説明

電界による植物の生育制御方法

【課題】 水耕栽培や土耕栽培などにおいて、植物の播種後における発芽時間、発芽率および生育速度の促進または抑制を図る。
【解決手段】
水分の存在下、金属類、導電性ポリマーまたは/および炭素材料の単体または複合体を分極性電極として使用し、電気2重層による電界環境を発生させ、その環境の中で植物を栽培して植物の生育促進または抑制を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微弱な電界環境下における植物類の生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培植物や土耕栽培植物あるいは水中植物などの栽培においては、水、光、土壌、空気組成、温度および養分などを主要な管理項目としている。人類は、古来これらの管理項目について適正化を図ることによって農業技術を発展させてきた。また種子の品種改良も進めてきた。これらの成果によって、最近では野菜類の工場生産も可能となってきている。
また遺伝子学の進展に伴い、遺伝子操作による種子の改良も開始され、大豆など、この遺伝子技術の成果を取り入れて栽培される植物類も多くなってきている。
しかしながら地球上の人口増加に対して、将来の水不足問題および食糧不足問題が深刻になると指摘されており、地球環境の問題とも絡みあって人類はその解決を迫られている状況にある。
本発明の技術分野に関連した電界と植物の生育に関して、過去に次のような特許が公開されている。その内容は、種子の前処理に関するものが主で、マイナスイオン処理を行うというものや、1.3〜15kVの交流電場処理、および磁場に種子を保存するなどの内容のものが発表されている。このほか植物の幹に半導体を接続し外部電源を用いて電圧を印加した例があったが、微弱な電界を利用する内容の特許はなかった。
非特許文献1には、電界と植物に関して18世紀以降に発表された研究が紹介されている。研究対象とした電界の強さは、単位がキロボルト・レベルの高電圧を印加した時に出来る電界に関するもので、ミリボルト・レベルの微弱な電界環境下で植物の生育を調べた例や、電気2重層による電界を植物に適用したという例はなかった。本発明は、このような強力な電界ではなく、植物の生命を維持している細胞膜電位に近い微弱な電界での植物の挙動を追求した結果分かってきたことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−135899 穀物類の保管方法及び装置
【特許文献2】特開平10−295345 磁場形成資材およびその製造方法
【特許文献3】特開2008−92903 植物の播種前処理方法
【特許文献4】特願2007−186284 半導体農法
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】重光 司(電力中央研究所安孫子研究所) プラズマ・核融合学会誌 Vol.75,No.6,Jun.p659〜665,1999 3;放電プラズマ・電磁界を応用した生物学・農学的研究「電界・空気イオン・放電の植物影響」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物栽培の管理項目である水、光、土壌、空気組成、温度および養分などの在来の管理項目に加えて、種子播種後の電界環境を管理して、発芽時間、発芽率、生育速度の促進あるいは抑制を図ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単体または複合化された分極性電極(以下電極という)により生じた微弱な電気2重層による電界環境の中で植物を栽培し、植物の生育を制御して課題の達成を図ろうとするものである。
【0007】
電極として使用可能な材料は、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、鉄、ニッケル、錫、銅、銀、白金、および金の単体およびその合金類、導電性ポリマーならびに炭素材料が使用可能であり、これらの中で炭素材料が最も安定した所望の電界環境を得ることが出来るので好ましい。これらの金属材料、導電性ポリマーおよび炭素材料は互いに複合化した形態で電極とすることも可能であるが、実質的に有効な電界は、植物と接触する電極材料によって支配される。正電荷を帯び、接触する植物付近に負電荷を発生させる電極を正電極、この逆に負電荷を帯び、接触する植物付近に正電荷を発生させる電極を負電極とした。上記電極材料のうち、マグネシウム、アルミニウムおよび亜鉛は単体では負電極、残りの材料を用いた電極は、単体では正電極として機能する。
【0008】
これらの電極が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹、または藻類と接触し、電極面と、電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を制御する方法が本発明の基本的な手段となっている。
【0009】
具体的には、(1)マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、鉄、ニッケル、錫、銅、銀、白金および金の単体または合金類、(2)導電性ポリマー、または(3)炭素材料の単体または複合体からなる電極が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、電極面と、電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を制御する事を基本技術とする。
【0010】
