説明

非水電解質二次電池の充電方法、及び非水電解質二次電池

スピネル構造を有するリチウム−アンガン複合酸化物を含む正極板と、リチウムを吸蔵・放出可能なグラファイトを含む負極板とを備えた非水電解質二次電池の充電方法である。正極板の理論容量に対する負極板の理論容量の比をRN/Sとし、充電によってリチウムを吸蔵したグラファイトをLiで表した場合に、Xの取りうる値の最大値Xmaxが以下の条件(1)及び(2)を満たすように充電することを特徴とする。
条件(1) Xmax≦0.75
条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31
非水電解質二次電池をこの条件を満たしつつ、充電することにより寿命性能が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、非水電解質二次電池の充電方法、及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウムマンガンスピネル等のリチウム−遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を負極活物質とする非水電解質二次電池は、高エネルギー密度、高出力という優れた特徴を有することが知られている。とくに、スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を正極活物質とするマンガン系非水電解質二次電池は、良好な放電特性と高い安全性から、電気自動車用およびハイブリッド電気自動車用の高性能電源として使用されており、さらなる需要拡大が見込まれている。
ところが、従来のマンガン系非水電解質二次電池は、寿命性能が不十分という問題点があった。
そこで、特開2000−228224号公報では、正・負極の容量比を所定範囲内とすることで、寿命性能を向上させる技術が開示されている。
しかしながら、この技術を用いても寿命性能は十分とは言えず、さらなる寿命性能の向上が望まれていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、寿命性能をさらに向上させることを目的とする。
【発明の開示】
本発明者等は、かかる問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を含む正極板と、グラファイトを含む負極板とを備えた非水電解質二次電池は、以下の条件(1)及び(2)を満たすように充電することにより寿命性能が著しく向上することを見出したのである。
条件(1) Xmax≦0.75
条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31
但し、条件(1)及び条件(2)中のXmaxは、充電によってリチウムを吸蔵した前記グラファイトをLiで表した場合に、Xの取りうる値の最大値、すなわち充電深度の最大値を意味する。
また、RN/Sは、非水電解質二次電池の正極板の理論容量に対する負極板の理論容量の比を意味する。本発明においては、スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物は、LiMnのみならず、後述のようにLiMnのMnサイトの一部をマンガン以外の金属元素Mで置換したもの、LiMnのLiとLi以外の金属元素の比を変えたものも含まれ、実際にはリチウム−マンガン複合酸化物の容量は変化するが、本発明ではリチウム−マンガン複合酸化物の理論容量は148mAh/gで一定として計算する。また、グラファイトの理論容量は、372mAh/gとして計算するものとする。すなわち、RN/Sは、以下のように計算される。
N/S={負極板内の負極活物質量(g)×372mAh/g}
÷{正極板内の正極活物質量(g)×148mAh/g}
また、本明細書では、以下の方法で、Xmaxを算出する。まず、充電していない製造直後の非水電解質二次電池、又は製造後数サイクル充放電を繰り返した非水電解質二次電池を充電電流、充電電圧、充電時間等が定められた所定の充電方法によって充電終止状態まで充電する。数サイクル充放電を繰り返した非水電解質二次電池としては、例えば、市販されて市場に流通しているいわゆる新品状態の非水電解質二次電池がある。
なお、数サイクル充放電を繰り返した非水電解質二次電池を用いる場合には、残存する電気量の影響を排除するため、0.05CAで2.75Vの終止電圧まで予め放電した後に、充電を行う。
次に、上述のように充電された非水電解質二次電池を以下の放電条件により放電する。まず、充電後に10分間の休止をとった後、1CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C1を求める。続いて、10分間の休止後、0.2CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C2を求める。続いて、10分間の休止後、0.1CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C3を求める。続いて、10分間の休止後、0.05CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C4を求める。
