説明

電解水製造装置

【課題】三室型電解槽を有する電解水製造装置において、隔膜に負荷をかけることなく、隔膜と各電極(陽極及び陰極)とを密着させてこれらのゼロギャップを安定して保持できるようにする。
【解決手段】陽極12を配した陽極室11と、陰極15を配した陰極室14と、陽極室11及び陰極室14に対して隔膜16,17によって隔てられた中間室13と、を有する電解水製造装置において、電解質水溶液を保持し電解質水溶液の液面に大気の圧力が加わるようにした塩水タンク3と、ポンプ4及び供給配管5からなり塩水タンク3から電解質水溶液を中間室13に循環供給する循環手段と、中間室13から塩水タンク3に電解質水溶液を戻す排出配管6と、を設け、塩水タンク3において排出配管6の出口位置を電解槽1の上端位置よりも高い位置として、水頭圧により中間室13が陽圧となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質を含む水溶液を電気分解して電解水を製造する装置に関し、特に、電解槽として3室型電解槽を用いる電解水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質として塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)などのハロゲン化物イオンを含有する塩を用いた水溶液を電解することによって、陽極側からは酸性電解水が得られ、陰極側からはアルカリ性電解水が得られる。酸性電解水及びアルカリ性電解水を総称して電解水と呼ぶ。こうして生成される酸性電解水は、次亜塩素酸等の遊離塩素を含有するので、大腸菌などを含む各種バクテリアに対して強力な殺菌効果を有しており、近年、食品工業分野、医療分野、農業分野などで広く使用されるようになってきている。また、アルカリ性電解水は、水酸化物イオンを多量に含んで強いアルカリ性を示すため、油分やたんぱく質を含む汚れに対して強い洗浄力を有することが知られている。
【0003】
電解水を製造する方法としては、イオン交換機能を有する隔膜を2枚使用して電解槽を陰極室、中間室及び陽極室に区分した3室型の電解槽を用い、電解質を含んだ原水を電気分解する方法がある。陰極室には陰極が備えられ、陽極室には陽極が備えられ、中間室は、陰極室と陽極室との中間に位置して陰極室及び陽極室からは隔膜によって仕切られている。このような3室型の電解槽を用いた電解水製造装置では、中間室に対して高濃度の電解質水溶液を循環させることで、隔膜を介して陰極室及び陽極室にそれぞれ陽イオン及び陰イオンを安定して供給することが可能となり、安定して電解水を生成することが可能となる。その際、電極室(すなわち陰極室及び陽極室)には、電解質を含ませていない原水が、それらの電極室から外部に供給された電解水に見合うだけ供給される。3室型の電解槽は、1枚の隔膜で陰極室と陽極室とを仕切る2室型電解槽と比べ、生成した電解水中に未分解の電解質等の不純物が混入する恐れが少ない。そのため、酸性電解水で言えば、その有効成分である次亜塩素酸の分解による減少や、電解水を使用した際の金属の腐食などのリスクを低減させることができる。
【0004】
隔膜としては、一般に、高分子材料からなる膜が使用され、そのような膜はたわみ易く容易に変形する。1枚の隔膜の両側に電極が配置され、電極によって隔膜を挟持することができる2室型の電解槽を用いる場合とは異なり、3室型の電解槽では、隔膜の片側は、電極に接することなく中間室に面することになるため、隔膜の保持が困難であり、中間室と各電極室の間での処理水の圧力の変動などによって、隔膜が変形しやすい。変形が繰り返されることで、隔膜の劣化が早められるおそれがある。加えて、各電極室において電極と隔膜との間の距離が大きいと、電解時にその間での電圧降下が大きくなり、電解電圧の上昇、電解効率の低下をもたらす。電解電圧の上昇及び電解効率の低下も、電極や隔膜の劣化を早めるおそれがある。したがって、3室型電解槽を有する電解水製造装置を長期にわたり安定して運転させるためには、例えば特許文献1に開示されるように、隔膜と電極とを密着させた状態で固定する、すなわち、隔膜と電極との間のゼロギャップを保持するようにすることが必要である。なお、隔膜と電極を密着させて電解水を製造する際には、電極として多孔形状のもの、例えば、パンチングメタルによるものやメッシュ状のものが使用される。
【0005】
