説明

電解加工装置及び電解加工方法

【課題】平面部及びエッジ部ともに加工精度が高い電解加工装置及び電解加工方法を提供する。
【解決手段】所定位置で固定された平面形状の被加工金属の両面に対向するとともに、被加工金属の各面との距離が変更可能に設置される一対の第1電極10Aと、被加工金属を陽極とし、第1電極10Aを陰極として電圧を印加する第1電圧印加部11Aと、電圧が印加された第1電極10Aと被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第1送出部16と、第1電圧印加部11Aによる電圧の印加で加工された被加工金属の端部であるエッジに対向するとともに、固定される被加工金属の各エッジとの距離が変更可能に設置される一対の第2電極10Bと、被加工金属を陽極とし、第2電極10Bを陰極として電圧を印加する第2電圧印加部と、電圧が印加された第2電極10Bと被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第2送出部16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工金属を電解加工する電解加工装置及び電解加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービン翼、コンプレッサ翼またはジェットエンジン翼等の翼の生成、自動車部品の生成に、加工速度が速く、精度も高いことから、電解加工(electrochemical machining、ECM)が多く用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
電解加工技術は、電極と被加工金属の間に電解液を介して数Vから数十Vの電圧を印加し、電気化学反応により被加工金属を電解液に溶出する。一般的には、電極を被加工金属に近づけることで、電極の形状に沿った形状に被加工電極を加工することができる。また、電解液には、硝酸ナトリウムや塩化ナトリウムなどの電解質が用いられる。
【0004】
例えば、翼の加工においては、被加工金属の両側から、電極をある所定の速度で被加工金属の方向へ移動させるが、電極を送るストロークが翼の加工精度の重要な因子となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−113617号公報
【特許文献2】特開平10−166225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加工において平面部である電極の厚さ方向(翼圧面)に関してはストロークを変化させたり、送り速度を変化させて比較的精度よく加工することができるが、エッジ部(翼端部)は加工が困難で加工精度が劣る問題があった。この原因としては、エッジ部には電流が集中するため、翼圧面と比べると因子の影響を受けやすく、薄くなりすぎたり厚くなったりしやすい。
【0007】
上記課題に鑑み、平面部及びエッジ部ともに加工精度が高い電解加工装置及び電解加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、所定位置で固定された平面形状の被加工金属の両面に対向するとともに、被加工金属の各面との距離が変更可能に設置される一対の第1電極と、被加工金属を陽極とし、被加工金属との距離が調整される第1電極を陰極として電圧を印加する第1電圧印加部と、電圧が印加された第1電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第1送出部と、第1電圧印加部による電圧の印加で加工された被加工金属の端部である各エッジに対向するとともに、固定される被加工金属の各エッジとの距離が変更可能に設置される一対の第2電極と、被加工金属を陽極とし、被加工金属との距離が調整される第2電極を陰極として電圧を印加する第2電圧印加部と、電圧が印加された第2電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第2送出部とを備える。
【0009】
