説明

非接触センサ

【課題】手の動きを正確に検出し、手の動きに正確に対応した出力信号を生成しうる非接触センサを提供する。
【解決手段】空隙を置いて対向する生体(手2)との間でコンデンサCを形成する導電性の検出電極3と、基準周波数f1の信号を発振する基準周波数信号発振部5と、前記コンデンサCを回路要素とし、当該コンデンサCの静電容量に応じた可変周波数f2の信号を発振する可変周波数信号発振部4と、前記基準周波数f1と可変周波数f2とのビート周波数fbを抽出するビート周波数抽出部6と、前記抽出されたビート周波数fbに対応するディジタル制御信号Scを生成するディジタルディジタル制御部8と、を備えた非接触センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器等の各種電子機器に用いるのに好適な非接触センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、演奏者(操作者)の手と検出電極(アンテナ)との間の静電容量の変化を検出する非接触型のセンサを応用した電子楽器が公知である(特許文献1参照)。
この電子楽器はテルミンと呼ばれ、演奏者の手と検出電極との間に形成されるコンデンサの静電容量の変化を利用して音程を変化させるものである。より詳しくは、棒状の検出電極を一方の電極とし、この検出電極と演奏者の手との間に形成されるコンデンサを発振回路の回路要素に組み込み、演奏者が手を検出電極に近づけたり遠ざけたりすることで生じる静電容量の変化を音程の変化として出力する構成である。
一方、マイクロプロセッサによりディジタル音源を駆動する信号を生成し、検出電極に接続された発振回路の周波数調整を不要とするテルミンが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許1661058号公報
【特許文献2】特開2004−86118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のテルミンは、音程が不安定となりやすく、演奏者自身の耳だけを頼りに音程を決める必要があるため演奏が難しく、習熟に時間がかかる難点がある。音程が不安定となる原因としては、演奏者の手と検出電極との間のわずかな静電容量の変化を利用して音程が決まる構成であるため、演奏者自身の体格、装身具等の違い等の演奏環境の影響を受け易いことが挙げられる。
【0005】
また、特許文献1のテルミンは、手と検出電極間の静電容量の変化に基づく周波数と基準周波数とのビート周波数をそのまま可聴周波数帯域の音に変換して出力する構成である。そのため、生成される音は手の動きに連動して連続的に変化する音となり、演奏者は音程の変化を明確にとらえにくい。このことが従来のテルミンの演奏技量の習得を阻害する一因となっている。
【0006】
一方、特許文献2に開示されたテルミンは、演奏者が検出電極に接触することを契機として起動後の周波数調整を不要とする点で画期的ではあるが、アンテナの性状に起因する音程の不安定さは依然として残る。
【0007】
本発明の課題は、手の動きを正確に検出し、手の動きに正確に対応した出力信号を生成しうる非接触センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明によれば、空隙を置いて対向する生体との間でコンデンサを形成する導電性の検出電極と、基準周波数の信号を発振する基準周波数信号発振部と、前記コンデンサを回路要素とし当該コンデンサの静電容量に応じた可変周波数の信号を発振する可変周波数信号発振部と、前記基準周波数と前記可変周波数とのビート周波数を抽出するビート周波数抽出部と、前記抽出されたビート周波数に対応するディジタル制御信号を生成するディジタル制御部と、を備えた非接触センサが提供される。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記基準周波数信号発振部が水晶発振器を含む非接触センサが提供される。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2のいずれか一項に記載の発明において、前記基準周波数及び前記可変周波数が2〜16〔MHz〕の周波数帯域内で選定された非接触センサが提供される。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ディジタル制御部が前記ビート周波数の信号に基づいて当該ビート周波数に対応する電圧に変換する電圧変換回路を含み、当該変換された電圧に対応するディジタル制御信号を出力する非接触センサが提供される。
【0012】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記検出電極が球面状部を有する非接触センサが提供される。
