説明

電気油圧サーボ機構

【目的】 温度変化等の影響を排除し、油圧アクチュエータの所定の待機位置からの偏差を自動的に補正する。
【構成】 油圧アクチュエータ30の制御機構に制御指令値を出力する手段31と、油圧アクチュエータの制御量を測定する手段32と、油圧アクチュエータが所定の静止状態にあることを判定する手段33と、この静止状態において前記制御指令値と制御量の測定値とからオフセット量を算出する手段34と、このオフセット量が所定の許容範囲にあるかどうかを判定する手段35と、オフセット量が許容範囲を越えたときにオフセット値を前記制御指令値に加減してオフセット量を許容範囲に補正する手段36とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、油圧アクチュエータの変位、速度、駆動力などを制御する電気油圧サーボ機構に関する。
【0002】
【従来の技術】入力された電気信号に応じて油圧アクチュエータを駆動する電気油圧サーボ機構を用いた例として、図6で示すように、ビル等の建造物の屋上に設置されてローラ21を介して所定の質量を持った可動マス20を水平変位自由に支持し、この可動マス20と建造物1の間で水平方向に油圧シリンダ3を介装し、地震等の揺れに対応して油圧シリンダ3を伸縮させることにより振幅を抑制する制振装置が知られている(特開平2−204581号公報参照)。
【0003】例えば、建造物1が図示矢印の方向に揺れる場合には、図示しない制御装置より油圧シリンダ3の伸張側の油室31に作動油が供給され、油圧シリンダ3は可動マス20を図の左側へと駆動する。そして、油圧シリンダ3の伸張に対する可動マス20の慣性抵抗のため、油圧シリンダ3は同時に建造物1を揺れの方向と逆向きに押圧し、これにより建造物1の揺れを抑制する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような制振装置の待機中において、ピストン32は油圧シリンダ3のストロークの所定の待機位置である中立点で待機しなければ制振動作時に正逆両方向の振動を抑制することができず、このため装置の設置時等に手動によって電気的な中立点と、機械的な中立点を調整して油圧シリンダ3の待機位置を設定していた。
【0005】しかしながら、制振装置の待機中の温度変化に伴って、作動油の粘性やセンサ等の特性が変動し、事前に調整した待機位置がずれてしまうという問題点が発生した。
【0006】そこで本発明は、温度変化等の影響による油圧アクチュエータの所定の待機位置からの偏差を自動的に補正する電気油圧サーボ機構を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、図1に示すように油圧アクチュエータ30の制御機構に制御指令値を出力する手段31と、油圧アクチュエータの制御量を測定する手段32と、油圧アクチュエータが所定の静止状態にあることを判定する手段33と、この静止状態において前記制御指令値と制御量の測定値とからオフセット量を算出する手段34と、このオフセット量が所定の許容範囲にあるかどうかを判定する手段35と、オフセット量が許容範囲を越えたときにオフセット値を前記制御指令値に加減してオフセット量を許容範囲に補正する手段36とを備える。
【0008】
【作用】油圧アクチュエータの静止状態、例えば中立位置での待機中に、制御指令値と測定値との差であるオフセット量が算出される。このオフセット量が所定の許容範囲を越えていると、このオフセット量が許容範囲に収まるように、所定のオフセット値が制御指令値に加算または減算される。このため、油圧アクチュエータの周辺の温度条件等の変化に伴う制御システムの望ましい中立点からの変動を、常に最小限に抑えることができ、制御時における制御指令値に対する制御の可動範囲を広く利用でき、正確性の向上が図れる。
【0009】
【実施例】以下、図面に従って本発明の実施例を説明する。
【0010】図2〜3は建造物1の屋上に設けた制振装置を示すもので、建造物1の屋上には所定の質量を持った可動マス20がローラ21を介して水平方向で変位自由に配置され、建造物1と可動マス20の間に差動式の油圧シリンダ3及びストロークセンサ4が水平方向で並列に介装される。なお、実際には水平面において2次元方向に2組が配設される。
【0011】11は建造物1の屋上に取り付けられて振動を検出する振動センサで、油圧シリンダ3に近接した所定の位置に設けられている。
