説明

電気転てつ機および携帯端末、転換状態管理装置

【課題】通信回線を敷設することなく、転てつ機の転換状態を継続的に監視することのできる転換状態データ収集システムを提供する。
【解決手段】転換状態計測記憶装置20は、転てつ機2のある現場に設置され、転てつ機の転換状態に関する計測を転換毎に実行してそのデータを蓄積記憶する。その後、保守要員が現場に来て携帯端末30が接続されると、これまで蓄積記憶しておいたデータが携帯端末30にコピーされる。保守要員が現場から持ち帰った携帯端末30を転換状態管理装置40に接続すると、携帯端末30の記憶しているデータが転換状態管理装置40に取り込まれ、以前のものに追加して蓄積記憶される。転換状態管理装置40はこの蓄積記憶されたデータに基づいて転てつ機の転換状態(モータトルクなど)に関する時系列の表示を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の分岐器を転換する電気転てつ機および携帯端末、転換状態管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転てつ機は、鉄道における分岐器を転換して列車の進路を切り換える機能を果たすものであり、故障すると列車の運行に支障を来し、社会的に大きな影響を与えてしまう。そこで、転てつ機が転換するときの負荷トルクや、転換完了位置の狂いを測定して保守・点検に役立てることが行なわれる。
【0003】
たとえば、転てつ機のモータ電圧とモータ電流とを転換動作中に測定し、これらをトルクに換算して動的負荷を表示するようにした負荷トルク測定器がある(たとえば、特許文献1参照。)。この測定器による測定は、現場に出向いた保守要員が転てつ機の所定端子に該測定器を接続し、測定結果をノートにメモして持ち帰るという方法で行なわれる。
【0004】
このような測定では、保守要員が現場に行って測定したときの断片的な測定結果しか得られないが、計測装置を現場の器具箱などに常設し、転換毎に転てつ機のモータ電流などを計測してはそのデータを保守区に設置された管理装置へ通信ケーブルを通じて伝送することで、転てつ機の転換状態を継続的に監視するようにした監視システムもある(たとえば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−168557号公報
【特許文献2】特許第2875857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような監視システムでは、継続的な監視が可能になるが、転てつ機の敷設場所から保守区の管理装置までは数Km程度離れていることが多いので、各転てつ機毎にケーブル回線を準備するには、その通信ケーブルの敷設に多大な設備投資が必要になる。このため、転てつ機の監視システムを設置可能な箇所が限られてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、通信ケーブルを敷設することなく、転てつ機の転換状態を継続的に監視することのできる電気転てつ機および携帯端末、転換状態管理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1]鉄道の分岐器を転換する電気転てつ機において、
前記電気転てつ機は、前記分岐器の転換状態に関する計測を転換毎に実行する転換状態計測記憶装置を備え、
前記転換状態計測記憶装置は、
前記電気転てつ機の転換毎のモータの駆動電圧を計測するモータ電圧計測手段と、
前記電気転てつ機の転換毎のモータの駆動電流を計測するモータ電流計測手段と、
前記モータ電圧計測手段及び前記モータ電流計測手段が出力するアナログデータをデジタルデータに変換するA/D変換手段と、
前記A/D変換後のデジタルデータを時系列に蓄積記憶する記憶手段と、
前記モータの計測動作を制御する計測制御手段と、
前記記憶手段に蓄積記憶されたデジタルデータを外部に出力する出力制御手段と、を備え、
前記計測制御手段は、前記A/D変換された前記デジタルデータに付加情報を付けて記憶手段に記憶させる
ことを特徴とする電気転てつ機。
【0009】
[2]前記付加情報は、電気転てつ機の転換毎の転てつ機番号や電気転てつ機の種類、転換時間及び転換方向である
ことを特徴とする[1]に記載の電気転てつ機。
【0010】
[3]前記A/D変換部は、所定の間隔で計測したデータの実効値を演算して前記記憶部に時系列に記憶させる
