説明

電磁クラッチ用カップリング

【課題】クラッチミート時の衝撃音の低減と、運転時の振動吸収を満足することの可能な電磁クラッチ用カップリングを提供する。
【解決手段】回転軸6に取り付けられるハブ11と、励磁コイル2の通電又は非通電によってロータ4と軸方向に接触又は離間されるアーマチュア5を弾性的に連結する弾性体13を具備する電磁クラッチ用カップリング10において、アーマチュア5に、軸方向相対変位可能な状態で挿通されると共に軸方向一端がロータ4側へ突出可能な係止部材14と、弾性体13の径方向中間部に一体的に設けられ、アーマチュア5がロータ4に磁気吸引されるのに伴う弾性体13の軸方向変形過程で係止部材14と当接可能な被係止部材15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力を回転軸に伝達すると共にトルク変動を吸収するカップリングであって、例えば車両の車室空調装置の電磁クラッチに設けられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車室空調装置において、冷媒を圧縮するコンプレッサをON−OFFする電磁クラッチとして、従来、図8のようなものが知られている。
【0003】
すなわち、図8に示す電磁クラッチ100は、非回転の励磁コイル102と、この励磁コイル102を包囲するように配置されると共にハウジング101にベアリング103を介して回転可能に保持されたロータ104と、このロータ104の端面104aに対向されたアーマチュア(クラッチ盤)105と、このアーマチュア105を前記ハウジング101に挿通された回転軸106に対して軸方向移動可能に連結するカップリング110を備える。
【0004】
カップリング110は、回転軸106の先端部に固定されたハブ111と、このハブ111の外周側に同心的に配置されアーマチュア105に円周方向複数のリベット107を介して連結されたアウターリング112と、このアウターリング112と前記ハブ111のリム部111aとの間に加硫接着されたゴム状弾性を有する弾性材料からなる環状の弾性体113を備えている。
【0005】
上記構成の電磁クラッチ用カップリング110は、励磁コイル102を通電することによって磁化されたアーマチュア105が、磁気吸引力によって軸方向移動して回転中のロータ104の端面104aに吸着(クラッチミート)されるのを、弾性体113の軸方向剪断変形によって許容すると共に、アーマチュア105から回転軸106へトルクを伝達するものである。また、励磁コイル102への非通電時には、弾性体113の復元力によって、アーマチュア105をロータ104の端面104aから隙間Gをもって軸方向へ離間させるものである(例えば下記の特許文献1参照)。
【0006】
ところが、この種の電磁クラッチ用カップリング110において、励磁コイル102を通電することによってロータ104とアーマチュア105間に作用する磁気吸引力は、アーマチュア105がロータ104の端面104aへ向けて移動する過程で非線形的に増大するのに対し、ロータ104側へのアーマチュア105の移動に対する抗力として作用する弾性体113の軸方向剪断ばね力もアーマチュア105の移動に伴って増大するが、その増大は線形に近い。このため、アーマチュア105がロータ104に吸着される直前には、磁気吸引力と弾性体113の軸方向剪断ばね力との差が急激に大きくなってアーマチュア105の移動が加速され、ロータ104の端面104aに勢い良く吸着されて大きな衝撃音を発生する問題がある。
【0007】
したがって、このようなクラッチミート時の騒音を低減するには、弾性体113の軸方向ばね定数が、アーマチュア105がロータ104の端面104aに接近するほど高くなる非線形的特性とすることが望ましい。そしてこのような非線形的特性を実現した電磁クラッチ用カップリングとしては、図9に示すようなものがある。
【0008】
すなわち図9に示す電磁クラッチ用カップリング120は、回転軸106の先端部に固定されたハブ121と、このハブ121に複数の金具122を介して結合された円盤状のプレート123と、このプレート123に開設された嵌合孔に遊挿されると共に固定端がアーマチュア105に開設された結合孔105aに固定される係合ピン124と、その外周に装着された防振ゴム125を備える。
【0009】
この構成によれば、アーマチュア105が励磁コイル102の通電によってロータ104の端面104aに吸着される際に、アーマチュア105と一体的に軸方向変位する係合ピン124の鍔部124aが、プレート123との間で防振ゴム125の主弾性部125aを圧縮変形させる。すなわち防振ゴム125は圧縮によって、アーマチュア105がロータ104の端面104aに接近するほどばね定数が高くなる非線形的ばね特性を示し、アーマチュア105がロータ104に吸着衝合される際の衝撃が吸収されるので、騒音が有効に低減される(例えば下記の特許文献2参照)。