なお、ここで、1CA、0.2CA、0.1CA、0.05CA等のnCAとは定格容量の数値をCとした場合にCにnを乗じたものを意味する。例えば、一般的に非水電解質二次電池には、その電池ケース等に定格容量が、例えば、「1600mAh」と表されているが、この場合に0.1CAとは、0.1×1600mA、すなわち160mAの放電を意味する。
このようにして得られた放電容量C1、C2、C3、C4の合計の放電容量をTとするとXmaxは、以下の式によって算出される。なお、式中Zは、負極板中のグラファイトの量(g)を表し、また、372mAh/gとは、グラファイトの理論容量を表す。
Xmax=T(mAh)/(Z(g)×372mAh/g)
本発明では、条件(1)及び条件(2)を満たすように充電するが、正極活物質の種類、負極活物質の種類、電解質の種類等により条件(1)及び条件(2)を満たすための、充電電流、充電電圧、充電時間等の種々の充電条件が異なる。このため、実際に本発明の充電方法を適用する非水電解質二次電池に応じて、以下のようにして本発明の上記条件(1)(2)を満たすことができる充電電流、充電電圧、充電時間等の充電条件を決定することができる。
まず、本発明の充電方法を実際に適用する非水電解質二次電池と同等の非水電解質二次電池について、充電電流、充電電圧、充電時間等の仮の充電条件を複数種類決めて、実際に充電し、上述の方法により各充電条件におけるXmaxを求める。そして、各充電条件のうち、Xmaxが上記条件(1)(2)を満たすものを選択し、以後はその充電条件によって新たな非水電解質二次電池を充電すればよい。
次に、上記条件(1)及び条件(2)を満たすと寿命性能が向上する理由を説明する。条件(1)のように負極活物質LiのXがXmax≦0.75、好ましくはXmax≦0.65の範囲内となるように充電すると、負極板の充電時の体積変化が抑制されるから、体積変化による負極活物質同士の集電ネットワークの崩壊、及び負極活物質の集電体からの脱落等が抑制されて、寿命性能が向上するものと考えられる。また、Xmax≦0.75、好ましくはXmax≦0.65の範囲内となるように充電すると、負極上へのLiの電析も起こりにくくなり、これによっても寿命性能が向上するものと考えられる。
正極活物質としてスピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を用いる場合には、条件(1)のみならず、条件(2)を満たすと寿命性能が著しく向上する。条件(2)を満たすと寿命性能が向上する理由は、明らかではないが以下のように推測される。条件(2)では、正極板理論容量に対する負極板理論容量の比であるRN/Sの関数によりXの値が限定されていることから、単なる負極板のみの現象により寿命性能が向上したのではなく、正極板、及び負極板のいずれもが関わる現象によって、寿命性能が向上したものと考えられる。
さらに、本発明においては、以下の条件(3)を満たすことが望ましい。
条件(3) Xmax≧−0.45RN/S+0.99
この条件を満たすと、寿命性能のみならず、エネルギー密度も極めて良好となるためである。
なお、RN/Sの範囲としては、寿命性能の観点から0.8以上であることが好ましい。
また、本発明においては、定電流・定電圧充電、定電圧充電、定電流充電のいずれの充電方法においても、条件(1)、及び条件(2)を満たすことによって、寿命性能を向上させることができる。
本発明の非水電解質二次電池に使用される正極板は、正極活物質として、スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を含有する。リチウム−マンガン複合酸化物としては、LiMn、LiMnのMnサイトの一部をマンガン以外の金属元素Mで置換したもの、LiMnのLiとLi以外の金属元素の比を変えたもの、あるいはこれらの混合物があげられる。なお、リチウム−マンガン複合酸化物の粒子の形状、大きさ、混合比などは特に限定されない。Mnサイトの一部をマンガン以外の金属元素Mで置換したもの、LiとLi以外の金属元素の比を変えたものは、一般式Li1+xMn2−x−y(0≦x≦0.16,0≦y≦0.2)で表される。金属元素Mとしては、特に限定されないが、金属元素Mが、Al、Cr、Ga、Y、Yb、In、Mg、Cu、Co、及びNiから選択される少なくとも一つを含むことが望ましい。Mnサイトの一部をマンガン以外の金属元素Mで置換したものは、結晶構造が安定化するため寿命性能が著しく向上する。
また、本発明においては、リチウム以外の金属元素(Mn、M)に対するリチウムのモル比、すなわち、上記一般式で、(1+x)/(2−x)の値が0.5よりも大きく0.63以下であることが好ましい。リチウム以外の金属元素(Mn、M)に対するリチウムのモル比を0.5よりも大きくすることでリチウム−マンガン複合酸化物の結晶構造が安定し、本発明の条件(1)、及び条件(2)を満たすことと相まって、相乗的に寿命性能が著しく向上するからである。0.63以下が好ましいのは、0.63よりも大きくすると、リチウム−マンガン複合酸化物の容量が小さくなり過ぎて実用的ではないからである。
