説明

面直度計測方法及び該面直度計測方法を実施するスポット溶接機

【課題】作業者によるばらつきをなくして安定した溶接品質を有する面直度計測方法及び該方法を行うスポット溶接機を提供する。
【解決手段】被溶接部材Wに対して空気を噴出するとともに、該噴出した空気の背圧P1、P2を計測する背圧計測工程(ステップS2)と、背圧P1、P2−隙間δ1、δ2特性マップに基づいて、前記計測した背圧P1、P2に対応した隙間δを求め、該隙間δ1、δ2に基づいて面直度θを算出する面直度算出工程(ステップS3〜S5)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接部材に対する溶接電極の面直度を計測する方法及び該方法を実施するスポット溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用ドアを構成するパネル等の被溶接部材を複数枚重ねてスポット溶接する場合、溶接電極のパネルに対する面直度を計測することが行われている。これは溶接電極とパネルとの面直状態がナゲットの形成位置等、溶接品質に大きく影響するためである。
【0003】
そのため、溶接ロボットにより溶接する場合には、例えば特許文献1に開示されている面直ゲージを用いて、溶接前に所望の面直度が得られるようにスポット溶接用ロボットのティーチングが実施されている。前記特許文献1記載の従来の面直ゲージは、基底プレート,平面鏡,上面プレートを間隔を空けて配置した構成のものであり、溶接電極の輪郭全域を平面鏡に写すことにより面直度を確認するようになっている。
【0004】
一方、作業者が手作業により溶接を施すポータブルタイプのスポット溶接機にあっては、手作業による不具合を防止するために、電極近傍に面直度を確保するための検出子を設け、作業者が溶接毎に面直度を目視により所定範囲に維持管理することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−43871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記面直ゲージを用いる場合、及び面直度確認用の検出子を設ける場合の何れも、結局のところ作業者の目視によって面直度を確認するようにしており、得られる面直度に人為的なばらつきが生じるおそれがある。また前記検出子を備えた場合、溶接により発生したスパッタがパネルと検出子との間に挟まれ、これにより面直度確認に誤差を生じさせる恐れがあり、またスパッタの除去を要する等メンテナンス性も悪いといった問題もある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、作業者によるばらつきをなくして安定した溶接品質を有する面直度計測方法及び該方法を実施するスポット溶接機を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、被溶接部材を一対の溶接電極で挟持するとともに該一対の溶接電極間で通電させることにより前記被溶接部材を溶接するスポット溶接において、前記被溶接部材に対する前記溶接電極の面直度を計測する方法であって、前記被溶接部材に対して空気を噴出するとともに、該噴出した空気の背圧を計測する背圧計測工程と、前記背圧と面直度との関係を予め求めた背圧−面直度特性に基づいて、前記計測した背圧に対応した面直度を算出する面直度算出工程とを備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、被溶接部材を一対の溶接電極で挟持するとともに該一対の溶接電極間で通電させることにより前記被溶接部材を溶接するスポット溶接機において、前記溶接電極の前記被溶接部材に対する面直度を計測する面直度計測装置を設け、該面直度計測装置は、前記被溶接部材に対して空気を噴出する空気噴出部と、該空気噴出部から噴出した空気の背圧を計測する背圧計測部と、前記背圧と面直度の関係を予め求めた背圧−面直度特性に基づいて、前記計測した背圧に対応した面直度を算出する面直度算出部と、前記面直度が所定のしきい値より大のとき前記スポット溶接機の作動を許可する溶接機制御部とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、被溶接部材に空気を噴出させ、そのときの背圧に基づいて面直度を求めるようにしているので、従来の目視によって面直度を求める場合のような作業者による面直度のばらつきを回避できる。
【0011】
また、空気を被溶接部材に噴出させているので、被溶接部材を冷却でき、スパッタの発生自体を抑制でき、またスパッタが生じた場合でも噴出空気によりスパッタが被溶接部材に付着するのを抑制でき、スパッタ除去が不要になる又は軽減される分メンテナンス性を向上できる。
【0012】
さらにまた、噴出空気により溶接電極が冷却されるので、電極交換頻度が低下し、この点からもメンテナンス性を向上でき、また電極交換コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1による面直度計測方法を実施するスポット溶接機のブロック構成図である。
