説明

靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法

【課題】 靴のタングと着用者の甲部や足首との間に隙間が生じることを確実に解消することができる靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法を提供すること。
【解決手段】
本発明は、甲部3及びすね部4を有し屈曲形成されて靴本体14と相対移動可能に設けられたタング1と、前記タング1の前記すね部4に設けられた第1の靴ひも通し部H1と、前記第1の靴ひも通し部H1より下方位置にて靴本体14に設けられた第2の靴ひも通し部H2とを備え、前記第1及び第2の靴ひも通し部H1,H2を通過する靴ひもW1を締め付けることで、前記タング1のすね部4を下方へ引き寄せられるようにした靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法に関するものであって、より詳細には、スキー、スノーボード、スケート、山登り、バイクの乗車を行う際などに使用するブーツなどの靴ひもを締め付けるのに適した靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スキー、スノーボード、スケート、山登り、バイクの乗車を行う際などに使用するブーツにおいては、足の甲部及び踝より上の下肢(すねの近傍)を保護するため、これらの部分を覆う靴本体がある程度の剛性を備えたものとなっている。
【0003】
そして、このようなブーツの靴ひもを締め付けて足の甲部(足首)を締め付ける際に使用するのに適した靴ひもの締付構造として、図9に示すような靴ひも締め具を備えたスケート用ブーツ90が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この靴ひも締め具を備えたブーツ90においては、靴本体甲部及び靴本体すね部に略「V」字状又は略「U」字状の開口部91を形成し、当該開口部91を靴本体の内側から塞ぐように、足の甲部及びすね部分を覆う屈曲した形状を有するタング(舌状部)92を靴本体内に取り付けている。
そして、前記ブーツ90は、着用者の足の甲部を押さえるために、靴本体のフラップ93に設けた靴ひも通し部Hに靴ひもWを通し、その靴ひもWを締め付けている。
【0005】
これら従来の靴ひもの締付構造においては、靴本体のフラップ93に設けた靴ひも通し部Hに挿通した靴ひもWを締め付けることにより、靴本体の開口部91を閉じ、靴本体内に取り付けてあるタング92によってブーツ着用者の甲部を間接的に押さえるようになっている(図9(B)参照)。
【0006】
しかしながら、特にスノーボード、スキー、スケートといったスポーツに使用するブーツは、靴本体がかなり剛性の高い材料から構成されているため、靴本体の開口部は変形しにくく、ブーツ着用者の甲部を効率的に押さえることはできない。
そのため、歩行やスポーツを行って足首を動かすと、タング92の位置がズレたままの状態となり、着用者の足の甲部及び足首に対する締め付けが不十分となってしまうという問題がある。
【0007】
即ち、従来の靴ひもの締付構造においては、靴本体の開口部の両側縁を引き寄せる左右方向(靴本体の開口部を閉じる方向)に靴ひもを締めることで、間接的に靴本体内に取り付けてあるタングを着用者の甲部や足首に押さえ付けるようになっているため、タングと着用者の甲部や足首との間に隙間が生じると、その隙間を解消することができないという問題がある。
【0008】
上記問題を解消するために、足首の屈曲部付近を押さえ付けるための靴ひも又はバックルを追加して設置したブーツも提案されているが、これらの追加的な締め付け構造を採用しても、タングを直接下方へ押し下げるものではないため、タングと着用者の甲部などとの間に生じてしまった隙間を確実に解消することはできていない。
【0009】