【0010】
しかしながら、図9に示す電磁クラッチ用カップリング120によれば、ロータ104に吸着されたアーマチュア105と、ハブ121(回転軸106)側のプレート123との間での伝達トルクの変動(捩り振動)の吸収は、防振ゴム125における首部125bの圧縮変形に依存されることになり、したがって十分な振動低減効果が得られない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−124111号公報
【特許文献2】特開平07−174167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、クラッチミート時の衝撃音の低減と、運転中の捩り振動の吸収を満足することの可能な電磁クラッチ用カップリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る電磁クラッチ用カップリングは、回転軸に取り付けられるハブと励磁コイルの通電又は非通電によってロータと軸方向に接触又は離間されるアーマチュアを弾性的に連結する弾性体を具備する電磁クラッチ用カップリングにおいて、前記アーマチュアに、軸方向相対変位可能な状態で挿通されると共に軸方向一端が前記ロータ側へ突出可能な係止部材と、前記弾性体の径方向中間部に一体的に設けられ、前記アーマチュアが前記ロータに磁気吸引されるのに伴う前記弾性体の軸方向変形過程で前記係止部材と当接可能な被係止部材を備えるものである。
【0014】
上記構成によれば、励磁コイルの通電によってアーマチュアがロータに吸引されると、このアーマチュアと回転軸側のハブとの間で弾性体が軸方向に変形される。そして前記アーマチュアの移動過程で、このアーマチュアから突出した係止部材の軸方向一端がロータに当接されると共に、前記弾性体の径方向中間部に設けられた被係止部材が、この弾性体の軸方向変形に伴って前記係止部材と当接することによって、弾性体の軸方向変形が部分的に制限されるので、その時点で弾性体のばね定数が上昇する。このため、励磁コイルの通電によるアーマチュアの変位初期にはばね定数が低く、前記アーマチュアが前記ロータと吸着される際にはばね定数が上昇する非線形的特性となり、磁気吸引力によるアーマチュアの加速が抑制され、クラッチミートによる衝撃が有効に緩和される。また、アーマチュアがロータに吸着された運転状態において入力される捩り振動は、弾性体が捩り方向(円周方向)へ剪断変形されることによって有効に吸収される。
【0015】
請求項2の発明に係る電磁クラッチ用カップリングは、請求項1に記載された構成において、係止部材が、アーマチュアに対して円周方向所定範囲で相対変位可能であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、アーマチュアがロータに吸着された状態において、伝達トルクの変動による弾性体の捩り方向への剪断変形が、係止部材と被係止部材によって阻害されないため、一層優れたトルク変動(捩り振動)吸収効果が得られる。
【0017】
請求項3の発明に係る電磁クラッチ用カップリングは、請求項2に記載された構成において、アーマチュアに、係止部材が所定範囲を超えて円周方向相対変位したときにこの係止部材をロータ側へ押し出すカム部材が設けられたものである。
【0018】
この構成によれば、アーマチュアがロータに吸着された状態において入力されるトルクによって、弾性体が捩り方向へ剪断変形されるのに伴い、この弾性体の径方向中間部に一体的に設けられた被係止部材と共にアーマチュアに対して円周方向相対変位される係止部材の変位量が所定範囲を超えて大きくなると、カム部材によってこの係止部材が押し出されてロータを押圧し、このロータとアーマチュアを分離させてロータからアーマチュアへのトルク伝達を遮断するトルクリミッタ機能を奏する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1又は2の発明に係る電磁クラッチ用カップリングによれば、励磁コイルの通電によるアーマチュアの変位初期には軸方向ばね定数が低く、前記アーマチュアが前記ロータと吸着される際には軸方向ばね定数が高くなる非線形的特性となるので、クラッチミート時の衝撃音を低減することができると共に、弾性体の捩り方向剪断変形によって伝達トルクの変動を有効に吸収することができる。
【0020】
また、請求項3の発明に係る電磁クラッチ用カップリングによれば、回転軸がロックするなどの異常によって過大なトルクが発生したときにトルク伝達が遮断されるので、機器の破損を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す概略的な断面斜視図である。
【図2】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示す半断面図である。
