説明

電磁波アイソレータ及び集積光学デバイス

【課題】 費用効率が高く、CMOS技術とも適合する電磁波アイソレータ及び集積光学デバイスを提供する。
【解決手段】 本発明は、伝搬の2つの円形方向(D1、D2)を定めるボディ(29)を含む電磁波アイソレータ(10)に向けられる。ボディは、波動伝搬が、方向のうちの一方(D1)において、反対方向(D2)におけるよりも実質的に多くサポートされるように、アイソレータの対称性を低下させる1つ又は複数の構造部(21、22)によってさらに補強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波アイソレータ、例えば光アイソレータの分野に関する。特に、本発明は、集積光学デバイスに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
クロストーク及び干渉を抑制するために、波動信号の逆伝搬を防止する用途が存在する。基本的には、光がAからBに進むことができる場合、光はBからAに進むこともできる。この法則を破ることは、光アイソレータ又は光ダイオード、即ち、光が一方向のみに透過するのを可能にする光学部品によって達成可能である。こうしたデバイスは、大部分はファラデー効果(磁気光学効果)に依存している。しかしながら、こうしたデバイスは、一般に偏光に依存している。この偏光の問題を克服したとしても、こうしたデバイスは集積に適しておらず、従って、概してオンチップの光信号処理及び集積光学のような用途を考慮することはできない。
【0003】
以下の特許文献は、当分野における背景技術に関する興味深い詳細を提供する。
特許文献1:磁気光学効果に基づいた、偏光に依存しない光アイソレーションのための方法を開示する。
特許文献2:光の異なる偏光状態の選択的なアイソレーションのための偏光スプリッタを含むシステムを提案する。
特許文献3:薄いシリコン・オン・インシュレータ(SOI)構造体内のプレーナ型導波路光アイソレータに向けられる。
特許文献4:別個のミラーを用いたリング・レーザのための方向制御方法及び装置を示唆する。
【0004】
実際のところ、費用効率の高く、さらにCMOS技術とも適合する解決策を得るのは難しい。
【0005】
次に、特許文献に加えて、多数の刊行物、例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、及び非特許文献6が、本主題を扱っている。
特に、非特許文献1における解決策は、明白にCMOS/シリコン・フォトニクスと適合しない。非特許文献5において提案される解決策は、屈折率の(即ち、材料の)変化及び連続的フィルタを必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,574,595号
【特許文献2】米国特許第5,267,078号
【特許文献3】米国特許第7,113,676号
【特許文献4】米国特許第5,764,681号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. R.Zaman、X. Guo及びR. J. Ram著、「Proposal for a Polarization-Independent Integrated OpticalCirculator」、IEEE Photonics Technology Letters、18 巻(12)、1359-1361頁(2006年)
【非特許文献2】N. Bahlmann、M. Lohmeyer、A. Zhuromskii、H. Doetsch及びP. Hertel 著、「Nonreciprocal coupled waveguides for integrated optical isolatorsand circulators for TM-modes」、Optics Communications、161巻(4-6)、330-337頁(1999年)
【非特許文献3】T.Zaman、X. Guo及びR. J. Ram著、「Integrated Optical Circulator in InP」、Conferenceon Lasers and Electro-Optics CLEO、2巻、1321-1323頁(2005年)
【非特許文献4】J.Y. Lee、X. Luo及びA. W. Poon著、「Reciprocal transmissions and asymmetric modal distributions inwaveguide-coupled spiral-shaped microdisk resonators」、OpticsExpress、15巻(22)、14650-14666頁(2007年)
【非特許文献5】Z.Yu及びS. Fan著、「Complete opticalisolation created by indirect interband photonic transitions」、Nature photonics、3巻、91-94頁(2009年)
