説明

電気式脱イオン水製造装置

【課題】温度環境が変化する状況でも隙間を生じず、水漏れを発生させない平板積層型の電気式脱イオン水製造装置を提供する。
【解決手段】電気式脱イオン水製造装置は、少なくとも2つのイオン交換膜1、2で画成される室にイオン交換体を充填した脱塩室4と、脱塩室の一側のイオン交換膜の1つを介して隣接して配置された第1の濃縮室5aと、脱塩室の他側のもう1つのイオン交換膜を介して隣接して配置された第2の濃縮室5bと、第1の濃縮室と第2の濃縮室の外側にそれぞれ設けられた一対の電極室6a、6bとを有する装置において、脱塩室、濃縮室5a、5bおよび電極室6a、6bを有してなる本体部20と、本体部を挟むように設けられた一対の固定板9a、9bと、弾性体7と、を備え、固定板と弾性体により、本体部に脱塩室、濃縮室5a、5bおよび電極室6a、6bの配列方向の圧縮応力が作用するように、弾性体を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラー水や発電所の復水、発電所の蒸気発生器の器内水などとして使用される、いわゆる脱イオン水の製造に好適な電気式脱イオン水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脱イオン水(以下、脱塩水と記すこともある。)を製造する方法として、従来からイオン交換樹脂に被処理水を通して脱イオンを行う方法が知られている。この方法ではイオン交換樹脂がイオンで飽和されたときに薬剤によって再生を行う必要があり、このような処理操作上の不利な点を解消するため、薬剤による再生が全く不要な電気式脱イオン法による脱イオン水製造方法が確立され、実用化に至っている。
【0003】
このような脱塩処理を行う電気式脱イオン水製造装置においては、例えば図7に示すように、基本的にはカチオン交換膜107とアニオン交換膜108で画成される室にイオン交換体を充填して脱塩室101を構成し、脱塩室101の両側に濃縮室102a、102bを設け、これら脱塩室101および濃縮室102a、102bを、二つの電極室103a、103b、すなわち陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室との間に配置して本体部104が構成されている。被処理水105は、脱塩室101内に充填されたイオン交換体の層を通過し、上記陽極と陰極との間に電圧が印加され、上記両イオン交換膜を介して被処理水の流れに対して直角方向に直流電流が作用されることにより、両イオン交換膜の外側に配置された濃縮室102a、102b中を流れる濃縮水中に被処理水中の不純物イオンが電気的に排除されながら、処理水106として脱イオン水が製造される。
【0004】
電気式脱イオン水製造装置の本体部104の形態としては、平板積層型、スパイラル型あるいは同心円型などのものが挙げられる。
【0005】
平板積層型の電気式イオン水製造装置は、カチオン交換膜107とアニオン交換膜108の間にイオン交換体を配置して形成した脱塩室101を、イオンが排除される部屋となる濃縮室102a、102bを介して複数隣接し、その両端に陰極室103aと陽極室103bを配した構造である。図7は脱塩室101が一つの場合の平板積層型を例示している。
【0006】
このような平板積層型の電気式脱イオン水製造装置は、各室に印加される電流の値が均一となる利点はあるものの、脱塩室、濃縮室、電極室を隣接して配置し、ボルトの締め付け等により各室を押さえ付けるため、その締め付けが弱いと各室間に隙間が生じ、通水時に水漏れが生じる可能性がある。一般的に、水漏れを防止するために、平板積層型電気式脱イオン水製造装置では本体部104の各室の配列方向の両端外側に頑丈な固定板109を配置し、固定板109同士をボルト111で連結し、ボルト111を使って強力に本体部104の締め付けを行っている。
【0007】
さらに、脱塩室101、濃縮室102a、102b、電極室103a、103bなどの各室の間には通常、ガスケット110が挟んであり、これにより。各室接合部の隙間を密封し、水漏れを防止している。ガスケットとしては一般的にゴムシート、ゴムOリングが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−268331号公報
