説明

非木材再生セルロース繊維及び該繊維含有繊維製品

【課題】本発明は、最近の環境問題解決の一助になるべく、バイオマス資源の有効利用の拡大の観点から非木材再生セルロース繊維の利用範囲を現実的に、工業レベルで広げる事を目的に、再生セルロース化工程での問題点を解決し、更には特徴ある非木材再生セルロース繊維及び該繊維含有繊維製品を提供するものである。
【解決手段】靱皮繊維、葉繊維をパルプ化後に溶解して繊維化した再生セルロース繊維及び該再生セルロース繊維を含有する繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靱皮繊維、葉繊維をパルプ化後に溶解して繊維化した再生セルロース繊維及び該再生セルロース繊維を含有する繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、織編物や不織布の布帛に用いられる原料として、天然繊維、化学繊維では天然原料を使用するセルロース系再生繊維や半合成繊維、タンパク質系繊維があるが、石炭、石油を原料とする合成繊維が大半を占めている。しかし、近年石炭、石油系原料による産業廃棄物の増加による環境汚染、地球温暖化が大きく問題となっている。
【0003】
こうした中、地球環境保全を目的として、原料をバイオマス資源(非石油資源)とするための研究開発が近年盛んに行われている。
【0004】
木材、コットンリンターを原料とした再生セルロース繊維は、古くから工業的に生産され多くの繊維製品に使用されている。
【0005】
コットンリンター以外の非木材繊維は製紙原料として一部使われているが繊維製品としての使用は少ない。竹パルプや麻の内のラミーやリネンのみが紡績原料として衣料用に使われているが、これ以外は、繊維が粗いため、衣料用紡績原料としては不適とされ、もっぱら資材用途とされている。また、ケナフの靱皮繊維そのものについては、衣料用の紡績原料として使っている製品はあるが、材料の堅さから柔軟処理等の後加工が必要となっている。
【0006】
非木材繊維をパルプ化、溶解して再生セルロース繊維を得る事も以前から知られており、近年は、特に竹を原料とする再生セルロース繊維に関して、既存の木材パルプからの再生セルロース繊維にない特性を有する事に着目した多くの特許が出願されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0007】
特許文献1によれば、竹を原料とした再生セルロース繊維を用いて得られた織物や編物は、従来のレーヨン繊維を用いたものと較べて、驚くほど張りと腰があり、しわになりにくく、麻のような乾いた感触があって、吸湿性、放湿性にも優れていることが記載されている。
【0008】
特許文献2、3によれば竹を原料とした再生セルロース繊維が抗菌性を有する事が記載されている。
【0009】
特許文献4によれば竹以外の非木材としては、ケナフ、コットンリンター、麻、バガス、月桃等からの再生セルロース繊維に関して記載されているが、再生セルロース繊維製造段階での多量の界面活性剤の使用が必要であると記載されている。
【0010】
上記特許文献に記載のように非木材パルプを原料とした再生セルロース繊維の利点が知られているにも関わらず、コットンリンターを除いて実際に工業製品としての流通は、多くの検討がされている竹を原料とする再生セルロース繊維であっても少なく、それ以外の非木材パルプを原料とした再生セルロース繊維の実用化は皆無に等しい。
【0011】
その理由は、使用される非木材原料の供給安定性と経済性の確保、再生セルロース製造段階での低い生産性、再生セルロース繊維製造に用いるパルプ製造段階での過剰な処理による経済性の低下と過剰処理による再生セルロース繊維の特性優位性の損失が起因していると考えられる。
【特許文献1】特開2001−115347号公報
【特許文献2】特開2005−126871号公報
【特許文献3】特開2005−155001号公報
【特許文献4】特開2007−154386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、最近の環境問題解決の一助になるべく、バイオマス資源の有効利用の拡大の観点から再生セルロース繊維の利用範囲を現実的に、工業レベルで広げる為に障害となっている問題を解決しようとするものである。
【0013】
木材を原料とした溶解パルプの製造工程は、木材チップから大部分のリグニン・ヘミセルロースを除去しパルプ化する蒸解工程と、残留するリグニン・ヘミセルロース・樹脂分・灰分を除去し、白色度、セルロースの重合度を調製するなどの精製漂白工程に大別される。
【0014】
市販溶解パルプは、再生セルロース製造工程の生産性、品質との関係からαセルロース90質量%以上、樹脂分0.25質量%以下、灰分0.1質量%以下にコントロールされているのが一般的である。この為、製紙用の蒸解・精製漂白工程より厳しい条件で製造する必要があり、得られるパルプの強度は製紙用に比較して弱い。
【0015】
木材を原料とするパルプを用いて、強度が必要とされる強力レーヨンやポリノジック繊維を得ようとする場合は、溶解するパルプのαセルロース含量が90質量%を越えて高く、低重合度部分が少なく、かつ重合度分布が均斉であることが要求されると言われている。しかし普通レーヨンステープルについては、コスト面等により90質量%程度のパルプであっても再生セルロース繊維の製造は可能である。強力レーヨンやポリノジック繊維は、オールスキン構造を保ち、繊維化する時の紡糸延伸率を高くして結晶化度を上げて、強力向上につなげる。このためには、前記αセルロースの高いパルプを使う必要が生じてくる。これに対し、普通レーヨンでは、スキン/コア構造のスキン層の厚みと繊維強度は正の相関関係があると同時に、スキン層の性質は紡糸条件の影響を受けると言われている。このため、比較的αセルロースの低いパルプを使うことができると考えられている。