【図3】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す分離状態の断面斜視図である。
【図4】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態において、アーマチュア、係合部材及びカム部材をアーマチュアと同心の円筒面で切断して示す分離状態の断面斜視図である。
【図5】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示すクラッチミート直前の状態の半断面図である。
【図6】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示すクラッチミート状態の半断面図である。
【図7】本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの実施の形態を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示すトルクリミッタ作動状態の半断面図である。
【図8】従来の技術に係る電磁クラッチ用カップリングの一例を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示す半断面図である。
【図9】従来の技術に係る電磁クラッチ用カップリングの他の例を、軸心を通る平面で電磁クラッチの一部と共に切断して示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る電磁クラッチ用カップリングの好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明でいう「正面側」とは、図1〜図3、図5〜図7における左側、「背面側」とはその反対側のことである。
【0023】
図2において、参照符号1は車両の車室空調装置におけるコンプレッサのハウジングの正面側端部であり、参照符号2はハウジング1に固定された非回転の励磁コイル、参照符号4はハウジング1にボールベアリング3を介して回転可能に支持された磁性体金属からなるロータ、参照符号5はロータ4の正面側に近接対向して配置された磁性体金属からなるクラッチ盤としてのアーマチュア、参照符号6は、ハウジング1に挿通されて内部の不図示の冷媒圧縮機構を作動させる回転軸、参照符号10はカップリングである。ロータ4は、例えば外周に不図示のプーリを有し、このプーリに巻き掛けられた不図示のベルトを介して、内燃機関の駆動力を与えられることにより回転するものである。
【0024】
カップリング10は、回転軸6の端部に取り付けられるハブ11と、その外周側に同心的に配置されると共にアーマチュア5の正面側に取り付けられるアウターリング12と、前記ハブ11とアウターリング12とを弾性的に連結する弾性体13とを備える。
【0025】
ハブ11は、図1及び図3などにも示すように、内周のボス部11aと、その軸方向正面側の端部から外周側へ軸心と直角に展開した円盤状のフランジ11bと、その外径端部から正面側へ延びるリム部11cからなり、ボス部11aにおいて回転軸6の端部に固定されるようになっている。
【0026】
アウターリング12は、金属板のプレス成形によって製作されたものであって、図3に示すように、スリーブ部12aと、その背面側の端部から外径側へ円周方向等間隔で形成され、それぞれ結合孔12cが開設された結合フランジ部12bとを有する。そしてこのアウターリング12は、結合フランジ部12bの結合孔12cとこれに対応してアーマチュア5に開設された結合孔5aに跨って挿通した複数のリベット7を介して、アーマチュア5の正面側に結合されている。
【0027】
弾性体13は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で環状に成形されたものであって、内径部がハブ11のリム部11cの外周面に一体的に加硫接着され、外径部がアウターリング12のスリーブ部12aの内周面に一体的に加硫接着されている。この弾性体13は、図2に示す励磁コイル2の非通電状態において、アーマチュア5をロータ4の端面4aから僅かに軸方向正面側へ離間した状態に保持し、また励磁コイル2の通電時に、その磁界によって磁化されたアーマチュア5とロータ4の間に作用する磁気吸引力によって軸方向移動して回転中のロータ4の端面4aに吸着されるのを許容し、その吸着状態において、アーマチュア5側から回転軸6側へトルクを伝達するものである。
【0028】
また、弾性体13の内周には、アーマチュア5側へ向けて突出した弾性突条13aが、弾性体13と連続したゴム状弾性材料によって形成されており、この弾性突条13aは、アーマチュア5が弾性体13の弾性によってロータ4の端面4aから隙間Gをもって軸方向へ離間した位置に保持された状態において、このアーマチュア5の正面側の端面に圧接するようになっている。