また、請求項2の発明は、所定位置で固定された平面形状の被加工金属の両面を、一対の第1電極に対向させるとともに、被加工金属の各面と第1電極との距離を変更するステップと、被加工金属を陽極とし、第1電極を陰極として電圧を印加するステップと、電圧が印加された第1電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出するステップと、電圧が印加されて加工された被加工金属の端部である各エッジに、一対の第2電極を対向させるとともに、被加工金属の各エッジと第2電極との距離を変更するステップと、被加工金属を陽極とし、第2電極を陰極として電圧を印加するステップと、電圧が印加された第2電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平面部及びエッジ部ともに加工精度が高い電解加工装置及び電解加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る電解加工装置を説明する断面図である。
【図2】図1の電解加工装置における加工を説明する上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。実施形態に係る電解加工装置及び電解加工方法は、タービン翼、コンプレッサ翼またはジェットエンジン翼等の翼、自動車部品等の部品の加工に利用される。具体的には、実施形態に係る電解加工装置及び電解加工方法は、平面形状の金属を材料として、平面形状の翼や部品に加工する。以下では、タービン翼、コンプレッサ翼又はジェットエンジン翼等の翼を加工する一例で説明する。また、以下の説明において、同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0013】
図1の断面図及び図2(a)の上面図に示すように、実施形態に係る電解加工装置1は、平面形状の被加工金属20の両面に対向して設置される一対の第1電極10Aと、第1電極10Aを陰極とし、被加工金属20を陽極として電圧を印加する第1電源11Aと、電圧が印加された第1電極10Aと被加工金属20との間に電解液21が流れるように、電解液21を送出する供給部16とを備えている。また、図2(b)の上面図に示すように、電解加工装置1は、第1電源11Aに印加されて加工された被加工金属20の端部であるエッジに対向して設置される一対の第2電極10Bと、第2電極10Bを陰極とし、被加工金属20を陽極として電圧を印加する第2電源(図示せず)とを備え、供給部16は、電圧が印加された第2電極10Bと被加工金属20との間に電解液21が流れるように、電解液21を送出する。
【0014】
さらに、電解加工装置1は、図1及び図2に示すように、第1電極10Aの位置を駆動する第1駆動機構12Aと、第2電極10Bの位置を駆動する第2駆動機構12Bと、被加工金属20を支持する支持具13と、支持具13が取り付けられるテーブル14と、第1電極10A、第1駆動機構12A、第2電極10B、第2駆動機構12B、支持具13及びテーブル14が内部に備えられるとともに電解液21が供給される電解液槽15と、電解液21を電解液槽15に供給する供給部16と、使用後の電解液21を再生処理する処理部17とを備えている。
【0015】
電解液槽15内では、一対の第1電極10Aは、支持具13を間に対向して配置されている。この第1電極10Aは、被加工金属20の翼圧面201が目的の形状になるような形状に形成されている。このとき、第1電極10Aの一部が絶縁物で被覆され、被加工金属20の各箇所を目的の電流密度で加工する構成であってもよい。また、第1電極10Aは、第1駆動機構12Aによって、第1電極10Aと支持具13とを結ぶ直線x方向に移動可能である。
【0016】
電解液槽15内では、一対の第2電極10Bも、支持具13を間に対向して配置されている。この第2電極10Bは、被加工金属20の翼端202が目的の形状になるような形状に形成されている。このとき、第2電極10Bの一部が絶縁物で被覆され、被加工金属20の各箇所を目的の電流密度で加工する構成であってもよい。また、第2電極10Bは、第2駆動機構12Bによって、第2電極10Bと支持具13とを結ぶ直線y方向に移動可能である。
【0017】
ここで、図2に示す例では、直線xと直線yとは直交する一例で示しているが、第1電極10Aと第2電極10Bの位置関係は限定されない。すなわち、第1電極10Aと第2電極10Bの位置関係は、被加工金属20の形状や電極10A及び10Bの形状に応じて、第1電極10Aが被加工金属20の翼圧面201を加工可能であり、第2電極10Bが被加工金属20の翼端202を加工可能であるように定められていれば良い。
【0018】
電解加工装置1では、第1工程で被加工金属20の翼圧面(平面)201を加工した後、第2工程で翼端(エッジ)202を加工する。したがって、第1工程における翼圧面201の加工の際には、翼端202は目的の形状よりも大きくなるように余肉部を設けて加工し、その後、第2工程において翼端202を精密に加工する。
【0019】