ことを特徴とする[1]に記載の電気転てつ機。
【0011】
[4]前記記憶手段は、着脱可能な記憶媒体である
ことを特徴とするを[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の電気転てつ機。
【0012】
[5][1]に記載の電気転てつ機に備わる前記転換状態計測記憶装置の前記記憶手段に記憶されている前記デジタルデータを入力するデータ入力手段と、
前記データ入力手段で入力されたデジタルデータを記憶するデータ記憶手段と、
前記データ記憶手段で記憶されている前記デジタルデータに基づいて電気転てつ機の転換状態に関するモータトルクや動作かんの負荷を換算し、前記換算したデータを時系列にグラフ化した表示データを作成するデータ処理手段と、
前記表示データを表示する表示手段と、
を有することを特徴とする携帯端末。
【0013】
[6]前記データ記憶手段に記憶されている前記デジタルデータを外部に出力するデータ出力手段をさらに有する
ことを特徴とする[5]に記載の携帯端末。
【0014】
[7][5]または[6]に記載の携帯端末からその記憶されているデジタルデータを入力する入力手段と、
前記入力手段で入力したデジタルデータを蓄積記憶するデータ蓄積記憶手段と、
前記データ蓄積記憶手段に記憶されているデジタルデータに基づいて電気転てつ機の転換状態に関するモータトルクや動作かんの負荷を換算し、前記換算したデータを時系列にグラフ化した表示データを作成するデータ処理手段と、
前記表示データを表示する表示手段と、
を有することを特徴とする転換状態管理装置。
【0015】
[8]さらに、[4]に記載の電気転てつ機の転換状態計測記憶装置から取り外した着脱可能な記録媒体からその記憶されているデジタルデータを読み取る読取手段を備え、
前記読取手段で読み取ったデジタルデータを前記データ蓄積記憶手段に蓄積記憶する
ことを特徴とする[7]に記載の転換状態管理装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係わる電気転てつ機および携帯端末、転換状態管理装置によれば、現場で転てつ機の転換状態を転換毎に自動計測して計測結果のデータを蓄積記憶し、この蓄積記憶したデータを携帯端末などの外部装置に出力したり、着脱可能な記憶媒体ごと持ち帰ったりできるようにしたので、現場の装置と保守区に設置した転換状態管理装置との間に通信ケーブルを敷設することなく、転換状態に関するデータを収集して転てつ機の状態変化を監視することができる。また、転換不能を起こしたときは、現地で転換不能を起こしたときのデータやその前の転換状態を見ることができるので、原因分析に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムのシステム構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムの転換状態計測記憶装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムの携帯端末を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムの転換状態管理装置を示すブロック図である。
【図5】転換データ表示画面および時系列データ表示画面の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムのシステム構成を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムの転換状態計測記憶装置を示すブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システムの転換状態管理装置を示すブロック図である。
【図9】転てつ機の内部構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の各種の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、第1の実施の形態に係わる転換状態データ収集システム10のシステム構成を示している。転換状態データ収集システム10は、現場に設置される転換状態計測記憶装置20と、携帯端末30と、保守区の管理室などに設置される転換状態管理装置40とから構成される。ここでは、転換状態計測記憶装置20は転てつ機2に内蔵されている。携帯端末30は、現場と保守区の管理室との間を持ち運び可能な端末装置として構成されている。なお、転換状態計測記憶装置20は、転てつ機2に外付けされてもよいし、転てつ機2の近くの器具箱の中などに設置されてもよい。
