電気泳動表示パネルおよび電気泳動表示装置
【課題】絶縁層を備えていても、表示特性に優れた電気泳動表示パネルを提供すること。
【解決手段】電気泳動表示パネル(1)は、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極(18)と、一対の基板のうち他方の基板の基板面に画素電極(18)に対向して形成された1つまたは複数の共通電極(12)と、一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体(15)と、画素電極(18)と液状体(15)との間に配置された絶縁層(4)とを備え、絶縁層(4)の体積固有抵抗は、液状体(15)の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、絶縁層(4)の比誘電率は、液状体(15)の比誘電率と同一またはこの近傍値以下である。
【解決手段】電気泳動表示パネル(1)は、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極(18)と、一対の基板のうち他方の基板の基板面に画素電極(18)に対向して形成された1つまたは複数の共通電極(12)と、一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体(15)と、画素電極(18)と液状体(15)との間に配置された絶縁層(4)とを備え、絶縁層(4)の体積固有抵抗は、液状体(15)の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、絶縁層(4)の比誘電率は、液状体(15)の比誘電率と同一またはこの近傍値以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子に電界を作用させて可逆的に視認状態を変化させる電気泳動表示パネルおよび電気泳動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の発達に伴い、表示装置の低消費電力化、薄型化、フレキシブル化などの要求が増している。このような要求に応えた表示装置の1つとして、電気泳動表示装置がある。電気泳動表示装置に備えられる電気泳動表示パネルは、少なくとも一方が透明でスペーサを介して対向配置された2枚の基板と、一方の基板に配置された画素電極と、他方の基板に配置された共通電極と、正電荷または負電荷にそれぞれ帯電するとともに異なる色に着色された荷電粒子が分散媒中に分散され、基板電極間に充填された表示液と、を備える。この電気泳動表示パネルの基板電極間に電界を作用させると、所望の表示を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電気泳動表示パネルは、一般に、電気泳動表示シートと画素電極とを別々に製作し、接着剤層を介して、電気泳動表示シートと画素電極とを貼り合わせて作製する。電気泳動表示シートと画素電極との間に配置される接着剤層は、電気的には絶縁層として機能する。電気泳動インクを駆動する場合、絶縁層(接着剤層)内で実質的な電圧降下が生じ、電気泳動インクに十分な電圧が印加されないことがあり得る。これに対して、絶縁層(接着剤層)の体積固有抵抗を、電気泳動インクの体積固有抵抗と同程度にまで低下させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3612758号明細書
【特許文献2】特開2011−81407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2記載の技術では、電気泳動表示パネルの十分な表示特性が得られない問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、絶縁層を備えていても、表示特性に優れた電気泳動表示パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気泳動表示パネルは、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率と同一またはこの近傍値以下であることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電圧印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となるため、優れた黒反射率を得ることができる。
【0009】
上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層の体積固有抵抗は、5×108Ωcm以上5×109Ωcm以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、5以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることが好ましい。
【0011】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることが好ましい。
【0012】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の電気泳動表示装置は、上記電気泳動表示パネルのいずれかを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁層を備えていても優れた表示特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図2】上記電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図3】上記電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【図4】実施例1に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例1に係る白反射率の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例1に係る黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例1に係るコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例2に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図11】実施例2に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例2に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例3に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図14】実施例3に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例3に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図16】第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。
【図17】上記電気泳動表示装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【図18】上記電気泳動表示装置における電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【図19】実施例4に係るTFT駆動時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図20】実施例4に係るTFT駆動後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図であり、図2は、電気泳動表示シートと画素電極側基板とを貼り合わせる前の状態を示している。
【0017】
電気泳動表示パネル1は、電気泳動表示シート2と、電気泳動表示シート2の絶縁層側の面に対して貼り合わせられる画素電極側基板3とを備える。
【0018】
電気泳動表示シート2は、共通電極側基板11と、共通電極側基板11の一方の面に形成された共通電極12と、共通電極側基板11の共通電極形成面に対して、スペーサ13を介して対向配置された保護膜14と、スペーサ13によって共通電極側基板11の共通電極形成面と保護膜14との間に形成された空間に封入された電気泳動表示用液15とを備える。以下では、電気泳動表示パネル1の共通電極側基板11側を表示面(観測面)として説明する。共通電極側基板11は、例えば、ガラスやプラスチックなどで構成される光透過性の基板であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネイト(PC)などを用いることができる。共通電極12は、例えば、光透過性の高い透明な材料で構成され、インジウムスズ酸化物(ITO)などの導電性酸化物などを用いることができる。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、共通電極側基板11としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。
