説明

電磁波シールド材

【課題】電磁波シールド材において、高価で成形機の部材や金型等の摩耗を起こす導電性繊維の配合量を最小限に抑えながら、広い周波数範囲で優れた電磁波シールド性能が得られること。
【解決手段】電磁波シールド材10は、合成樹脂2の中に導電性繊維3のみを分散させるため、導電性繊維3同士の接触のみから導電回路が形成され、充分な数の導電回路が形成されない。電磁波シールド材11は、合成樹脂2の中に導電性繊維3とともに導電性粒子4を分散させてなり導電回路が形成され易くなるが、まだ数が不充分である。これに対して、電磁波シールド材1は、合成樹脂2の中に導電性繊維3や導電性粒子4と比較して安価な非導電性粒子5が一定の体積を占めるため、導電性繊維3同士または導電性繊維3と導電性粒子4とが接触する箇所が非常に多くなり、多数の導電回路が形成され、充分に大きな電磁波シールド性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂材料と同等程度の優れた成形性、軽量性及び低コスト性を保持しながら、高い電磁波シールド特性を有する、合成樹脂を主体とした電磁波シールド材に関するものである。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繊維」とは、「単繊維」という用語を除いて、単繊維が束になって構成されている繊維を意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
近年、IT(情報技術)の発達によって、パーソナル・コンピュータ(以下、「パソコン」という。)を始めとするIT機器・OA機器が急速に普及し、通常の家庭環境や職場環境においても、これらのIT機器・OA機器から放射される電磁波が人体にもたらす影響等が問題にされるようになってきた。特に、携帯電話、ノート型パソコン、電子手帳、ビデオカメラ等に代表される携帯用電子機器の普及は目覚ましく、これらの電子機器の筐体(ハウジング)には、電子機器内部で発生する電磁波の外部への漏洩を防止するために、導電性(電磁波シールド性)が要求される。
【0003】
また、自動車等の車両にも、エンジン制御系、操舵系、駆動系、空調系等の電子制御ユニット(ECU)や、各種センサ、アクチュエータ等の電子機器が多数搭載されるようになっており、これらの車載用電子機器の筐体についても、電磁波シールド性が必要とされる。
ここで、上記携帯用電子機器や車載用電子機器の筐体については、小型化・軽量化・低コスト化及び形状設計の自由度等の要請があることから、従来から合成樹脂を主体とした製品が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、上記電子機器類の電磁波遮蔽用キャビネット等への応用を目的として、弾性繊維の周囲に金属繊維を螺旋状に巻き付けた複合弾性糸で構成された織布を熱可塑性合成樹脂シートで挟んだ電磁波遮蔽用合成樹脂板の考案について開示している。
しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、熱可塑性合成樹脂シートの間に金属繊維を用いて構成した織布を挟んでおり、極めて生産性が悪いためコスト高となってしまう。また、形状設計の自由度も非常に限定され、更に、電磁波遮蔽性能も周波数30MHzで57dB、1000MHz(1GHz)で42dBであって、際立って大きな値は得られていない。
【0005】
また、特許文献2においては、電子機器のハウジング等を始めとする電磁波シールド性が要求される各種用途への適用を目的として、熱可塑性樹脂100質量部、炭素繊維1〜20質量部、及び金属繊維1〜20質量部を含有し、成形体の体積固有抵抗値が103 Ω・cm以下である導電性樹脂組成物の発明について開示している。この導電性樹脂組成物は押出成形及び射出成形が可能であり、電磁波シールド材の生産性においては、上記特許文献1に記載の技術よりも優れている。
【0006】
しかし、上記特許文献2に記載の技術においても、同文献の表1に示されるように、電磁波遮蔽性能は周波数10MHzで10dB〜53dB、1GHzで8dB〜40dBであって、やはり際立って大きな値は得られていない。この理由としては、いずれの技術も、電磁波シールド材の内部において導電回路(電磁波を遮蔽するのに効果のある一定以上の長さを有する導電性を持つ部分。導電パスともいう。)を形成するのが導電性の繊維のみであり、繊維同士の接触が不充分で電磁波シールド材の内部に多数の導電回路を形成することができないためと考えられる。
【0007】
これに対して、特許文献3には、3〜10重量%のステンレス繊維と、15〜40重量%のタルクを含む配合材がポリプロピレン樹脂中に18〜50重量%で配合されてなる樹脂組成物により形成され、弾性変形可能な係止部を一体に備えた車載電磁波シールドケースの発明が開示され、更に第2の発明として、上記樹脂組成物に10〜30重量%のカーボンブラックを配合したものが開示されている。これによって、車両に搭載される電子部品用として充分なシールド効果を有し、しかも成形性に優れた電磁波シールドケースが得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平3−40595号公報
【特許文献2】特開2006−045330号公報
【特許文献3】特許第3099146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3の表1に示されるように、ステンレス繊維の配合量を下限の3重量%とした場合には、初期シールド効果として30dBという小さい値しか得ることができず、一方ステンレス繊維の配合量を上限の10重量%とした場合には、70dBという大きな初期シールド効果が得られているが、このようにステンレス繊維の配合量を多くすると、ステンレス繊維が高価であるためコスト高となり、更に、押出成形機や射出成形機等の成形機のスクリューやシリンダー及び金型等の摩耗が激しくなるという問題点があった。
【0010】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、小型化・軽量化・形状設計の自由度の要請に応えることができ、高価で成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こすステンレス繊維等の導電性繊維の配合量を最小限に抑えながら、広い周波数範囲で優れた電磁波シールド性能を得ることができる電磁波シールド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る電磁波シールド材は、合成樹脂と、導電性材料と、前記導電性材料同士の接触を増加させる非導電性粒子または気泡とを含有するものである。
【0012】
ここで、「合成樹脂」としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド系樹脂、アラミド樹脂、ABS樹脂等の汎用樹脂を始めとする熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂の1つまたは1つ以上の組み合わせ樹脂材料を用いることができる。