さらに、これらの追加的な締め付け構造を設けることは、靴本体の甲部の構造を複雑化したり、ブーツの甲部付近の柔軟性に悪影響を与えたり、甲部の重量を増大させたりするという問題を生じることにも繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4514383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来のブーツにおいては、歩行やスポーツを行って足首を動かすと、タングの位置がズレたままの状態となり、着用者の足の甲部及び足首に対する締め付けが不十分となってしまうことであり、本発明の目的は、タングを直接下方へ引き寄せることでタングと着用者の甲部や足首との間に隙間が生じることを確実に解消することができる靴ひもの締付構造及び締付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、「甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを備え、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を下方へ引き寄せられるようにした靴ひもの締付構造。」を最も主要な特徴とするものである。
【0013】
前記タングは、その屈曲部に靴ひもを通過させる交差ガイド部を備え、靴ひも同士が互いに接触することがないようにしたり、タングのすね部前面に靴ひもを巻き取るための巻取装置を備えていてもよい。
【0014】
また、前記第1の靴ひも通し部は、前記タングの表側から内部又は裏側に至るように形成された靴ひも通し穴であって、タングの屈曲部の近傍位置に設けられていてもよい。
前記タングは、そのすね部前面に靴本体上部を締め付けるため、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもとは別系統の靴ひもを巻き取るための巻取装置を備えていてもよい。
【0015】
本発明の靴ひもの締付方法においては、甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを設け、前記第1の靴ひも通し部から第2の靴ひも通し部に挿通された靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を常に直接下方へ引き寄せるようにしている。
【発明の効果】
【0016】
上記の靴ひもの締付構造及び締付方法により、本発明においては、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもを締め付けることで、靴本体と相対移動可能に設けられたタングのすね部を常時下方へ引き寄せる効果を発揮でき、タングと着用者の甲部や足首との間に隙間が生じることを確実に解消することができる。
【0017】
また、交差ガイド部を設けることで、靴ひもの切断を防ぐことができ、耐久性に優れた靴ひもの締付構造として使用できる。
さらに、タングのすね部前面に靴ひもを巻き取るための巻取装置を設けることで、防寒手袋を装着したままであっても靴ひもを簡単に強く締め付けることができ、その締付力の調節も容易である。
【0018】
本発明の第1の靴ひも通し部を、タングの表側から内部又は裏側に至るように形成された靴ひも通し穴であって、タングの屈曲部の近傍位置に設けられたものとすることで、タングや靴本体の構造を複雑化することなくタングを下方へ引き寄せる効果を効率的に発揮することができる。
【0019】
さらに、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもとは別系統の靴ひもを巻き取るための巻取装置を前記タングのすね部前面に設けることで、タングや靴本体の構造を複雑化することなく、靴本体上部を簡便に締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の靴ひもの締付構造を具体化したスノーボード用ブーツを示す斜視図である。
【図2】図2は本発明を具体化した靴ひもの締付構造の実施例1の概略を示す正面図である。
【図3】図3は本発明を具体化した靴ひもの締付構造のタングを示す図であって、(A)及び(B)はタングの斜視図、(C)はタングの断面図である。
【図4】図4は本発明を具体化した靴ひもの締付構造のタングを示す図であって、(A)は屈曲部の位置を一点鎖線で示すタングの側面図、(B)はタングの正面図である。
【図5】図5は本発明を具体化した靴ひもの締付構造に好適に使用することができる靴ひもの巻取装置の分解斜視図である。
【図6】図6は本発明を具体化した靴ひもの締付構造のタングを示す図であって、(A)はタングの側面図、(B)はタングの正面図である。
【図7】図7は本発明を具体化した靴ひもの締付構造のタングの変形例を示す正面図である。
