説明

電気防食用電極

【課題】簡単に設置可能で而も経時的な劣化が防止でき、而も電気抵抗の少ない電気防食用電極を提供する。
【解決手段】基材に絶縁塗膜、導電塗膜6が形成され、該導電塗膜に貼設される電気防食用電極1であって、樹脂ブロック3と該樹脂ブロックから突出した位置に電極2の接触面が設けられ、前記樹脂ブロックを挿通するリード線4が前記電極に接続され、前記接触面の周囲に前記導電塗膜を接着させる為の接着剤5が充填される段差が形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁、プラント、鉄塔等の陸上構造物の腐食を電気防食する為の電気防食用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁、プラント、鉄塔等の陸上構造物の腐食を防止する方法としては一般的な塗装による被覆防食法の他に、電気防食法等が存在する。電気防食は、母材と塗膜に設けた電気防食用電極との間に電極を接続し、塗膜が劣化、塗膜に亀裂が生じ、或は剥がれた場合に電流が流れる様にし、母材の腐食を防止するものである。
【0003】
例えば、電気防食を実施する場合の塗装処理としては、鉄鋼部材(基材)に耐水性の高い絶縁性の塗料(例えば、エポキシ樹脂)を塗り絶縁塗膜を形成し、該絶縁塗膜に導電性の塗料を塗り導電塗膜を形成し、更に絶縁塗膜、導電塗膜を紫外線等、経時的劣化要因から保護する為の塗料(例えば、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂)を塗り保護塗膜を形成する方法が適していると考えられる。
【0004】
従来、電気防食をする場合、導電塗膜を形成した時点で、導電塗膜上に電気防食用電極を貼付し、電気防食用電極の上から保護塗料を塗布していた。
【0005】
又、基材をカソード(−)とし又前記電気防食用電極をアノード(+)とし両電極間に直流電圧を印加する。
【0006】
塗膜が健全な状態では、前記絶縁塗膜により電流路が切断されており、前記基材と前記電気防食用電極間には電流は殆ど流れない。塗膜が劣化し、塗膜にクラック等が発生すると、クラックに水が浸入し、水膜が形成され、水膜、導電塗膜を介して前記基材と前記電気防食用電極間に電流が流れる様になる。通電状態では、前記基材はカソード極に接続されており、基材が腐食する場合の逆の電気反応が実現され、腐食が防止される。
【0007】
従来の電気防食用電極としては、電極としての金属バーをテープ等により貼付する或は導電性を有したテープ(金属テープ等)を貼付する、或は電極部材をボルト付する等していた。
【0008】
金属バーをテープ等により貼付する或は導電性を有したテープ(金属テープ等)を貼付する方法では、電極の取扱い性が悪く、接着の作業性も悪かった。更に、基材と電気防食用電極間に介在する接着剤が抵抗となり電流が流れ難く、又流れる範囲が狭く、広範囲を電気防食しようとすると、多数の電気防食用電極が必要となる。更に、電極を貼付する接着剤自体が合成樹脂であるので、紫外線等による劣化があり、材質劣化による電気抵抗の増加、電極の剥がれによる電気抵抗の増加等が生じる。
【0009】
又、電極部材をボルト付する方法では、ボルト付する際に塗膜を傷付ける虞れがある等の問題があった。
【0010】
尚、特許文献1には、電気防食及び電気防食に使用される電極としてのステンレステープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−287075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は斯かる実情に鑑み、簡単に設置可能で而も経時的な劣化が防止でき、而も電気抵抗の少ない電気防食用電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、基材に絶縁塗膜、導電塗膜が形成され、該導電塗膜に貼設される電気防食用電極であって、樹脂ブロックと該樹脂ブロックから突出した位置に電極の接触面が設けられ、前記樹脂ブロックを挿通するリード線が前記電極に接続され、前記接触面の周囲に前記導電塗膜を接着させる為の接着剤が充填される段差が形成された電気防食用電極に係るものである。