【図2】前記実施例における面直度計測方法を説明するための模式図である。
【図3】前記実施例における空気噴出部の概略構造図である。
【図4】前記実施例における背圧P−隙間δ特性マップを示す図である。
【図5】前記実施例における面直度計測方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1〜図5において、1は、本実施例1に係るポータブルタイプのスポット溶接機である。このスポット溶接機1は、溶接機本体2と、該溶接機本体2に、ホース3により接続され、溶接電流を供給するトランス4と、このトランス4及び溶接機本体2の動作を制御するコントローラ11とを備えている。なお、前記溶接機本体2は懸垂機構2aによりその重力を打ち消すように吊り下げられており、これにより作業者の労力負担を軽減している。また前記ホース3内には電源コードや圧縮空気供給チューブ等が束ねられた状態で収容されている。
【0016】
前記溶接機本体2は、大略C字形状のフレーム5を有し、該フレーム5の下辺部5aには固定電極6が配設され、上辺部5bにはエアシリンダ7が配設されている。このエアシリンダ7のピストンロッド7aに可動電極8が配設されている。
【0017】
また前記フレーム5には、作業者が把持する操作ハンドル5cが形成され、該操作ハンドル5cには作動スイッチ5dが配設されている。作業者が、前記操作ハンドル5cを把持して、前記固定電極6が2枚重ねのパネルWの下面に当接し、該固定電極6及び可動電極7の軸心bがパネルWの溶接ポイントに対向するように溶接機本体2を移動させ、前記作動スイッチ5dをオンすることにより、可動電極8が下降して固定電極6とでパネルWを挟持するとともに、両電極67,8間に溶接電流が流れ、前記パネルWがスポット溶接される。
【0018】
そして、本実施例の溶接機1は、前記固定電極6及び可動電極7の軸心bの、前記パネルWの表面に対する角度である面直度θを計測する面直度計測装置9を備えている。
【0019】
前記面直度計測装置9は、前記フレーム5の下辺部5aに、前記固定電極6を挟んで対称をなすように、かつ垂直上方に向けて配置された一対のエアパイプ(空気噴出部材)10,10を備えている。該各エアパイプ10の下端部には、圧縮空気供給チューブ10aが接続され、上端部には噴出ノズル10bが形成されている。また前記エアパイプ10の途中には流量調整バルブ10cが配設され、該流量調節バルブ10cから前記噴出ノズル10bの間の部分には内部の圧力を検出する圧力センサ10dが接続されている。なお、10eは前記エアパイプ10への供給圧力を検出する圧力計である。
【0020】
ここで前記エアパイプ10の噴出ノズル10b側の圧力は、該噴出ノズル10bから噴出される空気aの状態によって変化する。この内部の圧力を本実施例では噴出する空気aの背圧Pと称している。この背圧Pは、例えば、前記噴出ノズル10bの出口端面と前記パネルWとの隙間δによって変化する。具体的には、図4の背圧P−隙間δ特性マップに示すように、背圧Pは、前記隙間δが小さいときは高くなり、大きいときは低くなる。なお、背圧P−隙間δ特性マップは、予め実験等によって求められたものであり、前記コントローラ11の記憶部11aに格納されている。
【0021】
そして前記面直度計測装置9は、前記格納された背圧P−隙間δ特性マップと、前記圧力センサ10dにより計測された背圧Pとに基づいて、前記面直度θを算出する面直度算出部11bを備えている。なお、この面直度算出部11bは、前記コントローラ11の機能によって実現される。また、コントローラ11は、溶接機本体2及びトランス4の動作を制御する駆動制御部11cを有し、該駆動制御部11cは、前記面直度θが所定の範囲内にある状態で前記作動スイッチ5dがオンすると、前記エアシリンダ7に作動信号Aを出力し、それに続いて前記トランス4に通電信号Bを出力する。
【0022】
次に、前記スポット溶接における制御動作を図5に示すフローチャートに基づいてさらに詳述する。
【0023】
スポット溶接動作が開始され、作業者が、溶接機本体2を、ハンドル5cを把持して、固定電極6がパネルWの下面に当接し、かつ固定電極6及び可動電極8の軸心bがパネルWの溶接ポイントに対向するように移動させる(ステップS1)と、前記2つのエアパイプ10,10の各噴出ノズル10b,10bから噴出している空気aがパネルWに衝突し、各エアパイプ10,10内における背圧P1,P2がそれぞれの圧力センサ10d,10dにより計測され、該計測された背圧P1,P2が前記コントローラ11の面直度算出部11bに読み込まれる(ステップS3)。そして、前記背圧P−隙間δ特性マップから、前記読み込まれた背圧P1,P2に対応する隙間δ1,δ2がマップ演算される(ステップS3)。そしてパネルWの表面に対する前記電極の軸心bの傾きθ′が式tanθ′=(δ1−δ2)/Lから演算され(ステップS4)、続いて面直度θ=(90°−θ′)が演算される(ステップS5)。そして前記面直度θが所定のしきい値θoより大きいか否かが判断され(ステップS6)、面直度θがしきい値θo より大の場合、つまり前記傾きθ′が許容範囲内にある場合に、作業者がスタータスイッチ5dをオンする(ステップS7)と、前記エアシリンダ7に駆動制御部11cから作動信号Aが出力され、可動電極8が下降し、固定電極6と可動電極8とでパネルWを挟持するとともに、駆動制御部11cからの通電信号Bにより、トランス4から両電極間に溶接電流が供給され、前記パネルWがスポット溶接される(ステップS8)。
