説明

靴の踵部分開閉機構

【課題】踵を収納する踵ホルダが靴を履いた状態において確実に保持されるので履き心地にはなんら問題のない靴の踵部分開閉機構を提供することを目的とするものである。
【解決手段】L字形の踵ホルダと、該踵ホルダをその後端部に取り付けた回動軸によって回動可能に保持する踵受け台と、該踵受け台上に設けた前記踵ホルダの足底部を常態で上向きに付勢する踵ホルダ弾性支持部材と、前記踵受け台を前後に移動可能に取り付けた靴踵部を有し、
前記踵受け台と靴踵部の前方位置との間に弾性体バネを固着して、前記踵受け台を前方に引き付けるように付勢し、
前記踵ホルダ弾性支持部材の下面に設けたフックが、前記靴踵部の上面に設けた前記フックの係合部に係合して前記踵ホルダを正常位置に保持することができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴を着脱容易とする靴の踵部分開閉機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の靴としては特開平11−127907号公報(特許文献1参照)に示されたような、足の踵部が載置される踵底部と、該踵底部の後部に立設して足の踵部後面を覆って当接する靴の当接片とを略直角に一体に結合した踵受け台を形成し、該踵受け台の踵底部と当接片の後端部に回動軸を埋設し、踵受け台が回動軸を中心にして回動するように構成したものが知られている。
そして、踵底部の中心部に弾性体バネを固着して踵底部を上方に押し上げるように弾性を保持し、かつ前記踵底部の先端に設けたフック突出部と係止する靴踵部のフック係止部を設けてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−127907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開平11−127907号公報(特許文献1参照)の第1発明(図1、図2)、第2発明(図3〜図6)および第3発明(図7、図8)においては踵を収納するL字形部分は靴を履いた状態における確実な保持手段がなく、常に弾性体バネに押されてL字形部分に開こうとする力が作用し、履き心地が悪いという問題点があった。
また第4発明(図9、図10)および第5発明(図11、図12)においては押しボタンが靴の側面に突出しているために、歩行中等に靴が押しボタンに接触して誤動作が起きやすいという問題点があった。
【0005】
そこでこの発明は、足の踵部を楽に抜くことかでき、足を靴から容易に離脱することができる構造の靴の踵部分開閉機構であって、踵を収納する踵ホルダが靴を履いた状態において確実に保持されるので履き心地にはなんら問題がなく、また前記第4発明(図9、図10)および第5発明(図11、図12)のような靴の側面に突出する押しボタンがないので、歩行中等に靴が押しボタンに接触して誤動作が起きるという問題もない靴の踵部分開閉機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわちこの発明の靴の踵部分開閉機構は、靴の踵部分に収納され、足の踵部が保持される足底部と足後部とからなるL字形の踵ホルダと、該踵ホルダをその後端部に取り付けた回動軸によって回動可能に保持する踵受け台と、該踵受け台上に設けた前記踵ホルダの足底部を常態で上向きに付勢する踵ホルダ弾性支持部材と、前記踵受け台を前後に移動可能に取り付けた靴踵部を有し、
前記踵受け台と靴踵部の前方位置との間に弾性体バネを固着して、前記踵受け台を前方に引き付けるように付勢し、
前記踵ホルダ弾性支持部材の下面に下向きに設けたフックは、前記踵ホルダの足底部を使用者が踵で踏み込んだ際に、前記靴踵部の上面に設けた前記フックの係合部に係合して前記踵ホルダを正常位置に保持し、
かつ、前記踵受け台を前記弾性体バネの付勢力に抗して後退させて、前記フックを係合部から解放することにより、前記踵ホルダの足底部を前記踵ホルダ弾性支持部材により上方に押し上げて靴の足挿入口を開き、足を靴に納めやすい角度にすることができるようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
この発明の靴の踵部分開閉機構において、前記フックの係合部は、靴踵部の上面に配設したガイド部と、該ガイド部間にスライド自在に差し渡した係合ピンと、該係合ピンを常態でフックに向けて付勢するバネとを有することをも特徴とするものである。
【0008】
