説明

電線

【課題】 水切れ性が改善され、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した電線を提供する。
【解決手段】 最外層を複数本の撚り合わせた素線により構成した電線において、前記複数本の素線の少なくとも1本の高さを他の素線より低くして、前記低い素線及びその両側の高い素線により、電線の表面に溝部を形成し、かつ前記低い素線の表面には親水化処理を施したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素線を撚り合わせてなる電線に係り、特に、防食性に優れるとともに、コロナ放電及びコロナ騒音を低減した防食電線に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、架空送電線は、アルミニウムの裸導体を撚り合せた複数本の素線により構成される。このような架空送電線は、降雨があると、素線に雨滴が付着し、この雨滴からコロナ放電が生じるという現象がある。このコロナ放電は、送電線近辺のラジオ電波障害を引き起こす。また、このコロナ放電に伴い、可聴音(コロナ騒音)が発生し、送電線下の住民からの騒音苦情を引き起こしてしまう。
【0003】
架線直後は、表面に製造時の油分が付着しているため、雨滴は形成されやすいが、架線後、時間の経過とともに表面の油分は流れ落ち、またアルミニウムからなる素線の表面が酸化することで、電線表面の親水性化が進み、降雨による水分は粒状にならずに電線表面に広がり、コロナ放電の発生は徐々に低減するのが一般的であった。
【0004】
しかし、架空送電線の中央部の素線間に空隙があると、降雨時に水分が入り込み、そこに蓄えられてしまう。内部の空隙に蓄えられた水分は、架空送電線表面の水滴が消失しても、それを補給する形で表面にしみ出て、水滴を形成し、コロナ放電を発生させてしまう。
【0005】
このコロナ放電の防止を目的として、素線間に非油性充填材を満たすことが提案されているが(例えば、特許文献1参照)、通常の非油性充填材では粘度が高いため、電線の内部に充填することは困難である。
【0006】
一方、海岸近傍の腐食環境中に架線される架空送電線には、防食対策として一般的に電線表面及び電線間に防食グリスを被覆・充填させる方法が採られており、そのように防食が施された電線では、内部に防食グリスが充填される。
【0007】
このような防食電線では、空隙がグリスで埋められているため、水が入り込むことが出来ず、従って、水がしみ出て水滴を形成し、コロナ放電を発生する現象を防止できるのではないかとも考えられる。
【0008】
しかし、実際には、降雨時の雨水は防食グリスに染み込み、グリスと雨水が一緒に少しづつ電線表面に流れ出てしまう。電線内部に充填されたグリスが電線表面に流れ出して電線表面に残存するため、電線表面に油分が残留する状態が長期間継続する。そのため、降雨時には電線表面に水滴が粒状に付着し、コロナ放電が発生してしまう。
【0009】
このような雨水の防食グリスへの染み込み及びグリスの電線表面への流れ出しを防止するため、内層に嵌合型セグメント層を設け、その内側にグリスを充填した防食低コロナ電線が提案されているが(例えば、特許文献2参照)、雨水の防食グリスへの染み込み及びグリスの電線表面への流れ出しを防止する効果はあるものの、表面の水切れ性が必ずしも十分ではない。
【0010】
また、最外層を構成する複数本の撚り合わせた丸素線の一部の径を他より大きくした素線を用い、即ち電線の表面から太い丸素線を突出させることにより風騒音を防止すると共に、この太い丸素線の突出により増加するコロナの発生を電線の径を大きくして電線表面の電位傾度を小さくすることにより防止した低コロナ低風騒音電線が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
しかし、この電線は、電線表面の水滴によるコロナ発生、コロナ放電及びコロナ騒音に対し、十分考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−255554号公報
【特許文献2】特開2007−250538号公報
【特許文献3】特許第2583300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような事情の下になされ、水切れ性が改善され、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、最外層を複数本の撚り合わせた素線により構成した電線において、前記複数本の素線の少なくとも1本の高さを他の素線より低くして、前記低い素線及びその両側の高い素線により、表面に溝部を形成し、かつ前記低い素線の表面には親水化処理を施したことを特徴とする電線を提供する。ここで、「高さ」とは、電線の径方向に沿う素線の寸法をいう。