また、「導電性材料」としては、炭素繊維、銅繊維、鉄繊維、アルミニウム繊維、ステンレス繊維等を始めとする導電性繊維や、銅粉、鉄粉、アルミニウム粉、亜鉛粉、カーボンブラック、グラファイト粉(黒鉛粉)等を始めとする導電性粒子等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることができる。
【0013】
更に、「非導電性粒子」としては、無機化合物の粒子を用いることができ、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコン粒子、ガラスビーズ、陶磁器を粉砕したもの、ゼオライトを粉砕したもの、タルク、マイカ(雲母)等の1つまたは1つ以上の組み合わせを使用できる。
また、「気泡」とは、一般に『液体または固体中にあって気体を含む微小部分。』(新村出・編「広辞苑(第4版)」641頁,1991年11月15日株式会社岩波書店発行)であるが、本明細書及び特許請求の範囲においては、気体を含むか含まないかに関わらず、「液体または固体中における空隙部分」という意味として用いるものとする。
更に、合成樹脂中に気泡を含有させる方法としては、例えば、射出成形金型やプレス成型金型に金型の一部(コア)を後退させる機構を設けて、成形時にコアを後退させて金型キャビティの大きさを急激に拡大することによって合成樹脂を発泡させる、所謂、コアバック成形法や、合成樹脂に発泡剤を混ぜて加熱することによって気体を発生させる方法等があり、発泡剤としては、ジアゾアミノベンゼン、炭酸水素ナトリウム、酢酸アルミニウム、炭酸アンモニウム等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることができる。
【0014】
請求項2の発明に係る電磁波シールド材は、請求項1の構成において、前記非導電性粒子または前記気泡の前記電磁波シールド材に占める体積の割合が10vol%〜50vol%の範囲内、より好ましくは15vol%〜42vol%の範囲内、更に好ましくは30vol%〜40vol%の範囲内であるものである。
【0015】
請求項3の発明に係る電磁波シールド材は、請求項1または請求項2の構成において、前記非導電性粒子のコールター原理で測定した平均粒子径が10μm〜500μmの範囲内または前記気泡の大きさが10μm〜500μmの範囲内、より好ましくは50μm〜100μmの範囲内であるものである。
ここで、「コールター原理」とは、W.H.Coulterが発明した電気抵抗を利用した粒子測定原理で、この原理に基づく粒度分布測定装置としては、例えば、ベックマン・コールター社製のマルチサイザー3(商品名) 、マルチサイザー4(商品名) 、コールターカウンターモデルZBI(商品名)等がある。
【0016】
請求項4の発明に係る電磁波シールド材は、請求項1乃至請求項3の何れか1つの構成において、前記導電性材料が、少なくとも導電性繊維であるものである。
ここで、「導電性繊維」としては、炭素繊維や、銅繊維、鉄繊維、アルミニウム繊維、ステンレス繊維等の金属繊維(特に、ステンレス繊維が好ましい)、合成繊維を炭素や金属等の導電性材料で被覆したもの等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることができる。
【0017】
請求項5の発明に係る電磁波シールド材は、請求項4の構成において、前記導電性材料が、導電性繊維と導電性粒子とを含んでいるものである。
ここで、「導電性粒子」としては、銅粉、鉄粉、アルミニウム粉、亜鉛粉を始めとする金属粉や、カーボンブラック、グラファイト粉(黒鉛粉)等の炭素粉等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る電磁波シールド材は、合成樹脂と、導電性材料と、導電性材料同士の接触を増加させる非導電性粒子または気泡とを含有する。これによって、導電性材料と比較して安価な非導電性粒子または気泡が、合成樹脂中において一定の体積を占めるため、導電性材料が合成樹脂中において占める体積が限定され、導電性材料の存在する部分の密度が高くなって、導電性材料同士が接触する箇所が非常に多くなるため、電磁波シールド材の内部に多数の導電回路(電磁波を遮蔽するのに効果のある一定以上の長さを有する導電性を持つ部分)が形成される。
【0019】
したがって、高価な導電性材料を大量に用いることなく、合成樹脂中において導電回路を数多く形成することが可能となり、しかも導電性材料としての短い導電性繊維や粒状の導電性粒子等と、それらが連続して接触してなる長い導電回路とを合成樹脂中において並存させることができるため、短い周波数の電磁波から長い周波数の電磁波までを、効果的に遮蔽することができる。そして、導電性材料の含有量が少ないため、電磁波シールド材として成形する際にも、成形機の部材や金型等の摩耗を最低限に抑えることができる。
【0020】
このようにして、小型化・軽量化・形状設計の自由度の要請に応えることができ、高価で成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こすステンレス繊維等の導電性材料の配合量を最小限に抑えながら、広い周波数範囲で優れた電磁波シールド性能を得ることができる電磁波シールド材となる。
【0021】
請求項2の発明に係る電磁波シールド材においては、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合が10vol%〜50vol%の範囲内である。
本発明者は、電磁波シールド材のシールド性能を向上させるために最適な非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合について、鋭意実験研究を重ねた結果、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合が10vol%〜50vol%の範囲内である場合に、シールド性能がより向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0022】
即ち、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合が10vol%未満であると、導電性材料の存在する部分の密度が低くなって、導電性材料同士が接触する箇所が少なくなり、その結果電磁波シールド材の内部に多数の導電回路が形成される効果が低下して、充分なシールド性能が得られなくなる。一方、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合が50vol%を超えると、合成樹脂の体積の割合が少なくなって成形性が悪くなり、歩留まり良く電磁波シールド材を製造することが困難になるか、または電磁波シールド材の強度が低下するか、或いは導電性材料の割合が少なくなって充分なシールド性能が得られなくなる。
したがって、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合は、10vol%〜50vol%の範囲内であることが好ましい。
【0023】
なお、非導電性粒子または気泡の電磁波シールド材に占める体積の割合が15vol%〜42vol%の範囲内であると、より確実に優れた電磁波シールド性能が得られるためより好ましく、30vol%〜40vol%の範囲内であると、一層優れた電磁波シールド性能が得られるため、更に好ましい。
【0024】
請求項3の発明に係る電磁波シールド材は、非導電性粒子のコールター原理で測定した平均粒子径が10μm〜500μmの範囲内または気泡の大きさが10μm〜500μmの範囲内である。