【0029】
アーマチュア5には、その軸心Oを中心とする円弧状に細長く延びる複数の係止部材保持孔5bが円周方向所定間隔で開設されており、この係止部材保持孔5bには、それぞれ係止部材14が軸方向相対変位可能に挿通された状態で保持されている。詳しくはこの係止部材14は、例えば摺動性の良い合成樹脂材料などからなるものであって、前記係止部材保持孔5bを貫通して背面側(ロータ4側)へ突出可能な軸方向一端の第一軸部14aと、その反対側(正面側)へ延びる第二軸部14bと、この第一軸部14aと第二軸部14bの間の第一鍔部14c及び第二鍔部14dからなる。第二鍔部14dは第一鍔部14cより正面側に位置し、第二軸部14bより大径かつ第一鍔部14cより小径に形成されている。
【0030】
弾性体13の径方向中間部には、これを軸方向に貫通するように、円筒状の複数の被係止部材15が、アーマチュア5の係止部材保持孔5bと対応する間隔で一体的に設けられている。そしてこの被係止部材15には、前記係止部材保持孔5bに保持された係止部材14の第二軸部14bが軸方向相対変位可能に挿入されると共に、この被係止部材15の背面側の端部が、前記係止部材14の第二鍔部14dの端面と当接可能な状態で軸方向に対向している。
【0031】
また、アーマチュア5の係止部材保持孔5bには、その正面側の開口を塞ぐようにカム部材16が一体的に取り付けられ、このカム部材16には円弧状に延びる開口部16aが開設されると共に、背面には円周方向両端へ向けて軸方向肉厚を増大するような斜面16bが形成されている。そして係止部材14は、カム部材16に対して所定範囲を超えて円周方向相対変位したときに、第一鍔部14cが前記斜面16bに乗り上がるように摺動することによって、ロータ4側へ押し出されるようになっている。
【0032】
以上のように構成されたカップリング10を含む電磁クラッチの動作について説明すると、ロータ4は、不図示の無端ベルトを介して内燃機関の駆動力を与えられることによって回転している一方、励磁コイル2への非通電時には、アーマチュア5が隙間Gをもってロータ4の端面4aから離間した状態に保持されているので、回転軸6へのトルクが遮断されており、すなわちコンプレッサ内部の冷媒圧縮機構は停止状態にある。
【0033】
この状態から、励磁コイル2に励磁電流が通電されると、この励磁コイル2に発生する磁界によってロータ4及びアーマチュア5が磁化されるので、両者間に作用する磁気吸引力によって、アーマチュア5がロータ4の端面4aへ向けて軸方向移動する。
【0034】
このとき、図2に示すようにロータ4とアーマチュア5が隙間Gをもって離間している移動初期は、両者間に作用する磁気吸引力は小さいが、アーマチュア5の係止部材保持孔5bに保持された係止部材14は軸方向に対して移動可能な状態にあるため、この係止部材14の第二軸部14bが挿入された円筒状の被係止部材15は、弾性体13を軸方向に対して拘束していない状態にある。したがってアーマチュア5と一体的にロータ4側へ軸方向変位するアウターリング12のスリーブ部12aと、回転軸6に固定されて軸方向変位しないハブ11のリム部11cとの間で、弾性体13の全体が軸方向剪断変形され、軸方向のばね定数が十分に低くなっているため、アーマチュア5はロータ4側へ容易に軸方向移動を開始することができる。
【0035】
また、アーマチュア5がロータ4の端面4aに接近するほど、両者間に作用する磁気吸引力は非線形的に増大するが、弾性体13の径方向中間部に一体的に設けられた被係止部材15は、弾性体13の軸方向剪断変形と共に背面側へ軸方向変位し、やがてその背面側の端部が、係止部材14の第二鍔部14dの端面と当接してこれを背面側へ押圧するので、図5に示すように、アーマチュア5がロータ4の端面4aに吸着されるクラッチミートより先行して係止部材14の第一軸部14aがロータ4の端面4aと摺動可能に当接し、背面側への被係止部材15の軸方向変位が係止部材14を介して規制される。したがって弾性体13のうち被係止部材15とハブ11のリム部11cとの間の部分13bの軸方向剪断変形が規制され、被係止部材15とアウターリング12のスリーブ部12aとの間の部分13cのみで軸方向剪断変形が継続されることになるので、その時点で弾性体13のばね定数が高くなって、磁気吸引力の非線形的増大によるアーマチュア5の加速が抑制され、図6に示すアーマチュア5とロータ4のクラッチミート時の衝撃が和らげられ、衝撃音が有効に抑制される。
【0036】
そしてクラッチミートによって、ロータ4の回転トルクが、アーマチュア5からカップリング10のアウターリング12、弾性体13及びハブ11を介して回転軸6へ伝達され、コンプレッサ内部の冷媒圧縮機構、すなわち車室空調装置が運転状態となる。
【0037】