【図8】図8は本発明を具体化した靴ひもの締付構造の他の実施例を示す正面図である。
【図9】図9は従来の靴ひもの締付構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、「甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを備え、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を下方へ引き寄せられるようにした靴ひもの締付構造。」及び「甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを設け、前記第1の靴ひも通し部から第2の靴ひも通し部に挿通された靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を下方へ引き寄せるようにしたことを特徴とする靴ひもの締付方法。」であって、以下において説明する実施例の形態などにより好適に具体化することができる。
【0022】
以下、本発明の靴ひもの締付構造をスノーボード用ブーツに具体化した一実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1〜図4は、本発明の靴ひもの締付構造をスノーボード用ブーツ10に具体化した一実施例を示す図であって、このブーツ10は、1)ソール11と、2)当該ソール11上において爪先から略水平方向に延びる靴本体甲部12とくるぶし付近から略鉛直方向に延びる靴本体上部(下肢部)13とを有する靴本体14とを備えている。
【0024】
前記靴本体14は、スノーボードに対してブーツ着用者の下肢をしっかりと固定してスノーボードを正しく操作できるように、合成皮革、天然皮革、生地、発泡体、合成樹脂などの材料からなる部材を積層、一体化し、剛性のある構造となっている。そして、前記靴本体14は、靴本体甲部12の上面及び靴本体上部13の前面に該当するすね部が略「V」字状に切り欠かれた開口部15を有しており、靴本体上部13の上端部から足を入れられるようになっている。
【0025】
また、前記ブーツ10は、前記靴本体14内にクッション性を備えたインナー16を備え、さらに、前記ブーツ10は、前記靴本体甲部12及び靴本体上部13の前面に該当するすね部に配置されたタング1を備えている。
【0026】
前記タング1は、強度の高い合成皮革又は撥水コート生地からなる正面部1aと、当該正面部1aより柔軟な素材(EVA発泡材など)からなる背面部1bとを接着後に熱プレスして立体的な略「L」字状に屈曲成形し、裏生地1cを貼って縁縫いすることで製造されており、屈曲部2の下方を構成する甲部3と、屈曲部2の上方を構成するすね部4とを備えている。
【0027】
なお、本実施例のように後述する靴ひもの巻取装置20をタング1の前面に装着する場合には、前記背面部1bの上部裏面を硬めの発泡材(EVA発泡材又はPE発泡材など)1dに置き換えて違和感を解消するようにしてもよい。
【0028】
前記タング1は、この種のブーツにおいて一般的に採用されているタングと同様に、甲部3とすね部4の強度が高く、それらの間にある屈曲部2の強度が低くなるような形態になっており、屈曲部2を中心として甲部3とすね部4とが接近したり離反したりすることができるようになっている(図3(A)参照)。
【0029】
そして、前記タング1は、略「V」字状に切り欠かれた前記開口部15を靴本体14の内側から塞ぐように靴本体14の内部に配置されており、そのタング1の先端部3aが靴本体甲部12に縫い付けられることで、靴本体14と相対移動可能となっている。
【0030】
前記タング1の屈曲部2より若干上方位置において、前記すね部4には左右一対の第1の靴ひも通し部としての第1の靴ひも通し穴H1が設けられている。かかる第1の靴ひも通し穴H1は、タング1のほぼ上下方向(縦方向)に沿って、かつ、前記タング1の表側から内部に至るように形成されている。
【0031】
前記タング1は、その正面部1aに前記屈曲部2に靴ひもW1を通過させる交差ガイド部5を備えており、この交差ガイド部5は、高さの異なるガイド孔5a,5bに靴ひもW1を挿通することで靴ひもW1同士が互いに接触して切れることがないようにしている。