【0025】
本発明者は、電磁波シールド材における非導電性粒子及び気泡の適切な大きさについて、鋭意実験研究を重ねた結果、コールター原理で測定した平均粒子径、即ち電気抵抗による粒子測定器(コールターカウンター)によって測定した平均粒子径が10μm〜500μmの範囲内である場合、及び気泡の大きさが10μm〜500μmの範囲内である場合に、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、より確実に優れた電磁波シールドの効果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0026】
即ち、電気抵抗による粒子測定器によって測定した非導電性粒子の平均粒子径または気泡の大きさが10μm未満であると、非導電性粒子または気泡が細か過ぎて、合成樹脂内で一定の体積を占めることによって導電回路を形成し易くする効果が低下するため、優れた電磁波シールド性能を得ることが困難になり、一方、電気抵抗による粒子測定器によって測定した非導電性粒子の平均粒子径または気泡の大きさが500μmを超えると、非導電性粒子または気泡が大き過ぎて成形性が悪くなるか強度が低下するとともに、導電性材料の間に入り込み難くなるため導電回路を形成し易くする効果が低下してしまう。
したがって、非導電性粒子または気泡の大きさは、電気抵抗による粒子測定器によって測定した非導電性粒子の平均粒子径または気泡の大きさが10μm〜500μmの範囲内とすることが好ましい。
【0027】
なお、非導電性粒子または気泡の大きさを、電気抵抗による粒子測定器によって測定した平均粒子径または気泡の大きさが50μm〜100μmの範囲内とした場合には、非導電性粒子の場合には合成樹脂に均一に分散させることがより容易になり、気泡の場合には形成することがより容易になるため、より優れた電磁波シールド性能をより容易に得ることができるので、より好ましい。
【0028】
請求項4の発明に係る電磁波シールド材においては、導電性材料が、少なくとも導電性繊維であることから、請求項1乃至請求項3に記載の発明の効果に加えて、導電性繊維同士の接触によって長い導電回路が形成され、低い周波数の領域においても優れた電磁波シールド性能を有する電磁波シールド材となる。
【0029】
請求項5の発明に係る電磁波シールド材においては、導電性材料が、導電性繊維と導電性粒子とを含んでいることから、請求項4に記載の発明の効果に加えて、導電性粒子4が導電性繊維3の間に入り込むため導電回路が形成されやすくなり、より優れた電磁波シールド性能を得ることができる。
【0030】
なお、非導電性粒子がその内部に空間を有する中空粒子である場合には、かかる中空粒子は中実粒子に比較して同じ外径でも質量が小さいため、電磁波シールド材の電磁波シールド性能を維持しながら、電磁波シールド材をより一層軽量化することができる。
【0031】
また、本発明者は、電磁波シールド材における合成樹脂、導電性繊維、導電性粒子の適切な含有率について、鋭意実験研究を重ねた結果、合成樹脂の含有率を25重量%〜70重量%の範囲内とし、導電性繊維の含有率を3重量%〜9重量%の範囲内とし、導電性粒子の含有率を9重量%〜40重量%の範囲内とした場合に、より確実に優れた電磁波シールドの効果が得られることを見出した。
【0032】
即ち、合成樹脂の含有率が25重量%未満であると、合成樹脂が少な過ぎて成形性が悪くなり、歩留まり良く電磁波シールド材を製造することが困難になり、一方、合成樹脂の含有率が70重量%を超えると導電性繊維、導電性粒子の含有量が少なくなって、優れた電磁波シールド性能を得ることが困難となる。
また、導電性繊維の含有率が3重量%未満であると、導電性繊維が少な過ぎて優れた電磁波シールド性能を得ることが困難となり、一方、導電性繊維の含有率が9重量%を超えると、電磁波シールド材を成形する際に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなってしまう。
【0033】
更に、導電性粒子の含有率が9重量%未満であると、導電性粒子が少な過ぎて優れた電磁波シールド性能を得ることが困難となり、一方、導電性粒子の含有率が40重量%を超えると、合成樹脂が少なくなって成形性が悪くなるとともに、電磁波シールド材のコストが高くなってしまう。
したがって、合成樹脂の含有率を25重量%〜70重量%の範囲内とし、導電性繊維の含有率を3重量%〜9重量%の範囲内とし、導電性粒子の含有率を9重量%〜40重量%の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
なお、合成樹脂の含有率を30重量%〜50重量%の範囲内とし、導電性繊維の含有率を4重量%〜7重量%の範囲内とし、導電性粒子の含有率を15重量%〜30重量%の範囲内とした場合には、より一層優れた電磁波シールド性能を得ることができるので、より好ましい。
【0035】
また、本発明者は、電磁波シールド材における導電性繊維の適切な繊維径及び繊維長さについて、鋭意実験研究を重ねた結果、繊維径を1μm〜20μmの範囲内とし、繊維長さを1mm〜10mmの範囲内とした場合に、より確実に優れた電磁波シールドの効果が得られることを見出した。
【0036】
即ち、導電性繊維の繊維径が1μm未満であると、導電性繊維が細過ぎて成形時に細かく切れ易くなるとともに、優れた電磁波シールド性能を得ることが困難になり、一方、導電性繊維の繊維径が20μmを超えると、導電性繊維が太過ぎて成形性が悪くなるとともに成形時に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなってしまう。
また、導電性繊維の繊維長さが1mm未満であると、導電性繊維が短過ぎて優れた電磁波シールド性能を得ることが困難となり、一方、導電性繊維の繊維長さが10mmを超えると、電磁波シールド性能は向上するが電磁波シールド材中における含有率のばらつきが大きくなるとともに、電磁波シールド材を成形する際に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなってしまう。
したがって、導電性繊維の繊維径を1μm〜20μmの範囲内とし、繊維長さを1mm〜10mmの範囲内とすることが好ましい。
【0037】
なお、導電性繊維の繊維径を5μm〜15μmの範囲内とし、繊維長さを3mm〜6mmの範囲内とした場合には、より優れた電磁波シールド性能を得ることができるので、より好ましい。
【0038】
また、本発明者は、電磁波シールド材における導電性粒子の適切な大きさについて、鋭意実験研究を重ねた結果、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が10μm〜100μmの範囲内、またはふるい試験法によって測定した粒度分布において45μm以下の粒子が70重量%以上とした場合に、より確実に優れた電磁波シールドの効果が得られることを見出した。
【0039】
