説明

電線の接続部材及び接続方法

【課題】電線同士の接続に係る作業性を良好として外力による電線の外れ等も好適に防止する。
【解決手段】電線の接続部材1は、導体同士の結合部分を収容すると共に、当該結合部分を覆うカバー3を開閉可能に備えた端末保持部4と、その端末保持部4を挟んで電線の配設方向の前後に延設され、電線を配設方向と直交する側方から導入させて係止可能な第1、第2係止溝13A,13Bをそれぞれ有する一対の電線保持部5,5とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のワイヤハーネス等に用いられる電線の端末同士を電気的接続するために利用される電線の接続部材と、その接続部材を用いた電線の接続方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤハーネス等を製造する際に、一本又は複数本の電線の端末同士を電気的に接続する必要が生じた場合、それぞれの電線の端末の被覆を除去して導体を露出させ、互いの導体同士を撚り合わる等して結合した後、絶縁テープを巻回するという方法がよく行われている。しかし、この接続方法では、作業が面倒な上、引っ張り等の外力に対して固定力が弱く、作業ごとにばらつきも生じやすいため、信頼性が十分でない。
そこで、作業性や信頼性を高めるために、特許文献1,2に開示の如く、結合した導体部分に絶縁性キャップを被せたり、スリットを入れた絶縁チューブをの字状にラップさせて溶着したりする対策が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−89056号公報
【特許文献2】特開2005−129325号公報
【特許文献3】特開2007−157693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2のように絶縁性キャップを用いた場合、キャップに固定した電線が互いに異なる方向へ引っ張られると、絶縁性キャップが外れる方向へ力が加わるため、絶縁性キャップが外れたり、電線同士が離れたりするおそれが生じる。
また、特許文献3の絶縁チューブを用いた場合、絶縁チューブのラップ部分の径が太くなるため、自動車への組付けの際等に絶縁チューブが周囲に引っ掛かりやすくなり、外力によって絶縁チューブが電線に沿ってずれを起こしてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、電線同士の接続に係る作業性が良好であるのは勿論、外力による電線の外れ等を好適に防止でき、電気的接続の信頼性にも優れた電線の接続部材及び接続方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、相反方向から直線状に配設されて端末の導体同士を結合する複数の電線を保持するために用いられる電線の接続部材であって、導体同士の結合部分を収容すると共に、当該結合部分を覆うカバーを開閉可能に備えた端末保持部と、その端末保持部を挟んで電線の配設方向の前後に延設され、電線を配設方向と交差する側方から導入させて係止可能な係止溝をそれぞれ有する一対の電線保持部とを備えたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、係止溝を、側方からの導入側が互いに逆となる一対の係止溝とすると共に、カバーの開閉方向を、側方からの導入方向と交差するように設定したことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、係止溝の内面を、電線の配設方向に沿って傾斜させたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、係止溝を、側方から形成される導入部と、その導入部の終端から配設方向に形成される係止部とからなるL字状としたことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、電線の接続方法であって、請求項1乃至4の何れかに記載の電線の接続部材に、相反方向から直線状に配設された電線の端末をセットして、両端末の導体同士を結合して当該結合部分を端末保持部に収容し、カバーで覆った後、各方向の電線をそれぞれ対応する電線保持部の係止溝に導入させて係止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び5に記載の発明によれば、導体同士を接続した電線を端末保持部にセットしてカバーを閉じ、各電線を電線保持部の係止溝へ係止させれば、電線の電気的接続とその保持とが可能となる。従って、電線同士の接続に係る作業性が良好となる。また、外力による電線の外れ等を好適に防止できるため、電気的接続の信頼性にも優れたものとなる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、2つの係止溝間での電線の抜け方向が互いに逆となり、電線保持部から電線が抜けにくくなる。また、各係止溝における電線の抜け方向と、カバーの閉位置からの開放方向とが交差して、電線保持部と各係止溝とに電線を外す力が同時に加わることがないため、電線は一層外れにくくなる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、係止溝に対する電線の係止がしやすくなって作業性が向上する上、係止後の電線が電線保持部に沿って引き回され、大きく突出しないので、省スペースとなって周囲との接触による損傷や外れの可能性も低減される。さらに、係止溝から電線へ加わるストレスも小さくて済むため、電線の耐久性の向上も期待できる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、係止溝が電線の外れ防止に好適な形状となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】接続部材の斜視図である。