【0015】
本発明において、丸素線を撚り合わせて最外層を形成する場合は、前記低い素線として、他の素線より小径のものを用いるとよい。
【0016】
以上の防食電線において、前記最外層の内側に複数のセグメント素線を撚り合わせたセグメント層を備え、セグメント層の内側に防食グリスを充填した構成とすることが出来る。また、このセグメント層は、一方の側面に凹部を設けるとともに他方の側面に凸部を設けた複数のセグメント素線を、隣接するセグメント素線の一方のセグメント素線の側面の凹部と他方のセグメント素線の側面の凸部を嵌合させて形成することが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、最外層を構成する複数本の素線の少なくとも1本の高さを他の素線より低くして、低い素線及びその両側の高い素線により表面に溝部を形成し、かつ低い素線の表面に親水化処理を施しているため、内層を通して表面に出てきた水滴が、溝部に集められ、まとまって落下することで、電線表面の水切れ性を大幅に改善することが出来、その結果コロナ騒音を効果的に抑制することが出来る。
【0018】
また、溝部による凹凸が存在することにより、電線が風を受けることで発生するカルマン渦を乱すことが出来、電線から発生する風騒音を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る低コロナ電線を示す断面図。
【図2】セグメント素子を取り出して示す断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る電線を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る防食低コロナ電線の断面を示すものである。本実施形態に係る防食低コロナ電線は、鋼撚線からなる心線1の周りに円形断面のアルミ素線を撚り合わせたアルミ撚線層2を設け、この撚線層2の上を略断面台形のセグメント素線を撚り合わせたセグメント層3で囲繞し、その外側を円形断面の素線の撚線層4で覆ったものである。
【0022】
撚線層4は、2本の径の小さい丸素線4aと、多数本の径の大きい丸素線4bとからなる。径の小さい丸素線4aは対向して配置されていて、その両側の径の大きい丸素線4bとの間に溝部5が形成されている。なお、径の小さい丸素線4aの本数は、図1に示す例では2本であるが、2本に限らず、多数本とすることが出来る。この場合、径の小さい丸素線4aは、電線の周方向に均一に配置されるのが望ましい。
【0023】
また、図1に示す例では、径の大きい丸素線4bの間に1本の径の小さい丸素線4aが挟まれた構造となっているが、並置された2本又はそれ以上の丸素線4aが丸素線4bにより挟まれた構造であってもよい。しかし、並置された丸素線4aの本数が多すぎる場合には溝部の幅が広すぎて、水滴を大きくするには適さないので、せいぜい数本程度とするのがよく、1本にするのが最も望ましい。
【0024】
径の小さい丸素線4aの直径は、2.0〜3.5mm、径の大きい丸素線4bの直径は、2.3〜4.5mm程度であるのが望ましい。丸素線4aの径が小さすぎる場合には、形成される溝部の幅が狭すぎて、水滴がたまりにくくなって、水切れ性が劣り、大きすぎる場合には、溝部の深さが小さくなって、同様に水切れ性が劣る結果となる。
【0025】
撚線層4の径の小さい丸素線4a,4bの表面には、親水化処理が施されている。親水化処理の具体的方法は特に限定されないが、ベーマイト処理、サンドブラスト処理、アルカリ水溶液による処理、又はそれらの組合せを用いることが出来る。
【0026】
セグメント層3の内側の空隙には防食グリス6が充填されている。セグメント層3の外側には、防食グリスは充填されていない。
【0027】
アルミ撚線層2,4を構成するアルミ素線は、アルミニウムやアルミニウム合金に限らず、銅等からなる導電体または表面が導電体である素線(たとえばアルミ被覆鋼線)に代替することもできる。
【0028】
以上のように構成された本発明の一実施形態に係る防食低コロナ電線では、最外層を構成する撚線層4が、2本の径の小さい丸素線4aと、多数本の径の大きい丸素線4bとから構成されており、丸素線4aとその両側の丸素線4bにより表面に溝部5が形成されている。また、径の小さい丸素線4aの表面に親水化処理が施されている。そのため、内層を通して表面に出てきた水滴が、溝部5に集められ、まとまって落下することで、電線の水切れ性を大幅に改善することが出来、その結果、コロナ騒音を抑制することが出来る。
