説明

電波吸収体

【目的】 電波吸収効率が良好で、かつ重量を大幅に軽減することができる電波吸収体および該電波吸収体の使用方法を提供する。
【構成】 帯状の誘電体または短冊状の誘電体列を一定間隔にて平行に配置してなる縞状の誘電体模様層(A)に対して、帯状の磁性体または短冊状の磁性体列を一定間隔にて平行に配置してなる縞状の磁性体模様層(C)が、(A)と(C)との縞が互いに直交するように、該(A)および(B)を電波反射体層(E)上に積層した電波吸収体、および帯状又は短冊状の誘電体と磁性体とが互いに直交して格子状に配置された格子状積層体単位の1個又は複数個が電波反射体層(E)に積層された電波吸収体並びに該電波吸収体の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電波吸収効率が良好で、かつ重量を大幅に軽減することができる電波吸収体および、該電波吸収体の使用方法に関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】近年、我々を取巻く社会環境において、電磁波(以下、「電波」ということがある。)による障害はさまざまな形で発生している。例えば、船舶や航空機においては、構築物からの電波の反射によるレーダーの偽像障害のために運行の安全性がおびやかされる。また都会部では高層建築物の出現により、高層建築物からの電波の反射によるテレビ画面の偽像障害が起こる。これらの電波障害を解決するため電波の吸収周波数帯域に応じて種々の電波吸収体が使用されている。
【0003】従来、電波吸収体は一般に、フェライト焼結体やフェライト、またはフェライトに誘電材料として金属粉、金属繊維、カーボンなどを混入した材料が使用されており、いずれにおいても比重の大きいフェライトが主成分となっており重いという欠点があって実用面で大きな問題となっている。特にテレビの偽像防止用の電波吸収体は、吸収対象電波の波長が長いため重量が45kg/m2 にも達するものが実用化されている。電波吸収体の重量を軽減するために、上記材料をパターン化することも行なわれているが、電波吸収効率の面で充分な性能が得られていないのが実情である。
【0004】
【課題を解決するための手段】電磁波は波動であり、電界成分(電気力線)と磁界成分(磁力線)とから成り立っており、電波吸収材の電波吸収メカニズムは、誘電材料および磁性材料のもつ誘電緩和および磁気共鳴現象を利用して電磁波エネルギーを熱エネルギーに変換することにある。本発明者は、電磁波においては電界成分と磁界成分とが互いに直交しており、電磁波の透過および反射がその波長に応じた振幅に関係することに着眼し鋭意研究の結果、電波吸収体の軽量化を達成できることを見出し本発明に到達した。
【0005】すなわち磁界成分の振幅面に垂直の方向では、帯状の誘電体間にスリットがあってもスリットの幅が振幅の幅より狭い場合にはスリットから電波は殆んど透過せず、電界成分の振幅面に垂直の方向では、帯状の磁性体間にスリットがあってもスリットの幅が振幅の幅より狭い場合にはスリットから電波は殆んど透過しないし、逆にそれぞれの振幅面に水平な方向では、電波はスリットの隙間の間隔分だけ透過する。このことから磁界成分に対しては、その振幅面に対して垂直な方向に帯状の誘電体をスリット幅が振幅の幅より狭くなるように配置し、電界成分に対してはその振幅面に対して垂直な方向に帯状の磁性体をスリット幅が振幅の幅より狭くなるように配置することによって軽量でかつ電波吸収効率の良好な電波吸収体が得られることを見出した。
【0006】すなわち本発明は、第一に、短冊状の誘電体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる誘電体列複数個または帯状の誘電体複数個を一定間隔にて平行に配置してなる縞状の誘電体模様層(A)に対して、短冊状の磁性体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる磁性体列複数個または帯状の磁性体複数個を一定間隔にて平行に配置してなる縞状の磁性体模様層(C)が、該層(A)と該層(C)との縞が互いに直交するように、該層(A)および該層(C)を電波反射体層(E)上に積層してなる構造を有することを特徴とする電波吸収体を提供するものである。