【0019】
電気泳動表示用液15は、正に帯電した黒色粒子15aおよび負に帯電した白色粒子15bと、これら電気泳動粒子(黒色粒子15aおよび白色粒子15b)を分散させる媒質15cとで構成される。電気泳動表示用液15の組成例としては、黒色粒子15aにカーボンブラック内包アクリルコポリマー微粒子、白色粒子15bに有機チタネート処理二酸化チタン粒子、媒質15cにノルマルパラフィンをベースにした粒子分散剤と電荷制御剤が挙げられる。
【0020】
保護膜14と共通電極側基板11との間には、基板間の間隙を規定値に保つためのスペーサ13が設けられており、基板の端面には間隙を封止するための図示しない封止材が設けられている。また、保護膜14には、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせるための粘着剤層16が塗布されている。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、保護膜14および粘着剤層16は柔軟性のある材料(例えば、ポリウレタン、アクリルまたはポリフッ化ビニリデン)で構成されていてもよい。
【0021】
画素電極側基板3は、素子基板17と、素子基板17上に形成された画素電極18とを備える。素子基板17は、例えば、ガラスやプラスチックからなる基板である。素子基板17は、特に光透過性の高いものである必要はないが、共通電極側基板11と共に光透過性の高い材料を用いることもできる。なお、特に電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、素子基板17としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。画素電極18は、セグメント駆動あるいはドットマトリクス駆動などに対応した形状および配置に形成されている。これらの駆動回路は、VFDドライバまたはPDPドライバなどの高耐圧ドライバで構成できる。ただし、FETやTFTなどのスイッチング素子を用いて構成することも可能である。
【0022】
画素電極18と共通電極12との間に、相対的に共通電極12の電位が高くなるように電圧が印加された場合、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側(すなわち、共通電極12側)には白色粒子15bが集まるので、表示部の表示面には白色粒子15bの色(すなわち、白色)が表示される。一方、画素電極18と共通電極12との間に、相対的に画素電極18の電位が高くなるように電圧が印加された場合、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側には黒色粒子15aが集まるので、表示部の表示面には黒色粒子15aの色(すなわち、黒色)が表示される。なお、白色粒子15b、黒色粒子15aに用いる顔料を、例えば、赤色、緑色、青色などの顔料に変えることによって、赤色、緑色、青色などを表示することができる。
【0023】
電気泳動表示パネル1は、例えば、図2に示すように電気泳動表示シート2と画素電極側基板3をそれぞれ作製した後に、電気泳動表示シート2側の保護膜14に塗布された粘着剤層16を介して、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせることにより作製される。
【0024】
保護膜14および粘着剤層16は、電気的にどちらも絶縁物であるので、これらを1層の絶縁層4として扱うことができる。図3は、絶縁層4を有する電気泳動表示パネル1の等価回路図である。図3中、R1,C1は、絶縁層4側の抵抗および静電容量を示し、R2,C2は、電気泳動表示用液15側の抵抗および静電容量を示す。また、ρ1,ε1,d1を、絶縁層4側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとし、ρ2,ε2,d2を、電気泳動表示用液15側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとする。電気泳動表示パネル1の印加電圧V、パネル面積Sとすると、電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧V2は次の式(1)で表わされる。V2の導出式の詳細は、川端昭著、「電子材料・部品と計測」、コロナ社、1982年2月15日に詳述されている。
【数1】
【0025】
ここで、本発明者は、絶縁層4を規定するパラメータである体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1について、電気泳動表示用液15との関係で最適値を見出した。すなわち、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下である場合、絶縁層4の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液15の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値であることが好ましい。
【0026】
電気泳動表示パネル1において、画素電極18と共通電極12との間に電圧Vが印加された場合、式(1)より電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧V2の値は、絶縁層4側の抵抗R1と電気泳動表示用液15側の抵抗R2との分圧比で決定される。したがって、電気泳動表示パネル1における消費電力の増加を抑制する観点からは、絶縁層4側の抵抗R1は0に近いほど望ましい。絶縁層4の体積固有抵抗ρ1の上限値は、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/10以下が望ましい。しかし、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1が、あまりに小さくなると、絶縁層4を介して、隣接する画素電極18間でのクロストークを引き起こし得る。そのため、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1の下限値は、クロストークを防止する観点から、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上が望ましい。
【0027】
また、電気泳動表示パネル1の駆動においては、電圧印加初期時の電圧挙動が重要となる。一般的には、電気泳動表示用液15と画素電極18とを仕切る絶縁層4の比誘電率は、大きいほど望ましいと考えられている。しかしながら、絶縁層4の比誘電率が大きすぎると、印加初期時のインク電圧V2の変化が小さいために、黒反射率の性能が十分でないことに着目し、鋭意検討した結果、絶縁層4の比誘電率ε1を、電気泳動表示用液15の比誘電率ε2と同一またはこの近傍であると、最も電圧の立ち上がりが急峻となり、黒反射率の性能が改善されることを見出した。なお、黒反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に黒色粒子15aを集め、黒色表示した際の反射率のことをいう。黒反射率が低いほど、黒色表示としては優れている。電気泳動表示パネル1において、電圧の立ち上がりが急峻であると、黒反射率が低くなるため、良好な黒色表示を得ることができる。これにより、電気泳動表示パネル1のコントラストが改善される。
【0028】
(実施例1)
続いて、第1の実施の形態を適用した電気泳動表示パネル1の実施例について説明する。図4は、印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図5は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図6は、図5における黒反射率の測定結果を示すグラフである。図7は、異なる膜厚における白反射率の測定結果を示すグラフである。図8は、異なる膜厚における黒反射率の測定結果を示すグラフである。図9は、異なる膜厚におけるコントラストの測定結果を示すグラフである。なお、白反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に白色粒子15bを集め、白色表示した際の反射率のことをいう。白反射率が高いほど、白色表示としては優れている。また、白反射率、黒反射率およびコントラストの測定は、スガ試験機製の分光測色計により行った。
【0029】
本実施例では、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2は5×1010[Ωcm]とし、比誘電率ε2は3とした。電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の値には、50V印加25秒後の値を使用し、比誘電率ε2の値は、充電時の電圧曲線より算定した。
【0030】
絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1の測定には、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上にインジウムスズ酸化物(ITO)の電極を形成し、その上に膜厚20μmの絶縁層を形成した測定用サンプルを使用した。このサンプルには、電気泳動表示用液の代わりに溶剤(ドデカン)が封入されている。また、このサンプルの測定電圧は、10Vである。絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1は、このサンプルのインピーダンスを測定し、電気化学インピーダンス法により算定した。なお、インピーダンスの測定は、エヌエフ回路ブロック社製の周波数分析器FRA5087にインピーダンス測定ユニットを取り付けることにより行った。
【0031】
表1は、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2および比誘電率ε2ならびにサンプル1〜6における絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1の計算結果を示す。
【表1】
【0032】
表1に示すように、サンプル1〜4の体積固有抵抗ρ1は、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にある。一方、サンプル5(比較例)およびサンプル6(比較例)の体積固有抵抗ρ1は、それぞれ電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の2/3倍、2.6倍であるため、1/100以上1/10以下の範囲外にある。
【0033】
また、サンプル1〜4およびサンプル6(比較例)の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値以下(5以下)である。一方、サンプル5(比較例)の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2より大きく、略2.2倍である。
【0034】
実際に、電気泳動表示用液にかかる電圧は測定できないため、表1に示した値を利用して上記式(1)を計算し、印加初期時のインク電圧V2を計算した。図4は、横軸が時間[秒]、縦軸がインク電圧[V2]を示している。印加初期時の5[m秒]において、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1,4は、電圧の立ち上がりが急峻となる。このような挙動を示すサンプル1,4によれば、良好な黒色表示を得ることが可能となる。また、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2より高いサンプル2,3は、最初から高いインク電圧V2を得ている。このような挙動を示すサンプル2,3によれば、良好な白色表示を得ることが可能となる。また、サンプル5,6(比較例)は、徐々にインク電圧V2が下降していく。
【0035】
図5に示すように、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にあるサンプル1〜4は、良好な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られている。一方、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲外にあるサンプル5,6(比較例)は、白反射率、黒反射率およびコントラストのいずれも、満足な結果が得られていない。
【0036】
図6は、図5におけるサンプル1〜5の黒反射率の結果のみを拡大したものである。サンプル1,2は、体積固有抵抗ρ1が同じであるが、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1の方が、黒反射率が低く、より良好な黒色表示が得られていることがわかる。しかしながら、黒反射率は2.0以下であれば視認性に問題なく、サンプル1〜4の黒反射率はいずれも良好であるといえる。
【0037】
図7〜図9に示すように、サンプルにおける絶縁層の膜厚は白反射率、黒反射率およびコントラストの結果の傾向に影響を与えない。各サンプルにおける絶縁層の膜厚は、薄い方がより良好な白反射率、黒反射率およびコントラストを得られる。
【0038】
以上の結果より、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1が、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値であれば、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となり、かつ、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られることがわかる。続いて、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1の取り得る範囲について、より詳細に検証した。
【0039】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で用いたサンプル1について、比誘電率ε1に幅をもたせ、比誘電率ε1の取り得る範囲について検証した。表2は、実施例1で用いたサンプル1の比誘電率ε1に幅をもたせたサンプル1A〜1Fにおける絶縁層の比誘電率ε1の計算結果を示す。図10は、電圧印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図11は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図12は、図11の黒反射率の結果のみを拡大したものである。
【表2】
【0040】
図10に示すように、サンプルにおける比誘電率ε1が5以下の範囲内にあるとき、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となる。すなわち、図11,12に示すように、絶縁層の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2の近傍値である2.5〜5の範囲内にあれば、黒反射率の性能が特に優れた電気泳動表示パネルを得ることができる。
【0041】
(実施例3)
本実施例では、実施例1で用いたサンプル4について、比誘電率ε1に幅をもたせ、比誘電率ε1の取り得る範囲について検証した。表3は、実施例1で用いたサンプル4の比誘電率ε1に幅をもたせたサンプル4A〜4Fにおける絶縁層の比誘電率ε1の計算結果を示す。図13は、電圧印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図14は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図15は、図14の黒反射率の結果のみを拡大したものである。
【表3】
【0042】
図13に示すように、サンプルにおける比誘電率ε1が5以下の範囲内にあるとき、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となる。すなわち、図14,15に示すように、絶縁層の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2の近傍値である2.5〜5の範囲内にあれば、黒反射率の性能が特に優れた電気泳動表示パネルを得ることができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置は、上述した第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネル1と比べて、マトリクス状に画素配置された表示部(画素)を駆動制御する点が相違しているが、絶縁層の体積固有抵抗及び比誘電率については、第1の実施の形態と同様の条件を満たすものとする。したがって、特に相違点についてのみ説明し、同一の構成については同一の符号を用いて、繰り返しの説明を省略する。
【0044】
図16は、本発明の一実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。この電気泳動表示装置5は、マトリクス状に画素配置された表示部51と、表示部51に画像信号を供給するデータ線駆動回路52と、表示部51に走査信号を供給する走査線駆動回路53と、表示部51の各画素に共通電位を与える共通電位供給回路54と、装置全体の動作を制御するコントローラ55と、を備えて構成される。このうち、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53、共通電位供給回路54およびコントローラ55は、駆動回路を構成する。
【0045】
電気泳動表示装置5には、表示画像に対する画像操作の要求がユーザインタフェース部56を介して入力される。画像操作には、表示部51上での画像のスクロール、画像の拡大縮小、高速または任意速度で表示ページを切り替えるページめくりが含まれる。ユーザインタフェース部56は、ユーザによる画像操作内容を画像操作信号に変換してコントローラ55へ供給する。
【0046】