さらに、この交差ガイド部5は、前記甲部3の山形に形成された部分に配置されているため、靴ひもW1が引き締められると、前記甲部3の頂部を靴ひもW1によって押し下げる作用をも発揮する。
また、前記タング1のすね部4には、前記交差ガイド部5の上方位置に、凹溝を備えた靴ひもガイド6が水平方向に設けられている。
【0032】
一方、前記靴本体甲部12には、前記タング1の屈曲部2付近であって、かつ、前記第1の靴ひも通し穴H1より下方位置において、前記開口部15を左右に横断するように向き合って第2の靴ひも通し部としての第2の靴ひも通し穴H2が1組設けられている。
さらに、前記靴本体甲部12には、前記タング1の先端部3a付近(前記第2の靴ひも通し穴H2より前方位置)において、前記開口部15を左右に横断するように向き合って第3の靴ひも通し穴H3が3組設けられている。
【0033】
前記タング1は、そのすね部4の前面に、前記靴ひもガイド6より上方位置に巻取装置20を備えており、前記すね部4の内部において、この巻取装置20に剛性を備えたチューブ7の上端部が接続され、当該チューブ7の下端部が前記第1の靴ひも通し穴H1と接続されることで、チューブ7に挿通された靴ひもW1をスムーズに巻き取ることができるようになっている。
なお、本実施例において、このチューブ7はタング1の内部(前記背面部1b)を通過するように設けられているが、第1の靴ひも通し穴H1がタング1の裏側に至るまで形成される場合においては、タング1の裏側に沿って チューブ7を配置してもよい。
【0034】
この巻取装置20は、内部に前記靴ひもW1を巻き付ける第1のドラムD1と、別の靴ひもW2を巻き付ける第2のドラムD2とを備えており、前面に設けられたハンドル21を前後に切り替えて回転操作することで前記靴ひもW1及び別の靴ひもW2をそれぞれ巻き取ることができるようになっている。
前記別の靴ひもW2は、靴本体上部13を締め付けるため、前記第1及び第2の靴ひも通し穴H1を通過する靴ひもW1とは別系統の靴ひもである。
【0035】
そして、この別系統の靴ひもW2は、前記靴本体上部13において、前記開口部15を左右に横断するように向き合って2組設けられた第4の靴ひも通し穴H4に挿通され、前記靴本体上部13を前記靴ひもW1とは別個独立して締め付けることができるようになっている。
【0036】
なお、前記巻取装置20は、巻き取られた靴ひもW1,W2を同時に解放して靴ひもW1,W2を緩めることができるようになっている。
また、前記第2〜第4の靴ひも通し部H2,H3,H4は、略「U]字状の管路を形成した靴ひもガイド8を開口部15に沿った靴本体14に埋設することで設けられている(図2参照)。
【0037】
本実施例において、前記靴ひもW1,W2は、編み込まれた金属製のワイヤーロープのように摩擦係数の低いものを好適に使用することができるが、合成樹脂が被覆されたワイヤー(コーティングロープ)を使用してもよい。また、前記靴ひもW1,W2として通常の繊維製の靴ひもを用い、巻取装置20を使用することなく靴ひもW1,W2を締め付けるようにして実施することも可能である。
【0038】
金属製のワイヤーロープとしては、直径0.11〜0.13mmのステンレス製の素線を49本撚り合わせたワイヤーロープにスウェージングマシンにて加工を加え、ロープ径を0.86mmに仕上げ、切断加重729N以上としたワイヤーロープを好適に用いることができる。
【0039】
繊維製の靴ひもとしては、例えば、1)マニラ麻、サイザル麻などの天然繊維、2)ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリ塩化ビニリデン系などの汎用合成樹脂、3)アラミド系、ポリアリレート系、超高分子ポリエチレン系などのスーパー合成繊維からなるものを使用できるが、それらの靴ひもを巻き取る巻取装置又は締め付ける方法としては、靴ひもの強度・特性及びブーツの用途に応じて適宜選択する必要がある。
【0040】
即ち、靴ひもの選択に応じてチューブ、チューブ状の管路を形成した靴ひもガイド、鳩目、「U」字状又は「Ω」字状の金具など従来公知のものを、靴ひもを挿通する靴ひも通し部を備えたものとして使用できる。
【0041】
次に、前記巻取装置20の構造について説明する(図5参照)。
この巻取装置20は、靴ひもW1を巻き取るドラムD1を回転操作する機構Xと、靴ひもW2を巻き取るドラムD2を回転駆動する機構Yを備えている。