【0007】また本発明は第二に、前記誘電体模様層(A)と前記磁性体模様層(C)の合計層数が3〜15であって、該層(A)と該層(C)とが任意の順序で積層されていることを特徴とする前記電波吸収体を提供するものである。
【0008】さらに本発明は第三に、前記誘電体模様層(A)が必要に応じて支持層(B)上に形成され、前記磁性体模様層(C)が必要に応じて支持層(D)上に形成されてなる前記電波吸収体を提供するものである。
【0009】また本発明は第四に、誘電体模様層(A)において、層(A)内の互いに隣接する帯状の誘電体間または誘電体列間の距離(中心線間の距離)が吸収対象電波の波長の1/3〜1/5の長さであり、かつ帯状または短冊状の誘電体の幅が、上記層(A)内の互いに隣接する誘電体間または誘電体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲であり、さらに磁性体模様層(C)において、層(C)内の互いに隣接する帯状の磁性体間または磁性体列間の距離(中心線間の距離)が吸収対象電波の波長の1/3〜1/5の長さであり、かつ帯状または短冊状の磁性体の幅が、上記層(C)内の互いに隣接する磁性体間または磁性体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲であることを特徴とする前記電波吸収体を提供するものである。
【0010】さらに本発明は第五に、前記誘電体模様層(A)の厚さの総和および前記磁性体模様層(C)の厚さの総和がいずれも吸収対象電波の波長の1/10〜1/200の範囲であることを特徴とする前記電波吸収体を提供するものである。
【0011】また本発明は第六に、一定間隔にて平行に配置された帯状誘電体または短冊状誘電体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる誘電体列と、一定間隔にて平行に配置された帯状磁性体または短冊状磁性体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる磁性体列とが互いに直交して格子状に配置され、かつ必要に応じて支持層上に形成されてなる格子状積層体単位が、該積層体単位間におけるそれぞれの誘電体と磁性体とが互いに直交するように複数個積層されてなる複数単位積層体又は該格子状積層体単位1個が電波反射体層(E)上に積層されてなる構造を有することを特徴とする電波吸収体を提供するものである。
【0012】さらに本発明は第七に、吸収対象電波の磁界成分の振幅面に対して、帯状の誘電体の縞又は帯状ないしは短冊状の誘電体の縞方向が垂直になるように、前記電波吸収体を構造物の表面に設置することを特徴とする該電波吸収体の使用方法を提供するものである。
【0013】また本発明は第八に、前記電波吸収体から電波反射体層(E)を除いてなる積層体を、帯状の誘電体の縞又は誘電体列の縞の方向が、吸収対象電波の磁界成分の振幅面に対して垂直になるように、金属表面を有する電波反射構造体上に形成することを特徴とする該電波吸収体の使用方法を提供するものである。
【0014】本発明の電波吸収体において、誘電体は誘電材料として、例えばチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのペロブスカイト系酸化物、例えば四弗化マグネシウム・バリウム(BaMgF4 )などの弗化物強誘電材、例えば金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄などの金属の粉末もしくは繊維又はカーボンなどの1種又は2種以上をバインダー中に混練し成型するか、分散して塗料組成物を作成し、下記支持層上に塗布、乾燥して得ることができる。金属の粉末もしくは繊維の場合には、有機絶縁材料などによって粉末や繊維の粒子間同志が微小間隔を保つような濃度、分散状態であることが重要であり、例えば濃度が高すぎると短絡して誘電性を示さなくなる。また上記成型によって得られる成型物を焼結して焼結体としたものであってもよい。上記誘電体は誘電性の点から誘電材料を10〜100重量%含有するものであることが好ましい。誘電体を帯状ないしは短冊状とするには、成型時、塗装時に帯状ないしは短冊状となるように成型又は塗装を行なってもよいし、成型物、塗装物を切断することによっても行なうことができる。