このとき、ロータ4の端面4aと当接された係止部材14の第一軸部14aは、ロータ4の端面4aに対して摺動可能であり、係止部材14が挿通されたアーマチュア5の係止部材保持孔5bは円弧状に延びるものであるため、係止部材14及びこの係止部材14に挿入により係合された被係止部材15は、弾性体13の捩り方向剪断変形に伴って円周方向へ所定範囲で変位可能となっている。このため、弾性体13は捩り方向(円周方向)への剪断変形が可能であり、したがってクラッチミートによってロータ4の回転トルクがアーマチュア5へ急激に入力されることによる衝撃や、駆動中の伝達トルクの変動は、弾性体13の捩り方向剪断変形によって有効に緩和される。
【0038】
次に、ロータ4にアーマチュア5が吸着された図6のクラッチ接続状態から、励磁コイル2への励磁電流を遮断すると、ロータ4とアーマチュア5間の磁気吸着力が解消されるので、弾性体13の復元力によって、アーマチュア5はロータ4の端面4aから正面側へ離れ、図1及び図2に示す位置へ復帰動作する。このため、ロータ4からアーマチュア5及びカップリング10を介しての回転トルクの伝達が遮断され、回転軸6の回転が停止、すなわち冷媒圧縮機構が停止する。
【0039】
そしてアーマチュア5の復帰動作に際しては、その正面側の端面が、弾性体13の内周に形成された複数の円弧状の弾性突条13aに接触することによって、アーマチュア5の復帰位置を規定するため、金属接触による衝突音を発生しない。
【0040】
また、ロータ4にアーマチュア5が吸着された図6のクラッチ接続状態において、例えば回転軸6がコンプレッサの内部の冷媒圧縮機構の焼き付き等によってロックした場合のように、内燃機関からの駆動力を受けて回転されるロータ4との間で過大なトルクが入力されることによって、弾性体13の捩り方向剪断変形による被係止部材15及びこれに挿入された係止部材14の円周方向変位量が増大して行くと、アーマチュア5(カム部材16)に対する係止部材14の円周方向変位量の増大によって、この係止部材14における第一鍔部14cがカム部材16の斜面16bに乗り上がり、これによって係止部材14が背面側へ押し出され、その第一軸部14aがロータ4の端面4aを押圧する。そしてこの押圧力が、ロータ4とアーマチュア5間の磁気吸引力よりも大きくなった時点で、言い換えれば入力トルクが許容される値を超えた時点で、図7に示すように係止部材14によってアーマチュア5がロータ4の端面4aから離されるので、ロータ4からのトルク入力を遮断するトルクリミッタ機能を奏する。
【0041】
このため、回転軸6がロックされてもロータ4は円滑な回転が継続され、内燃機関からの駆動力をロータ4へ伝達するベルトが過大なトルクによって破損するようなことがなく、このベルトによって作動している冷却水循環ポンプやオルタネータ等、他の補機も継続して運転されるので、内燃機関が停止して自動車が走行不能になるといった事態の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ハウジング
2 励磁コイル
4 ロータ
5 アーマチュア
6 回転軸
10 カップリング
11 ハブ
12 アウターリング
13 弾性体
14 係止部材
14a 第一軸部(軸方向一端)
14b 第二軸部
14c 第一鍔部
14d 第二鍔部
15 被係止部材
16 カム部材
16a 開口部
16b 斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられるハブと励磁コイルの通電又は非通電によってロータと軸方向に接触又は離間されるアーマチュアを弾性的に連結する弾性体を具備する電磁クラッチ用カップリングにおいて、前記アーマチュアに、軸方向相対変位可能な状態で挿通されると共に軸方向一端が前記ロータ側へ突出可能な係止部材と、前記弾性体の径方向中間部に一体的に設けられ、前記アーマチュアが前記ロータに磁気吸引されるのに伴う前記弾性体の軸方向変形過程で前記係止部材と当接可能な被係止部材を備えることを特徴とする電磁クラッチ用カップリング。
【請求項2】
係止部材が、アーマチュアに対して円周方向所定範囲で相対変位可能であることを特徴とする請求項1に記載の電磁クラッチ用カップリング。
【請求項3】
アーマチュアに、係止部材が所定範囲を超えて円周方向相対変位したときにこの係止部材をロータ側へ押し出すカム部材が設けられたことを特徴とする請求項2に記載の電磁クラッチ用カップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113382(P2013−113382A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260450(P2011−260450)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)