そして、機構Xは、回転軸30と、前記ハンドル21の手前側に配置され前記回転軸30と連結された傘歯車31と、前記回転軸30に設けられた太陽歯車35と、その太陽歯車35と噛み合う3つの遊星歯車36と、前記ドラムD1と一体となっている遊星キャリア37と、前記遊星歯車36と噛み合う環状歯車38と、前記環状歯車38と係合する3つの止め爪39aを備えた静摩擦力制御部材39とを備えている。
【0042】
一方、機構Yは、回転軸50と、前記ハンドル21の後方側に配置され前記回転軸50と連結された傘歯車51と、前記回転軸50に設けられた太陽歯車55と、その太陽歯車55と噛み合う3つの遊星歯車56と、前記ドラムD2と一体となっている遊星キャリア57と、前記遊星歯車56と噛み合う環状歯車58と、前記環状歯車58と係合する3つの止め爪59aを備えた静摩擦力制御部材59とを備えている。
【0043】
前記ハンドル21は、その正面に円環状のギヤ23が形成されており、前記回転軸30と連結された傘歯車31が前記ギヤ23と係合可能となっている。
一方、前記ハンドル21の背面にも円環状のギヤ(図示略)が形成されており、当該ギヤが、ハンドル21を後方(タング1側)へ押した状態において、前記回転軸50と連結された傘歯車51と係合可能となっている。
【0044】
そして、ドラムD1に靴ひもW1を巻き取る際には、前方に引いたハンドル21を左方向(図2において反時計回り方向)に回転し、ドラムD2に靴ひもW2を巻き取る際には、後方に押したハンドル21を右方向(図2において時計回り方向)に回転させるようになっている。
従って、靴ひもW1及び靴ひもW2を締める際には、ハンドル21を保持したまま手首を左方向及び右方向に交互に回転させることにより、ハンドル21から手を離すことなく連続的かつ速やかに靴ひもW1及び靴ひもW2を締め付けることができる。
【0045】
なお、前記靴ひもW1,W2から前記ドラムD1,D2に大きな張力が加わっていない状態では、回転軸30,50の回転は静摩擦力制御部材39,59の止め爪39a,59aから環状歯車38,58に伝達され、ドラムD1,D2が回転軸30,50の回転と同じ角度にて速やかに回転駆動される。
【0046】
一方、前記靴ひもW1,W2が徐々に締め付けられて、靴ひもW1,W2から前記ドラムD1,D2に大きな張力が加わる状態となると、回転軸30,50の回転は静摩擦力制御部材39,59から環状歯車38,58に伝達することができなくなり、遊星歯車36,56の回転として伝達されるようになる。
【0047】
ここで、前記環状歯車38,58の外周面には、ロックピース40,60が係合し、ラチェット機構として環状歯車38,58が靴ひもW1,W2を締め付ける方向にのみ回転するように制御されている。
従って、前記遊星歯車36,56の回転は、回転軸30,50の回転を減速した回転として(増大されたトルクを以て)ドラムD1,D2を回転駆動する。
【0048】
なお、前記ロックピース40,60によるラチェット機構は、巻取装置20の前面に取り付けられたスイッチ26を左右の位置に切り替えることで、ロックピース40,60による環状歯車38,58の回転ロック状態を同時に解除したり、ロックピース40,60によって靴ひもW1,W2を締め付ける方向にのみ回転するように制御できる。
【0049】
次に、本発明の靴ひもの締付構造を備えたスノーボード用ブーツ10を製造する方法について説明する。
本発明の靴ひもの締付構造を備えたブーツ10を製造するには、通常のスノーボードブーツと同様のソール11と、(靴本体甲部12、靴本体上部13及び開口部15を有する)靴本体14と、インナー16とを設ける。
【0050】
この靴本体14には、その開口部15に沿って第2の靴ひも通し穴H2〜第4の靴ひも通し穴H4を形成する。これらの靴ひも通し穴H2〜H4は、側方に開口する略「U」字状の凹溝8aが突設され当該凹溝8aに側方から蓋8bを係合することでチューブ状の管路を形成する靴ひもガイド8を靴本体14に埋設する従来の製法にて好適に用意することができる(図2参照)。
【0051】
次に、既に説明したとおり、強度の高い素材からなる正面部1aと、当該正面部1aより柔軟な素材からなる背面部1bとを一体化して略「L」字状に屈曲成形することで、屈曲部2の下方を構成する甲部3と、屈曲部2の上方を構成するすね部4とを備えたタング1を用意する。