【0015】上記誘電材料の混練、分散に用いられるバインダーとしては、例えばポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ロジン、セラック、エステルゴム、ハイパロン(クロロスルホン化ポリエチレン)ゴム、塩化ゴム、クロロプレンゴム、ポリオレフィン樹脂、炭化水素樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0016】本発明の電波吸収体において、磁性体は、磁性材料としてフェライトをバインダー中に混練し成型するか、分散して塗料組成物を作成し、支持層上に塗布、乾燥して得ることができる。また上記成型によって得られる成型物を焼結してフェライト100%の焼結体としたものであってもよい。上記磁性体は、磁性(透磁率)の点からフェライトを10〜100重量%含有するものであることが好ましい。磁性体を帯状ないしは短冊状とするには、成型時、塗装時に帯状ないしは短冊状となるように成型又は塗装を行なってもよいし、成型物、塗装物を切断することによっても行なうことができる。
【0017】上記フェライトとしては、従来、電波吸収体に使用されているフェライトが使用でき、代表例としてヘマタイト(Fe2 3 )、マグネタイト(Fe3 4 )、一般にMO・Fe2 3 なる組成で表わされる異種金属元素を含む鉄酸化物(MはMn、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Mgなど)が挙げられる。フェライトの粒径は特に限定されるものではないが、一般に粒径が100μm以下であることが分散性などの点から望ましい。
【0018】上記フェライトの混練、分散に用いられるバインダーとしては、前記誘電材料の混練、分散に用いられるバインダーとして掲げたものを同様に用いることができる。
【0019】
【作用】本発明の電波吸収体の一つの態様においては、上記帯状の誘電体複数個が一定間隔にて平行に配置されて縞状の誘電体模様層(A)が形成されており、また上記帯状の磁性体複数個が一定間隔にて平行に配置されて縞状の磁性体模様層(C)が形成され、誘電体模様層(A)の縞と磁性体模様層(C)の縞とが互いに直交するように電波反射体層(E)上に積層されてなる構造を有するものであって例えば後記図1に示す様な積層構造を有する。上記誘電体模様層(A)は必要に応じて下記支持層(B)上に形成されていてもよく、また磁性体模様層(C)は必要に応じて下記支持層(D)上に形成されていてもよい。また上記誘電体模様層(A)は、上記短冊状の誘電体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる誘電体列の複数個を、一定間隔にて平行に配置して縞状にしたものであってもよい。また、上記磁性体模様層(C)は、上記短冊状の磁性体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる磁性体列の複数個を、一定間隔にて平行に配置して縞状にしたものであってもよい。
【0020】上記支持層(B)は誘電体模様層(A)を支持するために必要に応じて介在してもよい層であって、特に限定されるものではないが、一般に膜厚10〜500μm程度のプラスチックシートが挙げられる。プラスチックシートにはプラスチックフィルムも包含される。プラスチックシートの種類としては特に制限はないが、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ハイパロンゴム、塩化ゴム、クロロプレンゴム、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。このプラスチックシートには繊維強化プラスチックシートも包含される。
【0021】上記支持層(D)は磁性体模様層(C)を支持するために必要に応じて介在してもよい層であって上記支持層(B)として用いられるものを同様に使用することができる。
【0022】上記誘電体模様層(A)において、互いに隣接する帯状の誘電体間または誘電体列間の距離(中心線間の距離)が、吸収しようとする対象電波の波長の1/3〜1/5の長さ、さらには2/7〜2/9の長さであることが電波吸収効率の点から好ましい。また、帯状または短冊状の誘電体の幅は、上記互いに隣接する帯状の誘電体間または誘電体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲、さらには1/5〜1/2の範囲であることが電波吸収効率、軽量化の点で好ましい。