具体的には、第1工程において、まず、支持具13は、被加工金属20を支持する。その後、供給部16は、電解液槽15に電解液21を供給する。ここで、供給部16は、電極10A,10B及び被加工金属20が浸水する量の電解液21を電解液槽15に供給する必要がある。例えば、供給部16は、電解液槽15に供給する電解液21を貯留する水槽、電解液21を電解液槽15に送出するポンプ、電解液21を適切な温度に処理する熱交換器等を有している。
【0020】
電極10A,10B及び被加工金属20が電解液21に浸水すると、第1電源11Aが、第1電極10Aを陰極とし、被加工金属20を陽極として電圧を印加する。
【0021】
第1電源11Aが電圧を印加すると、図1及び図2(a)に示すように、第1駆動機構12Aは、第1電極10Aを直線x上で移動させる。このとき、第1駆動機構12Aは、所定の時間間隔で、第1電極10Aを所定の距離に移動させ、第1電極10Aと被加工金属20の翼圧面201との間隔を調整する。これにより、被加工金属20の翼圧面201が電解加工される。
【0022】
ここで、被加工金属20の翼圧面201を電解加工する際には、図1に示すように、第1電極10Aと被加工金属20の翼圧面201との間に電解液21の流れが形成される。供給部16が、供給ラインL1,L2を介して電解液槽15に電解液21を継続して供給することで、第1電極10Aと被加工金属20の翼圧面201との間に電解液21の流れを形成することができる。なお、図1に示す例では、第1電極10Aに設けられる流路101から第1電極10Aと被加工金属20の翼圧面201との間に電解液21が供給され、この第1電極10Aと翼圧面201との間に流れを形成していれば、電解液21の流れの開始位置は限定されない。したがって、例えば、水面方向や底面方向から電解液21を流す構成であってもよい。
【0023】
なお、電解液21の流れを形成することで、(1)電解反応に伴う発熱を除去することができるとともに、(2)加工によって削れたスラッジを第1電極10Aと翼圧面201との間から除去することができる。したがって、被加工金属20を精度良く加工するためには、電解液21を高速で流すことが好ましい。
【0024】
また、電解加工装置1では、電解加工で使用された電解液21を回収ラインL3を介して処理部17に回収して再生処理し、循環ラインL4を介して供給部16に循環させることが好ましい。これにより、使用済みの電解液21を再利用することができる。例えば、処理部17は、電解液槽15から回収した使用済みの電解液21を貯留する水槽、使用済みの電解液21を再生処理する処理装置、再生処理された電解液21を供給部16に送出するポンプ等を有している。
【0025】
第1電極10Aを利用した被加工金属20の翼圧面201の電解加工が終了し、第1電源11Aによる電圧の印加が終了すると、支持具13が被加工金属20を支持した状態で、第1駆動機構12Aは、被加工金属20から遠ざける方向に第1電極10Aを移動する。ここで、翼圧面201の電解加工が終了したと判断するタイミングとしては、例えば、第1電極10Aと被加工金属20の間に電流計を設置し、第1電源11Aで電圧を印加した場合に計測された電流量の積算値が所定の値に達したときに翼圧面201の電解加工が終了したと判断して電圧の印加を終了して第1工程を終了する。なお、電圧の印加が終了した時点では、電解液21の流れは不要であるため、供給部16は、電解液槽15への電解液21の供給を停止してもよい。
【0026】
このように、第1工程が終了すると、続いて第2工程において、第2電源が、第2電極10Bを陰極とし、被加工金属20を陽極として電圧を印加する。
【0027】
第2電源が電圧を印加すると、図2(b)に示すように、第2駆動機構12Bは、第2電極10Bを直線y上で移動させる。このとき、第2駆動機構12Bは、所定の時間間隔で、第2電極10Bを所定の距離に移動させ、第2電極10Bと被加工金属20の翼端202との間隔を調整する。これにより、被加工金属20の翼端202が電解加工される。
【0028】
第2工程において被加工金属20の翼端202を電解加工する際の電解加工装置1の断面図は省略するが、ここでも、第2電極10Bと被加工金属20の翼端202との間に電解液21の流れが形成されている。供給部16は、電解液槽15への電解液21の供給を開始し、継続して電解液21を供給することで、第2電極10Bと被加工金属20の翼端202との間に流れを形成することができる。これにより、被加工金属の翼圧面201の電解加工で残された翼端202の余肉部が電解加工される。また、この場合も、使用済みの電解液21を処理部17で再生することで、電解液21を再利用することができる。
