説明

非水電解質電池

【目的】高率放電時の放電容量の低下が少なく、また二次電池の場合にはサイクルを繰り返したのちの放電容量の減少が少ない非水電解質電池を得ること。
【構成】正極活物質にLiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y)を用いた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】電子機器の急激な小形軽量化に伴い、小形で軽量かつ高エネルギー密度の電池が求められている。これら要求を満たす電池として、非水電解質電池が有望である。なかでも正極活物質にα-NaCrO2 タイプの層状 LiCoO2 を用いた非水電解質電池は、4V級のきわめて高い電圧を示すので高エネルギー密度の電池として期待されている。
【0003】しかし、 LiCoO2 は電気絶縁性の物質(J.van Elp ら(Physi.Rev.B.,44,6090(1991))なので高率放電時に電池の内部抵抗が増大して放電容量が低下するという問題点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、LiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を正極活物質に用いた非水電解質電池を用いることにより前記問題を解決するものである。
【0005】
【作用】発明者らは、 LiCoO2 のコバルトの一部をマグネシウムで置換すると LiCoO2の電子伝導性が著しく向上することを見いだした。すなわち、図1に示すように新物質のLiMg0.5 Co0.95 O1.75は、 LiCoO2 に比較して常温で電子伝導度が約1000倍に向上した。また、マグネシウム添加量を種々変えて検討した結果、図2に示すようにLiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) のx値が0.04以上の場合に電子伝導度が向上することがわかった。
【0006】このように活物質そのものの電子伝導性が向上した結果、本発明のリチウムコバルトマグネシウム複合酸化物LiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を活物質に用いた非水電解液電池は、後の実施例でしめすように高率放電時の放電容量の低下が抑制され、また二次電池の場合には高率充放電を繰り返した場合にも放電容量の低下が少ない。
【0007】
【実施例】以下に、好適な実施例を用いて本発明を説明する。
【0008】正極活物質を次のようにして合成した。炭酸リチウム、四三酸化コバルトおよび炭酸マグネシウムをリチウム:コバルト:マグネシウム原子比が1:(1-x):x になるように混合し、温度900 ℃で16時間空気中で熱分解して本発明の非水電解質電池に用いる活物質リチウムコバルトマグネシウム複合酸化物LiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を合成した。また、炭酸リチウムと四三酸化コバルトとをリチウム:コバルト原子比で1:1 になるように混合し、温度900 ℃で16時間空気中で熱分解して従来の非水電解質電池に用いる活物質、α-NaCrO2 タイプの層状リチウムコバルト複合酸化物( LiCoO2 )を合成した。
【0009】上記活物質に導電剤としてのカーボン粉末および結着剤としてのフッ素樹脂粉末とを90:3 :7 の重量比で混合し、この混合物0.165gを電極成形金型に投入して直径が16mmで厚さが約0.7mm の円板状に成形した。この成形体を温度250 ℃で真空乾燥処理して正極板とした。
【0010】負極板は、黒鉛と結着剤としてのフッ素樹脂粉末とを91:9の重量比で混合し、この混合物を正極板と同様の金型を用いて直径16mm,厚さ0.5mm に加圧成形したのち温度250 ℃で真空乾燥処理して得た。
【0011】上記の正極板と負極板を用いて図3に示すようなボタン形電池を試作した。図は、電池の縦断面図である。図中1は、ステンレス(SUS304)鋼板を打ち抜き加工した正極端子を兼ねるケース、2はステンレス(SUSU304) 鋼板を打ち抜き加工した負極端子を兼ねる封口板であり、その内壁には負極板3が当接されている。5は有機電解液を含浸したポリプロピレンからなるセパレーター、6は正極板であり正極端子を兼ねるケース1の開口端部を内方へかしめ、ガスケット4を介して負極端子を兼ねる封口板2の外周を締め付けることにより密閉封口している。
【0012】有機電解液にはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC )とジエチルカーボネート(DEC )とを体積比2:2:1で混合した溶媒に、6フッ化燐酸リチウムを1モル/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。さらに電解液に過塩素酸リチウムを10ppm添加した。
【0013】正極活物質にLiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を用いた本発明の非水電解質電池であって、x=0.03のものを(A)、x=0.05のものを(B)、x=0.08のものを(C)、x=0.1 のものを(D)と呼ぶ。また、正極活物質にLiCoO2を用いたことの他は、本発明の非水電解質電池と同様の構成とした比較電池を(ア)と呼ぶ。
【0014】次に、これらの電池を電流密度2mA/cm2 で、端子電圧が4.1Vに至るまで充電して、つづいて、同じく2mA/cm2 で、端子電圧が2.75V に達するまで放電する充放電サイクル寿命試験を室温下で100 サイクルおこなった。2mA/cm2 は、非水電解質電池では極めて高い電流密度である。各電池の初期の放電容量と35サイクル後の放電容量とを表1に示す。
【0015】
【表1】


表1から明かなように、本発明の電池(A)、(B)、(C)、(D)は、比較のための電池(ア)に比べ初期の放電容量が大きく、35サイクル後の放電容量の減少も抑制されている。
【0016】なお、上記実施例では、負極として炭素材料を用い、電解液に有機電解液を用いたが、本発明の非水電解質電池においては、LiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を正極活物質に用いておれば負極活物質や電解液は基本的に限定されない。すなわち、従来の非水電解質電池に用いられている負極活物質、たとえば純リチウム、リチウム合金などを負極活物質に用いることができる。また、電解液に他の有機溶媒、例えばエチレンカーボネイト、プロピレンカーボネートなどの環状エステル類およびテトラハイドロフラン,ジオキソランなどのエーテル類を単独もしくは2種以上を混合して用いても良い。あるいは、有機固体電解質や無機固体電解質を電解質に用いてもよい。同様に、支持電解質、セパレーター、電極基体、電池ケースの材質なども基本的に限定されない。
【0017】なお、前記の実施例に係る電池はボタン電池であるが、円筒形、角形またはペーパー形電池に本発明を適用しても同様の効果が得られる。また、高率放電性能を向上させる効果は、実施例の二次電池だけでなくLiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y) を用いた非水電解質一次電池においても同様に得られる。
【0018】
【発明の効果】上述のごとく、本発明の非水電解質電池は、高率放電時の放電容量の低下が少なく、また二次電池の場合には、サイクルを繰り返したのちの放電容量の減少が抑制されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の非水電解質電池に用いるリチウムコバルトマグネシウム複合酸化物と従来のリチウムコバルト複合酸化物との電子伝導度を比較を示す図。
【図2】リチウムコバルトマグネシウム複合酸化物のマグネシウム添加量を変化させた場合の電子伝導度の変化を示す図。
【図3】非水電解質二次電池の一例であるボタン電池の内部構造を示した図である。
【符号の説明】
1 電池ケース
2 封口板
3 負極
4 ガスケット
5 セパレーター
6 正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】LiMgx Co1-x O2-y (0<x<1,0<y<0.5,x=2y)を正極活物質に用いた非水電解質電池。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−168722
【公開日】平成6年(1994)6月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−341455
【出願日】平成4年(1992)11月26日
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)