【0020】
転てつ機2は、転換動作の駆動源となるモータ3を備えている。転換状態計測記憶装置20は、モータ3のモータ電圧やモータ電流の計測、さらには後述するロック狂い量など転換状態に関する計測を転換毎に自動的に実行し、その計測結果のデータを転てつ機番号や種類、転換日時、転換方向などのデータと関連付けて蓄積記憶する機能を備えている。また、蓄積記憶しているデータを、携帯端末30が接続されたとき、その携帯端末30に出力する機能を有している。
【0021】
携帯端末30は、現場で転換状態計測記憶装置20から取り込んだデータを記憶する機能を果たす。また、現場から持ち帰られて転換状態管理装置40に接続されたとき、その記憶してあるデータを転換状態管理装置40に出力する機能を有している。
【0022】
転換状態管理装置40は、携帯端末30からデータを取り込み、これを以前のデータに追加して蓄積記憶すると共に、蓄積記憶してあるデータに基づいて、転てつ機の転換状態を示す情報をグラフなどにして時系列に表示する機能を備えている。
【0023】
この転換状態データ収集システム10では、転換状態計測記憶装置20に蓄積記憶されているデータを保守要員が定期的に現場に来て携帯端末30に取り込んで持ち帰ることで、転換状態に関する長期に及ぶ継続的なデータを入手して、保守・点検に役立てることができるようになっている。
【0024】
なお、分岐器の周辺には転てつ機やロッド類が設備されており、保守時には、転てつ機の内部・外部および取り付け点検並びにロック狂い調整、さらにロット類の点検・調整・注油なども行なわれる。このため、定期的な保守点検は必須であり、保守要員が定期的に現場に出向くことになる。そこで、保守点検のために保守要員が現場に来た際に、転換状態計測記憶装置20がそれまでに蓄積記憶しているデータを携帯端末30にコピーして持ち帰ることで、定期的に収集したデータを転換状態管理装置40に蓄積することができる。
【0025】
図2は、モータ電圧とモータ電流とを計測する転換状態計測記憶装置20の構成例を示している。転換状態計測記憶装置20は、モータ3の駆動電圧を計測するモータ電圧計測部21と、モータ3の駆動電流を計測するモータ電流計測部22と、モータ電圧計測部21およびモータ電流計測部22が出力するアナログデータをデジタルデータに変換するA/D変換部23と、変換後のデータを転てつ機番号や種類、転換日時、転換方向などのデータと関連付けて時系列に蓄積記憶する記憶部24と、一連の計測動作を制御する計測制御部25と、携帯端末30に対するデータの出力動作を制御する出力制御部26とを有している。
【0026】
なお、モータ電圧計測部21、モータ電流計測部22、A/D変換部23、計測制御部25は、転てつ機2の転換状態に関する計測を転換毎に実行する計測手段としての機能を果たし、記憶部24は、計測結果のデータを蓄積記憶する記憶手段としての機能を果たし、出力制御部26は、蓄積記憶されているデータを携帯端末30に出力する出力手段としての機能を果たす。
【0027】
計測制御部25は転換毎に制御信号27を出力し、この制御信号27に基づいて一連の計測動作が実行される。ここでは、モータ電流を計測制御部25が常に監視し、モータ電流がしきい値Aを超えると計測動作を開始し、しきい値B以下になると計測動作を終了させることで自動計測を実現している。なお、転換不能時のことを考慮して、計測を終了させるまで時間に制限を設けてもよい。
【0028】
計測動作中は、モータ電圧計測部21およびモータ電流計測部22が出力するアナログデータをA/D変換部23でデジタルデータに変換する。ここでは、モータ電圧とモータ電流の計測を0.5ms間隔で行ない、50ms毎にその実効値を演算して記憶部24に時系列に記憶することを、計測動作中、繰り返し行なう。このようにして計測動作中に記憶したデータ群に対して、転てつ機番号や種類、転換日時、転換方向などのデータを付加して記憶する。記憶部24は、数ヶ月(できれば、保守点検の最大間隔以上)分のデータを蓄積記憶可能な記憶容量を備えていることが望ましい。
【0029】