【特許文献2】特許3800571号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した平板積層型の電気式脱イオン水製造装置に高温(40℃以上)の被処理水を通水する場合、常温状態からの温度上昇によって本体部が熱膨張する。しかし、上記固定板やボルトが金属製で上記各室がプラスチック製である場合、一般的にプラスチックは金属よりも線膨張率が高いので、固定板に挟まれた本体部は各室の配列方向に膨張することができず、各室の配列方向とは垂直の方向に膨張し、変形する。この状態で温度が常温に戻ると各室は収縮するが、変形した部分は完全には戻らず、各室の配列方向は収縮するため、各室間に隙間が生じ、その隙間から水漏れが発生する。
【0010】
また、本体部の材料組成も均一ではないので、各室の膨張による変形でも隙間が生じる可能性もある。
【0011】
このような状況は、例えば温水を処理する脱塩装置で発生する虞がある。特に原子力発電所は水漏れを許さないので、現状の装置の使用は認められない。
【0012】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、平板積層型の電気式脱イオン水製造装置について、温度環境が変化する状況でも隙間を生じず、水漏れを発生させないことにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、少なくとも2つのイオン交換膜で画成される室にイオン交換体を充填した脱塩室と、脱塩室の一側のイオン交換膜の1つを介して隣接して配置された第1の濃縮室と、脱塩室の他側のもう1つのイオン交換膜を介して隣接して配置された第2の濃縮室と、第1の濃縮室と第2の濃縮室の外側にそれぞれ設けられた一対の電極室とを有する電気式脱イオン水製造装置に係わる。
【0014】
この態様において本発明は、上記脱塩室、濃縮室および電極室を有してなる本体部と、
本体部を挟むように設けられた一対の固定板と、
弾性体と、を備え、
上記固定板と弾性体により、本体部に脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の圧縮応力が作用するように、弾性体が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電気式脱イオン水製造装置において、高温の被処理水を通水した場合や、高温環境下で使用した場合など、温度環境が変化する状況で発生する各室の膨張・収縮に弾性体が追従するため、各室間に隙間が生じず、水漏れを発生させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の基本構成を模式的断面で示した図。
【図2】図1に示した本体部、弾性体、ストッパーおよび固定板を組み立てた外観を示した図。
【図3】図1に示した本体部、弾性体、ストッパーおよび固定板を組み立てる様子を示した図。
【図4】図1に示した積層体の、装置の温度変化での熱収縮に圧縮コイルばねが追従する様子を示した図。
【図5】図1に示した弾性体とストッパーの配置例を示した図。
【図6】図1に示した装置の変形態様を示した模式的断面図。
【図7】電気式脱イオン水製造装置の従来構造を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の基本構成を示している。
【0019】
図1において、一側のカチオン交換膜1と他側のアニオン交換膜2で画成される室にイオン交換体(例えば、イオン交換樹脂、モノリス状有機多孔質イオン交換体、イオン交換繊維等)が充填されて、脱塩室4が構成される。脱塩室4は、被処理水3を脱塩処理して脱イオン水を製造する。ここで、脱塩室4は少なくとも2つのイオン交換膜で画成されていればよく、図1では、脱塩室4の一側がカチオン交換膜1、他側がアニオン交換膜2で画成されているが、例えば、両側ともカチオン交換膜(又はアニオン交換膜)でもよい。また、脱塩室4内に他のイオン交換膜を備え、脱塩室4を分割していてもよい。
【0020】
脱塩室4の一側にはイオン交換膜の1つ(本例ではカチオン交換膜1)を介して第1の濃縮室5aが設けられており、また、脱塩室4の他側には別のイオン交換膜(本例ではアニオン交換膜2)を介して第2の濃縮室5bが設けられている。
【0021】