表示部51には、データ線駆動回路52から列方向(Y方向)に並列に伸びるn本のデータ線X1からXnが延在するとともに、これらのデータ線と交差して走査線駆動回路53から行方向(X方向)に並列に伸びるm本の走査線Y1からYmが延在している。表示部51において、データ線(X1,X2,…Xn)と、走査線(Y1,Y2,…Ym)とが交差する各交差部に画素50がそれぞれ形成されている。このように、表示部51には、m行n列のマトリクス状に複数の画素50が配置されている。
【0047】
データ線駆動回路52は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各データ線(X1,X2,…Xn)に画像信号を供給する。画像信号は、高電位VH(例えば、40V)から低電位VL(例えば、0V)の間で任意の電位をとる。特に、共通電位供給回路54から与えられる共通電位を固定して、画像信号の電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、画像信号(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、画像信号の複数の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0048】
走査線駆動回路53は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各走査線(Y1,Y2,…Ym)に固定パルス幅の走査信号を順次供給する。これにより、駆動対象となる画素50に対して、走査信号が供給される。走査信号によって階調制御対象となる画素を選択するので、走査信号のことを選択信号と呼ぶこともできる。
【0049】
表示部51を構成する各画素50には、共通電位供給回路54から共通電位線を介して共通電位Vcomが印加される。共通電位Vcomは一定の電位であってもよいし、例えば書き込む階調に応じて変化してもよい。特に、データ線駆動回路52から与えられる画像信号の電圧値を固定して、共通電位Vcomの電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、共通電位(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、共通電位の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0050】
コントローラ55は、クロック信号、スタートパルス等のタイミング信号を、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53および共通電位供給回路54に供給して各回路を制御する。コントローラ55は、対象画素の階調データをデータ線駆動回路52または共通電位供給回路54に供給する。データ線駆動回路52または共通電位供給回路54は、階調データに応じて書込みパルスの印加回数および電圧値を決定し、走査線駆動回路53の画素行選択動作に同期して対象画素に画像信号または共通電位を供給する。
【0051】
図17は、画素50の電気的な構成を示す等価回路図である。表示部51にマトリクス状に配置された各画素50は同一構成であるので、画素50を構成する各部には共通の符号を付して説明する。
【0052】
画素50は、画素電極18と、絶縁層4と、共通電極12と、電気泳動表示用液15と、画素スイッチング用トランジスタ57と、保持容量58と、を備えている。画素スイッチング用トランジスタ57は、例えば、N型トランジスタで構成される。画素スイッチング用トランジスタ57のゲートは、対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57のソースは、対応する列のデータ線(X1,X2,…Xn)に電気的に接続されている。また、画素スイッチング用トランジスタ57のドレインは、画素電極18および保持容量58に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57は、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)を介して供給される画像信号を、走査線駆動回路53から対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)を介してパルス的に供給される走査信号に応じたタイミングで、画素電極18および保持容量58に出力する。
【0053】
画素電極18には、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ57を介して、画像信号が供給される。画素電極18は、電気泳動表示用液15を介して共通電極12と互いに対向して配置されている。共通電極12は、共通電位Vcomが供給される共通電位線に電気的に接続されている。
【0054】
保持容量58は、誘電体膜を介して対向配置された一対の電極からなり、一方の電極が画素電極18および画素スイッチング用トランジスタ57に電気的に接続され、他方の電極が共通電位線に電気的に接続されている。保持容量58によって、画像信号を一定期間維持することができる。
【0055】
図18は、第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の1つの画素50の等価回路図である。画素50における画素スイッチング用トランジスタ57は、模式的にスイッチSWで表わしている。スイッチSWがパルス的(例えば、70μ秒)にオンとなると保持容量Csが充電され、1スキャンの残りの時間(例えば、16.67m秒)は保持容量Csで電位を維持する。保持容量Csに蓄えられた電荷は、絶縁層4の抵抗R1および電気泳動表示用液15の抵抗R2で放電され、電圧は徐々に低下する。そして、次のスキャン時に再度スイッチSWがパルス的にオンし、保持容量Csは再度充電される。
【0056】
(実施例4)
続いて、第2の実施の形態を適用した電気泳動表示装置5の実施例について説明する。図19は、TFT駆動時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図20は、TFT駆動後の白反射率、黒反射率およびコントラストの結果を示すグラフである。また、本実施例において、電気泳動表示用液および絶縁層(サンプル1〜6)は、表1に示したものと同一のものを用いた。
【0057】
図19に示すように、TFT駆動時において、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1,4は、電圧の立ち上がりが急峻となる。また、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2より高いサンプル2、3は、最初から高いインク電圧V2を得ている。また、サンプル5,6(比較例)は、徐々にインク電圧V2が下降していく。
【0058】
図20に示すように、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にあるサンプル1〜4は、良好な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られている。一方、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲外にあるサンプル5,6(比較例)は、白反射率、黒反射率およびコントラストのいずれも、満足な結果が得られていない。
【0059】
以上の結果より、電気泳動表示装置5において、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1が、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍であれば、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となり、かつ、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られることがわかる。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 電気泳動表示パネル
2 電気泳動表示シート
3 画素電極側基板
11 共通電極側基板
12 共通電極
13 スペーサ
14 保護膜
15 電気泳動表示用液
15a 黒色粒子
15b 白色粒子
15c 媒質
16 粘着剤層
17 素子基板
18 画素電極
4 絶縁層
5 電気泳動表示装置
50 画素
51 表示部
52 データ線駆動回路
53 走査線駆動回路
54 共通電位供給回路
55 コントローラ
56 ユーザインタフェース部
57 画素スイッチング用トランジスタ
58 保持容量