このタング1には、屈曲部2より若干上方位置において、すね部4に左右一対の第1の靴ひも通し穴H1を前記タング1の表側から内部に至るようにタング1のほぼ上下方向に沿って形成する。
【0052】
さらに、タング1の正面部1aには、その屈曲部2に交差ガイド部5を固定し、また、すね部4には、前記交差ガイド部5の上方位置に、凹溝を備えた靴ひもガイド6を固定する。なお、本実施例においては、タング1の甲部3上に追加的な交差ガイド部9及び靴ひもガイド6aを固定して靴ひもW1の摩擦による切断及びタング1の損傷を防ぐようにしている。
【0053】
また、前記タング1のすね部4の前面には、前記靴ひもガイド6より上方位置に巻取装置20を固定し、タング1の内部にてこの巻取装置20に剛性を備えたチューブ7の上端部を接続し、当該チューブ7の下端部を前記第1の靴ひも通し穴H1と接続する。
【0054】
上記のように製造した前記タング1の先端部3aを靴本体甲部12に縫い付けることで、略「V」字状に切り欠かれた前記開口部15を靴本体14の内側から塞ぐようにタング1を取り付け、当該タング1が靴本体14の内部に配置されて靴本体14と相対移動可能とする。
その後、各靴ひも通し穴H1〜H4及びチューブ7などに靴ひもW1,W2を通し、巻取装置20にて靴ひもW1,2を締め付けできるようにする。
【0055】
従って、従来の靴ひもの締付構造と同一の構造を備えた靴本体14を用いて本発明による靴ひもの締付構造を製造可能である。
但し、第1の靴ひも通し穴H1と第2の靴ひも通し穴H2の位置は、大人用のブーツの場合において、図6(A)に示すように、タング1の側面から見て第2の靴ひも通し穴H2が屈曲部2を挟んで第1の靴ひも通し穴H1から斜め下方への距離が1〜4cmの位置であって、かつ、図6(B)に示すように、タング1の正面から見て第2の靴ひも通し穴H2が屈曲部2を挟んで第1の靴ひも通し穴H1の下方1〜4cmの位置となるようにすることが必要である。
【0056】
上記より前方位置(爪先側)に第2の靴ひも通し穴H2を形成すると、タング1が前に折れ曲がるように屈曲してしまうため(図3(A)参照)、タング1を下方へ引き寄せる本発明の作用・効果を発揮し難くなる。
即ち、靴ひもの出口位置を規定する本発明の第1の靴ひも通し部と、第2の靴ひも通し部とは、タング1の屈曲部2の近傍位置(ブーツ着用者の足首の屈曲部付近に相当する位置)において、屈曲部2を挟んで互いに近接して配置することが本発明を効果的に具体化するに際して重要となる。
【0057】
また、上記より上方位置に第1の靴ひも通し穴H1を形成した場合にも、タング1が前に折れ曲がるように屈曲してしまうため、タング1を下方へ引き寄せる本発明の作用・効果を発揮し難くなる。
【0058】
さらに、前記第1の靴ひも通し穴H1から交差ガイド部5を経て第2の靴ひも通し穴H2に至る靴ひもW1は、交差ガイド部5において下向きに折れ曲がるように配線し、靴ひもW1を締め付けることで靴ひもW1が直線状に近くなるようにすると、効率的にタング1の屈曲部2を下方へ引き寄せる効果を発揮できる。
また、交差ガイド部5をタング1の甲部3の山形に形成された部分に配置することで、靴ひもW1が引き締められた際に、その甲部3を靴ひもW1によって下方へ引き寄せる効果をも発揮できる(図4(A)参照)。即ち、靴ひもW1が靴ひも通し穴H1から靴ひも通し穴H2に至る間において、靴ひもW1が甲部3の上部(本実施例においては交差ガイド部5)に当接することで、タング1の甲部3を靴ひもW1によって下方に付勢する効果をも発揮できる。
【0059】
上記のように構成された靴ひもの締付構造を備えたブーツ10は、比較的小さな締め付け力であっても、タング1をブーツ着用者の甲部方向へ引き寄せてブーツ着用者の甲部及び足首の屈曲部付近を常に直接効果的に締め付けることができ、スノーボードの滑走時において良好なコントロール性能を安定して発揮することができた。
【0060】
次に、第1の靴ひも通し穴H1をタング1に形成する構造について、前記実施例ではタング1の表側から内部に至る透孔を形成するようにしていたが、本発明はタング1の表側に靴ひもW1を挿通して案内する第1の靴ひも通し部H1aを形成することで具体化することも可能である。
この第1の靴ひも通し部H1aは、例えば、径方向に貫通孔を形成した円柱状の突起をタング1の表面に形成したり、略「Ω」字形状の部材又は「2」字形状の部材をタング1の表側に固定することなどによって設けることができる。