【0023】前記磁性体模様層(C)において、互いに隣接する帯状の磁性体間または磁性体列間の距離(中心線間の距離)が吸収しようとする対象電波の波長の1/3〜1/5の長さ、さらには2/7〜2/9の長さであることが電波吸収効率の点から好ましい。また、帯状または短冊状の磁性体の幅は、上記互いに隣接する帯状の磁性体間または磁性体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲、さらには1/5〜1/2の範囲であることが電波吸収効率、軽量化の点で好ましい。上記磁性体模様層(C)を形成する帯状の磁性体および上記帯状の誘電体模様層(A)を形成する帯状の誘電体の長さは特に限定されるものではないが、強度、重量などの点から、通常いずれも長さが100〜1000mmの範囲のものが使用される。
【0024】本発明においては、必要に応じて支持層(B)上に形成されていてもよい誘電体模様層(A)と必要に応じて支持層(D)上に形成されていてもよい磁性体模様層(C)とについては、層(A)と層(C)とが、後記電波反射体層(E)上に、それぞれ一層ずつとなるように積層されていてもよいし、層(A)および層(C)の少なくとも一方が複数層となるように積層されていてもよい。複数層ずつ積層する場合の積層順序は特に限定されるものではなく任意であってよいが、層(A)と層(C)とが交互となるように積層したり、層(A)が連続した後、層(C)が連続するように積層し層(A)が空間側、層(C)が後記電波反射体層(E)側に向くように配置することが電波吸収効率の面から有利である。層(A)および層(C)の少なくとも一方が複数層となる場合、層(A)と層(C)との合計層数が3〜15であることが好ましい。層(A)と層(C)とが一層ずつとなるように積層する場合にも層(A)が空間側、層(C)が後記電波反射体層(E)側に向くように配置することが電波吸収効率の面から有利である。
【0025】本発明においては、誘電体模様層(A)の厚さの総和〔層(A)が一層のみの場合にはその層(A)の厚さ〕および磁性体模様層(C)の厚さの総和〔層(C)が一層のみの場合にはその層(C)の厚さ〕がいずれも吸収すべき対象電波の波長の1/10〜1/500、さらには1/20〜1/300の範囲であることが電波吸収効率および重量の面から好ましい。
【0026】本発明の電波吸収体のもう一つの態様においては、一定間隔にて平行に配置された前記帯状誘電体または短冊状誘電体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる誘電体列と、一定間隔にて平行に配置された前記帯状磁性体または短冊状磁性体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる磁性体列とが互いに直交して格子状に配置され、かつ必要に応じて支持層上に形成されてなる格子状積層体単位が、該積層体単位間におけるそれぞれの誘電体と磁性体とが互いに直交するように複数個積層されてなる複数単位積層体又は該格子状積層体単位1個が電波反射体層(E)上に積層されてなる構造を有するものである。
【0027】上記格子状積層体単位の例としては、帯状の磁性体間の間隙の一部に短冊状の誘電体を配置して格子状としたもの(後記図2)、これとは逆に、帯状の誘電体間の間隙の一部に短冊状の磁性体を配置して格子状としたもの、凹みをつけた帯状の誘電体と凹みをつけた帯状の磁性体とを組合せて配置して格子状としたもの(後記図3)、短冊状の誘電体と短冊状の磁性体を配置して格子状としたもの(後記図4および図5)などを挙げることができる。
【0028】上記格子状積層体単位は、前記誘電体模様層(A)と前記磁性体模様層(C)とを層(A)の誘電体の縞と層(C)の磁性体の縞とが互いに直交するように積層した積層体において、層(A)の縞と層(C)の縞の重複部分を、重複しないように除去して、重複部分が過不足なく、かつ同一平面上に誘電体と磁性体が配置され、両者が直交する格子状に形成されたものである。この格子状積層体単位を用いることによって、前記誘電体模様層(A)と磁性体模様層(C)を用いる場合より、得られる電波吸収体の厚さを薄くすることが可能となる。