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子に電界を作用させて可逆的に視認状態を変化させる電気泳動表示パネルおよび電気泳動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の発達に伴い、表示装置の低消費電力化、薄型化、フレキシブル化などの要求が増している。このような要求に応えた表示装置の1つとして、電気泳動表示装置がある。電気泳動表示装置に備えられる電気泳動表示パネルは、少なくとも一方が透明でスペーサを介して対向配置された2枚の基板と、一方の基板に配置された画素電極と、他方の基板に配置された共通電極と、正電荷または負電荷にそれぞれ帯電するとともに異なる色に着色された荷電粒子が分散媒中に分散され、基板電極間に充填された表示液と、を備える。この電気泳動表示パネルの基板電極間に電界を作用させると、所望の表示を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電気泳動表示パネルは、一般に、電気泳動表示シートと画素電極とを別々に製作し、接着剤層を介して、電気泳動表示シートと画素電極とを貼り合わせて作製する。電気泳動表示シートと画素電極との間に配置される接着剤層は、電気的には絶縁層として機能する。電気泳動インクを駆動する場合、絶縁層(接着剤層)内で実質的な電圧降下が生じ、電気泳動インクに十分な電圧が印加されないことがあり得る。これに対して、絶縁層(接着剤層)の体積固有抵抗を、電気泳動インクの体積固有抵抗と同程度にまで低下させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3612758号明細書
【特許文献2】特開2011−81407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2記載の技術では、電気泳動表示パネルの十分な表示特性が得られない問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、絶縁層を備えていても、表示特性に優れた電気泳動表示パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気泳動表示パネルは、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率と同一またはこの近傍値以下であることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電圧印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となるため、優れた黒反射率を得ることができる。
【0009】
上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層の体積固有抵抗は、5×108Ωcm以上5×109Ωcm以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、5以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることが好ましい。
【0011】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることが好ましい。
【0012】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の電気泳動表示装置は、上記電気泳動表示パネルのいずれかを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁層を備えていても優れた表示特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図2】上記電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図3】上記電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【図4】実施例1に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例1に係る白反射率の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例1に係る黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例1に係るコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例2に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図11】実施例2に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例2に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例3に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図14】実施例3に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例3に係る電圧印加後の黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図16】第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。
【図17】上記電気泳動表示装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【図18】上記電気泳動表示装置における電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【図19】実施例4に係るTFT駆動時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図20】実施例4に係るTFT駆動後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図であり、図2は、電気泳動表示シートと画素電極側基板とを貼り合わせる前の状態を示している。
【0017】
電気泳動表示パネル1は、電気泳動表示シート2と、電気泳動表示シート2の絶縁層側の面に対して貼り合わせられる画素電極側基板3とを備える。
【0018】
電気泳動表示シート2は、共通電極側基板11と、共通電極側基板11の一方の面に形成された共通電極12と、共通電極側基板11の共通電極形成面に対して、スペーサ13を介して対向配置された保護膜14と、スペーサ13によって共通電極側基板11の共通電極形成面と保護膜14との間に形成された空間に封入された電気泳動表示用液15とを備える。以下では、電気泳動表示パネル1の共通電極側基板11側を表示面(観測面)として説明する。共通電極側基板11は、例えば、ガラスやプラスチックなどで構成される光透過性の基板であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネイト(PC)などを用いることができる。共通電極12は、例えば、光透過性の高い透明な材料で構成され、インジウムスズ酸化物(ITO)などの導電性酸化物などを用いることができる。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、共通電極側基板11としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。
【0019】
電気泳動表示用液15は、正に帯電した黒色粒子15aおよび負に帯電した白色粒子15bと、これら電気泳動粒子(黒色粒子15aおよび白色粒子15b)を分散させる媒質15cとで構成される。電気泳動表示用液15の組成例としては、黒色粒子15aにカーボンブラック内包アクリルコポリマー微粒子、白色粒子15bに有機チタネート処理二酸化チタン粒子、媒質15cにノルマルパラフィンをベースにした粒子分散剤と電荷制御剤が挙げられる。
【0020】
保護膜14と共通電極側基板11との間には、基板間の間隙を規定値に保つためのスペーサ13が設けられており、基板の端面には間隙を封止するための図示しない封止材が設けられている。また、保護膜14には、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせるための粘着剤層16が塗布されている。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、保護膜14および粘着剤層16は柔軟性のある材料(例えば、ポリウレタン、アクリルまたはポリフッ化ビニリデン)で構成されていてもよい。
【0021】
画素電極側基板3は、素子基板17と、素子基板17上に形成された画素電極18とを備える。素子基板17は、例えば、ガラスやプラスチックからなる基板である。素子基板17は、特に光透過性の高いものである必要はないが、共通電極側基板11と共に光透過性の高い材料を用いることもできる。なお、特に電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、素子基板17としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。画素電極18は、セグメント駆動あるいはドットマトリクス駆動などに対応した形状および配置に形成されている。これらの駆動回路は、VFDドライバまたはPDPドライバなどの高耐圧ドライバで構成できる。ただし、FETやTFTなどのスイッチング素子を用いて構成することも可能である。
【0022】