この発明の靴の踵部分開閉機構において、前記踵受け台は、左右一対のスライド部を有するU字状に形成され、前記靴踵部の上面に形成したスライド溝に進退可能に取り付けられていることをも特徴とするものである。
【0009】
この発明の靴の踵部分開閉機構において、前記踵ホルダ弾性支持部材は、前記靴踵部と該靴踵部と所定の間隔をおいて配置した弾性体バネの保持バーとの間に介装したのち折り返されていることをも特徴とするものである。
【0010】
この発明の靴の踵部分開閉機構において、前記靴の後端部分は、前記踵ホルダの回動に伴って伸縮自在としてあることをも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明から既に明らかなように第1発明の靴の踵部分開閉機構は、踵を収納する踵ホルダが靴を履いた状態において確実に保持されるので履き心地にはなんら問題がなく、また靴の側面に押しボタン等の余分の突起物がないので、歩行中等に靴の一方が他方の靴の押しボタン等に接触して誤動作が起きるという問題もない。
【0012】
第2発明の靴の踵部分開閉機構は、前記フックの係合部が靴踵部の上面に配設したガイド部と、該ガイド部間にスライド自在に差し渡した係合ピンと、該係合ピンを常態でフックに向けて付勢するバネとを有するので、フックと係合ピンの着脱が確実かつ迅速に行うことができる。
【0013】
第3発明の靴の踵部分開閉機構は、前記踵受け台が左右一対のスライド部を有するU字状に形成され、前記靴踵部の上面に形成したスライド溝に進退可能に取り付けられているので、前記踵受け台の進退がスムーズであり、かつ前記踵ホルダの回動機構等になんらの支障もきたすことがない。
【0014】
第4発明の靴の踵部分開閉機構は、前記踵ホルダ弾性支持部材が前記靴踵部と該靴踵部と所定の間隔をおいて配置した弾性体バネの保持バーとの間に介装したのち折り返されているので、前記踵ホルダ弾性支持部材の取り付けがコンパクトでかつ合理的に行うことができる。
【0015】
第5発明の靴の踵部分開閉機構は、前記靴の後端部分が前記踵ホルダの回動に伴って伸縮自在としてあり、この発明の目的とする靴の履きやすさはもちろん、靴としての基本的な機能を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の靴の踵部分開閉機構を適用した靴を示し、踵ホルダを開いた状態の斜視図である。
【図2】踵ホルダを開いた状態の斜視図である。
【図3】この発明の靴の踵部分開閉機構を示し、踵ホルダを正常位置に保持した状態の断面図である。
【図4】踵ホルダを開いた状態の断面図である。
【図5】踵ホルダ弾性支持部材が開いている状態の靴の踵部分開閉機構の斜視図である。
【図6】踵ホルダ弾性支持部材が閉じている状態の靴の踵部分開閉機構の斜視図である。
【図7】踵受け台と靴踵部とを分離した状態の斜視図である。
【図8】(a)は各部をさらに分離した状態の斜視図、(b)はスライドの前後を示す斜視図である。
【図9】踵受け台を靴踵部上において後退させた状態の斜視図である。
【図10】図10から図13は靴を履くときの靴の踵部分開閉機構の動きを説明するためのものであり、図10は踵ホルダ弾性支持部材が開いている状態の靴の踵部分開閉機構の断面図である。
【図11】踵ホルダ弾性支持部材が閉じつつある状態の断面図である。
【図12】踵ホルダ弾性支持部材が閉じる直前の状態の断面図である。
【図13】踵ホルダ弾性支持部材が閉じた状態の断面図である。
【図14】図14から図17は靴を脱ぐときの靴の踵部分開閉機構の動きを説明するためのものであり、図14は踵ホルダ弾性支持部材が閉じた状態の靴の踵部分開閉機構の断面図である。
【図15】踵受け台が靴踵部上を後退している状態の靴の踵部分開閉機構の断面図である。
【図16】踵ホルダ弾性支持部材が開いた状態の断面図である。
【図17】踵受け台が靴踵部上の元の位置に復帰した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基いて、この発明の靴の踵部分開閉機構の実施の形態を詳細に説明する。
図1および図2に示すように、この発明の靴の踵部分開閉機構を適用した靴においては、靴11を履く時は、靴11の踵ホルダ12が常時は上方に撥ね上げられ、さらに靴11の踵部が開いてあるので足先を挿入し易く、足の踵を挿入するときも踵ホルダ12は踵の押し込みによって自動的に回動して、正常位置に保持することができる。