【0016】
何れにしても、既存の木材を原料とする再生セルロース繊維では原料のαセルロース含有量が重要であり、この含有量が低いと再生セルロース化工程での生産阻害となる。
【0017】
特許文献2によれば、再生セルロースを製造する原料である竹パルプのαセルロース含有量が93%以上で有る必要があり、その為に過酷なパルプ化段階での処理即ちパルプスラリーでのアルカリ処理の必要性を記している。
【0018】
特許文献3によれば、「ビスコース法で従来から製紙用に供給される竹パルプを使用し、木材パルプやコットンリンターを原料とした場合と同一工程条件で作った場合、竹パルプ原料繊維は、αセルロース成分が低くβセルロースやその他の低分子量セルロースおよび樹脂分、灰分等の含有率が高いため製糸性が悪く、また重合度、結晶化度が低い傾向にあり、繊維強度が低く満足な繊維特性の品質が得られない。そして、竹の品種を限定し、パルプ製造における低分子量セルロース、樹脂分や不純物の含有率を少なくした紡績用に使用できる原綿製造用パルプを使用し、フィラメントの製糸を検討したが、紡糸での糸切れの発生等による製糸性が悪く工業生産不可能なものであった。パルプ用竹原料として品種の選択、パルプ製造における製造条件、繊維製造工程条件から検討し、パルプの段階において精製することにより、αセルロース成分87重量%以上のパルプとすることによって、フィラメントとして製糸可能であることを見出した」としている。ここで言うパルプ段階においての精製とは、パルプの苛性ソーダによる処理を指す。
【0019】
更に特許文献3によれば「竹を原料とするセルロース系繊維は、原料の性能として抗菌性を有する。当該抗菌成分は、使用する化学薬品、製造工程における加熱温度に影響を受けるが、ビスコースレーヨン法の場合、苛性ソーダの処理等によって不純物を除去し、αセルロース含有率を高める際の熱により抗菌性能が左右される。また、竹パルプをエチレングリコ−ルを加えて熱可塑化して、溶融紡糸できるポリマーとするが、溶融紡糸する際の熱の影響を受けて抗菌性が低下する場合がある」としている。このことは、原料パルプへの過剰な処理は性能に悪影響を及ぼす事を示している。
【0020】
上記したように再生セルロース化工程での生産阻害回避の為に、原料となる木材パルプ及び竹パルプはαセルロースと言う指標で示される純度が必要である事及びその実現の為にパルプ製造段階で通常の製紙用パルプとは異なる特別な処理が必要であり、そのことが発現すべき性能を損なう可能性のある事を示している。
【0021】
非木材パルプを原料とした再生セルロース繊維は、木材を原料とした再生セルロース繊維に比較して繊維製品とした時に優れた特性を発現する可能性があるが、特に竹繊維についてはその特性に関して多くの検討がなされており、その他の非木材繊維に関しては具体的にその特性に関して定量的に記載した文献は殆ど存在せず、なにより実際の製品としての流通は皆無に等しいのが現状である。
【0022】
本発明では、非木材繊維を原料として、パルプ化段階及び再生セルロース繊維製造段階での多くの製造上の問題点を克服し、生産性に優れ、植物原料に起因する特性を充分に発現した、従来の木材或いはコットンリンターを原料とした再生セルロース繊維に比較して特徴ある再生セルロース繊維、その製造方法及び特徴ある繊維製品を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、上記課題を解決するために、次の構成を有するものである。
【0024】
(A)靭皮繊維、または葉繊維の少なくとも何れかをパルプ化後に、該パルプの1種類以上を溶解して繊維化した再生セルロース繊維。
【0025】
(B)靱皮繊維、または葉繊維の少なくとも何れかを原料としたパルプ化の為の蒸解条件が、
(1)温度及び時間の因子として下式で表されるH−ファクターが、
H−ファクター: ∫exp(43.2−16113/T)dt
ここで、tは時間、Tは絶対温度、積分範囲は0〜t
1,000〜1,800であり、且つ
(2)NaO換算アルカリ添加率が、靱皮繊維は7〜25質量%であり、葉繊維は7〜20質量%
である(A)記載の再生セルロース繊維。
【0026】
(C)前記靱皮繊維の原料となる植物が大麻、亜麻、ジュート、およびケナフからなる群より選択される1以上の植物であり、前記葉繊維の原料となる植物がアバカおよび/またはサイザルである(A)または(B)記載の再生セルロース繊維。
【0027】
(D)原料となる植物がケナフである(C)記載の再生セルロース繊維。
【0028】
(E)ケナフ靭皮繊維をパルプ化後に、該パルプを含む1種類以上を溶解して繊維化した(A)または(B)に記載の再生セルロース繊維。
【0029】
(F)(A)〜(E)何れか1に記載の再生セルロース繊維を含有する繊維製品。
【0030】
(G)前記繊維製品がフィラメント、ステープル、紡績糸、編物、織物、縫製品、不織布の何れか1種である(F)記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、靱皮繊維、または葉繊維の少なくとも1種類以上をパルプ化し、少なくとも1種類以上のパルプを原料とすることで、原料となる植物繊維固有の特性を充分に発現した再生セルロース繊維を得る事ができ、更には再生セルロース繊維化工程での生産性を従来の木材を原料とした再生セルロース繊維化工程での生産性に、優れるとも劣らない状態に改善でき、工業製品としての経済性を確保出来る。