【0014】
又本発明は、前記樹脂ブロックに下端面から突出する下端中央部が形成され、該下端中央部の下面に板状の電極が貼設された電気防食用電極に係るものである。
【0015】
又本発明は、前記樹脂ブロックに棒状の電極が設けられ、該電極の下端部が前記樹脂ブロック下面より突出し、前記電極の下端部の周囲に前記段差が形成された電気防食用電極に係るものである。
【0016】
又本発明は、前記接触面を囲繞する溝が形成された電気防食用電極に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材に絶縁塗膜、導電塗膜が形成され、該導電塗膜に貼設される電気防食用電極であって、樹脂ブロックと該樹脂ブロックから突出した位置に電極の接触面が設けられ、前記樹脂ブロックを挿通するリード線が前記電極に接続され、前記接触面の周囲に前記導電塗膜を接着させる為の接着剤が充填される段差が形成されたので、単純な構成で、取扱いが容易であり、又接着作業も容易であり、更に電極の接触面が直接導電塗膜に接触するので、抵抗が少ない、更に粘着材を用いた接着ではないので、経時的な劣化が少ないという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例に係る電気防食用電極の断面図である。
【図2】(A)は前記電気防食用電極を貼設した場合で塗膜が健全である場合の説明図、(B)は塗膜にクラックが入った場合の説明図である。
【図3】(A)は第1の実施例に係る電気防食用電極の底面図、(B)は第1の実施例の変更例を示す底面図、(C)は第1の実施例の他の変更例を示す底面図である。
【図4】(A)は第2の実施例に係る電気防食用電極の断面図、(B)は第2の実施例に係る電気防食用電極の変更例の断面図である。
【図5】(A)は第3の実施例に係る電気防食用電極の部分断面図、(B)は第3の実施例に係る電気防食用電極の変更例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0020】
図1に於いて、第1の実施例を説明する。
【0021】
図1中、1は電気防食用電極を示し、該電気防食用電極1は電極2、樹脂ブロック3、リード線4によって構成されている。
【0022】
前記電極2は平板円形状をしており、前記樹脂ブロック3は下端中央部3aが下方に突出した倒立凸形状であり、該下端中央部3aの周囲に段差が形成される。前記下端中央部3aの下端面に前記電極2が設けられている。前記樹脂ブロック3の立断面は、図示される様に倒立凸形状であり、又、前記樹脂ブロック3の本体部3b及び前記下端中央部3aの平断面は円形状となっている。又、前記下端中央部3aと前記本体部3bとは同心に成形されている。前記リード線4は前記本体部3b、前記下端中央部3aを貫通して前記電極2に接合されている。
【0023】
該電極2は導電材料であり、好ましくは、不溶解性の導電材料、例えば白金、カーボン、チタン等が用いられる。前記樹脂ブロック3は、紫外線等の環境劣化要因に対して対抗し得る材料、例えば、フッ素樹脂、ポリウレタン、塩ビ等が用いられるのが好ましい。
【0024】
前記電気防食用電極1を製作する場合は、先ず前記電極2に前記リード線4を接合する。接合は、溶着或はハンダ付け等、前記電極2と前記リード線4間で電気抵抗が小さい接合方法であればよい。
【0025】
前記リード線4が接合された前記電極2と前記樹脂ブロック3とは一体成型する。一体成型は、例えば前記樹脂ブロック3成型用の型に前記電極2、前記リード線4を予め設置し、型に樹脂をモールドする。尚、成形型に前記下端中央部3aを形成する為の凸部を形成してもよく、或は成形型は円柱として成型後、前記電極2の周囲を切除して前記下端中央部3aを形成してもよい。
【0026】