画素電極18と共通電極12との間に、相対的に共通電極12の電位が高くなるように電圧が印加された場合、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側(すなわち、共通電極12側)には白色粒子15bが集まるので、表示部の表示面には白色粒子15bの色(すなわち、白色)が表示される。一方、画素電極18と共通電極12との間に、相対的に画素電極18の電位が高くなるように電圧が印加された場合、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側には黒色粒子15aが集まるので、表示部の表示面には黒色粒子15aの色(すなわち、黒色)が表示される。なお、白色粒子15b、黒色粒子15aに用いる顔料を、例えば、赤色、緑色、青色などの顔料に変えることによって、赤色、緑色、青色などを表示することができる。
【0023】
電気泳動表示パネル1は、例えば、図2に示すように電気泳動表示シート2と画素電極側基板3をそれぞれ作製した後に、電気泳動表示シート2側の保護膜14に塗布された粘着剤層16を介して、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせることにより作製される。
【0024】
保護膜14および粘着剤層16は、電気的にどちらも絶縁物であるので、これらを1層の絶縁層4として扱うことができる。図3は、絶縁層4を有する電気泳動表示パネル1の等価回路図である。図3中、R1,C1は、絶縁層4側の抵抗および静電容量を示し、R2,C2は、電気泳動表示用液15側の抵抗および静電容量を示す。また、ρ1,ε1,d1を、絶縁層4側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとし、ρ2,ε2,d2を、電気泳動表示用液15側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとする。電気泳動表示パネル1の印加電圧V、パネル面積Sとすると、電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧V2は次の式(1)で表わされる。V2の導出式の詳細は、川端昭著、「電子材料・部品と計測」、コロナ社、1982年2月15日に詳述されている。
【数1】
【0025】
ここで、本発明者は、絶縁層4を規定するパラメータである体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1について、電気泳動表示用液15との関係で最適値を見出した。すなわち、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下である場合、絶縁層4の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液15の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値であることが好ましい。
【0026】
電気泳動表示パネル1において、画素電極18と共通電極12との間に電圧Vが印加された場合、式(1)より電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧V2の値は、絶縁層4側の抵抗R1と電気泳動表示用液15側の抵抗R2との分圧比で決定される。したがって、電気泳動表示パネル1における消費電力の増加を抑制する観点からは、絶縁層4側の抵抗R1は0に近いほど望ましい。絶縁層4の体積固有抵抗ρ1の上限値は、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/10以下が望ましい。しかし、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1が、あまりに小さくなると、絶縁層4を介して、隣接する画素電極18間でのクロストークを引き起こし得る。そのため、絶縁層4の体積固有抵抗ρ1の下限値は、クロストークを防止する観点から、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上が望ましい。
【0027】
また、電気泳動表示パネル1の駆動においては、電圧印加初期時の電圧挙動が重要となる。一般的には、電気泳動表示用液15と画素電極18とを仕切る絶縁層4の比誘電率は、大きいほど望ましいと考えられている。しかしながら、絶縁層4の比誘電率が大きすぎると、印加初期時のインク電圧V2の変化が小さいために、黒反射率の性能が十分でないことに着目し、鋭意検討した結果、絶縁層4の比誘電率ε1を、電気泳動表示用液15の比誘電率ε2と同一またはこの近傍であると、最も電圧の立ち上がりが急峻となり、黒反射率の性能が改善されることを見出した。なお、黒反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に黒色粒子15aを集め、黒色表示した際の反射率のことをいう。黒反射率が低いほど、黒色表示としては優れている。電気泳動表示パネル1において、電圧の立ち上がりが急峻であると、黒反射率が低くなるため、良好な黒色表示を得ることができる。これにより、電気泳動表示パネル1のコントラストが改善される。
【0028】
(実施例1)
続いて、第1の実施の形態を適用した電気泳動表示パネル1の実施例について説明する。図4は、印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図5は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図6は、図5における黒反射率の測定結果を示すグラフである。図7は、異なる膜厚における白反射率の測定結果を示すグラフである。図8は、異なる膜厚における黒反射率の測定結果を示すグラフである。図9は、異なる膜厚におけるコントラストの測定結果を示すグラフである。なお、白反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に白色粒子15bを集め、白色表示した際の反射率のことをいう。白反射率が高いほど、白色表示としては優れている。また、白反射率、黒反射率およびコントラストの測定は、スガ試験機製の分光測色計により行った。
【0029】
本実施例では、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2は5×1010[Ωcm]とし、比誘電率ε2は3とした。電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の値には、50V印加25秒後の値を使用し、比誘電率ε2の値は、充電時の電圧曲線より算定した。
【0030】
絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1の測定には、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上にインジウムスズ酸化物(ITO)の電極を形成し、その上に膜厚20μmの絶縁層を形成した測定用サンプルを使用した。このサンプルには、電気泳動表示用液の代わりに溶剤(ドデカン)が封入されている。また、このサンプルの測定電圧は、10Vである。絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1は、このサンプルのインピーダンスを測定し、電気化学インピーダンス法により算定した。なお、インピーダンスの測定は、エヌエフ回路ブロック社製の周波数分析器FRA5087にインピーダンス測定ユニットを取り付けることにより行った。
【0031】
表1は、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2および比誘電率ε2ならびにサンプル1〜6における絶縁層の体積固有抵抗ρ1および比誘電率ε1の計算結果を示す。
【表1】
【0032】
表1に示すように、サンプル1〜4の体積固有抵抗ρ1は、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にある。一方、サンプル5(比較例)およびサンプル6(比較例)の体積固有抵抗ρ1は、それぞれ電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の2/3倍、2.6倍であるため、1/100以上1/10以下の範囲外にある。
【0033】
また、サンプル1〜4およびサンプル6(比較例)の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値以下(5以下)である。一方、サンプル5(比較例)の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2より大きく、略2.2倍である。
【0034】