【0032】
例えば、ビスコースレーヨン法により本発明による再生セルロース繊維を製造する場合には、何ら従来の製造方法を変更する事なく製造する事が出来、製造条件を制御する事で繊維はオールスキン構造を保ち繊維化する時の紡糸延伸率を高くする事で、強力レーヨンやポリノジック繊維を製造出来るし、スキン/コア構造を有する普通レーヨンも何の問題も無く製造が可能である。
【0033】
本発明により得られた再生セルロース繊維は、靱皮繊維、葉繊維から得られた原料パルプの本来有する特性及び再生セルロース繊維化した時の繊維構造の特異性により、本再生セルロース繊維を含有する繊維製品においても繊維特性が反映され、木材繊維を原料とする再生セルロース繊維及びそれを含む繊維製品に比較して、透湿性、染着性、抗菌性、柔軟性、等の特性の改善が計られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
前述したように、非木材の再生セルロース繊維は既に知られている事ではあるが、コットンリンターを除いて現実に工業製品として利用されているのは、極めて過酷な条件でパルプ化した竹繊維に限られ、その利用も少ない。その他の非木材繊維は再生セルロース化出来ると記載された特許等の文献は存在するが、流通商品としては見る事が出来ない。これは、現実の再生セルロース化工程での生産性の確保が難しく、経済性も大きな障害になっている為と考えられる。
【0035】
本発明では、多くの種類の非木材繊維からのパルプ化及び再生セルロース繊維化を検討し、その中から本発明で言う形態が特異的に好ましい事を見いだしたものである。即ち、本発明においては、靱皮繊維、または葉繊維の少なくとも何れかをパルプ化し、少なくとも1種類以上のパルプを溶解して繊維化した再生セルロース繊維及び該再生セルロース繊維を含有する繊維製品を得るものである。
【0036】
ここで言う靱皮繊維、葉繊維とは、昭和42年3月10日、紙パルプ・技術協会発行の「クラフトパルプ・非木材パルプ」の中に、非木材繊維の分類として、靱皮繊維、木質繊維、硬質繊維、種毛繊維、葉の繊維と分類されているが、この中の靱皮繊維、葉の繊維を指す。具体的には、靱皮繊維の原料となる植物には、大麻、亜麻、ジュート、ケナフなどの麻類、楮、三椏、雁皮、桑などの灌木などがあり、葉繊維としてマニラ麻(別称アバカ)、サイザル麻(別称サイザル)などがある。ここで特に注意しなければならない事は、上記植物をパルプ化する場合には、木質部を有する植物も多く、その部分を除いた靱皮繊維、葉繊維である事が必須である。例えば、製紙用として市販されているケナフパルプは、木質部と靱皮部分を混合としてパルプ化したものが殆どであり、製紙用としてはそれで充分使用出来る品質であるが、再生セルロースを得るためのパルプとしては適合しない。本発明では、ケナフの靱皮繊維部分に限って、パルプ化する事が必要である。
【0037】
再生セルロースに用いられる原料となるパルプは、既存の木材パルプであっても、特許文献による竹パルプであっても高αセルロース含有量が必須条件になっており、この為にパルプ化工程での過酷な処理が必要になっている。αセルロースの量は木材パルプ、竹パルプを原料とする場合は、その再生セルロース繊維化工程での生産性確保の為に、パルプ中に含まれるリグニン等の不純物の除去の為の純度を表す指標としてはある意味を持っていると考えられるが、その為に木材、非木材の本来持っている特性を損なう可能性が大きい。
【0038】
本発明者等の多くの検討結果によって、パルプの原料になる非木材繊維の全セルロース量が多いこと、残リグニン量が少ない事が重要であり、こうした原料を用いパルプ化を行う事で得られるパルプは、植物本来の持つ特異的な特性を維持しながら再生セルロース繊維化工程での阻害要因となる不純物を効率よく除去出来、最終的には経済性に優れた特徴ある再生セルロース繊維が得られる事が判った。又、パルプ化の際の蒸解条件をコントロールする事で、本発明による再生セルロース繊維の特性を最大限に発現させられる事も判った。
【0039】
ここで言う全セルロース量とは、原料を塩素、亜硫酸ナトリウム溶液処理を繰り返してリグニンを除き、原料中のセルロース含有量を表す指標である「クロスビバン・セルロース」として表される。
【0040】
昭和42年3月10日、紙パルプ・技術協会発行の「クラフトパルプ・非木材パルプ」によれば、靱皮繊維、葉繊維のクロスビバン・セルロース含有率はその他の非木材繊維に比較して極めて多く70〜80質量%であり、リグニン量は靱皮繊維で1〜2質量%、葉繊維で7〜8質量%と極めて少ない。因みに広葉樹のクロスビバン・セルロース含有量は54〜61質量%、リグニン量は23〜30質量%であり、竹のクロスビバン・セルロース含有量は、60〜63質量%、リグニン量は24〜29質量%である。
【0041】
靱皮繊維、葉繊維を有する植物から繊維を取り出す方法は、靱皮繊維に関しては、レッティングと呼ばれる水に浸し発酵させる方法が一般的であり、葉繊維は葉の部分から繊維を手動か、機械で分離する方法が一般的であり、商業生産されている。
【0042】
非木材繊維のパルプ化方法は通常の木材パルプ同様に既存の機械的方法、半化学的方法、化学的方法など種々の方法が適用可能であるが、本発明による再生セルロース繊維の原料となる靱皮繊維、葉繊維のパルプ化は化学的方法に限られ、品質的にも経済的にも望ましい。また具体的な化学パルプ化方法は、蒸解薬品にNaOHを用いるソーダ法、NaOHやNaHCOで緩衝されたNaSOを用いる亜硫酸ソーダ法が用いられる。
【0043】