なお、Mnサイトの一部の金属元素Mによる置換、LiとLi以外の金属元素との比の変更のいずれか一方のみの場合には、x又はyが0となる。
本発明の負極活物質としてのグラファイトは、リチウムを吸蔵・放出可能なグラファイトであれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛、ピッチ系グラファイト等の人造黒鉛、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。なお、グラファイト粒子の形状、大きさ、混合比などは特に限定されない。これらの、グラファイトの中で、メソフェーズピッチ系グラファイトが好適に用いられる。人造黒鉛の1種であるメソフェーズピッチ系グラファイトは、粒子の配向性が小さいため、これを用いた負極ではLiの電析が起こりにくくなり、寿命性能が向上するからである。
本発明の非水電解質は、リチウムイオン伝導性を示すものであれば、特に限定されず、例えば、リチウム塩を含む液体状、固体状、ゲル状の非水電解質を使用することができる。
リチウム塩としては、特に限定されず例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiCFCFCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO等を単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
液体状の電解質を用いる場合には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートなどの炭酸エステルや、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等を単独で、または二種以上混合して用いても良い。
固体状・ゲル状の非水電解質としては、無機固体電解質、ポリマー固体電解質を用いることができる。
本発明では、さらなる寿命性能向上のため非水電解質にビニル化合物を含むことが望ましい。特に、ビニル化合物としては、ビニレンカーボネートまたはビニルエチレンカーボネートを用いることが好ましい。
ビニル化合物の含有量は特に限定されないが、実際に非水電解質二次電池が使用される際に、非水電解質の総重量に対して0.0004wt%以上1.5wt%以下であることが好ましく、さらに0.001wt%以上0.7wt%以下であることが好ましく、特に0.03wt%以上0.3wt%以下であることが好ましい。非水電解質の総重量に対して1.5wt%を超える場合には、非水電解質二次電池の初期内部抵抗が高くなるから好ましくないためである。非水電解質の総重量に対して0.0004wt%未満の場合には、ビニル化合物の添加による寿命性能の向上効果を得られないからである。なお、ビニル化合物は、非水電解質二次電池の充放電に伴い分解されるため、その濃度が徐々に低下していく。このため非水電解質二次電池の製造時には、ビニル化合物を上記濃度よりも濃度が高くなるように加える必要があるが、使用される正極活物質、負極活物質等の種類等によりビニル化合物が分解される割合等が異なるため、製造時におけるビニル化合物の濃度は、使用される正極活物質、負極活物質等の種類等に応じて実験的に求められる。
また、本発明に係る非水電解質二次電池のセパレータとしては、織布、不織布、合成樹脂微多孔膜等を用いることができ、特に合成樹脂微多孔膜を好適に用いることができる。中でもポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、又はこれらを複合した微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗等の面で好適に用いられる。
なお、本発明の非水電解質二次電池は、円筒型、角型、シート状、積層型、コイン型、ピン型等、いずれのものにも使用可能であり、形状には特に制約はない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一実施形態の非水電解質二次電池の縦断面図を示す図である。
第2図は、電池性能と、RN/S及び充電深度Xとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<非水電解質二次電池の作製>
第1図は、以下の実施例及び比較例に使用した角形の非水電解質二次電池の概略断面図である。この非水電解質二次電池1は、アルミニウム箔からなる正極集電体に正極合剤を塗布してなる正極板3と、銅箔からなる負極集電体に負極合剤を塗布してなる負極板4とがセパレータ5を介して巻回された扁平巻状電極群2と、非水電解質とを電池ケース6に収納してなるものである。
電池ケース6には、安全弁8を設けた電池蓋7がレーザー溶接によって取り付けられ、負極端子9は負極リード11を介して負極板4と接続され、正極板3は正極リード10を介して電池蓋7と接続されている。