【0029】
第2電極10Bを利用した被加工金属20の翼端202の電解加工が終了し、第2電源による電圧の印加が終了すると、支持具13が被加工金属20を支持した状態で、第2駆動機構12Bは、被加工金属20から遠ざける方向に第2電極10Bを移動する。ここで、翼端202の電解加工が終了したと判断するタイミングとしては、例えば、第2電極10Bと被加工金属20の間に電流計を設置し、第2電源で電圧を印加した場合に計測された電流量の積算値が所定の値に達したときに翼端202の電解加工が終了したと判断することができる。また、翼端202が加工されて電圧の印加が終了すると、供給部16は、電解液槽15への電解液21の供給を停止し、第2工程が終了する。
【0030】
なお、図2に示す例では、第1工程で第1電極10Aにより翼圧面201を加工し、第2工程で第2電極10Bにより側端である翼端202を加工するものとして説明したが、図1に示すような上側端部203や下側端部204の加工が必要な場合、電極の形状を変更することで加工が可能となる。例えば、第1電極10Aを上側端部203や下側端部204まで覆うようなコの字型にしたり、第2電極10Bを上側端部203や下側端部204まで覆うようなコの字型にして、上側端部203や下側端部204の加工が可能になる。
【0031】
上述したように、実施形態に係る電解加工装置及び電解加工方法では、平面状の被加工金属を加工する際、第1工程で平面を加工後、第2工程で加工が困難なエッジ部を加工している。これにより、エッジ部についても精度よく加工することが可能となり、金属加工の精度を向上することができる。
【0032】
以上、各実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0033】
1…電解加工装置
10A…第1電極
10B…第2電極
11A…第1電源(第1電圧印加部)
12A…第1駆動機構
12B…第2駆動機構
13…支持具
14…テーブル
15…電解液槽
16…供給部(第1送出部、第2送出部)
17…処理部
L1,L2…供給ライン
L3…回収ライン
L4…循環ライン
20…被加工金属
201…翼圧面
202…翼端
21…電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定位置で固定された平面形状の被加工金属の両面に対向するとともに、前記被加工金属の各面との距離が変更可能に設置される一対の第1電極と、
前記被加工金属を陽極とし、前記被加工金属との距離が調整される前記第1電極を陰極として電圧を印加する第1電圧印加部と、
電圧が印加された前記第1電極と前記被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第1送出部と、
前記第1電圧印加部による電圧の印加で加工された前記被加工金属の端部である各エッジに対向するとともに、固定される前記被加工金属の各エッジとの距離が変更可能に設置される一対の第2電極と、
前記被加工金属を陽極とし、前記被加工金属との距離が調整される前記第2電極を陰極として電圧を印加する第2電圧印加部と、
電圧が印加された前記第2電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出する第2送出部と、
を備えることを特徴とする電解加工装置。
【請求項2】
所定位置で固定された平面形状の被加工金属の両面を、一対の第1電極に対向させるとともに、前記被加工金属の各面と前記第1電極との距離を変更するステップと、
被加工金属を陽極とし、前記第1電極を陰極として電圧を印加するステップと、
電圧が印加された前記第1電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出するステップと、
電圧が印加されて加工された被加工金属の端部である各エッジに、一対の第2電極を対向させるとともに、前記被加工金属の各エッジと前記第2電極との距離を変更するステップと、
被加工金属を陽極とし、前記第2電極を陰極として電圧を印加するステップと、
電圧が印加された前記第2電極と被加工金属との間に電解液が流れるように、電解液を送出するステップと、
を備えることを特徴とする電解加工方法。

【図1】
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【図2】
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