説明

電着塗装装置

【課題】電着槽内で被塗装物から放出された異物が被塗装物に付着するのを有効に防止することで塗装欠陥の発生を低減する電着塗装装置を提供する。
【解決手段】電着液1を貯留する電着槽2を備え、電着液1に被塗装物Wが浸漬して入槽端2a側から出槽端2b側に搬送される被塗装物移動領域Aの全領域に亘って、被塗装物領域Aの上方に配置された多数の上層ライザー21から電着液1を下方に噴射する。被塗装物移動領域Aを進行する被塗装物Wは、電着液1の下降流F1の存在下に維持され、異物が除去されると共に被塗装物Wから洗い出された異物が槽内循環流Fによって当該被塗装物Wや他の被塗装物Wに付着するのが防止されて塗装欠陥の発生が低減でき、良好な電着塗装が施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物を電着塗装する電着塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体等の被塗装物は、電着塗装に先立って、プレス加工や溶接等の組立工程において付着した切粉、鉄粉、スパッタ、ゴミ等の異物や防錆油、切削油等の油脂等の付着物を除去する電着塗装前処理が行われる。この電着塗装前処理の終了後に、この電着塗装前処理が施された自動車車体を電着塗装装置に搬送して電着塗装が行われる。
【0003】
電着塗装は、水中に溶解または分散された電着塗料、いわゆる電着液を電着槽内に貯留し、電着液内に被塗装塗物を浸漬させて、被塗装物と槽内電極との間に直流電圧を印加することにより電着液中にイオンとして存在する電着塗料を被塗装物の表面に電気的に析出させて塗膜を形成するものであり、自動車車体(ホワイトボディ)の下地塗装に多く用いられている。
【0004】
図6は、このような従来の電着塗装装置を示すもので、電着液100を貯留する電着槽101と、被塗装物である自動車車体Wを電着槽101の長手方向上流側の入槽端101a側から連続的に順に入槽させ、電着槽101内を進行させて下流側の出槽端101b側から出槽させるコンベア110を備え、電着槽101の出槽端101bにオーバーフロー堰102を介して液面に浮遊する気泡やゴミを回収するオーバーフロー槽103が形成される。
【0005】
そして、電着槽101内の槽底及び側壁にオーバーフロー槽103に回収された電着液100を噴出させて電着槽101内の電着液100を攪拌する多数の上層ライザー105及び下層ライザー106が配置されると共に、自動車車体Wとの間で電界を形成するための図示しない槽内電極が配置される。また、電着塗装装置には、自動車車体Wに付着して電着槽101内に持ち込まれた切粉、スパッタ、ゴミ等の異物を電着液100の濾過やマグネットによって取り除く異物除去手段が配置される。なお、図中107はオーバーフロー槽103内の電着液100を各上層ライザー105及び下層ライザー106に循環供給する循環路であり、循環路107に電着液循環ポンプ108が介装される。
【0006】
この電着槽101の側壁に配置される上層ライザー105はコンベア110の搬送方向後向きに、槽底側に配置される下層ライザー106はコンベア110の搬送方向前向きに配置されて、電着液101が上層流Faと槽底側の下層流Fbが相互に逆向きの水平流で循環し、自動車車体Wの搬送方向と上層流Faが対向する、いわゆる対向流の槽内循環流Fが形成される。この槽内循環流Fにより自動車車体Wに付着したゴミ等の異物や気泡等を除去すると共に、電着液100に含有する電着塗料の沈降防止或いは電着塗料の均一分散化を図る。
【0007】
また、特許文献1に開示される電着装置は、被塗装物となる自動車車体を浸漬させる電着液を貯留する電着槽内に、電着液の上層流が自動車車体の進行方向となる入槽端側から出槽端側に流れる、いわゆる平行流の槽内循環流を起こさせる電着液循環手段を設けると共に、槽内循環流の上層流を抑止する状態と上層流が確保される状態とに切り換える上層流切換手段を備える。
【0008】
そして、自動車車体の入槽時には電着液の槽内循環流をある程度継続しながら上層流切換手段により上層流を抑止して上層流の影響による自動車車体の左右または前後の揺動を抑え、入槽時の自動車車体と電着槽との干渉を回避する。
