説明

電界吸収型光変調器の駆動回路

【課題】電界吸収型光変調器に供給する駆動信号の直流電圧可変に伴う駆動信号波形の劣化を防止する。
【解決手段】電圧連動可変手段30は、ドライバ回路25の終段トランジスタTRの出力用の特定端子の直流電圧と他の端子の直流電圧とを、同一方向に連動可変させて、終段トランジスタTRの動作点の変動を抑制しつつ、電界吸収型光変調器1に与える駆動信号Dの直流電圧を変化させて、駆動信号Dの直流電圧可変に伴う駆動信号波形の劣化を防止し、波形劣化の無い変調光を出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界吸収型光変調器に与える駆動信号の直流電圧可変に伴う駆動信号波形の劣化を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信システムでは、高速に光変調を行うことができる変調器として、半導体素子の電界吸収効果を利用した電界吸収型(Electro Absorption)光変調器(以下、EA変調器という)が使用されている。
【0003】
電界吸収効果とは、電界が印加された半導体のバンド構造が変化し、光の吸収量が変化する効果であり、具体的には、レーザダイオード等からの連続光を受けたEA変調用の半導体素子に逆バイアス電圧を印加すると半導体素子の光吸収量が増加して、光は透過しなくなり(オフ状態)、逆バイアス電圧の印加を止めると、半導体素子の光吸収量が減少して光は透過する(オン状態)ので、逆バイアス電圧からゼロバイアスまでの範囲でレベルが変化する駆動信号を半導体素子に供給することで、強度変調された光信号を出力させることができる。
【0004】
この電界吸収効果を利用したEA変調器を高速に駆動するための駆動回路として、従来では、図6に示すように、変調用のデータ信号dをプリアンプ11で増幅し、その増幅した信号d′をドライバ回路12によってさらに増幅してEA変調器1に供給している。
【0005】
EA変調器1の変調特性は、例えば図7のようにバイアス電圧が負(逆バイアス)の範囲内で傾斜した特性となっており、その変調特性に対応して−Va〜−Vbの振幅の駆動信号DをEA変調器1に与えることで、強度が明レベルと暗レベルの間を遷移する変調光Pが出力される。
【0006】
このEA変調器1の変調特性は、周囲の温度等などの影響を受けてシフト(図7で左右に)し、これによって変調光Pの明暗のレベルが変化し、特に、変調特性がバイアス電圧の正方向にシフトすると、明レベルの低下が顕著となり、所望の消光比が得られない。
【0007】
また、変調特性は、EA変調器の製造バラツキによる固体差も存在するので、同じ駆動信号で、均一な光出力特性を得るのが難しいという問題もある。
【0008】
そのために、従来では変調特性の温度変動や製造バラツキによる個体差に合わせて、駆動信号Dの直流電圧VDC(動作点電圧)を可変させて、変調光のレベルが一定となるように調整している。
【0009】
例えば、図6の例では、ドライバ回路12の終段トランジスタTRの出力端子(この場合コレクタと負荷抵抗RLの接続点)を、抵抗Raを介して可変電源14に接続し、この可変電源14によって駆動信号Dの直流電圧VDCを変化させている(図中Reはエミッタ抵抗である)。
【0010】
なお、このように、EA変調器1に入力される駆動信号の直流分を調整する技術は、例えば次の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−61556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1では、駆動信号の交流成分と直流電圧とを、交流通過用のコンデンサと直流通過用のコイルとからなるバイアスT回路を介してEA変調器に与えているため、回路が複雑化するとともに、扱うデータ信号がNRZ方式の場合、同一レベルのデータが連続するとバイアスT回路のC結合による波形の劣化を招く。
【0013】
これに対し、前述したようにドライバ回路12の終段トランジスタTRの信号出力用の特定端子(コレクタ)の電圧を直接EA変調器1に供給する直結方式では、C結合による波形劣化は原理的に発生しない利点がある。
【0014】
しかしながら、前記したように、ドライバ回路12の終段トランジスタTRの信号出力用の特定端子の電圧のみを外部から変化させる方式は、その終段トランジスタTRの動作点(この場合コレクタ・エミッタ間電圧)をも変動させることになり、それによる駆動信号Dの波形劣化が生じる。
【0015】