実施例及び比較例においては、非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、2:2:1の容積比(vol%)で混合し、この溶媒にLiPFを1.0モル/リットル溶解したものを用いた。
セパレータ5には、厚さ25ミクロンの微多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。
実施例及び比較例の極板は、以下のようにして作製した。まず、正極合剤は、活物質のLiMn87重量部と、導電材のアセチレンブラック5重量部と、結着剤のポリフッ化ビニリデン8重量部とを混合し、N−メチル−2−ピロリドンを適宜加えて分散させ、スラリー状に調製した。この正極合剤を厚さ20ミクロンのアルミ集電体に均一に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで圧縮成形することにより正極板3を作製した。
負極合剤は、グラファイト粉末94重量部と、ポリフッ化ビニリデン6重量部とを混合し、N−メチル−2−ピロリドンを適宜加えて分散させ、スラリー状に調製した。この負極合剤を厚さ15ミクロンの銅集電体に均一に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで圧縮成形することにより負極板4を作製した。
そして、正極板及び負極板の面積比を変えることにより、実施例及び比較例におけるRN/Sを表1〜2に記載のようにそれぞれ調節した。
なお、実施例及び比較例では、上述の構成要素を用いて、設計容量約400mAhの非水電解質二次電池とした。また、実施例及び比較例では、サイクル寿命試験用の非水電解質二次電池、及び負極活物質のXmaxの測定用の非水電解質二次電池を別々に用意した。
このように作製した非水電解質二次電池について後述のサイクル寿命試験を行うが、実施例の充電方法は以下の条件(1)及び条件(2)を満たすものであり、比較例の充電方法は少なくとも条件(1)又は条件(2)のいずれか一方を満たさないものである。なお、下記表1〜2中に示す負極活物質のXmaxは、充電によってリチウムを吸蔵したグラファイトをLiで表した場合のXの最大値を意味し、定電流定電圧充電の終了時における値、すなわち、各充電方法での最大値を示している。
条件(1) Xmax≦0.75
条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31
ここで、Xmaxの算出方法について具体的に説明する。Xmaxの値は、サイクル寿命試験用とは別途用意した非水電解質二次電池を、充電していない製造直後の状態から、各充電方法により充電を行い、その後、放電をさせて放電容量を求め、この放電容量から算出して求めた。
具体的には、実施例1〜7、及び比較例1〜2の充電方法では25℃の環境下400mAの電流で、4.10Vまで定電流定電圧充電を3時間行い、比較例3〜11の充電方法では25℃の環境下400mAの電流で、4.20Vまで定電流定電圧充電を3時間行い、実施例8〜13、及び比較例12〜13の充電方法では25℃の環境下400mAの電流で、4.05Vまで定電流定電圧充電を3時間行い、実施例14〜19、及び比較例14の充電方法では25℃の環境下400mAの電流で、4.00Vまで定電流定電圧充電を3時間行い、実施例20〜22の充電方法では25℃の環境下400mAの電流で、3.95Vまで定電流定電圧充電を3時間おこなって、充電終止状態とした。
そして、これら充電された非水電解質二次電池を以下の放電条件により放電した。
まず、充電後に10分間の休止をとった後、1CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C1を求めた。続いて、10分間の休止後、0.2CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C2を求めた。続いて、10分間の休止後、0.1CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C3を求めた。続いて、10分間の休止後、0.05CAの電流で2.75Vまで放電させ放電容量C4を求めた。
このようにして得られた放電容量C1、C2、C3、C4の合計の放電容量をTとして、以下の式によって各Xmaxを算出した。
Xmax=T(mAh)/(Z(g)×372mAh/g)



<実施例1〜7、及び比較例1〜2の充電方法を用いたサイクル寿命試験>
実施例1〜7、及び比較例1〜2の充電方法では、表1記載のRN/S値を有する非水電解質二次電池を、それぞれ400mAの電流で4.10Vまで定電流定電圧充電を3時間行って、充電状態とした。そして、10分間の休止後、400mAの電流で2.75Vまで放電させた。放電後、次の充電までの休止は10分間とした。これを1サイクルとし、合計500サイクルおこない、1サイクル目の放電容量、およびサイクルに伴う放電容量の推移を測定した。なお、充電、休止、放電、休止という1サイクル中では、試験温度を一定とし、1〜2サイクル目は25℃の試験温度で行い、3サイクル目〜499サイクル目までは45℃の試験温度で行い、500サイクル目は25℃の試験温度で行った。そして、2サイクル目の放電容量からエネルギー密度を求めた。また、2サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比である保持率(%)を求めた。