植物の生育を促進させる手段は、(1)チタン、鉄、ニッケル、錫、銅、銀、白金および金の単体または合金類、(2)導電性ポリマー、または(3)炭素材料の単体または複合体からなる正電極が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹、または藻類と接触し、正電極面と、正電極面と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を促進する方法により実施される。
【0011】
植物の生育を抑制させる手段は、マグネシウム、アルミニウムまたは亜鉛の単体または合金からなる負電極が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、負電極面と、負電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を抑制する方法により実施される。
【0012】
前記1010項に記載の正電極が、植物の種子、根幹または藻類と海、河川、湖沼、水耕栽培地または田畑などの土耕栽培地において接触し、正電極面と、正電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を促進する方法が、実際の農業において実施されることになる。
【0013】
同様に、前記1011項に記載の負電極が、植物の種子、根幹または藻類と海、河川、湖沼、水耕栽培地または田畑など土耕栽培地において接触し、負電極面と、負電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を抑制する方法が、実際の農業において実施されることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による方法によって、例としてカイワレ大根の場合、正電極環境において発芽および収穫の時間が、在来の播種法の約半分となった。 野菜をはじめ多くの植物類の生産効率の向上効果が期待される。
負電極による電界環境において、種子の発芽が抑制され、種子あるいは花卉などの長期保存が可能となると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】水耕栽培地における播種の実験の方法説明図
【図2】田畑など土耕栽培地における播種の実験の方法説明図
【図3】複合化された電極の例
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、植物の播種の方法などは在来の方法を踏襲するが、水分の存在する環境下で、種子、根幹または藻類の表面に接触して電極を配置し、これら植物の表面および近傍において電荷密度を高め、このような電界環境下に於いて植物の生育を促進または抑制を図る。電荷密度の値は、電極と、電極と非接触状態の植物の表面との間の電位差によって管理し、その値は、10mV以上の電位差となるように管理する。正電極の場合は、植物側はマイナスの電荷密度が高まり植物の成長が促進される。負電極の場合はプラスの電荷密度が高まり植物の成長は抑制される。電位差は、電極の材質、植物の種類、電極の有効な面積内の種子および球根の数、水温や植物の品種などによって異なった管理値になるが、1500mV以下、好ましくは40〜1000mVの範囲で実施されることがよい。また種子が小さいために、電極端子を植物表面に接触させることが困難な場合は、出来るだけその近傍の電位差を計測し、その値を管理する。
植物類の生育は、従来から栽培が実施されてきた場所、即ち水耕栽培地、田畑など土耕栽培地および海、河川、湖沼などで行われ、その栽培方法は在来の既存の技術を原則として適用し、これらの既存技術の上に、本発明の電極による電界環境の管理が付加される。
【0017】
金属材料およびその合金類を電極に用いる場合は、線状、箔状、シート状または網状に成型加工したものが用いられる。その形状は曲面あるいは平面で、種子などの接触を安定な状態に固定するため、この利便性を考えた構造形状とする。大きさは少なくとも種子一個の投影面積以上とし、多量の種子を播種する場合は、1枚の電極に複数個の種子を播種できる面積および構造とすることになる。また畝播きをする場合は、細長い紙製紐などに連続または断続的に電極を配置し、その上に種子を固定して播種する。種子は、PVAやゼラチンなどの接着剤で床に固定する。これらの播種床は、電極の使用されていない既存の床で既に実用化されており、これら既存の技術を利用して電極を設置する事になる。
炭素材料を電極に用いる場合は、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、活性炭、木炭および竹炭の単体または混成体が加圧されてシート状となったものが使用される。この時、若干の合成樹脂や膠などの天然樹脂を結合材として添加するが、主材料は炭素材料となる。炭素繊維の場合は、織物、不織布や糸状のものが用いられる。これらの中では、黒鉛あるいはカーボンブラックのシートや抄き込み紙が入手しやすく分極性も安定しており好ましい。粉末状の炭素材料の場合には、親水性のアクリル樹脂や膠類などと混合して塗料としたものを、床材や直接種子に塗布して用いるのが簡便である。その時の溶剤は、水が好ましい。炭素材料と樹脂の混合比は、重量比で10〜100対100の間が好ましい。100部以上では塗布作業が困難となる。10部以下では、電極と種子または球根間の電位が低くなり、効果が不十分となる。またこの比率は炭素材料の種類によっても変わる。カーボンブラックの一種、ケッチェンブラックは低い配合比率で目的の電位差が得られ塗装性が良い。電気抵抗の観点から電極として適用可能範囲は、0.01〜10kQ/cmの間が適当であるが、実際にはフィールド実験でのデーターによって個別に決定する事になる。塗膜の塗布量は、5〜150g/m、塗膜厚さは1mm以下程度とすることが種子の着床時の安定性がよく好ましい。塗膜の形態は、全面塗りのほか、ドット模様塗り、線状模様塗りなど多様な模様の形態が可能である。