【0029】上記格子状積層体単位における、互いに平行に隣接する誘電体間の距離(中心線間の距離)、誘電体の幅は、前記誘電体模様層(A)における誘電体の場合と同様である。また上記格子状積層体単位における、互いに平行に隣接する磁性体間の距離、磁性体の幅は、前記磁性体模様層(C)における磁性体の場合と同様である。
【0030】上記格子状積層体単位は、複数単位又は積層体単位1個が後記電波反射体層(E)上に積層されていてもよい。複数単位が積層される場合には、各格子状積層体単位間におけるそれぞれの誘電体と磁性体とが互いに直交するように積層される。本発明電波吸収体において、上記格子状積層体単位の厚さの総和〔1単位のみの場合にその1単位の厚さ〕が吸収すべき対象電波の波長の1/10〜1/500、さらには1/20〜1/300の範囲であることが電波吸収効率および重量の面から好ましい。
【0031】本発明電波吸収体の態様のいずれにおいても、前記短冊状誘電体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる誘電体列における、短冊状誘電体間の長手方向の間隔の割合(空隙率)は25%以下であることが好ましい。また磁性体列における、短冊状の磁性体間の長手方向の間隔の割合(空隙率)も同様に25%以下であることが好ましい。また本発明電波吸収体の態様のいずれにおいても、帯状の誘電体は、1つの帯状の誘電体からなっていてもよいし、また例えば短冊状の誘電体を長手方向に隙間なく配置して帯状としたもの等の、複数個の誘電体を組合わせて帯状の誘電体としたものであってもよい。
【0032】本発明の電波吸収体の一つの態様においては、必要に応じて支持層(B)上に形成されていてもよい誘電体層(A)と必要に応じて支持層(D)上に形成されていてもよい磁性体層(C)のそれぞれ一層以上の積層体の最下層に電波反射体層(E)が積層されている。また本発明のもう一つの態様の電波吸収体においては、必要に応じて支持体上に形成されていてもよい格子状積層体単位の一単位以上の積層体の最下層に電波反射体層(E)が積層されている。上記電波反射体層(E)は、入ってきた電波を100%ないしは、ほぼ100%(約99%以上)反射することができる金属製の層であればよく、一般に金属シートが用いられる。金属シートは金属箔も包含するものである。金属シートの種類としては、ブリキ、真ちゅう、銅、鉄、ニッケル、ステンレススチール、アルミニウムなどの金属のシートが挙げられる。金属シートの膜厚は特に限定されるものではないが、強度、軽量化の観点から5〜500μm程度が好ましい。
【0033】本発明電波吸収体において、各層間は接着剤によって接着されていてもよい。また本発明の電波吸収体は、電波吸収体の防食性、耐候性、美粧性、材料特性の保持性の向上などのため、電波吸収体の電波反射体層(E)と反対の面の最上層上に、クリヤまたは着色塗膜層を塗装などによって設けてもよい。この塗膜層を形成する樹脂種としては例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0034】本発明の電波吸収体の使用方法においては、電波の遮蔽および電波の反射防止をすべき構造体の表面に上記本発明の電波吸収体を、吸収対象電波の磁界成分の振幅面に対して帯状の誘電体の縞又は誘電体列の縞の方向が垂直になるように例えば接着剤などで貼着することによって設置する。例えば吸収対象電波がテレビ電波である場合には、都市部においてはテレビ電波は水平偏波(電界成分の振幅面が地面に水平、磁界成分の振幅面が地面に垂直な電波)であるため、磁界成分に対しては、その振幅面に対して帯状の誘電体の縞又は誘電体列の縞が垂直、すなわち地面に水平になるように配置する。このように配置することによって電界成分に対しては、その振幅面に対して帯状の磁性体の縞又は磁性体列の縞が垂直、すなわち地面に垂直になるように配置されることになる。上記のように電波吸収体を設置することによって、誘電体によって磁界成分を、磁性体によって電界成分をそれぞれ熱エネルギーに交換することによって効果的に電波吸収を行なうことができる。
【0035】また本発明の電波吸収体の使用方法において、電波の反射を防止すべき構造体が金属表面を有する電波反射構造体である場合には、この電波反射構造体が、前記本発明の電波吸収体の電波反射体層(E)と同様に電波の遮蔽などの働きを行なうことができるので、この電波反射構造体上には、前記電波吸収体から電波反射体層(E)を除いた積層体を吸収対象電波に対して層(A)および層(B)ならびに前記格子状積層体単位が上記の方向になるように形成することによっても効果的に電波吸収を行なうことができる。