上記方法による工業的なパルプ蒸解にあたっては、その蒸解程度を制御する場合に、i)脱リグニン反応に影響が大きな蒸解温度と蒸解時間、ii)原料に対し添加するアルカリ薬品の総添加率(質量%)、を適当に調整することが所望のパルプを得る為に必要である。
【0044】
蒸解反応は蒸解温度が高いと蒸解反応が促進されるとともに蒸解時間も同時に関係するため、温度と時間を1つの因子と見なして100℃の脱リグニン反応速度を1として、ほかの温度における相対速度をArrheniusの式(ln(相対速度)=43.2-16113/T Tは絶対温度)より求め、その温度における時間との積であるH−ファクター(下式)によって算出、管理する手法が一般的になっている。
【0045】
H−ファクター: ∫exp(43.2−16113/T)dt
ここで、tは時間、Tは絶対温度、積分範囲は0〜t
パルプ蒸解にあたって、ソーダ法、亜硫酸ソーダ法の何れを選ぶかは使用する原料の品種やH−ファクターで表される反応時間と反応温度、希望とする脱リグニンの程度や白度、得られる再生セルロース繊維の品質特性を勘案して選択される。
【0046】
原料に対し添加するアルカリ薬品の総添加率(質量%)は、原料絶乾量に対するアルカリ量(Na2O換算表示)の比率で表される。総アルカリの算出はNa2O換算表示する場合、Na2O/Na2SO3/NaOH=1.000/0.492/0.775の比率と見なしてアルカリ量を計算する。
【0047】
本発明によるパルプ化条件は、パルプ化が可能であれば特に限定されないが、パルプ化後の再生セルロース繊維化製造工程での生産性向上及び得られる再生セルロース繊維の特性を最大限発現させる為には、H−ファクター=1,000〜1,800、好ましくは1,200〜1,600であり、この時の蒸解温度は150℃〜175℃の範囲に設定される事が好ましく、総アルカリ添加率(質量%)は、靱皮繊維で7〜25質量%、好ましくは10〜20質量%、葉繊維で7〜20質量%、好ましくは10〜15質量%である。
【0048】
実際に使用する靱皮繊維、葉繊維を有する植物として、その繊維の流通汎用性、得られる特性にバランスした経済性の観点から靱皮繊維に関しては、大麻、亜麻、ジュート、ケナフが好ましく、葉繊維に関しては、アバカ、サイザルが好ましい。更に、環境の観点から生育期間が4〜5ヶ月であり、炭酸ガス固定量に優れるケナフがその経済性、得られる再生セルロース繊維の特性から最適の原料である。
【0049】
靱皮繊維、葉繊維のパルプを原料とした本発明の再生セルロース繊維は、ビスコースレーヨン、銅アンモニア法レーヨン、ポリノジック、リヨセル等従来の再生セルロース繊維の製造に用いられているいずれの製造プロセスによっても得られる。
【0050】
ビスコース法による再生繊維の製造に関しては、従来の木材パルプやコットンリンターパルプを原料としてアルカリセルロース、二硫化炭素を用いてビスコース原液を作り、それを硫酸浴に紡糸する湿式紡糸が本発明においても用いられる。
【0051】
本発明による靱皮繊維、葉繊維からなるパルプを用いた再生セルロース繊維製造工程での生産性の良さ、操業条件の多様性は、パルプ化前の原料段階での全セルロース含有量の多さ、セルロース以外特にリグニン含有量の少なさに起因している。得られる再生セルロース繊維の特性は、使用するパルプの全セルロース含有割合、構成するセルロースの種類、即ちαセルロース、βセルロース、γセルロース等の量とその比率、製造条件による繊維構造により発現されると考えられる。
【0052】
靱皮繊維、葉繊維を原料とする本発明による再生セルロース繊維による繊維製品に賦与される特性は、透湿性、染着性、柔軟性、抗菌性であり、従来の木材を原料とする再生セルロース繊維による繊維製品に対する優位性となっているが、靱皮繊維、葉繊維の原料となる植物の種類によりその優位性の度合いが異なる。
【0053】
ケナフを原料とする場合は、特に染着性、柔軟性に優れ、アバカを原料とする場合は乾強伸度特性、ハリコシに優れる。
【0054】
従って、本発明による靱皮繊維、または葉繊維の原料植物の異なる2種類以上のパルプを混合使用した再生セルロース繊維は、繊維製品の用途によっては極めて有用な特性をもたらす。
【0055】
木材を原料としたレーヨンを使った下着は吸水性が高く汗を吸い易いという長所がありながら、水分の透湿性が悪いためムレ感があるとの欠点を押さえることができなかった。本特許による再生セルロース繊維を含有させる事により、綿やレーヨンの生地よりも透湿性が良いものが得られ、レーヨンの欠点を補うことができる。また、染着率が高いことからレーヨンを染色する際の染料の量が従来のレーヨンよりも少なく済み、コスト面で安く仕上げることができる。既存のレーヨンは他の繊維(天然繊維や合繊)に比べ、柔らかいのがその素材の特徴であるが、本発明による繊維を用いて造られた生地は特殊加工する必要もなく、普通レーヨンより更に柔らかさを出す商品を造ることができる。
【0056】
本発明の再生セルロース繊維の形態は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもステープルであってもよい。本発明による再生セルロース繊維単独であってもよいし、これを含む複合繊維であってもよい。ここで複合繊維とは、本発明による再生セルロース繊維と他の天然、再生または合成繊維との均一または層構造の混紡繊維を意味する。混合する天然繊維としては、木綿、麻、絹、羊毛、カシミヤ、アルパカ、モヘヤ、アンゴラ、ラクダ、ロシアンセーブル、ガナコ等、再生繊維としては従来の例えばレーヨン等の再生セルロース繊維、アセテート、ジアセテート等の半合成繊維等、合成繊維としてはポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等が例示できる。複合繊維の場合、本発明の再生セルロース繊維を少なくとも10質量%以上、好ましくは20質量%以上含有させることが望ましい。