このようにして、靴11の踵部が足裏に密着して、身体を屈めることなくそのままの姿勢で靴11を履くことができ、靴べら等の補助具を不要とすることができる。
図において14は、靴11の後端部分13の両側に設けたゴム等の弾性素材からなる伸縮部材で、前記踵ホルダ12の回動に伴って伸縮するよう構成されている。
【実施例】
【0018】
以下、この発明の靴の踵部分開閉機構の1実施例を詳細に説明する。
この実施例の靴の踵部分開閉機構は図3ないし図7に示すように、靴の踵部分に収納され、足の踵部が保持される足底部22と足後部23とからなるL字形の踵ホルダ21と、該踵ホルダ21をその後端部に取り付けた回動軸24によって回動可能に保持する踵受け台25とを備えている。
【0019】
さらに前記踵受け台25は、図8(a)に示すように左右一対のスライド部26を有するU字状に形成され、靴踵部31の上面に形成した前記各スライド部26に対応するスライド溝32に進退可能に取り付けられている。
前記スライド溝32は、靴踵部31の上面に取り付けた左右一対のスライドガイド33からなり、U字状の踵受け台25に対応する外形を備えた、金属その他の素材からなる硬質部材27をこのスライドガイド33にはめ込んで進退可能としてある。
【0020】
なお、前記硬質部材27の両側面は上つぼまりのテーパ状に形成され、前記スライドガイド33の対向する側面は前記テーパに対応するテーパ状に形成されている。
したがって図8(b)に示すように、靴踵部31上面のスライドガイド33内を硬質部材27が進退するのである。
【0021】
前記踵ホルダ21の足底部22は、前記靴踵部31上面の左右一対のスライド溝32間に設けた踵ホルダ弾性支持部材41によって常態で上向きに付勢されている。
42は、前記踵ホルダ弾性支持部材41の下面に下向きに設けたフックで、前記踵ホルダ21の足底部22を使用者が踵で踏み込んだ際に、前記フック42のかぎ状をなす係合凹部43が前記靴踵部31の上面に配設した係合ピン44に係合し、図3のように前記踵ホルダ21を使用者が靴11を履いた正常位置に保持するようになっている。
図において45は、前記靴踵部31の上面に設けたフック42を収納する凹所である。
【0022】
前記踵ホルダ弾性支持部材41は、前記靴踵部31と該靴踵部31と所定の間隔をおいて配置した弾性体バネの保持バー28との間に差し込んだのち折り返されており、常態で前記踵ホルダ21を上向きに付勢するよう機能するのである。したがって、前記フック42のかぎ状をなす係合凹部43と前記係合ピン44との係合が解かれると、図4に示すように前記踵ホルダ21の足底部22は前記踵ホルダ弾性支持部材41により上方に押し上げられ、靴の足挿入口を開いて足を靴に納めやすい角度にすることができる。
【0023】
前記フック42の係合部は、図3ないし図6に示すように前記靴踵部31の上面に配設した一端を開放したガイド部51と、該ガイド部51間にスライド自在に差し渡した係合ピン44と、該係合ピン44を常態で前記フック42に向けて付勢するバネ52とを有するものである。
したがって、前記係合ピン44がバネ52によって前記フック42側に押し込まれると、前記係合ピン44はガイド部51の開口部53から露出するので、前記係合ピン44は前記フック42に係合可能となる。
【0024】
図9は、前記踵受け台25を前後に移動可能に取り付けた靴踵部31を示し、前記踵受け台25はその内側端部に設けた保持バー28に弾性体バネ61を固着して前方に引き付けるように付勢されている。
したがって、図3のように前記踵ホルダ21の足底部22を使用者が踵で踏み込んだ状態では、図6のように前記踵受け台25は前方に引き付けられているので、前記フック42の係合凹部43は係合ピン44に係合したままである。
次に図9のように、前記踵受け台25を前記弾性体バネ61の付勢力に抗して後退させると、前記フック42は係合ピン44との係合を解かれ、前記踵ホルダ21の足底部22は前記踵ホルダ弾性支持部材41により上方に押し上げられる。
【0025】
図10ないし図13は靴を履くときの靴の踵部分開閉機構の動きを説明するためのものである。
<図10>
前記踵ホルダ21の足底部22が前記踵ホルダ弾性支持部材41により上方に押し上げられた状態である。
<図11>
そこで前記踵ホルダ21の足底部22を足の踵で押し込むと、前記踵ホルダ弾性支持部材41の前記フック42の先端は係合ピン44に当接する。
<図12>
さらに前記踵ホルダ21の足底部22を足の踵で押し込むと、前記踵ホルダ弾性支持部材41の前記フック42の先端が係合ピン44を矢印A方向に後退させる。