隔膜と電極とのゼロギャップを保持するためには、電解槽内に支持体を導入して機械的に隔膜を押さえるのが一番簡単な方法であるが、支持体が隔膜を押さえる面積が小さすぎると、隔膜に局所的な負荷がかかるために隔膜を破損するおそれがある。その一方で、支持体が隔膜を押さえる面積が広すぎる場合には、支持体が接触している部分の隔膜は電解には寄与しないため、支持体が接触していない部分での電解電流密度が大きくなってその部分の負荷が増大し、隔膜や電極の寿命を縮めるおそれがある。支持体が隔膜を押さえる部分の面積は適切であっても支持体の構造が各電極室内や中間室内での処理水の流れを妨げるようなものであるときにも、電解効率を低下させて電解電圧の上昇がもたらされる。そのため、3室型電解槽において隔膜と電極とのゼロギャップを保持するための支持体としては、適切な形状のものを選択して電解槽内に適切に導入する必要がある。また、支持体によって隔膜を電極に対して固定したとしても、陰極室や陽極室内の圧力の方が中間室内の圧力よりも高い場合には、ゼロギャップを保持することは難しくなる。
【0006】
一般に中間室には塩水が循環ポンプによって循環供給されるので、特許文献2には、中間室からの塩水の出口配管に絞りを設けることによって中間室内の圧力を高め、隔膜を各電極に密着させる構成が開示されている。しかしながら、中間室からの出口配管に絞りを設けたりする方法では、塩水の循環量に変動が生じたりする場合における圧力の調節が難しく、圧力の調節を適切に行えなかった場合に隔膜に加わる圧力が大きくなりすぎて隔膜の破損につながる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−246249号公報
【特許文献2】特開平7−155760号公報
【特許文献3】特開2010−133007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
3室型電解槽を用いる電解水製造装置では、電解効率を向上させ、隔膜の寿命を長くし、長期間にわたって安定して電解水生成を行うためには、隔膜と電極とのゼロギャップを安定して保持する必要があり、隔膜に大きな負荷を与えずにゼロギャップを保持する有効な手法が求められている。
【0009】
本発明の目的は、3室型電解槽を用い、隔膜に大きな負荷をかけることなくゼロギャップを保持することができ、長期間にわたる安定運転が可能な電解水製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電解水製造装置は、多孔形状の陽極を配した陽極室と、多孔形状の陰極を配した陰極室と、陽極室に対して第1の隔膜によって隔てられ陰極室に対して第2の隔膜によって隔てられた中間室と、を備え、陽極は第1の隔膜に当接し陰極は第2の隔膜に当接するように構成された三室型の電解槽を有する電解水製造装置において、中間室に供給される電解質水溶液を保持するタンクと、タンクを中間室に接続する供給配管と供給配管に設けられ電解質水溶液を給送するポンプとを有し、タンクから電解質水溶液を中間室に循環供給する循環手段と、中間室からタンクに電解質水溶液を戻す排出配管と、を備え、タンク内での電解質水溶液の液面に大気の圧力が加わり、排出配管のタンク側の出口は、電解槽の上端位置よりも高い位置にあり、タンク側の出口と電解槽の上端位置との高低差による水頭圧によって中間室内の圧力が陽極室及び陰極室よりも高くなり、第1の隔膜と陽極とのゼロギャップ及び第2の隔膜と陰極とのゼロギャップを保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、水頭圧を用いることによって中間室を陽圧にすることにより、隔膜及び電極に対する負荷を低減させつつ隔膜と各電極とのゼロギャップを保持し、隔膜を電極に対して安定して固定することができ、変形の繰り返しによる隔膜の劣化を防ぐことができ、電解の効率を向上させることができ、これらにより、3室型電解槽を有する電解水製造装置を長期にわたり安定して運転させることができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の一形態の電解水生成装置の構成を示す図である。
【図2】支持体と隔膜及び電極の配置を示す斜視図である。
【図3】支持体と隔膜及び電極の配置を示す上面図である。
【図4】支持体と隔膜及び電極の配置を示す正面図である。
【図5】エゼクター効果により各電極室内の圧力が中間室内の圧力よりも小さくなるように構成した電解水製造装置の構成を示す図である。
【図6】実施例1及び比較例1における電解電圧の時間変化を示すグラフである。