【0057】
本発明による再生セルロース繊維は、該繊維単独またはこれを含む混紡繊維から、あるいはこれらの繊維と他の繊維とを組合せて製造された織物、編物、縫、不織布製品等繊維製品に適用できる。
【0058】
本発明による再生セルロース繊維の特性を利用して、織物としては、経糸、緯糸共当該フィラメント糸や複合繊維糸を使用して構成しても、経糸もしくは緯糸にだけに使用することでもよい。当該フィラメント糸単独織物の場合、タフタや羽二重の平、ツイル、サテン等の3現組織による基本的な織物は、裏地、フォーマル、シャツ、ブラウス等の衣料やカーテン、風呂敷、リボン・テープ等の資材として用途が広いが、さらには、他の天然繊維、化学繊維との複合による織物とすることにより物性面、品位面での向上があり広い用途に適用できる。編物の場合は、丸編、横編、経編いずれも限定されるものではない。用途に対応した生地、布帛の設計要素に準じて糸を使用すればよい。
【0059】
また、本発明の再生セルロース繊維は、混紡される他の繊維が精練・漂白が必要な場合は、それらの処理を施しておくことが好ましい。例えば綿繊維ではアルカリを使用して精練・漂白を行う必要が生じるが、綿繊維の精練・漂白をあらかじめ原綿やスライバーの段階で行ってから紡績糸を製造すれば、本発明による再生セルロース繊維と複合したのちに染色仕上げ加工の段階でアルカリを用いた精練・漂白を行う必要がない。また経糸に綿糸、緯糸に再生セルロース繊維を用いた交織生地の場合は、あらかじめ綿糸を精練・漂白しておけばよい。
【0060】
不織布の場合は、本発明の再生セルロース繊維の特性を活かしてフィルター等の形態での使用が考えられる。その製造方法は、用いる繊維によって適した条件を選択できるが、最も適している方法は、ウエッブにニードルパンチあるいはウォータパンチ交絡を施すことにより製布することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
以下に実施例、比較例を記載するが、実施例及び比較例に関係する『パルプの物理特性評価』、『ビスコース品質・生産性評価』、『再生セルロース繊維評価』、『再生セルロース含有布帛の特性評価』、『ケナフ靱皮繊維を原料としたパルプの製造方法』、『アバカ葉繊維を原料としたバルプの製造方法』、『使用した市販パルプ』について下記する。
【0063】
『パルプの物理特性評価』
(1)比破裂強さ:kPa・m2/g
JIS P8112 紙及び板紙のミューレン低圧試験機による破裂強さ試験方法により測定
(2)比引張強さ:N・m/g
JIS P8113 紙及び板紙−引張り特性の試験方法−第2部:定速伸長方法により測定
(3)比引裂強さ:mN・m2/g
JIS P8116 紙−引裂強さ試験方法−エルメンドルフ型引裂試験機法により測定。
【0064】
『ビスコース品質・生産性評価』
品質が良くかつ生産性の良い製品を得るためには、良いビスコースを得ることが必要となる。原料パルプがアルカリと十分に反応し所定の濃度に圧搾・粉砕されたアルカリセルロースが得られると二硫化炭素との反応が進み、良好なビスコースが得られる。この時、ビスコースの良い悪いの指標として、ろ過前ビスコースのKW値で表わされる。ろ過前ビスコースのKW値の上昇は、その後のビスコースろ過工程で長時間を要し、更にレーヨン紡糸工程での製糸性の低下を引き起こす。商業的な生産を考えると、ここで言うろ過前KW値が好ましくは6,000以下であり更に好ましくは3,500以下である。
【0065】
KW値=(2-P2/P1)/(P1+P2)×105
但し、P1は20分間のビスコースろ過量(g)
P2は20分間からの60分間のビスコースろ過量(g)。
【0066】
『再生セルロース繊維評価』
(1)乾・強度:cN/dtex
JIS L1015 低速緊張型試験機による化学繊維ステープル試験方法の8.7項引っ張り強さの標準時試験方法により測定
(2)乾・伸度:%
JIS L1015 低速緊張型試験機による化学繊維ステープル試験方法の8.7項伸び率の標準時試験方法により測定
(3)染着率:%
染着率は、JIS L1015に規定されている方法で測定した。先着率の測定法は、試料を直接染料で染色し、染色残液の濃度を吸光度により測定し、検量線より求める。
【0067】
数値が高い方が、染色され易いことを表わす。
【0068】
(4)見掛ヤング率:N/mm2
見掛ヤング率は、JIS L1015に規定されている方法により初期引張抵抗度を測定し、次式により見掛ヤング率を算出した。
【0069】
Ym=1000×ρ×Tri
ここで Ym:見掛ヤング率(N/mm2)、ρ:繊維の比重(g/cm3)、
Tri:初期引張抵抗度(N/tex)
測定は、定速伸張形の試験機を使い、つかみ間隔は20mm、引張速度20mm/分の条件で行った。
【0070】
見掛ヤング率は、繊維を引っ張った際の応力であり、ヤング率が低いほど応力が少なく柔らかい繊維であると言える。
【0071】
『再生セルロース含有布帛の特性評価』
(1)透湿度:g/m2・h
繊維製品の透湿度試験方法は、JIS L1099に規定されているA−1法の塩化カルシウム法で測定した。透湿度は、所定のカップに入れた吸湿剤(塩化カルシウム)を繊維製品で覆い、温度40℃×湿度90%RHの恒温・恒湿装置内で、空気中の水分が繊維製品を通過する量を測定する方法であり、衣服の衣服内湿度への影響を調査するものである。
【0072】
(2)抗菌性