【0009】
また、特許文献2に開示される電着装置は、自動車車体を浸漬させる電着液を貯留する電着槽に、電着液の上層流及び下層流が逆向きの水平流となる平行流の槽内循環流を生じさせる電着液循環手段を設けると共に、電着液内に浸漬された被塗物における槽内循環流が当たり難い部位に電着液を局部的に噴出する電着液噴出手段を備える。そして、電着液の槽内循環流が当たり難い部位に局部的に電着液を噴射することで、該部における槽内循環流の淀みを解消すると共にゴミ等の異物や気泡等を自動車車体の表面から除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−61949号公報
【特許文献2】特開平4−61349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、電着塗装に先立って予め電着塗装前処理において自動車車体に付着した切粉、鉄粉、スパッタ、ゴミ等の異物を除去している。しかし、自動車車体に付着した異物、特に自動車車体に形成される凹部や板部材等の隙間に入り込んだ切粉、鉄粉等の異物は、完全に除去されずに残存し、自動車車体と共に電着槽に持ち込まれる。そして、電着槽内において槽内循環流によって自動車車体から洗い出されて電着液内に拡散される。従来の電着塗装装置においては電着液に拡散された切粉、鉄粉、ゴミ等の異物を電着液の濾過やマグネットの異物除去手段によりある程度は除去されるが、その効果は十分なものではなく、依然として自動車車体の表面に付着して塗装欠陥が発生し、その修正にコストを要するのが現状である。
【0012】
この点について、本発明者は鋭意検討したところ、電着槽に持ち込まれて自動車車体の表面に付着するゴミ等の異物の多くは、連続的に順次電着槽に入槽される自動車車体に付着した異物が槽内循環流によって洗い出され、その洗い出されたゴミ等の異物が槽内循環流によって浮流して再びその自動車車体或いは他の自動車車体の表面に付着し、その付着した異物が塗装欠陥発生の原因になることを突き止めた。
【0013】
また、自動車車体に付着して電着槽に持ち込まれる異物の大部分を占める切粉や鉄粉等は、電着槽の槽底に多く沈降する。ここで、対向流の槽内循環流にあっては、槽底に沈降して集まった切粉や鉄粉等の異物が槽内循環流の下層流によって出槽端に移動して反転流によって浮上し、自動車車体の表面に付着する。同様に平行流の槽内循環流にあっては槽底に沈降して集まった切粉や鉄粉等の異物が槽内循環流の下層流によって入槽端に移動すると共に反転流によって浮上して自動車車体の表面に付着することが塗装欠陥発生の原因になる。
【0014】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、電着槽内で被塗装物から放出された異物が被塗装物に付着するのを有効に防止することで塗装欠陥の発生を低減すると共に、電着塗装のコストダウンが図れる電着塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する請求項1に記載の電着塗装装置は、電着液を貯留する一対の側壁及び底部を有して入槽端から出槽端に連続する電着槽を備え、電着液に被塗装物が浸漬して前記入槽端側から出槽端側に搬送される被塗装物移動領域の全領域に亘って、該被塗装物領域の上方に配置された上層ライザーから電着液を下方に噴射して下降する下降流を有する槽内循環流を生成すると共に電着塗料の沈降を防止する槽内循環流を生成することを特徴とする。
【0016】
これによると、被塗装物移動領域を進行する被塗装物は、その被塗装物移動領域を進行する全範囲に亘って電着液の下降流の存在下に維持され、電着液の下降流によって異物が除去されると共に、被塗装物から洗い出された異物が槽内循環流によってその被塗装物や他の被塗装物に付着する等の不具合が防止されて塗装欠陥の発生が低減でき、良好な電着塗装が施される。また、塗装欠陥の発生低減に伴って塗装欠陥の修正に伴う電着塗装のコストを削減することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電着塗装装置において、前記槽底部は、頂部から側壁側に移行するに従って下降して傾斜する電着液誘導面を備え、該電着液誘導面の下端縁に連続して該電着液誘導面に沿って流下する電着液を回収する電着液回収路を有することを特徴とする。