図8、図9はその様子を示す図である。図8は、トランジスタTRの典型的なI−VCE特性のグラフ上に、信号D出力時の負荷曲線を示した図であり、動作点Pbを中心にしたBの負荷曲線のように、コレクタ・エミッタ間電圧が適正な軌跡を描く動作であれば、図9の(b)のように、駆動信号の波形(アイパターン)に顕著な劣化は生じないが、図8のAのように、負荷曲線が低電圧側にあると、飽和領域に入り、図9の(a)のように駆動信号の波形のジッタが増加し、図8のCのように、負荷曲線が高電圧側にあると、図9の(c)のように、アンダーシュートが生じてしまう。
【0016】
このため、ドライバ回路12の特定端子の直流電圧の可変範囲が大きく制限されてしまい、EA変調器1の動作点の可変制御を十分行えないという問題があった。
【0017】
本発明は、この問題を解決し、EA変調器に供給する駆動信号の直流電圧可変に伴う駆動信号波形の劣化を防止した駆動回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の電界吸収型光変調器の駆動回路は、
変調用のデータ信号を受けて増幅し、電界吸収型光変調器(1)を変調駆動するための駆動信号を終段トランジスタの特定端子と負荷抵抗との接続点から出力する駆動回路(21)において、
前記終段トランジスタの前記特定端子の直流電圧と、該特定端子とともに該終段トランジスタの動作点を決定する別の端子の直流電圧とを同一方向に連動変化させて、前記終段トランジスタの動作点の変動を抑制しつつ、前記電界吸収型光変調器に出力する前記駆動信号の直流電圧を変化させる電圧連動可変手段(30)を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明の電界吸収型光変調器の駆動回路は、ドライバ回路の終段トランジスタの出力用の特定端子の直流電圧と、他の端子の直流電圧とを、同一方向に連動可変させて、終段トランジスタの動作点の変動を抑制しつつ、電界吸収型光変調器に与える駆動信号の直流電圧を変化させる電圧連動可変手段を有しているから、駆動信号の直流電圧可変に伴う駆動信号波形の劣化が防止され、波形劣化の無い変調光を出力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシングル駆動型の実施形態の構成図
【図2】実施形態の要部の回路例を示す図
【図3】本発明の差動駆動型の実施形態の構成図
【図4】分布型の増幅回路を用いた実施形態を示す図
【図5】差動カスコード型の増幅回路を用いた実施形態を示す図
【図6】従来の駆動回路を示す図
【図7】EA変調器の変調特性の例を示す図
【図8】駆動回路の終段トランジスタの動作点を示す図
【図9】動作点に対応する駆動信号波形の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した駆動回路を用いたEA変調装置20の全体構成図である。
【0022】
このEA変調装置20は、前述したEA変調器1と駆動回路21によって構成されている。EA変調器1は、前記したように、半導体素子の光に対する電界吸収効果を用いたものであり、例えば半導体レーザ等から出力さた連続光Pinを受け、駆動回路21からの駆動信号Dのレベルに応じてオン(透過)、オフ(遮断)して、変調光Poutを出力する。
【0023】
駆動回路21は、プリアンプ22、ドライバ回路25および電圧連動可変手段30によって構成されている。なお、ここではプリアンプ22、ドライバ回路25を区別して図示しているが、これらは同一半導体基板上に形成された集積回路でもよい。
【0024】
プリアンプ22は、入力されるデータ信号dを増幅し、その増幅したデータ信号d′を信号ドライバ回路25に入力する。
【0025】
ドライバ回路25は、プリアンプ22の出力信号d′をさらに増幅して、シングルエンドの駆動信号Dを終段トランジスタTRの特定端子(この場合、コレクタ端子)と負荷抵抗RLの接続点から出力する。この駆動信号Dは、前記したように、EA変調器1の変調特性に対応した振幅を有しているものとする(図中Reはエミッタ抵抗である)。
【0026】
電圧連動可変手段30は、駆動回路21の終段トランジスタ、即ち、ドライバ回路25の終段トランジスタTRの特定端子(コレクタ端子)の直流電圧Vと、この特定端子(コレクタ端子)とともにこの終段トランジスタTRの動作点を決定する他の端子(この場合エミッタ端子)の直流電圧Vとを同一方向にほぼ同一電圧連動可変させて、終段トランジスタTRの動作点(コレクタ・エミッタ間電圧)の変動を抑制しつつ、駆動信号Dの直流電圧を変化させるものである。なお、バイポーラトランジスタは、動作時のベース・エミッタ間の直流電圧VBEが一定であるので、ここではベース直流電圧を変えることで間接的にエミッタの直流電圧Vを可変させている。