前記電気防食用電極1を電極として設ける場合は、前記電極2を導電塗膜6に接触させた状態で、前記下端中央部3aの周囲(即ち、該下端中央部3aを囲む前記段差部分)に接着剤5、例えばエポキシ接着剤を充填し、前記本体部3bと前記導電塗膜6とを接着する。前記電気防食用電極1は、前記本体部3bと前記導電塗膜6とが接着され、前記電極2と前記導電塗膜6間には接着剤は介在しない。従って、前記電極2と前記導電塗膜6間の抵抗は小さく抑えられる。尚、前記接着剤5としては、固化時に体積が減少するものが好ましい。固化時の体積減少により、前記電極2が前記導電塗膜6に押圧され、前記電極2と前記導電塗膜6との面圧が増大し、接触抵抗が更に減少する。
【0027】
図2(A)、図2(B)により、前記電気防食用電極1を用いた場合の電気防食の作用について説明する。
【0028】
基材7に絶縁塗料が塗布され、絶縁塗膜8が形成され、更に、前記絶縁塗膜8に導電塗料が上塗りされ、導電塗膜9が形成される。尚、通常基材7の表面には亜鉛溶射皮膜、亜鉛含有塗料が塗布される等防錆処理が成されているがここでは省略し説明する。
【0029】
前記導電塗膜9の上に前記電気防食用電極1が設置され、前記接着剤5により前記電気防食用電極1が前記導電塗膜9に接着される。前記電気防食用電極1が前記導電塗膜9に接着されることで、前記電極2と前記導電塗膜9とが電気的に接触し、更に前記電極2と前記リード線4とが導通する。
【0030】
前記電気防食用電極1と前記導電塗膜9との接着が完了すると、該導電塗膜9の上に保護塗料を塗布し、保護塗膜10を形成する。前記リード線4を直流電源(図示せず)の+極に接続し、前記基材7を直流電源の−極に接続し、前記電極2と前記基材7間に電圧印加させる。
【0031】
前記絶縁塗膜8、前記導電塗膜9、前記保護塗膜10が、健全な状態では、前記電極2と前記基材7間は前記絶縁塗膜8によって絶縁されており、前記電極2、前記基材7間には電流は流れない(図2(A)参照)。
【0032】
時間が経過し、前記保護塗膜10、前記導電塗膜9、前記絶縁塗膜8が劣化し、クラック12が発生した場合は、該クラック12に雨水13が染込む。該雨水13により前記電極2と前記基材7間が導通し、前記電極2と前記基材7間に電流が流れる。ここで、前記基材7が−極、前記電極2が+極に接続されており、前記基材7と前記電極2との間に電流が流れることで、前記基材7が腐食(酸化)する場合の逆の電気反応が実現され、前記基材7の腐食が防止される。
【0033】
尚、第1の実施例に於いて、前記絶縁塗膜8としては、エポキシ樹脂等が用いられ、前記保護塗膜10にはフッ素樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられる。
【0034】
第1の実施例に於いて、前記樹脂ブロック3には、紫外線等の環境劣化要因に対して対抗し得る材料が用いられているので、前記接着剤5は前記本体部3b、更に前記保護塗膜10によって保護され、前記電気防食用電極1と前記導電塗膜9との接着状態の劣化が防止される。
【0035】
又、前記電気防食用電極1は前記リード線4が既に前記電極2に接続されている合成樹脂のブロックであり、又単純な形状であるので、取扱いが容易であり、又接着作業も容易である。
【0036】
尚、上記実施例では電気防食について説明したが、塗膜(前記絶縁塗膜8、前記導電塗膜9、前記保護塗膜10を含む)にクラックが入った場合に雨水13を介し前記電極2と前記基材7間が通電するので、通電状態を監視することでクラックが入ったかどうかを検知することができる。更に、クラックの面積と電流値との相関関係を予めデータとして取得しておくことで、通電の有無を監視することでクラックの有無が検知でき、更に通電量を検出することでクラックの面積を予測することができ、塗替塗装の適切な時期の判断の材料とすることができる。
【0037】
図3(A)〜図3(C)は、前記電気防食用電極1の変更例を示すものであり、それぞれ底面図を示している。
【0038】
