説明

電解水生成装置

【課題】陽極室120と陰極室130との水位が電気分解中においても調整可能な電解水生成装置100を提供する。
【解決手段】陽極室120と陰極室130とこれらを隔てる隔壁を備えた電解水生成装置100において、陽極室120と陰極室130とが切り欠き141により連通しており、且つ、切り欠き141が予定水面位置またはその近傍に設けられている、ことを特徴とする電解水生成装置100である。陽極室120には、陽電極板160が設けられており、陽電極板160には、電気線191を介して、正電圧が印加される。他方、陰極室130には、陰電極板170が設けられており、陰電極板170には、電気線192を介して、負電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解により電解水を生成する電解水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、隔膜を介して陽極室と陰極室とを形成し、水を電気分解して電解水を生成する電解槽と、陽極室内の水位表示手段と、陰極室と陽極室を連通する連通手段からなる電解水生成装置が提案された(特許文献1参照)。この電解水生成装置においては、電解槽に水を投入した後、陰極室と陽極室の連通を閉鎖して電解を行うことが可能となる。また、陰極室と陽極室の間に上下移動可能な仕切りを設け、フタ開時に仕切りが上方に移動することで陰極室と陽極室が連通させ、フタ閉時にフタを付勢して移動し、陰極室と陽極室とを仕切ることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−181386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の電解水生成装置では、電気分解を行う前、すなわち、陽極室と陰極室に水を注ぐ段階でこそ、陽極室と陰極室の水位が調整されるものの、電気分解中は、陽極室と陰極室の水位を調整することが困難であった。一方、電解中は、陰極室の水位が陽極室の水位よりも高くなりやすい。このため、上記従来の電解水生成装置では、電気分解中に、陰極室から陰極水が溢れ出す可能性があった。また、上記従来の電解水生成装置では、電気分解によって陰極室の水位が陽極室の水位よりも高くなる結果、陰極室からは取り出される陰極水の量が多くなり、陽極室から取り出される陽極水の量が多くなる。
そこで、本発明は、陽極室と陰極室との水位が電気分解中においても調整可能な電解水生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、上記課題は、次の手段により、解決される。
【0005】
本発明は、陽極室と陰極室とこれらを隔てる隔壁を備えた電解水生成装置において、前記陽極室と前記陰極室とが連通手段により連通しており、且つ、前記連通手段が予定水面位置またはその近傍に設けられている、ことを特徴とする。
ここで、連通手段は、電気分解中も陽極室と陰極室とを連通させ、電気分解中も陽極室と陰極室との水位を調整する。
また、電気分解の終了後には、まず陽極室から陽極水が排出された後、陰極室から陰極水が排出される場合や、まず陰極室から陰極水が排出された後、陽極室から陽極水が排出される場合がある。また、陽極水と陰極水とを同時に排出する場合であっても、陽極室または陰極室のいずれか一方の排出が排出口の詰まりなどにより滞ってしまう場合がある。このように陽極水及び陰極水の電解槽からの排出の順番が相前後する理由は様々に考えられるが、この際、陽極室の水位が陰極室の水位よりも高いと、陽極室の陽極水が陰極室に流れ込んでしまうし、また、陰極室の水位が陽極室の水位よりも高いと、陰極室の陰極水が陽極室に流れ込んでしまう。そこで、本発明は、前記連通手段が予定水面位置またはその近傍に設けられていることとして、陽極室及び陰極室の水位が連通孔よりも下位または同位置となるようにする。陽極室及び陰極室の水位が連通孔よりも下位または同位置になれば、陽極室及び陰極室のいずれか一方から他方に陰極水または陽極水が流れ込むことがないため、電気分解終了後に、陰極水及び陽極水を中和させることなく、電解水生成装置から取り出すことが可能となる。
【0006】
本発明においては、陽極室と陰極室とこれらを隔てる隔壁を備えた電解水生成装置において、前記陽極室と前記陰極室とが連通手段により連通しており、 前記連通手段の断面積と、前記陽極室と前記陰極室とに収容される水量と、が次式に従うものを含む。
【数1】

このようにすれば、電気分解終了後(正電極板および負電極板への通電終了後)10秒以内における、連通手段を設けない場合に対する陽極水と陰極水のpHの変化量が略1.0以下となる。なお、連通手段の断面積は、連通孔の軸線と垂直に交わる面の断面積であればよく、開口面の面積である必要はない。