【0036】また本発明の電波吸収体の電波反射体層(E)の面に前もって粘着剤を塗布し、その上に離型紙を積層しておくことによって施工現場にて剥離紙をはがし、構造体上に、吸収対象電波に対して層(A)および層(B)ならびに前記格子状積層体単位が上記の方向になるように貼着することによって構造体上に電波吸収体を形成することができ、効果的に電波吸収を行なうことができる。
【0037】
【実施例】以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、以下「部」は重量基準によるものとする。
【0038】実施例1エポキシ樹脂100部中に平均粒径約10μmのマグネタイト200部を分散し、アミド系硬化剤を加えたものを加熱式押出成型機で成形して1mm厚のマグネタイト含有シートを作成した。また別にエポキシ樹脂100部中に平均粒径約8μmの四弗化マグネシウム・バリウム(BaMgF4 )200部を分散し、ジシアンジアミド硬化剤を加えたものを加熱式押出成型機で成形して1mm厚の四弗化マグネシウム・バリウム含有シートを作成した。次いで、上記マグネタイト含有シートを120×300×1mmの大きさに切断して磁性体単位とし、これを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、長さ300mmの磁性体単位を長手方向に隙間なく10個つなぎ合わせて長さ3000mmの帯状の磁性体とし、この帯状の磁性体がその中心線間距離480mm間隔で平行に並ぶように貼着けて磁性体模様層を得た。PETフィルム上における磁性体がない部分の割合(空隙率)は75%である。上記磁性体模様層を有するPETフィルム12枚を、各磁性体模様層の磁性体の縞が同一方向となるように積層して磁性体模様層を12層有する磁性体積層体を得た。また、上記マグネタイト含有シートのかわりに四弗化マグネシウム・バリウム含有シートを使用する以外は上記と同様に、切断、貼着け、積層を行ない、各誘電体(四弗化マグネシウム・バリウム含有)の縞が同一方向となるように積層された、誘電体模様層を12層有する誘電体積層体を得た。
【0039】次いで、得られた磁性体積層体を厚さ1mmのアルミニウム板に接着し、さらにこの磁性体積層体上に、得られた誘電体積層体を、磁性体積層体の磁性体の縞に対して誘電体積層体の誘電体の縞が直交するように接着して空隙を有する電波吸収体を作成した。上記電波吸収体において、磁性体模様層のかわりに上記マグネタイト含有シートを用い、誘電体模様層のかわりに上記四弗化マグネシウム・バリウム含有シートを用いる以外は上記と同様にして空隙率が0%の電波吸収体を得た。前記空隙を有する電波吸収体を、吸収すべき対象電波の磁界成分の振幅面に対して帯状の誘電体の縞が垂直になるように設置したところ、電波吸収のピークが156MHzであり、−20dBでの比帯域は360MHzであった。この吸収特性は、上記空隙率が0%の電波吸収体とほぼ同等であった。また前記空隙を有する電波吸収体の重量は12kg/m2 であって、上記空隙率が0%の電波吸収体の重量35kg/m2 の約1/3であった。
【0040】実施例2フェライト焼結体(120×24×9mm)を構造体の鋼製壁面に、長さ120mmの焼結体(磁性体)を長手方向に隙間なく10個つなぎ合わせて長さ1200mmの帯状の磁性体とし、この帯状の磁性体がその中心線間距離120mmの間隔で平行に並び、かつ吸収すべき対象電波の電界成分の振幅面に対して磁性体の縞(長さ方向)が直交するように、取付けた。この壁面(1200×1200mmの面積)上における磁性体がない部分の割合(空隙率)は80%である。さらに、チタン酸ストロンチウムの焼結体(96×24×9mm)が、後記図2R>2に示すように上記磁性体の縞に直交して格子を形成し、磁性体間の空隙の一部を埋め、かつ長さ96mmのこの焼結体(誘電体)がその幅方向の中心線間距離120mmの間隔で平行に並ぶように取付けた。壁面(1200×1200mmの面積)上における磁性体および誘電体の両者ともない部分の割合(空隙率)は64%である。得られた電波吸収構造体の電波吸収特性は、吸収のピークが620MHzであり、−20dBでの比帯域は450MHzであった。この吸収特性は、鋼製壁面(1200×1200mmの面積)に帯状のフェライト焼結体(120×24×9mm)を隙間なく接着した空隙率0%の電波吸収構造体とほぼ同等であった。また前記空隙率64%の電波吸収構造体の重量は19.8kg/m2 であり、上記空隙率0%の電波吸収構造体の重量は45kg/m2 に対して1/2以下であった。