【非特許文献6】M.T. Hill、H. J. S. Dorren、T. deVries、J. M. Leijtens、J. H. denBesten、B. Smalbrugge、Y.-S. Oei、H. Binsma、G.-D. Khoe及びM. K. Smit著、「All-optical memory based oncoupled microring lasers」、Nature432巻、206-209頁(2004年)
【非特許文献7】M.T. Hill他、Nature Photon、1巻、589-594頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
費用効率が高く、CMOS技術とも適合する、電磁波アイソレータ及び集積光学デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、所与の対称性を有し、電磁波伝搬の2つの方向を定めるボディを含む電磁波アイソレータとして具体化され、ここでアイソレータは、波動伝搬が、方向のうちの一方において、方向のうちの他方におけるより実質的により多くサポートされるように、ボディの対称性を低下させるように構成された1つ又は複数の構造部(feature)をさらに含む。
【0010】
実施形態において、アイソレータは、以下の特徴:すなわち、
構造部は、アイソレータが、ボディと構造部との最大共通区域を含む平面においてキラルとなるようにさらに構成される、
ボディはループを定め、2つの方向はそのループに対応する2つの反対の方向である、
ボディは楕円形のディスク又はリング形状を有し、アイソレータは、ボディと構造部との最大共通区域を含む平面において、その区域におけるボディの中心と構造部の中心を結ぶ半径方向軸に対する鏡面対称が存在しないように構成される、
構造部は、ボディの周囲における最も近い接線方向に平行に延びる、
構造部は、好ましくはその面上に開いたボディ内の凹部として構成される、
構造部は、ボディの周囲から延びる、
本発明のアイソレータは、少なくとも2つの前述の構造部を含み、該構造部は、アイソレータが反転中心を有するように対称的に配置される、
構造部は、ウェッジ状の形状を有する、
ボディ及び構造部は一体構成である、
本発明のアイソレータは、ボディと波動連通する1つ又は複数の導波路をさらに含み、構造部は、1つ又は複数の導波路の平均軸に対して離れるように回転される、
本発明のアイソレータは、少なくとも1つのフォトニック結晶をさらに含む、
本発明のアイソレータは、プラズモン用途に適合された金属材料をさらに含む、
本発明のアイソレータは、マイクロ波キャビティとして構成される、
のうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0011】
別の態様において、本発明は、2つ又はそれ以上のアイソレータを含む集積光学装置として具体化され、アイソレータの第1のものは本発明によるものであり、アイソレータの第2のものも本発明によるものである。
【0012】
ここで、本発明を具体化するアイソレータ及び他のデバイスを、非限定的な例として、添付図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来技術のリング共振器を示す。
【図2】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図3】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図4】図1のリング共振器における波動伝搬のシミュレーションによって得られた結果を示す。
【図5】図2のデバイスにおける波動伝搬のシミュレーションによって得られた結果を示す。
【図6】図2のデバイスにおける波動伝搬のシミュレーションによって得られた結果を示す。
【図7】付加的なシミュレーション結果を示す。
【図8】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図9】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図10】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図11】本発明の種々の実施形態によるデバイスを示す。
【図12】付加的なデバイスのシミュレーションを比較する(図12(B)は本発明の代替的な実施形態である)。
【図13】付加的なデバイスのシミュレーションを比較する(図13(B)は本発明の代替的な実施形態である)。
【図14】さらに別の実施形態による2つのデバイスの詳細な幾何学的説明を与える。