【0029】
また、電線表面に溝部5による凹凸が存在することにより、電線が風を受けることで発生するカルマン渦を乱すことが出来、電線から発生する風騒音を抑制することが出来るという効果もある。
【0030】
図2(a)は、セグメント層3を構成するセグメント素線11を示し、このセグメント素線11は、断面台形で、角部は丸められており、側面には凸嵌合部12と凹嵌合部13とを備えている。凸嵌合部12は、断面台形の電線周方向の一方の側面に素線の長手方向に連続して設けられ、凹嵌合部13は、断面台形の電線周方向の他方の側面に素線の長手方向に連続して設けられている。凸嵌合部12と凹嵌合部13は、セグメント素線11を撚り合わせたときに、隣接し合う一方の素線の一側面の凸嵌合部12と、他方の素線の側面の凹嵌合部13が嵌合し合うように形成されている。
【0031】
このようなセグメント素線11の凸嵌合部12と凹嵌合部13とを嵌合面14において嵌合させ、撚り合わせたセグメント層3の一部を図2(b)に示す。セグメント素線11は、アルミ合金や銅等からなる導電体または表面が導電体である素線(たとえばアルミ被覆鋼線)である。
【0032】
このように電線周方向の両側面に凸嵌合部12と凹嵌合部13を設けたセグメント素線11をアルミ撚線層2の外側において撚り合わせ、セグメント層3を形成することにより、撚り合わせの隣接素線の凸嵌合部12と凹嵌合部13が互いに嵌合面14において嵌合するので、各セグメント素線11の電線径方向のずれが防止され、肩立ちや線浮きの防止効果が大になる。また、隣接素線の凸嵌合部12と凹嵌合部13が嵌合することにより、隣接素線間の嵌合面14の接触面積が大きくなってセグメント素線11間の間隙が狭くなり、かつ接触嵌合面14が湾曲しているため、降雨の際に雨水が内部に入り込みにくくなり、また内部に充填されているグリスが染み出るのを防止することができる。
【0033】
しかも、万一、雨水が内部に入り、それがセグメント層3を通して表面に出てきたとしても、セグメント層の表面に出てきた水滴は、溝部5に集中し、まとまって落下することで、電線表面の水切れ性が大幅に改善され、その結果、より大きなコロナ放電・コロナ騒音防止効果を得ることができる。
【0034】
(実施形態2)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電線の断面を示すものである。本実施形態が前記実施形態1と異なる点は、セグメント層3の外周面に溝11aを設けた点である。溝11aは、各セグメント素線11の外面に設けられている。セグメント層3のセグメント素線11と撚線層4の丸素線4a,4bは逆向きに撚られており、セグメント層3の溝11aと撚線層4の親水化処理された細い丸素線4aは電線の長さ方向に断続的に交差している。
【0035】
この実施形態の電線では、撚線層4を通過してセグメント層3の表面に達した雨水は、セグメント層3の溝11aを通じて、これと交差する親水化処理された細い丸素線4aから撚線層4の表面側の溝部5に導出される。この溝部5に集まった水は、まとまって落下するので、電線の水切れ性を大幅に改善することが出来、その結果、コロナ騒音を抑制することが出来る。
【符号の説明】
【0036】
1・・・鋼線、2…アルミ撚線層、3,3a,3b…セグメント層、4…撚線層、4a…径の小さい丸素線、4b…径の大きい丸素線、5…溝部、6…グリス、11…セグメント素線、11a…セグメント素線、12…凸嵌合部、13…凹嵌合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層を複数本の撚り合わせた素線により構成した電線において、前記複数本の素線の少なくとも1本の高さを他の素線より低くして、前記低い素線及びその両側の高い素線により、電線の表面に溝部を形成し、かつ前記低い素線の表面には親水化処理を施したことを特徴とする電線。
【請求項2】
前記素線が丸素線であり、前記低い素線が、他の素線より小径の丸素線であることを特徴とする請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記最外層の内側に、複数のセグメント素線を撚り合わせたセグメント層を備え、セグメント層の内側に防食グリスを充填したことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−150814(P2011−150814A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9388(P2010−9388)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】