<比較例3〜11の充電方法を用いたサイクル寿命試験>
表1記載の所定のRN/S値を有する非水電解質二次電池を用いたこと、及び充電電圧を4.20Vとして表1記載の所定のXとなるように充電したこと以外は、実施例1と同様にして充放電を行い、エネルギー密度、及び保持率を求めた。
<実施例8〜13、及び比較例12〜13の充電方法を用いたサイクル寿命試験>
表2記載の所定のRN/S値を有する非水電解質二次電池を用いたこと、及び充電電圧を4.05Vとして表2記載の所定のXとなるように充電したこと以外は、実施例1と同様にして充放電を行い、エネルギー密度、及び保持率を求めた。
<実施例14〜19、及び比較例14の充電方法を用いたサイクル寿命試験>
表2記載の所定のRN/S値を有する非水電解質二次電池を用いたこと、及び充電電圧を4.00Vとして表2記載の所定のXとなるように充電したこと以外は、実施例1と同様にして充放電を行い、エネルギー密度、及び保持率を求めた
<実施例20〜22の充電方法を用いたサイクル寿命試験>
表2記載の所定のRN/S値を有する非水電解質二次電池を用いたこと、及び充電電圧を3.95Vとして表2記載の所定のXとなるように充電したこと以外は、実施例1と同様にして充放電を行い、エネルギー密度、及び保持率を求めた
<測定結果>
エネルギー密度と、保持率の測定結果を表1〜2に示す。表1〜2中では、エネルギー密度が190Wh/L以上、かつ保持率が50%以上となる場合の非水電解質二次電池の性能を○とし、エネルギー密度が190Wh/L以下、かつ保持率が50%以上となる場合の非水電解質二次電池の性能を△とし、保持率が50%以下となる場合の非水電解質二次電池の性能を×とした。なお、第2図は、非水電解質二次電池の性能(○、△、×)を、x軸をRN/S、y軸を充電深度Xとしたグラフの座標軸上にプロットしたグラフである。
表1〜2、及び第2図に示されるように、条件(1)及び条件(2)のいずれも満たす実施例1〜22の充電方法を使用すると、エネルギー密度、及び保持率が共に良好であった。
このように条件(1)及び条件(2)を満たすと、良好なエネルギー密度を保ちつつ、寿命特性(保持率)が向上した理由は以下のように考えられる。
負極活物質LiのXが、条件(1)の範囲内となるように充電すると、負極板の充放電時の体積変化が抑制されるから、体積変化による負極活物質同士の集電ネットワークの崩壊、及び負極活物質の集電体からの脱落等が抑制されて、寿命特性が向上したものと考えられる。
条件(2)では、正極板理論容量に対する負極板理論容量の比であるRN/Sの関数によりXの値が限定されていることから、単なる負極板のみの現象により寿命性能が向上したのではなく、正極板、及び負極板のいずれもが関わる現象によって、寿命特性が向上したものと考えられる。そして、このような傾向は、スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を用いる場合に特有であり、コバルト系の複合酸化物、ニッケル系の複合酸化物とは異なるものであることから、おそらく、この条件(2)を満たすことにより、リチウム−マンガン複合酸化物に特有の電解液中へ溶出したマンガン(Mn)が負極板に作用して放電容量を低下させるという現象が抑制されて、寿命性能が向上したためと推測される。
さらに、条件(3) Xmax≧−0.45RN/S+0.99を満たす実施例1,2,3,4,5、6,7、10,11,12,13,17,18,19は、エネルギー密度が190Wh/L以上となり、非常に良好な性能を示すことが分かった。
また、Xmaxが0.65以下である実施例1,2,3,4,5,8,9,10,11,14,15,16,17,20,21では、保持率が62.2%以上となり非常に良好であった。
また、RN/Sが0.8以上である実施例8,9,10,11,12は、0.8未満の実施例13に比べて保持率が非常に良好であり、RN/Sが0.8以上である実施例14,15,16,17は、0.8未満の実施例18,19に比べて保持率が非常に良好であり、RN/Sが0.8以上である実施例20,21は、0.8未満の実施例22に比べて保持率が非常に良好であることから、RN/Sを0.8以上とすることにより、保持率が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明に係る充電方法及び非水電解質二次電池では、正極板の理論容量に対する負極板の理論容量の比をRN/Sとし、充電によってリチウムを吸蔵したグラファイトをLiで表した場合に、Xの取りうる値の最大値Xmaxが、条件(1) Xmax≦0.75、及び条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31を満たす範囲内で充電することにより、寿命性能が向上するから、サイクル寿命が要求される分野で有用である。特に、電気自動車用およびハイブリッド電気自動車用として有用である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を含む正極板と、リチウムを吸蔵・放出可能なグラファイトを含む負極板と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池の充電方法であって、