【0013】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、
前記導電性の検出電極が金属板である非接触センサが提供される。
【0014】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、
前記導電性の検出電極が金網状である非接触センサが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、手の動きを正確に検出し、手の動きに正確に対応した出力信号を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る非接触センサの構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る非接触センサの検出電極の一例を示す部分断面図。
【図3】本発明に係る非接触センサの検出電極の他の例を示す部分断面図。
【図4】本発明に係る非接触センサの一の応用例を示すブロック図。
【図5】本発明に係る非接触センサの他の応用例を示すブロック図。
【図6】本発明に係る非接触センサの他の応用例を示すブロック図。
【図7】本発明に係る非接触センサの他の応用例を示すブロック図。
【図8】本発明に係る非接触センサの他の応用例を示す部分破断図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
[構成及び動作]
図1に非接触センサのブロック図を示す。
図1において、非接触センサ1は手2との間でコンデンサCを形成する検出電極(アンテナ)3と、手2と検出電極3との間のコンデンサCの静電容量の変化に対応した周波数f2の検出信号を出力する可変周波数発振部4と、基準周波数f1の基準信号を出力する基準周波数発振部5と、基準周波数f1と検出周波数f2とのビート周波数fbを抽出するビート周波数抽出部6と、抽出されたビート周波数fbの信号をビート周波数fbに対応する電圧に変換する電圧変換部7と、変換された電圧に対応するディジタル制御信号Scを生成し出力するディジタル制御部8と、を含む。
【0018】
手2は、生体としての人間の手の例を示したが、検出電極3と対極を成してコンデンサCを形成する電極たりうる人体の他の部位、例えば、顔、足、体表面等を排除するものではない。また、生体として人間以外の動物を対象とすることもできる。
検出電極3は、具体的には金属製であり、図2に示すように、球面状部を有する形状、例えば中空半球体形状に形成されている。なお、検出電極3の材料としては金属以外の導電性物質であってもよい。例えば、ポリシリコン等の導電性ポリマーの薄膜で検出電極の形成が可能である。
【0019】
ここで、検出電極3が球面状であることの技術的意義は以下の通りである。すなわち、本願発明者等は、従来のテルミンのもつ音程の不安定さがアンテナが棒状であることに起因することを見出した。検出電極が棒状であると、演奏者が手を動かす際に手がアンテナの軸部分に接近離間したり、先端面の小面積部分に接近離間する等、手の位置が必ずしも一定の位置になるとは限らず、手に対向する検出電極の部位がその都度異なるようなことが起こる。その結果、仮に手と検出電極との相対距離が同じであってもアンテナに対する手の位置が異なると検出電極の軸部分と先端部分との対向面積が異なることになる。このことはコンデンサの電極の面積が手の動きと共に変化することを意味し、したがってコンデンサの静電容量が変動して発振周波数のふらつきが生じ、演奏者の意図する音程とは異なる音程になってしまうことになるのである。
【0020】
以上のことは、アンテナを平面板とした場合も同様であり、平面部分 に対する距離は一様になるものの、側面(外周端面)との間では検出感度が極端に落ちることが起こる。
そこで、本実施形態に係る非接触センサ1のように、検出電極3を球面とすることで、手2の検出電極3における周方向位置に拘わらず、手2と検出電極3との間隔をほぼ等距離に保つことができ、コンデンサCの静電容量の変動を抑制することができる。
【0021】
なお、図2に示す検出電極3は中空半球体形状であるが、中空に限らず中実であっても良く、また半球状に限らず球であって良い。なお、球面状とは湾曲形状も含む意である。
【0022】
検出電極3の大きさは、検出対象自体の大きさと演奏者の手が動き回る範囲を考慮した大きさとするのが効果的である。
検出電極3は金属板で形成する他、図3に示す検出電極9のように、金網(メッシュ)状の板又はパンチメタル等の材料を用いても良い。このように金網状又はパンチメタルからなる検出電極9とすることにより、検出電極9の内側に配置した発光ダイオード10の発する光を検出電極9の外部に放出させることが可能となる。これは、後述(図7)するように、非接触センサ1を調光装置に用い、手の動きに応じた色や光量の各種イルミネーションを発光させるような場合に応用可能である。
【0023】