陽極室と陰極室とは、これを電気分解中に連通させると、陽極水と陰極水とが中和してしまい、電解槽を陽極室と陰極室とに仕切った意味がなくなってしまう、というのが、これまでの一般的な考え方である。上述した従来の電解水生成装置も、電解槽に水を投入した後は、陰極室と陽極室の連通を閉鎖して電解を行い、また、フタ閉時にフタを付勢して移動し、陰極室と陽極室とを仕切っている。しかしながら、本発明によれば、陽極室と陰極室とを連通させる手段を上記の構成とするため、陽極室で生成された陽極水と陰極室で生成された陰極水との中和の程度が、実用上無視できる程度に小さくなる。
ここで、連通手段は、予定水面位置またはその近傍に設けられていることが好ましい。
【0007】
また、本発明は、前記連通手段が隔壁に設けた切欠きである場合や、前記連通手段が隔壁に設けた孔である場合を含む。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、陽極室と陰極室との水位が電気分解中においても調整可能となる。したがって、本発明によれば、電気分解中に、陰極室から陰極水が溢れ出すことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、添付した図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係る電解水生成装置100の概略斜視図であり、図2(a)は本発明の実施の形態に係る電解水生成装置100の上面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図、図2(c)は図2(a)のB−B断面図である。
実施の形態に係る電解水生成装置100は、電解槽110と、蓋200と、を備えている。電解槽110は、陽極室120と陰極室130とを有しており、陽極室120と陰極室130とは、隔膜150で仕切られている。隔膜150は、仕切壁140で支持されており、仕切壁140には、連通手段の一例である切り欠き141が設けられている。陽極室120には、陽電極板160が設けられており、陽電極板160には、電気線191を介して、正電圧が印加される。他方、陰極室130には、陰電極板170が設けられており、陰電極板170には、電気線192を介して、負電圧が印加される。陽極室120及び陰極室130には、それぞれ、排出口181及び排出口182が設けられており、陽極室120で生成された陽極水は排出口181から排出され、陰極室130で生成された陰極水は排出口182から排出される。
蓋200には、注ぎ口210が設けられており、この注ぎ口210は、蓋200の上面から注がれた水を下面に通過させる開口が複数並んだ格子状に構成されている。これにより、蓋200を閉じたままでも、電解槽110に水を注ぐことが可能となる。
【0011】
次に、本発明の実施の形態にかかる電解水生成装置100の動作について説明する。
まず、蓋200を閉じた状態で、蓋200の上面から注ぎ口200を介して一定量の電解用の水を電解槽110に注ぐ。注がれた水は、電解槽110に収容される。水を注ぎ始めた時点では、陽極室120と陰極室130の水位が異なる場合もあるが、陽極室120及び陰極室130の少なくともいずれか一方の水位が仕切壁140に設けられた切り欠き141に達すると、一方の室から他方の室に水が移動し、最終的に双方の室の水位は等しくなる(水を収容した状態での図1のC−C断面を示す図3を参照)。したがって、本実施の形態によれば、陽極室120または陰極室130のいずれか一方の室に十分に水が注がれていないにもかかわらず、他方の室に水が注がれすぎて、他方の室から水が溢れ出すことを防止することができる。したがって、蓋200を開けて、陽極室120、陰極室130ごとに水を注ぐ必要はない。
【0012】
次に、陽電極板160に正電圧を印加し、陰電極板170に負電圧を印加し、電気分解を開始する。ここで、本実施の形態に係る電解水生成装置100においては、仕切壁140に切り欠き141が設けられているため、電気分解中に、陽極室120または陰極室130のいずれか一方の水位(特に陰極室の水位)が上昇しても、陽極室120または陰極室130の水位は均衡し(水を収容した状態での図1のC−C断面を示す図3を参照)、電解槽110から水が溢れ出すということがない。つまり、連通手段の一例である切り欠き141は、電気分解中も陽極室120と陰極室130とを連通させ、電気分解中も陽極室120と陰極室130との水位を調整する。