【0061】
そこで、このようにタング1の表側(外側)にて靴ひもW1を通す場合(図7に示す(A)〜(C))と、タング1の内部(中)に靴ひもW1を通す場合(図7に示す(D)〜(F))の各場合について、その設置位置(高さ)を変更して比較検討した結果について以下の表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
従って、本発明をタング1の外側に靴ひもW1を通す第1の靴ひも通し部H1aを形成することで具体化して実施しても、靴ひもW1をタング1の中を通す第1の靴ひも通し穴H1をタング1に形成する場合と同様に、タング1のすね部4を下方へ引き寄せてブーツ着用者の甲部及び足首を直接常時押さえ付けるように締め付ける作用効果を発揮できるが、靴ひもW1をタング1の中に通す場合の方が、好適に第1の紐靴ひも通し部を形成する位置としての適応範囲が広いことが判明した。
【0064】
これは、靴ひもW1がなるべくタング1の裏面側から引き出されている方がタング1を前方ではなく下方へ引き寄せる効果を発揮しやすいためであると考えられる。
【0065】
上記のように構成された靴ひもの締付構造は、タングと着用者の甲部や足首との間に隙間が生じることを確実に解消することができ、ブーツを正しく装着した状態を常に維持できるため、ブーツやスノーボード本来の性能及び着用者の技能を常時最大限発揮させることができる。
【0066】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、図8(A)に示すように、第1の靴ひも通し部H1から靴ひもW1を交差させることなく下方にある第2の靴ひも通し穴H2へ靴ひもW1を通すようにして実施してもよい。
ただし、この場合、靴本体14の開口部15を閉じる方向への締め付け力がやや劣ったり、タング1の甲部3を下方へ引き寄せる効果が低下したり、靴本体14とタング1との間に隙間が生じるおそれがあるが、タング1や開口部15周辺の靴本体14の強度分布や形状などを適宜変更したり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で靴ひも通し穴H1及びH2の配置を適宜変更することなどによって、それらの不具合を軽減することも可能である。
【0067】
さらに、図8(B)に示すように、第1の靴ひも通し穴H1をタングの屈曲部2の若干上方中央部に1つだけ形成し、靴ひもW1を第2の靴ひも通し穴H2に挿通するようにして実施してもよい。
この場合においても、交差ガイド部5で靴ひもW1を交差させていないことにより、タング1の甲部3を下方へ引き寄せる効果が低下するおそれがあるが、タング1の強度分布や形状などを適宜変更することなどによって、それらの不具合を軽減することも可能である。
【0068】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、スキー、スケート、山登り、バイクの乗車などに用いるブーツの靴ひもの締付構造に具体化して実施してもよい。
また、靴本体上部を締め付けるために靴ひもW1及び靴ひもW2を巻き取る巻取装置20を使用することなく、靴ひもW1のみを巻き取る巻取装置を使用し、靴本体上部13にベルト又はバックル70を取り付け、それらのベルト又はバックル70によって靴本体上部13を締め付けるようにして実施してもよい(図8(B)参照)。
【0069】
さらに、靴ひもW1を巻き取るための巻取装置を用いることなく、タングの上部(例えば、チューブ7の上端に対応する位置)に形成した穴から靴ひもを引き出してその靴ひもを手で締め付けるようにしてして実施してもよい。
また、靴ひもW1が擦れ合うことによる靴ひもW1の破損のおそれが実用上問題とならない場合には、交差ガイド部5,9を省略して実施してもよい。
【0070】
本発明を具体化する際には、上記のように少なくともタングの屈曲部近辺がある程度の剛性を備えており、第1の靴ひも通し部に挿通される靴ひもを締め付けることでタングの屈曲部近辺を下方へ引き寄せる効果を発揮できる必要があるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でタング、靴本体、靴ひも通し穴、靴ひも、巻取装置などの材質、形状、寸法、強度、設置位置、厚さ、大きさ、数などを適宜変更して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、スキー、スノーボード、スケート、山登り、バイクの乗車などに用いるブーツ(好適には、くるぶしより上に延びるタングを備えたブーツであって、靴本体が剛性を備えたブーツ)における靴ひもの締付構造及び靴ひもの締付方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 タング