濃縮室5a、5bそれぞれの外側には、一対の電極室6a、6b(本例では電極室6aが陰極室、電極室6bが陽極室)が配置されている。濃縮室5aと電極室6aの間並びに濃縮室5bと電極室6bの間もイオン交換膜(カチオン交換膜1又はアニオン交換膜2)が備えられている。また、電極室6a、6bには、それぞれ一対の電極板(本例では電極室6aに陰極板、電極室6bに陽極板)が備えられており、電極室6a、6bの外側は側壁11で閉じられている。一対の電極板間に電圧を印加し、イオン交換膜を介して被処理水3の流れに対して直角方向に直流電流が作用することにより、濃縮室5a、5b中を流れる濃縮水(不図示)中に被処理水3中の不純物イオンが電気的に排除されながら、処理水12として脱イオン水が製造される。
【0022】
図1では、一つの脱塩室4の両側に濃縮室5a、5bが設けられた形態が示されているが、脱塩室4と濃縮室5a、5bは、複数組配置することが可能である。
【0023】
図2、図3に示されるように、脱塩室4、濃縮室5a、5b、および電極室6a、6bは、それぞれが開口部14aを有した枠体14で構成される。脱塩室4は、この開口部14aにイオン交換体13が充填されている。枠体14の材質は、装置の軽量化や加工のしやすさ等の観点からABS樹脂が好ましい。
【0024】
これらの各室をそれぞれの開口部14aが合わせられ、イオン交換膜15を介して一列に隣接するように配置して積層体20(本体部とも呼ぶ)を構成する。積層体20の外側には、一対の固定板9a、9bが配置されている。固定板9a、9bは、図2、図3に示すように、積層体20を挟むようにその両側に配置され、ナット16およびボルト19で位置固定されている。ボルト19は、積層体20の外側を通るようにして固定板9a、9bを位置固定しても良いし、図3で示すように各室の枠体14に設けられたボルト穴14bを貫通して固定板9a、9bを位置固定しても良い。固定板9a、9bの材質は、枠体14よりも強度が高く、線膨張率が小さいものが好ましく、例えば、SS製やSUS製が好ましい。
【0025】
そして、積層体20と一方の固定板9bとの間に弾性体7が配置されている。このように弾性体7を配置する場合は、圧縮コイルばねが好適に用いられる。圧縮コイルばねは、弾性力を設定しやすい上、積層体20を固定板9bで押さえつける際のボルト19に通すことができ、固定も容易である。なお、弾性体7の種類は、固定板9a、9bと弾性体7により積層体20を構成する枠体14が押さえつけられるような応力が作用するように、即ち、積層体20に圧縮応力が作用するように選択されていればよく、両側の固定板9a、9bを引張コイルばねで繋ぐように配置してもよい。
【0026】
さらに、脱塩室4、濃縮室5a、5b、電極室6a、6b等の各室の間には、図2、図3に示すようにガスケット10が挟んである。このようにガスケット10を設置した状態で積層体20を固定板9a、9bと弾性体7で締め付けることによって、隣接した各室間に密封性を付与し、脱イオン水製造装置からの水漏れを防止している。ガスケット10としてはゴムシートまたはゴムOリングが用いられる。
【0027】
上記した電気式脱イオン水製造装置の構成によれば、固定板9a、9bと弾性体7により積層体20を押さえつけるように応力が作用するため、脱イオン水製造での通水時又は停止時に装置の温度変動が生じる場合であっても各室間に隙間が発生することがなく、水漏れが発生しない。
【0028】
こうした水漏れ防止効果を奏するための弾性体7について、圧縮コイルばねを例にして、さらに具体的に述べる。
【0029】
固定板9bと積層体20の端部との間で弾性体(以下、「圧縮コイルばね」と言う場合がある)7は、固定板9a、9bの位置固定により自然長(外力が働いていない状態での圧縮コイルばねの長さ)から縮められた状態で配置される(図2参照)。装置が40℃以上の高温に曝されると、各室自体の温度が上がり、各室の枠体は膨張する。ここで、積層体20と固定板9bとの間には圧縮コイルばね7を備えているため、その弾性力により積層体20は各室の配列方向には膨張せず、各室間は密接したままの状態を保つ。その後、装置の温度が常温に戻ると各枠体14は収縮し、圧縮コイルばねが備えられていない場合は、その収縮によって各室間に隙間が生じる。例えば、枠体14がABS樹脂製の場合、積層体20の長さが500mmで、かつ装置組立時(常温時)との温度差が50℃の状態で使用すると、ABS樹脂の線膨張率はおよそ10×10-5(1/K)であるので、積層体20は約2.5mm縮み、これにより隙間が生じて水漏れが発生する。しかし本発明では、各室の配列方向については圧縮コイルばねの弾性力により、各室間は密着した状態を保持する。したがって、各室間には隙間は生じず、水漏れも発生しない。また、装置を通過する被処理水の温度の高低により各室の配列方向とは垂直の方向に枠体14が膨張して変形した場合においても、各室の密接部分は、圧縮コイルばね7の弾性力により隙間が生じない。なお、各室の膨張・収縮が装置の使用環境の温度変化による場合でも同様である。図4の(a)〜(b)には上記のような装置の温度変化での積層体20の熱収縮に圧縮コイルばね7が追従する様子を示した。