陽極室と陰極室とを電気分解中に連通させると、陽極水と陰極水とが中和してしまい、電解槽を陽極室と陰極室とに仕切った意味がなくなってしまうとも考えられるが、陽極室120と陰極室130とを連通させる切り欠き141を一定程度に小さくしておけば、陽極室で生成された陽極水と陰極室で生成された陰極水との中和の程度が実用上無視できる程度に小さくなる。ここで、切り欠き141の断面積や形状などは、少なくとも陽極室と陰極室とに収容される水量に基づく制約を受けるが、切り欠き141の断面積と、陽極室と陰極室とに収容される水量と、が次式に従うことにより、中和の程度を実用上無視できる程度とすることができる。
【数1】

このようにすれば、電気分解終了後(正電極板160および負電極板170への通電終了後)10秒以内における、切り欠き141を設けない場合に対する陽極水と陰極水のpHの変化量が略1.0以下となる。
【0013】
電気分解終了後は、陽極室120の陽極水を排出口181から排出し、陰極室130の陰極水を排出口182から排出する。ここで、本実施の形態に係る電解水生成装置100においては、切り欠き141が、陽極室120及び陰極室130を隔てる隔壁の一例である仕切壁140の上縁に設けられている。したがって、陽極水及び陰極水の電解槽からの排出の順番が相前後しても、陽極室及び陰極室の水位が切り欠き141よりも下位または同位置になり、陽極室及び陰極室のいずれか一方から他方に陰極水または陽極水が流れ込むことがなく、電気分解終了後に、陰極水及び陽極水を中和させることなく、電解水生成装置から取り出すことが可能となる。なお、切り欠き141は、仕切壁140の上縁でなくとも、電解槽の予定水面位置またはその近傍に設けられていれば足りる。なお、陽極室及び陰極室を隔てる手段は、仕切壁に限られず、たとえば、隔膜などに連通手段を設けることも可能である。
【0014】
図4は、連通手段の一例である切り欠き141について説明する図であり、図4(a)は切り欠き141の概略斜視図、図4(b)は図4(a)の断面図である。
切り欠き141の形状は、直方体状である。切り欠き141は、仕切壁140の上縁に設けられており、上部分が開放されている。切り欠きの断面積は符号Sで示され、切り欠き141の断面積Sが上記した条件を満たすことが好ましいことは、上述したとおりである。
【0015】
図5は、連通手段の一例である切り欠き142について説明する図であり、図5(a)は切り欠き142の概略斜視図、図5(b)は図5(a)の断面図である。
切り欠き142の形状は、円柱状である。切り欠き142は、仕切壁140の上縁に設けられており、上部分が開放されている。切り欠き142の断面積は符号Sで示され、切り欠き142の断面積Sが上記した条件を満たすことが好ましいことは、上述したとおりである。
【0016】
図6は、連通手段の一例である切り欠き143について説明する図であり、図6(a)は切り欠き143の概略斜視図、図6(b)は図6(a)の断面図である。
切り欠き143の形状は、三角柱状である。切り欠き143は、仕切壁140の上縁に設けられており、上部分が開放されている。切り欠き143の断面積は符号Sで示され、切り欠き143の断面積Sが上記した条件を満たすことが好ましいことは、上述したとおりである。
【0017】
図7は、連通手段の一例である貫通孔144について説明する図であり、図7(a)は貫通孔144の概略斜視図、図7(b)は図7(a)の断面図である。
貫通孔144の形状は、円柱状である。貫通孔143は、仕切壁140の中部に設けられている。貫通孔144の断面積は符号Sで示され、貫通孔144の断面積Sが上記した条件を満たすことが好ましいことは、上述したとおりである。
【0018】
なお、連通手段の断面積は、連通手段の軸線と垂直に交わる面の断面積であればよく、開口面の面積である必要はない。たとえば、連通手段が図8に示すような形状である場合には、面1〜5の断面積は、いずれも連通手段の断面積となる。上述した、連通手段の断面積と、陽極室と陰極室とに収容される水量と、の関係は、該当する複数の断面積のうち、最も小さな断面積が満たしていればよい。
【実施例1】
【0019】