即ち、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が10μm未満であると、導電性粒子が細か過ぎて導電回路を形成し難くなるため、優れた電磁波シールド性能を得ることが困難になり、一方、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が100μmを超え、かつ、ふるい試験法によって測定した粒度分布において45μm以下の粒子が70重量%未満であると、導電性粒子が大き過ぎて成形性が悪くなるとともに、成形時に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなってしまう。
したがって、導電性粒子の大きさは、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が10μm〜100μmの範囲内、またはふるい試験法によって測定した粒度分布において45μm以下の粒子が70重量%以上とすることが好ましい。
【0040】
なお、導電性粒子の大きさを、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜50μmの範囲内とし、またはふるい試験法によって測定した粒度分布において45μm以下の粒子が90重量%以上とした場合には、より優れた電磁波シールド性能を得ることができるので、より好ましい。
【0041】
また、電磁波シールド材の製造方法としては、合成樹脂として熱硬化性樹脂または二液性エポキシ樹脂を使用し、合成樹脂、導電性繊維、導電性粒子及び非導電性粒子を混合して混合液とする混合工程と、混合液を上型と下型とを有するプレス金型の下型に流し込む流し込み工程と、プレス金型の下型に上型を嵌合させて所定の圧力でプレスするプレス工程と、熱硬化性樹脂または二液性エポキシ樹脂を硬化させる硬化工程とを具備する製造方法によるのが良い。
【0042】
これによって、常温でも流動性を有する熱硬化性樹脂または二液性エポキシ樹脂を合成樹脂として使用していることから、混合工程において合成樹脂、導電性繊維、導電性粒子及び非導電性粒子を均一に混合することができ、流し込み工程において均一性を保持しながらプレス金型内に流し込むことができ、製造される電磁波シールド材における導電性繊維、導電性粒子及び非導電性粒子の分散状態を確実に均一化することができる。
【0043】
また、プレス工程によって成形していることから、成形時に剪断力が殆ど掛からないため、導電性繊維が剪断力によって短く切断されることもなく、長い導電性繊維から生ずる高い電磁波シールド性能を保持することができる。したがって、最小限の量の導電性繊維の使用によって優れた電磁波シールド性能を得ることができる。
更に、導電性粒子の存在によって、高い周波数領域でも大きな電磁波シールド性能を得ることができる。
【0044】
また、他の電磁波シールド材の製造方法としては、合成樹脂、導電性繊維、導電性粒子及び非導電性粒子を混合して混合材料とする混合工程と、混合材料を低剪断スクリューを備えた射出成形機またはプリプランジャー式射出成形機を用いて射出成形する射出成形工程とを具備するものがある。
【0045】
ここで、「低剪断スクリュー」とは、合成樹脂(射出成形材料)の計量・可塑化・押出し(射出)を1つのスクリューで行う一般的なインライン式射出成形機において、合成樹脂の可塑化に際して合成樹脂に剪断力を極力掛けないように設計された特殊なスクリューである。具体的には、例えば、三菱重工プラスチックテクノロジー(株)製の長繊維強化樹脂専用スクリューや高粘度樹脂用Fスクリュー、広州市衝動機電科技有限公司製の円錐形ツインスクリューや平行ツインスクリュー等がある。
【0046】
また、「プリプランジャー式射出成形機」とは、上述した一般的なインライン式射出成形機とは異なり、可塑化スクリューと射出シリンダーとが別個に設けられている射出成形機であり、可塑化スクリューで合成樹脂(射出成形材料)を可塑化し、射出シリンダーに移動させ、射出シリンダーからプランジャーで射出する方式であるため、合成樹脂に剪断力が掛からない射出成形機である。
【0047】
これによって、混合工程において撹拌・混練等によって均一に混合された混合材料が、射出成形工程において射出成形法によって電磁波シールド材に成形されることから、プレス成形法よりも複雑な形状の電磁波シールド材を量産することができ、形状設計の自由度の要請に応えられるとともに、より一層の低コスト化を図ることができる。
【0048】
そして、射出成形工程においては、低剪断スクリューを備えた射出成形機またはプリプランジャー式射出成形機を用いて射出成形することから、従来のインライン式射出成形機におけるような大きな剪断力が混合材料に掛かることがなく、導電性繊維が剪断力によって短く切断されることもなく、長い導電性繊維から生ずる高い電磁波シールド性能を保持することができる。したがって、最小限の量の導電性繊維の使用によって優れた電磁波シールド性能を得ることができる。
更に、導電性粒子の存在によって、高い周波数領域でも大きな電磁波シールド性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1の(a)は比較例2の電磁波シールド材の内部構造を示す模式図、(b)は比較例1の電磁波シールド材の内部構造を示す模式図、(c)は本発明の実施の形態1に係る電磁波シールド材の内部構造を示す模式図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1に係る電磁波シールド材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は本発明の実施の形態1の実施例1乃至実施例3に係る電磁波シールド材の電磁波シールド効果を、比較例1の電磁波シールド材の電磁波シールド効果と比較して示す特性図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1の実施例4乃至実施例7に係る電磁波シールド材の電磁波シールド効果を比較して示す特性図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1の実施例8及び実施例9に係る電磁波シールド材の電磁波シールド効果を比較して示す特性図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1の実施例8、実施例10、実施例11及び実施例12に係る電磁波シールド材の電磁波シールド効果を、比較例2の電磁波シールド材の電磁波シールド効果と比較して示す特性図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態2に係る電磁波シールド材の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明に係る電磁波シールド材を実施するためには、合成樹脂と、導電性材料と、非導電性粒子、または気泡を導入する方法とが必要となる。
ここで、合成樹脂としては、汎用樹脂・エンジニアリングプラスチック(以下、「エンプラ」ともいう。)・スーパーエンプラ等の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を用いることができるが、電磁波シールド材の成形段階においてできるだけ流動性の高いものが好ましい。流動性が高い方が、合成樹脂中に導電性繊維、導電性粒子、非導電性粒子または気泡をより均一に分散させることができるからである。
【0051】