【0018】
これによると、槽内循環流の下降流によって被塗装物から洗い出された異物を含む電着槽内の下層領域の電着液が傾斜する電着液誘導面に誘導されて電着液回収路に回収され、槽底に異物が沈降することなく電着槽内の電解液に残存するゴミ等の異物が低減する。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電着塗装装置において、電着槽内の下層領域の電着液を前記電着液誘導面に沿って電着液回収路に誘導する下層ライザーを備えたことを特徴とする。
【0020】
これにより電着槽に持ち込まれる異物の大部分を占めて槽底に沈降が懸念される切粉や鉄粉等の異物を下層ライザーによって積極的に各電着液誘導面に沿って押し流して電着液回収路内に送り出して槽底上に残存する切粉や鉄粉等の異物が排除できる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の電着塗装装置において、前記電着液回収路内の電着液を前記上層ライザーに供給する異物回収手段及び電着液循環ポンプが介在する循環路を備えたことを特徴とする。
【0022】
これによると、電着液回収路内の電着液が異物回収手段を介在して電着液循環ポンプによって吸引され、かつ電着液循環ポンプによって各上層ライザーから電着槽内に噴射する電着液循環経路が形成されると共に、異物回収手段によって電着液に混在する切粉やゴミ等の異物が除去される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれると、被塗装物移動領域を進行する被塗装物は、その被塗装物移動領域を進行する全範囲に亘って電着液の下降流の存在下に維持され、電着液の下降流によって異物が除去されると共に、被塗装物から洗い出された異物が槽内循環流によってその被塗装物や他の被塗装物に付着する等の不具合発生が防止されて塗装欠陥の発生が低減でき、良好な電着塗装が施される。また、塗装欠陥の発生低減に伴って塗装欠陥の修正に伴う電着塗装のコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施の形態に係る電着塗装装置の概要を示す構成図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】第1実施の形態の他の例を示す断面図である。
【図4】第2実施の形態に係る電着塗装装置の概要を示す構成図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】従来の電着塗装装置の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図を参照して説明する。
【0026】
(第1実施の形態)
図1及び図2は、本発明の第1実施の形態に係る電着装置の概略構成を示すもので、図1は構成図であり図2は図1のII−II線断面図である。
【0027】
本実施の形態に係る電着塗装装置は、電着液1を貯留する電着槽2と、被塗装物である自動車車体Wを電着槽2の長手方向の入槽端部2a側から連続的に順に入槽させ、電着槽2内を進行させて出槽端部2b側から出槽させる搬送装置であるハンガコンベア等のコンベア10を備え、図示しない槽内電極と自動車車体Wとの間で電界を形成することで電着液1に浸漬されている自動車車体Wの表面に電着塗料を電着させて塗膜を生成する。
【0028】
電着槽2は、対向する一対の側壁3A、3B及び槽底4を有して上方が開放された断面略コ字状で長手方向に沿って連続し、入槽端部2aに傾斜した底部を有する入槽側傾斜部5が設けられ、出槽端部2bに傾斜した底部を有してオーバーフロー堰を兼ねる出槽側傾斜部6を介して電着液1の液面1aに浮遊するゴミ等の異物や気泡を回収するオーバーフロー槽7が形成される。
【0029】