【0027】
図1では、電圧連動可変手段30の理解しやすい構成として、終段トランジスタTRのコレクタに接続した抵抗Raと、ベースに接続した抵抗Rbを、固定電源−V′に接続された連動型可変抵抗器(半導体による構成であってよい)VR1、VR2に低出力インピーダンスの電圧バッファBUF1、BUF2を介して接続し、その連動型可変抵抗器VR1、VR2を、図示しない制御系(例えばEA変調器1の動作点の変動を抑制する制御系)による自動制御や手動操作により、連動可変させる構成となっている。
【0028】
電圧連動可変手段30の構成は任意であり、例えば図2のように、抵抗Ra、Rbの一端同士を接続し、その接続点と電圧可変器(半導体による構成でよい)VR3との間を電圧バッファBUF3を介して接続して、電圧可変器VR3の自動制御や手動操作により、終段トランジスタTRのコレクタ直流電圧とベース直流電圧とを連動可変させる構成でもよい。
【0029】
このように構成された駆動回路21では、駆動信号Dの直流電圧を変化させるために終段トランジスタTRのコレクタ直流電圧Vを変化させると、それと連動して、ベース直流電圧Vも同一方向に同一電圧変化し、それによりベース・エミッタ間の直流電圧VBE分低いエミッタ直流電圧Vも、同一方向に同一電圧変化するので、終段トランジスタTRの動作点(コレクタ・エミッタ間電圧)を、常に前記した図8のBの状態に保持することができ、波形劣化のない駆動信号DをEA変調器1に供給することができる。
【0030】
前記実施形態はシングル駆動型の例であったが、図3に、差動駆動型の回路例を示す。この差動駆動型の場合、差動入力されるデータ信号d(+)、d(-)が差動型のプリアンプ22に入力されて増幅され、その出力信号d(+)′、d(-)′が、差動型のドライバ回路25のトランジスタTR1、TR2と抵抗R1、R2からなるエミッタホロアに入力される。これらのトランジスタTR1、TR2のエミッタは、差動接続された二つの終段トランジスタTR3、TR4のベースに接続され、これらの終段トランジスタTR3、TR4が、両エミッタホロアから出力されるデータ信号を増幅する。
【0031】
終段トランジスタTR3、TR4のコレクタには負荷抵抗RL1、RL2が接続され、エミッタは共通の電流源Iに接続されており、それぞれのベースに位相が反転した信号を受け、その入力と位相が反転した信号をコレクタに発生する。ここでは、駆動信号Dはシングルエンドなので、一方の終段トランジスタTR3のコレクタから駆動信号Dを出力している。
【0032】
ここで、ドライバ回路25の終段トランジスタTR3、TR4のコレクタには、前記したように、駆動信号Dの直流電圧を可変するための抵抗Ra1、Ra2が接続されている。また、入力側のトランジスタTR1、TR2のベースにも前記同様の抵抗Rb1、Rb2が接続されており、これらの抵抗は前記した連動電圧可変器VR1、VR2あるいは共通の電圧可変器VR3に接続されていて、連動電圧可変器VR1、VR2の連動可変あるいは電圧可変器VR3の可変により、終段トランジスタTR3、TR4のコレクタ直流電圧Vが変化するとともに、トランジスタTR1、TR2のベース直流電圧Vおよびエミッタ直流電圧Vが同一方向に同一電圧変化する。その結果、終段ドランジスタTR3、TR4のベース直流電圧、エミッタ直流電圧も同一方向に同一電圧変化することになり、終段トランジスタTR3、TR4の動作点の変動が抑制された状態で、終段トランジスタTR3、TR4のコレクタ直流電圧Vを変化させることができ、前記した動作点変動による波形劣化は起こらない。
【0033】
なお、ここでは、回路のバランスを保持させるために、駆動信号出力用の終段トランジスタTR3だけでなく、これと対をなす終段トランジスタTR4についてもコレクタ直流電圧Vを可変させて、それに合わせてベース直流電圧Vも連動させていたが、回路のアンバランスが問題にならない場合には、抵抗Ra2またはRb2を省略して、終段トランジスタTR4のベース直流電圧Vまたはコレクタ直流電圧Vを可変しない(固定した)回路としてもよい。
【0034】
また、ここではドライバ回路25の前段にプリアンプ22を設けていたが、入力するデータ信号の直流レベルや振幅が上記構成のドライバ回路25に対応していれば、プリアンプを省略できる。
【0035】