可変周波数発振部4は、いわゆるLC共振回路からなり、その回路要素としてコンデンサCを組み込んだ回路構成となっている。コンデンサCの静電容量は手2が検出電極3に接近したり離間したりする際に変化する。可変周波数発振部4は、その静電容量の変化に対応する共振周波数f2の検出信号を出力する。
【0024】
基準周波数発振部5は、水晶発振器を用い、発振周波数の安定化が図られている。なお、基準周波数発振部5として水晶発振器ではなく、一般的なLC共振回路を採用しても良い。その場合、可変周波数発振部4と基準周波数発振部5の回路部品を同一仕様とし、基板上の回路パターンも同一パターンとすることが好ましい。そうすることにより、可変周波数発振部4と基準周波数発振部5の周波数変動特性が同様になるので、差周波数であるビート周波数を一定に保つことができるからである。
【0025】
ビート周波数抽出部6は、混合回路及び検波回路を含む。混合回路により、基準周波数発振部から出力される基準周波数f1と可変周波数発振部4から出力される検出信号の周波数f2との差の周波数すなわちビート周波数fb(f1−f2)成分が抽出される。次いで、検波回路により、ビート周波数fbが2乗検波され、ビート周波数fbのエンベロープ成分が出力される。
【0026】
本実施の形態では、f1、f2として2〜16〔MHz〕の周波数帯、例えば4〔MHz〕の周波数帯域を使用している。そのため、手2を検出電極3に接近させたときのコンデンサCの静電容量の変化が小さくても発振周波数f1、f2の変化が大きくなり、感度が上がり、したがって検出距離(2と3巻の距離)のスケールを大きく取ることができる。因みに、従来のテルミンでは数100[kHz]〜1〔MHz〕が使用されている。
【0027】
電圧変換部7は、ビート周波数抽出部6から出力されるビート周波数fbの信号をその周波数の高さに応じた電圧値(0〜5[v])の電圧信号Vに変換する。この変換された電圧信号Vはディジタル制御部8に入力される。
【0028】
ディジタル制御部8はマイクロコンピュータで構成され、ビート周波数fbの変化に対応する電圧の差に応じたディジタル制御信号Scを出力する。このようにマイクロコンピュータを用いてディジタル制御信号Scを出力するように構成したので、ビート周波数fbを従来のテルミンのように可聴周波数(10〜20[kHz])に設定する必要がなく、周波数選択の自由度が向上する。
【0029】
[応用例]
次に、非接触センサ1の応用例を説明する。
図4は、非接触センサ1をテルミンのような電子楽器に用いた例である。同図において、ディジタル制御部8から前段の回路構成は図1と同様であるので図示を省略してある。
この電子楽器において、演奏に際して手2を検出電極3の周辺で接近離間させることにより、その手2の動きに対応するビート周波数fbの電圧信号Vがディジタル制御部8に入力される。ディジタル制御部8はこの電圧信号Vの電圧値に応じた音程(ドレミファ・・・)のディジタル制御信号Scを出力する。このディジタル制御信号ScはD/A変換器11によりアナログ信号(可聴周波数帯域)に変換される。変換されたアナログ信号は、アンプ12により電力増幅され、スピーカ13から可聴周波数の音として放射される。
図5は、非接触センサ1を音量調節器に用いた例である。この例は、同図に示すように、図4に示す電子楽器の音量調節器として作用させる構成である。ディジタル制御部8から前段の回路構成は図1と同様であるので図示を省略してあるが、電子楽器を構成する回路と並列に音量調節用に検出電極3から電圧変換部7に至る回路と同様な構成及び動作を行う非接触センサ1が別途設けられているものとする。ここで、音程制御用の電圧信号をV1とし、音量調節用の電圧信号をV2と表記する。
【0030】
この音量調節器において、操作者が手2を検出電極3の周辺で接近離間させることにより、その手2の動きに対応するビート周波数fbの電圧信号V2がディジタル制御部8に入力される。ディジタル制御部8はこの電圧信号V2の電圧値に応じた値のディジタル制御信号SVRを電子ボリュームVRに出力する。電子ボリュームVRは入力されたディジタル制御信号SVRが示す値に応じてD/A変換器11からアンプ12に送るべきアナログ信号の信号レベルを調節し、スピーカ13から放射される音の大きさを制御する。
【0031】
図6は、非接触センサ1をモータ制御器に用いた例である。同図において、ディジタル制御部8から前段の回路構成は図1と同様であるので図示を省略してある。この例は、ディジタル制御部8からのディジタル制御信号Scに基づいてモータ駆動部14の制御入力を変化させてモータ15の回転速度制御又は回転のオン/オフ制御を行うものである。例えば、手2と検出電極3との距離を変化させてモータ15の回転速度を変化させたり、或いは回転させたり停止させたりの動作を非接触で操作することができる。
【0032】