【0030】
圧縮コイルばね7の配置については、図5で示すように、各室の内壁面(すなわち枠体の開口部14aの開口縁辺)を固定板9bに投影した線17に沿うように、その線上に、又は、その線17よりも外側で、かつ各室の外壁面(すなわち枠体14の外周側面)を固定板9bに投影した線18よりも内側に複数個配置するのが好ましい。これにより、各室の枠体14の一部が膨張・収縮する場合でも、それに対応するばねの弾性力により隙間の発生を防止することができる。なお、圧縮コイルばね7を所定の位置に配置するために、圧縮コイルばね7の内径より小さいピン(ストッパー8)を固定板9bに設けることが好ましい。これにより、圧縮コイルばね7の内側をピンに通すように圧縮コイルばね7を容易に設置することができる。このピンは、後述するようにストッパー8としても機能する。
【0031】
また、積層体20、圧縮コイルばね7、固定板9a、9bを組み立てる際には、圧縮コイルばね7のたわみ量を、積層体20の線膨張率と積層体20の各室の配列方向の長さと温度変化の積で表わされる変位以上に縮めるのが好ましい。即ち、積層体20が固定板9a、9bおよびボルト19等で固定されていない場合に、積層体20が温度変化で各室の配列方向に膨張・収縮する際の以下の(1)式で示される変位量以上に圧縮コイルばねを縮める。
【0032】
a=α×ΔT×L0 (1)
a:ΔTだけ温度変化した場合の積層体20の、各室(すなわち、脱塩室4、濃縮室5a、5b、および電極室6a、6b)の配列方向の変位
α:積層体20の線膨張率
0:積層体20の、各室の配列方向の長さ
ΔT:温度変化量の絶対値
ここで「たわみ量」とは、弾性体に荷重、モーメントなどを加えたときに発生する変位又は回転角をいう。特に弾性体7が圧縮コイルばねの場合は、ばね両端の相対変位(伸縮量)をいう(JIS B0103)。

また、脱塩室4、濃縮室5a、5b、電極室6a、6bの間にそれぞれガスケット10が備えられている場合は、積層体20が温度変化で各室の配列方向に膨張・収縮する際の以下の(2)式で示される変位量以上に圧縮コイルばねを縮める。
【0033】
b=α×ΔT×L0+P/k (2)
b:ΔTだけ温度変化した場合の積層体20の、各室(すなわち、脱塩室4、濃縮室5a、5b、および電極室6a、6b)の配列方向の変位量
α:積層体20の線膨張率
0:装置組立時における積層体20の、各室の配列方向の配列方向の長さ
ΔT:温度変化量の絶対値
P:装置組立時においてガスケット10を潰したときに発生する反発力
k:圧縮コイルばね7のばね定数

圧縮コイルばね7が積層体20を押す力は、積層体20の内部から固定板9bの方向へ発生する力よりも強い力である必要がある。積層体20内部で発生する力は、1)脱塩室4、濃縮室5a、5bおよび電極室6a、6bの通水時の水圧による力、2)Oリング等のガスケット10を潰したときに発生する反発力、などが挙げられる。圧縮コイルばね7が積層体20を押す力が積層体20内部で発生する力より小さければ、圧縮コイルばね7が装置組立時よりも縮むことで各室間に隙間が生じて装置外部への水漏れが起きる可能性がある。
【0034】
そのため、圧縮コイルばね7を上記の条件の収縮量にすることで、装置の密封性を保ちつつ、積層体20の上記熱収縮による縮み幅に追従することができる。
【0035】
ここで、ばね定数とは、ばねに単位変位量(たわみ又はたわみ角)を与えるのに必要な力又はモーメントをいう(JIS B0103)。

また、積層体20の各室に水を通したとき、その水圧によって積層体20内部で発生する力が圧縮コイルばね7により積層体20を押さえ込む力を上回る場合、圧縮コイルばね7が装置組立時よりもさらに縮んで各室間に隙間が発生してしまう。そこで、圧縮コイルばね7が装置組立時よりも縮まないようにストッパー8(図3参照)を設けるのが好ましい。これにより圧縮コイルばね7が必要以上に縮むことを防ぐことができるため、圧縮コイルばね7の弾性力による積層体20への過度な負荷を低減できる。ストッパー8は圧縮コイルばね7を必要以上に縮めないものであれば特に限定されないが、圧縮コイルばね7の配置位置(例えば図5に示した配置位置)に設けることが可能な、圧縮コイルばね7の内径より小さい金属製のピンであることが好ましい。これにより、圧縮コイルばね7の内側をピンに通すように圧縮コイルばね7を設置することができるため、上記ストッパーとしての機能の他、圧縮コイルばね7の取り付けや固定を容易にすることができる。また、ストッパー8は、装置組立時の圧縮コイルばね7の収縮量と同じ長さになるように設置するのが好ましい。これにより、装置組立時に必要以上にボルトを締め付けることがなくなり、枠体への応力過多を防止できる。