1a 正面部
1b 背面部
2 屈曲部
3 甲部
3a 先端部
4 すね部
5 交差ガイド部
5a ガイド孔
5b ガイド孔
6 靴ひもガイド
6a 靴ひもガイド
7 チューブ
8 靴ひもガイド
8a 凹溝
8b 蓋
9 交差ガイド部
10 スノーボード用ブーツ
11 ソール
12 靴本体甲部
13 靴本体上部
14 靴本体
15 開口部
16 インナー
20 巻取装置
21 ハンドル
23 ギヤ
26 スイッチ
30 回転軸
31 傘歯車
35 太陽歯車
36 遊星歯車
37 遊星キャリア
38 環状歯車
39 静摩擦力制御部材
39a 止め爪
40 ロックピース
50 回転軸
51 傘歯車
55 太陽歯車
56 遊星歯車
57 遊星キャリア
58 環状歯車
59 静摩擦力制御部材
59a 止め爪
60 ロックピース
70 ベルト又はバックル
90 スケート用ブーツ(従来技術)
91 開口部
92 タング(舌部)
93 フラップ
H1 第1の靴ひも通し穴
H1a 第1の靴ひも通し部
H2 第2の靴ひも通し穴
H3 第3の靴ひも通し穴
H4 第4の靴ひも通し穴
W 靴ひも
W1 靴ひも
W2 靴ひも
X 靴ひもW1を巻き取るための機構
Y 靴ひもW2を巻き取るための機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、
前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、
前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを備え、
前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を下方へ引き寄せられるようにしたことを特徴とする靴ひもの締付構造。
【請求項2】
前記タングは、その屈曲部に靴ひもを通過させる交差ガイド部を備え、靴ひも同士が互いに接触することがないようにしていることを特徴とする請求項1に記載の靴ひもの締付構造。
【請求項3】
前記タングは、そのすね部前面に靴ひもを巻き取るための巻取装置を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の靴ひもの締付構造。
【請求項4】
前記第1の靴ひも通し部は、前記タングの表側から内部又は裏側に至るように形成された靴ひも通し穴であって、タングの屈曲部の近傍位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の靴ひもの締付構造。
【請求項5】
前記タングは、そのすね部前面に靴本体上部を締め付けるため、前記第1及び第2の靴ひも通し部を通過する靴ひもとは別系統の靴ひもを巻き取るための巻取装置を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の靴ひもの締付構造。
【請求項6】
甲部及びすね部を有し屈曲形成されて靴本体と相対移動可能に設けられたタングと、
前記タングの前記すね部に設けられた第1の靴ひも通し部と、
前記第1の靴ひも通し部より下方位置にて靴本体に設けられた第2の靴ひも通し部とを設け、
前記第1の靴ひも通し部から第2の靴ひも通し部に挿通された靴ひもを締め付けることで、前記タングのすね部を下方へ引き寄せるようにしたことを特徴とする靴ひもの締付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−120678(P2012−120678A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273452(P2010−273452)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(303011275)株式会社ジャパーナ (43)
【Fターム(参考)】