説明

靴下および靴下編成用低弾性糸

【課題】 先けいゾーンの端部やゴアラインゾーンの左右両端部に耳が突出形成されないように改良したハイゲージによる靴下およびこれに使用する靴下編成用の低弾性糸を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリウレタン糸等の弾性糸材を従来はレッグ部やフット部など他の部分と同様に3〜6倍に伸ばして使用されていた芯糸の伸びを、1.5〜2.5倍の伸び状態にして低い伸縮率の芯糸1にすると共に、この低伸縮率の状態のままの芯糸1にナイロン糸等の低弾性の上・下カバリング糸2,3をダブルカバリングすることにより低弾性糸4を完成し、この従来とは異なる糸使いの低弾性糸4により選択的に先けいゾーン5を含む爪先部6及び又はゴアラインゾーン7を有する踵部8を編成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先けいゾーンを含む爪先部の編成やゴアラインゾーンを有する踵部の編成に改良を施したストッキング、ソックス等の靴下およびこれに使用する靴下編成用の低弾性糸に関する。
【0002】
なお、本文中では、爪先部先端の縫合縁およびその周辺部分を先けい(先かがり)ゾーンといい、ゴアライン形成部およびその周辺部分をゴアラインゾーンという。
【背景技術】
【0003】
靴下は、丸編み機を使用して、編目を粗くしたり密にしたりして筒編み状(丸編み)に編成している。該丸編み機は、針数が異なり、主にコースゲージと称される100本クラスから、ミドルゲージと称される176本クラスまでと、ハイゲージと称される400本クラスまでが使用される。
【0004】
上記のコースゲージおよびミドルゲージによる場合には、編目が大きいことから、爪先部の縫目が足指の付け根部分上側に来るトップシーム型とした靴下の編成ができる。これに対して、ハイゲージによる場合は、針数が多く、編目も小さくなり収縮も少なくなることから、爪先部をトップシーム14にした靴下の編成を行ったときには、従来は他の部分と同様の糸を用いているため、先けいゾーンの端部に耳状の突角部分(以下、単に耳という)15ができて低価値の製品が製造されてしまう(図3の(b)参照)。このため、ハイゲージによる場合には、爪先部をストレートに編成して、その先端縁をミシンで縫合するサイドシーム16の方式(図3の(c)参照)が採用されている。
【0005】
しかし、サイドシーム型とした靴下の場合には、爪先前縁部に形成された縫目が足の指先に当たって着用感が良くないという問題があった。他方、トップシーム型とした靴下の場合には、縫目当りの防止、爪先の見栄えの向上、着用感が向上する等の利点はあるものの、上記したように左右に突出する耳15ができてしまうという致命的な問題があった。
【0006】
上記のように突出する左右の耳は、例えば先けいゾーンを含む爪先部の編成やゴアラインゾーンを有する踵部の編成が、レッグ部やフット部を形成している糸の太さに合わせて、そのまま同じように例えばスパンデックス(商品名)等の伸縮性の高いポリウレタン弾性糸を3〜6倍に引き伸ばした芯糸にナイロン糸をダブルカバリングした伸縮力の強い(高弾性の)弾性糸(以下、この弾性糸を従来弾性糸という。)を使用して製造していたために生じてしまうものであった。
【0007】
また、上記の従来弾性糸による製品は、その最大の特性が収縮性(伸縮力の強さ)にあり、この特性のままの状態では、爪先部の編成や踵部が小さく仕上ってしまって見栄えが悪くなるのみならず、着用したときには、特に爪先部が従来の弾性糸による締付パワーによって痛くなることがあり、長時間の着用には必ずしも向いていなかった。
【0008】
そこで、本発明者は、上記したような現状に鑑み、先けいゾーンの左右端部あるいはゴアラインゾーンの左右端部に耳が突出形成されないようにしたトップシーム型のハイゲージによる靴下の提供を可能にすることに成功したものである。
【0009】
即ち、従来はレッグ部やフット部と同様に3〜6倍に伸ばした状態で使用されていた芯糸の伸びを、本発明では1.5〜2.5倍の伸び状態として、伸縮率の低い状態の芯糸にすると共に、この低伸縮率の芯糸の状態のまま2本のナイロン糸をダブルカバリングすることにより新規の低弾性糸を得、この低弾性糸を用いて選択的に靴下のトップシームやゴアラインゾーンをハイゲージで試作することを繰り返し行っているうちに、見出すことができたものである。
【0010】
本文中、上記の低弾性糸は、伸びにくくて縮む低伸縮性を備えた特性を有する糸のことであり、伸び易く縮み易い高伸縮性を備えた特性の高弾性糸の対義語として用いている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、先けいゾーンの端部やゴアラインゾーンの端部に突出する耳ができないように改良したハイゲージによる靴下および該靴下編成用の低弾性糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る靴下は、先けいゾーン、該先けいゾーンを含む爪先部、ゴアラインゾーン、該ゴアラインゾーンを含む踵部のうちの少なくとも1個所以上について、従来の糸使いとは異なり、ポリウレタン弾性糸の芯糸を1.5〜2.5倍の伸び状態にしたまま、これに低弾性のナイロン糸等のカバリング糸でダブルカバリングした低弾性糸により編成してなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る靴下編成用低弾性糸は、従来3〜6倍に伸ばして使用されていた芯糸の伸びを1.5〜2.5倍の伸び状態にして低伸縮率の芯糸にすると共に、該低伸縮率の状態の芯糸に低弾性のナイロン糸等のカバリング糸をダブルカバリングして構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、先けいゾーン、該先けいゾーンを含む爪先部、ゴアラインゾーン、該ゴアラインゾーンを含む踵部のうちの少なくとも一個所以上に対し、従来はレッグ部やフット部など他の部分と同様に3〜6倍に引き伸ばした状態で使用されていたポリウレタン弾性糸の芯糸の伸びを、1.5〜2.5倍の伸び状態として、この低伸縮率の芯糸にすると共に、この低伸縮率の伸び状態の芯糸に低弾性のナイロン糸等のカバリング糸をダブルカバリングすることにより得た糸を用いて編成されたので、従来の糸使いとは異なって、最小限の収縮率で見栄えを改善できる条件および着用時に足の指先が締め付けられて痛いという違和感を緩和できる条件が満たされるものであり、結果として、先けいゾーンの端部やゴアラインゾーンの左右両端部に耳が突出形成されることがなく、着用時の違和感も生じることがない商品価値が高くて優れたハイゲージによる靴下を提供できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図3(a)に示す本発明の実施の形態に係る靴下は、ポリウレタン糸等の弾性糸材を3〜6倍に伸ばして使用されていた従来の芯糸の伸び(通称;ドラフト)を、1.5〜2.5倍の伸び状態になして低い伸縮率の芯糸1(以下、新規芯糸1という)にすると共に、この低い伸び状態の該新規芯糸1に低弾性の上・下カバリング糸2,3をダブルカバリングすることにより低弾性糸4を完成し、当該低弾性糸4により先けいゾーン5を含む深い袋の爪先部6およびゴアラインゾーン7を有する浅い袋の踵部8を編成したトップシーム9a形式のストッキング9である。
【0016】
上記の芯糸1には、例えば20デニール程度のポリウレタン弾性糸を用い、カバリング糸2、3には例えば70デニール程度のナイロン糸を用いる。図中13は爪先部6に設けられたゴアラインを示す。
なお、穿き口部10や、レッグ部11およびフット部12に使用する糸は、従来と同様の糸使いであり、ポリウレタン弾性糸を3〜6倍に引き伸ばした芯糸にナイロン糸をダブルカバリングした伸縮力の強い(高弾性の)従来弾性糸を使用して製造するので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0017】
なお、芯糸1の伸び状態を1.5倍より小さい、あるいは2.5倍より大きくした場合には、最小限の収縮率で見栄えを改善できる条件および着用時の違和感を緩和できる条件を満たす充分な結果を得ることはできない。
【0018】
また、本発明は、最小限の収縮率で見栄えを改善できる条件および着用時の違和感(痛い)を緩和できる条件が満たす新規芯糸およびカバリング糸であればよいので、芯材にはスパンデックス(商品名)等のポリウレタン弾性糸材を用い、低弾性の上・下カバリング糸にはナイロン糸を用いて実施する。また、先けいゾーン5のみ、もしくはゴアラインゾーン7のみ、あるいは双方を低弾性糸4により編成した完成品、先けいゾーン5を含む爪先部全体を低弾性糸4により編成した完成品、ゴアラインゾーン7を含む踵部全体を低弾性糸4により編成した完成品、あるいは両方を低弾性糸4により編成した完成品を得るようにすることは任意である。
【0019】
本発明は、上記低弾性糸を用いれば、サイドシーム型の靴下、爪先部の縫目が足指の付け根部分下側(足裏側)に来るアンダーシーム型の靴下の製造も可能であり、この場合にも上記トップシーム型の靴下同様の効果を得ることができるから、これらにも及ぶものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態を示す側面図である。
【図2】低弾性糸を示す概念図である。
【図3】爪先部を示す拡大概念図であり、(a)は本発明の爪先部、(b)は従来のトップシーム型とした例、(c)は従来のサイドシーム型とした例を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 芯糸
2,3 カバリング糸
4 低弾性糸
5 先けいゾーン
6 爪先部
7 ゴアライン
8 踵部
9 ストッキング
9aトップシーム
10 穿き口部
11 レッグ部
12 フット部
13 ゴアライン
14 トップシーム
15 耳
16 サイドシーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先けいゾーン、該先けいゾーンを含む爪先部、ゴアラインゾーン、該ゴアラインゾーンを含む踵部のうちの少なくとも1個所以上を、ポリウレタン弾性糸の芯糸を1.5〜2.5倍の低伸縮率の伸び状態にしたまま、これに低弾性のナイロン糸等のカバリング糸でダブルカバリングした低弾性糸により編成してなることを特徴とする靴下。
【請求項2】
ポリウレタン弾性糸よりなる芯糸の伸びを1.5〜2.5倍の伸び状態になして低伸縮率の芯糸とし、この伸び状態の芯糸にナイロン糸等の低弾性のカバリング糸をダブルカバリングして構成されたことを特徴とする靴下編成用の低弾性糸。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−308810(P2007−308810A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135973(P2006−135973)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000000398)アツギ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】