【0036】
なお、ストッパー8は一方の固定板9bに固設されているが、電極室6bの側壁11に固設されていてもよい。
【0037】
また、圧縮コイルばね7が積層体20に接していると、圧縮コイルばね7の作用により、その接触部分に応力集中が起こるため、枠体の破損が発生するおそれがある。そこで、図6に示すように積層体20と圧縮コイルばね7との間に平板21を設置してもよい。これにより、平板21の全面で積層体20を押さえつけることができるため、積層体20への荷重が一点に集中しにくくなる。
【0038】
その他の変形としては、圧縮コイルばねの弾性体7およびストッパー8が積層体20の片側のみに配置されているが、積層体20の左右両側に配置されていてもよい。
【0039】
「実施例」
次に、実施例を挙げて上記電気式脱イオン水製造装置を更に具体的に説明するが、これは一例であって、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0040】
アンモニアを含む被処理水を混床脱塩セルで脱塩処理する際、下記の装置仕様および運転条件で図1に示した構成の電気式脱イオン水製造装置を使用した。この装置を20℃の室内で組立てた。このような装置を使用し、アンモニウムイオン20mg/L、ナトリウムイオン1mg/L、塩化物イオン1mg/L、硫酸イオン1mg/Lの被処理水から脱イオン水を製造した。55℃で1000時間連続運転を行い、純水を通水して洗浄してから運転を停止した。結果、装置の温度は常温(20℃)になったが、水漏れは発生しなかった。
【0041】
(装置仕様)
上記の評価を得るために、以下の仕様の電気式脱イオン水製造装置(構造は図1乃至図2に示した装置)を使用する。
【0042】
脱塩室4;幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
濃縮室5a、5b;幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
電極室6a、6b:幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
脱塩室4と濃縮室5a、5bと電極室6a、6bからなる積層体20の厚さ;480mm
脱塩室4、濃縮室5a、5b、および電極室6a、6bをそれぞれ構成する枠体14の材質;ABS樹脂
脱塩室4に充填したイオン交換樹脂;アニオン交換樹脂(A)とカチオン交換樹脂(K)の混合イオン交換樹脂(混合比は体積比でA:K=1:1)
脱イオン水製造装置全体の流量;1920L/h
循環タンク13;液相部容量100L
通水温度;55℃
入口圧;0.1MPa
(弾性体7の仕様)
上記の評価を得る弾性体7として以下の仕様および設置状態の圧縮コイルばねを使用した。
【0043】
ばね材質;SWP−B(JIS B0103)
ばね線径(mm);5.5
ばね外径(mm);32
ばねの自由高さ(mm);100
ばね定数(N/mm/本);59.9
ばねの使用本数(本);30
装置組立時のばねの縮み幅(mm);15
ばねが積層体20を押す力(N);27000(=59.9×15×30)
(ガスケット10の仕様)
さらに、積層体20を構成する各室間に挟んであるガスケット10として、デュロメーター硬さ(JIS K6253)70、全長2260mm、太さ3.53mmのOリングを用いた。各室間の封止を確実にするためにガスケット10を潰した状態で使用する。このとき、Oリングの潰し率がJIS 2406(1991)にて推奨される25%になるようにOリング単位長さあたりの潰し力を3.4N/mmとし、Oリングを潰したときの反発力は7700Nであった。
【0044】
(積層体20内部に発生する力)