槽底4は、図2に示すように幅方向中央に長手方向に連続する稜線状の頂部4aを有し、頂部4aからそれぞれ各側壁3A、3B側の下端縁4Aa、4Baに移行するに従って滑らかな凹面状に湾曲して傾斜する一対の電着液誘導面4A及び4Bによって形成される。更に、各側壁3A、3Bの下端に沿って電着液誘導面4A、4Bの下端縁4Aa、4Baに連続すると共に電着液誘導面4A、4Bに対向して開口する断面コ字状で膨出する樋状の電着液回収路8A、8Bが形成される。
【0030】
槽底4の頂部4aに沿って、槽内下層領域の電着液1を吸引すると共に各電着液誘導面4A及び4Bに沿って下端縁4Aa、4Baに向けて噴出する噴射ノズル20a及び20bを有する下層ライザー20が複数配置される。これにより電着槽2に持ち込まれる異物の大部分を占めて槽底4に沈降することが懸念される切粉や鉄粉等の異物は各電着液誘導面4A、4Bに沿って誘導されて流下して電着液回収路8A、8B内に回収され、槽底4に残存する切粉や鉄粉等の異物は積極的に排除される。
【0031】
コンベア10によって搬送される自動車車体Wは、それぞれ入槽側傾斜部5の上方で入槽側傾斜部5に沿って傾斜した前下がりの姿勢状態で電着槽2に入槽して電着液1中に浸漬され始め、槽底4ではその入槽側端部及び出槽側端部付近を除いて電着液1中に完全に浸漬された状態で槽底4の長手方向に沿って水平状態に維持されて進行し、槽底4の出槽側端部付近から出槽側傾斜部6にかけた部分で出槽側傾斜部6に沿って傾斜した前上がりの姿勢状態で電着槽2から出槽して電着液1中から抜け出る。このようにしてコンベア10によって搬送される自動車車体Wは、順次連続的に電着槽2内の電着液1中に所定時間だけ浸漬され、電着塗装が施される。
【0032】
このコンベア10によって自動車車体Wが槽底4の入槽側端部及び出槽側端部付近を除いて電着液1中に浸漬した状態で槽底4の長手方向に沿って略水平に進行する占有移動領域が被塗装物移動領域Aとなる。
【0033】
電着槽2における電着液1の液面1aより下方でかつ被塗装物移動領域Aより上方の上層領域に、下方に噴射ノズルを向けた上層ライザー21が多数配置される。各上層ライザー21は図2に示すように被塗装物移動領域Aの幅方向に複数並設すると共に図1に示すように被塗装物移動領域Aの長手方向ほぼ全範囲に亘り配設されて被塗装物移動領域Aの上方略全域に分散して配置される。
【0034】
図中25は各電着液回収路8A、8B及びオーバーフロー槽7内の電着液1を各上層ライザー21に循環供給する循環路であり、循環路25に電着液循環ポンプ26及び電着液1の切粉、鉄粉、ゴミ等の異物を濾過して除去する異物回収手段、本実施の形態ではフィルタ27が介装される。
【0035】
このように構成された電着塗装装置において、電着液循環ポンプ26の作動により各電着液回収路8A、8B及びオーバーフロー槽7内の電着液1をフィルタ27で濾過して清浄された電着液1が循環路25を介して各上層ライザー21に供給して各上層ライザー21の噴射ノズルから下方に向けて噴出させると、各上層ライザー21から噴出する電着液1は、被塗装物移動領域Aの全領域に亘って下降する下降流F1を生成し、下流すると共に槽底4の頂部4a及び各電着液誘導部4A、4Bによって電着槽2の幅方向に分流及び反転し、その反転流F2が各側壁3A、3Bに沿って上昇する槽内循環流Fが形成される。この槽内循環流Fによって電着槽101内の電着液1を攪拌して電着液1中の電着塗料の沈降を防止すると共に電着塗料の均一化を図る。
【0036】
また、槽内循環流Fの下降流F1により被塗装物移動領域Aを進行する各自動車車体WのルーフWaやフードWb等の上面及び側面Wcの表面に付着したゴミ等の異物や気泡等を除去して下方に誘導する。一方、上昇流領域Bとなる被塗装物移動領域Aと側壁3A、3Bとの間を十分確保することで側壁3A、3Bに沿って上昇する上昇流F3の流速を抑えることで、上昇流F3により自動車車体Wから除去されて降下した切粉や鉄粉の異物が巻き上げられて浮上する不具合を抑制する。換言すると、切粉や鉄粉等の沈降速度より上昇流F3の流速が小さくなるようにする。また、必要に応じて比較的メンテナンスが容易な側壁3A、3Bに切粉や鉄粉等の異物を吸着するマグネット9A、9B等の異物回収手段を配置する。
【0037】
