。
【0026】
さらに、図示の例において、各単位ピース50の裏面には、配線溝53の主に直線部53aに交差するようにして単位ピース50の短辺に平行な多数の遮音溝59が形成されている。限定されるものではないが、この例において、遮音溝59の溝幅はほぼ2mm、各遮音溝59間のピッチはほぼ15mm程度である。この遮音溝59を備えることにより、電気式床暖房パネルAを敷き詰めた床暖房構造は高い遮音機能を備えることができる。なお、この遮音溝59は省略することもできる。
【0027】
また、木質基材50Aの裏面には、コネクター55、56の収容部を除いて、全面に緩衝材60が貼り付けられている。この例において、緩衝材60は、図2、図3に示すように、クッション材として不織布層61と断熱材として機能する軟質樹脂発泡体層62との2層構成であり、軟質樹脂発泡体層62が外側となるようにして木質基材50Aの裏面側に面して貼り付けられている。それにより、電気式床暖房パネルAを敷き詰めた床暖房構造は高い遮音機能を備えることことに加えて、高い歩行感と高い断熱性も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による電気式床暖房パネルの一例を示す平面図。
【図2】図1のI−I線による断面図。
【図3】図1のII−II線による断面図。
【図4】図1に示す電気式床暖房パネルから緩衝材を外した状態での底面図。
【図5】本発明による電気式床暖房パネルにおける配線溝のUターン部近傍を拡大して示す図。
【図6】従来の電気式床暖房パネルにおける配線溝のUターン部近傍を拡大して示す図。
【符号の説明】
【0029】
A…本発明による電気式床暖房パネル、
50A…木質基材、
50…単位ピース、
51…雄実、
52…雌実、
53…配線溝、
53a…配線溝の直線部、
53b…配線溝のUターン部、
54…コード状ヒータ、
54a…コード状ヒータのUターン状の曲がり部、
57…Uターン部の内側壁面、
58…Uターン部の外側壁面、
59…遮音溝、
60…緩衝材、
61…不織布層、
62…樹脂発泡体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長辺側は直線状であり短辺側は直線状または雁木状とされた長尺状の木質基材の裏面にコード状ヒータを収容するための配線溝が形成されている電気式床暖房パネル用の木質基材であって、前記配線溝は、長辺方向に沿う直線部とそこに続く木質基材の長辺方向の端部近傍におけるUターン部とを少なくとも有しており、前記Uターン部の少なくとも外側壁面はコード状ヒータを隣接する前記直線部に連続して配線しようとするときに自然に形成されるコード状ヒータのUターン状の曲がり部の形状に一致あるいはほぼ一致する形状とされており、前記コード状ヒータは前記Uターン部の外側壁面に接するようにして配線されることを特徴とする電気式床暖房パネル用の木質基材。
【請求項2】
前記Uターン部の少なくとも外側壁面は半円加工面であることを特徴とする請求項1に記載の電気式床暖房パネル用の木質基材。
【請求項3】
前記Uターン部は前記直線部よりも溝幅が広くされていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気式床暖房パネル用の木質基材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の電気式床暖房パネル用の木質基材とその配線溝に配線されたコード状ヒータとを少なくとも備える電気式床暖房パネルであって、前記コード状ヒータは前記Uターン部の外側壁面に沿うようにして配線されていることを特徴とする電気式床暖房パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−127529(P2010−127529A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302880(P2008−302880)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】