【図7】実施例2及び比較例2における電解電圧の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示す本発明の実施の一形態の電解水製造装置は、電解水を生成する三室型電解槽1を備えている。電解槽1は、陽極12を配した陽極室11と、中間室13と、陰極15を配した陰極室14とを備えている。陽極室11と中間室13との間は、例えば陰イオン交換膜などからなる隔膜16によって仕切られており、中間室13と陰極室14との間は、例えば陽イオン交換膜などからなる隔膜17によって仕切られている。後述するように本実施形態では、隔膜16が陽極12に対して密着し、隔膜17が陰極15に対して密着するように構成されている。図示していないが、外部の直流電源により、陽極12が正(+)に陰極15が負(−)となるように直流電圧を印加することができるようになっている。陽極12及び陰極15は、多孔形状の電極として構成されるものであって、例えば、金属メッシュ、パンチングメタルなどからなる。
【0015】
中間室13に対して電解質として塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを用いた水溶液すなわち塩水を供給するために塩水タンク3が設けられており、塩水タンク3からポンプ4により供給配管5を介して塩水は中間室13の下端に供給され、中間室13の上端から塩水が塩水タンク3に戻されるようになっている。すなわち、供給配管5に設けられたポンプ4によって中間室13と塩水タンク3との間で塩水が循環供給されることとなり、中間室13内では塩水は下から上へと流れる。
【0016】
塩水タンク3は、例えばその塩水タンク3の蓋となる部分に大気連通口を設けるなどすることによって上部が大気に対して連通したものであって、これにより塩水タンク3内の塩水の液面には大気の圧力が加わるようになる。塩水タンク3内での塩水の液面レベルよりも少し高い位置に、中間室13からの塩水の排出配管6の出口(戻り口)が開口している。排出配管6の出口は、水頭圧によって中間室13内に陽圧を与えられるように、電解槽1の上端部よりもさらに高い位置とされている。図示したものでは、電解槽1の上端部と塩水の戻り配管の出口との高低差がhで示されており、この高低差hに相当する水頭圧が中間室13に対して印加されることになる。
【0017】
なお、中間室13へ循環される塩水での電解質の濃度を一定とするために、例えば、循環する塩水を飽和塩水とするために、塩水タンク3には固形状の電解質(例えば固体の塩化ナトリウム)を投入しておいてもよい。
【0018】
陽極室11及び陰極室14には、それらの電極室の下端に対して水道水が原水として供給される。原水としては、水道水の他に例えば井水を用いてもよい。そして電解反応により陽極室11で生成した酸性電解水は、陽極室11の上端から外部に供給され、陰極室14で生成したアルカリ性電解水は、陰極室14の上端から外部に供給されるようになっている。したがって、各電極室内での水の流れも下から上に向かう方向となっている。
【0019】
この電解水製造装置では、ポンプ4により塩水を中間室13に循環させつつ陽極室11及び陰極室14に水道水を供給し、陽極12と陰極15の間に直流電圧を印加することによって、中間室13の溶液中の陽イオンは隔膜17を通過して陰極室14側に、陰イオンは隔膜16を通過して陽極室11側に移動する。その結果、電解水生成に関する公知の反応により、陽極室11からは酸性電解水が得られ、陰極室14からはアルカリ性電解水が得られることになる。このとき、高低差hに基づく水頭圧によって、中間室13は陽極室11及び陰極室14に対して陽圧となっているので、隔膜15,16はそれぞれ陽極12及び陰極15に密着し、ゼロギャップが保持される。
【0020】
本実施形態の電解水製造装置では、中間室からの塩水の出口配管に絞りを設けて中間室内の圧力を高める場合に比べ、高低差hを決定するだけ中間室13にかかる圧力を容易に設定でき、また、配管の詰まりなどに起因するリスクも低減することができる。高低差hについては、陽極室11及び陰極室14での圧力変動範囲などを考慮し、隔膜15,16を陽極12及び陰極15に密着させるために必要な圧力に応じて決めればよい。
【0021】
以上説明した電解水製造装置では、水頭圧を用いて中間室13を陽圧にし、隔膜と電極とのゼロギャップを維持している。ところで動作状態においては、陽極室11、中間室13及び陰極室14内では液体の流れが生じており、この流れの影響で、局所的に圧力が低下している領域が発生し、そのために、その領域では隔膜と電極とのゼロギャップが良好には保持されなくなるおそれがある。
【0022】