図3は、携帯端末30の構成例を示している。携帯端末30は、転換状態計測記憶装置20から取り込んだデータを記憶するためのデータ記憶部31と、データ記憶部31に対するデータの入出力動作を制御する入出力制御部32と、データ記憶部31に記憶されているデータから表示データなどを作成するデータ処理部33と、表示部34と、作業者から各種の操作を受ける操作部35とを備えている。
【0030】
入出力制御部32およびデータ処理部33は、CPUとROMとRAMとを主要部とする回路で構成される。表示部34には、たとえば、小型の液晶ディスプレイが使用される。なお、入出力制御部32は、転換状態計測記憶装置20からその蓄積記憶されているデータを入力するデータ入力部としての機能と、データ記憶部31に記憶されているデータを転換状態管理装置40に出力するデータ出力部としての機能を果たす。
【0031】
転換状態計測記憶装置20に携帯端末30を接続して操作部35から所定の指示を入力すると、携帯端末30の入出力制御部32から転換状態計測記憶装置20の出力制御部26に対して読み出し指令が出力され、この読み出し指令に応じて出力制御部26は、記憶部24に蓄積記憶されているデータを読み出して携帯端末30に出力する。携帯端末30の入出力制御部32は転換状態計測記憶装置20から入力されたデータをデータ記憶部31に順次書き込む。これにより転換状態計測記憶装置20の記憶部24に蓄積記憶されていたデータが携帯端末30のデータ記憶部31にコピーされる。なお、記憶部24のデータは携帯端末30へコピーされた後に自動消去されてもよいし、操作部35からの消去指示に従って消去される構成でもよい。
【0032】
また、操作部35から所定の表示操作を行なうと、データ記憶部31に記憶されているデータに基づいて、転換状態に係わる表示が行なわれる。たとえば、データ記憶部31に記憶されているモータ電圧を示すデータとモータ電流を示すデータとからモータトルクや動作かんの負荷をデータ処理部33で推定換算し、それを時系列にグラフ化したものが表示部34に表示される。
【0033】
モータトルクはモータ電圧が一定であればモータ電流の二乗に比例するが、モータ電圧が変動するとそれに伴ってトルクも変動する。そこで、モータ電流とトルクとの関係を数種類のモータ電圧について予め調べてモータ電圧別に換算テーブルを準備しておき、実測したモータ電圧に応じた換算テーブルを使用してトルクの推定値を算出するように構成してある。動作かんの負荷については、推定したトルクと換算式を用いて推定値を算出するようになっている。このほかモータ電圧、モータ電流、転換開始から終了までの所要時間(転換時間)などを表示させてもよい。
【0034】
図4は、転換状態管理装置40の構成を示している。転換状態管理装置40は、携帯端末30からその記憶されているデータを入力するための制御を行なう入力手段として作用する入力制御部41と、携帯端末30から入力されたデータを以前のデータに追加して蓄積記憶するデータ蓄積記憶部42と、データ蓄積記憶部42に記憶されているデータから表示データなどを作成するデータ処理部43と、表示部44と、操作部45とを備えている。
【0035】
転換状態管理装置40は、コンピュータ装置などで構成されてもよい。表示部44には液晶ディスプレイ装置などが使用される。なお、データ処理部43と表示部44とで、転てつ機の転換状態を表示する表示手段としての機能が実現されている。
【0036】
携帯端末30を転換状態管理装置40に接続すると、入力制御部41から携帯端末30の入出力制御部32に対して制御信号が出力され、この制御信号に応じて携帯端末30の入出力制御部32は、データ記憶部31に記憶されているデータを読み出して転換状態管理装置40に出力する。携帯端末30から入力されたデータは、転てつ機番号毎に時系列に整理されて転換状態管理装置40のデータ蓄積記憶部42に追加記憶される。なお、携帯端末30のデータ記憶部31に記憶されているデータは転換状態管理装置40へコピーされた後に自動消去されてもよいし、操作部35などから消去指示に基づいて消去する構成にしてもよい。
【0037】
データ処理部43に蓄積記憶されたデータは、必要なときに操作部45から所定の操作を行なうことで表示部44に表示される。たとえば、モータ電圧、モータ電流、転換時間(転換開始から終了までの所要時間)、モータトルク、動作かん負荷などを時系列に表示することができる。モータの電圧・電流からモータトルクや動作かん負荷を換算する方法は携帯端末30の場合と同様であり、その説明は省略する。