このように電着槽2内の電着液1がオーバーフロー槽7及び下層ライザー20によって各電着液回収路8A、8Bに供給され、オーバーフロー槽7及び各電着液回収路8A、8Bの電着液1が異物回収手段、本実施の形態ではフィルタ27を介在して循環ポンプ26によって吸引され、かつ電着液循環ポンプ26によって各上層ライザー21から電着槽2内に噴射する電着液循環経路Rが形成されると共に、フィルタ27によって電着液1に混在する鉄粉やゴミ等の異物が除去される。
【0038】
次ぎに、このように構成された電着塗装装置の作動及び作用について説明する。先ず、電着液循環ポンプ26は一定吐出量で稼動しており、各上層ライザー21の噴射ノズルから電着槽2内に噴出させることにより被塗装物移動領域Aの全領域に亘って下降する下降流F1を形成すると共に槽底4で反転して各側壁3A、3Bに沿って上昇する上昇流F3となる槽内循環流Fを形成して電着槽2の電着液1を攪拌しつつ循環させて電着塗料が沈降するのを防止すると共に電着塗料の均一化を図っている。また、下層ライザー20によって槽内下層領域の電着液1を吸引すると共に各電着液誘導面4A、4Bに沿って噴出して槽底4上に沈降が懸念される切粉や鉄粉等の異物を各電着液回収路8A、8Bに押し出して槽底4上に残存が懸念される切粉や鉄粉等の異物を排除している。
【0039】
一方、コンベア10によって搬送される自動車車体Wは、入槽側傾斜部5の上方で電着槽2に入槽して電着液1中に浸漬し、電着液1中に完全に浸漬された状態で槽底4の長手方向に沿って被塗装物移動領域Aを進行し、槽底4の出槽側端部付近から出槽側傾斜部6にかけて電着槽2から出槽して電着液1中から抜け出る。このようにしてコンベア10によって搬送される自動車車体Wは、順次連続的に電着槽2内の電着液1中の被塗装物移動領域Aを進行する所定時間に亘って浸漬されて電着塗装が施される。
【0040】
被塗装物移動領域Aを進行する自動車車体Wは、その被塗装物移動領域Aを進行する全範囲に亘って各上層ライザー21から噴出される清浄された電着液1の下降流F1の存在下に維持され、下降流F1よって自動車車体WのルーフWaやフードWbの上面や側面Wcに付着して持ち込まれたゴミ等の異物や気泡等が除去される。この下降流F1によって自動車車体Wから洗い出されたゴミ等の異物は槽内下方に運ばれ、下層ライザー20によって槽内下層領域の電着液1と共に電着液誘導面4A、4Bに沿って電着液回収路8A、8Bに誘導される。
【0041】
一方、下降流F1は槽内下部で反転して上昇する上昇流F3は流速が抑制されて上昇流F3により切粉や鉄粉の異物が上層領域に巻き上げられることが抑制され、かつ必要に応じてマグネット9A、9Bに残存する切粉や鉄粉が吸着除去されて清浄化されて被塗装物移動領域Aは全範囲に亘ってゴミ等の異物が除去された清浄状態の電着液1の下降流F1が維持される。
【0042】
従って、本実施の形態によると、被塗装物移動領域Aを進行する自動車車体Wは、その被塗装物移動領域Aを進行する全範囲に亘って清浄状態の電着液1の下降流F1によって切粉や鉄粉等の異物が除去されると共に、自動車車体Wから洗い出された異物が槽内循環流Fによってその異物が除去された自動車車体Wや他の自動車車体Wに付着する等の不具合発生が防止されて塗装欠陥の発生が低減でき、良好な電着塗装が施される。
【0043】
また、槽底4の頂部4aに設けられた下層ライザー20によって槽内下層領域の電着液1を吸引すると共に各電着液誘導面4A、4Bに沿って下端縁4Aa、4Baに向けて噴出することで、電着槽2に持ち込まれる異物の大部分を占めて槽底4に沈降が懸念される切粉や鉄粉等のゴミを各電着液誘導部4A、4Bに沿って流下して電着液回収路8A、8Bに回収され、槽底4上に残存する切粉や鉄粉等の異物を排除することで槽底4に切粉や鉄粉等が残存することなくかつ反転流F2によって巻き上げられることなく、自動車車体Wから洗い出された切粉や鉄粉等のゴミが再びその自動車車体Wや他の自動車車体Wの付着する不具合が有効的に防止できる。
【0044】