【図15】さらに別の実施形態による2つのデバイスの詳細な幾何学的説明を与える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明に対する序論として、最初に、電磁波アイソレータに向けられる、本発明の一般的な態様が指摘される。第1に、アイソレータは、基本的に電磁波の2つの伝搬方向(例えば、2つの反対方向の円形(circular)方向)を定めるボディ(典型的には、ディスク又はリング共振器に類似した)を含む。第2に、アイソレータは、ボディによって与えられる対称性を低下させる特定の構造部をさらに含む。アイソレータは、例えば、デバイスの放射対称性を破るように、ボディの周囲に対して外方に且つ接線方向に延びるウェッジからなることができる。構造対称性を低下させた結果、波動伝搬は、本質的に一方向のみにサポートされる。このアイソレータは、典型的には、導波路に結合される。多くのこのようなアイソレータを集積光学デバイスにおいて用いることができる。既知の解決策とは対照的に、CMOSと適合しない強誘電材料又は構造特性を必要としない。ここで、修正された構造特性のみのために、一方向の伝搬が達成される。さらに、デバイスの製造に、汎用のCMOSプロセスよりも実質的に多くのステップを必要とせず、そのため、低コストの大量製造を企図することができる。
【0015】
本アイソレータの寸法は、単に共振波長に対応するだけなので、様々な種類の電磁波を考慮することができる。この原理は、音波にまでも及ぶ。しかし、例証のために、以下の説明は、光学用途だけに焦点を当てる。
【0016】
本発明は、図1に示すような典型的な最新のリング共振器に照らして容易に理解されるであろう。例のとおり、2つの導波路31、32が、典型的には、その直径が3−50マイクロメートルであるリング共振器20と光連通可能なように結合される(どちらの場合も、Siを用いることができる)。基板40は、例えばSiOで作製される。こうしたデバイスの製造には、例えば、周知のシリコン・オン・インシュレータ(又はSOI)技術を使用することができる。
【0017】
理想的には、構造体は、高い品質係数(又はQ)を有する。光は、例えば、黒い矢印のデュエットで示されるように入出/出力され得る。デバイスの対称性のせいで、3つの他の入力/出力デュエットが可能である。従って、こうしたデバイスは、リングのどちらの側にも優先的な伝搬方向をもたらさない。
【0018】
次に、図2を参照すると、ここでは、ボディ29の対称性を破る(即ち、低下させる)2つの特定の構造部21、22によって共振器が増強されている点を除いて、例えば、図1におけるものと同じ材料を使用することができる、類似のデバイスが開示される。依然として、ボディ29によって、2つの一般的な波動伝搬の方向、即ち、ボディが定める同じ円形ループに対応する逆方向であるD1及びD2がもたらされる。注目すべきことに、示される配置の結果、波動伝搬は、本質的に方向D1のみにサポートされる。
【0019】
本発明者等は、この効果を異なる方法で得ることができることを認識した。例えば、構造部21、22は、ボディの周囲に対して接線方向に延びるように構成することができる。具体的には、構造部21、22は、周囲から外方に延びることができるが、これは必須ではない。実際には、後述されるように、こうした構造部21、22は、場合によっては周囲から内方に延びるように、ボディ29の凹部として構成することができる。それにもかかわらず、検討された多数の場合において、構造部は、有利なことに、ボディの周囲における最も近い接線方向に平行に延びることが見出されている。
【0020】
こうした構造部は、もしあれば、ボディの放射対称性を低下させるように構成されることが好ましいといえる。例えば、ボディがディスク又はリング形状を有する場合、構造部は、それらの最大共通区域の平面において、ボディの中心と構造部の重心とこれを結ぶ半径方向軸に対する鏡面対称性を破るように、非対称に設計することができる。1つの変形として、構造部は、対称形にする(例えば、矩形状を有する)ことができるが、放射対称性を破る(又は少なくとも低下させる)ように、非対称に(例えば、接線方向に)配置することができる。
【0021】
より一般的には、構造部は、アイソレータが、ボディと該構造部との最大共通区域を含む平面においてキラル(chiral)であるように構成されることが好ましい。幾何学において、構造部は、その鏡像と同一でない場合(又は、回転及び並進のみによって、構造部をその鏡像に重ね合わせることができない場合)にキラルであると言われる。2次元において(ボディと構造部との共通区域を考えるここでの場合のように)、対称軸を有する図は、アキラル(achiral)である。反対に、いずれの対称軸による鏡像とも同一でない図は、キラルである。従って、ボディと構造部との最大共通区域内に(又は、アイソレータの平均平面内に)対称軸は存在しない。このことは、図14及び図15を参照して後に明確に説明される。
【0022】
実際には、試行錯誤プロセスのように、必要に応じて幾つかの設計を試行することができる。初めに、全体の対称性(例えば、矩形状)を低下させる第1の設計を試行し、それを好都合に配置し、それが実際の波動伝搬にどのように影響を及ぼすかを調べることができる。満足できない場合には、満足できる結果が達成されるまで、形状対称性をさらに低下させる(例えば、三角形)。
【0023】