【0012】2は振動センサ11の出力に応じて油圧シリンダ3を駆動するコントローラで、このコントローラ2は振動センサ11の出力に応じて油圧シリンダ3に作動油を供給する制御バルブ9への指令入力を算出する指令入力演算回路10と、この指令入力演算回路10の信号に応じて制御バルブ9を制御するバルブ駆動回路8とを備える。
【0013】さらにコントローラ2には、ストロークセンサ4の出力に応じて油圧シリンダ3の位置Lを算出する変位量演算回路5と、油圧シリンダ3の予め設定された待機位置L0を指示する待機位置指令回路7と、油圧シリンダ3の待機位置L0からの偏差Δxを算出するオフセット量演算回路6を備え、指令入力演算回路10の出力にオフセット量演算回路6及び待機位置指令回路7の出力を加算してバルブ駆動回路8へ入力する。
【0014】なお、図3において、油圧シリンダ3の位置Lは建造物1を基準とし、油圧シリンダ3の中央部までの距離とし、また、待機位置L0は油圧シリンダ3の中央部が全ストロークの1/2のときに位置する点、すなわち、油圧シリンダ3の中立点とする。
【0015】コントローラ2の指令入力演算回路10には振動センサ11から建造物1の変位量や変位速度が入力され、指令入力演算回路10はこれらのデータから可動マス20を変位させて建造物1の振動を打ち消す制振力が得られるようにバルブ駆動回路8に目標変位量ΔLを指令し、バルブ駆動回路8は指令入力演算回路10の出力が発生すると目標変位量ΔLに応じて制御バルブ9を制御して油圧シリンダ3を駆動する。
【0016】なお、制御バルブ9は図示しない油圧供給源からの作動油をバルブ駆動回路8からの信号に応じて油圧シリンダ3に供給する油圧サーボ弁等の切り換え弁により構成される。
【0017】一方、オフセット量演算回路6には、図3で示すように変位量演算回路5で算出された油圧シリンダ3の位置Lと、待機位置指令回路7から送られた待機位置L0とから油圧シリンダ3の待機位置L0からの偏差Δxを算出し、指令入力演算回路10の出力であるΔLに加算する。
【0018】また、待機位置指令回路7は予め設定された待機位置L0を指令入力演算回路10の出力ΔLに加算する。したがって、バルブ駆動回路8に入力される信号は、建造物1の振動を抑制する目標変位量ΔLに待機位置L0を加算したものに、油圧シリンダ3の待機位置L0からの偏差Δxを加えたものである。
【0019】オフセット量演算回路6における制御の一例を図4のフローチャートを参照してさらに詳述する。
【0020】オフセット量演算回路6は制振装置の待機中に油圧シリンダ3の待機位置L0からの偏差Δxを算出するため、ステップ50で油圧シリンダ3が静止している待機中であるかを確認し、ステップ51で待機位置指令回路7によって与えられる待機位置L0を読み込み、ステップ52でストロークセンサ4の出力から変位量演算回路5で算出された油圧シリンダ3の位置Lを読み込む。なお、装置が待機中であるかの判定は、指令入力演算回路10の出力ΔLが一定であれば待機中と判定する。
【0021】ステップ53では読み込んだ油圧シリンダ3の位置Lと待機位置L0とから、次式により油圧シリンダ3の待機位置L0からの偏差Δxを算出する。
【0022】Δx = L0 − L
【0023】次に上式で求めた偏差Δxが予め設定した許容範囲内にあるかを判定し(ステップ54)、許容範囲内になければ偏差の方向を判定し(ステップ55)、正の偏差であれば予め設定した所定値αを減算し(ステップ56)、負の偏差であれば所定値αを加算した後(ステップ57)、偏差Δxを更新する(ステップ58)。
【0024】この更新した偏差Δxを再びステップ54において許容範囲内にあるかを判定し、許容範囲内になるまでステップ55以降で所定値であるαの加算あるいは減算を繰り返し、Δxが許容範囲内に収まっていればこの偏差Δxをバルブ駆動回路8に出力する(ステップ59)。
【0025】待機中は上記ステップ50〜59を繰り返し、油圧シリンダ3の位置Lと待機位置L0からの偏差Δxを常時算出して更新している。
【0026】一方、地震などにより建造物1が揺れて振動センサ11に振動などが検知されると、指令入力演算回路10が振動に応じて可動マス20の目標変位量ΔLを算出してバルブ駆動回路8に出力し、油圧シリンダ3の作動が開始される。
【0027】オフセット量演算回路6ではステップ50で指令入力演算回路10の出力が発生したことから装置が待機中ではないと判定し、直前に更新したΔxをステップ59で出力する。
【0028】すなわち、バルブ駆動回路8にはΔL+L0の目標位置に最新の油圧シリンダ3の待機位置からの偏差Δxがオフセットとして加算されて入力され、油圧シリンダ3の相対変位量はΔL+Δxとなり、待機位置L0からの偏差Δxを目標変位量ΔLに加算してずれを補正するため、油圧シリンダ3は常時待機位置L0から作動することと等価となる。