【0024】
このように、本実施例では、パネルWの表面に対して空気aを噴出させ、そのときの背圧Pに基づいて面直度θを求めるようにしているので、従来の目視によって面直度を求める場合のような作業者毎の面直度のばらつきを回避できる。
【0025】
また、2つのエアパイプ10,10の間隔Lと、該両部材からの背圧P1,P2に対応した隙間δ1,δ2の差とにより溶接電極の軸心bの傾きθ′を求め、該傾きθ′から面直度θを求めるようにしたので、簡単な構成により、作業者毎のばらつきを排除した面直度の計測が可能となる。
【0026】
また、パネルWに空気aを噴出させているので、パネルWを冷却でき、スパッタの発生自体を抑制できる。またスパッタが生じた場合でも噴出空気aによりスパッタがパネルWに付着するのを抑制でき、スパッタ除去が不要になる又は軽減される分メンテナンス性を向上できる。
【0027】
さらにまた、噴出空気aにより溶接電極6が冷却されるので、電極交換頻度の低下の分メンテナンス性を向上でき、また電極交換コストを低減できる。
【0028】
なお、前記実施例では、背圧P−隙間δ特性マップに基づいて、計測された背圧P1,P2に対応した隙間δ1,δ2を求め、この隙間δ1,δ2から、先ず軸心bのパネル表面への垂直線に対する傾きθ′を求め、該傾きθ′から面直度θを求めたが、本発明における面直度θの求め方は前記実施例に限定されない。例えば、予め、背圧Pと面直度θとの関係を示す背圧P−面直度θ特性マップを求めておき、該マップに基づいて、計測された背圧Pから直接面直度θを求めるようにしても良い。
【0029】
また、前記実施例では、一対のエアパイプ10,10を、電極6を通る例えば横方向の直線上に位置し、かつ電極6に対して対称をなすように配置したが、さらにもう一対のエアパイプを例えば前後方向の直線上にて対称をなすように配置してもよく、このようにした場合は、面直度をより一層精度良く計測できる。
【0030】
さらにまた、前記実施例では、エアパイプを一対設けたが、逆に1つのみ設けることを可能である。この場合は、1つのエアパイプからの空気の背圧と面直度との関係を示す特性マップを予め実験等で求めておき、この背圧−面直度特性マップに基づいて、計測された1つの背圧に対応した面直度をマップ演算することとなる。
【符号の説明】
【0031】
1 スポット溶接機
6,8 固定電極,可動電極(一対の溶接電極)
10,10 空気噴出部
10d 圧力センサ(背圧計測部)
11b 面直度算出部
11c 溶接機制御部
a 空気
P 背圧
S2 背圧計測工程
S3〜S5 面直度算出工程
W パネル(被溶接部材)
θ 面直度
θo しきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材を一対の溶接電極で挟持するとともに該一対の溶接電極間で通電させることにより前記被溶接部材を溶接するスポット溶接において、前記被溶接部材に対する前記溶接電極の面直度を計測する方法であって、
前記被溶接部材に対して空気を噴出するとともに、該噴出した空気の背圧を計測する背圧計測工程と、
前記背圧と面直度との関係を予め求めた背圧−面直度特性に基づいて、前記計測した背圧に対応した面直度を算出する面直度算出工程と
を備えたことを特徴とするスポット溶接における面直度計測方法。
【請求項2】
被溶接部材を一対の溶接電極で挟持するとともに該一対の溶接電極間で通電させることにより前記被溶接部材を溶接するスポット溶接機において、
前記溶接電極の前記被溶接部材に対する面直度を計測する面直度計測装置設け、
該面直度計測装置は、
前記被溶接部材に対して空気を噴出する空気噴出部と、
該空気噴出部から噴出した空気の背圧を計測する背圧計測部と、
前記背圧と面直度の関係を予め求めた背圧−面直度特性に基づいて、前記計測した背圧に対応した面直度を算出する面直度算出部と、
前記面直度が所定のしきい値より大のとき前記スポット溶接機の作動を許可する溶接機制御部と
を備えていることを特徴とするスポット溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111618(P2013−111618A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260824(P2011−260824)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】