また、前記実施形態は、終段トランジスタがバイポーラ型であったが、電界効果トランジスタ(FET)を用いた場合でも本発明を適用可能である。FETを用いたソース接地型の増幅器の場合の動作点は、ドレイン・ソース間電圧となり、その動作点の変動により波形劣化が生じるので、ドレイン直流電圧の可変に対してソース直流電圧を連動可変させることで動作点変動を抑制しつつ、駆動信号の直流電圧を可変させることができる。
【0036】
また、前記実施形態は、単一のドライバ回路25で増幅した駆動信号DをEA変調器1に与えていたが、単一のドライバ回路25でEA変調器1の駆動に必要な振幅の駆動信号を得ることができない場合、図4に示すような分布型(あるいは進行波型)の増幅回路を用いてもよい。
【0037】
この分布型の増幅回路は、プリアンプ22の出力信号が差動型の伝送路40を介して、所定間隔Lで設けられた複数のドライバ回路25(1)〜25(N)に入力され、各ドライバ回路で増幅された信号が出力側の伝送路50で同相合波されることで、広帯域な信号を高出力に増幅できる(図中、符号40a、40bは一対の主線路である)。
【0038】
この場合、プリアンプ22の出力が供給される差動型の伝送路40の終端抵抗Rz1、Rz2を前記した電圧可変用の抵抗Rbとして兼用し、出力側の伝送路50の一端に電圧可変用の抵抗Raを接続して、駆動信号Dの直流電圧を変化させるとともに、各ドライバ回路25(1)〜25(N)の終段トランジスタTR(1)〜TR(N)のベース直流電圧Vも前記同様に同一方向に変化させて、その動作点を適正状態に保持する。この回路の場合、各ドライバ回路25(1)〜25(N)の終段トランジスタTR(1)〜TR(N)の負荷抵抗は、出力側の伝送路50の他端に接続された終端抵抗Rz3である。
【0039】
なお、上記実施形態では、エミッタ接地型回路の終段トランジスタのコレクタから駆動信号を出力させる例について説明したが、コレクタ接地型やドレイン接地型、あるいは、カスコード型の場合でも本発明を適用できる。
【0040】
図5に、差動カスコード型のドライバ回路25の構成例を示す。この回路は、前記した差動型のドライバ回路のトランジスタTR3、TR4のコレクタと負荷抵抗RL1、RL2の間に、トランジスタTR5、TR6によるベース接地回路が挿入されたものであり、一般的に、エミッタ接地回路単独の構成より広帯域な特性を得ることができることで知られている。
【0041】
この差動カスコード型のドライバ回路25の場合、二つの終段トランジスタTR5、TR6の少なくとも一方(ここではトランジスタTR5)のコレクタ端子に接続した抵抗Ra1と、二つの終段トランジスタTR5、TR6のベース端子の接続点に接続した抵抗Rb3とを、前記した電圧連動可変手段30に接続して、前記同様に、駆動信号Dの直流電圧の可変に終段トランジスタTR5、TR6のベース直流電圧Vを連動させ、動作点変動による波形劣化を防止する。なお、この回路の場合、トランジスタTR3、TR4のベース直流電圧についても、電圧連動可変手段30に接続された抵抗Rb1、Rb2を介して、上記終段トランジスタTR5、TR6の各電圧と連動させて、カスコード回路全体の動作点の変動を抑制しているが、このトランジスタTR3、TR4のベース電圧の連動可変は省略することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1……EA変調器、20……EA変調装置、21……駆動回路、22……プリアンプ、25……ドライバ回路、30……電圧連動可変手段、40……伝送路、50……伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調用のデータ信号を受けて増幅し、電界吸収型光変調器(1)を変調駆動するための駆動信号を終段トランジスタの特定端子と負荷抵抗との接続点から出力する駆動回路(21)において、
前記終段トランジスタの前記特定端子の直流電圧と、該特定端子とともに該終段トランジスタの動作点を決定する別の端子の直流電圧とを同一方向に連動変化させて、前記終段トランジスタの動作点の変動を抑制しつつ、前記電界吸収型光変調器に出力する前記駆動信号の直流電圧を変化させる電圧連動可変手段(30)を備えたことを特徴とする電界吸収型光変調器の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−97218(P2013−97218A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240754(P2011−240754)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】