そこで、図1に示した電解水製造装置においても、陽極室11、中間室13及び陰極室14内にそれぞれ支持体を導入し、隔膜を電極により確実に密着させるようにしてもよい。図2は、そのように支持体を設ける場合における、支持体と隔膜及び電極の配置を示す斜視図である。図2では、説明のため、陽極12に対して隔膜16を密着させるための支持体20の構成を示しており、図示手前側が中間室13側となっているが、当然のことながら、陰極15に対して隔膜17を密着させるためにも同一の構成を使用することができる。図2において矢印は水の流れる方向を示している。図3は、電解槽1の蓋の部分を取り除いて上から見た、陽極12、陰極15、隔膜16,17及び支持体20の配置を示している。図4は、陰極室14側から中間室13方向を見た場合に相当する正面図であり、実線で示されている部分は陰極15より手前すなわち陰極室14内にある支持体20を示しており、破線で示されているのは、中間室13内にある支持体20すなわち陰極15及び隔膜17の向こうにあって隔膜17を押さえるための支持体を示している。
【0023】
支持体20は、電解槽1内にあって電極(陽極12、陰極15)や隔膜16,17に直接接触してこれらを保持し、特に隔膜16、17と電極とのゼロギャップを維持するものである。図示したものでは、支持体20は、電極室や中間室における水の流れを阻害しないように、電解槽1内で上下方向(すなわち水の流れ方向)に延びて側面が電極あるいは隔膜に当接する複数本の角柱21と、これらの複数本の角柱21に対して垂直に交わる円柱22によって、支持体が構成されている。このような支持体20は、陽極室11、中間室13及び陰極室14のいずれにも導入されている。陽極室11内の支持体20は陽極12に当接し、陰極室14内の支持体20は陰極15に当接する。また中間室13内の支持体20は、その角柱21の対向する1対の側面によって両方の隔膜16,17に当接する。ここで重要なことは、隔膜に対して過度の負荷をかけないように、隔膜側の支持体における角柱21の位置と電極側の支持体における角柱21の位置とが重なりあわないようにすることであり、図示したものでは、角柱21の位置は互い違いとなっている。
【0024】
このような支持体20は、塩水や電解水に対して耐食性を有するとともに、絶縁性の材料で構成される。例えば、塩化ビニル樹脂によって支持体は構成される。ここに示したものでは、電解槽1からは分離可能なように支持体が構成されているが、これ以外にも、例えば、電解槽1に対して直接接着されたり、あるいは電解槽と一体となった形状の支持体を使用することができる。
【0025】
ここで示している例では、上述したように既に水頭圧の作用によって中間室13を陽圧としているので、支持体は、隔膜を強く電極に押圧するものである必要はなく、軽く電極及び隔膜に当接する程度のものでよい。
【0026】
また、図1に示した電解水製造装置において、隔膜と電極とのゼロギャップをより確実にするものとして、エゼクター効果を利用し、陽極室11及び陰極室14にかかる圧力を中間室13にかかる圧力よりもさらに低くする構成のものとすることができる。図5は、そのようなエゼクター効果を利用した電解水製造装置を示している。
【0027】
図5に示した電解水製造装置は、図1に示したものに対して、陽極室11及び陰極室14からそれぞれ排出される酸性電解水及びアルカリ性電解水を希釈する機構を設けたものである。希釈水が常時流れる希釈水配管25,26が設けられており、陽極室11の上端から酸性電解水を排出する電解水配管23の末端は、希釈水配管25の側面に開口している。図示したものでは、希釈水は、希釈水配管25,26内を上から下に流れている。電解水配管23との接続部において希釈水配管25の内径を絞るなどしてこの位置での希釈水の流速を高めることにより、エゼクター効果によって電解水配管23から酸性電解水が希釈水配管25側に吸引されることとなって陽極室11内の圧力が低下する。同様に、陰極室14の上端からアルカリ性電解水を排出する電解水配管24の末端も希釈水配管26の側面に開口しており、エゼクター効果によってアルカリ性電解水が電解水配管24から希釈水配管26側に吸引され、陰極室14内の圧力が低下する。中間室13にはエゼクター効果が及ばないので、結局、水頭圧のみを用いる場合比べ、中間室13にかかる圧力よりも陽極室11及び陰極室14に係る圧力の方がさらに小さくなって、隔膜と電極とのゼロギャップをより確実に維持することができるようになる。希釈水配管25,26の末端からは、それぞれ、希釈された酸性電解水及びアルカリ性電解水が得られる。
【0028】