電磁波シールド材の成形段階において流動性の高い合成樹脂として、具体的には、熱可塑性樹脂ではポリアルキレン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリル樹脂、熱硬化性樹脂ではフェノール樹脂、エポキシ樹脂または二液性エポキシ樹脂が好ましい。特に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び二液性エポキシ樹脂は、熱可塑性樹脂と異なり、常温においても液体状態に近い流動性を有しているので、より好ましい。
【0052】
また、導電性材料としては、導電性繊維や導電性粒子等を用いることができ、導電性繊維としては、炭素繊維や、銅繊維、鉄繊維、アルミニウム繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、合成繊維を炭素や金属等の導電性材料で被覆したもの等を用いることができるが、強磁性体であって電磁波シールド性能に優れているという点においては、鉄繊維及びステンレス繊維が好ましい。
更に、導電性繊維の長さとしては、長いほど電磁波シールド性能は向上するが、余り長くなると合成樹脂中における含有率のばらつきが大きくなるとともに、電磁波シールド材を成形する際に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなるため、1mm〜10mmの範囲内とするのが好ましく、特に、3mm〜6mmの範囲内とすることがより好ましい。
【0053】
また、導電性粒子としては、銅粉、鉄粉、アルミニウム粉、亜鉛粉を始めとする金属粉や、カーボンブラック、グラファイト粉(黒鉛粉)等の炭素粉等を用いることができるが、導電性を高めるという点においては、銅粉及びグラファイト粉が好ましい。
更に、導電性粒子の大きさとしては、導電性粒子が細か過ぎると導電回路を形成し難くなり、導電性粒子が大き過ぎると成形性が悪くなるとともに成形時に成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こし易くなることから、銅粉等の金属粉については、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が10μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、グラファイト粉等の炭素粉については、ふるい試験法によって測定した粒度分布において直径約45μm以下の粒子が70重量%以上であることが好ましい。
【0054】
また、非導電性粒子としては、無機化合物の粒子、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコン粒子、ガラスビーズ、陶磁器を粉砕したもの、ゼオライトを粉砕したもの、タルク、マイカ(雲母)等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることができるが、安価であること、品質の安定したものが入手容易であることから、シリカ粒子、ガラスビーズ、タルクが好ましい。
更に、本発明においては、電磁波シールド材を軽量化することをも目的として合成樹脂を主体とした構成としていることから、中空粒子である発泡無機化合物粒子、中空シリカ粒子、ガラスバルーン等の1つまたは1つ以上の組み合わせを用いることが、軽量化により貢献できる点で好ましい。
【0055】
また、非導電性粒子の大きさとしては、非導電性粒子が細か過ぎると合成樹脂内で一定の体積を占めて導電回路を形成し易くする効果が低下し、非導電性粒子が大き過ぎると成形性が悪くなるとともに導電性繊維の間に入り込み難くなるため導電回路を形成し易くする効果が低下することから、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が10μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、50μm〜100μmの範囲内であることがより好ましい。
【0056】
また、合成樹脂中に気泡を導入する方法としては、金型のコアを後退させる機構を設けて行うコアバック成形法や、合成樹脂に発泡剤を混ぜて加熱することによって気体を発生させる方法等を用いることができるが、金型の低コスト化という点においては、発泡剤を用いる方法が好ましい。発泡剤としては、ジアゾアミノベンゼン、炭酸水素ナトリウム、酢酸アルミニウム、炭酸アンモニウム等を用いることができる。
【0057】
以下、本発明に係る電磁波シールド材の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0058】
[実施の形態1]
まず、本発明に係る電磁波シールド材の実施の形態1について、図1乃至図6を参照して説明する。
【0059】
最初に、本発明の実施の形態1に係る電磁波シールド材が優れた電磁波シールド性能を有する理由について、比較例1及び比較例2の電磁波シールド材と比較しつつ、図1の模式図を参照して説明する。
図1(a)に示されるように、比較例2の電磁波シールド材10は、合成樹脂2の中に導電性繊維3のみを分散させてなるものである。かかる構成では、導電性繊維3同士の接触のみから導電回路(電磁波を遮蔽するのに効果のある一定以上の長さを有する導電性を持つ部分)が形成されるため、図1(a)に示されるように、充分な数の導電回路が形成されていない。
【0060】
かかる構成で充分な数の導電回路を形成するためには、導電性繊維3の含有量を極端に多くしなければならず、合成樹脂2の含有量が少なくなって成形性に劣るものとなり、コストも高くなり、更に押出成形機や射出成形機等の成形機のスクリューやシリンダー及び金型等の摩耗が激しくなるという欠点を有する。
このような図1(a)に示される比較例2の電磁波シールド材10は、上述した[背景技術]の項で説明した上記特許文献2に記載の技術に相当するものである。
【0061】
また、図1(b)に示されるように、比較例1の電磁波シールド材11は、合成樹脂2の中に導電性繊維3とともに導電性粒子4を分散させてなるものである。かかる構成においては、導電性粒子4が導電性繊維3の間に入り込むため導電回路が形成されやすくなり、図1(b)に示されるように、比較例2の電磁波シールド材10よりは多くの導電回路が形成されている。
しかし、この比較例1の構成においても、まだ導電回路の数が不充分であり、充分に大きな電磁波シールド性能を得ることはできない。
【0062】
これに対して、図1(c)に示されるように、本実施の形態1に係る電磁波シールド材1は、合成樹脂2の中に非導電性粒子5を、導電性材料として導電性繊維3や必要に応じて導電性繊維3とともに導電性粒子4を分散させてなるもの、または合成樹脂2の中に導電性材料として導電性繊維3や必要に応じて導電性繊維3とともに導電性粒子4が分散し、更に合成樹脂2の中に気泡5が形成されているものである。
これによって、導電性繊維3や導電性粒子4と比較して安価な非導電性粒子5や気泡5が合成樹脂2中において一定の体積を占めるため、図1(c)に示されるように、導電性繊維3と導電性粒子4とが合成樹脂2中において占める体積が限定され、導電性繊維3と導電性粒子4との存在する部分の密度が高くなって、導電性繊維3同士または導電性繊維3と導電性粒子4とが接触する箇所が非常に多くなるため、電磁波シールド材1の内部に多数の導電回路が形成される。したがって、充分に大きな電磁波シールド性能を得ることができる。
【0063】