存在する1つ又は複数の構造部の正確な構成にもかかわらず、対称性の低下を引き起こすことにより、一方向において、他方向におけるよりも顕著な伝搬損失がもたらされる。図2又は図3において、伝搬損失は、反対方向D1(点付き矢印)におけるよりも、方向D2に沿って(垂直方向破線の湾曲した矢印)生じる。
【0024】
より詳細には、図2に示されるような構造部は、有利にウェッジ状の形状を有することができるので、以下、それらを「ウェッジ」と呼ぶ。上述のように、ウェッジの接線方向の配向が、放射対称性の低下をもたらす。
【0025】
既述のように、種々の代替的な設計及び配置を考えることができる。構造部は、例えば、ボディ29の周囲から外方に延びることができ、この設計は、波動をボディの外に効率的に放射するのに、特に有利であること分かる。この構造部は次に、方向D2に沿って伝搬する光子の特に効果的な「遮断」をもたらす。従って、D2の方向は、好都合に「遮断方向」と呼ぶことができ、D1は、必然的に「非遮断方向」となる。
【0026】
図8(A)−図13(B)を参照して後で説明されるように、実際には、所望の効果を達成するのに、1つのウェッジで十分である。ウェッジの数を増すことにより、単に効率が増す(およそ直線的に)。効率対製造容易性の観点からいえば、2つのウェッジを設けることが、まずまずの妥協案である。
【0027】
さらに、特に図3を参照すると、ウェッジには、非常に簡単な形状、即ち、1つの薄い端部(例えば、テーパー状の)と1つの厚い端部を与えることができ、これは既に効率的であることが分かっている(3μmのディスク直径に対して、D2に沿った圧縮比が10%より大きい。以下を参照されたい)。
【0028】
さらに、図2及び図3に対する代替案として、前述の構造部は、外方にではなく、内方に延びることができ、又はボディ29内に設けられた凹部として構成することさえ可能である。それでも依然として、同様の効果を得ることができる。このことは、図8(A)−図13(B)を参照してより詳細に説明される。
【0029】
順に補足説明を述べる。
−第1に、図2又は図3の設計において、アイソレータは、対称中心を有し、これも波動伝搬に確実に影響を与える。
−第2に、ウェッジは、有利に、ボディと導波路との良好な結合を助けるために、図2又は図3に示すように、導波路の平均軸に対して離れるようにさらに回転される。
−第3に、前述のように、ボディは必ずしもディスク又はリングとは限らず、楕円形状を有すること、又はより一般的にループを定めることが可能であり、2つの方向D1、D2は、そのループに対応する2つの反対方向となる。基となる効果は、本質的に同じままである。
【0030】
次に、上のデバイスの評価のために、マクスウェルの方程式を最初から(ab initio)解く数値ツールを用いて、有限差分時間領域(FDTD)シミュレーションを行った。従って、シミュレーション結果を、実際の波動伝搬と見なすことができる。例えば、リングの共振周波数における又はこれに近い、導波路を通る光パルスで励起されるリング共振器又はアイソレータをシミュレートすることができる。
【0031】
こうしたシミュレーションを、非遮断方向(図5(A)−図5(C)参照)及び遮断方向(図6(A)−図6(C)参照)の両方において、図1の共振器(シミュレーション結果は、図4にある)及び図2のアイソレータに対して行った。付加的な結果が、図7に示される。他の、即ち、他の型のデバイスを対象としたシミュレーションを図12(A)−図13(B)に示す。デバイス・ボディに対して検討される半径は、7.75μmであり、励起波長は1550nmであり、導波路とボディとの間の間隔は385nmである。
【0032】
初めに、図4に示したシミュレーション結果は、図1のリング共振器(ウェッジがない、つまり、従来技術から周知のような)に関する。示されるように、光は、左下の入力ポートのソースから、左上のドロップ・ポートまで伝搬される。波の透過は、リングを通り、次いで左上のドロップ・ポートまで進む。図4はさらに、対応する面内電界|Exy|のプロットを示す。階調レベルを用いて2つの信号をぼかして表示していることに留意されたい。
【0033】
図4は、入力ポートからドロップ・ポートまで光伝搬が生じることを明瞭に示す。ソースが左上ポートに位置する場合、右下ドロップ・ポートが同じ透過特性を示すことに留意されたい。構造体は対称であるので、相反法則が適用される。共振において100%までの透過を達成することができる。
【0034】
図4の既知のリング共振器と対照的に、本発明のアイソレータは、方向に応じて、波動伝搬をサポートする又は妨害するように構成された付加的な構造部を有する。光が非遮断方向に伝搬するとき、光は、実質的な外への放射なしに、リング内に注ぎ込まれる。ここで図5(A)−図5(C)を参照して説明されるように、この効果は、必然的に高い透過率をもたらす。
【0035】
図5(A)及び図5(B)は、それぞれ、ドロップ・ポート及び入力ポートにおける、波長λに対する(電磁波伝搬の)変化を示す。見られるように、実際は共振波長の近傍で、高い透過率が達成される。
