説明

非加熱型たばこ

【課題】たばこの香味を損なうことなく、その香味を安定して味わうことができる非加熱型たばこを提供する。
【解決手段】中空の略円筒形状をなすホルダ3と、前記ホルダ3内に充填された香味成分を含む嗅ぎたばこ材料2と、前記ホルダ3内に配置され、前記嗅ぎたばこ材料2よりも吸い込み方向下流側に、パルプ素材で形成されたフィルタ4とを備えた。これにより、嗅ぎたばこ材料2が含有する香味が収着されることを抑制できる。したがって、吸い口から吸引される空気に嗅ぎたばこ材料2の香味を確実に含ませることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着火することなく吸気によってたばこの香味を味わうことができる非加熱型たばこに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シガレットは古くから趣向品として愛用されてきたが、近年になって、シガレット燃焼により生じる副流煙やその臭気のため周囲から敬遠されるようになっている。このような問題を低減するため、着火せずにたばこの香味を味わうようにした無煙たばこが特許文献1に開示されている。この無煙たばこは、ニコチンを含んだたばこエキスフレーバーを含浸させたたばこ原料とフィルタを中空筒形状の容器に充填し、フィルタ側の端部から吸い込むものである。
【0003】
しかしながら、低コストを図るため、あるいは香喫味を付与するため、一般的にフィルタはセルロースアセテート素材のものが用いられている。特許文献1の無煙たばこでは、たばこ原料が塩基性を示しているため、セルロースアセテートのアセチル基が遊離することで酢酸を生じ、香味に悪影響を及ぼすおそれがある。さらに、香味成分とフィルタ素材の化学的親和力に起因する収着の影響で、香味成分の送出量が低下してしまう。このようなセルロースアセテートは、一般的なシガレットのフィルタに多く用いられている。
【0004】
上記問題点を解決するため、フィルタ樹脂としてPAN(ポリアクリロニトリル)やEVOH(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)等を連続発泡したものを用いたり、樹脂粒子をバインダで集合体化させたものを用いたりすることが考えられるが、いずれの場合の非常に高価である。同様に、金属を素材としたフィルタを用いることも考えられるが、これも高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−2331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、たばこの香味を損なうことなく、その香味を安定して味わうことができる非加熱型たばこを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明では、中空の略円筒形状をなし、吸い口を有したホルダと、前記ホルダ内に充填された香味成分を含む嗅ぎたばこ材料と、該ホルダ内にて前記嗅ぎたばこ材料と前記吸い口との間に配置され、パルプ素材で形成されたフィルタとを備えたことを特徴とする非加熱型たばこを提供する。
請求項2の発明では、請求項1に発明において、前記嗅ぎたばこ材料を充填する中空筒とをさらに含み、該中空筒は前記管体内に交換可能に取り付けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、前記フィルタは、パルプ素材で形成された紙をクレープ処理し、ウェブ状態に織り込まれて形成されていることを特徴としている。
請求項4の発明では、請求項1の発明において、前記フィルタは、パルプ不織布で形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項5の発明では、請求項1の発明において、前記嗅ぎたばこ材料は、炭酸塩又は炭酸水素塩のうち少なくとも一方を含むことを特徴としている。
請求項6の発明では、請求項5の発明において、前記炭酸塩は、炭酸カリウムであることを特徴としている。
請求項7の発明では、請求項1の発明において、前記フィルタの長手方向の通気抵抗が、フィルタ長さ10mmに対して5mmHO〜10mmHOであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、フィルタがパルプ素材で形成されているので、嗅ぎたばこ材料が含有する香味が収着されることを抑制できる。したがって、吸い口から吸引される空気に嗅ぎたばこ材料の香味を確実に含ませることができる。また、パルプ素材を用いることで、通気抵抗の増大を防止でき、安定した吸引感覚を維持することができる。さらに、フィルタを安価に製造することができる。
請求項2の発明によれば、中空筒を別に設け、これを管体内に交換可能に取り付けるので、中空筒に嗅ぎたばこ材料を充填することで、中空筒がカートリッジの役割を果たし、香味がなくなってきたときの管体の再利用を可能にするとともに、容易な交換作業を実現することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、パルプ素材で形成された紙をクレープ処理し、ウェブ状態に織り込まれて形成されたフィルタを用いることで、効率よくフィルタを製造することができる。
請求項4の発明によれば、パルプ不織布を用いて、フィルタとして適用することができる。
【0012】
請求項5の発明によれば、パルプ素材のフィルタを用いれば酢酸が遊離しないことが実験によりわかっている。
請求項6の発明によれば、炭酸カリウムを用いることが好適であることが実験によりわかっている。
請求項7の発明によれば、フィルタの長手方向の通気抵抗を、フィルタ長さ10mmに対して5mmHO〜10mmHOとすることで、適切な吸引感覚を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る非加熱型たばこの概略断面図である。
【図2】本発明に係る非加熱型たばこの香味成分の送出量を示す実験データである。