抗菌性はJIS L1902繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果の菌液吸収法により求め、試験に用いる菌種は黄色ぶどう球菌(スタフィロコッカス・アウレウスATCC6538P)を使用する。抗菌効果は静菌活性値2.0以上を合格とする。
【0073】
(3)やわらかさ:官能試験
女性 10名(20代 4名、30代、40代、50代 各2名)のモニターで、生地サンプルを目隠しして触り、やわらかさについての点数を付ける。
【0074】
数字は5点法で、
5点:そう思う、4点:ややそう思う、3点:どちらでもない、
2点:あまりそう思わない、1点:思わない
モニターの各集計結果を平均する。
【0075】
『ケナフ靱皮繊維を原料としたパルプの製造方法』
「ケナフパルプA」
ケナフ靱皮繊維、300Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ水溶液を総アルカリ添加率13質量%になるように添加し、蒸解温度165℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=1,300になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0076】
「ケナフパルプB」
ケナフ靱皮繊維、300Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ水溶液を総アルカリ添加率13質量%になるように添加し、蒸解温度170℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=2,100になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0077】
「ケナフパルフC」
ケナフ靱皮繊維、300Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ水溶液を総アルカリ添加率13質量%になるように添加し、蒸解温度160℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=900になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0078】
『アバカ葉繊維を原料としたバルプの製造方法』
「アバカパルフA」
アバカ葉繊維、300Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ及び亜硫酸ソーダ水溶液を総アルカリ添加率12質量%になるように添加し、蒸解温度165℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=1,400になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0079】
「アバカパルプB」
アバカ葉繊維、3,Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ及び亜硫酸ソーダ水溶液を総アルカリ添加率22質量%になるように添加し、蒸解温度160℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=1,400になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0080】
「アバカパルプC」
アバカ葉繊維、300Kgを加圧可能な蒸解釜(地球釜)に仕込み、苛性ソーダ及び亜硫酸ソーダ水溶液を総アルカリ添加率6質量%になるように添加し、蒸解温度165℃にて蒸解時間をコントロールしH−ファクター=1,400になるような条件で蒸解した。蒸解終了後、残留するアルカリ成分や溶解成分である蒸解黒液を除去する為に洗浄し、さらに未蒸解原料を除去する精選処理及び次亜塩素酸ソーダでの漂白処理した後、シート形状に乾燥・裁断した。
【0081】
『使用した市販パルプ』
「市販木材パルプ;LDPT」
日本製紙ケミカル株式会社製
「市販ケナフパルプ;Kenaf Bleached KraftPulp」
PHOENIXPULP&PAPER PUBLIC CO.LTD 製
「市販竹パルプ;Bamboo Bleached KraftPulp」
PHOENIXPULP&PAPER PUBLIC CO.LTD 製。
【0082】
『実施例、比較例で使用したパルプの物性値』
実施例1、2および3で使用したパルプの物性値を表1aに、実施例4、5および6で使用したパルプの物性値を表1bに、比較例で使用したパルプの物性値を表1cにそれぞれ記載する。
【表1a】

【0083】
【表1b】

【0084】
【表1c】

【0085】
表1a〜表1cに記載の如く、本発明によるケナフパルプA、B、C及びアバカパルプA、B、Cの強度は、市販の再生セルロース繊維用木材パルプ(LDPT)より強く、特にアバカパルプの強度は強い。製紙用途向け非木材パルプである、市販ケナフパルプ及び市販竹パルプの強度は本発明によるケナフパルプよりは強いがアバカパルプには劣る。本発明のパルプ強度は再生セルロース繊維の特性に影響を与える。
【0086】
(実施例1)
ケナフパルプA、100Kg をスラリータンクに投入し、220g/リットル苛性ソーダ水溶液に浸漬し、50℃/15分間の条件でスラリー化を行った。硫化工程は、二硫化炭素添加量を対パルプで30質量%として75分間硫化し、溶解工程は、溶解時間が120分でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、ケナフレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0087】