【0036】
ここで、入力を逆にしてウェッジの方向を逆にすると仮定し、即ち、図5(C)の右下からの入力を考える。こうした状況は、実際に図6(A)−図6(C)に示され、ここで光は、ウェッジ構成の結果として、コースから外れるように「案内される」。以下で分かるように、ここで、光子は、ウェッジによって明白に取り除かれ、ウェッジ当たり約0.2%の損失が生じる。
【0037】
この点で、暫定的な説明は以下の通りである。遮断方向に分割が生じることにより、その方向における実質的なエネルギー損失が明確に生じる(図6(A)−図6(C)を参照されたい)。ウェッジのレベルにおいて、屈折率の変化(僅かに増加する)により、モードは、遮断方向にウェッジの外に放射され得る(図6Cを参照されたい)。非遮断方向において、モードはウェッジの外には放射されず、代わりにウェッジによって案内される(図5(C)を参照されたい)。
【0038】
例えば、ウェッジ設計及び機能は、ことによるとハイウェイ・ランプ(出口/入口ランプ)、つまり、車両がハイウェイに出入りするのを可能にする道路の短い区域を想起させ得る。同様にここでは、ウェッジ構成のために、光子は、ボディを出る又は再びボディに入るように導かれる。しかしながら、基となる物理学は、恐らく全く異なるものである。
【0039】
このことを考慮して、必要に応じて試行錯誤プロセスとして、共振波長に応じて、ウェッジの構成及び寸法を調整する必要があることがある。さらに示すように、図2、図3及び図12(B)−図13(B)の表示の縮尺が考慮されている。しかしながら、これは、図8(A)−図11(B)、図14及び図15には当てはまらない。
【0040】
ここで、図6(C)(遮断方向)に戻ると、光が共振器内を数10万回進んだ後に出て行くようにボディが設計される場合(高Qキャビティ)、図6(A)−図6(C)に示すように、光は、例えば2×Qの散乱事象を経験し、これは基本的に関係する1つ又は複数のモードの抑制をもたらす。ドロップ・ポートにおける透過強度(図6(A)、グレイの曲線)は、図5(A)のものに対応する基準強度(破線)よりも遥かに小さい。従って、一方向のみへの光の伝搬をサポートするデバイスが得られたと正しく結論づけることができる。
【0041】
次に、図7は、付加的なシミュレーション結果、即ち透過スペクトルを有する。図7のプロットは、基準として入力ポートに注入されたパルスを含む。これは、100%のスペクトル出力(又はプロットにおける1)を表す。図1のリング共振器(直線)は、その共振波長、即ち1557.5nmにおいて100%に近い透過率を示す。ウェッジのせいで、デバイスの屈折率は僅かに増加し、そこから共振波長が低下する(約1547nm)。その波長において、開示されたデバイスの非遮断方向(一点鎖線)は、遮断方向(破線)とは対照的に、高い透過率を有する。
【0042】
遮断方向と非遮断方向との間の消光比が計算される。僅か5700の品質係数Qを有する構造体が、1547nmの波長において1%だけの残余透過率に相当する、99%までの抑制を引き起こすと考えられる。構造体のさらなる最適化(例えば、より多くの散乱事象のためにより高いQ値を有するより大きな直径)により、さらに高い消光率、即ち100%に近い消光率をもたらすことができる。
【0043】
前述のように、図2のウェッジに加えて、種々の他の幾何学的形状が設計され、シミュレーションされている。例えば、図3に示されるような簡単なウェッジ構造体は、既に遮断方向に10%を超える抑制をもたらしている。さらに他の幾何学的形状が、図8(A)−図15を参照して後で論じられる。
【0044】
本発明によるアイソレータは、集積光学デバイスを始めとする種々の光学デバイスにおいて有利に用いられる。実際に、本アイソレータは、一般に集積光学、特にシリコン・フォトニクスの基本的構成要素と考えることができる。従って、本発明は、本明細書で説明されるような幾つかのアイソレータから構築された集積光学デバイス又は装置を包含する。従って、本発明は、高い物理的集積密度が必要とされる、チップ間光相互接続のような用途に有利に適用される。
【0045】
ここで、ウェッジの可能な変形に関する付加的な詳細を与える。
【0046】
既述のように、種々のウェッジ形状及び配置を考えることができる。このことは、図8(A)−図11(B)にさらに示される。図に示すように、単一又は二重のウェッジ構造部を、図2又は図3と同様の方法で周囲に設けることができる(図8(A)−図9(B)、上面図)。反対に、ウェッジ構造部は、場合により外部の構造部(図11(B))により補強した状態で、凹部として(図10(A)−図11(B)、斜視図)配置することができる。さらに、構造部は、非対称とすることができ(例えば、図8(A)又は図10(A)を参照されたい)、又は対称であるが接線方向に延びることができ(図9(B))、或いはさらに非対称であり、接線方向に延びることもできる(図9(A))。最終的に、構造部は、均一である必要はなく、又は個数を制限する必要もないので、可能な設計の変形は無数にある。しかしながら、示される場合において、アイソレータの平均平面内に対称軸がないことに留意されたい。