積層体20に通水し、その水圧によって積層体20内部で発生する力は4000Nであった。よって、運転休止中の積層体20内部に発生する力はOリングの反発力のみの7700Nであるが、運転中の積層体20内部に発生する力は11700N(=4000+7700)であった。
【0045】
(弾性体7として使用された圧縮コイルばねの効果)
上記した運転の停止後、圧縮コイルばね7の縮み幅は装置組立時の15mmから13mmになっていた。圧縮コイルばね7の縮み量が13mmのときの、圧縮コイルばね7が積層体20を押す力は23400N(=59.9×13×30)であり、運転休止中の積層体20内部で発生する力7700Nよりも大きい。積層体20は55℃の運転状態から20℃の常温状態になったことで各室の配列方向に2mm((10×10-5[1/k])×480[mm]×(55−20)[℃]=1.68mm≒2mm)縮んで各室間に隙間が発生するおそれがあるが、その隙間をばねが追従できたので水漏れは発生しなかった。また、運転休止中の積層体20内部で発生する力7700Nをばね定数59.9N/mmで割った値(≒4.3mm)と積層体20の縮み幅2mmの和は6.3mmとなり、圧縮コイルばね7の組立時の縮み幅15mmの方が大きい。このため、装置の密封性を保ちつつ、積層体20の熱収縮による縮み幅に追従することができた。
【0046】
(ストッパー8の効果)
次に本実施例の電気式脱イオン水製造装置の排水口を閉め切った状態で、被処理水により入口圧0.75MPaを付与した。このとき、ばねの撓み量は15mmであり、水漏れは発生しなかった。この場合水圧によって発生する力は30000Nであったので積層体20内部で発生する力は37700N(=30000+7700)となり、積層体20内部で発生する力は装置組立時の圧縮コイルばね7が積層体20を押す力27000Nを上回っている。しかし、ストッパー8が電極室6bの側壁11に触れストッパー8の反作用による力が働いたため、圧縮コイルばね7が組立時の縮み量15mm以上に縮むことは無かった。
【0047】
「比較例」
アンモニアを含む被処理水を混床脱塩セルで脱塩処理する際、図1乃至図2に示したような弾性体7およびストッパー8等が装備されていない構成の電気式脱イオン水製造装置(図7参照)を下記の装置仕様および運転条件で使用し、アンモニウムイオン20mg/L、ナトリウムイオン1mg/L、塩化物イオン1mg/L、硫酸1mg/Lの被処理水から脱イオン水を製造した。55℃で1000時間連続運転を行い、純水を通水して洗浄してから運転を停止した。結果、運転停止後、装置の温度は常温(20℃)になり、積層体20の各室間の隙間から水漏れが発生した。
【0048】
比較例の装置仕様は以下のとおりとした。
【0049】
脱塩室101;幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
濃縮室102a、102b;幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
電極室103a、103b:幅300mm、高さ400mm、厚さ8mm
脱塩室101、濃縮室102a、102b、および電極室103a、103bからなる積層体20の厚さ;480mm
脱塩室101、濃縮室102a、102b、および電極室103a、103bを構成する部材の材質;ABS樹脂
脱塩室101に充填したイオン交換樹脂;アニオン交換樹脂(A)とカチオン交換樹脂(K)の混合イオン交換樹脂(混合比は体積比でA:K=1:1)
脱イオン水製造装置全体の流量;1920L/h
循環タンク;液相部容量100L
通水温度;55℃
入口圧;0.1MPa
(産業上の利用可能性)
本発明に係る電気式脱イオン水製造装置によれば、高温で運転した後、常温に戻したときに発生する各室の収縮にばねが追従するため、水漏れの発生しない電気式脱イオン水製造装置を得ることができる。特に水漏れが許されない原子力発電所のような施設で電気式脱イオン水製造装置の使用を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 カチオン交換膜
2 アニオン交換膜
3 被処理水
4 脱塩室
5a、5b 濃縮室
6a 電極室(陰極室)
6b 電極室(陽極室)
7 弾性体(圧縮コイルばね)
8 ストッパー
9a、9b 固定板
10 ガスケット
11 側壁
12 処理水
13 イオン交換体
14 枠体
14a 開口部
14b ボルト穴
15 イオン交換膜(カチオン交換膜1またはアニオン交換膜2)
16 ナット
17 各室の内壁面を固定板に投影した線