(実施例2)
ケナフパルプB、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、ケナフレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0088】
(実施例3)
ケナフパルプC、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率60%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、ケナフレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0089】
(実施例4)
アバカパルプA、100Kg を実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、アバカレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0090】
(実施例5)
アバカパルプB、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、アバカレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0091】
(実施例6)
アバカパルプC、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率50%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、アバカレーヨン1.7T×38mmを得た。
【0092】
(比較例1)
市販木材パルプ;LDPT、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、普通レーヨン1.7T×38mmを得た。
【0093】
(比較例2)
市販ケナフパルプ;Kenaf Bleached KraftPulp、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製した。
【0094】
(比較例3)
市販竹パルプ;Bamboo Bleached KraftPulp、100Kgを実施例1と同じ条件でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後に、これを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率30%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸をおこなった。
【0095】
実施例1、2、3、4、5及び6、ならびに比較例1、2、及び3から得られたビスコースの良い悪いの指標を表すKW値を表2に記載する。
【表2】

【0096】
注:KW値は下一桁を四捨五入した
表2の結果から、実施例1、2、4、5及び比較例1から得られたビスコースは好ましいKW値の範囲であり同一の紡糸条件で特に問題なく繊維化することができた。実施例3及び実施例6から得られたビスコースはKW値が高い為、実際の紡糸は延伸率を下げて紡糸したが特に問題なく製糸する事が出来た。比較例2から得られたビスコースはKW値測定不能であり、ビスコースのろ過が出来ず、紡糸する事は出来なかった。比較例3から得られたビスコースはKW値が極めて高く、ビスコースのろ過に長時間を要し、その後、紡糸段階での延伸率を30%まで下げて紡糸を試みたが繊維切れが多発し、紡糸不能であった。
【0097】
実施例1〜6及び比較例1から得られたレーヨン繊維の評価結果を表3に記載する。比較例2及び比較例3についてはレーヨン繊維が得られなかった為、繊維としての評価結果は記載していない。
【表3】

【0098】
表3の記載結果から、実施例1、2、4及び5から得られたレーヨン繊維の乾・強度は比較例1から得られた普通レーヨン繊維に比べて高く、特に実施例4から得られたレーヨン繊維は高い乾・強度を有している。実施例3及び6の繊維強度が比較例1より劣る理由は紡糸段階での延伸率が低いことに起因している。実施例1に比較して実施例2で得られたレーヨン繊維の乾・強度が落ちているのは、乾・伸度の違いから考えて製造時の延伸率を同一とした結果と類推される。実施例4及び5の乾・強度の違いも同様の理由によると考えられる。実施例から得られたレーヨン繊維の染着率は比較例1から得られたレーヨン繊維に比較していずれも高く、特に実施例1は極めて優れた染着率を示している。繊維の柔軟性を示す見掛けヤング率は比較例1から得られたレーヨン繊維より実施例から得られたいずれのレーヨン繊維も低く、より柔軟性に優れる事を示している。特に実施例1は際だっている。以上の結果から、本発明によるレーヨン繊維が従来の木材を原料とするレーヨン繊維より優れた特性を有する事がわかる。
【0099】
(実施例7)
実施例1のケナフレーヨンを原料にして撚り数21回/インチ、30番手のケナフレーヨンのリング紡績糸を作製した。この紡績糸を丸編機にかけケナフ100%天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、ケナフレーヨン100%の編物生地を得た。
【0100】
(実施例8)
実施例7のケナフレーヨンの30番手のリング紡績糸と綿糸(ローヤルダイヤ オーミケンシ製)を交互に編成して丸編機にかけケナフ30質量%/綿70質量%の天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、ケナフレーヨン質量30%/綿70質量%の編物生地を得た。