図3(A)は図1で示される電気防食用電極1の底面図を示している。又、図3(B)は、前記本体部3bが長直方形状(バー形状)をしており、底面に長手方向に所定のピッチで下端中央部3aを突出させ、該下端中央部3aの底面に電極2を固定したものである。尚、各電極2にはそれぞれリード線4(図示せず)が接続されている。図3(B)に示す電気防食用電極1では、複数の電極2が同時に設置できるので、電極設置の作業性が向上する。
【0039】
図3(C)は、本体部3bが長直方形状(バー形状)であると共に下端中央部3aも長直方形状となっており、図1で示す断面が長手方向に連続した形状となっている。前記本体部3bの底面に固定される電極2は、長矩形形状(帯状)となっている。図3(C)に示す変更例では、前記電極2には1箇所にリード線4が接続されていればよい。
【0040】
図4は、電気防食用電極1の第2の実施例を示している。第2の実施例では、電極2として棒状に形成した金属、例えばアルミを用いたものである。
【0041】
図4(A)では、前記電極2の下端部が突出する様に、該電極2と樹脂ブロック3とを一体成型したものである。第2の実施例では、前記電極2の下端部が突出することで、該電極下端面が接触面となり、又下端部の周囲に段差が形成される。接着剤5は前記電極2の周囲の段差に充填される。
【0042】
図4(B)は第2の実施例の変更例であり、電極2の露出する下端部を太径とし、樹脂ブロック3に保持される部分を細径としたものである。図4(B)に示す実施例では、予め樹脂ブロック3に孔を形成し、該孔に前記電極2の細径部を圧入してもよい。この場合、該電極2の細径部は前記樹脂ブロック3を貫通する様にし、露出した上端にリード線4を接続する。
【0043】
図5は第3の実施例を示している。
【0044】
図5(A)は図1、図3(B)で示した電気防食用電極1と関連するものであり、本体部3bから突出する下端中央部3aの直径を電極2の接触面の径より大径とし、該電極2の周囲に、該電極2の接触面を囲繞する溝15を形成する。前記電極2の周囲に前記溝15を形成することで、前記電気防食用電極1を絶縁塗膜8に貼設した際に、接着剤5が前記電極2と前記絶縁塗膜8との間に浸入した場合でも、前記溝15が接着剤の浸入を遮断する。従って、前記電極2と前記絶縁塗膜8間の電気的接触が良好に保持される。
【0045】
図5(B)は、図4(A)、図4(B)で示した電気防食用電極1と関連するものであり、電極2の接触面に周縁に沿って溝15を形成したものである。図5(A)で示す実施例と同様、前記溝15は接触面中心への接着剤5の浸入を遮断し、前記電極2と前記絶縁塗膜8(図2参照)間の電気的接触を良好に保持する。
【符号の説明】
【0046】
1 電気防食用電極
2 電極
3 樹脂ブロック
4 リード線
5 接着剤
6 導電塗膜
7 基材
8 絶縁塗膜
9 導電塗膜
10 保護塗膜
12 クラック
13 雨水
15 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に絶縁塗膜、導電塗膜が形成され、該導電塗膜に貼設される電気防食用電極であって、樹脂ブロックと該樹脂ブロックから突出した位置に電極の接触面が設けられ、前記樹脂ブロックを挿通するリード線が前記電極に接続され、前記接触面の周囲に前記導電塗膜を接着させる為の接着剤が充填される段差が形成されたことを特徴とする電気防食用電極。
【請求項2】
前記樹脂ブロックに下端面から突出する下端中央部が形成され、該下端中央部の下面に板状の電極が貼設された請求項1の電気防食用電極。
【請求項3】
前記樹脂ブロックに棒状の電極が設けられ、該電極の下端部が前記樹脂ブロック下面より突出し、前記電極の下端部の周囲に前記段差が形成された請求項1の電気防食用電極。
【請求項4】
前記接触面を囲繞する溝が形成された請求項1又は請求項2の電気防食用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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