【0047】
既述のように、所望の遮断効果を得るために、1つだけのウェッジで十分である。この点に関して、これを説明するために、図4−図6(C)のものに匹敵するシミュレーションをさらに行った。図12(A)−図12(B)において、リング形状のボディが励起される。さらに、図12(B)において、リングの内周から延びる凹部として構成されるウェッジ構造部が設けられる。その結果、図12(B)の場合には、図12(A)に比べて遥かに多くのエネルギーが、共振器の外に放射される。
【0048】
図13(A)−図13(B)において、ボディは、1つの導波路に結合される。図13(B)の場合には、リングの外周から延びるウェッジ構造部が設けられる。図13(A)と図13(B)の比較により、ウェッジ付き共振器(ここでは、遮断構成の)の遮断作用が直ちに納得される。
【0049】
さらに、ウェッジ構造部はボディの周囲における最も近い接線方向に平行に有利に延びることが、この説明において前述された。その意味するところは、厳密に言えば、
−構造部の重心に最も近い周囲点を含む、ボディの周囲における接線方向上の構造部の主軸の正射影(orthogonal projection)がゼロではない、
ことである。
【0050】
さらに、この正射影が、半径軸上への射影より大きいことが好ましい。付随的に、上の定義は、楕円体ボディにも当てはまる。
【0051】
直感的に、前述の「主軸(mainaxis)」は、ウェッジを1Dで表すのに適している。主軸は、ウェッジ構造部の正確な形状に応じて、例えば、平均軸、「主要軸(principal axis)」、「長軸(major axis)」、又はさらに「ロール軸(roll axis)」と一致し得る。これは、構造部を境界付ける枠の最長軸とすることができる。これはさらに、楕円状断面を有し、ボディの内周又は外周から接線方向かつ外方に延びる、ウェッジの主軸とすることができる。反対に、完全に球状の構造部においては、特定の軸を識別することができず、これは本発明の目的には殆ど合わない。
【0052】
図14及び図15は、上で与えられた定義を例示する。いずれの場合も、ボディと構造部の両方の共通区域が示されている。アイソレータが円盤形状を有する場合、表される区域は末端区域と一致する。反対に、アイソレータの区域が横軸(図面の平面に垂直な)に沿って変化する場合、表される区域は、ボディと構造部の最大共通区域である。図14において、ウェッジは、周囲から接線方向かつ外方に延びるが、図15の例において、ウェッジは凹部として構成される。寸法及び構成は、説明のために誇張されている。
【0053】
前述の図の各々において、ウェッジ構造部は、重心Cを有し、主軸Aと関連付けられる。この軸は、ウェッジ構造部を1Dで表現するのに幾分適している。Oは、楕円状ボディの中心を示し、Dは、OとCを結ぶ半径方向である。CPは、Cから最も近い、ボディの周囲における点を表し、Dは、この点における接線方向を示す。次に、P及びPは、D及びDの各々への平均軸Aの正射影である。図に示されるように、最も近い接線方向への射影は、ゼロではない。それどころか、これは、半径方向の対応物Pより大きい。従って、ウェッジ構造部は、(単に)ボディの周囲における最も近い接線方向に平行に延びると結論づけることができる。
【0054】
ウェッジは、Dを通る鏡面対称を有しないことが容易に分かる。換言すれば、ウェッジは、放射対称性を有さず、このことがアイソレータの対称性の低下をもたらす(特に、アイソレータがリング又はディスクである場合)。より一般的には、示される平面において、ウェッジは、アイソレータをキラルにする。
【0055】
さらに、既述のように、アイソレータのボディに対して、リング又は楕円以外の形状を考えることもできる。つまり、アイソレータは、非対称構造部により補強されたT形状を有することができ、この構造部が修正されたT形状をキラルにする。
【0056】
また、アイソレータは、少なくとも1つのフォトニック結晶をさらに含むこともできる。従って、この装置は、1つのキラル・フォトニック結晶、又は互いに非対称に結合された少なくとも2つのフォトニック結晶を含むことができる。
【0057】
さらに、アイソレータは、例えばプラズモン・ナノ・キャビティ(非特許文献7を参照されたい)を実現するように、プラズモン用途に適合された金属材料を他に含むことができる。
【0058】
最後に、アイソレータは、ウェッジ構造部、従ってキラリティを示すマイクロ波キャビティとして構成することができる。
【0059】
本発明は、特定の実施形態に関連して説明されたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができ、等価物に置き換えることができることを理解するであろう。さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、特定の状況を本発明の教示に適合させるように、種々の修正をなすことができる。従って、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に入る全ての実施形態を含むことが意図されている。例えば、Si、InP、又はSiO以外の材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