図7は、非接触センサ1を調光器に用いた例である。同図において、ディジタル制御部8から前段の回路構成は図1と同様であるので図示を省略してある。この例は、ディジタル制御部8からのディジタル制御信号Scに基づき調光部16の制御入力を変化させて発光体(ランプ、LED等)17に対する電流量の調整(明るさ調整)又は点灯のオン/オフ制御を行うものである。例えば、手2と検出電極3との距離を変化させてモータ15の回転速度を変化させたり、或いは回転/停止させたりの動作を非接触で操作することができる。また、発光体17を複数色分設け、手2と検出電極3との距離に応じた色の発光体17を点灯させることが可能である。
【0033】
図8は、非接触センサ1を玩具に適用した例である。この玩具は、図1に示す非接触センサ1と、図4に示す電子楽器(テルミン)と、図5に示す音量調節器と、図6に示すモータ制御器と、図7に示す調光器と、を筐体18内にマウントしたものである。そして、図示しないが、モータ制御器によって制御されるモータを筐体18の下部に設けた自走用車輪を駆動させ、また、筐体18自身を独楽のように回転させる機構を設けて回転させるようにした。
【0034】
このような構成により、筐体18の上部に内蔵された検出電極3に対して手2を接近させたり離間させたりすることで、手2と検出電極3との距離に応じた音量で異なる音を発し、筐体18を回転或いは停止させたり、異なる速度で自走させたり、さらに異なる色で光ったりする興味深い玩具を提供することができる。この場合、先に述べた金網状の検出電極9を用いることで発光体17の光が検出電極9を透過して玩具の上部から放射されるので、操作者は自己の操作量を視覚的に確認することができるといった効果が期待できる。
【0035】
以上、本発明の実施形態および応用例について説明したが、本発明は、かかる実施形態および応用例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることはいうまでもない。
例えば、応用例として、本発明に係る非接触センサをコイルへの通電制御器として用い、コイルへの通電を制御し、磁石が設けられた玩具を動作させてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1・・・非接触センサ
2・・・手
3・・・検出電極(アンテナ)
4・・・可変周波数発振部
5・・・基準周波数発振部
6・・・ビート周波数抽出部
7・・・電圧変換部
8・・・ディジタル制御部
9・・・検出電極(アンテナ)
11・・・D/A変換器
12・・・アンプ
13・・・スピーカ
14・・・モータ駆動部
15・・・モータ
16・・・調光部
17・・・発光体
C・・・コンデンサ
f1・・・検出信号の周波数
f2・・・基準周波数
fb・・・ビート周波数
Sc・・・ディジタル制御信号
SVR・・・ディジタル制御信号
VR・・・電子ボリューム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を置いて対向する生体との間でコンデンサを形成する導電性の検出電極と、
基準周波数の信号を発振する基準周波数信号発振部と、
前記コンデンサを回路要素とし、当該コンデンサの静電容量に応じた可変周波数の信号を発振する可変周波数信号発振部と、
前記基準周波数と可変周波数とのビート周波数を抽出するビート周波数抽出部と、
前記抽出されたビート周波数の信号に対応するディジタル制御信号を生成するディジタル制御部と、
を備えた非接触センサ。
【請求項2】
前記基準周波数信号発振部は、水晶発振器を含む請求項1に記載の非接触センサ。
【請求項3】
前記基準周波数及び可変周波数は、2〜16〔MHz〕の周波数帯域内で選定されている請求項1又は2のいずれか一項に記載の非接触センサ。
【請求項4】
前記ディジタル制御部は、前記ビート周波数を当該ビート周波数に対応する電圧値に変換する電圧変換回路を含み、当該変換された電圧値に対応するディジタル制御信号を出力する請求項1〜3のいずれか一項に記載の非接触センサ。
【請求項5】
前記検出電極は球面状部を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の非接触センサ。
【請求項6】
前記導線性検出電極は金属板である請求項1〜5のいずれか一項に記載の非接触センサ。
【請求項7】
前記導線性検出電極は金網状である請求項1〜5のいずれか一項に記載の非接触センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−118156(P2011−118156A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275489(P2009−275489)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000003584)株式会社タカラトミー (248)
【Fターム(参考)】