18 各室の外壁面を固定板に投影した線
19 ボルト
20 積層体(本体部)
21 平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのイオン交換膜で画成される室にイオン交換体を充填した脱塩室と、前記脱塩室の一側の前記イオン交換膜の1つを介して隣接して配置された第1の濃縮室と、前記脱塩室の他側の前記他のイオン交換膜を介して隣接して配置された第2の濃縮室と、前記第1の濃縮室と第2の濃縮室の外側にそれぞれ設けられた一対の電極室と、を有してなる本体部と、
前記本体部を挟むように設けられた一対の固定板と、
弾性体と、を備え、
前記固定板と弾性体により、前記本体部に前記脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の圧縮応力が作用するように、前記弾性体が配置されていることを特徴とする、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記弾性体は、前記一対の固定板の少なくとも一方と前記本体部との間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記弾性体が圧縮コイルばねであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
温度変化量の絶対値をΔT、
ΔTだけ温度変化した場合の前記本体部の、前記脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の変位量をa、
前記本体部の線膨張率をα、
装置組立時における前記本体部の、前記脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の長さをL0としたとき、
前記弾性体は、次式
a=α×ΔT×L0
で示される変位量a以上のたわみ量を与えた状態で配置されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
隣接した前記脱塩室と前記濃縮室と前記電極室の間にそれぞれガスケットが設けられており、
温度変化量の絶対値をΔT、
ΔTだけ温度変化した場合の前記本体部の、前記脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の変位量をb、
前記本体部の線膨張率をα、
装置組立時における前記本体部の、前記脱塩室、濃縮室および電極室の配列方向の長さをL0
装置組立時においてガスケットを潰したときに発生する反発力をP、
前記弾性体のばね定数をkとしたとき、
前記弾性体は、次式
b=α×ΔT×L0+P/k
で示される変位量b以上のたわみ量を与えた状態で配置されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記固定板に、前記弾性体が前記たわみ量以上のたわみが生じないようにストッパーが設けられていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記ストッパーは、前記圧縮コイルばねの内側を通すことを特徴とする、請求項6に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
前記ストッパーの長さは、前記圧縮コイルばねの自然長と前記たわみ量の差であることを特徴とする、請求項7に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
前記弾性体は、前記脱塩室、濃縮室および電極室の内壁面を前記固定板に投影した線に沿うように、その線上に、又は、その線よりも外側で、かつ前記脱塩室、濃縮室および電極室の外壁面を前記固定板に投影した線よりも内側に複数個配置されていることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電気式脱イオン製造装置。
【請求項10】
前記弾性体と前記本体部との間に平板を備えたことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61388(P2012−61388A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205767(P2010−205767)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】