20:リング共振器
21、22:構造部(ウェッジ)
29:ボディ
31、32:導波路
40:基板
D1、D2:方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の対称性を有し、電磁波伝搬の2つの方向(D1、D2)を定めるボディ(29)を含む電磁波アイソレータ(10)であって、前記アイソレータは、波動伝搬が、前記方向のうちの一方(D1)において、前記方向のうちの他方(D2)におけるより実質的に多くサポートされるように、前記ボディの前記対称性を低下させるように構成された1つ又は複数の構造部(21、22)をさらに含む、アイソレータ。
【請求項2】
前記構造部は、前記アイソレータが、前記ボディと前記構造部との最大共通区域を含む平面においてキラルとなるようにさらに構成される、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記ボディ(29)はループを定め、前記2つの方向(D1、D2)は、前記ループに対応する2つの反対の方向(D1、D2)である、請求項1又は請求項2に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記ボディ(29)は楕円形ディスク又はリング形状を有し、前記アイソレータは、前記ボディと前記構造部との最大共通区域を含む平面において、前記区域における前記ボディの中心(O)と前記構造部の中心(C)を結ぶ半径方向軸(D)に対する鏡面対称が存在しないように構成される、請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記構造部は、前記ボディの周囲における最も近い接線方向(D)に平行に延びる、請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記構造部は、好ましくはその面上に開いた前記ボディ内の凹部として構成される、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項7】
前記構造部は、前記ボディの周囲から延びる、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項8】
少なくとも2つの前記構造部(21、22)を含み、前記構造部は、前記アイソレータが反転中心を有するように対称的に配置される、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記構造部はウェッジ状の形状を有する、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項10】
前記ボディと前記構造部は一体構成である、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項11】
前記ボディ(29)と波動連通する1つ又は複数の導波路(31、32、33)をさらに含み、前記構造部は、前記1つ又は複数の導波路の平均軸に対して離れるように回転される、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項12】
少なくとも1つのフォトニック結晶をさらに含む、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項13】
プラズモン用途に適合された金属材料をさらに含む、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項14】
マイクロ波キャビティとして構成された、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のアイソレータ。
【請求項15】
2つ又はそれ以上のアイソレータを含み、前記アイソレータのうちの第1のものは前記請求項のいずれか1項に記載のものであり、前記アイソレータのうちの第2のものも前記請求項のいずれか1項に記載のものである、集積光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2013−504087(P2013−504087A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527445(P2012−527445)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054307
【国際公開番号】WO2011/045693
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】