【図2】接続部材の説明図で、(A)が左側面、(B)が平面、(C)が右側面、(D)が正面を夫々示す。
【図3】A−A線断面図である。
【図4】B−B線断面図である。
【図5】接続部材の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、電線の接続部材の一例を示す斜視図で、この接続部材1は、帯板状の本体2を備えると共に、本体2の長手方向の側縁中央にカバー3を結合して一体成形される合成樹脂製となっている。本体2には、長手方向の中央に電線の端末を保持する端末保持部4が形成されると共に、その端末保持部4を挟んで長手方向の前後に、本体2上で相反方向に配設される電線を保持する一対の電線保持部5,5がそれぞれ形成されている。
【0010】
まず、端末保持部4は、図2〜4にも示すように、長手方向に収容溝6を凹設した横断面コ字状で、端末の導体同士が結合された一対の電線の結合部分を収容可能となっている。また、端末保持部4におけるカバー3と反対側の長手側縁中央には、下向きの返し状となる係止突起7が形成され、その係止突起7の前後に、長手側縁に沿った一対の保護壁8,8が上向きに形成されている。この保護壁8により、カバー3を閉じた際にカバー3が保護されて、外力による偶発的な外れのおそれが低減される。
【0011】
カバー3は、端末保持部4と同様の横断面コ字状で形成され、薄肉のヒンジ部9,9により、端末保持部4の上方を覆って収容溝6を塞ぐ閉位置と、端末保持部4の上方から退避して収容溝6を開放する開位置との間で回転可能に蝶着されている。但し、カバー3における長手方向の前後端は、開放された出入口10,10となっている。
また、カバー3におけるヒンジ部9,9と反対側の側縁中央には、閉位置で端末保持部4の係止突起7が係止する係止孔12を備えた弾性片11が突設されている。
【0012】
そして、各電線保持部5には、端末保持部4寄りに位置する第1係止溝13Aと、本体2の端部寄りに位置する第2係止溝13Bとがそれぞれ形成されている。なお、電線保持部5は前後対称の形状であるため一方のみについて説明する。
【0013】
第1、第2係止溝13A,13Bは、側方となる長手端縁から直交状に切り込まれる導入部14と、その導入部14の終端へ直角に連結され、本体2の幅方向中心付近で本体2の端部へ向けて長手方向に形成される係止部15とからなるL字状に形成されている。但し、第1、第2係止溝13A,13B間では、導入部14が切り込まれる長手端縁は互いに逆となっている。また、係止部15の位置も本体2の幅方向中心から互いに逆側へ僅かにずれた位置となっている。さらに、導入部14を形成する前後の内面と、係止部15を形成する前後の内面とは、第1係止溝13Aでは、端末保持部4へ近づくに従って下り傾斜する傾斜面となり、第2係止溝13Bでは、端末保持部4へ近づくに従って上り傾斜する傾斜面となっている。
【0014】
16は、各電線保持部5の上下面において第1、第2係止溝13A,13Bの間で本体2の幅方向に突設された突条で、本体2の上面では、各電線保持部5における端末保持部4寄りの位置にもそれぞれ突設されている。
また、端末保持部4と電線保持部5との上面は突条16を除いて同一平面となっているが、ここでは端末保持部4の厚みが電線保持部5の厚みよりも大きく形成されているため、端末保持部4の下面が電線保持部5の下面よりも下方へ突出している。
【0015】
以上の如く構成された接続部材1を用いた電線の接続方法を説明する。
まず、端末同士を接続するそれぞれの電線の端末の絶縁被覆を除去し、内部の導体を露出させて、導体同士を撚り合わせる等して直線状に結合する。このとき必要に応じて結合部分を絶縁テープ等で巻回してもよい。
【0016】
次に、導体同士を結合した電線20,20を、図5に示すように、カバー3を開位置とした接続部材1の上面にセットし、導体同士の結合部分を端末保持部4の収容溝6に収容する。このとき、結合部分がテープ巻き等によって径が太くなっていても、収容溝6によって位置決めは可能である。
結合部分のセット後、カバー3を同図矢印のように閉位置へ回転させると、弾性片11の係止孔12が係止突起7に係止してカバー3が閉位置で固定される。これにより両電線20,20の結合部分が覆われ、両電線20,20はカバー3両端の出入口10,10からそれぞれ相反方向へ引き出される格好で保持される。
【0017】
そして、各電線20を、それぞれ対応する電線保持部5において、まず第1係止溝13Aの導入部14から引き入れてその終端まで導くことで係止部15を上から下へ貫通させた後、今度は第2係止溝13Bの導入部14から引き入れてその終端まで導くことで係止部15を下から上へ貫通させて本体2の端部側へ引き出す。すると、各電線20は、図5に示すように電線保持部5の第1、第2係止溝13A,13Bで係止され、外から引張力が加わっても第2係止溝13B若しくは第1係止溝13Aの位置でとどまり、端末保持部4まで伝わることはない。
【0018】
なお、この状態で電線20,20の電気的接続及び保持は完了しているが、必要に応じて接続部材1へ電線20,20ごと絶縁テープを巻回してさらなる一体化を図ってもよい。ここでは端末保持部4が電線保持部5よりも厚みが大きくなっているので、絶縁テープを巻回した際に長手方向にずれるおそれがなく、しっかりと固定できる。
また、接続する電線20の径が太くて各係止溝13A,13Bに係止できない場合は、各電線保持部5において電線5を絶縁テープで巻回すればよい、この場合は突条16が電線20に押圧して滑り止め作用を生じさせるため、電線保持部5と電線20との一体化は図られる。
【0019】