また、槽底4に異物の沈降がなく電着槽2内の電着液1が清浄状態に維持されて電着槽2の清浄等のメンテナンスが大きく軽減されると共に、フィルタ27の清浄乃至交換等の簡単な作業で電着槽2内の電着液1が清浄状態に保持され、メンテナンスの簡素化が確保できる。更に、自動車車体Wの表面にゴミ等の異物の付着が抑制されて塗装欠陥の発生を有効的に低減できると共に、塗装欠陥の修正に伴う電着塗装のコストを削減することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態では電着槽2の槽底4を幅方向中央の頂部4aから各側面3A、3B側の下端縁4Aa、4Baに移行する一対の電着液誘導面4A及び4Bによって山形に形成し、各側壁3A、3Bの下端に沿って電着液誘導面4A、4Bの下端縁4Aa、4Baに連続する一対の電着液回収路8A及び8Bを形成したが、図3に示すように側面3Bを被塗装物移動領域Aに接近させて外部における上昇流領域Bを削減或いは廃止すると共に、槽底4を一方の側壁3B側に頂部4aを有し他方の側壁3A側に移行するに従って下降する単一の電着液誘導面4Cによって形成し、側壁3Aの下端に沿って電着液誘導面4Cの下端縁4Caに連続する電着液回収路8Aを形成する。更に、電着液誘導面4Cの上端近傍に槽内下層領域の電着液1を吸引すると共に各電着液誘導面4Cに沿って下端縁4Caに向けて噴出する噴射ノズルを有する下層ライザー22を複数配置する。これにより槽底4に沈降が懸念される切粉や鉄粉等のゴミを各電着液誘導部4Cに沿って流下して電着液回収路8Cに回収することで、槽底4上に残存する切粉や鉄粉等のゴミを排除する。これによると、構成の簡素化及び電着槽2の幅の減少による電着装置の小型化を図ることもできる。
【0046】
(第2実施の形態)
図4及び図5は、本発明の第2実施の形態に係る電着装置の概略構成を示すもので、図4は構成図であり、図5は図4のV−V線断面図である。なお、図4及び図5において図1及び図2と対応する部位に同一符号を付することで、該部の詳細な説明を省略し、異なる部分を主に説明する。
【0047】
本実施の形態は、第1実施の形態に加え、電着槽2における被塗装物移動領域Aの上流側となる入槽部に複数の入槽側サイドライザー31及び入槽側ルーフライザー32が配置され、被塗装物移動領域Aの下流側となる出槽部に複数の出槽側サイドライザー33及び出槽側ルーフライザー34が配置される。
【0048】
各入槽側サイドライザー31は、図4及び図5に示すようにコンベア10によって自動車車体Wが入槽する入槽部に、入槽する自動車車体Wの左右側面Wcに噴射ノズルが対向すると共に入槽端2a、即ち自動車車体Wの搬送方向後方でかつ斜め下方に向けて配置され、電着液循環ポンプ26によって循環路25を介して供給される電着液1を自動車車体Wの側面Wcに向けて噴射する。
【0049】
一方各入槽側ルーフライザー32は、図4及び図5に示すように電着液1の上層部に噴射ノズルを液面1aに沿って入槽端2a、即ち自動車車体Wの搬送方向後方に向けて電着槽2の幅方向に複数並設され、電着液循環ポンプ26によって循環路25を介して供給される電着液1をコンベア10によって前下がり姿勢状態で電着槽2に入槽する自動車車体WのフードWb及びルーフWa等の上面に向けて噴射する。
【0050】
各出槽側サイドライザー33は、コンベア10によって自動車車体Wが出槽する出槽部に、出槽する自動車車体Wの左右側面Wcに噴射ノズルが対向すると共に出槽端2b、即ち自動車車体Wの搬送方向でかつ斜め下方に向けて配置され、電着塗装循環ポンプ26によって循環路25を介して供給される電着液1を自動車車体Wの側面Wcに向けて噴射する。
【0051】
一方各出槽側ルーフライザー34は、電着液1の上層部に噴射ノズルを液面1aに沿って出槽端2b、即ち自動車車体Wの搬送方向に向けて電着槽2の幅方向に複数並設され、電着液循環ポンプ26によって循環路25を介して供給される電着液1をコンベア10によって前上がり姿勢状態で電着槽2から出槽する自動車車体WのルーフWa及びフードWb等の上面に向けて噴射する。
【0052】