前記正極板の理論容量に対する前記負極板の理論容量の比をRN/Sとし、充電によってリチウムを吸蔵した前記グラファイトをLiで表した場合に、Xの取りうる値の最大値Xmaxが以下の条件(1)及び(2)を満たすように充電することを特徴とする非水電解質二次電池の充電方法。
条件(1) Xmax≦0.75
条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31
【請求項2】
前記Xmaxが、さらに以下の条件(3)を満たすことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
条件(3) Xmax≧−0.45RN/S+0.99
【請求項3】
前記Xmaxが0.65以下であることを特徴とする請求の範囲第1項又は請求の範囲第2項に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項4】
前記RN/Sが0.8以上であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし請求の範囲第3項のいずれかに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項5】
前記リチウム−マンガン複合酸化物のリチウム以外の金属元素に対するリチウムのモル比が0.5よりも大きく0.63以下であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし請求の範囲第4項のいずれかに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項6】
前記リチウム−マンガン複合酸化物のマンガンサイトの一部に、マンガン以外の金属元素が存在することを特徴とする請求の範囲第1項ないし請求の範囲第5項のいずれかに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項7】
前記マンガン以外の金属元素が、Al、Cr、Ga、Y、Yb、In、Mg、Cu、Co、及びNiから選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求の範囲第6項に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項8】
前記グラファイトが、メソフェーズピッチ系グラファイトを含むことを特徴とする請求の範囲第1項ないし請求の範囲第7項のいずれかに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項9】
前記非水電解質にビニル化合物を含むことを特徴とする請求の範囲第1項ないし請求の範囲第8項のいずれかに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項10】
前記ビニル化合物がビニレンカーボネートまたはビニルエチレンカーボネートであることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項11】
前記ビニル化合物が、前記非水電解質の総重量に対して0.0004wt%以上1.5wt%以下であることを特徴とする請求の範囲第9項又は請求の範囲第10項に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項12】
スピネル構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物を含む正極板と、リチウムを吸蔵・放出可能なグラファイトを含む負極板と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極板の理論容量に対する前記負極板の理論容量の比をRN/Sとし、充電によってリチウムを吸蔵した前記グラファイトをLiで表した場合に、Xの取りうる値の最大値Xmaxが以下の条件(1)及び(2)を満たすように充電されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
条件(1) Xmax≦0.75
条件(2) Xmax≦−0.70RN/S+1.31

【国際公開番号】WO2004/042861
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549553(P2004−549553)
【国際出願番号】PCT/JP2002/011515
【国際出願日】平成14年11月5日(2002.11.5)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】