このように、上記形態の接続部材1及び接続方法によれば、導体同士を接続した電線20,20を端末保持部4にセットしてカバー3を閉じ、各電線20を電線保持部5の第1、第2係止溝13A,13Bへ係止させれば、電線20,20の電気的接続とその保持とが可能となる。従って、電線20,20同士の接続に係る作業性が良好となる。また、外力による電線20,20の外れ等を好適に防止できるため、電気的接続の信頼性にも優れたものとなる。
【0020】
特にここでは、係止溝を、側方からの導入側が互いに逆となる一対の第1、第2係止溝13A,13Bとすると共に、カバー3の開閉方向を、側方からの導入方向と交差するように設定しているので、2つの係止溝13A,13B間での電線20の抜け方向が互いに逆となり、電線保持部5から電線20が抜けにくくなる。また、各係止溝13A,13Bにおける電線20の抜け方向(本体2の幅方向)と、カバー3の閉位置からの開放方向(上下方向)とが交差して、電線保持部5と各係止溝13A,13Bとに電線20を外す力が同時に加わることがないため、電線20は一層外れにくくなる。
【0021】
また、各係止溝13A,13Bの内面を、電線20の配設方向に沿って傾斜させているので、各係止溝13A,13Bに対する電線20の係止がしやすくなって作業性が向上する上、係止後の電線20が電線保持部5に沿って引き回され、大きく突出しないので、省スペースとなって周囲との接触による損傷や外れの可能性も低減される。さらに、各係止溝13A,13Bから電線20へ加わるストレスも小さくて済むため、電線20の耐久性の向上も期待できる。
加えて、各係止溝13A,13Bを、側方から形成される導入部14と、その導入部14の終端から配設方向に形成される係止部15とからなるL字状としたことで、電線20の外れ防止に好適な形状となる。
【0022】
なお、端末保持部や電線保持部の形態は適宜変更可能で、例えば端末保持部ではカバーの位置を逆にしたり、端末保持部とカバーとの横断面形状を半円にしたり、カバーを幅方向に一対設けて幅方向に開閉させたり等してもよい。また、カバーと端末保持部との係止構造も、係止突起と弾性片とを互いの逆側に設けたり、端部間に設けた凹凸の嵌合等の他の構造を採用したりしても差し支えない。さらにはカバーを端末保持部と別体に設けることも可能である。
一方、電線保持部も、係止溝は1つであってもよいし、係止部を短くしたり、係止部をなくして導入部のみとしたりできる。係止溝の内面における傾斜の省略も可能である。また、導入部の角度は、上記形態のようにカバーの開方向に対して直交するのが望ましいが、直交でなくとも交差状であれば電線の外れ防止効果は得られるため、適宜角度を変更してもよい。
【0023】
その他、突条の数や位置を変更したり、端末保持部を電線保持部よりも幅方向の寸法を大きくしたり、端末保持部と電線保持部との間を薄肉にして可撓性を持たせたりすることも考えられる。
そして、電線は相反方向で一本ずつで限定するものではなく、一方側又は双方側が複数の電線であっても、端末保持部及び電線保持部での保持が可能であれば、本発明は採用可能である。なお、係止溝が複数の場合は複数の電線を異なる係止溝に係止させてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1・・接続部材、2・・本体、3・・カバー、4・・端末保持部、5・・電線保持部、6・・収容溝、7・・係止突起、8・・保護壁、9・・ヒンジ部、10・・出入口、11・・弾性片,13A・・第1係止溝、13B・・第2係止溝、14・・導入部、15・・係止部、16・・突条、20・・電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相反方向から直線状に配設されて端末の導体同士を結合する複数の電線を保持するために用いられる電線の接続部材であって、
前記導体同士の結合部分を収容すると共に、当該結合部分を覆うカバーを開閉可能に備えた端末保持部と、その端末保持部を挟んで前記電線の配設方向の前後に延設され、電線を前記配設方向と交差する側方から導入させて係止可能な係止溝をそれぞれ有する一対の電線保持部とを備えたことを特徴とする電線の接続部材。
【請求項2】
前記係止溝を、前記側方からの導入側が互いに逆となる一対の係止溝とすると共に、前記カバーの開閉方向を、前記側方からの導入方向と交差するように設定したことを特徴とする請求項1に記載の電線の接続部材。
【請求項3】
前記係止溝の内面を、前記電線の配設方向に沿って傾斜させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線の接続部材。
【請求項4】
前記係止溝を、前記側方から形成される導入部と、その導入部の終端から前記配設方向に形成される係止部とからなるL字状としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電線の接続部材。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の電線の接続部材に、相反方向から直線状に配設された電線の端末をセットして、両端末の導体同士を結合して当該結合部分を前記端末保持部に収容し、前記カバーで覆った後、各方向の電線をそれぞれ対応する前記電線保持部の前記係止溝に導入させて係止することを特徴とする電線の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−210627(P2011−210627A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78718(P2010−78718)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】