【0101】
(実施例9)
実施例4のアバカレーヨンを原料にして撚り数21回/インチ、30番手のアバカレーヨンのリング紡績糸を作製した。また、この紡績糸を丸編機にかけアバカ100%天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、アバカレーヨン100%の編物生地を得た。
【0102】
(実施例10)
実施例9のアバカレーヨンの30番手リング紡績糸と綿糸(ローヤルダイヤ オーミケンシ製)を交互に編成して丸編機にかけアバカ50質量%/綿50質量%の天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、アバカレーヨン50質量%/綿50質量%の編物生地を得た。
【0103】
(比較例4)
普通レーヨンの紡績糸30番手(ジェットホープ オーミケンシ製)を丸編機にかけ普通レーヨン100%天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、普通レーヨン100%の編物生地を得た。
【0104】
(比較例5)
綿糸の30番手(ローヤルダイヤ オーミケンシ製)を丸編機にかけ100%天竺ニットを作製、更に染色加工を行い、木綿100%の編物生地を得た。
【0105】
実施例7、8、9、10及び比較例4、5から得られた編物生地の特性評価結果を、表4に記載する。
【表4】

【0106】
表4の記載結果から、実施例7,8,9及び10から得られた編物生地の透湿度、抗菌性、柔らかさを表す官能試験結果は比較例4及び比較例5から得られた編物生地に比較して何れも透湿性及び抗菌性に優れ、柔らかい特性を有していることがわかる。特に実施例7から得られた編物生地は高い透湿性と極めて柔らかい特性を有していることがわかる。
【0107】
(実施例11)
ケナフパルプA、50Kg及びアバカパルプA、50Kgをスラリータンクに投入し、220g/リットル苛性ソーダ水溶液に浸漬し、50℃/15分間の条件でスラリー化を行った。硫化工程は、二硫化炭素添加量を対パルプで30質量%として75分間硫化し、溶解工程は、溶解時間が120分でビスコースを作製し、ろ過、脱泡、熟成後にこれを紡糸して繊維化を行った。紡糸条件は、紡糸スピード60m/分、延伸率70%、紡糸硫酸濃度95g/リットル、硫酸亜鉛濃度14g/リットル、芒硝濃度350g/リットルで紡糸後、切断、精練、乾燥を行い、ケナフ/アバカ混合レーヨン1.7T×38mmを得た。該レーヨンを原料にして撚り数21回/インチ、30番手のケナフ/アバカ混合レーヨンのリング紡績糸を作製した。この紡績糸を丸編機にかけ天竺ニットを作製、更に染色加工を行いケナフ/アバカレーヨン100%の編物生地を得た。
【0108】
実施例11で得られたビスコースのKW値は2,200であり、全く問題なく紡糸可能であった。このKW値はアバカパルプAから得られたビスコースのKW値(3,020)よりケナフパルプAから得られたKW値(1,960)に近い値であった。
【0109】
実施例11及び比較例4から得られた編物生地の物性評価結果を表5に記載する。
【表5】

【0110】
表5の記載結果から、実施例11から得られた編物生地の透湿度、抗菌性、柔らかさを表す官能試験結果は比較例4から得られた編物生地に比較して透湿度及び抗菌性に優れ、柔らかい特性を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靭皮繊維、または葉繊維の少なくとも何れかをパルプ化後に、該パルプの1種類以上を溶解して繊維化した再生セルロース繊維。
【請求項2】
靱皮繊維、または葉繊維の少なくとも何れかを原料としたパルプ化の為の蒸解条件が、
(1)温度及び時間の因子として下式で表されるH−ファクターが、
H−ファクター: ∫exp(43.2−16113/T)dt
ここで、tは時間、Tは絶対温度、積分範囲は0〜t
1,000〜1,800であり、且つ
(2)NaO換算アルカリ添加率が、靱皮繊維は7〜25質量%であり、葉繊維は7〜20質量%
である請求項1記載の再生セルロース繊維。
【請求項3】
前記靱皮繊維の原料となる植物が大麻、亜麻、ジュート、およびケナフからなる群より選択される1以上の植物であり、前記葉繊維の原料となる植物がアバカおよび/またはサイザルである請求項1または2に記載の再生セルロース繊維。
【請求項4】
原料となる植物がケナフである請求項3記載の再生セルロース繊維。
【請求項5】
ケナフ靭皮繊維をパルプ化後に、該パルプを含む1種類以上を溶解して繊維化した請求項1または2に記載の再生セルロース繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の再生セルロース繊維を含有する繊維製品。
【請求項7】
前記繊維製品がフィラメント、ステープル、紡績糸、編物、織物、縫製品、不織布の何れか1種である請求項6記載の繊維製品。

【公開番号】特開2009−209473(P2009−209473A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52535(P2008−52535)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000103622)オーミケンシ株式会社 (9)
【出願人】(596027162)東邦特殊パルプ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】