【0041】実施例3ネオプレンゴム100部中に平均粒径約10μmのフェライト300部を分散し、このものを加熱式押出成型機で成型して2.5mm厚の磁性体シートを作成した。また別にネオプレンゴム100部中に平均粒径約10μmのチタン酸バリウム100部および天然カーボン5部を混合、分散し、このものを加熱式押出成型機で成型して2.5mm厚の誘電体シートを作成した。これらのシートをそれぞれ150×450mmの大きさに切断して短冊状磁性体および短冊状誘電体を作成した。
【0042】厚さ100μmのポリイミド製シートに、上記短冊状磁性体を縦長に29mmの間隔をおいて直線上に並べ、その横に順次短冊状磁性体を、隣接する短冊状磁性体の中心線間の距離が469mmとなるように並べて接着させて磁性体模様層(C)を形成した(後記図6R>6参照)。空隙率は短冊状磁性体の縦長方向(縞の方向)で約6%であり、横方向で約68%であった。また上記磁性体模様層の形成において、短冊状の磁性体のかわりに短冊状の誘電体を使用する以外は同様にして、厚さ100μmのポリイミド製シート上に誘電体模様層(A)を形成した。次いでポリイミド製シートを有する誘電体模様層(A)とポリイミド製シートを有する磁性体模様層(C)とを各5枚ずつ交互に、かつ誘電体模様層(A)の縞の方向と磁性体模様層(C)の縞の方向とが互いに直交するように重ね合せ、最下層が磁性体模様層(C)を有するポリイミド製シートとなるようにして接着し、この最下層のポリイミド製シートを厚さ50μmのアルミニウム板に接着した空隙を有する電波吸収体を作成した。
【0043】上記空隙を有する電波吸収体において、誘電体模様層(A)のかわりに空隙のない前記誘電体シートを用い、磁性体模様層(C)のかわりに空隙のない前記磁性体シートを用いる以外は同様にして空隙を有さない電波吸収体を作成した。前記空隙を有する電波吸収体を、吸収すべき対象電波の磁界成分の振幅面に対して短冊状の誘電体の縞が垂直になるように設置したところ、電波吸収のピークが156MHzであり、−20dBでの比帯域は450MHzであった。この吸収特性は、上記空隙を有さない電波吸収体とほぼ同等であった。また前記空隙を有する電波吸収体の重量は上記空隙を有さない電波吸収体の重量のほぼ2/5であった。
【0044】
【発明の効果】本発明の電波吸収体は、吸収すべき電波の電界成分を磁性体に、磁界成分を誘電体に受けもたせてエネルギー交換するようにしたものである。吸収されるべき電波は電界成分と磁界成分とが直交した波動であることに注目して磁性体および誘電体のそれぞれを縞状に空隙をとって並べ、それぞれの縞を直交させることによって従来の空隙を有さない電波吸収体と同等の吸収性能を有し、1/2以下の重量を有する電波吸収体とできたものである。本発明の電波吸収体は、従来品に比べ、コストの低減、施工の容易さ、建物の基礎の軽量化などの効果を有するものであり、特にテレビ偽像防止用電波吸収体に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘電体模様層(A)と磁性体模様層(C)とが電波反射体層(E)上に積層されてなる電波吸収体の平面図(a)および断面図(b)。
【図2】帯状の磁性体間の間隙の一部に短冊状の誘電体を配置して格子状とした格子状積層体単位の平面図(a)および断面図(b)。
【図3】凹みをつけた帯状の誘電体と凹みをつけた帯状の磁性体とを組合せて配置して格子状とした格子状積層体単位の平面図(a)および断面図(b)。
【図4】短冊状の誘電体と短冊状の磁性体とを組合せて配置して格子状とした格子状積層体単位の平面図(a)および断面図(b)。
【図5】短冊状の誘電体と短冊状の磁性体とを組合せて配置して格子状とした格子状積層体単位の平面図(a)および断面図(b)。
【図6】磁性体模様層における短冊状の磁性体の並べ方の一例を示す平面図。
【符号の説明】