導電性ポリマーは、シートまたは紐状の播種床材に直接塗布し乾燥してから、この上に播種を行うことになる。種子の表面に直接塗装することもできる。ポリチオフェンやポリピロールが、入手が容易であり、使いやすく好ましい。
【0018】
本発明の実施に際して、電極と植物の表面との間の電位差は、電位差計のプラス端子を電極に接触した状態で、マイナス端子を植物の種子、根幹または藻類の電極と非接触部に触れさせ、または出来るだけその近傍に置いて、その時の電位差計の指示が最大値となった時の表示値をマイナスの電位差とする。電位差計の端子接触が逆の位置関係になった場合は、植物側はプラスの電位になる。田畑など土耕栽培地の場合も測定は、上記方法に準拠して行う。本発明の実験では電位差計のプラス端子とマイナス端子は、10〜30mm離れた位置で水分の存在下において測定した。
実験には、電位差計として(株)エー・アンド・デイ社AD−5529を使用した。
【0019】
水耕栽培の例について、実施例により説明する。
【実施例1】
図4の写真は、右側が負電極としてアルミニウムを使用した場合、中央は正電極として炭素紙を使用した場合、左側がブランクテストのカイワレ大根播種12日後の発芽状況を示す。(図1の水耕栽培実験方法による)
発芽時間は、電極あり…2日、電極なし…6日 実験時の室温、20〜25℃ 負電極(アルミニウム箔)では、発芽が抑制され発芽しない種子が多い。正電極(新巴川製紙製カーボン導電紙)ではブランクテストに比べ2倍以上の高さに生育。種子は各6個
【実施例2】
【0020】
図5の写真は、実施例1の実験を14〜18℃の室温で行った播種12日後の結果を示した。左側がブランクテスト、中央が炭素紙(実施例1と同じ)、右側がカーボンインキ(日立化成品番703)塗布紙、18℃以下ではブランクテストの場合は発芽率が極めて低くなる。種子は各6個
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明による電界環境下における植物の播種は、簡単な電極を用いて行われるので投資に対する効果が大きく、農業に於いて広く利用されるものと考えている。
【符号の説明】
【0022】
1 プラスチックカップ、径3cm、高さ3.5cm
2 水域
3 植物種子または根幹
4 電極
5 水分含有土耕培地
6 正電極
7 負電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極性電極(以下電極という)が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、電極面と、電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を制御する方法。
【請求項2】
(1)マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、鉄、ニッケル、錫、銅、銀、白金および金の単体または合金類、(2)導電性ポリマー(3)炭素材料の単体または複合体からなる電極が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、電極面と、電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を制御する方法。
【請求項3】
(1)チタン、鉄、ニッケル、錫、銅、銀、白金および金の単体または合金類、(2)導電性ポリマー(3)炭素材料の単体または複合体からなる電極(以下正電極という)が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、正電極面と正電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を促進する方法。
【請求項4】
マグネシウム、アルミニウムまたは亜鉛の単体または合金類からなる電極(以下負電極という)が、水分の存在する環境において、植物の種子、根幹または藻類と接触し、負電極面と負電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を抑制する方法。
【請求項5】
請求項3に記載の正電極が、植物の種子、根幹または藻類と海、河川、湖沼、水耕栽培地または田畑などの土耕栽培地において接触し、正電極面と、正電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を促進する方法。
【請求項6】
請求項4に記載の負電極が、植物の種子、根幹または藻類と海、河川、湖沼、水耕栽培地または田畑などの土耕栽培地において接触し、負電極面と、負電極と非接触状態の植物の表面との間に、10mV以上の電位差を発生させて、植物の生育を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−120520(P2012−120520A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291056(P2010−291056)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(506407626)
【出願人】(395012064)
【Fターム(参考)】