次に、本実施の形態1に係る電磁波シールド材1の製造方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。本実施の形態1に係る電磁波シールド材1の製造方法においては、合成樹脂として二液性エポキシ樹脂を使用する。
【0064】
図2に示されるように、まず、二液性エポキシ樹脂2Aの基剤2Aaに硬化剤2Abが添加され、この二液性エポキシ樹脂2Aに、導電性繊維3、導電性粒子4、非導電性粒子5が混合される混合工程が実施される(ステップS10)。なお、混合工程における混合の手順はこれに限られるものではなく、二液性エポキシ樹脂2Aの基剤2Aaに導電性繊維3、導電性粒子4、非導電性粒子5を混合した後に硬化剤2Abを添加しても良い。これによって混合液6が得られ、この混合液6がプレス金型の下型に流し込まれる流し込み工程が実施される(ステップS11)。
【0065】
そして、流し込み工程が完了したところで、混合液6が流し込まれたプレス金型の下型に、プレス金型の上型を嵌合させて所定の圧力でプレスするプレス工程が実施される(ステップS12)。本実施の形態1においては、供試体製作用の平板形状のキャビティを有するプレス金型を用いて、キャビティ内の混合液6が所定の厚さ(3mm)になるまで、手で圧縮した。したがって、本実施の形態1に係る電磁波シールド材1の製造方法における「所定の圧力」とは、混合液6が流し込まれたプレス金型のキャビティの厚さを3mmとするのに必要な圧力である。
【0066】
後は、プレス金型内の混合液6を硬化させる硬化工程が実施される(ステップS13)。本実施の形態1においては、合成樹脂として二液性エポキシ樹脂を用いているため、そのまま室温で約8時間放置して硬化させた。これによって、本実施の形態1に係る電磁波シールド材1が得られた。
なお、本実施の形態1では常温硬化の二液性エポキシ樹脂を使用して非導電性粒子5を電磁波シールド材1に配しているが、合成樹脂として加熱硬化のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することで、発泡剤を予め添加して硬化時の加熱により発泡剤を発泡させて、内部に気泡を形成した電磁波シールド材1を作製することができる。
【0067】
以上の工程にしたがって、配合成分の特性・配合量等を変化させて、本実施の形態1の実施例1乃至実施例12に係る電磁波シールド材1を製造し、その電磁波シールド性能の評価を行った。なお、比較のため、比較例1及び比較例2の電磁波シールド材をも製造し、その電磁波シールド性能を評価して、実施例1乃至実施例12に係る電磁波シールド材1と対比させて評価した。
実施例1乃至実施例12に係る電磁波シールド材及び比較例1,比較例2の電磁波シールド材の配合を、表1の上段に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示されるように、また上述したように、合成樹脂2としては二液性エポキシ樹脂を用いている。二液性エポキシ樹脂として具体的には、丸本ストルアス(株)製の二液性エポキシ樹脂エポフィックス(商品名)を使用した。
また、導電性繊維3としては、ステンレス繊維(以下、「SUS繊維」ともいう。)を用いて繊維長さの異なる三種類を使用した。具体的には、繊維長さが0.3mmのSUS短繊維としては、JFEスチール(株)製のSMFグレード(繊維長さ:300μm、繊維径:φ10μm)を使用し、繊維長さが1mm及び3mmのSUS長繊維としては、日本精線(株)の製品を使用した。
【0070】
更に、導電性粒子4としては、表1に示されるように、金属粒子である銅粉と、炭素粒子であるグラファイト粉の二種類を用いた。具体的には、銅粉としては福田金属箔粉工業(株)製のFCC−115(品番)を使用し、グラファイト粉としては日本黒鉛工業(株)製の球状化黒鉛粉末シリーズのCGC−50(製品名)を使用した。
そして、銅粉FCC−115は、ふるい試験法であるMPIF(Metal Powder Industries Federation)スタンダード05で測定したところ、45μm以下の粒子が90重量%以上で、45μm〜63μmの粒子が10重量%未満、63μm〜75μmの粒子が2重量%未満、75μm以上の粒子が0重量%という粒度分布を有していた。
【0071】
また、グラファイト粉CGC−50は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が50μmであった。
【0072】
更に、非導電性粒子5としては、表1に示されるように、粒子径の異なる四種類のガラスビーズを使用した。ガラスビーズとしては、ポッターズバロティーニ(株)製のM−4−20PN(平均粒子径0.5mm)、M−7−20PN(平均粒子径0.3mm)、M−11−20PN(平均粒子径0.1mm)、及びGB301S(平均粒子径0.05mm)を使用した。なお、平均粒子径の値は、電気抵抗による粒子測定器、即ちコールターカウンターによって測定したものである。
【0073】
表1に示される実施例1乃至実施例12及び比較例1,比較例2の各配合を用いて、図1のフローチャートに示される製造工程に基づいて、各配合の電磁波シールド材の供試体をそれぞれ製造した。供試体の大きさは、110mm×110mm×3mm(厚さ)とした。そして、KEC法によって、10MHz,100MHZ,300MHz,500MHz,1000MHz(1GHz)の五種類の周波数について、近傍界の電磁波シールド性能を測定した。
【0074】
なお、「KEC法」とは、社団法人関西電子工業振興センター(KEC)が開発した電磁波シールド効果測定装置を用いた測定方法であって、シート状の材料であれば比較的容易にその電磁波シールド効果を測定評価するものである。簡単に全体を説明すると、電磁波の発生する場所が近いところのシールド効果を、電界と磁界に分けて評価するものである。即ち、このKEC法は送信用と受信用の治具に分かれており、その間にシールド材を入れ、受信側でどれだけ信号が減衰したかを評価する。信号発生器から出力した信号を、アッテネータを通して送信側の治具に入力する。また、受信側では、治具に到達した信号をプリアンプで増幅してから、スペクトラムアナライザにより信号レベルを測定する。このとき、試料のない状態を基準として、測定試料を挿入した時の減衰量をデシベル表示で評価するものである。
そのKEC法による測定結果を、表1の下段、及び図3乃至図6に示す。
【0075】
図3の特性図は、非導電性粒子5としてのガラスビーズの添加量と電磁波シールド性能との関係を明らかにしたものである。
表1の上段に示されるように、実施例1の配合はガラスビーズの添加量が13.0重量%(体積%では15.3vol%)、実施例2の配合はガラスビーズの添加量が25.0重量%(30.0vol%)、実施例3の配合はガラスビーズの添加量が34.4重量%(41.8vol%)と、次第に増えている。これに対して、表1の上段に示されるように、比較例1の配合はガラスビーズが添加されていない。
【0076】
その結果、図3及び表1の下段に示されるように、ガラスビーズの添加量が多くなるにしたがって、電磁波シールド効果が大きくなることが分かる。これは、ガラスビーズの添加量の増加に伴ってガラスビーズの電磁波シールド材1中に占めるガラスビーズの体積(vol%)が増加することで、相対的に電磁波シールド材1中に占める導電性材料(SUS繊維及び銅粉)の体積が減少し、この体積の減少が大きくなるほど電磁波シールド効果が増大していることになる。このことから、前述したように電磁波シールド材1中に占める導電性材料の体積を限定すると、占有体積中の導電性材料の密度が増して導電性材料間の接触箇所が増加し、その結果電磁波シールド効果が向上することが証明できた。