1 帯状の誘電体
2 帯状の磁性体
3 短冊状の誘電体
4 短冊状の磁性体
5 電波反射体層
a 誘電体の中心線間の距離
b 磁性体の中心線間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】 短冊状の誘電体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる誘電体列複数個または帯状の誘電体複数個を、一定間隔にて平行に配置してなる縞状の誘電体模様層(A)に対して、短冊状の磁性体複数個を長手方向に一定間隔を置いて配置してなる磁性体列複数個または帯状の磁性体複数個を一定間隔にて平行に配置してなる縞状の磁性体模様層(C)が、該層(A)と該層(C)との縞が互いに直交するように、該層(A)および該層(C)を電波反射体層(E)上に積層してなる構造を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】 誘電体模様層(A)と磁性体模様層(C)の合計層数が3〜15であって、該層(A)と該層(C)とが任意の順序で積層されていることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】 誘電体模様層(A)が必要に応じて支持層(B)上に形成され、磁性体模様層(C)が必要に応じて支持層(D)上に形成されてなる請求項1または2記載の電波吸収体。
【請求項4】 誘電体模様層(A)において、層(A)内の互いに隣接する帯状の誘電体間または誘電体列間の距離(中心線間の距離)が吸収対象電波の波長の1/3〜1/5の長さであり、かつ帯状または短冊状の誘電体の幅が、上記層(A)内の互いに隣接する誘電体間または誘電体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲であり、さらに磁性体模様層(C)において、層(C)内の互いに隣接する帯状の磁性体間または磁性体列間の距離(中心線間の距離)が吸収対象電波の波長の1/3〜1/5の長さであり、かつ帯状または短冊状の磁性体の幅が、上記層(C)内の互いに隣接する磁性体間または磁性体列間の距離の1/10以上でかつ1未満の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】 誘電体模様層(A)の厚さの総和および磁性体模様層(C)の厚さの総和がいずれも吸収対象電波の波長の1/10〜1/200の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項6】 一定間隔にて平行に配置された帯状誘電体または短冊状誘電体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる誘電体列と、一定間隔にて平行に配置された帯状磁性体または短冊状磁性体複数個を一定間隔を置いて長手方向に配置してなる磁性体列とが互いに直交して格子状に配置され、かつ必要に応じて支持層上に形成されてなる格子状積層体単位が、該積層体単位間におけるそれぞれの誘電体と磁性体とが互いに直交するように複数個積層されてなる複数単位積層体又は該格子状積層体単位1個が電波反射体層(E)上に積層されてなる構造を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項7】 吸収対象電波の磁界成分の振幅面に対して、帯状の誘電体の縞又は帯状ないしは短冊状の誘電体の縞方向が垂直になるように、請求項1〜6のいずれかに記載の電波吸収体を構造物の表面に設置することを特徴とする該電波吸収体の使用方法。
【請求項8】 請求項1〜6のいずれかに記載の電波吸収体から電波反射体層(E)を除いてなる積層体を、帯状の誘電体の縞又は誘電体列の縞の方向が、吸収対象電波の磁界成分の振幅面に対して垂直になるように、金属表面を有する電波反射構造体上に形成することを特徴とする該電波吸収体の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−283878
【公開日】平成6年(1994)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−92474
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)