【図3】本発明に係る非加熱型たばこの耐塩基性性能を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本発明に係る非加熱型たばこ1は、いわゆる無煙たばこであり、嗅ぎたばこ材料2と、ホルダ(管体)3と、フィルタ4とを有している。嗅ぎたばこ材料2は、たばこの葉を粉砕したものと香料を混合し、たばこの香味成分を含ませたものである。ホルダ3には、中空の略円筒形状であり、吸い口側となる一方の端部に先細の吸い口部5が形成されている。ホルダ3には、嗅ぎたばこ材料2及びフィルタ4が充填されている。より詳しくは、嗅ぎたばこ材料2及びフィルタ4は、中空筒6を介してホルダ3に充填されている。ただし、ホルダ3に直接嗅ぎたばこ材料2を充填してもよい。中空筒6には、嗅ぎたばこ材料2とフィルタ4が通気性を有する仕切り材7を挟んで並んで充填されている。中空筒6の両端には、通気性を有する蓋材8がそれぞれ嵌め込まれている。この状態で、ホルダ3内に、フィルタ4が吸い口部5側となるように挿入される。ホルダ3の吸い口部5と反対側の端部には、開口10を有するキャップ9が嵌め込まれている。なお、中空筒6に嗅ぎたばこ材料2を充填し、仕切り材7を隔ててフィルタ4を配置し、両端を蓋材8で塞いだものをカートリッジとして、ホルダ3に対し交換可能としてもよい。
【0015】
非加熱型たばこ1の使用者は、吸い口部5から空気を吸い込むことで、嗅ぎたばこ材料2の香味を味わう。吸い口部5から空気が吸い込まれると、開口10から蓋材8を通じて空気がホルダ33内に流入する。そして空気は嗅ぎたばこ材料2と接触し、空気に嗅ぎたばこ材料2の香味が含まれることになる。この香味を含む空気がフィルタ4を通過して吸い口部5から使用者に吸われ、使用者は香味を味わうことができる。香味がなくなってきたら、中空筒6をホルダ3から取り出し、新たなものと交換する。
【0016】
フィルタ4はパルプ素材で形成されている。これにより、嗅ぎたばこ材料2が含有する香味がフィルタ4に収着されることを抑制できる。したがって、吸い口部5から吸引される空気に嗅ぎたばこ材料の香味を確実に含ませることができる。また、パルプ素材を用いることで、通気抵抗の増大を防止でき、使用者に安定した吸引感覚を与えることができる。さらに、パルプ素材とすることで、フィルタ4を安価に製造することができる。なお、フィルタ4にパルプ不織布を用いてもよい。
【0017】
図2を参照すれば明らかなように、従来用いられているセルロースアセテート素材を用いたフィルタに比べ、パルプ素材を用いたフィルタのほうが、香味成分の送出量(香味成分がフィルタを通過する量)が多い。なお、この送出量は、セルロースアセテート素材のフィルタを用いたときの送出量を1.0として算出した結果を示している。この実験では、香味成分はニコチンとした。パルプ素材のフィルタは、板紙をクレープ処理し、ウェブ状体に織り込んだものを用いた。また、嗅ぎたばこ材料は、たばこの葉を粉砕したものから粒度0.5mm〜1.18mmのたばこ粒をふるい分けて取得し、これを加湿及び加熱処理して炭酸カリウム及び香料を加えて調整したものを用いた。なお、嗅ぎたばこ材料の充填量は0.27gとしている。中空筒の内径は8mmのものを用いた。フィルタシガレットでは、一般的に同一通気抵抗の場合、パルプ素材を用いたフィルタの方が、タール及びニコチンのろ過率が高いことが知られているが、非加熱型たばこでは、効率的に香味成分を送出できることが図2からわかる。香味の送出量は、35cc/2秒の容量にて15秒間隔で40回吸引したときの1回あたりの平均値を用いた。
【0018】
また、図3を参照すれば明らかなように、従来用いられているセルロースアセテート素材を用いたフィルタに比べ、パルプ素材を用いたフィルタのほうが、酢酸が遊離しない。この実験は、JIS K 7114に従い、50wt%炭酸カリウム水溶液(Ph14.1)を10ml用い、5mm長に切断したフィルタをそれぞれ10個浸し密閉条件にて55℃の環境下で1カ月経過後のフィルタ物性等の変化を測定した。セルロースアセテート素材のフィルタでは、溶液のpHが大きく低下し、酢酸が遊離していることが分かる。一方で、上述したように、パルプ素材のフィルタでは、酢酸は遊離せず、pHも大きく変化していない。非加熱型たばこの場合、この酢酸の遊離が香味に大きく影響を与えるおそれがあるため、適切な香味を使用者に与えるためには、パルプ素材を用いたフィルタの方が優れていることが分かる。なお、溶液中の酢酸濃度の測定には、キャピラリ電気泳動測定装置を用いた。
【符号の説明】
【0019】
1 非加熱型たばこ
2 嗅ぎたばこ材料
3 ホルダ(管体)
4 フィルタ
5 吸い口部
6 中空筒
7 仕切り材
8 蓋材
9 キャップ
10 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の略円筒形状をなす管体と、
前記管体内に充填された香味成分を含む嗅ぎたばこ材料と、
前記管体内に配置され、前記嗅ぎたばこ材料よりも吸い込み方向下流側に、パルプ素材で形成されたフィルタとを備えたことを特徴とする非加熱型たばこ。
【請求項2】
前記嗅ぎたばこ材料を充填する中空筒とをさらに含み、
該中空筒は前記管体内に交換可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の非加熱型たばこ。
【請求項3】
前記フィルタは、パルプ素材で形成された紙をクレープ処理し、ウェブ状態に織り込まれて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非加熱型たばこ。
【請求項4】
前記フィルタは、パルプ不織布で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非加熱型たばこ。
【請求項5】
前記嗅ぎたばこ材料は、炭酸塩又は炭酸水素塩のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の非加熱型たばこ。
【請求項6】
前記炭酸塩は、炭酸カリウムであることを特徴とする請求項5に記載の非加熱型たばこ。
【請求項7】
前記フィルタの長手方向の通気抵抗が、フィルタ長さ10mmに対して5mmHO〜10mmHOであることを特徴とする請求項1に記載の非加熱型たばこ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−106520(P2013−106520A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57512(P2010−57512)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】