【0029】したがって、待機中の油圧シリンダ3の変位量を常時測定して所定の待機位置L0からの偏差を設定し、油圧シリンダ3の作動時に目標変位量ΔLに偏差Δxをオフセットとして加算して待機位置からのずれを補正するため、温度変化等により油圧シリンダ3が当初の待機位置L0からずれた位置から作動を開始しても目標変位量に対応する位置へ変位させることが可能となり、本実施例のような温度変化の激しい屋外に設置された制振装置においては頻繁に待機位置を調整する必要がなくなり、経年変化に対しても高い信頼性を保持できる。
【0030】図5は第2の実施例を示す制振装置の構成図であり、前記第1の実施例の指令入力演算回路10に変位量演算回路5の演算結果によるフィードバック制御を加えたものであり、その他の構成、制御は前記第1の実施例と同様である。
【0031】制振装置の待機中には、変位量演算回路5の出力から前記第1の実施例と同じく待機位置L0からの油圧シリンダ3の偏差Δxを算出し、制振装置が作動すると目標変位量ΔLに偏差Δxをオフセットとして加算して油圧シリンダ3の待機位置からのずれを補正し、さらに変位量演算回路5で演算された油圧シリンダ3の位置Lは、指令入力演算回路10の目標変位量ΔLのフィードバックに利用され、前記第1の実施例よりさらに正確な変位量の制御を行うことが可能となる。
【0032】なお、上記実施例において本発明による電気油圧サーボ機構を制振装置に適用した例を示したが、疑似体験装置などに適用しても上記実施例と同様の作用、効果を得ることができ、油圧アクチュエータの所定の待機位置から作動させる電気油圧サーボ機構であれば特に限定されるものではない。
【0033】また、上記実施例において油圧アクチュエータとしての油圧シリンダの変位量を制御する例を説明したが、この他、油圧シリンダの変位速度や、駆動力(圧力)を制御する場合にも本発明を利用することができる。
【0034】また、上記実施例において油圧アクチュエータとして差動式油圧シリンダを用いた例を示したが、揺動形油圧アクチュエータ等でもよく、ストローク位置に代わって揺動角度で制御すれば上記実施例と同様の作用、効果を得ることができる。
【0035】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、待機中の油圧アクチュエータの所定の待機位置からのずれを常時測定してオフセット量として求め、油圧アクチュエータの作動時には最新のオフセット量を制御指令値に加算または減算するため、油圧アクチュエータが所定の待機位置からずれていても制御指令値に対応した位置へ変位し、待機位置からの偏差を自動的に補正することが可能となり、温度変化などによる待機位置のずれを原因とする作動不良を排除して正確な作動を得ることができ、頻繁な調整を不要にしてランニングコストの低減も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクレーム対応図である。
【図2】本発明の実施例を示す構成図である。
【図3】油圧シリンダの待機位置を示す概略図である。
【図4】制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】他の実施例を示す構成図である。
【図6】従来例を示す概略図である。
【符号の説明】
1 建造物
2 コントローラ
3 油圧シリンダ
4 ストロークセンサ
5 変位量演算回路
6 オフセット量演算回路
7 待機位置指令回路
8 バルブ駆動回路
9 制御バルブ
10 指令入力演算回路
11 振動センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油圧アクチュエータの制御機構に制御指令値を出力する手段と、油圧アクチュエータの制御量を測定する手段と、油圧アクチュエータが所定の静止状態にあることを判定する手段と、この静止状態において前記制御指令値と制御量の測定値とからオフセット量を算出する手段と、このオフセット量が所定の許容範囲にあるかどうかを判定する手段と、オフセット量が許容範囲を越えたときにオフセット値を前記制御指令値に加減してオフセット量を許容範囲に補正する手段とを備えたことを特徴とする電気油圧サーボ機構。

【図2】
image rotate


【図6】
image rotate


【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図4】
image rotate