実際に、電気泳動表示用液にかかる電圧は測定できないため、表1に示した値を利用して上記式(1)を計算し、印加初期時のインク電圧V2を計算した。図4は、横軸が時間[秒]、縦軸がインク電圧[V2]を示している。印加初期時の5[m秒]において、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1,4は、電圧の立ち上がりが急峻となる。このような挙動を示すサンプル1,4によれば、良好な黒色表示を得ることが可能となる。また、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2より高いサンプル2,3は、最初から高いインク電圧V2を得ている。このような挙動を示すサンプル2,3によれば、良好な白色表示を得ることが可能となる。また、サンプル5,6(比較例)は、徐々にインク電圧V2が下降していく。
【0035】
図5に示すように、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にあるサンプル1〜4は、良好な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られている。一方、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲外にあるサンプル5,6(比較例)は、白反射率、黒反射率およびコントラストのいずれも、満足な結果が得られていない。
【0036】
図6は、図5におけるサンプル1〜5の黒反射率の結果のみを拡大したものである。サンプル1,2は、体積固有抵抗ρ1が同じであるが、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1の方が、黒反射率が低く、より良好な黒色表示が得られていることがわかる。しかしながら、黒反射率は2.0以下であれば視認性に問題なく、サンプル1〜4の黒反射率はいずれも良好であるといえる。
【0037】
図7〜図9に示すように、サンプルにおける絶縁層の膜厚は白反射率、黒反射率およびコントラストの結果の傾向に影響を与えない。各サンプルにおける絶縁層の膜厚は、薄い方がより良好な白反射率、黒反射率およびコントラストを得られる。
【0038】
以上の結果より、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1が、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍値であれば、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となり、かつ、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られることがわかる。続いて、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1の取り得る範囲について、より詳細に検証した。
【0039】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で用いたサンプル1について、比誘電率ε1に幅をもたせ、比誘電率ε1の取り得る範囲について検証した。表2は、実施例1で用いたサンプル1の比誘電率ε1に幅をもたせたサンプル1A〜1Fにおける絶縁層の比誘電率ε1の計算結果を示す。図10は、電圧印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図11は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図12は、図11の黒反射率の結果のみを拡大したものである。
【表2】
【0040】
図10に示すように、サンプルにおける比誘電率ε1が5以下の範囲内にあるとき、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となる。すなわち、図11,12に示すように、絶縁層の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2の近傍値である2.5〜5の範囲内にあれば、黒反射率の性能が特に優れた電気泳動表示パネルを得ることができる。
【0041】
(実施例3)
本実施例では、実施例1で用いたサンプル4について、比誘電率ε1に幅をもたせ、比誘電率ε1の取り得る範囲について検証した。表3は、実施例1で用いたサンプル4の比誘電率ε1に幅をもたせたサンプル4A〜4Fにおける絶縁層の比誘電率ε1の計算結果を示す。図13は、電圧印加初期時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図14は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図15は、図14の黒反射率の結果のみを拡大したものである。
【表3】
【0042】
図13に示すように、サンプルにおける比誘電率ε1が5以下の範囲内にあるとき、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となる。すなわち、図14,15に示すように、絶縁層の比誘電率ε1は、電気泳動表示用液の比誘電率ε2の近傍値である2.5〜5の範囲内にあれば、黒反射率の性能が特に優れた電気泳動表示パネルを得ることができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置は、上述した第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネル1と比べて、マトリクス状に画素配置された表示部(画素)を駆動制御する点が相違しているが、絶縁層の体積固有抵抗及び比誘電率については、第1の実施の形態と同様の条件を満たすものとする。したがって、特に相違点についてのみ説明し、同一の構成については同一の符号を用いて、繰り返しの説明を省略する。
【0044】
図16は、本発明の一実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。この電気泳動表示装置5は、マトリクス状に画素配置された表示部51と、表示部51に画像信号を供給するデータ線駆動回路52と、表示部51に走査信号を供給する走査線駆動回路53と、表示部51の各画素に共通電位を与える共通電位供給回路54と、装置全体の動作を制御するコントローラ55と、を備えて構成される。このうち、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53、共通電位供給回路54およびコントローラ55は、駆動回路を構成する。
【0045】
電気泳動表示装置5には、表示画像に対する画像操作の要求がユーザインタフェース部56を介して入力される。画像操作には、表示部51上での画像のスクロール、画像の拡大縮小、高速または任意速度で表示ページを切り替えるページめくりが含まれる。ユーザインタフェース部56は、ユーザによる画像操作内容を画像操作信号に変換してコントローラ55へ供給する。
【0046】
表示部51には、データ線駆動回路52から列方向(Y方向)に並列に伸びるn本のデータ線X1からXnが延在するとともに、これらのデータ線と交差して走査線駆動回路53から行方向(X方向)に並列に伸びるm本の走査線Y1からYmが延在している。表示部51において、データ線(X1,X2,…Xn)と、走査線(Y1,Y2,…Ym)とが交差する各交差部に画素50がそれぞれ形成されている。このように、表示部51には、m行n列のマトリクス状に複数の画素50が配置されている。
【0047】
データ線駆動回路52は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各データ線(X1,X2,…Xn)に画像信号を供給する。画像信号は、高電位VH(例えば、40V)から低電位VL(例えば、0V)の間で任意の電位をとる。特に、共通電位供給回路54から与えられる共通電位を固定して、画像信号の電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、画像信号(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、画像信号の複数の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0048】
走査線駆動回路53は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各走査線(Y1,Y2,…Ym)に固定パルス幅の走査信号を順次供給する。これにより、駆動対象となる画素50に対して、走査信号が供給される。走査信号によって階調制御対象となる画素を選択するので、走査信号のことを選択信号と呼ぶこともできる。
【0049】
表示部51を構成する各画素50には、共通電位供給回路54から共通電位線を介して共通電位Vcomが印加される。共通電位Vcomは一定の電位であってもよいし、例えば書き込む階調に応じて変化してもよい。特に、データ線駆動回路52から与えられる画像信号の電圧値を固定して、共通電位Vcomの電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、共通電位(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、共通電位の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0050】