図5に示した電解水製造装置においても、隔膜と電極とのゼロギャップをさらに良好に保持するために、上述の場合と同様に、陽極室11、中間室13及び陰極室14内に支持体を導入してもよい。
【実施例】
【0029】
次に、上述した三室型電解水生成装置を実際に製作し、電解水を製造した例について説明する。
【0030】
《実施例1》
(1)陰イオン交換膜
隔膜16として陰イオン交換膜を用いることとし、この陰イオン交換膜として、特開2010−133007号公報(特許文献3)の段落0135に記載された手順によって得られたものを使用した。ただし、陰イオン交換膜のサイズは縦12cm、横11cmとした。
【0031】
(2)陽イオン交換膜
隔膜17として陽イオン交換膜を用いることとし、この陽イオン交換膜として、フッ素系陽イオン交換膜(デュポン製ナフィオンN−115、厚さ127μm)を縦12cm、横11cmに切断したものを使用した。
【0032】
(3)電解水製造装置
上記(1),(2)に示された各イオン交換膜を隔膜として用いて、図1に示した構成の電解水製造装置を作製した。陽極12としては、チタン基板に酸化イリジウムと白金を被覆したパンチングメタル形状の電極を選定し、陰極15としては、チタン基板に白金を被覆したパンチングメタル形状の電極を使用した。各電極は、有効面積が100cm2で、開口率が47.2%となるように表面に直径3mmの孔を有している。陽極12と陰極15を、それぞれ陰イオン交換膜(隔膜16)と陽イオン交換膜(隔膜17)に密着するように配設して、電解槽1内を仕切ることで3槽式電解槽を作製した。中間室13の容積は50cm3、陽極室11と陰極室14の容積は各々100cm3とした。中間室13に供給される電解質の水溶液として飽和食塩水を用いることとし、中間室13には、塩水タンク内の飽和食塩水を中間室の下部から上部へ通液するための供給配管5と排出配管6を設けた。また、陽極室11および陰極室14には水道水を槽の下部から上部へ通液する供給用及び排出用の配管を設けた。なお、中間室13から塩水タンク3に飽和食塩水を戻すための排出配管6の塩水タンク3側の出口(戻り口)の位置は、電解槽1における電解水出口(電解槽1の上端)よりも180mm上部になるようにした。すなわち高低差hを180mmとした。
【0033】
中間室13には飽和食塩水をポンプ4によって400mL/分で循環通水した。陽極室11及び陰極室14の各々には、水道水を流速1L/分で通水した。この状態で電解電流を14Aとする定電流電解を行い、運転開始からの2分間における電解電圧の変化を4秒間間隔で計測した。結果を図6に示す。図6に示すように、電解電圧は電解開始から20秒程度の間、上昇を続け、その後は約7.7Vで安定した。
【0034】
《実施例2》
図2乃至図4に示した支持体20を陽極室11、中間室13及び陰極室14に導入したことを除いて、実施例1と同様の条件で試験を行った。このときの運転開始から2分間における電解電圧の変化を計測した。結果を図7に示す。図7に示すように、電解電圧は電解開始から20秒程度の間、上昇を続け、その後は約5.4Vで安定した。
【0035】
実施例2では、電解が安定したときの電解電圧が実施例1に比べて約2.3V低く、電解効率が向上した。これは、電解槽1に導入した支持体20がイオン交換膜である隔膜と電極との密着性をさらに向上させ、電解の際の抵抗を低減させているためである。
【0036】
《比較例1》
実施例1と同様の電解水装置装置であるが、中間室13からの飽和食塩水の排出配管6の塩水タンク3側への戻り口の位置を、電解槽における電解水出口よりも300mm低くした電解槽を使用し、実施例1と同じ電解条件で電解を行って、運転開始からの2分間における電解電圧の変化を計測した。結果を図6に示す。図6に示すように、電解電圧は電解開始から20秒程度の間、上昇を続け、その後は約19.7Vで安定した。
【0037】
比較例1では、電解が安定したときの電解電圧が実施例2に比べて約14.3Vも高く、その分、電解効率が著しく低下した。これは、中間室13に対して水頭圧が加わらない場合には、隔膜(イオン交換膜)と電極との密着性が低下してゼロギャップが保持されなくなり、電解の際の抵抗が大幅に上昇してしまうためである。
【0038】
《比較例2》
実施例2と同様の電解水装置装置であるが、中間室13からの飽和食塩水の排出配管6の塩水タンク3側への戻り口の位置を、電解槽における電解水出口よりも300mm低くした電解槽を使用し、実施例2と同じ電解条件で電解を行って、運転開始からの2分間における電解電圧の変化を計測した。結果を図7に示す。図7に示すように、電解電圧は電解開始から20秒程度の間、上昇を続け、その後は約17.7Vで安定した。