断面積が6mmの切り欠きが仕切壁140の上縁に2箇所設けられた電解水生成装置に、55gの混合重曹(混合重曹とは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを混合したものである。)が添加された1Lの水を入れ、電気分解を30分間行い、電気分解終了直後(正電極板160および負電極板170への通電終了直後)に、陽極水と陰極水のpHを調べた(ケースA)。また、断面積が6mmの切り欠きが仕切壁140の上縁に4箇所設けられた電解水生成装置に、55gの混合重曹(混合重曹とは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを混合したものである。)が添加された1Lの水を入れ、電気分解を30分間行い、電気分解終了直後(正電極板160および負電極板170への通電終了直後)に、陽極水と陰極水のpHを調べた(ケースB)。そして、比較のために、切り欠きを有しない電解水生成装置に、55gの混合重曹(混合重曹とは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを混合したものである。)が添加された1Lの水を入れ、電気分解を30分間行い、電気分解終了直後(正電極板160および負電極板170への通電終了直後)に、陽極水と陰極水のpHを調べた(ケースC)。このときのpH及び電気伝導度の変化を次表に示す。
【表1】

この表に示すように、切り欠きを設けても、電気分解終了直後(正電極板160および負電極板170への通電終了直後)における、切り欠き141を設けない場合に対する陽極水と陰極水のpHの変化量は、1.0よりも大きくならなかった。
【0020】
以上説明した実施の形態に係る電解水生成装置によれば、陽極室と陰極室との水位が電気分解中においても調整可能となり、電気分解中に、陰極室から陰極水が溢れ出すことを防止できる。また、実施の形態に係る電解水生成装置によれば、電気分解中も陽極室と陰極室の水位の調整が可能となるため、生成する陽極水と陰極水の水量をほぼ同じにすることも可能となる。このため、陰極水は大量に生成されたけれども、陽極水は必要な量だけ生成されなかったので、電解水生成装置を再度駆動させるという問題を解決することもできる。
【0021】
なお、上記した説明は、すべての実施の形態に関するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る電解水生成装置100の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電解水生成装置100の上面図(a)、A−A断面図(b)、B−B断面図(c)である。
【図3】水を収容した状態での図1のC−C断面を示す図である。
【図4】連通手段の一例である切り欠き141について説明する図であり、切り欠き141の概略斜視図(a)、断面図(b)である。
【図5】連通手段の一例である切り欠き142について説明する図であり、切り欠き142の概略斜視図(a)、断面図(b)である。
【図6】連通手段の一例である切り欠き143について説明する図であり、切り欠き143の概略斜視図(a)、断面図(b)である。
【図7】連通手段の一例である貫通孔144について説明する図であり、貫通孔144の概略斜視図(a)、断面図(b)である。
【図8】連通手段の断面積を説明するための一例を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
100・・・電解水生成装置、110・・・電解槽、120・・・陽極室、130・・・陰極室、140・・・仕切壁、141〜144・・・連通手段の一例、150・・・隔膜、160・・・正電極板、170・・・負電極板、181、182・・・排出口、191、192・・・電気線、200・・・蓋、210・・・注ぎ口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室と陰極室とこれらを隔てる隔壁を備えた電解水生成装置において、前記陽極室と前記陰極室とが連通手段により連通しており、且つ、前記連通手段が予定水面位置またはその近傍に設けられている、ことを特徴とする電解水生成装置。
【請求項2】
陽極室と陰極室とこれらを隔てる隔壁を備えた電解水生成装置において、前記陽極室と前記陰極室とが連通手段により連通しており、前記連通手段の断面積と、前記陽極室と前記陰極室とに収容される水量と、が次式に従うことを特徴とする電解水生成装置。
【数1】

【請求項3】
前記連通手段が予定水面位置またはその近傍に設けられている、ことを特徴とする請求項2に記載の電解水生成装置。
【請求項4】
前記連通手段が隔壁に設けた切欠きである請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電解水生成装置。
【請求項5】
前記連通手段が隔壁に設けた孔である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電解水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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