コントローラ55は、クロック信号、スタートパルス等のタイミング信号を、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53および共通電位供給回路54に供給して各回路を制御する。コントローラ55は、対象画素の階調データをデータ線駆動回路52または共通電位供給回路54に供給する。データ線駆動回路52または共通電位供給回路54は、階調データに応じて書込みパルスの印加回数および電圧値を決定し、走査線駆動回路53の画素行選択動作に同期して対象画素に画像信号または共通電位を供給する。
【0051】
図17は、画素50の電気的な構成を示す等価回路図である。表示部51にマトリクス状に配置された各画素50は同一構成であるので、画素50を構成する各部には共通の符号を付して説明する。
【0052】
画素50は、画素電極18と、絶縁層4と、共通電極12と、電気泳動表示用液15と、画素スイッチング用トランジスタ57と、保持容量58と、を備えている。画素スイッチング用トランジスタ57は、例えば、N型トランジスタで構成される。画素スイッチング用トランジスタ57のゲートは、対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57のソースは、対応する列のデータ線(X1,X2,…Xn)に電気的に接続されている。また、画素スイッチング用トランジスタ57のドレインは、画素電極18および保持容量58に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57は、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)を介して供給される画像信号を、走査線駆動回路53から対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)を介してパルス的に供給される走査信号に応じたタイミングで、画素電極18および保持容量58に出力する。
【0053】
画素電極18には、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ57を介して、画像信号が供給される。画素電極18は、電気泳動表示用液15を介して共通電極12と互いに対向して配置されている。共通電極12は、共通電位Vcomが供給される共通電位線に電気的に接続されている。
【0054】
保持容量58は、誘電体膜を介して対向配置された一対の電極からなり、一方の電極が画素電極18および画素スイッチング用トランジスタ57に電気的に接続され、他方の電極が共通電位線に電気的に接続されている。保持容量58によって、画像信号を一定期間維持することができる。
【0055】
図18は、第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の1つの画素50の等価回路図である。画素50における画素スイッチング用トランジスタ57は、模式的にスイッチSWで表わしている。スイッチSWがパルス的(例えば、70μ秒)にオンとなると保持容量Csが充電され、1スキャンの残りの時間(例えば、16.67m秒)は保持容量Csで電位を維持する。保持容量Csに蓄えられた電荷は、絶縁層4の抵抗R1および電気泳動表示用液15の抵抗R2で放電され、電圧は徐々に低下する。そして、次のスキャン時に再度スイッチSWがパルス的にオンし、保持容量Csは再度充電される。
【0056】
(実施例4)
続いて、第2の実施の形態を適用した電気泳動表示装置5の実施例について説明する。図19は、TFT駆動時のインク電圧V2の結果を示すグラフである。図20は、TFT駆動後の白反射率、黒反射率およびコントラストの結果を示すグラフである。また、本実施例において、電気泳動表示用液および絶縁層(サンプル1〜6)は、表1に示したものと同一のものを用いた。
【0057】
図19に示すように、TFT駆動時において、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一であるサンプル1,4は、電圧の立ち上がりが急峻となる。また、比誘電率ε1が電気泳動表示用液の比誘電率ε2より高いサンプル2、3は、最初から高いインク電圧V2を得ている。また、サンプル5,6(比較例)は、徐々にインク電圧V2が下降していく。
【0058】
図20に示すように、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲内にあるサンプル1〜4は、良好な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られている。一方、体積固有抵抗ρ1が、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρ2の1/100以上1/10以下の範囲外にあるサンプル5,6(比較例)は、白反射率、黒反射率およびコントラストのいずれも、満足な結果が得られていない。
【0059】
以上の結果より、電気泳動表示装置5において、サンプルにおける絶縁層の比誘電率ε1が、電気泳動表示用液の比誘電率ε2と同一またはこの近傍であれば、印加初期時の電圧の立ち上がりが急峻となり、かつ、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られることがわかる。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 電気泳動表示パネル
2 電気泳動表示シート
3 画素電極側基板
11 共通電極側基板
12 共通電極
13 スペーサ
14 保護膜
15 電気泳動表示用液
15a 黒色粒子
15b 白色粒子
15c 媒質
16 粘着剤層
17 素子基板
18 画素電極
4 絶縁層
5 電気泳動表示装置
50 画素
51 表示部
52 データ線駆動回路
53 走査線駆動回路
54 共通電位供給回路
55 コントローラ
56 ユーザインタフェース部
57 画素スイッチング用トランジスタ
58 保持容量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、
前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率と同一またはこの近傍値以下であることを特徴とする電気泳動表示パネル。
【請求項2】
前記絶縁層の体積固有抵抗は、5×108Ωcm以上5×109Ωcm以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、5以下であることを特徴とする請求項1記載の電気泳動表示パネル。
【請求項3】
前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気泳動表示パネル。
【請求項4】
前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気泳動表示パネル。
【請求項5】
前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の電気泳動表示パネル。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気泳動表示パネルを備えることを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項1】
スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、
前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の1/100以上1/10以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率と同一またはこの近傍値以下であることを特徴とする電気泳動表示パネル。
【請求項2】
前記絶縁層の体積固有抵抗は、5×108Ωcm以上5×109Ωcm以下であり、前記絶縁層の比誘電率は、5以下であることを特徴とする請求項1記載の電気泳動表示パネル。
【請求項3】
前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気泳動表示パネル。
【請求項4】
前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気泳動表示パネル。
【請求項5】
前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の電気泳動表示パネル。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気泳動表示パネルを備えることを特徴とする電気泳動表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−101250(P2013−101250A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245395(P2011−245395)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】
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