【0039】
比較例2では、電解が安定したときの電解電圧が実施例2に比べて約12.3Vも高く、その分、電解効率が低下した。これは、中間室13に対して水頭圧が加わらない場合には、隔膜(イオン交換膜)と電極との密着性が低下してゼロギャップが保持されなくなり、電解の際の抵抗が大幅に上昇してしまうためである。
【符号の説明】
【0040】
1 電解槽
3 塩水タンク
4 ポンプ
6 排出配管
11 陽極室
12 陽極
13 中間室
14 陰極室
15 陰極
16,17 隔膜
20 支持体
21 角柱
22 円柱
23,24 電解水配管
25,26 希釈水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔形状の陽極を配した陽極室と、多孔形状の陰極を配した陰極室と、前記陽極室に対して第1の隔膜によって隔てられ前記陰極室に対して第2の隔膜によって隔てられた中間室と、を備え、前記陽極は前記第1の隔膜に当接し前記陰極は前記第2の隔膜に当接するように構成された三室型の電解槽を有する電解水製造装置において、
前記中間室に供給される電解質水溶液を保持するタンクと、
前記タンクを前記中間室に接続する供給配管と前記供給配管に設けられ前記電解質水溶液を給送するポンプとを有し、前記タンクから前記電解質水溶液を前記中間室に循環供給する循環手段と、
前記中間室から前記タンクに前記電解質水溶液を戻す排出配管と、
を備え、
前記タンク内での前記電解質水溶液の液面に大気の圧力が加わり、
前記排出配管の前記タンク側の出口は、前記電解槽の上端位置よりも高い位置にあり、前記タンク側の出口と前記電解槽の上端位置との高低差による水頭圧によって前記中間室内の圧力が前記陽極室及び前記陰極室よりも高くなり、前記第1の隔膜と前記陽極とのゼロギャップ及び前記第2の隔膜と前記陰極とのゼロギャップを保持することを特徴とする、電解水製造装置。
【請求項2】
前記第1の隔膜は陰イオン交換膜からなり、前記第2の隔膜は陽イオン交換膜からなる、請求項1に記載の電解水製造装置。
【請求項3】
前記陽極室内に設けられ前記陽極に当接する第1の支持体と、前記陰極室内に設けられ前記陰極に当接する第2の支持体と、前記中間室内に設けられ前記第1及び第2の隔膜に当接し前記第1及び第2の隔膜をそれぞれ前記陽極及び陰極に向けて押さえる第3の支持体と、をさらに備え、
前記第1の支持体の前記陽極に対する当接位置と前記第3の支持体の前記第1の隔膜に対する当接位置とが重なり合わず、前記第2の支持体の前記陰極に対する当接位置と前記第3の支持体の前記第2の隔膜に対する当接位置とが重なり合わない、請求項1または2に記載の電解水製造装置。
【請求項4】
前記第1の支持体は、側面が前記陽極に当接して前記陽極室内での流れ方向に延びる複数本の柱部材を備え、前記第2の支持体は、側面が前記陰極に当接して前記陰極室内での流れ方向に延びる複数本の柱部材を備え、前記第3の支持体は、1対の側面がそれぞれ第1の隔膜と第2の隔膜に当接して前記中間室内での流れ方向に延びる複数本の柱部材を備える、請求項3に記載の電解水製造装置。
【請求項5】
前記陽極室及び前記陰極室に原水を供給する手段と、
前記陽極室から酸性電解水を排出する第1の電解水配管と、
前記酸性電解水を希釈するための希釈水が流通する第1の希釈水配管と、
前記陰極室からアルカリ性電解水を排出する第2の電解水配管と、
前記アルカリ性電解水を希釈するための希釈水が流通する第2の希釈水配管と、
を備え、
前記第1の電解水配管の末端は、前記第1の希釈水配管の側面に開口して前記希釈水によるエゼクター効果によって前記陽極室内が前記中間室内にかかる圧力よりも低い圧力とされ、
前記第2の電解水配管の末端は、前記第2の希釈水配管の側面に開口して前記希釈水によるエゼクター効果によって前記陰極室内が前記中間室内にかかる圧力よりも低い圧力とされる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電解水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−91121(P2012−91121A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241040(P2010−241040)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】