【0038】
図5は、転換状態に係わるデータの表示画面の一例を示している。同図(a)の転換データ表示画面100は、1回の転換動作の開始から終了までにおけるモータ電圧101およびモータ電流102、手回しトルク103、転換力104の変化を示している。横軸は転換動作開始からの経過時間(秒)である。なお、携帯端末30の表示部34にも同様の画面を表示することができる。
【0039】
同図(b)の時系列データ表示画面110は、1日に行なわれた何回かの転換動作における手回しトルクの最大値111、最小値112、平均値113の日ごとの変化を示している。横軸は経過日数(月日)を示している。このような表示から故障の兆候などを確認することも可能になる。
【0040】
さらに、分岐器の可動レールと基本レールとの間に異物を介在させて転換不能にして転換動作を実行したときのモータ電圧とモータ電流とを計測し、この計測結果から転換不能時のモータトルクや動作かんの負荷を求めておけば、これと通常転換時に計測推定したモータトルクや動作かんの負荷とを比較することで、転換不能を起こすまでのトルク余裕や負荷余裕がわかるので、転換不能の事前予知が可能になる。
【0041】
また、転換不能時に計測したデータやこのデータから推定換算したモータトルクなどを基準に警報基準値を定めておき、この警報基準値を他のデータと共に転換データ表示画面100や時系列データ表示画面110に表示したり、警報基準値を超えた場合に警報を出したりすれば、予防保全につながる。
【0042】
このように、現場に設置された転換状態計測記憶装置20で転てつ機の転換状態を転換毎に自動計測してそのデータを蓄積記憶しておき、保守要員が現場に来た際にその蓄積記憶されたデータを携帯端末30に取り込み、その後、保守要員が現場から持ち帰った携帯端末30から転換状態管理装置40にデータをコピーするようにしたので、現場の装置と転換状態管理装置40とを結ぶための通信ケーブルを敷設しなくても、長期にわたる、転換状態に関するデータを転換状態管理装置40に収集して、転てつ機の状態変化を監視することができる。すなわち、通信ケーブルの敷設に係わる設備投資が不要になるので、予算の限られた閑散区などにも監視システムを配備することが可能になる。また、調子の良くない転てつ機に転換状態計測記憶装置20を一時的に取り付け、その間の転換動作に係わるデータを採取して不調の原因を分析するというような使い方も可能になる。この場合、携帯端末30を使用せずに、転換状態計測記憶装置20自体を持ち帰って、転換状態計測記憶装置20から転換状態管理装置40へデータをコピーするようにしてもよい。
【0043】
さらに、転換状態に係わる計測結果を現場で携帯端末30に表示できるので、たとえば、転換不能が生じたとき、転換状態計測記憶装置20がそれまでに蓄積記憶していたデータを携帯端末30に取り込んで、転換不能発生時や転換不能前の転換状態をその場で表示して転換不能の原因究明に役立てることができる。特許文献2のような従来の監視システムではこのように現地でデータを見ることはできなかった。
【0044】
次に、第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システム10aについて説明する。
【0045】
図6は、第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システム10aのシステム構成を示している。第2の実施の形態では、携帯端末30に代えて、着脱可能な記憶媒体61を使用している。なお、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0046】
図7は、第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システム10aにおける転換状態計測記憶装置20aの構成を示している。図2と同様に、モータ電圧とモータ電流とを計測する場合の構成例である。記憶部62は、着脱可能な記憶媒体61にデータを書き込んで蓄積記憶させる書き込み装置である。記憶媒体61には、たとえば、半導体のメモリカードが使用される。
【0047】
図8は、第2の実施の形態に係わる転換状態データ収集システム10aにおける転換状態管理装置40aの構成を示している。転換状態計測記憶装置20aによってデータが蓄積記憶された記憶媒体61からデータを読み取る読取手段としての読取部63を有している。データ蓄積記憶部42は読取部63で記憶媒体61から読み取ったデータを蓄積記憶するようになっている。