次ぎに、このように構成された電着塗装装置の作動及び作用について説明する。先ず、電着液循環ポンプ26は一定吐出量で稼動して、各上層ライザー21の噴射ノズルから電着槽2内に噴出させ被塗装物移動領域Aの全領域に亘って下降する下降流F1を有する槽内循環流を形成すると共に、下層ライザー20によって槽内下層領域の電着液1を吸引すると共に各電着液誘導面4A、4Bに沿って噴出する。更に各入槽側サイドライザー31、各入槽側ルーフライザー32、各出槽側サイドライザー33及び各出槽側ルーフライザー34から電着液1を噴出する。
【0053】
一方、コンベア10によって搬送される自動車車体Wは、入槽側傾斜部5の上方から電着槽2に入槽すると、自動車車体10の側面wcに付着して持ち込まれたゴミ等の異物や気泡が各入槽側サイドライザー31から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去されると共に、ルーフWaやフードWb等に付着するゴミ等の異物や気泡が各入槽側ルーフライザー32から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去される。この自動車車体Wから洗い出されたゴミ等の異物や気泡は各入槽側サイドライザー31及び入槽側ルーフライザー32から噴射する電着液1によってオーバーフロー槽11に送られると共に、一部は入槽側傾斜部6に沿って降下して槽内下層領域の電着液1と共に下層ライザー20によって吸引されて各電着液誘導面4A、4Bに沿って下端縁4Aa、4Baに向けて噴出されて電着液回収路8A、8Bに回収される。
【0054】
入槽側サイドライザー31及び入槽側ルーフライザー32から噴出される電着液1によって付着するゴミ等の異物や気泡が除去された自動車車体Wは被塗装物移動領域Aに移送され、被塗装物移動領域Aを進行する自動車車体1は、被塗装物移動領域Aを進行する全範囲に亘って各上層ライザー21から噴出される清浄された電着液1の下降流F1の存在下に維持さ、下降流F1よって自動車車体1に付着するゴミ等の異物や気泡等が除去される。この下降流F1によって自動車車体Wから洗い出されたゴミ等の異物は槽内下方に運ばれ、下層ライザー20によって槽内下層領域の電着液1と共に電着液誘導面4A、4Bに沿って流下して電着液回収路8A、8Bに回収される。
【0055】
更に、被塗装物移動領域Aの進行が終了して槽底4の出槽側端部付近から出槽側傾斜部6に沿って電着槽2から出槽する際に、自動車車体Wの側面Wcに付着して残存するゴミ等の異物や気泡が各出槽側サイドライザー33から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去されると共に、ルーフWaやフードWbに付着して残存するゴミ等の異物や気泡が各出槽側ルーフライザー34から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去される。この自動車車体Wから除去されたゴミ等の異物や気泡は各出槽側サイドライザー33及び出槽側ルーフライザー34から噴射する電着液1によってオーバーフロー槽7に送られると共に、一部は出槽側傾斜部6に沿って降下して槽内下層領域の電着液1と共に下層ライザー20によって吸引されて各電着液誘導面4A、4Bに沿って下端縁4Aa、4Baに向けて噴出されて電着液回収路8A、8Bに回収される。
【0056】
これによると、第1実施の形態の電着塗装装置に加え、コンベア10によって搬送される自動車車体Wが被塗装物搬送領域Aに搬入される前に、予め入槽した自動車車体10に付着して持ち込まれたゴミ等の異物や気泡が各入槽側サイドライザー31及び入槽側ルーフライザー32から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去され、自動車車体Wに付着して被塗装物搬送領域A持ち込まれるゴミ等の異物や気泡が大幅に減少して被塗装搬送領域Aで槽内循環流Fによる自動車車体Wからのゴミ等の異物や気泡の除去が大幅に軽減されると共に塗装欠陥がより確実に減少する。また、出槽する自動車車体Wに付着して残存するゴミ等の異物や気泡が各出槽側ルーフライザー34から噴射して吹き付けられる電着液1によって除去され、塗装欠陥のない高品質の塗膜が確保できる。
【0057】