なお、実施例1乃至実施例3及び比較例1の間の電磁波シールド性能の差が高周波数では少なく、かつ、全体の電磁波シールド性能が20dB未満と小さいのは、後述するように、SUS繊維として短過ぎる繊維長さ0.3mmのものを使用しているためである。
【0077】
図4の特性図は、非導電性粒子5としてのガラスビーズの大きさ(平均粒子径)と電磁波シールド性能との関係を明らかにしたものである。
表1の上段に示されるように、実施例4の配合はガラスビーズの大きさがφ0.5mm、実施例5の配合はガラスビーズの大きさがφ0.3mm、実施例6の配合はガラスビーズの大きさがφ0.1mm、実施例7の配合はガラスビーズの大きさがφ0.05mmと、次第に小さくなっている。なお、ガラスビーズの添加量は37.0重量%(39.5vol%)で統一されている。
【0078】
その結果、図4及び表1の下段に示されるように、ガラスビーズの大きさが小さくなるにしたがって、電磁波シールド効果が大きくなることが分かる。ここで、本実施の形態1では平均粒子径がφ0.5mm以下の大きさのガラスビーズを使用し、実施例4の結果から分かるように一番大きなφ0.5mmのガラスビーズを使用しても10MHz〜1000MHzの周波数領域において20dB以上のシールド効果を発揮している。したがって、非導電性粒子5としてのガラスビーズの大きさは、平均粒子径がφ0.5mm以下であり、更に好ましくは平均粒子径がφ0.1mm以下である。
【0079】
図5の特性図は、導電性繊維3としてのSUS繊維の繊維長さと電磁波シールド性能との関係を明らかにしたものである。表1の上段に示されるように、実施例8の配合はSUS繊維の繊維長さが3mm、実施例9の配合はSUS繊維の繊維長さが1mmである。
この両者を比較した結果、図5及び表1の下段に示されるように、SUS繊維の繊維長さが長い方の電磁波シールド効果が大きくなることが分かる。また、表1の結果から、SUS繊維の繊維長さが0.3mmの実施例1乃至実施例3とSUS繊維の繊維長さが1mm以上の実施例4、実施例8、実施例9を比べると、実施例4、実施例8、実施例9のシールド効果の方が優れている。よって、導電性繊維3としてのSUS繊維の繊維長さは1mm以上が、更に言えば3mm以上が好ましい。
【0080】
特に、表1の下段に示されるように、実施例8の配合に係る電磁波シールド材1においては、10MHzで82.08dBと、合成樹脂を主体とした電磁波シールド材としてはこれまでにないほど電磁波シールド性能が際立って大きく、1000MHz(1GHz)でも71.2dBと際立って大きな値を示している。
即ち、本実施の形態1の実施例8に係る電磁波シールド材1は、特に優れた電磁波シールド材といえる。
【0081】
図6の特性図は、その実施例8の配合に係る電磁波シールド材1と、導電性粒子4の種類を変えた場合及び実施例12の配合の場合、並びに比較例2の配合の電磁波シールド材とを、電磁波シールド性能において比較したものである。
表1の上段に示されるように、実施例10の配合は導電性粒子4として銅粉の代わりにグラファイト粉を9.7重量%添加したものであり、実施例11の配合はグラファイト粉を27.7%添加したものである。また、実施例12の配合はガラスビーズが46.2重量%(42.0vol%)と比較的多量に添加されているが、導電性粒子4が全く添加されていない。
【0082】
これに対して、比較例2の配合は、導電性粒子4及び非導電性粒子5としてのガラスビーズを全く添加しておらず、合成樹脂2としての二液性エポキシ樹脂85.0重量%と、導電性繊維3としてのSUS繊維15.0重量%のみから製造されている。
【0083】
その結果、図6及び表1の下段に示されるように、導電性粒子4としてのグラファイト粉の添加量が9.7重量%と少ない実施例10に係る配合においては、周波数100MHzでは60.6dBと比較的大きな電磁波シールド性能を示しているが、周波数1000MHz(1GHz)では46.84dBと、実施例8に係る配合と比較してかなり電磁波シールド性能が小さくなっている。
【0084】
一方、導電性粒子4としてのグラファイト粉の添加量が27.7重量%と多い実施例11に係る配合においては、周波数100MHzでは70.6dB、周波数1000MHz(1GHz)では67.24dBと、実施例8に係る配合と同等レベルの優れた電磁波シールド性能を示している。
したがって、導電性粒子4としてはグラファイト粉等の炭素粒子を用いても、銅粉等の金属粒子を用いた場合と同等の電磁波シールド性能を得ることが可能であることが明らかになった。
【0085】
また、図6及び表1の下段に示されるように、実施例12は比較例2とほぼ同等のシールド効果を示しており、高価なSUS繊維の添加量を安価なガラスビーズを添加することで低減できることを示している。更に、導電性粒子4を添加した実施例8、実施例10、実施例11と導電性粒子4無添加の実施例12の結果から、導電性繊維であるSUS繊維に加えて導電性粒子4(銅粉またはグラファイト粉)を配することでシールド効果が向上することが分かる。
【0086】
以上の検討結果より、合成樹脂2を主体とした電磁波シールド材において優れた電磁波シールド性能を得るためには、導電性繊維3と非導電性粒子5が必須成分であり、導電性繊維3の繊維長さは1mm以上、更には3mm以上であることが好ましく、非導電性粒子5の平均粒子径はφ0.5mm以下、更にはφ0.1mm以下であることが好ましいことが明らかになった。
【0087】
このようにして、本実施の形態1に係る電磁波シールド材においては、小型化・軽量化・形状設計の自由度の要請に応えることができ、高価で、かつ、成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こす導電性繊維としてのステンレス繊維等の配合量を最小限に抑えながら、広い周波数範囲で優れた電磁波シールド性能を得ることができる。
【0088】
[実施の形態2]
次に、本発明に係る電磁波シールド材の実施の形態2について、図7を参照して説明する。本実施の形態2に係る電磁波シールド材1の製造方法においては、成形法として射出成形法を使用する。
【0089】
まず、本発明の実施の形態2に係る電磁波シールド材の製造方法について、図7のフローチャートを参照して説明する。図7に示されるように、最初に合成樹脂2Bに、導電性粒子4、非導電性粒子5が混合される混合工程が実施される(ステップS20)。この混合工程として具体的には、合成樹脂2Bとして熱可塑性樹脂を用いた場合には、ニーダー等を用いて熱可塑性樹脂の軟化温度まで加熱して混練する方法等があり、合成樹脂2Bとして熱硬化性樹脂を用いた場合には、室温における熱硬化性樹脂の粘度に応じて撹拌する方法等がある。
【0090】
これと並行して、導電性繊維3を合成樹脂2Bで被覆するプルトルージョン成形による繊維ペレット成形工程が実施される(ステップS21)。これによって、導電性繊維3が切断されることなく、一定方向に引き揃えられた長繊維ペレット8が得られる。
【0091】