【0048】
このシステムでは、転てつ機2のある現場に設置された転換状態計測記憶装置20aで転てつ機の転換状態を転換毎に自動計測し、計測結果のデータを、着脱可能な記憶媒体61に蓄積記憶する。保守要員は、現場に来たとき、これまでに計測したデータが蓄積記憶されている記憶媒体61を転換状態計測記憶装置20aから取り外し、別の記憶媒体に交換するなどして持ち帰る。転換状態管理装置40aは、保守要員が持ち帰った記憶媒体61からデータを読み込んで蓄積記憶すると共に、蓄積記憶してあるデータに基づき、転てつ機の転換状態に関する表示を行なう。
【0049】
このように記憶媒体61を利用することで、携帯端末30が不要になり、設置に要する費用をさらに低減することができる。
【0050】
以上の例では、モータ電圧とモータ電流とを計測する場合を説明したが、ロック狂いなどを計測してもよい。図9は、転てつ機2の内部構造を示している。転てつ機2は、モータ3を駆動することで動作かん4がその長手方向(図中の矢印C方向)に水平移動し、この動作かん4の先端に接続された図示省略の分岐器の可動レール(トングレール)を定位または反位に転換させる。
【0051】
転換完了位置では、可動レールの先端が基本レールと密着していなければならず、この照査は鎖錠かん5とロックピース6との嵌合により行なわれる。鎖錠かん5はその先端が可動レールの先端近傍に連結されており、可動レールと一体となって動作かん4と同方向に水平移動する(図中の矢印D)。また、転てつ機2には、転換動作に伴って、鎖錠かん5と直交かつ水平(図中の矢印E)に進退するロックピース6を設けてある。ロックピース6は、転換動作中は鎖錠かん5から離れるように後退し、転換終了時に鎖錠かん5に向けて進出するようになっている。鎖錠かん5にはロックピース6がぎりぎり通過する切欠き7が所定箇所に設けてあり、可動レールの転換完了位置がほぼ正しい場合だけ、ロックピース6が鎖錠かん5の切欠き7に嵌合して鎖錠かん5をロックするように構成してある。
【0052】
そこで、転換終了時における鎖錠かん5の切欠き7の水平中心とこれに挿入するロックピース6の水平中心との相対位置を変位センサ8で計測することで、ロック位置がどの位、最適位置からずれているか(ロック狂いの量)を把握することができる。転換状態計測記憶装置20は、転換毎に、転換終了時の変位センサの出力値を計測して蓄積記憶すればよい。
【0053】
特に、ロック狂いの量を携帯端末30に表示可能にすることで、現場でロック狂いの量を確認できると共に、狂っていれば調整を行なうのに利用することができる。なお、図9のモータ3の右にある歯車の中心付近には手回しハンドル挿入口9が設けてある。手回しトルクは、ここに手回しハンドルを挿入して回転させる際のトルクに相当する。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に示したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0055】
各実施の形態では、モータ電流を監視することで転換動作の開始と終了を認識して自動計測するようにしたが、他の方法で自動計測の開始や終了のタイミングを認識してもよい。たとえば、転換動作を指示するために外部から入力される転換指令信号を基準にすれば、転換指令信号が入力されたにもかかわらずモータが回転していないなどの状況をデータから認識可能になる。
【0056】
また、実施の形態では、モータ電圧、モータ電流、ロック狂いを計測項目として例示したが、転換状態の把握に関連するものであれば他の計測項目でもかまわない。さらには転てつ機内外の温度や湿度などの環境を計測項目に加えてもよい。
【符号の説明】
【0057】
2…転てつ機
3…モータ
4…動作かん
5…鎖錠かん
6…ロックピース
7…切欠き
8…変位センサ
9…手回しハンドル挿入口
10、10a…転換状態データ収集システム
20、20a…転換状態計測記憶装置
21…モータ電圧計測部
22…モータ電流計測部
23…A/D変換部
24…記憶部
25…計測制御部
26…出力制御部
27…制御信号
30…携帯端末
31…データ記憶部
32…入出力制御部
33…データ処理部
34…表示部
35…操作部
40、40a…転換状態管理装置
41…入力制御部