<図13>
前記踵ホルダ21の足底部22を足の踵で最後まで押し込むと、前記踵ホルダ弾性支持部材41の前記フック42の先端に向けて(矢印B)係合ピン44が移動して係合し、前記踵ホルダ弾性支持部材41は前記踵ホルダ21の足底部22を押し上げなくなって、前記踵ホルダ21は靴を履いた正常位置に保持される。
【0026】
図14ないし図17は靴を脱ぐときの靴の踵部分開閉機構の動きを説明するためのものである。
<図14>
前記踵ホルダ弾性支持部材41下部のフック42の先端に係合ピン44が係合し、前記踵ホルダ21は靴を履いた正常位置に保持された状態である。
<図15>
そこで、前記踵受け台25に矢印Cの後退方向の負荷を掛けて前記弾性体バネ61の付勢力に抗して後退させると、前記フック42は係合ピン44との係合を解かれる。
<図16>
その際、前記踵ホルダ21の足底部22は前記踵ホルダ弾性支持部材41により上方に押し上げられた状態となる。
<図17>
同時に、前記踵受け台25は前記弾性体バネ61によって矢印Dの方向に引き付けられ、元の位置(図14)に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明の靴の踵部分開閉機構は、通常の紳士靴のみならず婦人靴やその他の踵部分を立設した履物類のみならず、革靴、ゴム靴、スニーカーその他の履物にも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0028】
11 靴
12 踵ホルダ
13 靴の後端部分
14 伸縮部材
21 踵ホルダ
22 足底部
23 足後部
24 回動軸
25 踵受け台
26 スライド部
27 硬質部材
28 保持バー
31 靴踵部
32 スライド溝
33 スライドガイド
41 踵ホルダ弾性支持部材
42 フック
43 係合凹部
44 係合ピン
45 凹所
51 ガイド部
52 バネ
53 開口部
61 弾性体バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴の踵部分に収納され、足の踵部が保持される足底部と足後部とからなるL字形の踵ホルダと、該踵ホルダをその後端部に取り付けた回動軸によって回動可能に保持する踵受け台と、該踵受け台上に設けた前記踵ホルダの足底部を常態で上向きに付勢する踵ホルダ弾性支持部材と、前記踵受け台を前後に移動可能に取り付けた靴踵部を有し、
前記踵受け台と靴踵部の前方位置との間に弾性体バネを固着して、前記踵受け台を前方に引き付けるように付勢し、
前記踵ホルダ弾性支持部材の下面に下向きに設けたフックは、前記踵ホルダの足底部を使用者が踵で踏み込んだ際に、前記靴踵部の上面に設けた前記フックの係合部に係合して前記踵ホルダを正常位置に保持し、
かつ、前記踵受け台を前記弾性体バネの付勢力に抗して後退させて、前記フックを係合部から解放することにより、前記踵ホルダの足底部を前記踵ホルダ弾性支持部材により上方に押し上げて靴の足挿入口を開き、足を靴に納めやすい角度にすることができるようにしたことを特徴とする靴の踵部分開閉機構。
【請求項2】
前記フックの係合部は、靴踵部の上面に配設したガイド部と、該ガイド部間にスライド自在に差し渡した係合ピンと、該係合ピンを常態でフックに向けて付勢するバネとを有することを特徴とする請求項1に記載の靴の踵部分開閉機構。
【請求項3】
前記踵受け台は、左右一対のスライド部を有するU字状に形成され、前記靴踵部の上面に形成したスライド溝に進退可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の靴の踵部分開閉機構。
【請求項4】
前記踵ホルダ弾性支持部材は、前記靴踵部と該靴踵部と所定の間隔をおいて配置した弾性体バネの保持バーとの間に介装したのち折り返されていることを特徴とする請求項1に記載の靴の踵部分開閉機構。
【請求項5】
前記靴の後端部分は、前記踵ホルダの回動に伴って伸縮自在としてあることを特徴とする請求項1に記載の靴の踵部分開閉機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−234840(P2011−234840A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107782(P2010−107782)
【出願日】平成22年5月8日(2010.5.8)
【出願人】(505071941)
【Fターム(参考)】