この長繊維ペレット8を混合工程で合成樹脂2B、導電性粒子4、非導電性粒子5が均一に混合されて得られた混合物7をドライブレンドによって混合するドライブレンド工程が実施される(ステップS22)。そして、少なくとも低剪断スクリューを備えた射出成形機またはプリプランジャー式射出成形機を用いて射出成形を行う射出成形工程が実施される(ステップS23)。
これによって、射出成形金型のキャビティ形状に応じた様々な形状を有する電磁波シールド材1Aを得ることができる。
【0092】
本実施の形態2においては、具体的には合成樹脂2Bとして熱可塑性樹脂であるポリアミドPA6(ナイロン6,融点225℃)を用いて、実施の形態1と同様に導電性繊維3としてステンレス繊維(SUS繊維)を、導電性粒子4としてはグラファイト粉である日本黒鉛工業(株)製の球状化黒鉛粉末シリーズのCGC−50(レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が50μm)を、非導電性粒子5としてガラスビーズを用い、SUS繊維の繊維長さは6mmとし、ガラスビーズの大きさは電気抵抗による粒子測定器、即ちコールターカウンターによって測定した平均粒子径が0.05mmのものとした。
【0093】
また、配合率は、混合物7においては、ポリアミドPA6が26.34重量%(体積%では34.97vol%)、グラファイト粉が30.33重量%(21.67vol%)、ガラスビーズが43.34重量%(43.35vol%)とした。一方、長繊維ペレット8においては、ポリアミドPA6が25.0重量%、SUS繊維が75.0重量%として、ドライブレンド工程においては混合物7を91.5重量%、長繊維ペレット8を8.5重量%の割合でドライブレンドして射出成形した。
その結果、得られた電磁波シールド材1Aにおける配合率は、ポリアミドPA6が26.2重量%(36.45vol%)、グラファイト粉が27.8重量%(20.76vol%)、ガラスビーズが6.4重量%(41.53vol%)、SUS繊維が39.7重量%(1.25vol%)となった。
【0094】
そして、混合工程においては、上記の配合成分を加熱式ニーダーで温度を250℃として5分間24rpmの回転数で混練して混合し、混合した材料を取り出して室温近くまで冷却する。その後、冷めた混合材料を再加熱しφ2.0の穴の開いた治具から押出してカットし棒状のペレット(混合物7)を作製した。なお、この混合工程は、2軸押出機等を用いることで混練からペレット化までを一度に実施することができる。
この混合物7と長繊維ペレット8のドライブレンド材料を、ソディック社製の低剪断スクリューを備えたプリプランジャー式射出成形機のホッパーに投入して、射出成形を実施した。なお、射出成形金型のキャビティ形状は、110mm×110mm×3mmの大きさとした。
【0095】
こうして得られた110mm×110mm×3mmの寸法を有する電磁波シールド材の電磁波シールド性能を、KEC法によって測定したところ、10MHz,100MHZ,300MHz,500MHz,1000MHz(1GHz)の五種類の周波数について、表1の下段に示される上記実施の形態1の実施例8の配合による電磁波シールド材とほぼ同等の電磁波シールド性能を有していることが明らかになった。
【0096】
このようにして、本実施の形態2に係る電磁波シールド材においては、小型化・軽量化・形状設計の自由度の要請に応えることができ、高価で、かつ、成形機の部材や金型等の摩耗を引き起こす導電性繊維としてのステンレス繊維等の配合量を最小限に抑えながら、広い周波数範囲で優れた電磁波シールド性能を得ることができる。
【0097】
上記各実施の形態においては、合成樹脂として二液性エポキシ樹脂またはポリアミドPA6を使用した場合のみについて説明したが、合成樹脂としてはこれらに限られるものではなく、ポリアミドPA6以外の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0098】
また、上記各実施の形態においては、合成樹脂中に非導電性粒子を含有させることによって優れた電磁波シールド性能が得られる電磁波シールド材とその製造方法のみについて説明したが、それ以外にも、合成樹脂中に導電性繊維及び導電性粒子を含有させるとともに、合成樹脂に発泡剤を添加して加熱したり、コアバック成形を行ったりする等によって、合成樹脂中に気泡を含有させることによっても、優れた電磁波シールド性能を有する電磁波シールド材を得ることができる。
【0099】
更に、上記各実施の形態においては、電磁波シールド材として110mm×110mm×3mmの大きさの平板形状の成形体を成形した場合のみについて説明したが、これはKEC法による電磁波シールド性能測定の供試体とするためであり、他のどのような形状の電磁波シールド材であっても成形することができる。
特に、実施の形態2に係る射出成形法においては、形状設計の自由度が極めて大きいという利点がある。
【0100】
また、上記各実施の形態においては、非導電性粒子として中実粒子であるガラスビーズを用いた場合について説明したが、非導電性粒子として中空粒子を用いることもでき、これによって電磁波シールド材が一層軽量化されるとともに断熱性も向上するという利点が得られる。このような中空粒子としては、発泡無機化合物粒子、中空シリカ粒子、ガラスバルーン等を用いることができる。
【0101】
本発明を実施するに際しては、電磁波シールド材のその他の部分の成分、構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等についても、電磁波シールド材の製造方法のその他の工程についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0102】
1,1A 電磁波シールド材
2,2A,2B 合成樹脂
3 導電性繊維
4 導電性粒子
5 非導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と、導電性材料と、前記導電性材料同士の接触を増加させる非導電性粒子または気泡とを含有することを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記非導電性粒子または前記気泡の前記電磁波シールド材に占める体積の割合が10vol%〜50vol%であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記非導電性粒子のコールター原理で測定した平均粒子径が10μm〜500μmの範囲内または前記気泡の大きさが10μm〜500μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記導電性材料が、少なくとも導電性繊維であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記導電性材料が、導電性繊維と導電性粒子とを含んでいることを特徴とする請求項4に記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−192714(P2011−192714A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55756(P2010−55756)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】