42…データ蓄積記憶部
43…データ処理部
44…表示部
45…操作部
61…記憶媒体
62…記憶部
63…読取部
100…転換データ表示画面
101…モータ電圧
102…モータ電流
103…手回しトルク
104…転換力
110…時系列データ表示画面
111…手回しトルクの最大値
112…手回しトルクの最小値
113…手回しトルクの平均値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の分岐器を転換する電気転てつ機において、
前記電気転てつ機は、前記分岐器の転換状態に関する計測を転換毎に実行する転換状態計測記憶装置を備え、
前記転換状態計測記憶装置は、
前記電気転てつ機の転換毎のモータの駆動電圧を計測するモータ電圧計測手段と、
前記電気転てつ機の転換毎のモータの駆動電流を計測するモータ電流計測手段と、
前記モータ電圧計測手段及び前記モータ電流計測手段が出力するアナログデータをデジタルデータに変換するA/D変換手段と、
前記A/D変換後のデジタルデータを時系列に蓄積記憶する記憶手段と、
前記モータの計測動作を制御する計測制御手段と、
前記記憶手段に蓄積記憶されたデジタルデータを外部に出力する出力制御手段と、を備え、
前記計測制御手段は、前記A/D変換された前記デジタルデータに付加情報を付けて記憶手段に記憶させる
ことを特徴とする電気転てつ機。
【請求項2】
前記付加情報は、電気転てつ機の転換毎の転てつ機番号や電気転てつ機の種類、転換時間及び転換方向である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気転てつ機。
【請求項3】
前記A/D変換部は、所定の間隔で計測したデータの実効値を演算して前記記憶部に時系列に記憶させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電気転てつ機。
【請求項4】
前記記憶手段は、着脱可能な記憶媒体である
ことを特徴とするを請求項1乃至3のいずれか1つに記載の電気転てつ機。
【請求項5】
請求項1に記載の電気転てつ機に備わる前記転換状態計測記憶装置の前記記憶手段に記憶されている前記デジタルデータを入力するデータ入力手段と、
前記データ入力手段で入力されたデジタルデータを記憶するデータ記憶手段と、
前記データ記憶手段で記憶されている前記デジタルデータに基づいて電気転てつ機の転換状態に関するモータトルクや動作かんの負荷を換算し、前記換算したデータを時系列にグラフ化した表示データを作成するデータ処理手段と、
前記表示データを表示する表示手段と、
を有することを特徴とする携帯端末。
【請求項6】
前記データ記憶手段に記憶されている前記デジタルデータを外部に出力するデータ出力手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項5に記載の携帯端末。
【請求項7】
請求項5または6に記載の携帯端末からその記憶されているデジタルデータを入力する入力手段と、
前記入力手段で入力したデジタルデータを蓄積記憶するデータ蓄積記憶手段と、
前記データ蓄積記憶手段に記憶されているデジタルデータに基づいて電気転てつ機の転換状態に関するモータトルクや動作かんの負荷を換算し、前記換算したデータを時系列にグラフ化した表示データを作成するデータ処理手段と、
前記表示データを表示する表示手段と、
を有することを特徴とする転換状態管理装置。
【請求項8】
さらに、請求項4に記載の電気転てつ機の転換状態計測記憶装置から取り外した着脱可能な記録媒体からその記憶されているデジタルデータを読み取る読取手段を備え、
前記読取手段で読み取ったデジタルデータを前記データ蓄積記憶手段に蓄積記憶する
ことを特徴とする請求項7に記載の転換状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−131882(P2011−131882A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47264(P2011−47264)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2005−265738(P2005−265738)の分割
【原出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】