なお、本実施の形態においても、槽底4を一方の側面3B側から他方の側壁3A側に移行するに従って下降する単一の電着液誘導面によって形成し、側壁3Aの下端に沿って電着液誘導面の下端縁に連続する電着液回収路を形成すると共に、電着液誘導面の上端近傍に槽内下層領域の電着液1を吸引して電着液誘導面に沿って噴出する噴射ノズルを有する下層ライザー配置されることで構成の簡素化及び電着槽の幅の減少による電着装置の小型を図ることもできる。
【0058】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記各実施の形態では、各上層ライザー21に単一の電着液循環ポンプ26によって供給したが、上層ライザー21を複数のライザー群にし、各ライザー群毎に電着液循環ポンプを配置することもできる。また、第2実施の形態においては単一の電着液循環ポンプ26により上層ライザー21及び入槽側サイドライザー31、入槽側ルーフライザー32、出槽側サイドライザー33、出槽側ルーフライザー34等のライザーに電着液1を供給したが、入槽側サイドライザー31、入槽側ルーフライザー32、出槽側サイドライザー33、出槽側ルーフライザー34用の電着液循環ポンプを上層ライザー用の電着液ポンプと別個に設けることもできる。更に槽内循環流Fの下降流F1が生成される被塗装物移動領域Aと上昇流F3が生成される上昇流領域Bとの間に隔壁を形成して被塗装物移動領域Aと上昇流領域Bを区分することもできる。
【0059】
また、第2実施の形態において、出槽側サイドライザー33及び出槽側ルーフライザー34或いはいずれか一方のライザー33或いは34を省略することもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 電着液
1a 液面
2 電着槽
2a 入槽端
2b 出槽端
3A、3B 側壁
4 槽底
4a 頂部
4A、4B 電着液誘導面
4Aa、4Ba 下端縁
7、11 オーバーフロー槽
8A、8B 電着液回収路
9A、9B マグネット(異物回収手段)
10 コンベア(搬送装置)
20 下層ライザー
21 上層ライザー
25 循環路
26 電着液循環ポンプ
27 フィルタ(異物回収手段)
31 入槽側サイドライザー
32 入槽側ルーフライザイー
33 出槽側サイドライザー
34 出槽側ルーフライザー
A 被塗装物移動領域
B 上昇流領域
W 自動車車体(被塗装物)
R 電着液循環経路
F 槽内循環流
F1 下降流
F2 反転流
F3 上昇流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着液を貯留する一対の側壁及び底部を有して入槽端から出槽端に連続する電着槽を備え、電着液に被塗装物が浸漬して前記入槽端側から出槽端側に搬送される被塗装物移動領域の全領域に亘って、該被塗装物領域の上方に配置された上層ライザーから電着液を下方に噴射して下降する下降流を有する槽内循環流を生成すると共に電着塗料の沈降を防止する槽内循環流を生成することを特徴とする電着塗装装置。
【請求項2】
前記槽底部は、頂部から側壁側に移行するに従って下降して傾斜する電着液誘導面を備え、
該電着液誘導面の下端縁に連続して該電着液誘導面に誘導され流下する電着液を回収する電着液回収路を有することを特徴とする請求項1に記載の電着塗装装置。
【請求項3】
電着槽内の下層領域の電着液を前記電着液誘導面に沿って電着液回収路に誘導する下層ライザーを備えたことを特徴とする請求項2に記載の電着塗装装置。
【請求項4】
前記電着液回収路内の電着液を前記上層ライザーに供給する異物回収手段及び電着液循環ポンプが介在する循環路を備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の電着塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112868(P2013−112868A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261204(P2011−261204)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)